草むらでキス/戸惑った表情/抱きしめる/自分からしようと思ったら奪われた

 中学生になる前は、毎年夏休みに半月ほど、母方の田舎に遊びに行っていた。毎年通っていたから、祖父母の家の近所の子供たちとも顔見知りで、滞在中は色々と遊びに誘って貰っていた。
 その子は確か自分が小学3年頃から見かけるようになったと思う。自分と同じように、夏の間だけその地へ遊びに来ていたようだった。
 すぐに自分とも周りの子供達とも打ち解けて、一緒に遊ぶようなったその子は1つか2つ年下だったせいもあってかとても小柄で、柔らかくどこか照れくさそうに笑う顔がなんとも可愛く、守ってあげたくなるような雰囲気を持っていた。
 間違いなく男の子ではあったけれど、彼に惹かれていた男子は自分の他にもたくさん居たはずだ。誰にでも優しく聡明だった彼は、もちろん女子からの受けも良かった。
 たった2週間でお別れになってしまうのが本当に悲しくて、彼が滞在する期間中ずっと遊べる地元の子たちがとても羨ましかったのを覚えている。
 あれは彼と出会って3回目の夏で、そこで夏休みを過ごした最後の年だった。
 どういう状況で彼と二人きりになったのかはもう思い出せない。
 天気の良い日で、ギラギラと輝く太陽が照りつける中、彼と二人で草原を歩いていた。暑さに加えて二人きりという状況に、テンションが上がりすぎて少しおかしくなっていたのかも知れない。
 唐突に、告白しなければという気持ちが沸き上がった。言うなら今しかないという焦燥にかられて立ち止まったものの、好きだという単語はなかなか口に出せなかった。
 突然立ち止まって黙りこくったまま動かない自分に、相手は戸惑いの表情でどうしたのと問いかける。言葉は出ないのに、焦るあまり体が動いて、気づけば相手を抱きしめていた。
 抱き返してくれたのは、具合が悪いと思ったからだろう。こちらを心配する言葉をいくつも掛けられたが、違うと首を振るので精一杯で、やはり好きだとは言えない。
 結局しばらくそうして抱き合った後、どうにも出来なくて体を離した。色濃い戸惑いに興奮と羞恥とを混ぜた様子で、頬を上気させる彼の顔はいつもと違う色気のようなものがあって、頭の中がクラクラと揺れる気がする。
 引き寄せられるように顔を近づけたら、彼の腕がスルリと首に掛かって、伸び上がってきた彼の顔がグッと近づき唇が触れた。彼から触れてこなくても、あのままなら自分から触れていただろう。
 それが自分のファーストキスであり、彼が自分にとっての初恋相手だ。
「ってこんな話、面白いか?」
「ええ。とても興味深いです。結局自分から告白できず、キスも出来ず、奪われたってあたり、先輩、あまり成長がないですよね」
「うるせぇっ。お前がバリタチってのが詐欺なんだよ」
 バイト先の後輩に、貴方が好きなんですと言われてOKしたのは、その後輩と初恋の男の子がどことなく似ていたからでもあった。男にしてはやや小柄で、笑うと可愛くて、なんとなく世話を焼きたくなる感じが似ている。
 初恋が男だったせいか、恋愛に男女のこだわりがあまりなく、男とも女とも付き合って来た。けれど基本的には可愛くて守ってやりたいタイプが好きだったので、男が相手でも抱いた経験しかなかった。だから当然、後輩のことも自分が抱く気まんまんで部屋に誘ったのに、気づいたら自分が押し倒された挙句、にっこり笑って「ごめんなさい。バリタチなんです」と来たもんだ。
 まぁ流されて抱かれてみれば、それなりに良くされてしまったというか、バリタチを公言するだけあって多分自分よりも上手いと思う。やり終えた後に、ファーストキスがいつだったかなんて事をしつこく聞いてくる、情緒のなさはどうかとも思うけれど。
「昔も今も、まごうことなく狙われてるのに、自分が食われる方だって意識がないって方がどうかと思いますけど」
「あの子が俺を食おうとしてたみたいな言い方すんな」
「当時から隙あらば食おうとしてましたよ。というか分かってないみたいですけど、その子、俺ですからね?」
「はあああっっ!?」
「うわっ、声でかいですって」
「でかくもなるわ。てかマジなのか?」
「本当ですよ。先輩、その子の名前すら覚えてないでしょ。こっちは名前ですぐわかったのに」
「あー……すまん。なんとなく似てるような気はしてた」
 言えば、調子いいこと言っちゃってと呆れた声が返された。

有坂さんにオススメのキス題。シチュ:草むら、表情:「戸惑った表情」、ポイント:「抱き締める」、「自分からしようと思ったら奪われた」です。
https://shindanmaker.com/19329

 
 
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知り合いと恋人なパラレルワールド(目次)

キャラ名ありません。全11話。
大学のサークルの先輩×後輩(視点の主)。
先輩攻ですが、先輩の方が視点の主より頭ひとつ分小さいです。
もともと二人は顔見知り程度のあまり親しくない関係ですが、二人が恋人なパラレルワールドがあり、そちらの先輩とこちらの先輩が入れ替わってしまったことで、視点の主が先輩を好きになります。
入れ替わりが戻った後、先輩と恋人になるエンド。

下記タイトルは内容に合わせた物を適当に付けてあります。
エロ描写は控えめで挿入はなしですが、それっぽいシーンが含まれるものにはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 先輩訪問
2話 パラレル世界の存在
3話 惹かれていく
4話 繋がらないメールと告白
5話 代わりでもいい(R-18)
6話 戻ってきた先輩
7話 それでも先輩が好き
8話 先輩からの話
9話 2つの世界の違い
10話 誘われる
11話 先輩と恋人(R-18)

 
 
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(攻)俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕

俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕 の攻側の話を同じお題で。

 突き上げるたびに、あっ、あっ、と溢れる吐息は甘く響いて、相変わらず随分と気持ちが良さそうだと思う。見た目や口調や振る舞いからは、真面目で堅物というイメージを抱きがちな先輩が、こんな風に男の下で蕩ける姿を、いったい何人の男が知っているんだろう?
 現在付き合っている恋人は居ないと聞いている。けれどこうして、恋人でもない自分を誘って抱かれているのだから、他にも気軽に誘って楽しむ相手がいるかもしれない。
 自分は先輩が初めての相手で、いまだ先輩以外を知らないのに。
「男ダメじゃないなら、俺で卒業してみる?」
 そう言って笑った時、先輩はかなり機嫌よく酔っていた。多分半分以上、童貞であることを揶揄われただけなんだろう。
 少しムキになった自覚はある。
 話の流れで、童貞捨てたいんすよねーなんて言ってしまったのは、先輩も童貞仲間なんだろうと勝手に思い込んでいたせいだ。真面目な先輩からは、今カノどころか元カノ関連の話が出たこともなかったから、交際未経験なんだと思っていた。
 対象が男なら今カノも元カノも話題に上らないのは仕方がないし、隠しておきたい気持ちもわかる。自分だって、男の先輩相手に童貞を捨てた事を、友人たちには隠している。
 こんな関係になった後も、一度たりとも抱かせろと言われたことはないし、童貞かどうかは結局聞けないままだけれど、あの時点で少なくとも処女ではなかった。まさかこんなエロい体をしてるなんて思っても見なかった。
「ふっ、……アァッ、そこっ……」
「センパイここ、強くされるの好きですよね」
「ん、イイ、そこっ、…ぁあ、あっ、も、……っ」
 どこが気持ちいいのか、どうすると気持ちいいのか、言葉にしてわかりやすく教えられたせいで、どこをどうすれば先輩が気持ちよくなれるのかは知っている。回数を重ねるごとに先輩はあまりあれこれ言わなくなったけれど、今はもう、先輩が漏らす吐息や短い言葉からその気持ち良さがわかるようになってしまった。
 自分なりにネットで調べてあれこれ試すこともしているが、先輩は楽しげに、俺の体で色々ためしやがってと笑う程度で、それを咎めることはしない。気持ち良ければなんでもいい。みたいなスタンスは、ありがたいようでなんだか寂しくもあった。
 自分ばかりがどんどんこの関係にのめり込んでいくのが目に見えるようで、なるべく行為に及ぶ間隔はあけるようにしているけれど、このイヤラシイ体の持ち主がその間どうしているのかを考えるのも辛い。いつ、恋人できたからこの関係はもうおしまい、と言われるかもわからないのに、恋人になってくださいなんて言って、逆に面倒だと切らえるのも怖い。
 俺のこと、どう思ってるんですか?
 聞きたいのに聞けないまま、都合の良いセフレを演じている。そんな関係への不満は少しずつたまっていた。
「そろそろイきそう?」
 良い場所をグイグイと擦れば、切羽詰まって息を乱しながらも必死に頷いている。
「ん、んっ、イ、きそ……あ、ぁぁ」
 先輩が昇りつめるのに合わせて、衝動的にその胸元に齧りついてやった。
「ぅああ、ちょっ、なに……?」
「所有印?」
「は、……なに、言って、あ、あぁっ」
 咎められそうな雰囲気を笑顔で封じながら、こちらはまだ達してないので、イッたばかりで敏感になっているその場所を、更に強めに擦りあげる。
 見下ろす先輩の胸元には赤い印がしっかりと刻まれていて、それを見ながら自分自身が昇りつめるのはいつも以上に心身ともに気持ちがよく、けれど果てた後はさすがに気まずかった。いくらなんでも痕なんて残したら怒られるに決っている。
 しかし、くったりと横たわる先輩は胸元にはっきと残っている痕に気づいていないのか、何も言わない。いつも通り、満足気な顔でうとうとと眠りかけている。
「寝ます?」
 これまたいつも通りそっと頭を撫でてやれば、ふふっと幸せそうに口元をゆるめながら、「うん」と短い応えが返った。
「鍵は新聞受けな」
「はい」
 こちらの返事にもう一度小さく頷いて、先輩はすっかり眠る体勢だ。
 あーこれ絶対痕が残っていることに気づいていない。それとも、わかっていて不問なのか?
 そうは思ったが、起こして問いただすなんて出来るはずもなく、文句を言われるにしてもこれは次回に持ち越しだ。
 衝動で付けてしまったその印を軽く指先でなぞってから、グッと拳を握りこむ。こんな目立つ場所に痕を残したことを申し訳ないと思う気持ちはあるが、後悔はあまりなかった。
 問われて咄嗟に所有印と言ったあれは本心だ。もし他の誰かにも抱かれているとしたら、その相手にこの人は俺のだと主張したいのだ。
 先輩とのこの時間を惜しむ気持ちは大きくて、終わりという言葉は怖いけれど、そろそろこの関係をはっきりさせる時期に来ているのかもしれない。先輩の穏やかな寝息を聞きながら、次回スルーで不問にしろ、咎められるにしろ、あなたが好きだと言ってみようと思った。

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俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕

 鏡の前に立ち、ため息を一つ。Tシャツの襟首ギリギリのところに、小さいとはいえない鬱血痕が残されている。
 つけられた時のチリリとした痛みを思い出して、眉間に力が入るのがわかった。所有印だなんて言って笑った相手の顔まで、一緒に思い出されてしまったからだ。
 面白半分で、付けてみたいという欲求だけで、試してみただけのくせに。
「なにが所有印だ、バカ」
 小さく毒づいてみるものの、もちろんそれを聞かせたい相手はとっくに帰宅済みで、虚しさだけが大きくなる。恋人でもない相手に、こんな痕をやすやす残させた自分が、相手以上にバカなのだ。
 友人とすら呼べるか疑問の自分たちの関係は、広義で大学の先輩と後輩だ。相手は、自分がたまたま教授の頼まれごとで大きな荷物を移動させていた時に、やはりたまたま通りがかってしまっただけの新入生で、本来なら先輩後輩としての付き合いすら生まれることのなかった相手だ。
 入学早々巻き添えを食らって肉体労働をさせられてしまった彼に、申し訳無さから学食をおごると言ったのは確かに自分だ。しかし、それで手伝いはチャラになるはずだった。まさかそのまま懐かれて、学年もサークルもバイト先もなにもかも違ってほぼ接点のない相手と、互いの部屋を行き来するほどの仲になるとは思っていなかった。
 少しお調子者でいつも笑顔を絶やさない彼は、自分なんかと付き合わなくても、友人も頼れる先輩も大勢いるはずなのに。なんとなく居心地がいいから、というなんとも曖昧な理由で、気が向くと声をかけてくる。
 あの日、なんであんな話になったのかはもう思い出せないが、自分は間違いなく酔っていた。仲の良さそうな女友達もたくさんいるくせに、実は童貞で、捨てたいけどなかなか機会もなくてなどと言い出した相手を、好奇心と揶揄い半分に誘ってしまった。酔ってはいたが、もしドン引きされて最悪この関係が切れたとしても、彼との接点がなくなって困ることはないという判断はあったと思う。
 自分の性対象が同性である事にはもう随分と前に気づいていたが、そういった人が出入りする場所や出会い系などを試す勇気はなく、同性とどうこうなる機会を持つことはなかった。つまり、自分にとってもチャンスだった。
 結果彼はその提案にのり、なんだかんだセックス込みの関係が続いている。好奇心旺盛にあれこれ試されて、こちらも充分楽しい思いをしているが、しかし真夏にがっつりキスマークなどを残されれば、さすがに溜息だって出る。
 現在恋人はいない。とは言ってあるが、実は自分もまったくの初めてだったとは言っていない。相手にしてみれば、経験豊富なお姉さんに手ほどきされて童貞喪失。というありがちな設定の、お姉さんがお兄さんになった程度の感覚なんだろう。
 性対象が同性で、しかも抱かれたい欲求に気づいてから、オナニーでは後ろの穴も使っていたから、初めてらしからぬ慣れた様子を見せたはずだ。本当はこちらもそれなりにいっぱいいっぱいだったけれど、年上としての矜持やら誘った側の責任やらもあって、余裕ぶって見せてしまった自覚はあった。
 鏡を見つつ、そっと鬱血痕に指先を這わせてみる。大きな痣のようにも見えるそれは、押した所で痛みなどはない。痛くもないのに気になってたまらないのは、襟首ギリギリで人に気付かれるかもという不安ではなく、やはり「所有印」という単語のせいだ。
 もちろん彼からの好意は感じているし、自分だって彼のことは好きだ。しかしその好意が恋愛感情かと言われると、途端に自信がなくなる。彼の気持ちもだけれど、自分の気持に対しても。やはりこの関係は、気軽な性欲発散の相手で、つまりはセフレなのだと思う。
 どんなつもりでそれを口にしたのか。彼は一体自分をどう思っているのか。多少なりとも所有したいという欲求からの言葉なのか。
 確かめてみたい気持ちもないわけではないけれど、きっと確かめることはないんだろう。

後輩側の話を読む→

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告白してきた後輩の諦めが悪くて困る

彼の恋が終わる日を待っていたの続きです。

 長いこと秘密の想いを寄せていた親友が結婚した日、後輩から告白された。高校時代に入っていた部活の、1学年下の男だ。
 ずっと好きだったと言いだした彼は、そろそろ俺のものになりませんか? などと言って笑う。
「お前、彼女いた事、あるよな?」
 確かめるように問いかける。部活終わりに何度か、彼を迎えに来ていた女の子がいたはずだ。記憶違いということはないと思う。
「ええ、いましたね」
 やはりあっさり肯定されて、揶揄われているのかと思い始めた。その矢先。
「でも彼氏が居たことだってありますよ?」
 バイなんですと躊躇いなく告げて、本気で先輩が好きですと彼は繰り返すけれど、崩れない笑顔がなんだか胡散臭い。
「あー……そう」
「そっち行っていいですか?」
「そっちって?」
「先輩の隣」
 彼は言いながら立ち上がると、机を回ってあっさり隣に腰掛ける。
「え、いやちょっと、待てって。おいっ!」
 いくら個室居酒屋で届いてない注文品がない状態とはいえ、これは明らかにおかしいだろう。けれど後輩の男は随分と楽しげだ。まるでこちらが焦るさまを楽しまれているようで不快なのに、その不快さを示す余裕すらない。
「ね、先輩」
 横から覗きこむようにグッと顔を近づけられて、思わず頭をそらしたら、後ろの壁に打ち付けてしまった。ゴツンと鈍い音が響いて、後頭部に痛みが走る。
「痛っ!」
「俺のものになってくださいよ」
 打ち付けた後頭部をなでさする間すらくれずに、再度彼はそう言ったけれど、今度は笑っては居なかった。先ほどまでの胡散臭い笑みを引っ込めて、真剣な眼差しで見つめてくる。なんだか怖いくらいだった。
「せんぱい?」
 疑問符付きの呼びかけは、返事を待っているんだろう。呆然と見つめていたことに気づいて、慌てて視線を逸らした。
「む、無理」
 だって目の前のこの男とどうこうなるだなんて考えたこともない。というよりも、誰かと恋愛しようと思ったことがない。
 本当に随分と長いこと羨望のような憧れのような愛しさを抱えて、手のかかる弟のような、そのくせいざという時は頼もしい兄のような、そんな親友の隣で過ごしてきたのだ。随分と無茶なことにも付き合わされてきたけれど、それすらたまらなく魅力的で、自分を惹きつけてやまなかった。それは互いに社会人となり、彼が結婚してしまった今現在だって変わらない。自分の中の優先順位一位は依然彼のままだった。しかも多分に恋愛的な感情も含んでいる。それがはっきりと自覚できているのに、他の誰かとお付き合いなんて出来るわけがない。
「どうして?」
「どうしてって……だって、俺の気持ちに気づいてたならわかるだろ?」
「結婚したじゃないですか」
「結婚とか、関係ない」
 もともと告げるつもりもない想いだから、これは最初から自分一人の問題だ。恋愛的な意味も含めて好きなのだと気づいてから、もう何年も経っていて、気持ちの整理はほぼ済んでいる。
 長い付き合いだから、相手のことは熟知している。想いを告げて自分に振り向かせることは可能だったかもしれない。どうすれば頷いてくれるか、多分わかっていた。けれど彼と恋人という関係になるよりも、親友という立場で居続けたかった。
 結婚して子どもが生まれて、今後は家族の時間が増えるだろうから寂しい気持ちはないわけではないけれど、結婚だってちゃんと本心から祝福している。どんな親になるのかと思うと色々不安が湧き出るけれど、その半面楽しみでもあった。 
「結婚した相手を、これからも想い続けるって意味ですか?」
「そうだよ。お前にはバカみたいな話かもしれないけど」
「そこまで想ってて、なんで、やすやす別の相手と結婚なんてされてんですか」
「別に恋人になりたかったわけじゃないから?」
「疑問符ついてますよ。てか、どうして」
「なんで、どうして、ばっかだな」
 ふふっと笑ってしまったら、あからさまにムッとされた。貼り付けたような笑みよりずっと安心感があるから不思議だと思うと同時に、どうやら少しばかり気持ちが落ち着いてきたらしいことにも気づく。
 あまりにも予想外の指摘と告白に動転しすぎていた。
「先輩が気になるようなことばっか言うからですよ」
「お前さっきあっさりバイだって宣言してたけど、俺が好きな相手が男だってわかってたから言えるんだよな? 俺に女の子の恋人ちゃんと居て、異性愛者だった場合でも告白するか?」
「恋人から奪おうとまではしませんけど、可能性が少しでもありそうなら狙いますよ」
「じゃあ性格の違いかな。可能性かなりありそうだったけど、でも俺は嫌だって思った。自分のせいであいつの未来を曲げるのは。親友って立場だけで充分なんだよ。あいつが子ども作って結婚して、はっきり言えばホッとしてるくらいだ」
「本気で、今後も別の誰かを好きになったりせず、あの人を想い続ける気でいるんですか?」
「今のところ、別にそれでいいかなと思ってる。たまにさ、好きだって言ってくれる人いるんだけど、他に特別に思う相手がはっきりいるのに、付き合えるわけないって」
 めちゃくちゃ嫌そうに顔を顰められて、やはりまた笑ってしまった。
「好きだって言ってくれてんだから、付き合えばいいじゃないですか」
「そんなの可哀想だろ。相手が」
「付き合ってみたら、そのうちなんだかんだ好きになるかもしれない。とは思わないんですか?」
「多分無理。やっぱりあいつ以上には好きになれないと思う。それくらい強烈な男なんだよ。って、お前ならわかるだろ?」
 深い溜息が吐き出されてきた。
「良くも悪くも強烈な男、ってとこには同意します」
「だろ? というわけで、お前のものにはなれないよ」
「そこまで納得したわけじゃないです」
「えっ?」
「気持ち晒した以上、今更引く気ないんで。試しにでいいんで付き合ってください。別にあの人のこと好きなままでもいいですし」
「良くないだろ」
「俺がいいって言ってるんだからいいじゃないですか。いっそあの人の代わりだって構いませんよ」
「俺が構うよ」
「でも引く気ないんで諦めてください」
 また胡散臭い微笑みを貼り付けた男の顔が近づいてくる。一応の抵抗で、その顔を押しのけようと伸ばした手は簡単にとらわれて、こぼした溜息を拾うように口付けられた。
「お前がこんな強引な男とは思ってなかった」
「今まで見せてなかっただけですよ。それに多分、間違ってないと思うんで。あなたには少し強引なくらいの相手がお似合いです」
 流されてくれていいですよ。などという言葉に頷けるわけもないけれど、入り込まれてしまったことだけははっきりとわかる。ずっと好きだったのずっとがどれほどの時間かはわからないが、今までお断りしてきた相手とは明らかに違う。
「まいったなぁ」
 こぼれ落ちたつぶやきに、相手は満足気に笑ってみせた。

 
 
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彼の恋が終わる日を待っていた

 高校の部活で知り合った先輩たちとは、大学を卒業して社会人となった今でも年に数回飲みに行く程度の付き合いが続いていて、今日は自分が高校2年の時に部長だった男の結婚式だった。
 花嫁さんのお腹の中には既に新しい命が宿っている。
 アイツが親になるなんてと、うっすら目に涙をためながら感慨深げに呟く隣の席の男は、当時副部長を務めていた新郎の親友だ。自分はこの隣の男が、ずっと新郎を想っていた事を知っている。
 応援する気などは一切なかったが、もし仮に二人の仲が友情をこえて発展したら祝ってやろう程度の思いはあった。二人とも、自分の人生においてかなりの影響を与えてくれた大事な先輩たちだからだ。
 ただ、その想いを知っている、ということすら口にしたことはない。
 一歩引いて、無関係を装って、そして機会を窺っていたのだ。二人が付き合うのなら笑ってお幸せにと言える立場を保持しつつ、内心は今日のような日を待ちわびていた。副部長だった彼はモテるくせにのらりくらりと彼女も作らず、かといって他の男と付き合うようなこともせず、そのくせ想いを遂げようとする様子もなくずっと一途に親友を演じていたから、いつかこんな日がくる可能性は高いだろうとも思っていた。

 二次会を終えた帰り際、もう1軒行きませんかと誘えば、副部長だった彼はあっさり了承する。他にも数名、同じ部活のメンバーが披露宴から参加していたが、既に家庭があったり翌日も仕事だとかで帰って行った。もちろん、そうなるだろうことは見越して誘った。
 その辺の店に入ろうとするのを阻止して、行ってみたかった店があると事前調べの雰囲気の良い個室居酒屋に連れ込み、軽いつまみと酒を頼む。ここには居ない本日の主役を祝いながらグラスを合わせれば、目の前に座った男はまた、アイツも父親になるんだなぁと呟く。
「羨ましいですか?」
「いや、羨ましいってより、純粋な感動と不安かな。だってアレが人の親とか、想像できなくて」
 部長はなかなか破天荒な男で、そんな彼をなんだかんだサポートしてきたのが目の前の男なのだから、わからないこともない。自分は高校で知り合ったが、二人は小学校からの付き合いだというし、アイツは子供の頃から変わらないというのがこの男の口癖だから、付き合いの長さの分だけ不安にもなるんだろう。
「そうじゃなくて。花嫁さんが、羨ましくはないですか?」
「は? なんで?」
 明らかな動揺に、畳み掛けるように言葉を続ける。
「部長のこと、ずっと好きでしたよね? 告白しようとは思わなかったんですか?」
「いやお前、いきなり何言いだして……」
「ずっと気になってたんですよ。部長が人の旦那になったんで、そろそろ言ってもいいかと思っただけです」
「わかんねーよ。なんで、今なんだよ。それに、アイツは腐れ縁の親友だけど、それ以上でもそれ以下でもねぇよ」
「腐れ縁の親友も、何かの拍子に恋人に進展するかもしれないじゃないですか。幼なじみの定番ですよ」
「男女の話だろ、それ」
「それだって一緒ですって。何かの拍子に同性でも恋人になるかも知れないじゃないですか。しかも片方が既に恋をしている状態なら尚更」
 男はグッと言葉に詰まる。恋などしていないと否定することはしないらしい。それとも今まで一切触れたことのない話題を投げかけたせいで、動揺してそこまで思考が巡っていないだけだろうか。その可能性が高そうだ。
「だからあなた達の関係がはっきりするまで待ってたんですよ。知られたくなかったし」
「何、を?」
「俺が、あなたの気持ちに気づいてること。それと、俺があなたを好きなこと」
「えっ……」
 さすがに予想外過ぎたようで呆然となる男に、出来る限り柔らかに笑ってみせる。
「ずっと好きでしたよ、先輩。だから、そろそろ俺のものになりませんか?」
 もちろん、嫌だと言っても逃してやる気は毛頭ないけれど。

続きました→

 
 
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