知り合いと恋人なパラレルワールド2

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 結論から言えば、自分と先輩が恋人として付き合っているらしいパラレル世界があり、そちらの先輩とこちらの先輩がどうやら入れ替わってしまったらしい。
 なぜ入れ替わりなのかと言えば、唯一元の世界と繋がっている先輩の携帯による、向こう世界の自分情報だった。繋がっているとは言っても、現状通話は出来ないらしい。それどころか、向こうの自分とのメール以外、ほぼ全ての機能が使えないガラクタと化している。
 入れ替わり直後に自分を訪れ事が発覚した先輩はともかく、向こうへ飛んでしまった先輩は、それなりにパニックを起こしていたようだ。なぜなら、自宅の鍵が開かない上、携帯が同様に使えないガラクタと化していたからだ。
 即座に警察だとかの発想がなく、繋がらない携帯を手に、自宅前で途方に暮れていてくれたのが幸いした。
 イカレタとしか言いようのないメール内容と、全然繋がらない電話に焦れた向こうの自分が、深夜にもかかわらず先輩の暮らすアパートに押しかけたせいで、こちらの先輩は向こうの自分に保護された。さすがに目の前でやりとりした結果、向こうの自分もこの異常を受け入れたようで、混乱する先輩に事情を説明しつつ自宅へ連れ帰ったようだった。
 その後は奇妙な4人での話し合いとなった。話し合いとは言っても、当然やり取りはメールだけだ。しかも、向こうへ飛んだ先輩の携帯から、自分のアドレス宛にメールを送って貰ったりもしてみたが、それは他のアドレス宛同様、宛先不明の不着エラーが返されるとのことで、こちらの先輩と向こうの自分とだけが繋がっている。
 メールだけでチマチマと現状をやりとりするのは億劫だったが、それも仕方がない。
 結局、いくら話し合ってもわけがわからないこの状態の打開策などなく、暫く様子見ということにはなったが、それに関しても問題は山積みだ。
 向こうへ飛んだ先輩が自分の家に入れないなら、こちらへ来た先輩だって入れないに決まってる。それでも一応、確認のため先輩のアパートまで付き合って、落ち込む先輩を慰めつつ自宅へ引き返す。
 その時点でほぼ朝だった。
 怒涛の夜をこえて、二人共疲れきっている。先輩は流石に授業どころじゃないようで大学には行かないと言うし、自分も今日は午後からだったので、帰宅後ひとまず眠ることにした。
 学生の一人暮らしの部屋に、来客用の布団など存在しない。かと言って、落ち込む先輩にそこらで適当に寝て下さいとも言えず、自分だって自室の床でなど寝たくない。結果、狭いベッドに背中合わせで横になるしかなかった。
「襲わないでくださいよ」
「んな元気ねぇよ。てかそもそもお前は俺の恋人じゃないだろ」
 不機嫌そうな声が背中の向こうから返さえる。
「あ、そこちゃんと区別してくれてるんですね」
「あたり前だ。まぁ、向こうの俺の身がどうなってるかはわかったもんじゃねぇけど」
「向こうの俺って、そんな節操無く男誘うヤツなんですか?」
「まぁかなり積極的ではあったな」
「ビッチな自分とかやだなぁ」
 自分が抱かれる側というのもなんだか納得がいかない。しかも高校時代から、何度もいろんな男に抱かれる人生だったなんてゾッとする。
 先輩に抱いてくれと自分から頼んだなんて笑えない冗談にしか思えないし、それに応じた先輩にも驚きだった。今この背中の向こうにいる男は、自身より頭一つ分もデカイ男なんかに欲情出来るらしい。
「うへぇ」
 自分と先輩とのエッチを妄想しかけて思わず妙な声を漏らしてしまった。
「バカな想像してないでさっさと寝ろよ」
「頭ン中読まないでくださいよ」
「今の流れじゃわかりやすすぎんだろ。未経験のその気もない相手に、手なんか絶対出さねぇから心配すんなよ」
「心配なんてしてませんって。そんなんされたら全力で逃げますし」
「おー、そうしろそうしろ」
 投げやりに応えてから、そろそろ黙れと続けた先輩に、すみませんと返して口と目を閉じる。背中の熱はこの短いやり取りの間に既に馴染んでいて、その熱に誘われるようにして、あっという間に眠りに落ちた。

続きました→

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知り合いと恋人なパラレルワールド1

目次→

 夜も遅い時間、無遠慮に何度もチャイムを鳴らされ、若干イライラとしながら玄関先へ向かう。
「どなたですか?」
『俺だっ』
 何だコイツと思いながら、そっとドアスコープへ顔を寄せてドアの向こうを窺えば、そこに居たのは大学で自分が所属するサークルの先輩だった。
 特に親しいわけではないし、一人暮らしをしているこの家に呼んだこともない。その人がなぜ、半ば怒りを露わにしつつもドアの向こうに立っているのかわからない。
 サークルでの彼を見る限り、連絡もなく押しかけてくるようなタイプではないと思っていたのに。
 それでも相手が先輩となれば無下に追い返すわけにも行かない。
 仕方なくドアを開けば、自分よりも頭ひとつ分ほど背の低い相手は、不機嫌に自分を見上げてくる。
「こんな時間にどうしたんですか?」
「どうしただと?」
「いやあの、なんでそんな不機嫌なのか、さっぱりわからないんですが……」
「はぁあ?」
 こちらの返答は更に相手の怒りに油を注いだ様子で、相手のこめかみがピクピクと震えている。
「まぁいい、取り敢えず上がるぞ」
「え、ちょっ、」
 何勝手に上がろうとしてるんですかと言う言葉を告げる前に、先輩はこちらの体を押しのけて中に入り込んでしまう。
 いったい何が起きているのかわからない。それでも尋常ではない先輩の様子に、自分が何かやらかしたのだということだけは察知して、血の気が失せる思いだった。
「おい、何やってんだ。お前も早く来い」
 狭いキッチンを抜けて部屋の入口で振り向いた先輩が呼んだ。
「あ、は、はいっ」
 慌てて後を追えば、部屋に入った先輩は勝手知ったるとばかりに、さっさと小さなローテーブルの前に腰を下ろしている。視線で座れと促され、仕方なく先輩の対面に腰を下ろせば、先輩は自分のキーケースから鍵を一本取り出した。
「俺に無断で鍵変えたって事は、俺とは別れる、って意味だと思っていいんだな?」
「は?」
「だとしても、一言何かあってもいいんじゃないのか。今日夜に行くって連絡はしたよな。それを締め出すとか、別れの意志を示すにしたって悪意がありすぎだろう。別れたいなら、まずは自分の口でそう言えよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。さっきから何言ってるか、俺にはさっぱりわからないんですけど」
「わからない、だと?」
「ひぃっ」
 腹の底から響くような声は明らかに怒気を孕んでいて、つり上がった眉と鋭い視線が心底怖い。
「俺を揶揄ってるならいい加減にしろよ」
「揶揄ってなんかない、です」
「自分から誘って俺をその気にさせて、それで俺が本気になったらこの仕打だろ。揶揄ってないならなんなんだ。俺を翻弄して楽しいか?」
「いやいやいや。俺が誘うって何をですか。何に本気になったんですか。てかさっき別れるとかどうとか言ってましたけど、そもそも俺らにサークルの先輩後輩以外の関係って何もないですよね。先輩ウチくるの初めてじゃないですか。その鍵なんですか。俺は鍵変えてなんかないですよ」
 先輩が口を挟めない勢いでべらべらと言い募った。だって本当に何を言われているかわからない。
「は? 何とぼけたこと言ってんだ。俺たち半年前から付き合ってただろ。俺は何度もこの部屋に来てるし、この合鍵は一昨日までは確かにこの家の鍵だった」
「ないないないです。なんすかそれ。付き合うって、俺たち男同士じゃないですか」
「お前がそれを言うのかよ」
「言いますよ。そりゃ言いますって。人生初の恋人が男とか勘弁して下さいよ」
「何言ってんだお前。恋人だったかは知らないが、高校時代からいろんな男に抱かれまくってたくせに」
「はあああ? なんすかそれどこ情報ですか。ないですないですありえないっ」
「お前がそう言ったんだろ。そう言って、俺に抱いてくれって迫ったんじゃねーかよ」
「何なんですかその妄想っ!」
 もしかして自分が知らなかっただけで、かなり危ない人だったのだろうか。この人の頭は大丈夫なのかと危ぶむ中、先輩は更に恐ろしいことを口にする。
「妄想じゃねーよ。俺はお前を何度も抱いてる」
「いやいやいや。俺は先輩にも先輩以外の男にも、抱かれた経験なんて一度たりともないですからっ」
「太もも」
「は?」
「太ももに3つ並んだホクロあるだろ。後、へその真下にも」
 確かにある。しかもどちらも下着に隠れるような際どい位置だ。いや、たとえ温泉やら銭湯やらに一緒に行ったとしても、言わなければ気づかないだろう位置にそれらのホクロはある。
「なんで知って……」
「見たからに決まってんだろ」
「いつ、ですか?」
「んなのセックスの時以外ねーだろが。あんな際どい場所のホクロ、それ以外にどう気づけってんだよ」
 口ぶりから、確かに知っているのだろうと思った。思ったがまるで納得行かない。
 そんな中、先輩の携帯がメールの着信を告げて小さく震えた。それを確認する先輩の眉間に深くシワが刻まれていく。
「おい。お前のメールアドレスってこれとは別か?」
 見せられた携帯の画面はアドレス帳で、そこには自分の名前と電話番号とメールアドレスと、ご丁寧に誕生日やら好物やらまでメモされていた。
 なにこれ怖い。
 自分の携帯にはもちろん先輩のアドレスなど登録されていないし、教えた記憶も一切ない。
「おい、どうした?」
「なんで、俺のアドレスが登録されてるんですか?」
「お前と恋人関係だったからだが、正直、ちょっと俺も良くわからない」
「は?」
「今、お前からメールが来た」
「出してませんよ」
「んなの目の前にいりゃわかってる。でも、お前からメールが届いたんだ」
「それ、なんて書いてあったんですか?」
「待ってるから早く来て、だとよ」
「意味わかりません」
「俺にだってわかんねぇよ」
 不可解過ぎる現象に、先輩の怒りの勢いもどうやら削がれたようだった。
「あの、ちょっと話を一度整理してみませんか?」
「あー……そうだな。お互い言い分が違いすぎるみたいだし」
「じゃあ、取り敢えずお茶いれます。お互い少し落ち着きましょう」
「だな。よろしく頼む」
 応じる様子を見せた先輩にひとまず安堵して、隣の小さなキッチンに移動する。
 湯が沸くのを待ちながら、今日は長い夜になりそうだと思った。

続きました→

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昔好きだった男が酔い潰れた話(目次)

キャラ名ありません。全7話で短めです。
元高校同級生で部活仲間だった2人の話。視点の主は高校卒業時に相手に告白して一度振られています。
現在年齢20代半ば。
酔いつぶれた相手を連れ帰ったらなんだかんだあって最終的には恋人になります。

視点の主は180cm近く、相手は男性にしては小柄という設定で体格差あり。
ただし行為はキスまで。
相手はタチネコ両方経験ありで最後リバ発言あります。

下記タイトルは内容に合わせたものを簡単に付けてあります。

1話 飲み会
2話 連れ帰った酔っぱらい
3話 帰ってなかった
4話 告白とセックスの誘い
5話 相手の前カレ話
6話 ちょっとタチが悪い
7話 恋人になったので

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話7(終)

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 肯定を返せば喜ぶのかと思っていたが、彼はどこか困った様子で、眉間にシワを寄せたまま乾いた笑いをこぼす。しかも「バカだな」というオマケまで付いてきた。
 まさかそんな反応とは思わず、こちらの眉間にもシワが寄る。
「何が気に食わないんだ」
「わりと、なにもかもだよ」
 ふぅ、と大きくため息を吐いた後、彼はゆっくり立ち上がる。何をするのかと思えば、小さな座卓を回りこんでほぼ真横に立たれた。
 体は座卓に向いているので、首だけそちらを向けるように斜めに仰ぎ見れば、その顔を固定するように両頬を手で挟まれ、あっと思った時には唇が塞がれていた。しかもそのままぐいぐいと唇を押し付けてくる。さすがにやめろの気持ちを込めて、伸ばした腕で相手の服を掴んで引いた。
 あっさり唇が開放されてホッとする。しかしそれもつかの間で、頬に添えられていた手が肩にかかったかと思うと、思い切り体重をかけられて後ろに転がるはめになった。咄嗟に腹に力を入れたので、背中や頭を打ち付けるようなことにはならなかったが、それでも何が起きたのか頭がついていかない。混乱する中、腹の上にまたがるように座った相手を呆然と見上げるしかなかった。
「お前はちょっといろいろ誤解してるよ」
「何、を……?」
「お前と恋人になっても、楽しめないのは俺じゃなくってお前って話。今現在お前を好きって言ってるのも俺で、セックスしたいのも俺。そんな俺に付き合って、恋人になってセックスまでしてくれようとするお前が理解できないよ」
「それは、俺だってお前が、……」
「今もまだ、俺を好き?」
 一瞬言葉に詰まってしまったのは、つい数時間前までは、彼への想いは消化されきったと思っていたからだ。
「好き、……だ」
 それでもどうにかそう返す。好きだと言われて恋人の有無を聞かれたさいに、恋人になってくれと言われたらと胸が高鳴ったのも事実だからだ。
 彼がセックスなどと言い出さず、恋人になりたいと言ってくれていたら、そのまま素直に受け入れていただろう。それはやはり、自分の中に彼への想いがまだあるからだとしか言えない。
「だからさ、俺はちょっとタチが悪いってさっき言ったろ。昨夜の段階で、お前の気持ちは俺に向いてなんかなかったって知ってるよ。酔ったせいにして悪いけど、無自覚になんとなくどころじゃなく、思いっきりお前煽ったし誘ったよな。元々素養があった所にそんな真似されて、気持ちぶり返したみたいになってるだけだから。俺以外の男にそんな気になったことないお前が、俺に付き合ってこっちの世界に踏み込む必要なんてないんだよ。俺はお前と恋人になりたいわけじゃない」
 黙って聞いていたら、見下ろしてくる彼の顔がどんどん泣きそうになる。まったくバカはどっちだと思った。
「俺の気持ちを否定するなと、俺もさっき言ったはずだぞ。お前が無自覚だろうと酔った上だろうとそれこそ本気でだろうとそんなのは関係ない。誘われた結果、俺の中にお前に対する気持ちが生まれたならそれでいい。むしろタチ悪く煽った自覚があるってなら、責任持って自分から、恋人になれと言ったらどうだ?」
「じゃあ……」
「言えって」
「恋人に、なって」
「いいぞ」
 即答して笑ってやったら、ようやく相手も笑顔になってほっとする。しかしその安堵もやはり長くは続かない。
「じゃ、セックスしよっか」
「は? まさか今からか?」
「当然でしょ」
 ニヤリと笑いながら腹の上で腰を揺する。正確には下腹部で、もっと言うなら限りなく股間の上に近い場所だ。
「ちょ、待て待て待て」
「出来ないとかやりたくないとかは言わせないよ?」
「言うつもりはないがせめて日を改めて」
「ヤダ。てかなんで?」
「準備的なものが必要だろ。ほら、色々と、主に俺の知識的な方面で!」
 必死に言い募ったら、呆気にとられた顔をした後で笑い出す。
「心の準備が出来てるならそれでいーじゃん。後は経験者な俺に任せなよ」
「不安しかない」
「もしかしてセックスでイニシアチブ握りたいタイプ?」
「というより、むしろお前がそうじゃないのか?」
 付き合いの長さから言っても、今現在、人の腹の上で煽るように腰を揺するその顔の楽しげな様子から言っても、そうとしか思えない。
「あれ? わかる?」
「わかりやすすぎるくらいにな。てかお前に好き勝手されたくないから日を改めてしよう」
「やだなー何言ってんの。好き勝手したいから今すぐしようって言ってんじゃん。まぁお前初めてだし、今日今すぐお前に突っ込んだりはしないからさ」
「は? 待て待て待て。俺が突っ込まれる側とか聞いてない」
 まさに青天の霹靂だった。いっきにこの体勢に危機感を覚え始める。
「だから突っ込む側でいいってば。今日のとこは」
「今日は、って何だよ。今日は、って!!」
「お前焦りすぎて面白い」
「まじめに聞いてんだよっ。お前俺に突っ込むつもりなのか?」
「絶対嫌ってなら考慮はするけど、まぁ俺も男なんで好きな子は抱きたいよね?」
「まさか、上司の事も……?」
「あ、言ってなかったか。上司どっちかって言ったらネコの人だったんだよね」
「ネコの人?」
「抱かれる側のが好きな人。と言っても最初はそんなの知らなくて、俺が抱かれる側だったわけだけど。ってわけで、お前に抱かれることも出来るから安心して俺に任せなさいって」
 自分に体格も声も似ているらしい上司相手に抱いた経験ありと宣言されて、これはもう本気で別の覚悟が必要そうだと思った。
「さっそく後悔してる?」
 けれどそれでも、その言葉に返す言葉は決っている。

< 終 >

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話6

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 それらを指摘して、もう一度わからないと言ったら、相手は困った様子で無理だよと返す。
「だからなんで無理なんだ」
「だって、そんなの……お前が好きって言った頃の俺と、今の俺じゃ違いすぎるし」
「それを言ったら俺だって随分と変わってるはずだろう。ああ、それとも、お前は今の俺だから好きなのか」
 年に数回会うかどうかの相手だから、好きだなんて事が言えるのかもしれない。昔の記憶に少しばかり現在の情報を足しただけのイメージに好きだと言っているのなら、それも仕方がないのだろうか。
「違うっ」
 そんな思考を払うように、強い声が否定を返す。
「あの頃は男相手のどうこうを考えられなかっただけだって言ったろ。自分がそっちの側って自覚してたら、お前の告白だって受けてたよ。それで、上手くいったかは別として」
 弱々しく付け足された最後のセリフが気にかかる。
「まるで付き合っても上手く行かないみたいな言い方だな」
「行くわけ無い。そもそもお前、なんで俺に告白なんてしたんだよ。お前こそ、男なんて恋愛対象外だろ」
「確かにお前以外の男に告白したことも、告白されたこともないが、お前が好きだと思った気持ちまでお前に否定される覚えもないぞ」
「俺がそう思わせただけだ。って言ったら?」
「意味がわからない」
「自分で言うのも何だけど、俺はちょっとタチが悪い。その上司いわく、無自覚に男誘うんだってよ。言われりゃ確かにそういうとこあるかもって思うよ。俺、男友達にちやほやされんの、基本的に好きだしな」
 自嘲気味の乾いた笑いがなんだか痛々しい。
「ようするに、俺の事も無自覚に誘ってたと言いたいのか」
「そう」
「それの何が悪いんだ」
「は?」
「ようするに自覚がなかっただけで、あの当時からお前は俺を好きだった、という告白だろう?」
「はああ??」
 あまりに驚かれてこちらも驚いた。そんなに的はずれな返答をしたつもりはなかったが、相手は小さく吹き出した後、もう我慢できないと言いたげに笑い始めてしまう。
「お前のそういうとこ、ホント、好きだよ」
 斜めにポジティブでと続いたそれは褒め言葉ではなさそうだったけれど、しおしおと萎れた様子よりは笑ってくれていたほうがマシだったので黙っていた。
 やがてひとしきり笑い終わった後で、彼は酷く真剣な表情で見つめてきたから、自然とこちらも次の言葉を待って居住まいを正す。
「俺はお前が思ってるより色々問題抱えてると思うんだけど、それでも俺と恋人になってって言ったら、お前、オッケーする?」
「聞き方が卑怯だ」
「そうだね」
 あっさり肯定を返した彼は更に続ける。
「お前が恋人になってって言わない理由をあんまり聞くから、言ってみただけだもん。お前に見えないだけで、障害は俺の中にいっぱいあるって話」
「俺に見えないのはお前が話さないからだろう。お前の抱えてる問題とやらは、やはり俺には話せないのか?」
「色々ありすぎてどう話せばいいのかわかんないって。ただ、俺は自分自身の事で手一杯だから、恋人になんかなっても楽しいとは思えないよ」
 それこそセックスメインでもない限りと続けた彼は、ニヤリと笑ってセックスしてみる? と聞いた。そこに話が戻るのかと思ったら思わず溜息がこぼれ落ちる。
「ほらな。お前さっき、俺以外の男に告白したことも、男に告白されたこともないって言ってたじゃん。てか彼女いた事もあったよな。セックスは女としか経験ないんだろ? でもって俺とするつもりもない。ならそんなお前が俺と付き合って何すんの?」
「するつもりがないとは言ってない」
「溜息ついたくせに」
「そこに話が戻るのかと思っただけだ」
「何度も、恋人になれって言わない理由を繰り返し聞いてきたお前に、それ言われたくないんだけど」
 不満気に唇を尖らせる様子に、確かにそうだなとは思った。
「お前にとってセックスはどの程度重要なんだ?」
「どういう意味?」
「俺がお前とのセックスに応じたら、俺と恋人になる事に意味が見いだせるのかと」
 恋人になんかなっても楽しいとは思えない。と言った先ほどの彼の言葉が頭のなかにこびりついていた。
「楽しい事がなにもないのに、恋人になっても仕方がない。という理由なら、わからなくはないからな」
「あー……」
 彼は微妙な面持ちで、溜息にも似た声を発した後。
「セックスするかどうかはすごく重要。って言ったら、お前、俺と、セックスする?」
 恐る恐る訪ねてくるので、もちろんするときっぱり告げた。

続きました→

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話5

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 泣きそうな顔に、隠しておきたいことなのかもしれないと思う。だから無理に話す必要はないと続けたけれど、相手は緩く首を振って口を開いた。
「ちょっと手痛い失恋した、ってだけだよ」
「振られたのか?」
「簡単に言えば、そういうことだね」
「複雑に言うと?」
「もう少し正確に言うなら、付き合ってると思ってたのは俺だけで、セフレに切られたって感じ?」
「そうか」
 目の前の男とセフレという単語には確かに違和感しかないので、本気で好きだった相手からお前はセフレだったと言われて捨てられたのだとしたら、それは相当辛かっただろうとは思う。思うが、そこから彼が自分へ興味を向ける理由はやはりわからなかった。
 わからないがそれを突っ込んで聞いていいのか躊躇ってしまえば、それに気づいた様子で相手の方から口にする。
「そっからどうしてお前を好きだって話になるのか、わかんないよな」
「そうだな」
「俺はその人に本気だったつもりだけど、相手からすると俺も同じというか、相手は俺が、お前の代わりを相手にさせてると思ってたらしい」
「俺も知ってる奴なのか?」
「いや知らない。会社の上司、……だった人」
 会社の上司という単語に、頭の中で何かが引っかかった。
「あっ!……って、えっ、いやでも」
 彼が飲み会に顔を出さなくなったのはここ3年位の話で、大学卒業後暫くはまだ頻繁に顔を見せていたし、社会に出れば当然のように会社でのことも話題に上がる。
 その頃、上司がお前に似てて色々とやりやすい、というような事を言われたことがあった気がする。どの辺が似てるのか聞いたら、体格とか声とか雰囲気的なものと言われて、性格ではなく体格や声や雰囲気が似ててやりやすいの意味がわからないと思った記憶がある。
 それらを口には出さなかったのに、彼はその想像を言い当てるように肯定した。
「多分それであってる」
「お前の相手って、男……なのか?」
「この流れで女の恋人と思って聞いてたお前にビックリだよ」
「そうか。いやなんか、俺が振られたのは俺が男だからだと思ってたんだ。男も恋愛対象になるんだな」
「それもあってる。あの頃は、男は恋愛対象外だったよ。というか、男の方が好きな性癖を、まだ自覚してなかった」
「お前、男のほうが好きなのか?」
 それは衝撃の事実だった。
「そうっぽいね。ちなみに、最初にそれを意識させたのはお前」
 それは自分の告白を指しているのだろうか。聞けばあっさり、そうだと肯定が返った。
「でも、それがなくても、いつかは気づいたと思うよ。女の子と付き合ったこともあるけど、なんか違うって思ってたから。それに、決定的にしたのはお前じゃなくてその上司だし」
「その上司だが、俺に似てたから好きだったのか?」
「俺にそのつもりはなかったけど、指摘されて否定はしきれなかったかな。実際、お前に似てたから接しやすかったわけだし、それがなければそういう関係にもならなかったし。暫く飲み会に顔出さなかったのは、お前に会うの避けてたからだし」
「俺を、避けてた……?」
「そう。会うの、なんか怖かった。なんで怖かったか、今なら理由もはっきりわかるけど、その頃は無意識に避けてた感じ」
「その理由は聞いてもいいのか?」
「そんなの……だって、お前に会ってお前が好きだって気づいたら色々とまずいじゃん。それ自覚してなかったけど、相手はそういうとこも気づいてたっぽいね。だから確かに、俺は振られて落ち込む資格すらないのかもしれない」
「その上司との関係は終わったんだよな?」
「終わってるよ」
「それなら、俺に恋人になって欲しいと言わない理由は?」
「は?」
 唐突に話を戻しすぎたようで、呆気にとられた顔をする。
「その上司に似てるから俺を好きだと言ってるわけじゃないんだろう?」
「違うよっ。何言ってんだよ。ちゃんと話聞いてたのかお前」
「ちゃんと聞いてたからわからないんじゃないか。お前と俺が恋人になることの障害が見つからない」
 こちらに相手への気持ちが残っていることは見ぬかれているし、相手も自分を好きだと認めている。互いに恋人と呼ぶような相手も居ない。なのに恋人になりたいとは言わない理由が、やはり自分にはわからなかった。

続きました→

 
 
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