兄は疲れ切っている21

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 話題になってる映画を見て食事をするという、随分とオーソドックスなデートだったけれど、兄はずっと機嫌が良かった。嫌な顔せず付き合って、なんて言うから、どこに連れて行かれるんだと思っていた分、若干拍子抜けではあったけれど、ベタなデートをしたがる事そのものをどうやら引け目に感じていたらしい。なんて、バカバカしい。
 でも、兄を初めて抱いてから先、セックス以外の誘いを一切かけてこなかったこちらが悪いのもわかっていた。可愛がって大事にするのはベッドの中だけだと言われたり、デートがしたいと言われるまで、何の疑問も持たずに、相手の体を気遣い想いを込めて抱いていれば、いつかは絆されて好きになってくれるだろうと思い込んでいたなんて。
 本気で相手を好きで、既に体の関係があって、後は心を手に入れたいと思っていたなら、相手の顔色を窺いながら週末にセックスする以外に、やれることなんてもっともっと色々あったはずだった。金銭的な余裕がなくても、抱ける機会をみすみす逃すなんて考えられなくても、ホテルとセックスを諦めて、食事なり行けばよかった。思い返せば、セックスだけが目的じゃないってわかってもらう努力なんて何もしてなかった。
 それだけじゃない。お互い仕事や学業があるとはいえ、同じ家に住んでいるのだから、その気になれば兄との時間なんていくらだって作れただろう。でもどちらかと言うと避けていた。家の中で手を出そうとして、兄を困らせる気がなかったからだ。兄の方から雄っぱいをねだりに来てくれる日もあったが、兄が唯一とろける顔を見せて甘えてくれるその時間さえ、衝動で襲ってしまわないように、ただ耐えるだけだった。
 心がほしいと思いながらも、結局のところ下半身に直結した思考と態度しか取れていなかったのだから、ベッドの中だけ可愛がるお気に入りのオモチャと認識されていたのも、今となっては納得しかない。
 
 しんみりと悲愴な気配などなく、空元気でもなく、デートの余韻を残して少し興奮気味な兄を連れて、ホテルに入れる幸せを噛みしめる。
「なんか、変な感じ、する」
 お前とホテル入るのは慣れてるはずなのにと、ふへへと照れたように笑う顔さえ、愛しくて仕方がない。
「恋人な俺とは初めてなんだから、慣れてなんかないだろ」
「それはそうなんだけど。てかお前はどうなの」
「期待と興奮でヤバイ、って感じならする」
「なんだそれ」
 やっぱり照れくさそうに笑うから、肩を抱いて引き寄せながら、ちゅ、とその唇を塞いでやった。
「だって今日の兄貴、めちゃくちゃかわいい。すげぇ嬉しい」
「あーうん、それは、ね。半分くらいは多分演技」
「えっ!?」
 本気で驚いたら可笑しそうにケラケラと笑われて心配になる。
「え、ほんとに演技? なんで?」
「ごめん嘘。めちゃくちゃ可愛いなんて言われて恥ずかしくなっただけ」
 そんなに幸せだだ漏れてる? と聞かれたから、なるほど幸せがだだ漏れている結果の可愛さらしいと思って、ますます可愛さと愛しさが増した。
「ほんっと可愛いな、今日」
「えー、もー、それはいいって。それより準備してくるから、手、離して」
「それだけど、手伝ったらダメ?」
「えっ?」
「準備、手伝いたい」
「いやいやいやいや、え、お前、さすがにそれは無理だって」
 軽く肩を抱いていただけなので、慌てたように身を捻った兄はあっさり腕の中から逃げていく。ちぇーと思いながら唇を尖らせたら、そんな顔してもダメなものはダメだぞと、何も言う前に追い打ちが掛けられた。
「じゃあせめて、慣らすのは全部俺にやらせてよ」
 どうせ慣らして拡げてローションを仕込んでから出てきたって、すぐに突っ込んだりはしないのだ。それは兄も思い知っているだろうから、それくらいならと了承されるのは早かった。

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兄は疲れ切っている20

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 好きな相手に女代わりのオモチャ扱いで抱かれているなんて思い込んで、惨めに泣く必要なんてまるでなかったのに。
 そう思わせて泣かせていたのはこちらだってことはわかっていながら、ついそう口に出してしまえば、兄の目にまたぶわっと涙が盛り上がる。慌ててゴメンと口走る中、キュッと唇を噛んで俯きながら、兄がふるふると頭を横に振った。
 抱きしめたい衝動のまま腕を伸ばす。掴んだ手を引くようにして腕の中に抱え込んでも、抵抗はされなかった。
「ねぇ、本当に、都合良くヤれるオモチャなんて思ってないし、女の代わりにしてるつもりなんてない」
 少しでも慰めになるように、想いが正しく伝わるように、なるべく優しい声音になるよう心掛けながら話し掛ける。腕の中の兄は、ん、と小さく頷いてくれたから、宥めるみたいに背を撫でながら、更に言葉を続けていく。
「好きだから抱きたいし、好きだから俺だけのものにしたかったんだよ。本当に、ただそれだけで、彼女作る気だった兄貴が俺を好きだなんて思いもよらなくて、とりあえず体だけでもって思って酷いこと言って、脅して、諦めさせて、結果、惨めな思いさせて泣かせてたのは、本当に悪かったって思ってる」
「うん」
 途中何度か小さな頷きを返してくれていたけれど、とうとう頷いた後でおずおずと抱き締め返された。甘えるみたいに擦り寄られ、胸の中に暖かな何かが広がる気がする。
 嬉しくて、愛しくて、抱き締める腕につい力を込め過ぎた。
「くる、し」
「あ、ごめん、つい」
 嬉しくてと素直にこぼせば、クスッと笑われる気配がしてホッとする。ますます嬉しくて、愛しくなる。
「できる事なら、最初からやり直したい。でもそんな都合のいい事が起こらないのもわかってるから、せめて、泣かした分の償いさせて」
 俺たちがちゃんと両想いだってわかるようなセックスをしようよって言えば、かなり迷われた後、今からするのかと確認されてしまった。声に戸惑いと不安とが滲んでいるから、さすがに肯定するのが躊躇われる。もちろん、今からしたい気持ちは強かったけれど、既に一度抱かれている兄の体はもう疲れているんだろう。
「じゃ、次、する時は、恋人同士のセックスってことで」
「こいびと、どうし……」
「え、恋人同士、でいいんだよな?」
 声だけでも酷く動揺されているのがわかって戸惑う。恋人の居ない二人の間で両想いが発覚したんだから、今後は恋人ってことでいいんだろうと思ったけれど、もしかしてダメなんだろうか。
「あの、本気で?」
 腕の中、おずおずと顔を上げた兄の顔は不安げだ。何度も泣いて赤くなった目元が痛々しいし、どことなくまだ潤んだ瞳がゆらゆらと揺れている。
「本気っていうか、何かダメ?」
「俺、お前の兄貴だけど」
「え、今更何言ってんの」
「いやそりゃ、今更は今更だけど、え、お前、本当に恋人が実の兄でも抵抗ないの?」
「え、だって、兄貴が俺を好きで、俺も兄貴が好きなんだから、恋人になれば良くない?」
 男同士で子供出来るわけじゃないんだから、血が濃いとかはあまり関係がない気がする。いやまぁ、おおっぴらに兄貴と付き合ってます、とは言わないほうがいいという認識くらいはちゃんとあるけれど。
 言えば、安堵と呆れとが混ざったみたいな顔をして、感じ入った様子で、そうか、と呟いている。
「弟が恋人です、とか、もしかして嫌? 恋人隠さなきゃいけないのが面倒、とか?」
「やじゃない。お前が隠しきれなくて、面倒なこと起こる可能性は、ちょっと、心配してる」
「それは、その、気をつける、つもり」
「うん」
「じゃあ、恋人になって?」
「うん」
 良かったぁと思いっきり安堵の息を吐けば、兄も安心した様子で笑っている。本当に、良かった。
「次回、めちゃくちゃ楽しみにしてる」
「あ、のさ、それなんだけど」
「ん、なに」
「ホテル入る前に、できれば、もうちょっとこう、あの、デート……ぽいことも、したい」
「デート!!??」
 思わず叫ぶみたいにデートという単語だけ切り取って繰り返してしまったので、慌てた様子で無理ならいいと言われたけれどそうじゃない。
「したい。する。デートする。っつっても、ホテル代すらほとんど出してもらってるのに、デート代どんだけ捻出できるかわかんね、んだけど」
「それはいいよ。でも金だすの俺だから、じゃあ、俺がしたいことに、嫌な顔せず付き合ってくれる?」
 もちろんと返せば、嬉しそうに楽しみだと言われてまたしても、本当に良かったとしみじみ思った。

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兄は疲れ切っている19

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 兄が起き上がる気配がして、何やってんのと戸惑い気味な声が掛かる。
「土下座」
「いやうん、そうじゃなくて。なんで土下座してんの、って」
「謝りたいから。てかどう償えばいいかわかんないから」
「えっ、と……ほんと、別に、謝って欲しかったわけじゃないんだけど……」
 顔上げなよと促されて素直に従えば、困惑しきった顔で兄がこちらを見下ろしていた。
「顔だけじゃなくて、体も起こしなって」
 苦笑されつつの言葉にも素直に従えば、兄の手が頭の上にぽんと乗せられて、くしゃくしゃっと数度頭を撫でたあとで離れていく。まるで慰められているみたいだった。
「あのさ、俺が勝手に惨めになってるだけで、お前が俺を大事に扱ってくれてたのはちゃんとわかってるから。お前に抱かれるの、嫌じゃないよ。大事に可愛がってもらって嬉しい気持ちだって、ちゃんとある。じゃなきゃ、こんなの続けてないって」
「違うんだって。そうじゃ、なくて」
 この申し訳無さをどう伝えればいいのかわからない。わからないなりに必死に言い募れば、兄はうんと一つ頷いて、こちらが言葉を探すのを待ってくれている。
「抱いてる最中に兄貴が時々泣いてるのが、ずっと嫌で、生理的な涙だとか言われても信じてなかったし、弟とこんな関係になったことが苦しいんだろうって思ってて、俺を好きで苦しいなんてこと、考えたことなかった」
「隠してたんだから当然だろ」
「うん、だから、なんで隠さなきゃならなかったのか、わかってなかったというか、嫌がるからあんまり言わなかったけど、俺の好き、全く本気にされてなかったのもやっと気づいたというか」
 抱きながら気持ちが昂ぶって、最中に可愛いと繰り返すことは多い。微妙な顔をしつつもはっきり嫌がることはないから繰り返してしまうのだけれど、嫌がられて言わなくなった言葉もある。
 嫌がられたのは、好きだ、の言葉だ。
 好きだと言うと泣きそうな顔でそんなことは言うなと返されていたから、弟に好きだと思われるのなんてやっぱり気持ちが悪いんだろうと思うと苦しくて、すぐにほとんど告げなくなった。けれど辛うじて女の代わりができるお気に入りのオモチャと思われていたのなら、あの泣きそうな顔の意味が全く違ってきてしまう。
「俺、ちゃんと兄貴のこと、好きって思ってる、よ」
 真剣に伝えたつもりだったけれど、兄は喜ぶ素振りなんて一切無しで微妙な顔をしているから、多分きっと困っている。
「ほんと、なんだけど」
「あー……嘘だ、とは思わないけど、でもそれ、俺がお前に抱かれてるからだよ」
「ど、ゆー意味?」
「気持ちよくセックスできる相手に情が湧いてるんだろ」
 お前が好きだったから抱かれた俺とは違うよと言われて、本当に、なんであの時、今までの報酬を体で払えなんて言ってしまったんだろうと思う。兄が自分を好きだなんて欠片も思ってなかったとは言え、好きだから他の人のものにならないでって必死にお願いしていたら、こんなに兄を苦しめることもなく、兄を自分のものに出来たかも知れないのに。
「俺だって、セックスする前から、好きだったよ」
「え?」
「本当だから。女とのごくごく普通な経験しかなかった俺が、初っ端からあんな丁寧にケツ穴拡げて前立腺探し当てて弄れたの、なんでだと思ってんの。疲れ切って雄っぱい貸してくれって甘えてくる兄貴がなんだか可愛くて、それで男同士のセックスのやり方調べてたからだよ」
 嘘だろって呆然と溢された声に、もう一度、本当だからと返した。

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兄は疲れ切っている18

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 あれはどう考えたってこちらが悪い。酔い潰して、意識がない体を弄って拡げて、力の差をチラつかせて、乱暴にされたくないだろと脅して、そうやってもぎ取っただけの合意だった。
「何が自業自得なんだよ。あれはどう考えたって俺が悪かっただろ」
「あーじゃあ、因果応報、とか、かも」
「いやそれも大差ないつーか、なんで、自分が悪かった、みたいなこと言うわけ?」
「それは、だって、先にお前を女扱いしたのこっちだし。散々お世話になっといて、他に女出来るからお前はもう用済みなって言ったみたいになったのも事実だし。お前が怒るのも当然だなって思ったし。俺には雄っぱいないから穴で返せってのも、まぁ、お前みたいな立派な胸ないの事実だしな」
 聞きながら、そういえばそんなようなことを言ったような気がする、というのを思い出す。
 胸デカイ女と付き合えそうだからお前はもう用済みだ、なんて言われたら面白くはないと言って、金が欲しいわけじゃないから今までの報酬を体で払えとも言ったんだった。
「つまり、お前が言ったことに何一つ反論できる要素がなかったんだから、お前を責めようがないだろ。確かに取った手段は褒められたもんじゃなかったけど、それだって、あの時お前が動かなかったら翌日には彼女出来てたかも知れないんだし、あのタイミングであの方法しかなかった、てのもわかる気がするから、その件を責めようとも思ってない」
 確かに言ったし、兄の言葉の意味が飲み込めなかったわけじゃない。だけど。
「あ、のさ……」
 口の中が乾いて嫌な感じがする。
「嫌がらせなんて言って悪かった、彼女できそうで焦っただけ、てので、俺の中では、それ言ったこと、ナシになってた……ん、だけ、ど」
 そうだ。自分の中では、それで終わったことになっていた。そうやって脅して、抱かれることを受け入れさせたのに、簡単な謝罪一つで帳消しになんてなるわけがないと、こうして兄自身から突きつけられるまで思い至らなかった。
「あの、だから、あんなのただの言いがかりというか、あの時は、あんたが諦めて抱かれる気になってくれるならなんだって良かったというか、その、酷いこと言って、本当に、ごめん」
「いや別に、怒ってないって。納得してるからお前を責める気はないって話なのに、なんで謝ってくるんだよ」
「だって、辛うじて女の代わりができるお気に入りのオモチャ、ってやつ、俺がそれ言ったからじゃないの? 胸弄られるのめちゃくちゃ嫌がるのも、もしかして、兄貴のない胸揉んだって楽しくないって、あの時俺が言ったからだったりするんじゃないの?」
 人の胸は揉みまくるくせにと不満に思っていたけれど、もしそれが事実なら、それこそ自業自得だ。
「だって実際、無い胸なんか揉んでもお前は楽しくないだろ? でも俺はお前に弄られたら、多分、胸だって感じるようになっちゃうからさ。そしたら余計惨めになるのわかってるし、そりゃ、嫌がるに決まってるだろ。本気で嫌がれば、お前、そこまでしつこくしてこないし」
「うん、だから、本当に、ゴメン。ごめんなさい」
 ずっと逃がすものかとでも言うように掴んだままだった兄の腕から手を離し、転がる兄の傍らに正座し、シーツに額を擦り付ける勢いで深々と頭を下げた。

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兄は疲れ切っている17

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 終わりになんかしないって言ったら、ああそう、と熱のない声が返されて兄がベッドを降りようとする。じゃあもう知らねって意味なのがすぐにわかって慌ててしまう。
「待って。どこ行くの」
「シャワー」
「やだ。待って」
 咄嗟に兄の腕を掴んでベッドの上に引き戻す。そう乱暴にしたつもりはないが、慌てて力が入りすぎたのか、勢い余って兄を引き倒してしまった。
 痛いと非難の声があがったのでゴメンとは言ったけれど、掴んだ腕は離せない。なのに何を言えばいいのかもわからない。終わりにしたいわけじゃないけど、今まで通りこのままでいい、とも思ってない。
「離せよ」
 黙り込むこちらに焦れたのか、兄の吐き出す声は苛立たしげだ。
「やだって」
「いい年して駄々っ子かよ。お前に終わる気ないなら、これ以上話してても無駄だ」
「無駄じゃない。てか俺が好きで、俺に抱かれて気持ちよくなるのが、なんで泣くほど惨めになるんだよ。そりゃ男同士だから抱かれるのが不本意って気持ちはあるだろうけど、一応毎回めちゃくちゃ大事に抱いてるし、実際気持ちよくなれてるわけだろ」
 何がそんなに惨めなのって聞けば、ほんとバカ、と兄の口から溢れた冷たい声が胸に刺さる。
「お前を好きだからだって、何回言わせりゃ気が済むんだよ」
「だーかーらー、俺を好きなら、丁寧に抱かれて気持ちよくして貰って、何が不満なの? 大事に可愛がられてて、嬉しいじゃなくて惨めだ、になる意味がわかんないんだって」
「だってお前が俺を可愛がって大事にするの、ベッドの中だけじゃねぇか」
「は?」
「お前は昔っからお気に入りの玩具だのは大事に扱うタイプだし、女関係どうだったかは知らないけど、俺の扱い見てたらだいたいわかるよ」
 女の抱き方をお前に仕込んだやつが居るだろと指摘された。力加減とか気の遣い方とか、と続いた言葉に、確かに自分の欲優先で好き勝手動いたら女の子なんてあっという間に離れてく、というのは実体験として知ってはいるなと思う。女の子の体の扱い方を教えてくれた子も、いなくはなかった。
 え、で、それがつまり?
 口には出さなかったものの、そう思ってしまったのが多分伝わってしまったんだろう。はぁああと吐き出される大きな溜息が、こちらまでなんだか苦しくさせる。
「つまり、俺はお前にとっちゃ、辛うじて女代わりになれるお気に入りの玩具、ぐらいの位置付けだろ。好きな相手にそんな扱いされてて、惨めじゃないわけないだろ」
「は? ちょ、なんで?」
「なんでってなんだ。これでわかんないなら、俺の惨めさなんか一生お前にゃわかんねぇよ」
「違っ、てか、辛うじて女代わりになれるお気に入りのオモチャ、って何? 確かに酔い潰して連れ込んでなし崩しに始めたし、最初にちょっと意地悪なことも言ったの覚えてるけど、嫌がらせって言った事は謝ったよな? 兄貴に彼女できそうで焦っただけだって。あんたを俺のものにしたいんだって、言っただろ。ん? あれ? 最初っから俺好きだったってさっき言ってた? よな? てことは、俺好きだったのに彼女作ろうとしてたの?」
 途中で気づいて後半は疑問符だらけになってしまったが、兄はやっぱり呆れた目でこちらを見上げている。
「お前を好きになったから、早めに彼女作らないとマズいって思ったんだよ。お前があれこれ文句言いながらも、俺に雄っぱい揉ませながらヨシヨシ慰めてくれるから、このままだと俺がお前を彼女代わりにしそうだって、早くお前から離れてやらないとって。雄っぱいねだられる生活から開放されて喜ぶだろうと思ったのに、ラブホ連れ込まれて突っ込まれることになるなんて、さすがに思いつけない」
 まぁ自業自得だと思ってるし別にお前を責める気はないけど、と自嘲気味に続いた言葉に思わずまた、なんで、と問いかけてしまった。

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兄は疲れ切っている16

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 どんな顔して言ってるのか確かめたかったのに、兄はこちらの手が離れたと同時に俯いてしまったらしく、強引に開放した視界に映ったのは兄の旋毛だった。もう一度頬を包んで上向かせようか迷ってやめる。また目隠しされるイタチごっこを想像してしまったからだ。
「顔、上げてよ」
「いやだ」
 代わりに言葉にして頼んでみたが、あっさり拒否され苦笑する。素直に顔を見せてくれるなんて思ってなかったけど、わかってたけど、あまりに素っ気なさすぎる。
「なんで? 見たい。てか、さっきの本心? それとも俺を満足させるための嘘?」
「本心だから、満足したなら、お前が、終わりにしろよ」
「えっ?」
「もう、いいだろ。それともまだ何か足りない?」
「いやちょっと、えっ? 何? 意味分かんないんだけど」
「何が未練になってんのか言えば多少は協力する。から、こんな関係にこれ以上執着すんなよ。意地で続けても、それに見合うほど善い思いなんかしてないだろ」
 俺が惨めに泣くの見て喜ぶ性癖とかはないみたいだし、なんて言われて、ますます何を言われているのかわからない。というか惨めで泣いてたという言葉にも衝撃を受けていた。
 やっぱり生理的な涙なんかじゃなかったんだ、という納得もなくはないけれど、それよりも、もう嫌だと言われれば止めると言っているのに、なんでこれ幸いとその提案に乗らなかったのか不思議で仕方がない。惨めに泣くようなことを、されていたって事なのに。
「待って。ちょ、ホント、意味わかんないから、待って」
 必死で言い募れば兄がゆっくりと顔を上げる。真っ赤な目が痛々しいと思いながら見つめてしまえば、困ったような苦笑とともに、脳筋、だなんて失礼な単語を小さく零された。本気で言われている意味がわかってないことに気づいたらしい。
 でもそれ以上の言葉が兄の口から漏れることはなかった。待って、という訴えを聞いて黙ってくれているんだろうか。でも黙られたら黙られたで、なんとなく焦る。
 じっくり考えたって、さっきの兄の言葉を理解できそうにないというのもある。だって本当に、何を言われているのかわからなかった。珍しく兄がその胸の内を明かしてくれている、ということだけは、なんとなく伝わっていたけれど。
「てか、結局兄貴は、この関係を止めたい、てことでいい、の?」
「お前の頭、割とポンコツだよな。本心で、お前が好きだって言ったはずなんだけど」
 自分からもう嫌だという気がない理由はわからないが、終わりにしようと言わせたがっているらしいのは、多分、間違っていないだろう。そう思って聞いたのに、兄はやっぱり呆れ気味だった。
「それ、俺が好きだから止める気ない、みたいに聞こえるんだけど」
 とうとう深い溜め息を吐かれてしまう。
「そういう意味で間違ってないけど」
「う、っそだろ」
「今更嘘言ってどうするよ」
「いやだってあんた、しょっちゅう泣いてるくせに。しかも生理的な涙とかやっぱ嘘っぱちで、俺に抱かれるのが惨めで泣くんだろ。なのに止める気ないってどんなマゾだよ」
「そんなの俺の勝手だろ。というか俺はいいの。問題はお前」
「なんでだよ。抱いてる時に泣かれんのも、自分でするっつったくせにフェラ最中に泣かれてたって知るのも、しかも理由が惨めだからとか、俺が、嫌なんだけど」
 俺が、という部分を強調した。兄が良くたって、自分は嫌なんだと訴えた。なのに。
「だから、嫌になったなら、ちゃんと自分で終わりにしろって言ってんだろ。俺はズルいから、だらだら曖昧にしてたらこのまま知らんぷりで付け込むぞ」
 協力してもいいって言ってる内に終わりにしなよと、まるで諭すみたいに言われたけれど、もちろんそうするなんて言えるわけがない。終わりにしたいわけじゃない。

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