別れた男の弟が気になって仕方がない1

タイトル変わりましたが続いてます。
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 恋人と別れてしまったので、時間のある夜などは同じようなセクシャリティを持つ者たちが集まる店に、チョイチョイと足を運ぶ。新たな出会いを求める気持ちもないわけではないが、以前から時折訪れていたその場所では当然知った顔と出くわすこともあって、単に落ち着くとか寂しさが紛れるとかただ楽しいとか、そんな理由が大半だった。
 そんな日々の中、店へ向かう途中の路上で、こんな場所に居るはずがない人物を見つけて足を止める。いや、居てもおかしくはないかもしれないが、だとしたら隣りに居るべき人物が違う。しかもなんだか様子がおかしくて、気づかないふりで素通り出来なかった。
「おい、久しぶりだな」
 声を掛ければ、こちらを見た顔が明らかにホッと緩む。逆に、隣りにいた男は邪魔をするなと言わんばかりに、眉を寄せて不快感を示してくる。
 知らない男は自分たちに比べれば背はそこまで高くないものの、ガッシリした体型から筋力はかなりありそうだった。年齢も多分、大学生の彼よりは自分の方に近いだろう。
「こんなとこで何やってんだ。というかまさかと思うけど、この人とそこ入る気じゃないよな?」
 そこ、と言って指した場所は所謂ラブホというやつだ。
「それは……」
 言い淀むから、ますます何かがオカシイと思う。まさか本当にこの男とラブホに入ろうとしていたのか?
「初めてでちょっと怖気づいただけだよな。ほら、大丈夫だから、とりあえず部屋入っちゃお」
 口を挟んできたのはここに居るべきではない男で、しかも腕を掴んで強引に連れて行こうとする。
「待って待って」
 慌ててそれを引き止める。
「えーと、あなたこの子の事、どこまで知って誘ってます?」
「どういう意味だよ」
 キツイ口調で牽制してくる相手にグッと身を寄せ軽く身を屈め、相手にだけ聞こえるような小声でこう見えてこの子まだ高校生ですよと囁いてやった。
「え゛っ……」
 驚く様子に、ああ良かったと思う。少なくともこちらの言葉に相手の年齢を疑う程度の親しさだ。もしこのままホテルに入るなら警察に連絡すると続けてやれば、相手はこれみよがしに大きな舌打ちを残して足早に去っていく。
 揉めなくて良かった。安堵で大きく息を吐いた。
「あの……」
「うん。聞きたいこと色々あるんだけど、ちょっと場所移動しようか」
 このままここで立ち話をしていたら、先程の彼らの二の舞いになりそうだ。ラブホに入る入らないで揉めているなんて思われたくない。
 促せばハイと応えておとなしく付いて来る。とりあえずの落ち着き先は馴染みの店を避けて、どこにでもあるチェーンのカフェにした。
「それで、なんであんなとこ居たの?」
「もっと落ち着いたとこで話がしたいって、言われて……でも、それがホテルとは思ってなくて……」
 自分の迂闊さに自覚があるのか、ゴニョゴニョと言い募る様は酷くバツが悪そうだ。あの日、兄と別れてくれと押しかけてきた時のふてぶてしさは欠片もない。
「つまりあの男と、落ち着いた場所で話をしたいと思ってたのは事実、ってこと?」
「えー……まぁ……ハイ」
 聞けば曖昧に頷かれたが、その態度も含めていまいち腑に落ちず、どうにも何かが引っかかる。
「だったら悪い事したかな。あの男、多分もうお前に声かけたりしないと思うよ」
「そういやさっき、なんて言って追い払ったんですか?」
「ああ、あれ。この子こう見えて高校生だから、このまま連れ込むなら警察呼びますよって言ったんだよね。信じてくれて良かった」
「高校生じゃないです」
「知ってるよ。でもまだ未成年じゃないの?」
 弟の大学入試がどうのと聞いたのはそう昔のことじゃない。そもそもこの子の兄と恋人として付き合っていた期間は二年弱で、そこまで長くはないのだ。
「まぁ別に未成年だからこんなとこ来たらダメとまでは言わないけど、なんで一人なのとは思うよな。あいつはどうしたんだよ。一緒に居たらあいつが黙ってないだろ」
「兄は、関係がないので……」
「関係ないわけ無いでしょ。弟その気になってるけど抱いてお前と別れる事にしていいかって聞いた時のあいつの剣幕、凄かったぞ? 大事な用事ほっぽり出してお前を俺の魔の手から救いに来ちゃうくらい、大事にされてるだろ?」
「いやあれは、あなたと別れたくないって意味で慌てたんですよね? だってまだ告白される前だったみたいだし」
 あれ? とまた何かが引っかかった。

続きました→

 
 
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兄と別れさせたい弟が押しかけてきた4

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 別れるつもりで居るよと答えれば、すぐに嫌だと返される。
「あいつには二度とここに来ないよう、ちゃんと言うから。だから俺を捨てないでよ」
 弟が迷惑かけてゴメンナサイとしおらしく謝られてしまって、どうやら彼が抱える叶わないはずの想いが報われるのだとは、まだ知らないらしいと気付いた。
 弟が押しかけてきたこと、別れろと言われた事、代わりに抱かれればと提案したら了承されたことは伝えたが、弟の言い分などは知らせていない。というか知らせる必要があると思っていなかった。なぜ弟がそこまでするかの理由を、彼が知らないはずがないと思いこんでいた。
 てっきり告白はされた後で、目の前に突然湧いた幸運に戸惑った目の前のこの子が、恋人がいるからとでも言って断ってしまったのだと思っていた。だから恋人であるこちらから振らせようとして、弟が自ら押しかけてきたのだろうと想像していた。
「理由はそこじゃないよ。いや、もちろんあいつの本気の覚悟が、俺の背を押したのも事実だけど」
「じゃあ、他の理由って、何?」
「お前の片想い、報われるってさ」
「えっ?」
「俺達は確かに恋人だけど、厳密には両想いとは言い難い関係だよな? せっかく本命が振り向いてるなら、俺とはきっちり別れて、そっちに行ったほうがいい」
「え、嘘だ……でも……」
「うん。知らなかったみたいだし、戸惑うのはわかる。でも戸惑って大事なチャンス、掴み損なうなよ?」
「チャンス……って、だって、そんな……」
 呆然と呟くようにしか言葉を紡げなくなった相手の瞳の中は不安げに揺れている。
「チャンスだよ。俺はお前の辛い恋を慰めてはやれるけど、想う相手に愛される幸せは、俺じゃ与えてやれない」
 だから別れようと繰り返せば、きゅっと唇を噛みしめた。黙って待てば、やがて震える声が小さく嫌だと吐き出されてくる。
「長いこと拗らせてた想いが叶うって考えたら、やっぱり怖いか?」
「そりゃあ。だって、今更過ぎだよ……」
「でもお前の弟が自信を持って、自分自身を俺に差し出してまで、お前がその相手と幸せになれるって断言してる。俺はお前が幸せになれるって、信じられると思ったよ」
 それでもまだ不安そうに瞳を揺らし続ける相手に、それにさと続ける。
「本当に好きな相手とだって、付き合ってみたら上手く行かないって事は起こると思うんだよ。いくらお前の弟が幸せになれるって言ってたって、蓋を開けてみたら喧嘩ばっかして全く幸せになんてなれない可能性だってあると思う。でもな、上手く行かないってわかるだけでも、お前にとってはそう悪い話じゃないって俺は思うよ」
「なん、で……?」
「今抱えてる想いに決着が付けば、次の恋に行けるから。でももし、どうしても上手く行かなくて、別れてもなお想いが捨てれなくて苦しかったら……まぁあいつの断言っぷりから考えたら上手く行かないなんて事はなさそうだけど、それでももし万が一、そんな事になったら戻っておいでよ」
 その時はまたベッドの中で慰めてあげると言えば、ようやく不安で仕方ないという顔が少し崩れて、小さくふきだされてしまった。
「ホント、優しい嘘ばっかり吐くよね」
「嘘じゃないよ?」
「うん。でもそれ、その時あなたに新しい恋人が居なければって条件付きでしょ」
「どうしても不安で仕方ないってなら、お前がもう平気って言うまで、次の恋人作らず待っててあげてもいいけど」
「ううん。いい。さすがにそれは俺が甘やかされすぎ。そっちもさっさと新しい恋人作って、今よりうんと幸せに、なって」
 それは紛れもなく別れの言葉だ。頷いて、それから背後のドアをそっと開く。扉の向こうでは着替えを終えた彼の弟が、リビングへ入ってこれずに立っているのがわかっていた。
「別れたよ。扉越しでも聞こえてたろ?」
「はい」
「あ、お前、随分勝手なことしやがって!」
 扉の向こうまで意識が向いていなかったのか、姿が見えた途端に飛びかかっていきそうな勢いで、こちらを押しのけ廊下へ出ていこうとする兄を慌てて引き止める。
「こら、止めなさい。というか兄弟喧嘩するならここ出てからにしてくれ」
 仲良く喧嘩したついでに互いの想いを確認しあえばいい。たださすがにそんな喧嘩ついでの告白劇を、目の前で繰り広げられたくはなかった。
 ペコリと深く頭を下げてから出ていく二つの背中を見送って、大きく息を吐く。別れに対する後悔や未練のようなものはないが、突然であっという間だったせいか、喪失感はやたらと大きかった。
 それでもそれらは時間が解決してくれることを、長年の経験から知っている。

続きました→

 
 
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兄と別れさせたい弟が押しかけてきた3

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 彼が怒るのはもっともだとは思う。思うが、こちらにだって言い分はある。
「あいつが他に想ってる相手がいようと、恋人として付き合ってる事実がある以上、当人居ない所で別れ話とかオカシイだろ?」
「別れるからもう会わないって一方的に告げて、その通り会わずに居てくれればそれで良かったんですよ。そういう別れ方だって、ありだと思いますけど」
「あのね、俺はあいつが可愛いの。大事にしてんの。別れるにしたって、そんな一方的に捨てるみたいな真似、絶対したくないんだってば」
 言えば驚いたように、別れるんですかと聞いてくる。別れを受け入れる気がないから本人を呼びつけたと考えていたのだろう。
「一応そのつもり。だってあいつの本命があいつに振り向いてんだろ? それにお前の本気も見せてもらったしな」
 その本命と思われる相手が、あの子の幸せのためにとここまでしているのだから、間違いなく別れた後であの子は幸せになれるだろう。恋人ではあったけれど、叶わぬ恋を抱えて苦しむ心を慰めるような関係から脱していないことは、自分自身よくわかっている。恋人となった今もなお、あの子の一番は出会った時からずっと変わらぬままだった。
 だから自分の役目はここで終わりだ。
「心配しなくてもちゃんと、お前の目の前で別れ話をしてやるよ。だから脱衣所戻って服着ておいで」
 こんな会話をしている最中もチャイムはガンガン鳴り続けていた。携帯はリビングのテーブルの上に置いてきてしまったが、多分そちらも鳴りまくっているだろう。
 ほら起きてと、未だベッドから起き上がる気配のない相手の腕を取って、半ばむりやり引き起こす。起きるのを渋っているのは、兄と顔を合わせたくないからだということもわかってはいたが、さすがにこれ以上ドア前で苛立ちを募らせているだろう相手を待たせたくはなかった。
「引き伸ばしたって、あいつが諦めて帰るわけないし、お前がやったことももうバレてんだぞ? 俺に抱かれる代わりに、兄貴に怒られるんだとでも思って諦めろって」
 言えば大きなため息と共にわかりましたと吐き出し、ようやく立ち上がって歩きだす。
 一緒に寝室を出て、相手が脱衣所の扉を閉めるを待って玄関の鍵を開ければ、こちらが押し開くより先に扉が勢い良く引かれて、怒りで顔を赤くした恋人が無言で乗り込んできた。
 これは相当怒ってるなと内心苦笑しながら、勝手知ったると上がり込んで真っ先に寝室へ向かう恋人の背中を追う。
 寝室のドアを開けて乱れた空のベッドをしばらく見つめた後、次に向かったのはリビングだった。しかしそこでも目的の人物の姿を見つけられなかった恋人は、そこでようやくこちらを振り返る。
 おだやかな付き合いだったから、怒った顔なんて見るのは今日が初めてだった。似てない兄弟だと思っていたが、怒りを湛える目はそっくりだ。
「あいつはどこ? まさか帰したの? というか絶対食うなって言ったのに、ベッド使った形跡あったのどういうこと?」
「まぁちょっと落ち着けよ。玄関に靴あったろ。今、脱衣所で服着てるとこだから」
「それ聞いて落ち着けるわけ無いだろっ」
 直前まで脱いでたってことじゃんとますます憤る相手に、こちらは苦笑を深くするしかない。
 大事な用事をほっぽり出して駆けつけて来たことも含めて、弟のことが心配で堪らなくて、それ程に大事で仕方がないのだと、そう言われているも同然だ。
「お前がそんな怒ってたら、さすがに出てこれないだろ。というか、お前を呼んだのは俺との別れ話をするためで、あいつを引き取れってのはオマケみたいなもんだからな?」
「てことはやっぱ、俺がダメって言ったのに、あいつを抱いたんだな」
 経緯はそれなりに知らせてあったし、乱れたベッドを見たことでそう思い込んでいるんだろう。
「抱いてないよ」
「でも脱いでベッド使ってる」
「ちょっと指で弄ってただけ。まぁお前にしたらそれすら許せないと思うかもだけど、向こうは本気で俺に抱かれる気で居たからな。俺に抱く気がなかっただけで、そこまでしてもお前と別れて欲しいって覚悟は、見せてもらった」
「だから俺と、別れるの?」
 一転して泣きそうな顔をする。多少なりとも別れを惜しんでその顔ならば嬉しいなと思った。

続きました→

 
 
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兄と別れさせたい弟が押しかけてきた2

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 ベッドに俯せて腰だけ上げさせるような格好をさせ、アナルの浅い位置だけをクチクチと指先でくじる。シーツをキツく握りしめる拳からも、時折殺しきれずに漏れるうめき声からも、本心ではこの行為を拒んでいるのは明白だった。
 好きな子を恋人から奪うため、初対面の全く好きでもない男相手に体を差し出すその心意気は買うし、この状況を作り出したのは紛れもなく自分自身なのだけれど、率直に言って全く興奮しない。もっとはっきり言えば心も体も萎えきっていて、アナルを弄っているのもほぼ惰性からだった。
 だってまさか了承するなんて思わなかったし、ふざけるなと怒って帰るか、身の危険を感じて帰るか、とにかくさっさと帰って欲しいのが正直な気持ちだった。もちろん相手がどこまで必死か試す気もあるにはあったが、だからって本当にこの男を抱きたいだとか、誰でもいいから溜まった性欲を発散したいとかを本気で思ったわけじゃない。
 だから嫌悪を隠しもしない相手が、わかりましたと告げた時には、思わず自分の耳を疑った。正気で言ってるのかと聞き返したが、それにもはっきりと正気だと肯定が返って、驚いたなんてものじゃない。
 だから慌てて、抱かれろなんて言ったのはただの冗談だとか、ちょっと意地悪がしたかっただけだとか言って前言撤回しようとしたのに、それがなぜか相手のやる気に火を付けたようだった。
 いいえ抱かれますと言い切って立ち上がりこちらを見下ろしながら、その代わり絶対別れて下さいよと念を押す姿は随分と威圧的で、そのくせ悲壮な覚悟がチラつく必死さがあって、相手は幾つも年下の大学生だというのになんだか何も言い返せなくなってしまった。
 内心ではしまったなと盛大に後悔していたが、結局シャワーを貸せと言う相手をバスルームに案内してやったし、まるで覚悟を見せつけるように素っ裸で出てきた相手を寝室に連れ込みベッドに転がし、こうしてアナルをいたずらに弄っている。
 苦笑なんてこぼれまくってるし、なんならため息だって吐きまくってる。だってこの子は優しく触れさせてもくれない。兄の幸せのためにその体を差し出しているだけで、こちらの性欲処理につきあうだけのつもりで、そんなのいいからさっさと突っ込んでくれと言い、愛撫しようと肌を撫でる手を嫌そうに払い除けたのだ。
 他に好きな相手がいる子を抱くのが好きだという、大変困った性癖持ちな自覚はあるが、それは報われない想いを抱える子を一時的にでも優しく甘やかしその想いごと受け入れてやるのが好きなのであって、他に好きな相手がいる子を無理矢理どうこうしたい欲求はない。いくら相手が了承していたって、こんな状態の相手に突っ込むのはレイプとそう変わらないと思う。
 まぁ突っ込む気なんてないから、こうして浅い場所だけ弄り回しているんだけど。
 相手に抱かれた経験がなかったのは幸いだった。初めてなら尚更ゆっくり少しずつ慣らして拡げないと、挿れる側だって気持ちよくないどころか痛かったりもするんだよと、前戯なんて要らないという相手を言いくるめて、アナルをじっくり弄られることを受け入れさせた。
 さっさと突っ込まれて終わりたいだろう相手はもちろん不満げで、時折まだかと急かすような言葉を吐くが、それをはぐらかしながら浅い場所ばかりを弄り回すのにもそろそろ限界が近い。
 最後の手段として、初めての体をいきなり抱くのはやっぱり無理だよと言って中断するという手がないわけではないのだが、本気で抱こうともしていないのに、抱けない理由を相手のせいにするようで躊躇ってしまう。兄のためにとここまでの覚悟を見せている相手を、無駄に傷つけたくはなかった。
 どうしようかと迷いながらもやむにやまれず指を動かし続ける中、ピンポンと玄関チャイムがようやく響いてホッとする。やっと来たか。
 一度鳴ったらそれは立て続けに鳴り響き、来訪者の苛立ちと焦りがよく分かる。
 さすがのおかしさに、目の前に体を投げ出している相手も頭を振り向かせ、訝しげにこちらを見つめてきた。
「どうやらお迎えが来たようだよ」
「……えっ?」
「弟を差し出して俺と別れるのは嫌だとさ」
 お前がシャワー浴びてる間に連絡取ったと言ったら、相手の目の中で、はっきりと怒りの感情が揺れるのがわかった。

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兄と別れさせたい弟が押しかけてきた1

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 仕事の都合で三週間ぶりの逢瀬となるはずが、大事な用事が入ったからゴメンというドタキャンメール一つでポッカリ予定が空いてしまった土曜の午後、家のチャイムを鳴らしたのは本日会うはずだった恋人の弟だと称する男だった。
 大学生の弟がいるという話は確かに聞いたことがある。思わずジロジロとその顔を見てしまったが、顔立ちが似てると言えないことはないかもしれない。ただやはり、全体的に見れば似てるところが少ないというか、分かりやすく彼の弟という男ではなかった。
 纏う雰囲気も、身長も、体格も、かなり違う。
 恋人はふんわりした雰囲気を持ち、平均的な身長で全体的に肉付きの薄い体格をしているが、目の前の男は硬質な雰囲気を持ち、自分とほぼ変わらない高身長で、半袖のシャツから伸びる腕を見ただけでも、細身ながらもしっかりと筋肉がついていそうなのがわかる。
 それでも相手は恋人の情報を正しく把握していたし、疑いの目を向け続けるこちらに、どうしても信じられないなら免許証を見せるとまで言い出した。そこまでされてようやく、仕方なくこの状況を受け入れた。正しくは、とりあえず弟と認めた上で家に上げた。
「で、わざわざ家に押しかけてまで、いったい俺に何をさせたいの?」
「兄と、別れて下さい」
「なんで?」
「兄には幸せになって貰いたいからです」
 別れてくれと言われるのは想定内だったが、その返答はまったくの予想外だった。
「まるで、俺とは幸せになれないみたいな言い方だけど、俺たち、そこそこ上手く付き合えてるよ? まぁ弟としては認めたくないかもしれないけど」
「でも兄が本当に好きなのは、あなたじゃない」
「うん。知ってる」
「えっ?」
 今度はこちらが、相手の想定外の返事をしたらしい。にっこり笑って、知ってると繰り返した。
「知ってるよ。叶わない恋をして苦しんでる部分ごと、愛しいと思えるから付き合ってる。俺が居ることで、あいつの救いになってる部分はそれなりにあると思うんだけど、その俺に別れろって言うってことは、下手したら君のせいでお兄さんが不幸になるよ?」
「なりません」
 こちらの煽りに気付いたのか、ムッとした様子ではっきりきっぱり言い切られて苦笑するしかない。
「ちょっと話変わるけど、君、何か特殊なスポーツしてる?」
 細いけどかなり筋肉あるよねと言えば、質問の唐突さに若干戸惑いながらも、特に渋ることなく素直に口を開いた。
「スポーツクライミングって言って、わかりますか? 特殊、ではないと思いますけどあまりメジャーではないですかね」
「わかるよ。最近はそれなりに知名度上がってきたというか、施設増えてるらしいね」
「で、それが何か……?」
「いや、ただの確認。話戻すけど、不幸にならないって言い切るってことは、君は当然、あいつの本命が誰か知ってるわけだ?」
「はい」
 ということは、これはやはり宣戦布告と捉えていいのだろうか。
 叶うはずもない辛い恋の相手が弟だと言われたことはない。ただ近すぎる存在だということと、クライミングを得意としていて、ヒョイヒョイ壁を登っていく姿がめちゃくちゃ格好良いのだと、聞いたことがあるだけだ。
 さて、どうしよう。彼の叶うはずのない恋が叶うというなら、この手を離して幸せになりなと送り出すことに異存はないのだが、それは彼が直接自分に別れ話を持ち込んだ場合だ。
 恋敵本人に別れてくれと言われて、わかりましたとあっさり頷き、大事にしてきた恋人を渡せるほどの度量なんてものはなかった。
「そんなに俺と、別れさせたい?」
「はい」
 やはり躊躇いなく肯定してくるから、いい度胸だなと思う。まぁそれくらい神経が図太くなければ、兄の彼氏の家になんて押しかけてくるはずもないか。
「お兄さんの幸せのため?」
「そうです」
「その幸せのためにだったら、君は何が犠牲にできる?」
「どういう、意味ですか」
「だってお兄さんの幸せのために、君が、俺に別れを強要するわけだろ」
 君が、という部分をことさら強調してやる。
「だったら君が、別れを了承する俺に、何かしらしてくれる気はあるのかな? って意味かな」
「俺が何をすれば、兄と別れてくれるんですか」
「話が早くていいね。じゃあさ、君が代わりに俺に抱かれてよ」
 三週間も会えてないのに今日もドタキャンされて溜まってんだよねと、あからさまに品のない誘い方をすれば、相手は酷く嫌そうに眉を寄せた。

続きました→

 
 
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卒業祝い

 次の日曜に三時間ほど時間貰えませんかと、ひとつ下の後輩に打診された時から、なんとなく予測は付いていた。
 後輩と自分はいわば同士で、簡単に言えば二人とも性愛の対象が同性だった。知ったのはたまたまで、というよりは、なんとなくそうかなとカマをかけたらあっさり相手が引っかかった。
 正直とてつもなく嬉しかった。はっきり同性愛者だと自覚のある人間は、自分の周りでは今のところ彼だけだ。それまでは仕方がないと思いながらも、やはり心細く思っていた。自分と同じと思える相手が近くに居ることが、こんなにも心強いとは思わなかった。
 きっと彼も同じだったのだろう。昨年度の文化祭実行委員会で一緒だったと言うだけの、はっきり言ってかなり薄い関係だし、学年だって違うから学校ではたまにすれ違って挨拶をする程度の接点しかないのに、気づけば頻繁にメッセージをやりとりする仲になっていた。
 それでもそこに恋が生まれたり、セックスをするような関係に発展したりしなかったのは、彼には長年想い続ける相手がいたのと、とりあえずやってみたいなんて理由で他者と触れ合う軽さが一切なかったからだ。
 そもそもカマをかけたのだって、きっと好きな男が居るんだろうと思ったせいだし、最初っから想い人がいる相手に恋なんてしようがない。いくら身近で同じ姓嗜好を持つのが彼だけだからといって、無理やり自分に振り向かせようとはさすがに思わなかった。行為だけでもと誘ったのだって一回だけで、きっぱり断られて以降はしつこく誘ったりもしていない。
 それで関係がギクシャクしたり、ギクシャクで済まずにバッサリ切られてしまったら元も子もない。そんなことになるくらいなら、男が好きだということを隠さずに済む、素の自分を互いにさらけ出せる、居心地のいい友人的なポジションを維持する方を選ぶに決まってる。
 なのに今、行為の誘いをはっきりきっぱり断ってきたはずの相手が、率先して自分をラブホに連れ込んでいた。
 男二人でラブホを訪れたのに、すんなりと部屋まで到達できたあたり、きっと事前に色々調べてきたんだろう。
 真面目で、几帳面で、そしてとても臆病な子なのに。その彼にこんなことをさせている責任の半分くらいは、多分きっと自分にある。
「数日早いですけど、卒業、おめでとうございます」
 部屋の中を一通り見回した後、くるりと体ごと振り返って後輩が告げた。声が固いのは緊張のせいだろう。
「ああ、うん。それは、ありがとう?」
 返すこちらの声は、戸惑いが滲みまくった上に、最後何故か語尾が上がってしまった。けれどそれへの指摘はなく、彼は用意していたのだろう言葉を続けていく。
「今日のこれは卒業祝いって事で。シャワー、使いますか? 口でして欲しいとか言い出さないならどっちでもいいです。あと俺の方は一応来る前に使ってきたんですけど、もう一度浴びてきたほうが良ければ行ってきます」
「あのさ、本気かどうかなんて聞くまでもないのわかってんだけど、それでも聞かせて。初めてが好きじゃない相手で、ホントにいいの?」
 自分としてみないかと誘った時は、そういうことはやっぱり本当に好きな相手としたいのでと言って断られたのだ。あの時彼は、乙女みたいなこと言ってすみませんと恥ずかしそうにしていたけれど、こちらはこちらで、やってみたい好奇心だけで誘ったことを恥じていた。
「好きじゃない相手、ではないです。一番ではないですし、きっと恋でもないんですけど、それでも先輩のこと、あの時よりずっと好きになってるので。先輩となら、経験しておくのも悪くない、って気になりました」
 あの時自分は彼に、お互い経験しておくのも悪くないと思わない? と言って誘っていた。あの時よりは好きになっている、してみてもいいと思えるくらいに好きになっている。そう言って貰えて嬉しい気持ちは確かにあるのに、今にも苦笑が零れ落ちそうだ。
 その言葉が嘘だと思っているわけじゃない。ただ、長いこと彼が想い続けていた相手に、最近かわいい彼女が出来てしまったという、別の理由があることを知ってしまっているだけだ。
 想い人の名前をはっきりと聞いたことはないが、さすがに一年以上恋バナを聞いていればわかってしまう。その相手との直接の接点だってないが、相手は同じ学校の生徒だし、もっとはっきり言えば彼と同学年でこちらからすれば後輩だし、その相手が所属している部活の部長だった男とは同じクラスで仲もいいほうだ。ついでに言えば相手の彼女となった女子が部のマネージャーだったものだから、卒業間近のこの時期なのに、元部長の羨望混じりの愚痴という形で、自分の耳にまであっさりその情報は届いてしまった。
 しかしこちらが知っていることを、彼は知らない。だから指摘する気はないけれど、でも卒業祝いだなどと言わず正直に、失恋したから慰めてとでも言ってくれれば良かったのにと思う気持ちは確実にある。
「それに、先輩が卒業してしまうのは、やっぱり寂しいです」
「卒業するからって、連絡断ったりしないよ? 辛いことがあったら、いつだって連絡してきていいんだからな?」
「でも、先輩の大学、遠いじゃないですか。卒業式の翌日に引っ越しって、言ってましたよね」
 また独りになると続いた声は、ほとんど音にはなっていなかったけれど、まっすぐに見つめていたせいで唇の動きと共に聞き取ってしまった。そして酷く不安げに瞳が揺れるのまでも捉えてしまったら、想い人に彼女が出来たからという理由がどれくらいの割合で含まれていようが、そんなのはどうでもいいかと思ってしまった。
 恋が出来る相手ではなかったけれど、自分だってやはり彼のことは好きなのだ。多分、今のところ一番に。
 数歩分離れていた距離をゆっくりと詰めた。好奇心でしてみたいのではなく、好きだからこそ相手に触れたいと思う。
「じゃあ、卒業祝い、貰ってく」
「はい」
 頷いた彼の瞼がそっと閉じられるのを待ってから触れた唇は柔らかく、けれどかすかに震えているようだった。

 
 
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