兄の親友で親友の兄7

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 最初はお互い本命が別にいる関係から、自分だけが相手を本命に繰り上げてしまった事実が、寂しくないとは言わない。けれどそれ以上を求める気持ちは、胸の奥底にぎゅうぎゅうに押し込めて気づかない振りをしていた。
 だって、あなたの本命になりたいだなんて、言えるはずがない。言って面倒なやつだって思われたくない。叶わない望みを突きつけて困らせる気もない。
 なにより、今度こそ、これ以上付き合いきれないって、言われそうで怖い。
 恋人として一番に想われているならそれでいいと、自分自身を慰める。実際、本当の本命は兄なのだと知らなければ、彼はかなり理想的な恋人だと言えるだろう。気遣いが上手いし、甘やかすのも上手いし、セックスだって気持ちがいい。
 もしかしたら、そうやって気遣ってくれるのは、別に本命がいる罪悪感という可能性もある。
 だったらいいのに。それなら今の状態を維持するのがベストだよねと、もっともっと思い込める気がする。
 内心ではそんなことを考え、多少ぐだぐだとしていつつも、表面的にはそう変わらない関係が続いていた。そんなとある金曜夜の少し遅い時間、今から出てこれないかという連絡があった。
 こちらはもう帰宅していたので、出れないことはないのだけれど、あまりに珍しくて嫌な予感がする。週末に予定が入って仕方なく金曜の夜に会うという事はあっても、こんな急な呼び出しははっきり言って初めてだ。
 返事を躊躇ってしまったら、今度は電話が鳴ったが、携帯に表示された名前にますます嫌な予感が膨らむ。電話を掛けてきたのは兄だった。
 電話は結局取らず、コール音が切れてから、もしかして兄さんと一緒なのと彼の方へ返信すれば、ややあって、肯定の返事が戻ってくる。しかも、すまんバレたの文字もある。来ないならお前の家に押しかける羽目になりそうという不穏な文字まで綴られているから、仕方なく、どこへ行けばいいのかと返信した。
 男ばかりの三人で、しかもその内二人は兄弟で、好きだの恋人として付き合ってるだのの話をいったいどこでする気なんだろうと思っていたら、指定されたのは駅前の個室居酒屋だった。個室という部分にいささかホッとしたものの、そんな所で二人で飲んでいるのかと思うと、胸が重くなる気がして嫌になる。気にするべきはそこじゃないとわかっているのに。
 だって彼の家も兄の家も、最寄り駅が違うのだ。だからこれは最初から、自分も呼ばれる前提で会っていた可能性が高いし、個室なのも会話内容を考えてのことなのは明白だ。気にするべきは、兄に何を言われることになるのかであって、彼らが自分の居ない場所で二人きりで飲んでいる、という部分に対し、今更嫉妬するのはどう考えたっておかしい。
 親友なんだから飲みにくらい行くだろうと頭では思うし、自分だって親友に誘われ出かけたこともあるけれど、そういうのはやっぱり隠していて欲しかったし、そんな二人の間に呼び出す真似なんてして欲しくなかった。バレてどうするのかも、兄との間で勝手に話し合って、決定事項だけ告げてくれるんで構わないのに。兄に知られたから別れると言われたら、嘘つきってなじるかも知れないけれど、多分きっと受け入れられる。
 店に向かう間にも、どんどんと気持ちが沈んでいく。かなり憂鬱な気分で、店員に案内されるまま個室のドアを開けば、兄は少し驚いた顔をした後眉間にシワを寄せて、彼は困った様子の苦笑を柔らかに解いて、こんな時間に呼び出してごめんなと言った。

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兄の親友で親友の兄6

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 まだ何か隠してるなと言って眉を寄せた相手に、やっぱり「だって」としか返せなかった。
 必死で相手の視線から逃れようと視線を泳がせれば、頬を挟んだ手が放される。またすぐ俯いてしまえば、小さなため息が聞こえてきた。
「お前が俺を嫌になるか、俺より好きな相手ができるか、本命を落とすか。さすがに最後はないのわかってるから、前二つのどっちかが、既に起きてるってことでいいのか?」
「ちが、……うっ」
 声が喉に詰まって震えて、ボロリと涙が溢れていく。そのどちらでもないけれど、お互いに本命が別にいるという前提が崩れたら、やっぱりもうこの関係は続けていられないんじゃないかなと思ってしまう。
「じゃあ、何?」
「いいたく、ない。……って、いった、ら?」
「泣くほど深刻な状況抱えてんのにか?」
「だぁ、ってぇ……」
「おっ前……」
 俯いているとは言え、ボロボロと流れる涙をごしごしと何度も拭っていたし、声はずっと引きつって震えっぱなしだし、こちらの状態は当然気づかれているんだろう。呆れた声と共に伸びてきた腕に抱きしめられて、落ち着けと言わんばかりに頭やら背中やらを優しく撫で擦られる。
「よしよし。お前、ホント、何があったよ。なぁ、やっぱ俺のせいで泣いてんの? 悪いようにはしないから、言ってみなって」
 グズグズ泣き続けてる間、腕の中であやされながら何度も大丈夫だから話せと繰り返されて、とうとう貴方が好きだと口に出す。
「俺だって好きだ」
「でも、本命は今も、兄さん、でしょ」
 相手の胸に身を寄せて、離れたくないと強く抱きつけば、「ああ」と納得混じりの短な肯定が返された。
「つまり、情が湧きすぎて、俺がお前の本命に繰り上がった?」
「ごめ、なさい……」
「あー……謝るのは俺の方。悪い。気づかなかった。というかそうか。お前、本命が誰か隠すの、慣れすぎだろ」
 お前の本命に繰り上がったら気づけると思ってたんだと言って、相手はもう一度悪かったと繰り返す。
「最初っから、そうなる可能性も込みで誘ってる。ただ俺を好きって言うようになってからも、お前の本命に繰り上がったと思うようなことってなかったから、この関係を都合よく利用できてるんだろうと思いこんでた。上手に隠しきってる可能性を考えなかったのは俺が悪い」
「な、んで。だって、でも、」
 混乱しきって何を言っていいかわからない。なのにそれでも口を開いて、混乱する気持ちを吐き出してしまう。
「本命に操立てて恋人作ったことないお前をどろどろに甘やかして、情を引っ張り出すようなセックスしてたんだから、お前の中の好きがどうなるかは俺にもわかんなかったんだよ。ただ、どう転んでもいいつもりだったから、お前の恋人続けてた」
「でも、でも、兄さんが、本命で」
「ああ、うん、そうだな。俺の本命はお前の兄貴だよ。ただ、お前との関係を始める前に言ったけど、それなりに気持ちに整理はついているから、あいつとは今後も変わらず親友で居られればいいんだ」
 恋人として好きだと思ってるのは今はお前だけだ、なんて言い方は凄くずるいと思う。けれど、本命が変わってしまったことを知られても関係はこのまま続けていいんだ、という安堵の方が大きくて、またボロボロと涙が溢れて止まらず、それどころじゃなかった。

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兄の親友で親友の兄5

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 一年を超えた最初の週末、切もいいしもう終わりと言われる可能性にドキドキと過ごした。
 普段と変わらない態度の彼といつも通りに接して、そのまま普段通りの夜を過ごす。でもそう出来たと思っていたのはやっぱり自分だけだったみたいだ。
 終えた後の彼はいつもみたいに甘やかな顔ではなく、どこか悩ましげな顔をしている。ドキドキが加速して、嫌な予感に逃げ出したい。
「何かあったか?」
「何か、……って?」
「それを聞いてる。例えば、俺への不満とか」
「そんな事言われても……何も、ないよ」
「じゃあ何を気にしてる?」
 言いたいことでも聞きたいことでも、何でもいいから今考えてることちょっと言ってみろと言われたって困るばかりだ。なのに。
「ほら、言えないような何か抱えてるってことだろ。で、何があった?」
「言えないようなこと、ってわかってるなら突っ込んで聞かないって選択ないわけ?」
「俺には絶対に話せないってならそれでもいいけど、今後も今日みたいなセックス続くなら、お前と別れることも考えるぞ」
 別れると口にされてギュッと心臓が痛んだけれど、同時に、まだ別れることは考えてないって意味ともとれる言葉に期待が膨らんでしまう。
「今日の俺、そんなに変?」
「変っていうか、何か無理してる感じはする。というか俺に怯えてないか、お前」
「ねぇ、俺と別れることも考えるって事は、今はまだ、俺と別れることは考えてない?」
「ないけど。まさか気にしてたのそれか? 俺、お前と別れたいような素振りなんか見せてた?」
 だって……と口ごもってしまえば、そう簡単に別れたりしないから言ってみなと促される。
「だって、一年経った、から」
「お前と付き合う時、期間は一年とか決めた記憶ないけど?」
「でもしばらく恋人しようって言ったろ。しばらくって、いつまでを指すの?」
「お前が俺を嫌になるか、俺より好きな相手ができるか、本命を落とすかするまで?」
「なに、それ」
「お前次第でいいよって意味。俺の方から期間も決めずに誘ってんだから、お前が別れたくなったら別れるんでいい。って、もっと早くに言ってやればよかったのか」
 俺から別れようって言い出すことはないよと、穏やかに笑われて、安堵していいはずなのになんだか切ない。嘘つきって思ってしまうのは、別れるって言われて胸が痛む思いをしたのが、ほんの数分前の話だからだ。
「信じてないな?」
「だって、ついさっき、今日みたいなセックス続けるなら別れるって言ったし」
「そりゃあ、お前の俺への気持ちが変わったのに、言い出せなくてズルズル抱かれ続けるってなら、俺の方から止めようって言うことだってするさ。お前の気持ちが俺から離れてるのに、体が気持ちいいから、甘やかされるのが心地良いから、セックスする関係を手放したくないだけ、ってのを俺が許すと思うか?」
「それは思わない、けど」
「お前が俺を、これまで通り本命以外の一番に置いてるうちは、俺からお前に別れを突きつけることはしない。これなら信じるか?」
 マズい。泣きそうだ。
「うん……」
 頷きながらも彼の目から逃げるように俯いてしまえば、不審に思われるのは当然だろう。
「お前……」
 少し戸惑う声とともに頬を両手で挟まれ、いささか強引に上向かせられて潤む瞳を見つめられながら、終わった、と思った。自分の中での本命が曖昧になってしまっている事実を、もう、彼に隠し通せない。

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兄の親友で親友の兄4

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 せっかく恋人になったのだからと、週末はデートと称してあちこち出かけ、もちろんセックスもするみたいな生活を続けたおかげで、相手への情はあっさり湧いてしまった。この頻度で同じ相手に繰り返し抱かれるということの威力を、自分はあまりに知らなすぎた。
 だって想う相手がいるからと恋人もセフレも作らず、たまにどうしても誰かとしたくなって相手を探す、みたいな生活だったのだ。同じ相手に抱かれたことが皆無というわけではないけれど、一番多い相手でも三回程度で、しかもその間隔だってかなり開いていた。
 もともとそれなりに気持ちよくなれていたセックスは、回を増すごとにどんどん気持ちよさが増していく。自分の中に相手を想う気持ちが少しずつ湧いていたとかの精神的な話ではなく、もっと単純に、行為を繰り返すほど相手に自分のイイ所を知られて行くという、言われてみれば当たり前の理由によってだ。
 でもそれだって本当は当たり前なんかじゃない。こちらが気持ちよくなれるようにとあれこれ探して、見つけて、それを覚えていてくれることこそが、なんとも恋人っぽいセックスだと思った。
 しかも繰り返すことで知られていくのはイイ所だけじゃない。抱き潰されたりの無茶はされないのに、彼と会わない間、オナニーする気が起きないくらいにはしっかり搾り取られている、という事に気づいたのはいつ頃だっただろう。
 錯覚を許さないという強い意志を感じるセックスは最初だけだったけれど、互いの名前を呼びあっていればそうそう錯覚も起こさないし、オナニーもしないんじゃ本当に好きな相手を想って気持ちよくなる瞬間が激減だった。というか殆ど無くなった。
 気持ちよくなるのは、彼に抱かれている間だけ。しかも好きだ可愛いと甘やかされまくった上に、今まで経験したことない気持ち良さまで教え込まれたら、もう彼とだけ出来ればいいって気持ちになってしまうのも当然だと思う。きっともう、前みたいに一夜限りの相手では満足できない。
 好きと言われて当たり前のようにこちらからも好きと返すようになって、好きな人に抱いて貰っているという精神的な充足感が更にプラスされた、気持ちよすぎる恋人セックスに浸って気づけば、関係がスタートしてそろそろ二桁月になろうとしている。数ヶ月後には一周年だ。
 そして今更ながら、しばらくっていつまでなんだろう、と思うようになった。そろそろ終わりと言われた時に、嫌だ無理だ捨てないでと縋ってしまいそうな自分が怖い。
 お互いに本命相手が別に居て、でも好きって気持ちがあって恋人になっている、という前提ではあるけれど、実のところ、自分の本命が誰なのか今はもうかなり曖昧だった。というよりも、本当に好きだったはずの相手を想っている時間よりも、彼のことを想っている時間のほうが間違いなく多い。ただそれを認めてしまうのが怖かったし、彼に知られるのも嫌だった。
 だって元々兄が好きで、それでも何人もの相手と恋人関係を持ってきた相手だ。相手の中では、今も変わらず、本命の席に座っているのは兄だろう。
 ほんのりと胸の奥が軋んで痛い。この先、この関係はどうなるんだろう、どうしたらいいんだろう。考えるほどに気持ちが沈むようで、重い息を吐きだした。

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兄の親友で親友の兄3

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 なんということはなく、錯覚する隙をくれないってだけのセックスをした。誰に抱かれてるか忘れるなとでも言うように何度も彼の名前を呼ばされたし、長く目を閉じることも許されない。錯覚しかけるとわかるらしく、その都度、目の前にいる男が誰かを意識させられ引き戻されてしまう。ただ行為そのものは丁寧で優しかったし、こちらから呼んだ以上に何度も名前を呼ばれたし、可愛いだとか気持ちいいだとかリップサービスも多かった。
 当たり前みたいに好きだの言葉も掛けられて、さすがに最初は別の本命が居るくせにと思いはしたが、でも繰り返される内に本命がどうとかって反発心は消えていった。だって彼のリップサービスは、どれも興奮を煽る口先だけのものじゃないと思わせる何かがあった。元々お前を好きだと思ってたの言葉通り、本命ではなくても好意はちゃんとあって、彼はそれを伝えてくれているだけなのだと、途中で理解してしまったからだ。
 思いの外どっぷりと甘やかされるみたいなセックスをされて、終えた後は正直言って戸惑いが凄かったし、それをわかっているらしい相手はどこか可笑しそうに苦笑していたが、その表情までもなんだか優しい。凄く、変な感じ。
「一応の確認だけど、続けられそうか?」
「続けるって?」
「そりゃ俺との恋人関係をだ」
「そっちこそ、どうなの? 自分を好きと思ってない相手抱くの、嫌なんでしょ?」
 彼の手管で錯覚は起こらなかったけれど、好きだと言われて好きだと返せはしなかった。付き合うとは言ったが、それがイコールで彼を好きだと思いながら抱かれるになるわけじゃない。
「まぁそれはそうなんだが、わかってて誘ったのこっちだし、それはいい。むしろ楽しみにしてる」
「楽しみって、何を?」
「お前の中に俺への情が湧くのを」
「本命ではなくてもちゃんと好き、みたいな?」
「そう。わかってんじゃないか」
「好きって言われて、兄さんが好きなくせにとは思ったけど、でも俺を好きなんて嘘ばっかとは思わなかったから、両立はするし両立させてもいいんだ、てのは、まぁ、わかったかも」
 言えば満足気な笑顔とともにわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「なんだよお前、ずいぶん素直なのな。好かれたら困るとか言ってたし、俺に抱かれたい好奇心で付き合うって言っただけで、一回抱かれたら別れようとか思ってる可能性考えてたけど、それはない?」
「あっ……」
 その手があったか、とは言われてやっと気づいたくらいに、全く考えていなかった。
「うん。お前が素直な単細胞でよかった」
「バカにしてる?」
「してない。可愛いなぁとは思ってる」
 乱雑に髪を掻き乱していた手が、一転して優しく髪を梳いていく。その手付きがもう、恋人を甘やかすそれなのだとわかってしまう。慣れなくてやっぱり少し戸惑った。
「じゃあ、しばらくは俺と恋人しような」
「あ、はい」
 柔らかな笑みとともに告げられ頷いてしまえば、ますます柔らかで嬉しげな笑みになる。ちらりと、しばらくっていつまでだろうと思ったけれど、それを聞くことはしなかった。

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兄の親友で親友の兄2

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 そんな顔すんなと言って、目の前の男はまたしても呆れの滲む息を、今度は大きく吐きだした。なんだかずっと、呆れられっぱなしだ。
「お前さ、いっそ告白して振られてこいよ」
「は?」
「そしたら一回だけ、あいつの代わりに抱いてやる。やってる間、あいつの名前で呼んでもいい」
「なんだそれ。わかった振られてくるね、なんて言うとでも思うの?」
 聞けばあっさりと思わないと返されたから、だったらなんでそんなことを言うんだと思う。思ったまんま口に出せば、弟の代りにされても許せるとしたらその条件くらいしかないからだと返された。
「名前呼ばないからちょっとくらい夢見させてってのはダメなの?」
「それはダメだな。基本的な話になるけど、俺、俺を好きじゃないヤツ抱きたくないし」
「さっき錯覚無しでなら抱いてもいいって言ってたけど、錯覚なしがイコールであなたを好きと思って抱かれるにはならなくない?」
「だからやっぱなしって言っただろ。だってお前、お前自身を抱けるって言っても欠片も喜ぶ素振り無かった上に、なんでお前を抱けるっつったかも全く理解してないもんな」
 兄に似てるから以外で抱く気になる理由なんてあるのかと聞いたら、また呆れられるんだろう。
「親友の弟で、弟の親友で、俺自身との繋がりはそう強くないけど、深刻な顔で抱いてくれって言われたらいいよって言っちまうくらいには元々お前を好きだと思ってた、って話だよ」
 余計なことを言ってしまわないようにキュッと唇を引き結べば、苦笑と共にそんなことを言う。なんだそれ。意味がわからないと言うよりは考えたくなくて、呆然と相手を見つめてしまえば、相手はますます苦笑を深くしていく。
「本命とそれ以外、みたいな分け方してるっぽいお前にゃわからん気持ちかもだけど、体だけ気持ちよくなれりゃいいみたいなセックスが虚しくなってんなら、試しに俺と付き合ってみるか?」
「なに、言ってんの……」
「割と本気で誘ってる」
「俺を好きとか、困る」
「お前と付き合ってもお前が本命に繰り上がるわけじゃない。って言ったら、ちょっとはその気にならないか? お互い別に本命がいるのわかった上でも、恋人として付き合えるってのを、お前は一度経験してみたらいい」
 兄の親友で、親友の兄である男と恋人になる、なんてもちろん考えたこともなくて、でもそんなの無理だとすぐに拒否できないってことは、多少なりともその提案に惹かれてもいるらしい。ただそれがどんな気持ちからなのか、想定外の展開でぐちゃぐちゃになっている思考ではわからない。それに、付き合ったって上手くいくはずがないって気持ちも強かった。
「ねぇ、その付き合い、セックス込みの話だよね?」
「そうだな。もし、あいつの代わりに抱かれたいためだけに付き合うってなら、それは無理だから断ってくれ」
「その、あいつの代わりにとか思ってなくても、抱かれたらどうしたって、錯覚はすると思うんだけど……」
 だって自分が知る中で、一番あいつに似ているのが彼なのだ。兄を本命にしながら他の恋人を何人も作ってきた彼はどうか知らないが、本命が別にいるからと体だけのセックス経験しかない自分は、なるべく本命に何かしら似たところがある男を選んでいたし、むしろ積極的に錯覚して行為を楽しんできた。
 自分を好きじゃない相手は抱きたくないと言っているような男とは、相性最悪としか思えない。
「初っ端から代わりにする気満々で抱かれるんでなきゃ構わないさ。わざとじゃなく錯覚するってなら、どっちかって言ったら俺のせいだろうし」
「え、なんで?」
「それを知りたきゃ誘いに乗って、俺に抱かれてみるんだな」
 どうする? とニヤリと笑った顔はどう考えても了承待ちで、それならもう釣られてしまえと、じゃあ付き合うから抱いてよと返していた。

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