親友に彼女が出来たらクラスメイトに抱かれる事になった4

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 服を脱がされた後、今度は体中にキスの雨が降った。キスをされて、柔らかに歯をたてられて、舐められて。撫でられて、マッサージでもするかのように揉まれて、かと思えば指先だけがススッと肌を滑っていく。
 くすぐったかったり、恥ずかし過ぎたりで、最初は何度か嫌だと口にした。その結果、それらはどんどん気持ちが良いばかりになっていく。気持ちよくなれる場所を、気持ちよくなれるようにと触ってくれるからだ。
 そうして気持ちが良いばかりになってくると、初めくすぐったいだけだった場所も、恥ずかしくて嫌だった場所も、だんだんと慣れたり羞恥が薄れて行くようで、いつの間にか触れられても平気になっていた。それどころか、やはりそれらの場所も、彼に触れられると気持ちが良いのだ。
 正直、なんだこれ、と混乱する気持ちは強い。他人に舐め回されたり撫で回されるのが、こんなに気持ちがいいなんて知らなかった。
「気持ちが良さそうだな」
 時折彼はそう言って満足気に笑う。決して、気持ちが良いか? と尋ねることはしない。気持ちが良いことはわかっていると断定的だ。
 それに対しては、素直に気持ちが良いと返すようにしている。多分それが一番、互いにとって不満のない対応らしい。というのはこの短時間でも明白だった。
 困って口を閉ざしても、いちいち指摘されるのは恥ずかしいと訴えてみても、可愛いなと笑われてなんだか益々こちらが恥ずかしい。そして、強がって気持よくないなどと嘘をつくのは、さすがに相手の不興を買うようだった。
 言葉だけは「そうか」とそっけないのに、優しかった刺激がどんどん強い刺激になって、否応なくアンアンと喘ぐ羽目になった。ビックリして怖くなって、ヤメてヤメてと繰り返したらあっさりその手は引いたし、少し意地になったと謝られもした。そして、このままやめたほうがいいかとまで言い出した。しかしそう問われても、頷くことは出来なかった。
 やめてと言って引いてくれたことに、むしろ安堵したのもあったし、もっと気持ちよくなりたい純粋な欲求もあった。というよりも、こんな中途半端な所で放り出される方が辛いだろう。
 そんなわけで、強がるのは一度でこりた。素直にしてれば相手はとことん優しい。
 強い刺激に怖がって逃げたせいもあるのか、その後は、マッサージ的な触れ方が増えたようにも思う。可愛いなと言われながら触れられてるのに、撫でる手がまるで性感を煽らない場合もある。ただただうっとりと気持ちが良い。
 しかし、どうやらそうすることで適度に性的な興奮を散らされているらしいと気づいて、思わず問いかけた。
「もしかして、俺を抱く気、なくなってる?」
「なぜそう思う」
「キモチイイけど、エロい気持ちよさじゃないことも多いから?」
「まぁ、確かに。ただ、あまり感じさせたら逃げられるかもと思って」
「にげねーよ」
「だといいがな」
 説得力のまるでないセリフに、やはり相手も苦笑を返す。
「とりあえず、入口に触れるくらいは試してみるか?」
「い、ーよ。てか、いちいち確認すんのやめろって」
「いきなり触れたらお前は絶対逃げるから」
「断言すんな。まぁ、ビックリはするだろうけど」
「ビックリして、ヤメテって半泣きになるだろう?」
 確かに。とは思ったが肯定はしなかった。代わりに、ふと思い出して問いかける。
「そういや泣かせてやるって言ってなかった?」
「ヤメテを無視されて泣かされたいのか?」
「それはやだ。ってかどう泣かせてくれんの?」
「辛いなら泣けばいいと言ったろう。アイツに好きと言えなかった分を、俺が全部聞いてやる。程度の意味だな」
「正直、お前に触られてると、気持ちよくってふわふわして、なんかそういうのどうでも良くなってくるんだよな。あんま考えたくないけど、アイツとこういうことしてもここまで気持ちよくなれっかなとも、まぁちらっと思ったりもするしさ。ってさすがにゲンキンすぎっかな?」
「辛いという気がこれで紛れるなら、それはそれでいいと思うが……」
 なんだか珍しく歯切れが悪い。
「その程度の好きだったのかってやっぱ呆れる?」
「いや。ただ、あんまり可愛いことを言っていると、こちらも少し欲が出そうになるな。というだけだ」
「それって……」
 あ、これは踏み込んだらいけない。と思いながらも言葉はこぼれ落ちた後だった。
「お前がイヤだヤメてと言っても、強引に感じさせてしまいたくなる。って話だな」
  しかし、しれっと言ってのけた顔は平常通りで、一瞬落胆しかけた気持ちには気づかなかったことにする。
「ちょっ、ヤダって言ったらやめてくれんだろ?」
「もちろんそのつもりでいるが、気持ちよくってどうでも良くなるなんて言われたら、とことん気持ちよくさせてみたくもなるだろう?」
「ひゃぁっんんっっ」
 今まで触れてこなかった入口をつつかれ、ビックリしすぎて上げてしまった声の大きさが恥ずかしい。
「ちょっ、まって、まぁ、っやぁあ」
 入口にぴたりと押し当てられた指先をぐにぐにと動かされて、全身鳥肌が立つようだった。ぞわりとするその感覚が快感なのだと、もう知ってしまっている。
 ヤメテを無視されて、強引に気持よくされて泣かされたりするのかと怯えた一瞬後、指先はすっと離れていった。
「冗談だ。お前に拒まれたらちゃんとやめるよ。それで、どうする?」
「どうする、って?」
「お前を抱くための準備を、このまま進めてもいいのかどうか、だな」
「やだ、って言ったらこれで終わり?」
「終わってもいいが、さすがに体が辛くないか?」
「そりゃ辛いよ! めちゃくちゃ燻ってるよ。てかイかせてって言ったらイかせてくれたりすんの?」
 だってずっと、極めてしまわないように手加減されて触られている感じだったのに。特にペニスは、しっかり触れられることもあまりなかった。
「構わないぞ。口でされるのと手でされるの、どちらがいい?」
「え、俺が選ぶの?」
「俺が決めていいのか?」
「いい、よ」
 結局、亀頭を口に含まれながら手で扱かれ、あっさり彼の口の中に吐き出して終わった。口の中も他人の手も、衝撃的な気持ちよさだ。今後一人でする時には、きっと今日のことを思い出しながらしてしまうんだろう。
「もしかして飲んで欲しかったか?」
「ち、ちがうっ!」
 口の中身をティッシュに吐き出している姿をぼんやり眺めてしまったら、そんな事を言うので、慌てて否定した。
「いやなんか、本当に、お前の口に出したんだ、って思って……」
「居たたまれないか?」
「ん? んー……なんか、色々びっくりしてんだよな。お前の口でイッたこともだけど、なんつーか、他のこともさ、なんか夢でも見てたみたいっつーか」
 コイツに触れられてあんなに気持ちよかったことが、終わってしまえばなんだか酷く現実感がない。
「忘れたかったら忘れていいぞ」
「へっ?」
「元々がお前の弱みに付け込んだようなものだし、俺なりに充分楽しませてもらったからな。出してスッキリして考えたら、今日のことなんかお前にとっては黒歴史でしかないだろう?」
「そんなこと、ない」
「そうか」
「てか、本当にこれで終わり?」
「どういう意味だ?」
「だってお前、抱くどころかイッてもない。俺だけが気持ちよかった」
「楽しんだ、と言ったろう。お前の反応はいちいち可愛かった。それにキスも、人に触れられるのも、初めてだったんだろう?」
「そー、だけど」
「充分だ。しかしもしお前がどうしても不満だというなら、俺にも触るか?」
 お前が手で握って扱いて俺がイッたら満足するのかと問われて、そうすることを想像してみる。そんなことはまるで考えていなかったからだ。
「うん、じゃあ、する」
「冗談だ。しなくていい」
「なんでだよっ!」
「お前がどうしてもしてみたいというならともかく、そういうわけでもなさそうだからだ。自分だけが気持よくなって申し訳ない、なんて思う必要はない。気になるなら、今日のことは全部忘れてしまえ」
「お前、本当にそれでいいの?」
 構わないと返された声は何の未練も含まないいつも通りの声音で、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。

続きました→

 
 
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親友に彼女が出来たらクラスメイトに抱かれる事になった3

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 めいっぱい優しくしてやるの言葉通り、抱きしめられて、頭や背中を撫でられて、目とか鼻とか頬とか耳とか首筋に軽いキスの雨が降る。やがてそれが唇の端に落ちて、次は唇へ。相手が様子をうかがうように酷くゆっくりと唇を寄せてくるのを黙って待った。
 親友にふざけて頬にキスされたことはあっても、さすがに唇を触れ合わせたことはないから、実質ファーストキスである。まさか相手がコイツになるとは、つい先日まで欠片ほども思っていなかった。
 しかもこの後このまま抱かれる予定だなんて、本当に思い切ったことをしている。
 好きで好きでたまらなくて、けれどそれを伝えられなかった親友は、今は可愛らしい彼女が居て、親友という立場は以前と変わらないのに、やっぱり寂しくて、なおさら言えなくなった想いを抱え続けるのは苦しかった。そこにふらりと現れて、辛いなら泣けばいい泣かせてやるからと言った目の前の男に、興味を持ってしまった。
 抱かれることが条件だなんて言われて一度は断ったのに、結局、自分から近づいてしまったほどに。
「口を開けられるか?」
 優しく繰り返されるキスを受けながらも、つらつらとなぜこんな状況に自分がいるのかを再確認していたら、そんな問いかけが耳に届いた。
 黙って頷き顎の力を抜いて緩く唇を解く。再び覆われた唇の隙間に、相手の舌が入り込んでくるのを受け入れる。
 他人に口の中を舐められるというのに、気持ちが悪いとは感じなかった。それどころか、舌先が口内のあちこちをかするたびに、ぞわりと鳥肌が立つような感じがして、下腹部に熱が集まる気がする。
 恋人同士がチュッチュチュッチュやらかすのも納得の気持ちよさだった。好きな相手とならもっと気持ちがいいのかな、だなんて、一瞬過った考えを振り払う。本当に好きな相手にはしてもらえないから、だなんて考えは自分を惨めにするだけだ。
 それよりも、目の前の相手のことを考えようと思った。深いキスをされても平気なくらい、自分はすでに相手を認めているし受け入れているのだ。キスだけでこんなに気持ちがいいのだから、体の相性が良いとかいうやつかもしれない。
 たんに相手が上手いだけかもしれないけれど、なんにしたって、声をかけてくれたのがコイツで良かったとは思う。だって酷く軽いノリで抱かれろと言ったわりに、本気で優しい。こちらを気遣い甘やかそうとする気配が強く伝わってくる。本気で嫌だって言ったら、きっと途中でやめてくれるんだろうという安心感がある。
 なんでこんなに優しくしてくれようとするんだろう?
 しかしそれを口に出して問うことは出来そうにない。ヤレる相手にはとことん優しくするというタイプの男もいるようだけれど、もし万が一好きだからだなんて返されてしまったらきっと困るのは自分だ。
 突き詰めたらいけない。
 抱かれることを受け入れたのだから、気持ち良くさせてもらう権利がある。優しくしてもらう権利がある。そう思ってもいいんだろうか?
 頭のなかはグルグルと色々なことが巡るが、もちろんそれらと真剣に向き合い考えるような余裕はなかった。むしろだんだんと思考が細切れになって、混ざり合って、逆に何も考えられなくなる。
 口の中がじんわりとしびれるように気持ちがいい。
「ふ……っ、ぁ……んんっ」
 合間に吐き出す自分の息の、いやらしい響きに益々煽られるようだった。
「気持ちが良さそうだな」
「うん」
 素直に頷いたら柔らかに笑われた。表情の読みにくい相手ではあるが、からかう要素がないのは気配でわかる。むしろ嬉しそうですらある。
「もっと、して?」
 気のせいでなければいいなと思いながら、自ら誘いをかければ、すぐにまた唇を塞がれた。けれど深いものへはならず、軽く唇を吸い上げられただけで離れてしまう。
「服を脱がすがいいか?」
「いいよ。だから、」
 告げるきる前に、今度はしっかり深く口付けられた。

続きました→

 
 
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親友に彼女が出来たらクラスメイトに抱かれる事になった2

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 共働きで親の帰宅はいつも遅いという相手の家にあがりこみ、さすがに緊張しつつ並んでベッドに腰掛ける。
「無理強いする気はない。嫌だ、と思ったら言葉でも態度でもいいから、わかりやすく示せよ」
「わかった」
「緊張してるな」
「そりゃあね」
「いや、可愛くていい」
「ばかじゃねーの」
「お前は可愛いよ。少なくとも、俺にとっては」
 じゃなきゃこんな風に誘わないとは言われたが、素直に受け取るには恥ずかしすぎる。
「サービストーク?」
「そういう事にしておいたほうがいいなら」
「だって、アイツが俺にくれないものを、代わりにお前がくれるんだろう?」
「確かに。しかし、その場合、アイツに可愛いと言われたかったって事になるぞ?」
「そうだね。言われたかった、かな?」
「ならいくらでも言ってやるが」
 しごく真面目な顔で、お前は可愛いと繰り返されてさすがに笑った。
「どうなんだろ。友達としてでなく好きって言いたかった。くらいしかわからないや」
「いくらでも言えばいい。なんならアイツの名を呼んだっていい」
「お前に色々されながら、アイツを呼べって?」
「ああ」
「無理だって。あんまそういうこと考えないようにしてたけど、どっちかって言ったら、その場合は俺が抱く方だって気がするし」
「そんなことないだろう。アイツは小柄で童顔かもしれんが、中身は凄く男らしいじゃないか」
「うん。てかお前、けっこうちゃんとわかってんのな」
「一応中学から知ってるからな。お前ら二人はその頃からけっこう目立ってたし」
「お前の見立てだと、もしアイツと俺がそういう関係になったとして、その場合は俺が抱かれる側っぽかったりする?」
 うなずかれて、そっかと返した。だから抱かれるのが最低条件だなんて言い出したんだろうか?
「というか、そういう想像をしたことがないとは思わなかったんだが……」
 少し迷うような素振りを見せたので、なんとなく、その想像は当たりな気がした。
「でも、自覚がまったくなかったってだけで、お前に抱かれてもいいかなって思ったってことは、やっぱり多少はそういう願望があったって事じゃねーかな?」
「だといいんだがな」
「怖気づいたならやめとく?」
「やめるわけがないだろう。ただ少し、慎重にはなるな」
「だからまったく初心者だって言ったのに」
「さすがに頭の中までまったくの初心者とは思わないだろうが」
 男に抱かれるということを、どこまで具体的に想像したことがあるかと聞かれて、ケツ穴に突っ込むってことは知ってるよと返す。
「もう一度言うぞ。嫌だ、と思ったらすぐにちゃんと知らせろよ」
「わかったって」
 不満を示すように少し口を尖らせたら苦笑されたけれど、一応困り顔なのに、なんだか優しさがにじみ出ているようでドキリとした。
「てかそんな凄いことすんの?」
「なるべくしない」
 聞いたらそんな返答の後、ふわりと抱きしめられる。そのまま耳元で本当に可愛いなと囁かれて、ドキドキが加速していく。

続きました→

 
 
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親友に彼女が出来たらクラスメイトに抱かれる事になった

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 幼なじみの親友を、どうやら恋愛的な意味を含んで好きなのだと気づいたのは、もう随分と前のことだ。知られたら友人関係も終わってしまうと思って必死に隠す自分に、彼はいつだって無邪気に飛びついてくる。ふざけて頬へキスをする。躊躇いなく大好きと笑う。
 付き合いの長さから、それらに友情以上の想いなどないことはわかっていたのに、それでもやはり期待はした。いつか、同じ想いで向かい合えたらと願っていた。
 そんな親友に彼女が出来たのは高校2年の終わり頃だ。小柄で笑顔の可愛らしい彼女は、同じく男にしてはやや小柄で童顔の彼とは、はためにも似合いのカップルだった。
 内心落胆してはいたが、表面的には祝福もしたし、彼らの恋が上手くいくよう応援もした。
 期待は所詮願いでしかなく、親友という立場をなくしたわけではないのだからと、自らを納得させるしかない。けれど時折やはり胸が痛んで、彼の隣で幸せそうに笑っている彼女を見るたび、泣きたいような不安に襲われる。
 そんな自分に気づいて声をかけてきたのは、同じ中学出身で現在もクラスメイトではあるが、特に普段から親しくしてはいない男だった。顔と名前には多少馴染みがある程度の仲だ。
「やらせるなら慰めてやるが?」
 その言葉の意味を、最初はまるで理解できなかった。
「アイツを本気で好きだったくせに、友人でいることを選んだのはお前自身だろう」
 疑問符のない断定に、知られているならと頷いた。
「そうだよ。でもっ」
「そんな顔をするくらいなら、泣けばいいじゃないか」
「いい年した男がそう簡単に泣けるかよ」
「だから泣かせてやるって言ってる。アイツがお前に与えてくれなかったものを、俺が代わりに与えてやる」
「なんで?」
「ただでとは言ってない。お前が俺に抱かれるなら、というのが最低条件だ」
「ヤリ目的かよっ!」
「まぁ間違ってはないな」
「断る」
「そうか。ではもしその気になったら声をかけてくれ」
 男相手に悪びれもせずヤリ目的で優しくしてやると豪語する割に、口調も態度も淡々とした変なヤツだと思った。普段交流がないので、まったく知らなかった。
 その場は相手があっさり引いたけれど、そのやりとりが心にずっと引っかかっている。そして結局、自分から声をかけてしまった。
「後腐れなく一回だけ、とかでも優しくしてくれんの?」
「構わない」
「あと俺、まったく初心者だけど」
「まぁそうだろうな」
「入るかな?」
「むりやりねじ込んだりはしないから心配するな」
「でもそれだと、お前の言う最低条件がクリアできない」
「抱く、というのは突っ込む行為だけをさすわけじゃないだろう」
「そうなの?」
「そうだ。だからそんな顔をするな。お望み通り、めいっぱい優しくしてやる」
 ふわっと頭に乗せられた手が、あやすように頭を撫でつつ髪をすく。指先が頭皮をすべる感触に、ゾクリと背筋を走る快感のようなもの。
「ぁっ……」
 小さく漏れた吐息は、すでになんだかイヤラシイ響きをしていた。

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はっかの味を舌でころがして

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 生まれた時から同じマンションのお隣さんとして育って15年。
 生まれ月の関係で自分より1学年上の幼なじみは、この春から通学時間1時間弱の私立高校へ通っている。
 幼稚園に入る時は親が3年保育というのに入れてくれたので入園が同時だったが、幼なじみが小学校に上がる時はそりゃあもう盛大に泣いて怒った記憶がある。
 中学の時も、さすがに泣きはしなかったがやはり納得は行かなかった。だって3ヶ月だ。3ヶ月しか違わないのに離れ離れだなんて。小学校と中学校は隣り合っていたけれど、そこには簡単には越えられない、見えない壁が確実に存在している。
 しかも中学へ入学したら部活動なんてものが始まって、帰宅が随分と遅くなった。追いかけるように1年後に同じ部活に入部したら、規律がどうだの示しがつかないだので先輩と呼ばなければならなくなった。
 部活なんてやめてしまおうかとも思ったが、少しでも長く放課後一緒に居たい気持ちから続けてしまった部活は、3年が引退した昨年秋から部長を任された。同じく部長だった彼から引き継ぐのだと思えば、誇らしくはあったのだけれど、やはり先を行かれる悔しさと寂しさと腹立たしさは変わらない。
 滑り止めで近所の公立高校を受験したことも当然知っていて、本命の遠い私立高校なんて落ちてしまえと本気で願っていた数ヶ月前の自分があまりに腹黒く思えて、それからなんだか少しおかしい。彼を真っ直ぐに見れなくなって、なんとなく避けてしまうようになった。といっても、どうせ通学に1時間掛ける彼との接点は、この春からほぼないに等しいのだけれど。

 午前中だけの部活を終えて帰宅した休日の午後、ベッドの上に寝転がりながらイヤホンで音楽を聞いているうちに、どうやらウトウトと寝落ちしていた。
 ぼんやりと意識が浮上して、目を開けた先に見えた頭髪に心臓が跳ねる。自分が彼を見間違うはずもない。
 一気に覚醒してガバリと起き上がれば、ベッドに寄りかかるようにして本を読んでいた彼が振り向き、柔らかに笑って、多分おはようと言った。
「なんで居んだよっ!」
 装着しっぱなしだったイヤホンを毟り取りながら叫ぶように告げれば、柔らかな笑顔が少し困ったような苦笑に変わる。
「今日うち、母さん出かけててさ。夕飯、こっちで食べさせてくれるって言うからお邪魔してる。お前とも久々にゆっくり話でもと思って早めに来たけど、寝てるの起こすのも悪いと思って。でも却って驚かせたよな」
 ゴメンなと謝られても、どう返していいかわからなかった。わからないから無言のまま、ただ見つめ合うのすら居た堪れなくて、そっと視線をそらす。
「なぁ、……」
「なんだよ」
「何でもない。やっぱいい」
 呼びかけの声までは無視できずに返事をすれば、躊躇う様子の後で撤回された。
「なんだよ。気になるだろ。言えよ」
「あー……と、そう、飴食べない?」
 絶対に最初の話題とは違うと思ったが、更に食い下がるのも面倒になってその話題に乗ることにする。
「何味?」
「ミント」
「貰う」
「じゃあ、はい」
 言いながら差し出された舌の上には、半透明の小さな丸い固体が乗っていた。
「は? ふざけんな」
「冗談だって」
「で? 俺の分は?」
「ごめん。ない」
「なんなんだよお前」
「うん。本当、ゴメン」
 ちょうど暮れてゆく空に、この短い時間で部屋の中もだんだんと薄暗くなっていく中、困り顔の笑みを貼り付けたままの彼が泣いているようにも見えてドキリとする。
「なんか、あったんかよ」
「やっぱりわかる?」
「だってお前おかしいもん」
「お前もここんとこ十分おかしいけどな」
 長い溜息を吐きながら、彼は上半身ごと振り向いていた体を戻して、疲れたようにベッドの縁により掛かった。仕方なく、自分もベッドを降りてその隣に座り込み、同じようにベッドの縁に背を預けた。
「で、何があったって?」
 高校馴染めてないのかと聞いたら、そういうんじゃなくてと言いながらもう一つ溜息が落ちる。
「ずっと好きな子が居るんだけどさぁ、なんかちょっと最近避けられちゃってて。何が原因なのか、思い当たることありすぎてわかんないんだよね」
 まさかの恋愛相談に、呆気にとられつつその横顔をまじまじと眺めみてしまう。見られていることに気づいてか、それとも初めてともいえる恋愛相談が気恥ずかしいのか、その頬にうっすらと赤みがさしていくのがわかった。
「見てないでなんか言えよ」
 視線から逃げるようにフイと顔を逸らされる。
「いやだって、恋愛相談とか無理だって。好きとかわかんねーもん俺」
「好きな子、いないの?」
 驚いた様子で逸らしていた顔を向けられたが、そこまで驚かれることに驚いた。彼の恋愛相談を受けるのも初めてだが、自分が恋愛相談を持ちかけたことだって一度たりともないのだから。
「女と遊び行きたいとか思ったことねぇよ」
 アイドルの誰がいいとか、何組の誰それが可愛いとか、適当に話を合わせる程度のことはしても、本気で誰かと交際をしたいと思ったことなんてない。楽しそうだなんて欠片も思わないどころか、面倒そうだとしか思えないのだ。
「俺のことは?」
「は?」
「お前、俺にはけっこう執着してたじゃん」
「執着っつーか、だって悔しいだろ。たった3ヶ月しか違わねぇのに、なんで学年違ってんだよ。家じゃ普通にタメ口聞いてんのに、学校じゃ後輩としての立場わきまえろとか言われんの最悪」
「学年の違いは仕方ないだろ。てかさっきの質問の答えは?」
「さっきのって?」
「俺のことは好きか嫌いか」
「嫌いな奴の親友なんかやるかよ」
「でもお前、俺のこと避けてんじゃん。親友とか言うなら避ける前にやることあるだろ。俺に気に入らないことがあるならちゃんと言えよ」
「いや、それは、別にお前が気に入らないとかじゃなくて」
「高校もさ、またしばらく拗ねてむくれて暇を見つけては押しかけてくるみたいな事になるのかなって思ってたんだよ。俺が中学あがった最初の頃、お前、俺が学校帰ってくるの家の前で待ってたりしたよな」
「3年経てば成長もすんだよ。てかちょっと待て。お前好きな子に避けられてって、それ、まさか俺のことじゃ……」
「うん」
「えっ、てかええっ??」
 驚きすぎて続く言葉が浮かばないまま、結局相手を凝視する。彼はゴメンと言いながら引き寄せた膝に顔を埋めてしまった。
「じゃあなんで、遠い私立とか受験したんだよ。すぐそこの公立で良かったろ」
「先のこととか親の期待とか、こっちだって色々あんだよ。それでお前に避けられる事になるなんて思ってなかったし。てかこうなるのわかってたら、もっと真剣に近くの公立に通うことだって考えたよ。というか、お前が俺を避ける原因は、やっぱり俺の進学先ってことでいいのか?」
 お前がおかしくなったの俺が今の高校合格した時からだもんな、と続いた言葉に、慌てて違うと否定する。
「いやぜんぜん違うってわけでもねぇけど。でも原因はお前じゃなくて俺にあるっつーか」
「じゃあ、それって何?」
 お前が受験勉強していた頃、毎日落ちろと願ってた。などという黒い過去を晒せというのか。
 言えずに口ごもっていたら深い溜息が聞こえてきた。相変わらず顔は膝に埋まっていて、その表情はわからない。
 同じように深い溜息を吐き出して、それから仕方がないなと口を開いた。
「私立高校なんか落ちて、滑り止めだっつー近所の公立通うことになりゃいいのに。ってずっと思ってたんだよ。なんつーか、そりゃもう、呪いってレベルで。でも本命受かって喜んでるお前見てたら、お前の不幸をずっと望んでた自分が嫌になったっつーか、お前に合わせる顔がないっつーか、まぁ、そんな理由」
 やはり呆れただろうか。反応がなく黙り込まれてしまうと、気まずさでなんだか気持ちが焦る。
「悪かったとは思ってる。あー……その、今更だけど、高校合格おめでとう。いやむしろありがとう?」
「なんだそれ」
 小さく吹き出す気配にあからさまにホッとした。
「いやもしあれでお前が本当に落ちてたら、俺の罪悪感今の比じゃねぇだろなぁって」
「お前は単純に喜びそうな気もするけど」
 ようやく顔を上げた彼はよく知る穏やかな笑みを見せている。
「いやいやいや。俺が呪ったせいでお前の人生狂わせた。って気づいた時がヤバいんだって」
「ああ、なるほど。じゃあこれからがヤバいな、お前」
「なんでだよ」
 ヤバくならなくてよかった、という話をしていたはずだ。なのに酷く真剣に見つめられながらそんなことを言われると不安になる。
「俺の人生、お前に呪われてとっくに狂ってるんだけど。って事」
「はあああ?」
「ずっと好きな子が居るって言ったろ。それがお前って事も。お前に呪われた結果じゃないのか、これは」
「呪ってねぇし!」
「学年の違うお前が、俺と同じじゃないって泣いて暴れて拗ねるあれは、呪いみたいなもんだったって」
「泣いて暴れたのはお前が小学校あがった時くらいだろ!」
「でも春になるとだいたいお前は機嫌が悪い」
「それは、だって」
 学年が上がるたびに思い知らされるようで、確かに4月は好きじゃない。
「お前のせいでお前好きになったんだから責任取れよ」
「責任、って?」
「俺を、好きになって」
「嫌ってねぇって」
「そうじゃなくて。恋愛対象として」
「だからそういうの良くわかんねぇんだって」
「わかんねぇじゃなくて自覚しろって言ってんの。お前の俺への執着、それもうホント、普通の友情と違うから。考えてみろよ。俺以外にだって普通に仲の良い友達居るだろ?」
「そりゃいるけど、お前は特別で、だから親友なんだろ」
「もしお前が今後も親友だって言い張るなら、俺はお前を諦めて、彼女か彼氏かわからないけど恋人作るよ?」
 言われて初めて、彼に恋人という存在がいる状態を想像した。確かに嫌だ。絶対に嫌だ。彼と隣り合って歩くただの友人にすら、学年が同じならその場所は絶対に俺のものなのにと思うくらいなのだから、我が物顔で彼を自分のものと主張する恋人が出現したら自分がどうなるかわからない。
「えー……ええー」
 けれどだからといって、即、彼を恋愛対象として好きだと思えるかは別だ。というか本当に、恋をするという気持ちが良くわからない。
「本当はさ、いつかお前から告ってくるだろって思ってたんだよね。なのになにこれ。大誤算もいいとこだよ」
 あーあと嘆きながらも、先程までの悲壮感は欠片もない。彼が穏やかに笑っていると、それだけで安心するのは、きっと長い時間をかけてそう学習してきたからだ。この顔の時は平気、という根拠のあまり無い自信のようなもの。
「それ、俺が悪いのか?」
「どうだろ。まぁきっかけにはなったよな」
 避けられなきゃ待つつもりだったと彼は続けた。
「ならもう少し待ってくれよ」
「いつまで?」
「俺が好きって気持ちをわかるまで?」
「いやだから、そこが想定外だったんだよ。自覚ないとか思ってなかった」
「待てねぇの?」
「自信揺らいだからあんま待ちたくない」
「俺がお前を好きなはずだって?」
「そーだよ。でも揺らいだ。このままのんびり余裕かまして待ってたら、お前が自覚した時、その好きって気持ちの向かう先が俺じゃない可能性高そうでやだ」
「だってなぁ~……」
 好きって気持ちはいつかこれはって女に対して湧いてくるのだろうと、漠然と思っていた節はある。それに彼とはずっと親友で居たいという気持ちも根強く残っている気もする。彼に恋人ができるくらいなら自分が恋人になってもいいという気持ちもないわけではないが、恋人なんかになってしまってその後破局したらどうするんだ。
 今までの関係を変えるというのはやはり勇気と覚悟が必要で、そのどちらも自分は所持していない。
「お前さ、俺とキスできそう?」
 グダグダと迷っていたら唐突な質問で面食らう。
「キスできたら、もう少しお前信じて待ってもいい。無理だっつーならやっぱりお前を諦めることも考えるよ」
 人生の修正がききそうなうちに。なんて続けられて、先程、お前の呪いで人生狂ったと言われたことを思い出す。
「人生修正きくってなら、キスなんてしてる場合じゃねぇんじゃね?」
「ああうんそうだな。わかった。お前のことは諦める」
 怒らせた。というのがわかって焦る。
「待って。待って。ゴメン。今のは俺が悪かったから、俺のこと諦めないで。てか恋人作ったりしないで」
「俺に好きとも言えないくせに? キス一つ出来ないくせに?」
 冷たく響く声に、ああこれは本当に猶予がないと知らされる。だから相手の体を引き寄せて、ままよとその唇に自らの唇を押し付けた。
 これしか現状を維持する方法がわからない。触れてしまったら現状維持と呼べるのかはともかくとして、少なくとも彼への答えは少しだけ先延ばしにできるだろう。
「これで、もう少しは待ってくれんだよな?」
「そうだね。お前はもうちょっと色々しっかり考えた方がいい。でも俺だって俺の人生があるんだから、そんなに気長に待ってられないってのは覚えとけよ」
 わかった。とは言えなかった。
 お返しとばかりに引き寄せられて唇を塞がれたからだ。しかも先ほどのように一瞬の接触ではなく、吸われて甘噛まれてこじ開けられた口の中、小さな小さなミントキャンディーの欠片が転がり込んできた。それはほどなくして、口の中で溶けて消えていった。

続編を読む→

レイへの3つの恋のお題:はっかの味を舌でころがして/薄暗い部屋で二人きり/なぁ、……何でもない。
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トキメキ11話 覚悟を決める

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 目が覚めると、部屋の中はわずかにオレンジがかっていた。カーテンの隙間から入り込む光の色で、今が夕方なのだとわかる。
 遠井に抱きこまれた時は、また緊張と激しい動機に襲われて、突き飛ばすことになるかと思ったのに。あっと言う間に眠ってしまった遠井の腕の中は暖かく、酷く心地が良かった。遠井の寝息に誘われ、吐精後の疲れも手伝って目を閉じてしまったが、どうやら随分寝ていたらしい。
 身体を起こすよりも先に隣を確認した神崎は、そこに遠井の姿がないことに、まずホッとしてしまった。どんな顔をすればいいのか、どんな顔を見せてしまうのか、わからない。
 あの日の朝聞いたのと同じ、トロトロと思考を溶かしていく甘い声にあやされながら、少しかさつく大きな手で撫でられ、たくさんのキスを至る所に落とされた。男でもあんな声をあげられるなんて、知らなかった。
 恥ずかしさに何度も逃げ出そうとし、そのたび、より甘い囁きであやされる。みっともない姿を晒す神崎に、けれど遠井は柔らかに笑って可愛いなどと言うのだ。たとえこの場限りの嘘でも、嬉しいと思った。そんなことを思う自分が情けなくて泣きそうになっても、目元に寄せられる唇で滲む涙は吸い取られ、申し訳なさそうにゴメンなどと言われてしまったら、泣いてしまうことも許されない。
 神崎に許されていたのは、与えられる快楽に従って声をあげ、遠井の名前を呼び、その肩に、背に、縋ること。それと、遠井に導かれるまま、遠井へ少しでも多くの快楽を返すこと。それだけだった。
 自分以外の男の、興奮を示す性器に触れたのなんて当然初めてだったが、あんなにぎこちない仕草でも、遠井は気持ち良いよと嬉しそうに笑ってくれた。そして、嘘ではない証拠を示すように、神崎の手を吐き出したもので濡らした。
 こうして遠井のベッドの上で目が覚めて、あれが冗談でも夢でもないのだと思い知ると、神崎の胸に押し寄せてくるのは喜びに満ちた幸せなどではなく、罪悪感とも呼べるような思いだった。
 まさかこんなことになるなんて、カケラも思っていなかったのだ。寝ぼけた遠井にちょっと抱きしめられたくらいで、必要以上に意識して、逃げて逃げて、そのせいで、遠井にまで余計な気持ちを持たせてしまった。
 甘く名前を呼ばれて、誘われて。それでも、その優しさから告げてくれたのだろう、本気で嫌ならという言葉にすら、一度だって頷く事が出来なかった。頭ではダメだとわかっていたのに抗えず、その手を自ら望んで、受け入れてしまった。
 神崎はようやく上体を起こすと、深い溜息を吐き出した。遠井はどれだけ自分を甘やかす気でいるんだろうと思う。こんな気持ちに、つきあってくれる必要なんてないのに。何言ってんだ気持ち悪いと笑って、相手になんかしてくれなくていいのに。遠井の中にも生まれてしまったという気持ちを、それこそ、勘違いだと思ってくれれば良かったのに。こんな関係を、本当に今後も続ける気でいるのだろうか。
(だとしたら、チームの誰にもバレないように気を使って……?)
 考えてみても、そんなことが可能だなんてとても思えない。けれどきっと、神崎からは遠井を拒絶しきれないのだ。誘いを混ぜた囁きだけで、次はもっと簡単に、身体はその手を喜びと共に受け入れてしまうだろう。そしてそれを、確かに自分は望んでいるのだ。ということも、神崎はもう知ってしまった。
 ここに遠井がいないから、少しだけ、泣いてもいいだろうか。
 立てた膝を胸へと引き寄せ、そこへ顔を埋めるようにして、声を殺しながら神崎は泣いた。子供みたいにワーワーと、声をあげて泣いてしまいたい衝動は、その声を聞きつけて遠井がやってくるかも知れない不安から押さえつける。この涙を、遠井に見せたくはなかった。
 暫く泣いて、それから深呼吸を数度繰り返した後、神崎はようやくベッドを降りる。今回は本当に、下着一枚身にまとってはいなかったけれど、先ほど自ら脱ぎ捨てた服はまだ、全てこの部屋の中にあるはずだ。部屋の中を見回せば、それは丁寧に畳まれて、ベッド脇の、サッカーボールを模したスツールの上に乗っていた。そんな気遣いにも、胸の奥が小さく痛む。
 服を身に着け寝室を出た神崎は、最初に洗面所へ向かった。鏡を見て、今の自分の顔を確認して置きたかったし、できれば顔を洗いたい。
 鏡の前へ立てば、その中にはやはり酷い顔をした自分の姿があった。顔を洗ったくらいで、泣いた後の赤い目はごまかせないかもしれない。そう思いながらも蛇口を捻り、流れ出る水を両手ですくう。
「……ハル、さん?」
 水気を軽く手で払ってから顔を上げれば、鏡の中、心配そうな顔をした遠井が立っているのが見えた。神崎の気配に気付いて、様子を見に来たのだろう。
 慌てて振り返れば、スッとタオルが差し出される。
「あ、ありがとうございます」
 礼を言って受け取り、取り敢えずは濡れた顔に押し当てた。拭き終えタオルを顔から離せば、伸ばされた右手が左頬に添えられ、親指がそっと目元を拭っていく。
「泣いたのか?」
「……少し、だけ」
「どうして?」
「ハルさんが、いなかった、から……」
 どう返せばいいのかわからなくて、結局、そんな言葉で答えを濁した。その言葉が、目覚めたときに傍にいて欲しかったというような甘えた感情ではないことを、遠井も当然察しているようで、心配そうな表情が晴れることはない。
 神崎は半歩進んで遠井との短い距離を詰めると、遠井の肩にそっと額を押し当てた。ゆっくりと腕を持ち上げてその背を抱けば、同じように、ゆっくりとした動作で抱き返される。
 幸せだ、と思ったら、鼻の奥がツンと痛んで、神崎は幾分慌てながら言葉を紡ぐ。このままジッとしていたら、また、泣いてしまいそうだった。
「これだけ近づいても、もう、ドキドキしてどうしたらいいかわからなくなる、なんてこと、なくなりました」
 もっとずっとドキドキして、うんと恥ずかしくて、逃げ出したくてたまらない程の強烈な刺激の後では、今感じているこの胸のトキメキなんて、穏やかで心地良いものだった。
「だから、もう、大丈夫だと思います。慣れる事が出来たのは、ハルさんのおかげ、です」
「それはようするに、俺が、俺の方が大丈夫じゃないよって言ったら、お前を泣かすことになるんだってことだよな?」
「そう、ですね。嬉しくて、泣くかも知れないです。だから、言ってください。アレは、意識し過ぎる俺を慣らすためだったって。慣れたならもう必要ないだろって。そして、明日からは、またチームの仲間として、頑張って行こうって。そう、言っていいです。じゃないと、俺、ハルさんの気持ち、本気にしてしまいます」
 遠井は暫く考えるように黙った後で、神崎の耳元へぐっと唇を近づけてきた。
「俺が大丈夫じゃないから、泣いてくれるか? 太一が好きだよ。信じて欲しい」
 甘く甘く囁く声に、神崎は遠井の背を抱く腕に力を込めて、胸がピタリと合わさるほどに強く抱きしめる。同じトキメキを刻めたらいいと願った。
 遠井はそんな神崎の背を、優しく撫でさすってくれる。腕の力を抜いてそっと身体を預けても、その手は変わらず神崎をあやし続けた。
 この手の温もりを、放したくなんかない。この気持ちに巻き込む申し訳なさを飲み込んで、どこまでも自分に優しい目の前の男に、このまま甘え続ける覚悟を決める。
 易しい道ではないだろう。それでも、いつかこの手を放される日まで、好きだと言ってくれるその言葉を信じ続けようと思った。
「俺も、ハルさんが、好きです」
 うっとりと目を閉じ囁けば、その目元に柔らかなキスが落ちた。

< 終 >

 
 
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