別れた男の弟が気になって仕方がない12

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 胸の苦しさも気持ちの悪い感情も悟られないように気をつけつつ、増やした指を前後させて更に中を探る。探りながらゆっくりとその場所を拡げていく。
「くっ……ぅ……ぁ゛っ……やっ、ぁ」
 全く開発されていない前立腺を捏ねられるのは苦しい様子で、時折嫌だとわかる声が混じっている。
「入り口はある程度気持ち良くなれるみたいだけど、中はまだまだキツそうだな。今触ってるのが前立腺なんだけど、ここが慣れたら、ここ弄られるだけでも射精出来るくらい気持ち良くなれる、って知識はある?」
 聞けば何度も首を縦に振るから、知識そのものはあるようだ。
「じゃあもうちょっと弄るけど、無理させたいわけじゃないから、どうしても耐えられないってなったら教えて。もう止めてって、お願い、して?」
 お願いって言われたらそれ以上はしないから、これ限定のストップワードねと告げて、相手が頷くのを待ってから再度そこを中心に触れていく。未開発なのはわかりきっていたので、同時にペニスを握って扱いてやれば、快感と苦痛とが混じって混乱した様子で、先程よりはっきり嫌だと漏らすようになった。けれど、その口からお願いという単語が告げられることはない。
 やがてペニスが十分に育ち、尖端からトロリトロリと透明な蜜を吐き出し、相変わらずヤダヤダと混じるものの苦しそうな声が甘く響くようになるのを待って、一度指を引き抜いた。
「かなり柔らかくなったし、ちょっと一回休憩しようか」
 ホッとした様子を隠しもせずこちらを窺う相手の瞳がゆらゆらと揺れている。いっぱい我慢できていい子だねと笑えばその揺れが大きくなり、自覚があるのか酷く困った様子ですぐに視線を逸らされてしまった。
 そんな戸惑いすら全てが可愛いと思うのに、可愛いねと告げてキスを降らすのを躊躇ってしまうのは何故なのだろう。彼の口から直接、叶わない想いを抱える相手がいるから代わりに抱いて欲しいとも、失恋が辛いから慰めてとも、言われたわけではないからだろうか。飽くまでもこれは、誰でもいいからとにかく早く抱いてほしいという彼の要望に、応えているだけの行為だ。
 聞いてしまえばいいのかもしれない。兄の恋人となった男を、彼もまた好きだったのだろうと、確かめてしまえばいいのかもしれない。
 なのにやはり、そこにまで踏み込むのを躊躇っていた。その事に触れたら、きっと泣かせてしまうだろう予感がしている。自分から傷を見せて辛いと泣く子をあやすのも甘やかすのも好きだけれど、自分の手で傷を抉って泣かせた相手を慰め楽しむ趣味はなかった。
「さて、じゃあ、休憩とは言ってもその状態で放置もキツいだろうし、次は一回イかせてあげような」
 これ使って気持ちよくしてあげると言いながら取り上げたのは、ペニスに装着して使用するタイプのデンタルダムだ。これを着けてやるための休憩だったといっても過言じゃない。
「ほんとに、使うんですか……」
「そりゃあ使うよ。お前これ使うのNGって言わなかったし。まぁせっかくあるんだし、色々経験しておきな」
 諦めたようにわかりましたお願いしますと言う相手に、素直でいい子と笑えば、今度は嫌そうに眉を寄せられてしまった。
「何度も言いますが、子供扱いされたくないしいい子じゃないです」
「俺も何度だって言うけど、十代なんて十分子供だしお前はいい子だよ」
 最初にいい子と告げた時から、これは何度か繰り返されたやりとりだ。
 すぐに二十歳になりますと不貞腐れたように続いたけれど、短な休憩中にほとんど萎えずにいたペニスを握ればそれ以上は口を閉ざす。ひっそりと息を呑みながら、デンタルダムを装着されるのを見守っている。
「じゃあさっきみたいに足開いて」
「えっ?」
 こちらも新しく開封したコンドームを、今度は最初から二本の指に被せながら告げれば、驚いたような声があがった。一回イかせてあげるの言葉を、フェラのみでと思っていたようだ。
「ああ、先にに少し口だけでしてあげた方がいいかな。でもイくのは前立腺弄られながらだよ」
 訂正を込めて告げながら、屹立したペニスに頭を寄せていく。
「んぁあっっ」
 ペニスだけへ、しかも薄い膜越しとはいえ多分初めてだろう口を使った刺激に、はっきりと歓喜の声があがる。
 暫くそうして口と添えた手での愛撫を施し、鋭くも甘い声を存分に上げさせてから、開かせた足の間に指先を伸ばした。
 先程たっぷり使用したローションは当然まだぬるついているし、押し当てた指先を飲み込もうとヒク付いている。口での愛撫を少し緩めて入り口に押し当てた指先をそっと揺らした。
「んっ、ふぅ……ァ……んぁっ……」
 そのまま浅い場所をクチクチとくじってやれば、甘やかな吐息がこぼれ落ちる。
「そろそろ挿れるよ。どうしても無理なら、お願い、してね」
 先程告げたストップワードはまだ有効だと知らせた後、返事は待たずに、ゆっくりと指先を埋めて行った。

続きました→

 
 
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別れた男の弟が気になって仕方がない11

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 以前と違って浅い場所ばかりを弄るわけではないので、今日は奥の方までしっかり慣らすからと断り、コンドームを一つ開けて中指に被せる。
「待って。そのまま足だけ開いてくれればいい」
 アナルを拡げるのだと理解した相手が軽く頷いて俯せるように寝返りを打とうとするのを制して、顔見ながらさせてと仰向けのまま足を開かせた。ここまでの段階で、もっとはっきり嫌悪を示されたり拒絶をされていたら、こんなやり方は選ばなかったかもしれない。けれど戸惑いは強くともこちらを受け入れようと必死な様子ばかり見てしまったら、そんな姿を余すとこなく見ていたいと思ってしまう。
 心配しなくても希望通り最後まで抱いてあげるとどれだけ伝えても、なるべく抵抗してしまわないよう、あまり否定の声を上げてしまわないようにと頑張ってしまう彼が本気で愛しかった。嫌がられながら抱く覚悟をしているのだというこちらを気遣ってくれての態度なら、優しい子だなと思う。
 もちろん、そんなこちらの欲望や、その優しさに付け込むのだということを、知らせたりはしないけれど。
 代わりに、顔を見せてと言われたせいで緊張を膨らませてしまった相手に、まずは大きく息を吸ってと声をかけた。戸惑いながらもその指示に従い、彼が息を吸っていく。
「素直でいい子。じゃ、ゆっくり吐き出して」
 それを何度か繰り返させる間にたっぷりのローションを手の上で温める。
「うん。少しは緊張解けて来たかな? 顔を見てたいってのは、こうやってお前の様子を確かめながら進めたいって意味もあるからさ。奥まで慣らすし、色々探りたいから、ゴメンな」
 そういう事かという理解に、更に相手の緊張が解けた所で、開かれた足の合間にローションで濡れた手を差し込んでいく。
「んぁっ……」
 指先を押し当てた瞬間にはやはり少しばかり身を竦ませたものの、小さく漏れた吐息は甘やかだ。
「っふ……ぁ……」
 おや? と思いながら軽く指先を揺すってやれば、ヒクヒクと蠢き吸い付くように奥へ誘われる。前はこんな反応はなかった。
「自分で弄ってるの?」
「そ、れは……」
 聞けば酷く狼狽える。こんな簡単に知られると思わなかったのかも知れない。
「咎めてないよ。むしろえらいねって思ってる。ちゃんと自分でも抱かれるための準備、してたんだな」
 この前触った時よりずっと柔らかなその場所は、加えた力のまま、ぬぷりと指先を飲み込んでいく。もちろんゆっくりとではあるけれど、押し当てた中指はあっさり根本まで飲み込まれた。
「くぅっ、んんっっ……あっ……ぁあっ……」
 一旦埋めきった中指をまたゆっくりと引き出しては埋めるという行為を何度か繰り返しながら、中を擦る時の圧をアチコチ変えて様子を探る。甘く啼くのはどうやらまだ浅い場所ばかりらしい。
 前回いたずらに弄り回したのと同じように、浅い場所ばかりクチクチと指先でくじってやれば、たまらないとこぼされる声が胸を強く揺さぶった。あの時あんなにも嫌悪を露わにしていたのに、それでも、この子にとっての性的な経験はあれだけだったのだと言わんばかりだ。
 彼が自分で弄るたびに、あの日のひと時が思い出されていたのかもしれないと考えたら、たまらなく胸が苦しくなる。
 さすがにこんなの、不意打ちすぎるだろう。
 これはマズイと内心の動揺を抑えるように、浅い場所を軽く弄る行為から、もっと奥を探り拡げる行為へと移行した。
 まずは人差し指を添えて指を二本に増やせば、若干苦しげではあるものの、しっかりと飲み込んでいく。けれど浅い場所を撫でても甘い声ばかりが漏れるわけではないから、ここでもやはり胸が締め付けられる。
 こんな形で、あの時いたずらに触れてしまった自分と向き合う羽目になるなんて。
 あの時もっと深くまで弄っていたら、指の数を増やして拡げる真似をしていたら、この子は自分でする時にもそれをなぞって自分の体を慣らしたのだろうか。今こうして触れることで、彼はそれを覚えて次に自分でする時には、今のこれを真似て自分を慰め慣らすのだろうか。
 次に抱いてくれる、誰かのために……
 そんな想像に胸に押し寄せる感情は、嫉妬と優越感の混ざった、なんとも気持ちの悪いものだった。

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別れた男の弟が気になって仕方がない10

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 ベッドの上に押し倒し、戸惑いも抵抗も飲み込むようにして、出来得る限りの優しさで無垢な体に触れる。可愛いとか、愛しいとか、いい子だとかを繰り返し伝えながら、バスローブを肌蹴て素肌の上にたくさんのキスを落とす。
 愛撫する手を振り払われることはなかったし、さっさと済ませろと急かされることもない。はっきりとそう告げたわけではないけれど、これが性欲を解消するためのセックスではないことも、こちらが彼を擬似的な恋人という扱いをして触れていることも、わかっているんだろう。
 しかし頭での理解と心や体の反応は違う。
「嫌がられながら抱く覚悟もしてるって言っただろ。無理して色々押さえ込まなくていいから。ちょっと嫌だって零したくらいで、そんな申し訳ないって顔しないの」
 しかも漏れたその声は、嫌悪より強い戸惑いからだともわかっている。反射的に飛び出るようなものに対して、いちいちシマッタなどと思う必要はないし、反射的にすら否定する言葉がこぼれないようにと、必死に口を閉ざす必要はもっとない。
「すみま、せん」
「謝らなくていいって。こっちはお前が初めてだってことも、俺を好きじゃないってことも、了承済みでこうしてる。ついでに言っとくと、とっさに手や足が出て殴られたり蹴られたりも想定してるけど、そんななってもまだ続けてってお前が思うなら、お前縛ってでも最後までしてあげるから安心して。じゃないと、なんのためにストップワードまで決めて始めたかわからないだろ」
 嫌がる相手を拘束してレイプなんて事にはまったく興奮しないけれど、そうされてまでも他者に抱かれる経験が欲しいと切望する彼に、きっと自分は興奮することが出来るだろう。
「なんで、そこまで……ああ、そうか」
 兄かと続いただろう言葉は飲み込まれてしまって音にはならなかった。音にならなかったものは、そのまま気づかなかったことにしていいだろうか。
「そうだ。さっき、そのままのお前が魅力的だって言ったろ」
 彼の兄のことは持ち出さず、けれど言葉にならなかった部分の否定はさせて貰う。元恋人の弟だから抱くのだなんて、さすがに思われたくない。それにどちらかといえば逆だろうと思う。そこを意識したら、抱けなくなってしまいそうだ。
「えっ?」
「お前がちょっとヤダとか零したくらいで、いちいち萎えたりしないし、たとえ殴られたり蹴られたりしたって、それでお前を抱けなくなったりしないくらい、お前の事が可愛く思えて仕方がないよ」
 言いながら、昂ぶりをわかりやすく相手の肌に押し付けてやる。こちらはまだバスローブをしっかり着込んだままだし、気付いていなかったんだろう。びっくりしたようで一瞬身を固めたあと、それからフイッと顔を背けてしまう。
「ズルい……」
 囁くような呟きに、そうだなとは返さずただ苦笑を噛み潰した。
 互いに一番の相手じゃなくても、他にはっきり好きな男が居るとわかっている相手とでも、セックスが出来て更には恋人にだってなれるような大人なんて、狡くて卑怯で酷いに決まっている。でもそうでなければ、二桁近く年の違う子供の無茶を受け止めた後、そのまま何事もなかったかのように放してなんてやれないだろう。
 狡くて卑怯な大人だから、彼の望みを果たすために、都合よく使われてやることが出来るのだ。
 それに気づくべきだとは思わないし、彼にはただひたすら、今のこの時間を甘やかされて過ごしてくれればいい。彼がどんな態度をとっても、何をしても、言っても、されても。行為を終えるまで優しく愛せる自信があるし、終えた後には、何もなかったかのように振る舞える自信だってあった。

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別れた男の弟が気になって仕方がない9

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 嫌悪されていると感じたらすぐにでも止めるつもりで始めたお試しのキスだったけれど、触れて感じたのは相手の必死さと拙さと、途中からは戸惑い。そして最終的には、こちらが思っていたほどの拒絶感はないらしいという安堵だ。
 最初必死にこちらのキスに応じようとしていたのは、きっと紹介した男に、キスした後でやっぱり抱けないと言われたせいなんだろう。希望通りきっちり抱いてやると宣言済みなのに。それでも、このチャンスを逃したくないのだという強い意志は伝わってきたから、無駄ではなかったかもしれないけれど。
 ただ、このキスの本来の目的はそれじゃない。だから途中で、焦らなくていいし、応じようなんて考える必要もない。それよりも自分自身の気持ちと向き合って、気持ち悪く感じないか、気持ちよくなれそうかの判断をするためのキスだよと教えた。
 言えば応じることを止めてされるがままキスを受けてくれたから、なんだかんだ素直な所も多いと思うし、もちろんそれを可愛いと感じてもいる。
 教えてから暫くは強い戸惑いを感じもしたけれど、嫌がる素振りはなかったのでそのままゆったりと相手の口内の性感を探り続ければ、やがて甘い息がこぼれだした。何度か甘えるように鼻を鳴らされ、さすがにお試しならもう十分判断が付いただろうと顔を離せば、相手はキスに没頭していたとわかるうっとり顔を、すぐさま呆然としたものへ変えた。相手自身、嫌悪感や拒絶感がもっとあるものと思っていたのかもしれない。
「キスは大丈夫そうだけど、どうしようか。このまま始めてもいいんだけど、それも何か、キスでお前の思考奪って頷かせてるみたいな感じあるしなぁ」
 自分相手でもちゃんと感じて貰えそうだという嬉しさから、少し頑張り過ぎてしまったのかもしれない。
「ちょっと落ち着くまで一人にしてあげようか? 少し休憩しながら、他にNG行為がないか考える?」
 休憩を挟んだって、こちらの気持ちが変わってやっぱり抱かないなんて事は言い出さないから安心していいとも付け加えたが、相手は小さく首を横に振ってこのまま始めて下さいと言った。声は僅かに震えていたし、呆然としていた顔はなぜか泣きそうになっている。
「本当に? 始めちゃったら俺がお前を抱くか、お前が俺に抱かれるのを諦めてストップワード口にするまで、終わらないよ? 何度も言ってるけど、本当に、焦る必要は一切ないんだからな?」
 確認の言葉にもわかってますとはっきりとした肯定が返って、腰あたりのバスローブが引っ張られるような感じがした。視線を落とせば、腰の脇部分をギュッと相手の拳が握りしめている。逃さないというようにも見えたし、行かないでくれと縋られているようにも見えた。
「わかった。じゃあ、今からお前を抱くよ」
 頷いて下がった顎を掬い上げるようにしながら唇を塞ぐ。先程のキスと変わらない手順で軽く何度か触れ合わせた後、徐々に深いものへと変えていく。けれどこれはもうお試しじゃない。
「お試しのキスはもう終わったよ。無理はしなくてもいいけど、でももし嫌じゃなければ、さっきみたいにお前も応じて?」
 やはり言われた通り素直に応じ始めた相手の舌を、慰撫するように何度か舌先で撫でたあと、絡め取って吸い上げた。

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別れた男の弟が気になって仕方がない8

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 じゃあ取り敢えずキスしてみようかと言ったら、相手に僅かな緊張が走るのがわかる。その緊張を解すように大きく息を吐きだしてから、諦めた様子で口を開いた。
「そういやあの人からも電話貰ったって言ってましたね」
 つまりなんで抱いて貰えなかったかも聞いたってことですよねと続いた言葉には、正直に聞いたよと返す。
 紹介した男は自分へ向かう好意が育ってない相手は抱かない主義だ。更に言うなら、以前は好きだと言われて誘われればそれなりに応じてもいたようだが、色々と思うところがあったようで最近は、ちゃんと互いに想い合えている相手でなければ抱かなくなった。しかし行為は基本恋人になった後とは言っていても、たびたび恋人募集中になるあたり、逆に言えばそれなりに好きと思えれば取り敢えず恋人になってしまうという事でもあるのだけれど。
 人を紹介して欲しいと最初に頼まれたあの時、もし好きになれたらそのまま付き合う気があると言ったから、初めての行為はそれなりにでも想い合えた相手と、となれるようにと思ってその人を紹介した。
 なのに、そこまでせっかちでもないはずの男が、あっさりダメだったと言って戻してきたのは、眼の前に居るこの子の方があまりにもせっかちだったせいだ。気持ちが育っても居ないのに、好きになったと嘘をついて行為をねだったせいだ。
 その嘘はキスしただけですぐにわかったと言っていた。更に言うなら、想う相手が居るようだとも言っていた。
 そう言われなければ、彼自身も兄の恋人となった男が好きなのでは、なんてことには気づかなかったかもしれない。
 きっと叶わない想いを抱いていて、代わりに他の誰かに抱かれたがっている。だとしたら、自分にはその相手は務まらない。それならそれで、もっと適任がいるはずだろう? と、暗にお前が抱いてやれと電話口で言われていた。
 一度限りの慰めを渡すような真似はもう随分と前に止めていたし、そこそこ付き合いの長いその男はそれを知っているはずなのに。いや、知っているからこそ、お前が抱いてやれとは直接言わずに居てくれたのだろう。
 その言葉がどれだけ自分の背を押したのかは定かでないが、結局、怒気を孕んだ無表情のまま、抱いて貰えなかったから他の人を紹介しろなどと言う本人を前にしたら、慰めてやりたいと思ってしまった。継続する関係など望めそうにないけれど、たとえ一度限りとわかっていても、抱いてやりたいと思ってしまった。
「でも俺、嫌だとも気持ちが悪いとも、一言だって言ってないんですよ。むしろそのまま続けて下さいってお願いしたのに」
「でもそういうのはだいたいわかるものなの。嫌がられてる事に興奮する性癖持ちならともかく、紹介したのはそれとは間逆な男だからな? 自分のことを好き好き大好き〜って思ってくれてる相手とじゃなきゃセックスしたくないって思ってるような男に、好きになったから抱いてって嘘はあまり良くなかったね」
 言えば、別に嘘ってわけじゃないですと、ムッとしたように反論される。いい人だと思ってたし、ちゃんと好きだとも思っていた、ということらしい。
「いい人だから好き、って……」
 一瞬言葉に詰まってしまったのは、あまりに子供じみた言い訳に思えてしまったからだ。
「つまりその好きは、この人とセックスしたいって好きとは、違う好きだったってことだろ」
「この人とセックスしたいと思ったから、自分から抱いてって言ったんですけど?」
「セックスしたいほど好きな人とするキスで、嫌だな、気持ち悪いなって、思うものかな?」
 言えばさすがに黙ってしまう。言い訳を探すように口元がもごもごと動くものの、言葉はなかなか出てこない。
「あのね、俺は別に俺のことを好きじゃなくても、可愛いなって思った子は抱けるけど、でも嫌だな、気持ち悪いな、って思われながら抱くのはあまり本意じゃないんだよね。俺にも、嫌がられる事に興奮する性癖はないからさ」
「俺は可愛くなんてないでしょう」
 真っ先に反応するのはそこなのか。
 やっと吐き出されてきた声は不機嫌で、若干の戸惑いが滲んでいた。やっぱ可愛いなんて言われたくなかったよなと思って、苦笑をどうにか噛み潰す。しかし一度言ってしまったからには、嫌がられようともうそれを撤回する気などない。
「可愛いよ。じゃなきゃお前を抱こうとしないよ。でもまぁ、確かに今回お前を抱くのはちょっと事情が特殊だし、何が何でも抱かれたいのがお前の一番の希望らしいから、嫌がられながら抱く覚悟もそれなりにしてる」
 きっと、そんな覚悟をしている相手に抱かれるのだとは、ちらりとも思っていなかっただろう。驚いたように目を瞠るから、今度は隠すことなく苦笑をこぼした。
「もしお前がこのまま他にNGないって言うなら、たとえ嫌がられてるってわかっても、お前がストップワードを口にするまでは、口の中を舐めて探るような深いキスも、体中の隅々まで手も口も舌も使った愛撫もする。初めてなんだから、アナルだって前回以上にじっくり本気で慣らして拡げる。でもさっきデンタルダムは使われたくないって言ったから、アナル舐めたりはしない。つまりそういう事だよ。お前がはっきり嫌なことは最初からしない。だから本当に他にNG行為がないか、しっかり考えてみて?」
 試しにキスしてみるのも構わないよと言えば、少し迷った後で、キスして下さいとお願いされた。

続きました→

 
 
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なんと恋人(男)が妹に!?

 ゆさゆさと揺すられ意識が浮上すると共に、「おにーちゃん起きて」などと耳慣れない単語と随分可愛らしい声が聞こえてくる。可愛らしいというか媚びた感じというか、つまりはわざとらしさの滲んだ声だ。
 妹なんて生まれてこの方一度だって居たことがないのに、これはいったいどういう事だろうか?
 夢の中で夢から目覚める的な状況で、ようするにこれはまだ夢の中なのかもしれない。
「おにーちゃんってば!」
 再度呼ばれて揺すられて、おにーちゃんとはやはり自分らしいと思いながらも未だ重い瞼をどうにか押し上げた。
「おはよ」
 そう言ってにこりと笑うのは恋人によく似ているが、ストレートの髪と胸元に柔らかそうな膨らみを持つ可愛らしい女性で……
 ああ、これは夢でも何でもない現実だ。
「うっわ。ちょっ、何やってんだお前」
 合鍵は渡してあるので、勝手に部屋に上がり込んでと言うつもりはないが、週末の朝っぱらから女装姿で強襲される理由がわからなくて慌ててしまう。
「あれ、もうばれた」
 そう言いつつも、相手は随分と楽しげだ。
「そりゃわかんだろ。てか何? どういう事?」
 これ何入ってんのと言いながら胸元へ伸ばした手は、おにーちゃんのエッチという言葉とともにはたき落とされ掴むことが出来なかった。まだ続くのかこの設定。
「つかホント、説明欲しんだけど」
 言いながら取り敢えず体を起こせば、同時に相手も、寝ているこちらを覗き込むように折り曲げていた腰を伸ばす。なので結局、相手を見上げる距離にそう差は出来なかった。
「さて今日は何の日でしょう?」
 そんな出題されたところで、わからないものはわからない。何かの記念日ということはないはずだ。
「あれ? わかんない?」
「わかんねぇって」
「4月1日だよ?」
「だからそれが……ってまさかエイプリルフール?」
「大当たり〜」
 にこにこ顔で返されたけれど、エイプリルフールってこういうイベントだったっけ?
「つまり、これはどんな嘘?」
「なんと恋人が妹に?」
「疑問符ついてんぞー」
「まさか妹と恋人だったなんて?」
「だから疑問符付いてるって」
 しかし妹と言い張っているだけで、恋人という事実は変わらないらしい。
「あー、つまり、禁断の近親相姦セックスプレイを楽しみましょう的な?」
 決して倦怠期ではないはずだが、いつもとは違うプレイで刺激をと言うなら、それはそれで大歓迎ですよ?
「ちっがーう。いや別にお前が俺の女装姿でも勃つってならやるのは構わないけど、そうじゃなくて」
「あ、やっていいんだ。じゃあぜひ、おにーちゃんって呼ぶのもそのままで」
 言ったら驚かれた上に若干引かれた気がする。お前が恋人って設定にしたくせに。
「まぁそれは後で楽しむとして、そうじゃなくて、何?」
「あー……だから、せっかくエイプリルフールが土曜日でお前と会えるから、何かしら言って驚かしてやりたかっただけだよ。でも何か嘘つくって考えても、嫌いになったとか別れましょうとか、万が一本気にされたらシャレにならないもんばっか浮かんでくるから発想を変えてみた」
 要するに、普段絶対やらないような事をしてみせたら驚くと思ったらしい。そりゃまぁ驚きますよね。まだ恋人になる前、女装とか意外と違和感ないっていうか似合いそうって言った時にめちゃくちゃ嫌そうにしていたから、恋人になった後も女装してみてなんて言った事なかったけど、寝起きに想像以上のもん見せられたらそりゃあ驚くし慌てるに決まってますよ。
「焦ってるお前見れたから満足した」
「そりゃ良かった。じゃ、次は俺を満足させてよ」
 どういう意味かと首を傾げる仕草も、カツラと服装のせいかいつも以上に可愛らしい。
「禁断の近親相姦プレイ」
「え、マジでやるのか?」
「やりますよ。というかお前すっかり素に戻ってるけど、裏声でおにーちゃん言うの忘れないでね?」
 逃さないよと言うように、手を伸ばして相手の手首をギュッと掴んでやった。

エイプリルフールネタを書かずに居られなかった。
次回更新(別れた男の弟が気になって仕方がないの続き)は2日の夜か3日の午前中になります。4日からはまた通常通り更新予定です。

 
 
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