雷が怖いので45

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 言葉によって自分が彼だけのものであり、また彼が自分だけのものであると互いに刻みながら、その証として彼の吐き出したものを全て飲み、当然、自分が吐き出したものもまた彼の喉の奥に流れ落ちた。
 自分のものをして貰う前、元々男を性対象としてたわけでもないのに、本当に女性を知らないままでいいのかと聞かれたが、そんな今更の質問には呆れ顔とともにもちろん良いと返した。先手を打つように、自分の子供も要らないと言っておく。
 なのに彼は結局、彼のものと刻む言葉の中に、童貞を捨てたくなった時と子供が欲しくなった時は隠さず彼に伝えるようにと盛り込んだ。
 最初はもちろん、彼だけのものにしてくれると言ったのに、そんなのは嫌だと抵抗した。彼が認めるような、自分のためにと選んで連れてきた相手だろうと、童貞を捨てるためだとか、子供を作るためにだとかで、好きでもない女性を抱くような真似はしたくない。
 それを聞いた彼は、どうしてもって時にお前の童貞食うのは俺だし、お前の遺伝子を持つ子供を作るだけなら必要なのはセックスじゃなくて、金と金で動いてくれる人だよと言った。体というかアナルも金もコネも、提供する用意があるということらしい。抱かれる側はやらずに済むなら二度としたくないなと、いつだったかホロリとこぼしていたくせに。
 どちらの話も、じゃあそういう気持ちになった時にはよろしくお願いします、なんて言えるようなものじゃない。どう反応していいかわからず戸惑ってしまえば、いつか抱く側を経験してみたいとか、自分の子供が欲しいと思うようになったとしても、お前のペニスが俺以外に反応するのを許さないよって言ってるだけだと言い直された。それならわかる。
 だから受け入れて、気持ちが湧いてしまったら隠さずに伝えることを、自分も言葉に変えて彼に誓った。
 サイズの差もあるだろうが、それよりはやはり経験値の差から、彼は当然、こちらが吐き出した物を受け止めきれずにこぼすような事はない。口内で最後の一雫まで吸い取るように綺麗にしてくれた後、顔を上げた彼は随分と満足気だった。
「さて、これで残ってるのはお前のお尻の穴とその中、だな」
「今日は中に出す?」
「そりゃあね。簡単に届かないような一番深い場所に、俺のものだって印を刻むように注いでやるよ。けど意識飛ぶような抱き方はしないから、今日はちょっとだけ覚悟して?」
 なるべくキモチイイようにはするけど、色々キツいかもと言われて、嬉しいばっかりだから大丈夫と返す。
 奥の深い場所ももちろん開発されているのだが、そこで感じさせられる時は、あまりの快感に大概途中で意識を手放してしまう。たとえ意識が飛ばなくたって、頭の中は真っ白かぐちゃぐちゃかになっているから、当然まともな会話なんて成立しない。彼だけのものになると誓う言葉はきっと吐き出せない。
 そして、そこまで感じられる前に彼の大きなものがそこへ入り込めば、キモチイイより先に苦しさと痛みに顔をしかめてしまう。彼もそれを十分にわかっているから、普段は浅い場所で何度もイかされて、体も心も頭の中も全部がトロトロになってからじゃなければ奥にまで入っては来ないし、奥を突かれず終わる場合だって多い。
 でも今日は確実に、しかもあえて感じきる前に最奥まで入れた上に、そこへ彼の精液を注がれるのだ。
 中に出してとお願いしたことは何度かあって初めてではないのだけれど、あとの処理が大変になるからと、深い場所に出されたことはなかった。中出しは、吐き出されたものを彼の手で綺麗にされるまでがワンセットのプレイだということも、その何度かの経験で理解している。出される時もその後の処理も、深い場所だとどんな感じになるのかと、期待とわずかな恐怖とで興奮していく。
 ある程度慣らしてきた体は、彼の指で手早く解されて、亀頭を飲み込むまでは早かった。でもやはりすぐに奥までは入ってきたりせず、いつも通り浅い場所にあるイイトコロを擦られて突かれて善がり喘いでしまう。
 ただ、どんなに気持ち良くなっても、イかせてはくれなかった。イきそうになると快感のポイントをずらされて、達せないままジリジリと焦らされていく。吐精を我慢させられることにはこれまでのプレイである程度慣らされていたが、中でイくことを我慢させられることには実はあまり慣れていない。そういうプレイをされたことがほとんどないからだ。むしろいつもは、お尻だけで何度も絶頂すると褒めてもらえるくらいなのに。
「お前のここも、俺だけのものになるんだろう? イき始めたらキモチイイばっかりになってすぐ何も考えられなくなっちゃうんだから、今日はイかずに、まず俺をしっかり全部覚えなさい」
 すすり泣いてイきたい、イかせてと頼んでも、返ってくるのはそんな言葉ばかりで、そう言われてしまえば耐えるしかなかった。

続きました→

 
 
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雷が怖いので44

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 何よりも彼の心が欲しい。好きだとか恋だとか愛だとか、彼がまだはっきりとは認識できていなくたって、自分にはもう見えている。彼の心のなかに自分の居場所を作って常駐してやりたい。自分のことを考えてくれる時間が一秒でも長くなればいい。
 そんな気持ちを正直に語りながら、だからあなたの心を俺に分けてとお願いし、了承されて彼の心を受け取った印として肌をきつく吸い上げた。
 必死でチュウチュウ吸い付いていたら、頭上から微かに笑うような気配がして恥ずかしい。そっと口を離して顔を上げれば、随分と優しい顔で、まるで愛しいものを見つめる瞳で、彼は自分を見下ろしていた。
「初めてだった? それともわざとか」
 随分おっきくて濃い印を刻んだなと、付いたばかりの赤色を指先で撫でている。キスマークの付け方はわかっていても付けるのは当然初めてで、口を開きすぎた上に吸い付きすぎたのか、確かに随分と大きく色濃い鬱血痕が出来ていた。
「わざとじゃ、ないです。でも、もし初めてじゃなかったとしても、これくらいの付けてたかも」
「うん。嬉しいよ。で、他は?」
 ゆるく首を振ってもう十分だと告げれば、彼はニヤリと見慣れた笑顔を見せる。
「本当に? 今なら俺のペニスをお前専用にだって出来るのに?」
「ぅえぇっっ!?」
 欠片も考えたことのない提案に心底驚いた。
「俺は他の誰かに抱かれるお前や、誰かを抱くお前を見て楽しみたい趣味はないし、俺が居ないところでお前の体を勝手されるのを許す気もないから、ここも、ここも、ここも、今から全部、俺だけ専用になって貰うけど?」
「んぁっ……ぁふ、っ……」
 唇と、ペニスと、更にその奥の窪みとを、順にゆるりとつつかれて、小さく声を零す。
「お前が俺以外の誰かと、触らせたり触ったりのエロいことをしないって約束するのと同時に、俺にもお前以外にはキモチイイことを与えないって、そう誓わせたくないか?」
「そんなことまで、誓って、くれるの?」
「お前に、俺が他の誰かを気持ちよくしてるところを見たいとか、お前にはやらないようなキツいプレイをしてる俺の姿が見てみたいとか、そういった欲求があるなら別だけど。でも多分、ないだろ?」
 ないよな? と重ねて聞かれる理由がわからないと思いながらも、ないとはっきり断言した。
「ない。俺以外とはしないでくれるのが本当なら、凄く嬉しい。あなただけのものになりたいし、俺だけのものにもなって欲しい。というかなんで、俺が俺以外の人とのプレイを見たがるなんて思うの?」
「そりゃ、お前が俺の過去をなんだかんだ色々と聞きたがるからだろ。されたこともしてきたことも、プレイの詳細まではあんま話してないけど、時々もっと知りたそうな顔してる」
「だって、意地悪なこともあるし、散々泣かされてきてこんなこと言うのはおかしいかもだけど、俺には基本的に優しいばっかりだから。でもそれは、俺がそういうのを好きだからってだけで、痛いこととか酷いこととかされたい人には、体に傷を残すことも平気で出来たりするのかなって。前に言われたことはなんでもしたって言ってたし、あなたの所有者は痛くするのが好きなタイプのサディストだって言ってたから、ただ痛めつけるみたいなSMプレイも、その気になれば出来ちゃうんだろうなって。そういうの、考えちゃうから」
 言いながら、ああそうかと納得してしまう。そしてそれはそのまま、ああそっか、と口からこぼれ落ちた。
「だから、あなたのそんな部分を見てみたい気持ちは、確かにある、のかも」
 でも自分以外の誰かとプレイしてるのを見たいなんて気持ちは一切ない。そして自分自身にされるのは、怖すぎて絶対に無理だとも思う。正直消えない傷を付けて欲しい気持ちは強いのに、それを本気で望めないのは、彼が嫌がることよりも痛いのが怖いからという理由のほうが多分大きい。
 前に彼が言っていたように、痛くて怖い許容範囲を少しずつ広げることが可能なら、そうやって痛いばっかりの深い傷を付けられるのを、喜ぶようにしてくれても構わないのだけど。でもそれを彼の方から持ちかけてくることは絶対にないし、いくらキモチイイを混ぜ込みながら褒めてあやしてされたって、少しずつ強い痛みに慣らされるその過程を考えたら、やっぱり自分からそれを望むことは出来そうにない。
「そうだな。確かに出来るよ。詳細は絶対教えないけど、お前に嫌われて恨まれるために、お前が二度と男に抱かれようなんて思わなくなるように、相当エグいプランを考えたくらいには、本気でやろうと思えば人として酷い真似も平気で出来る。でもお前はそういうキツいプレイを、自分がされたいとは思わないだろ?」
「だからって、誰かにしてるのを見たいなんて事は、絶対に思わないから。あなたがまだ俺に見せてない顔を見たい気持ちはあるけど、それは俺へのプレイで見せて。でも痛いのも怖いのも俺にはきっと無理で、だからあなたが隠してくれる顔は、多分俺が知らなくていいものだって、わかってる。俺が大丈夫そうって思ったら、少しずつ見せてくれるんだろうなってことも、知ってる」
「いい子だね。本当に良くわかってる。じゃあ俺のペニスも、お前専用にしような」
 頷いて、どうすればいいのと尋ねれば、まずは口からだなと唇の上へ指先が押し当てられた。
「口を開けて」
 言われるまま従えば、口の中に入ってきた指先がゆるく口内をかき回していく。感じる場所をやはりゆっくり撫でられ掻かれて、ぞわりぞわりともどかしい快感が生まれる。
「気持いいね。そのままたっぷり唾液を溜めなさい。口の中が全部ヌルヌルになったら、ここに俺のペニス入れてあげるから、今触れてる気持ちいいとこに自分で当てて、自分で気持ちよく、なれるね?」
「んっ」
 口を開けたまま小さく頷いた。
「お前が十分気持ちよくなれたら、お前の口の中に出すから、今日はそれを零さず全部ちゃんと飲みなさい。もしこぼしたらそれも綺麗に舐めとって。頑張れる?」
「ふぁい」
 口に彼のものを含んで自分自身が気持ちよくなることも、そうしながら彼のペニスを刺激して吐精に導くことも、吐き出されたものを飲み込むことも、一応は仕込まれ済みだった。彼の吐精に関しては、どこまで自分の技量で導いているのかイマイチわからないけれど。そして吐き出されたものを咽て吐き出してしまわず、綺麗に飲み込むのはまだかなり難しい。
「うん、いい子。ならそろそろ入れてあげるから、俺の情報が詰まった精子たちをお前の中に飲み込んで、俺を、お前のものにして?」
 彼の吐き出すものを、彼の情報が詰まったモノという風に考えたことはなかった。そう言われたらその通りで、それを飲んで彼を自分のものにするのだと言われたら、これはもう一滴たりとも零さず、頑張って飲みきるしか無いなと思った。

続きました→

 
 
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雷が怖いので43

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 彼を好きになった気持ちを晒して、彼がその気持ちに対して何らかくれる素振りを見せた時、お前が望むだけのものを渡せるわけじゃないがと予防線を張ったのは彼で、きっと恋人にはなれないと言ったのも彼だ。それにこちらは彼に買ってもらっている立場の貧乏学生で、自分の持つ好きという感情は彼にとっては迷惑なものでしかなかったはずだ。
 その迷惑でしかない感情を押し付けて、だからあなたをくれだなんて、どうして口にできるだろう。
 しかも彼は彼のかつての所有者に対して諦めと許容と嫌悪を綯い交ぜたような話をしていたから、彼を自分のものにしたいなんて気持ちは今まで湧きようがなかった。だって彼を自分のものにするというのは、彼に嫌われるのと同義だと思っていたのだから。
 でも本当はそうじゃなくて、彼がこれ以上辛くならないようにと認識できなくなっているだけで、彼の心はちゃんと誰かを好きになったり愛したりしたがっているのだと、先日やっと気づくことが出来た。そうでなければ今も、俺にもあなたをちょうだいなんて、きっと口には出来なかったと思う。
「あー……うん、多分、俺が悪かった」
 ぐるぐると回る思考に口を閉ざしてしまったら、ずっと言えなかっただけなんだなと、彼は困ったように笑って、触れるだけの優しいキスをくれた。
「お前はすぐに自分を差し出すくせに、俺から欲しがるものがささやか過ぎて、しかも欲しがってるように見せかけて俺に何かを与えたがってたから、あまりにも割に合わないと思ってただけなんだ」
「割に、合わない?」
「具体的に例を出すなら、俺のものになりたいって言ってたあれな。あれがもし、ペットや奴隷として飼われる代わりに、衣食住から学業から全部の面倒を見てくれって話ならわかるんだよ。俺からしたら、それくらいが受け取るものと支払うもののバランスがいい。そういう話だったなら、あの時点で、お前を俺のものにすることをもうちょっと真面目に検討した」
 でもそういう形で俺のものになってもお前は喜ばないだろう? と続いた言葉には、喜ぶわけ無いと返す。
「あの頃は本当に、何を言われているかわからなかったけど、でも今は、多少はわかってると思うよ」
「本当に?」
「さぁ、自信があるわけじゃないが、多分な。お前が欲しいのは、言葉だったり気持ちだったり一緒に過ごす時間だったりなんだろ。後、金銭を絡めないキモチイイ事」
「うん」
「ほら、当たり。でもそれらは凄くささやかで、なのに俺には難しい物ばっかりなんだ。特に気持ちなんて、お前の好きに見合うだけの感情なんて、俺に返せるわけがない。なのにお前は、俺がお前に渡せるものの大半を嫌がってくれたからな」
「だってあなたがくれるお金が、あなたの精一杯の愛情だったなんて、気づいてなかったんだもん。だからこれから先、俺は学生じゃなくなってちゃんと仕事をしてお金を稼ぐけど、それでもあなたが俺にってくれるお金は喜んで貰うって言ってる」
 言ったら変な顔をされて、何事かと思ったら、やっぱりお前はあの金を愛だって言うんだなと苦笑された。じゃあ違うのかと問えば、多分違わないと返ってきたから、意味がわからない。
「愛とか恋とか誰かを好きだとか、そういう感情に馴染みがないんだって言ったろ。でもお前がそう言うなら、あれは俺の愛だって事で構わない、程度には思うんだよ。って話。がっかりしたか?」
「なんで? 嬉しいけど。だってそれ、あなたは俺を愛してるって、認めてるようなもんだよ。って思うことにする」
 言ったら、最近この件に関してはやたらポジティブだなと、呆れと驚きとが混ざったような顔をされてしまった。
 こちらがポジティブになれる要素をバラ撒いてるのは彼だ。捨てると言いながら、本当は捨てたくなんかなくて、愛されていたくて、だからこちらが引き下がれないように誘導しているんじゃと思うことすらあるのに。でもその自覚はないみたいだし、口に出して突きつけて、せっかくここまで来たものを、そんなつもりじゃなかったと翻されても困るので黙っておく。
「好きになっちゃったあなたとの関係を切りたくないから、ポジティブになることにしたの。それに俺だって、少しずつあなたへの理解を深めてるつもりだから、俺が欲しいと思うものがあなたから返ってこなくたって、諦めなくて平気だってもうわかってる」
 生きてきた世界が違うことがわかってれば、その認識のズレを互いに正して、いつかきっと恋人にだってなれると思う。そう言ったら、本当に? とどこか試すような顔で聞かれた。
「お前のものになるのだって構わないけど、例えば俺が、この体にお前のものである証にお前の名前を彫ったり、お前が選んだピアスを付けると言ったら、お前きっと断るよな?」
「当たり前、でしょ」
「じゃあ逆に聞くけど、このしばらくすれば消える赤い印の代わりに、俺がお前の体に俺の名前を彫ったり、俺が選んだピアスを付けると言ったら、お前、どうする? 嫌だって拒否するなら、誰から見てもお前に所有者がいるとわかる印を付けさせないなら、お前を捨てるよって言ったら?」
「あなたがしたいなら、して。でも、俺はあなたの体にそういうものを刻みたいわけじゃない」
「俺だってしたいとは思わない。ただ、そういうものの方が、俺にとっては馴染みがあって手っ取り早くわかりやすい所有の証だってだけ。そしてこういった認識は、そう簡単に覆るもんじゃないと思うんだよな」
 だからお前がバカじゃなくてホント助かってる、なんて続けるものだから、また意味がわからなくて問い返す。聞けばきちんと返してくれる人だから、認識のズレはきっと正していけると思うのだけど。覆らないと言うなら、彼に自分が合わせていくことだってきっと出来る。話し合って、互いが納得のできる所有の証を探すことも、今の自分達にならきっと可能だろう。
 それはどういう意味かと聞いたら、消えてしまうような印と言葉だけじゃ満足できないって言われたら、手っ取り早くお前の体に傷を残すことをしてたかも知れないと返された。逆にこの体に傷をつけさせていたかも知れないとも。
「体に傷が残るより、心に刻まれる方が、ずっと深刻で怖いもののように思うけど」
「そう思えるやつで良かった、って話だろ。まぁ、目に見えないものをそこまで信じられるってのも、逆に凄いというか怖くもあるんだけどな」
「そうかな? 目に見えないから、深刻だよねって話なんだけど。それに正直言えば、心に刻むなんて真似をしなくても、あなたが俺のものになってもいいって、そう言ってくれただけでもう十分嬉しい」
「だからお前は欲がなさすぎだっての」
 ベッドに倒されていた体を引き起こされた。
 向かい合わせに座った彼は、どうぞと言いたげに両腕を広げてみせる。
「ほら、お前の番」
 彼がしたように、赤い印をつけて宣言させて自分のものにしていいと促されて、おずおずと彼の心臓の上に唇を寄せた。

続きました→

 
 
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雷が怖いので42

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 彼のものになっていくのは喜びで、望んでいた幸せで、けれどこれら一連の行為はまるで呪いのようだとも思った。
 そして彼が掛けられた呪いは、きっとこんな優しいものではなかっただろうとも思う。もしイレズミやピアスもこの赤い印と同じようにオマケだったとしたら、消したり外したりしただけで心に刻まれたものもなくなるのだろうか?
 赤い印は消えてしまう前に重ねてくれると言っていたけれど、でも印が消えたからと言って、自分が彼のものになったという事実はなくならない。心に言葉を刻むというのは、そういうことだろう。
 彼は彼を所有していた人物について、いつも過去形で話をするけれど、彼の所有者だった人はあれだけたくさんの消えない痕を平気で残すような人物なのに、彼の未来を縛る言葉を刻まなかったとでも言うのか。自分が彼に差し出す全ての中には、これから先の人生をも含めているのだけれど、もし彼が先にこの世を去った場合はどうなるんだろう?
「ねぇ、今のあなたは、誰のもの、なの?」
「どういう意味だ?」
「あなたを所有していた人が亡くなって、あなたは誰のものでもなくなったの? それとも、やっぱりまだその人のものだったりするの? あなたに消えない所有印をたくさん残したのは、あなたはいつまでもその人のものだと、そういう主張じゃないの? その人は、あなたの人生を全て持ったまま、居なくなったわけではないの? あなたが居なくなったあと、俺は誰のものでもなくなっちゃうの? それとも、あなたのもので居ていいの?」
「なんか色々考えすぎてないか? それと、お前は自分と俺とを混同しすぎ。立場ぜんぜん違うだろ」
「あなたもこうやって、色々と宣言して、その人のものになったわけじゃないの? 消えない所有印だけじゃなくて、心にも所有の証を刻まれたんじゃないの?」
「お前、変なとこだけ聡いな」
 前から時々思ってたけどと苦笑しながら、彼は言葉を続けていく。
「まぁ心にまで染み付いてるものも色々あるっちゃあるよ。色々誓わされたのも確かだし。でも言われてみりゃ、俺の未来まで縛るような言葉はなかったというか、あの人が死んだ後まで、あの人のもので居続けるなんて宣言した事はなかった、かな」
「そうなの!?」
「今にして思えば、当時の俺が思っていたより大事にされてたし、それなりの愛情もあったかもだけど、多分、お前が思ってるほどには愛されてなんかなかったぞ。なんていうか、俺があの人から開放された先どう生きようが知ったこっちゃない、って感じの人だったよ」
「でも、たくさん遺産を残してくれたんでしょう?」
「それはそうだけど、でも正直、こんだけ払ったんだからお前にやったことはチャラな、って言われたような気分だったんだよな。だから、受け取るもの受け取って終わりだよ。それを愛情と言うなら、まぁそれもありかなって思いはするけど、確かめられるわけじゃねぇし今更だろ。むしろ愛情ってなら、しっかり必要以上の教育受けさせて貰った方に感じるかな。そっちにもけっこうな金掛かってるし」
 後はなんだっけと、彼は先程自分が感情に任せて零した言葉を思い出そうとしているようだ。
「俺が死んだ後お前がどうなるか、って話だったか?」
 さすがに気が早くね? と笑いはしたが、すぐに、でも事故とか病気とか何があるかわからないし、そういうのも決めておいた方いいよなと優しい目をして頬を撫でてくれる。
「と言っても、お前が好きなようにとしか言いようがないんだけど。俺が受け取るお前のこの先の人生は、俺が生きてる間分のつもりだったけど、でももしお前が、お前が死ぬまでの人生全部貰えって言うなら貰ってく。どっちでもいいし、今決めなくていいし、そもそもそう簡単に死ぬ気なんて無いからな」
「うん。変なこと聞いて、ゴメンなさい」
「別にいい。心に言葉を刻まれるって事の重大さに気づいただけだろ。この先の人生まで全部俺に差し出すのが怖くなったってなら、その部分は返してやろうか?」
「ううん。出来れば全部、貰って欲しい。それでさ、あの、あなたが今、誰のものでもないなら、ちょっとでいいから、俺にもあなたをちょうだい……ってのは、ダメ?」
「ダメじゃない。というか、いつ言われるんだろうって、待ってたくらいなんだけど」
「えっ?」
 ビックリして声を上げたら、ずっと不思議だったんだよなと言われた。
「俺に抱かれたい気持ちがあるって知った時もだけど、そこから先暫くの間、お前は俺のものになりたいって良く言ってたよな。俺を好きだと言った時も、その後も、俺をよこせとは、言われたことがなかった。あげく、お前の気持ちもこの先の人生までも全部をあげると言われて、お前の好きって気持ちは、俺に与えるばっかりなんだなって思ってた」
 欲しがって貰えて、今、結構嬉しい。なんて言って笑うから、何言ってんだこの人と、唖然としてしまう。
 彼を欲しがってなかったわけじゃないけれど、わかりやすく恋人という関係にはなれなくて、心を渡してはくれなくて、だから彼が自ら与えてくれるものを必死でかき集めて、少しでも心を満たそうとしていたのに。どうしても満たされない心が揺れて、不安になって、あんなにも寂しい心を持て余していたのに。
「あなたを好きになったからあなたをちょうだいって、そう言ってたらくれたの? あなたを好きになったから、俺のものになってって、そう言えば良かったの?」
 自分の口から吐き出されてくる硬い声は震えていた。

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雷が怖いので41

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 彼の家に向かう前の習慣的な感じで、体の準備は一応してきている。それを伝えれば、真っ直ぐに寝室へ連れて行かれた。
「お前、なんか変なこと考えてるだろ」
 自分で脱ぐことを止められて、ベッドの脇に立ったまま、ゆっくりと服を剥いていく彼を緊張しつつ見ていれば、おかしそうに彼が小さく笑う。
「嬉しいっつってた割に、顔、こわばってるぞ」
 むき出しになった肩に残る傷をさらりと撫でていく指先に、ゾワリとした快感とゾクリとする恐怖の中間に似た何かを感じて、思わず肩を竦めそうになる。それを許さなかったのは、傷を撫でたあと、そのまま腕を撫で降りていた彼の手に、上腕を強く掴まれていたからだ。それでもピクリと動いてしまった肩に、彼の頭が近づいてカプリと歯が立てられるのがわかった。
「んぁっ」
 あの時の痛みを思い出して震えてしまった体を宥めるように、傷痕をべろりと彼の舌が這っていく。立てられた歯が食い込んでくることはなかったが、舐められた後はきつく吸われてチリとした僅かな痛みが走った。
 キスマークを付けられた。……のかも知れない。
 あまりに驚いて、彼が頭を離しても、ただただ彼の顔を見つめていた。だって、キスマークを付けて貰うのは、初めて誕生日を祝ってもらったあの夜以来だ。
 タイミング良くねだればきっと彼は再度その印を付けてくれたのだろう。でもあの夜以降、自らねだるようなことはしなかった。
 拘束されることも、それこそ縄を掛けられたこともあったけれど、行為の名残が数日消えないなんてことはなかった。消えてしまうものですら、彼は痕を残すことに随分と気を使っているのを知っていたし、キスマークなんてあからさまのもの、きっと本心では残したくなどないはずだ。そう思っていたから、そんな相手に、ねだってまでキスマークを付けて貰う事の意味も喜びもない。
 だから、ねだったりせずとも与えられる彼からの印に、嬉しいと思う気持ちは確かにある。でもこの赤色は消えてしまうものだから、どうせなら痛くても消えないものが欲しい気持ちもあった。
「あなたのものだと刻むのって、まさか、これ……?」
「んー……これはどっちかって言ったらオマケ。何か目に見えて残るものも、欲しそうだったから」
 せっかく綺麗な体に、消えない傷なんて付けたくないんだよなとぼやきながら、暫くはこれで我慢してと続けた。消えてしまう前に重ねてやるからとも。
「暫く?」
「そう、暫く。それが目に入る度に、お前が俺のものだと意識できる何か、考えとく」
「じゃあ、いったい何を、刻むの?」
「何だと思う?」
 ニヤついてはいない。声音は優しかった。でも真っ直ぐに見下ろしてくる瞳は怖いくらいに真剣で、何を刻まれるかはわからなくても、自分がこれから確実に彼のものとなるのだということだけはわかる。
「わかり、ません」
「お前は誰のものになりたいの? お前の全部を差し出す相手は?」
「あなた、です。けど」
「そういう事かな」
「えっ?」
「お前なら途中で、というか多分すぐ、ちゃんと気づくよ」
 それ以上の言葉を続けることなく、彼は残った衣類を剥ぎ取りにかかる。
 気づいたのは、ベッドに押し倒されてあちこちにキスを受けている途中だった。それはまるで、腕も足も背中も胸も腹も、余すとこなく彼のものになるための儀式のようだった。彼のものとなった場所には小さな赤い印が付けられているが、それがオマケだということの意味も、もうわかっていると思う。
 彼がこの体に、心に、刻んでいるのは言葉だった。
 互いの名前は知っていても、行為の最中どころかそれ以外の時間も、名前を呼びあうようなことはなかったのに。でも今は、名前を呼ばれるし、彼の名を呼ぶように促される。誰が誰のものか、誰のものになるのか、言葉にして宣言する。それをやはり同じように、彼の言葉によってはっきりと受け入れられるのを繰り返す。そうやって心の奥にまで、彼のものであることが刻まれていくようだった。

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雷が怖いので40

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 自分の全てを差し出そうとして断られた翌日の昼過ぎ、彼の家を出てから向かったのは、正月にも一度帰宅たばかりの実家だった。自宅から通える距離の大学ではないが、そこまで遠方ではないのが幸いして、実家へは夕飯前に到着した。
 突然の帰宅に驚く両親と弟妹に土下座して更に驚かせた後、今まで育ててくれたお礼を言って、どうしてもどうしてもこれから先の人生を共に過ごしたい男性が居るから、勘当して欲しいと頼んだ。今まで自分を育てるのに掛かった金額も、必要なら返すと言った。息子をその人に売り渡すつもりで、自分に値段をつけてくれてもいいとも言った。
 親がとんでもない金額を提示するとは思えなかったから、正直、彼に買われるというのもありじゃないかという気がしていた。だって本当の子供を買い取りたいと思ってたって言っていた。子供と呼べる年齢ではないけれど、見た目だけならまだなんとか子供の範疇に入れそうな気がするし、ギリ未成年時代から彼の調教を受けていたのだから、もう俺を買えばいいじゃんみたいな気持ちだった。
 最初の反応は父のため息で、次には「馬鹿か」の言葉だった。
 息子が人生の伴侶に男を選んだくらいで親子の縁を切るほど狭量じゃないが、せめてちゃんと二人で挨拶に来いと言われて、慌ててそれは無理と返した。だって勝手に一人で先走っているだけという自覚はある。
 相手の了承は取れていないと言ったら、母と弟妹から哀れみの視線を投げかけられた。父はもう一度ため息を吐いた。
 出会いの詳細やら、愛人契約だなんて話を親兄弟に向かって出せるわけもなく、いろいろと濁しつつも、大学を卒業するまでに相手を頷かせなければ関係が切れてしまうことと、それだけは絶対に嫌だからなりふり構わずやれそうなことは全部やるのだと言いきって、最終的には頑張りなさいの言葉を貰って翌朝にはまた一人暮らしのアパートへと帰宅した。
 週末まで待つかを悩んだのは二日ほどで、卒業までにもうあまり時間がないことと、なりふり構わないと決めたこととで、週末以外に会ったことのない相手に会って欲しいと連絡を入れる。
 木曜の夜になら時間が取れると言われて、ひたすらドキドキしながらその時を待った。
「それで、話ってのは何? と言っても、だいたい想像はついてる。またあの話を蒸し返すんだろ?」
 俺もあれからずっとお前を今後どうするか考えてたよと苦笑した彼は、お前に憎まれる覚悟がイマイチ決まらないと続ける。お前と過ごして随分と甘く弱くなってしまったとも。
「それ、俺相手には、気持ちを殺す必要がないって、もうあなたの心が知ってるからですよね。あなたの心が気持ちを殺すことも、俺を捨てることも、拒否してるんだ」
「そうかもな。でも、俺は最後にはやっぱりお前を捨てるよ?」
「捨てさせません。俺、親から勘当されてきました」
「……は? え、勘当された? えっ?」
 言葉の意味が彼に伝わるのを待ち、戸惑う姿を見ながら思い切りにこやかに笑ってみせた。
「俺にはもうあなただけになったんです。だからどうぞ、安心して俺を全部貰ってください」
「ちょっ、本気で言ってんのかそれ」
「本気というか事実ですね。どうしてもどうしてもどうしても、これから先の人生を共にしたい男性が居るって言いに、実家行って来たんです」
 育ててもらったお礼もしっかり言って来ましたよと伝えてはみたが、呆然とする彼の耳にどこまで届いているかは怪しい。相手の混乱が治まるまで暫く黙って待っていれば、やがてゆっくりと彼の声が吐き出されてくる。
「なんで、そんな真似……」
「そんなの、なにがなんでもあなたのことが欲しかったから、以外の理由はないですけど」
「バカだろ、お前」
「それ、親父にも散々言われました」
 すっごい呆れられてため息も吐かれまくりましたと報告すれば、そりゃそうだろと、やはり戸惑う様子で返された。そんな報告をどこか喜々として告げる自分が、相当衝撃的らしい。
「迂闊でもバカではないと思ってたのに、何、やってんだよ」
「あなたが手強いから、なりふり構ってられないなって思って。あなたを嫌いにさせられる前に、あなたに諦めてもらわないと。諦めて、俺のクソ重い愛を、どうか受け取ってください」
 真っ直ぐに彼の目を見つめながら、想いを噛みしめるように言葉を紡いでいく。
「あなたのことが、どうしようもなく、好きなんです」
 困ったように眉尻を下げながら眉間に皺を寄せる顔は、なんだか泣きそうに見えた。まるで涙を隠すように、一度ギュッと固く目を閉じる。
 結局彼の閉じた瞳から涙が溢れることはなく、次に目を開いた時には、どこかすっきりとした顔になっていた。にやりと笑ったよく知る顔にホッと緊張が解けて、随分と緊張していたことをようやく自覚した。
「あーもう、お前にゃ負けたよ。だからお前を、全部、貰うことにする」
 それでいいんだろう? という問いかけに、凄く嬉しいと笑いながら頷く。
「なぁお前、今、卒論真っ盛りだよな?」
「え? ああ、まぁ、今月末提出なので」
 唐突な話題になんだろうと思いながらも正直に返せば、意外と余裕だったりする? と割とマジなトーンで尋ねられる。
「余裕、というほどではないですけど、まぁ、それなりに目処は立ってます。それが、何か?」
「ならいいか。もちろん配慮はする。もし明日使い物にならなかったら、土曜のバイトなしにするから、土曜にでも頑張って」
「それ、って……」
「今からお前の全部を俺のものにする。お前が俺のものだと、お前に刻む。そうされても、いいんだよな?」
 期待と、ほんの少しの恐怖。
 痕が残るような痛いことはあの風呂場で噛まれた時限りで、その痕ももう、注意して見なければわからない程に薄くなってしまった。彼の体に残る、彼が他の誰かのものだったことをまざまざと示す痕が、どれほどの痛みを持って刻まれたものなのかはやはり想像がつかない。痛いのはどうしたって怖い。それでも。
「うん。嬉しい。俺はあなたのものだって、俺にしっかり刻みこんで」
 おいでと促す言葉に従い、座っていた椅子から立ち上がった。

続きました→

 
 
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