リバップル/魔法使いになる前に

 付き合い始めたのは中学を卒業する直前頃で高校は別々だった。
 初めて相手を抱いたのは高校最初の夏休み中で、そこから先ずっと、自分が抱く側でもう十年以上が経過している。
 互いの高校にはそれなりに距離があったし、大学時代はもっと距離が開いた。就職は取り敢えず同じ県内となったが、やっぱりそう頻繁に会えるような距離ではない。
 離れているのだから、浮気は仕方がないと思う部分はある。なんせ相手はそこそこモテる男で、別にゲイというわけでもない。自分が相手だからこそ、抱かれる側に甘んじてくれているのだと、それはわかっているし感謝もしている。
 浮気は仕方がないと思う気持ちはあるが、でもそれを知りたくはないし聞きたくもない。多分相手も同じように思うのか、こちらの交友関係にはあまり触れてこなかった。まぁ聞かれた所で、こちらにはやましい事など一切ないのだけれど。
 月に一度程度飲みに行って、互いの近況を語って体を重ねる。そんな、まるで惰性で続けているだけみたいな関係が、もう数年続いていた。
 好きといえば好きだと返るし、一緒に過ごす時間はやはり心地よい。だからまぁ、いつか相手に自分以上の本命が出来るまで、こんな感じでこれから先もダラダラと続けていくのかなと、ぼんやり思っていたのだ。
 彼の口から驚きの爆弾が落とされたのは、彼が二十代最後の誕生日を迎えた三日後の週末だった。平日の誕生日なんて直接祝えるわけがないので、当日はメールだけ送って、要するに土曜の今日は二人で彼の欲しいものを買いに行く。
 買い物の後はちょっと美味しいものでも食べて、ちょっといつもより甘さ多めの夜を過ごすという、まぁこれも例年通りの誕生日後の週末の過ごし方をする予定だった。
 いつもなら待ち合わせは近隣の大きめな駅改札とかなのに、一度家に寄って欲しいと言われて、直接相手の部屋に向かう。ドアを開いた相手はなんだか酷く緊張した顔をしていて、誕生日どころではない何かがあったのかと、不安と心配が押し寄せた。
「何かあった?」
「何か……というか、今年の誕生日プレゼントのことなんだけど」
「ああ、うん。予算は去年と同じくらいな」
「いや、要らない」
「えっ?」
 拒否されて、一瞬時が止まったような気がした。え、これ、まさかの別れ話?
「あ、いや、欲しいものはあるんだ。でも、買えるようなものじゃなくて……」
「うん。なるべくプレゼントできるよう考えるから、取り敢えず言ってみて」
 ゴニョゴニョとらしくなく言い渋る相手を促せば、相手の顔が少しずつ赤くなっていく。恥ずかしい話題かな? と思った所で、蚊の鳴くような声が、抱かせてと言った。……ような気がした。
「えっ……?」
「誕生日プレゼント、今年はお前が、欲しい」
 ああ、聞き違いじゃなかった。
「え、えっと、俺が抱くことに、不満が出てきた?」
「違う。不満なわけじゃない。ただ、ど、童貞のまま三十路に乗るのはちょっと……と思ったら、二十代最後の誕生日くらいしか、お前に抱かせて欲しいなんて、言えないと思って……」
 本日二度目の、一瞬時が止まる体験をした。
「えええええええっっっ!?」
 大声を上げてしまったせいか、相手は赤い顔のまま驚きで目を瞠っている。
「ちょっ、おまっ、童貞って……」
「あ、当たり前だろ。中学でお前と付き合って、お前が初めての恋人で、そのままこの年まで来たんだぞ。どこで童貞捨てろってんだよ」
「え、いや、だって……ええぇぇ……」
 今度のえーは尻すぼみに消えていった。だってお前、高校から先現在まで、モテまくってんの知ってんだぞ。なんで童貞のままなんだよ。どっかで一人くらい食ってないのかよ。
 そんな思いがグルグルと頭をめぐるが、これを口にだすのは絶対にマズイということはわかっていた。
「俺に抱かれるの、絶対に嫌か?」
 へにゃんと眉をハの字にしてしょんぼりした顔に、衝撃はそこじゃないと慌てて否定を返す。
「嫌じゃない。嫌じゃないけど!」
「嫌じゃないけど?」
「あー……その、……初めてなんで、優しくして、下さい……?」
 何言ってんだという気持ちが襲ってきて顔が熱くなったが、相手は酷く安堵した様子でホッと息を吐いている。
「それは、うん。大丈夫。だと思う」
 抱かれる側に関してはお前より良くわかってるわけだし、どうしたら気持ちよくなれるかもわかってるからと続いた言葉に、ますます体温の上昇を感じた。

続きました→

 
 
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彼女が欲しい幼馴染と恋人ごっこ(ホワイトデー)

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 本命大学に合格を決めた相手に、約束通り女の子を紹介した。今月中に童貞捨てさせてやってという赤裸々なお願いに、笑ってOKをくれるような女の子だけど、まぁ約束は約束だし、その後どうするかは本人たちが決めればいい。
 合格祝い渡すから出てこいと呼び出した相手は、こちらが女連れだったことに最初めちゃくちゃ驚いて、その女の子こそが合格祝いと気付いた後はめちゃくちゃ慌てていたのを覚えている。
 約束しただろと言いながら女の子を紹介した後は、自分だけさっさと帰宅したが、コミュ力の高い女の子だしなんとかなるだろと思っていた。その予想は外れることなく、夜には女の子の方から、お付き合いを開始した旨の連絡があった。正直ホッとした。
 引き止められたのを置いて帰ったからか、相手からはその後まったく連絡がない。でもまぁいいかと放置していたら、昨日、久々に彼が家に訪れた。
 玄関で対応したのは母だったから、要するに、気付いた時には自室に上がり込まれていた。
 ムッとした表情で突き出された袋を、反射的に受け取ってしまったが、最初それが何かはわからなかった。
「何これ?」
「ホワイトデー」
 律儀だなと思ったら少し笑ってしまった。
「お返しなんて要らなかったのに」
「でもなんか高そうなチョコだったし」
「まぁ安いもんではないけど。でもその分、量も少なかったろ」
「てかさ、あれ、本命チョコとは違ったの?」
「どういう意味?」
「あんな本気っぽいチョコ、くれると思ってなかったから、凄く嬉しかったんだけど」
 何やら不穏な発言を、どうやって受け流すかを考える。これは絶対、突き詰めたらいけない話題だ。
「本気っぽいって、そりゃあの時点では一応恋人だったんだから、それなりのもの渡すだろ」
「今は? というか、俺達ってやっぱ別れたの?」
「は? いやだってお前、そういう約束だったろ。お前が大学合格決めた時点で、終わりに決まってんだろ」
「そ、っか。まぁ、わかってたけどさ」
 でも俺、けっこう本気で好きになってたよ。という呟きのような言葉は、聞こえなかったふりをした。
「ね、最後に一回、キスさせて」
「ダメ」
「どうしても?」
「だってお前、彼女居るだろ。しかもそれ、俺の友人だからな?」
 不誠実だろと言ったら、苦笑しながら、意外と誠実だよねと返された。意外だなんて失礼だ、とは思えず、やはり自分も苦笑を返した。
「まぁ、性に緩いタイプと思われてるのは知ってる。別に間違いでもないよ。ただそれは、相手によるってだけ」
 お前にそういう真似はして欲しくない。とまでは言わなかった。
「キスがしたいなら、彼女としろって」
 そうすると返されて、胸の奥のほうが少し痛くなった。でもそれも、気付かなかったことにする。
「あのさ、本当に、ありがとう」
 何に対する礼かは聞かず、どういたしましてとだけ返した。
 そんな、昨日交わした久々の会話を、なんとなく繰り返し思い出す。あれで良かったのだとはっきり思うのに、少しずつ胸の痛みが広がっている気がする。
 机の上に置かれている小ぶりの可愛いデザイン缶を見つめた。昨日渡されたお返しだ。
 中身は飴だとわかっているけど、フタを開けることすらしていない。
 お返しの意味なんて考えているとは思えないけれど、これに彼の想いが込められている可能性を考えてしまったら、とても食べられる気がしなかった。これ以上、未練と向き合いたくなんかない。
「俺だって、けっこう本気で、好きになってたよ」
 伝えられたかもしれない最後のチャンスを、思いっきり跳ね除けたのは自分だ。でもきっとそれでいい。あんな形で始めたごっこ遊びの恋が終わったことを、安堵する気持ちも確かにある。
 ばかみたいな失恋に胸の奥が痛んでも、後悔はしてなかった。

続きました→

 
 
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墓には持ち込めなかった

 幼い頃から心のなかに隠し持っていた恋心を、生涯、相手に告げることはないと思っていた。墓にまで持ち込む気満々だった。ずっとただ想うだけで良いと思っていた。
 同じ年に生まれた自分たちは、幼稚園で出会ってからずっと長いこと親友で、だからこそ、彼の選ぶ相手が自分にはならないこともわかっている。彼が興味を惹かれ、好意を寄せる女の子たちに、気持ちが荒れたこともあるけれど、それももうだいぶ遠い昔の話だ。
 少しずつ大人になって、自由になるお金が増えて行動範囲が広がれば、だんだんと寂しさを埋める術だって色々と身に着けていく。
 その日は特定のバーで相手を見つけて、そのままホテルに向かうつもりで店を出た。店を出た所で、名前を呼ばれて顔を向ければ、そこには見るからに怒っている幼なじみが、こちらを睨んで立っていた。
 今夜のお相手となるはずだった相手は、あららと少し楽しげな声を発したけれど、この後始まる修羅場に巻き込まれるのはゴメンとばかりに、じゃあ頑張ってとあっさり回れ右して店に戻っていく。
 面白おかしく酒の肴にされるだろう事はわかりきっていたが、もちろん引き止めることはしなかった。代わりに幼なじみに向かって歩き出す。
「こんな場所で揉められない。付いて来て」
 隣を通り抜けるときにそう声をかければ、黙って後をついてくる。素直だ。
 一瞬、このまま本来の予定地だったホテルにでも入ってやろうかとも思ったけれど、そんな自分の首を絞めるような真似が出来るわけもなく、結局足は駅へと向かった。こんなことになってしまったら、今日の所は帰るしかない。
「待てよ」
 半歩ほど後ろをおとなしく付いて来ていたはずの相手が、唐突に声を上げただけでなく、手首を掴んで引き止めるから、仕方無く歩みを止めて振り向いた。
「何?」
「どこ、行く気だ」
「どこって、帰るんだよ」
「は? 家まで待てねぇよ」
「待つって何を?」
 まぁさすがにこれは、わかっていてすっとぼけて見せただけだ。でも頭に血が登りっぱなしらしい相手は、そんなことには気付かない。
「お前、俺に言うことあるだろっ」
「特にはないけど」
 しれっと言ってのければ傷ついた顔をする。そんな顔をするのはズルイなと思った。
「一緒にいた相手、お前の、何?」
「飲み屋で知り合って意気投合したから、河岸を変えて飲み直そうかーってだけの相手」
「本当に飲み直すだけなのかよ」
 疑問符なんてつかない強い口調に、これはもう知られているんだなと諦めのため息を吐いた。
「せっかく隠そうとしてるんだから騙されなよ」
「なんで俺を騙そうなんてすんだ」
「あのさ、幼馴染がゲイだった上に、夜の相手探してそういう場所に出入りしてるって知って、どうしたいの? 知らないほうが良いでしょそんなの」
 お前とは縁のない世界なんだからと苦笑したら、掴まれたままだった手首に鈍い痛みが走る。力を入れ過ぎだ。でも、相手は気づいてないようだったし、自分も痛いとは言わなかった。
「ああいう男が、お前の、好み?」
 抱ける程度の好意は持てる相手で、でも好みからはけっこう遠い。なんて教えるわけがない。寂しさを紛らわせてくれる相手には、雰囲気や言葉遣いが優しくて、でも目の前の男にはまったく似ていない男を選んでいた。
 だって別に、代わりを探していたわけじゃないから。本当にただ、一時的に慰めを欲していただけだから。
「そういう話、聞きたいもの?」
「俺はお前に、好きになった相手のこと、さんざん話して来ただろ」
「ああ、まぁ、そうだね。俺の相手は男ばっかりだから、聞かせたら悪いかと思ってた」
「悪くなんか、ない。知りたい」
「そっか、ありがとう」
「で、お前、あいつが好きなのか?」
「まぁ、抱こうとしてた程度には?」
 自分で知りたいといったくせに、言えばやっぱりショックを受けた顔をする。しかも目の中にぶわっと盛り上がった涙が、ぼろっと零れ落ちてくるから、焦ったなんてもんじゃない。
「えっ、ちょっ、なんでお前が泣くんだよ」
「だって、俺に、ちっとも似てない」
「は?」
「ここに来るまで、お前とあいつが出てくるの見るまで、男好きなら俺でいいじゃん。って思ってた。でも、わかった。俺じゃダメだから、お前、こういうとこ来てたんだって」
 もう邪魔しない、ゴメン。そう言いながら、掴まれていた手首が解放された。
「一人で帰れるから、店戻って。それと、お前のノロケ話もちゃんと聞けるようになるから。ちょっと時間掛かるかもしれないけど、そこは待ってて」
 泣き顔をむりやり笑顔に変えて、じゃあまたねといつも通りの別れの挨拶を告げて歩き出そうとする相手の手首を、今度は自分が捕まえる。こんな事を言われて逃がすわけがない。
「ねぇ、俺は、お前を好きになっても良かったの?」
「だって好みじゃないんだろ?」
「バカか。好みドンピシャど真ん中がお前だっつ-の」
「嘘だ。さっきのあいつと、全く似てない」
「それには色々とこっちの事情があって。っていうか、俺の質問に答えて。俺は、お前を好きになっていいの?」
 じっと相手を見つめて答えを待てば、おずおずと躊躇いながらも、「いいよ」という言葉が返された。
「じゃあ言うけど、小学五年の八月三日から、ずっとお前のことが好きでした」
「え、何その具体的な日付」
 戸惑いはわかる。何年前の話だって言いたいのもわかる。でもこの気持ちの始まりは確かにそこで、忘れられないのだから仕方がない。
「俺がお前に恋してるって自覚した日。まぁ、忘れてんならそれでいいよ」
「ゴメン、思い出せない」
「いいってば。それより、墓まで持ってくつもりだった気持ち、お前が暴いたんだから責任取れよ」
「ど、どうやって……?」
「取り敢えずお前をホテルに連れ込みたい」
 言ってみたら相手が硬直するのが、握った手首越しに伝わってきた。
「お、俺を、抱く気か?」
「え、抱いていいの?」
「や、いや、それはちょっとまだ気持ちの整理が……」
「抱いたり抱かれたりは正直どっちでもいいよ。でも、俺がお前を本気でずっと好きだったってのだけは、ちょっと今日中にしっかり思い知らせたいんだよね」
 今すぐキスとかしたいけど、さすがにこんな公道でって嫌じゃない? と振ってみたら、相手はようやく自分たちが今どこにいるかを思い出したらしい。ぱああと赤く染まっていく頬を見ながら、行こうと言って手を引いた。
 相手は黙ってついてくる。
 さて、十年以上にも渡って積み重ねてきたこの想いを、どうやって相手に伝えてやろうか。

 
 
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呼ぶ名前

 目の前の親友に恋をしてしまった。
 言えなくて、苦しくて、めちゃくちゃ心配されて、それでもどうにか口にできたのは、男を好きになったという部分だけだった。その程度なら、即、気持ち悪いと友情を切ってくるような相手じゃないと、付き合いの深さからわかっていたからだ。
 でもそれ以上はさすがに言えない。だって所詮は他人事ってのと、自身の問題とってのじゃ、天地ほどの差があるだろう。
 だから架空の片恋相手を作り上げて、切ない想いをたまに聞いてもらっていた。バカな真似をしている自覚はあったが、想いを隠しきれなくて相当心配をかけてしまった以上、そうするしかなかった。
 大きな誤算は、そんなに辛いなら俺が慰めてやろうかと、親友が言い出した事だった。
「そいつの代わりでいいよ。なんなら、そいつの名前で俺を呼んだっていい」
「バカなの?」
 バカなのは自分だ。好きだといった男の名前は架空のもので、本当に好きなのはお前だと、こんな提案をされてさえ言えなかった。言えなかったくせに、その優しい申し出を受け入れてしまった。
 だって親友とは親友のままでいたかった。恋人になんてなって破局したら、もう友人になんて戻れないかもしれない。代わりにという提案を受け入れるだけなら、親友はやっぱり最高に優しい男だったってだけで済む。もし試して上手く行かなくても、友情までは壊れないだろう。
 要するに、そんな逃げ道を作ってしまうくらい、恋の成就よりも親友と親友のままでいたい気持ちが強かった。
 でも、だったら、代わりになんて提案も、きっちり断るべきだったんだ。
「あいつの名前、呼ばないの?」
 触れてくれる手の気持ちよさにうっとりしていたら、呼んでいいよと優しい声が促してくる。
「な、んで……」
「あいつになりたいから?」
 代わりに慰めるのだから、名前を呼ばれることでなりきりたいって事だろうか?
「呼びなよ」
 再度促されて、架空の想い人の名前をそっと呼んでみた。わかりやすく胸がきしんで、ぶわっと涙があふれだした。
 後悔なんてとっくにしてる。でも間違った選択を重ねすぎて、どうしたらいいのかわからない。
 はっきりとわかっているのは一つだけ。
 親友と親友で居続けることさえ諦めればいい。でもそれを選べるなら、こんなことにはなってない。
「ああああゴメン。泣かせたかったわけじゃない」
 ごめんごめんと繰り返した相手は、もう呼べなんて言わないと言いながら、宥めるようにあちこちを撫でさすってくれる。優しくされて嬉しいのに、でもその優しさが辛くて、涙はしばらく止まりそうになかった。
 そんな風に始めてしまったいびつな関係は、それでもぎりぎり親友と呼び合う関係のまま、一年半ほど続いていた。でもさすがにもう終わりだなと思うのは、高校の卒業式が目前だからだ。
「ねぇ、お願いあるんだけど」
 体を繋げた状態で見下してくる相手は、珍しく不安そうな顔をしている。
「なに?」
「名前、呼んで欲しい」
 初めての時以来の要求だけれど、ぎゅっと胸が締め付けられた。
「えっ……」
 躊躇ってしまえば、ずいぶんと申し訳なさそうな顔をする。
「お前泣かせたいわけじゃない。でも、このままお前と親友のまま卒業していくの、やっぱヤダ。だから呼んで、俺の、名前」
 多分お前の気持ち知ってると思うと言った相手は、更にゴメンと続けた。
 意味がわからなすぎて混乱する。
「い、いつから……?」
「初めてお前とこういう関係になって、あいつの名前呼ばせて泣かれた時、あれ? って思った。後はまぁ、こういう関係続けてるうちに、確信に変わった感じ」
 あいつって実在してるの? という問いかけに首を横に振ったら、わかりやすくホッとされた。
「てことは、俺の勘違いじゃないよな?」
「俺、ずっとお前と、親友でいたくて……」
「あー、うん。それも知ってる。だからゴメン。お前と、親友ってだけのまま卒業したくないのは、完全に俺のわがまま。だからお前にお願いしてる」
 もう一度、名前を呼んでと甘い声に誘われて、親友の名前を口に出す。
 胸がきしんで涙があふれる、なんてことは起こらなかった。

 
 
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酒に酔った勢いで

 酒にはあまり強くないが、酒を飲むのは好きだった。というよりも飲み会の雰囲気が好きだった。アルコールでちょっとふわっとした気分になって、くだらない話にもゲラゲラ笑って、素面じゃ言えないような話を聞く。
 どんな話をしたかなんて翌日には半分以上忘れてるけど、楽しかった~って気持ちと、断片的な会話の記憶が面白い。
 学生時代からずっとそんなで、社会人になってからも声がかかれば出かけるし、暇を持て余したら自分から声かけてでも飲みに行っていた。
 そう頻繁だと、さすがにメンバーはだんだんと固定されていく。たまに飛び入りで懐かしい顔や新しい顔もあるけれど、しょっちゅう顔を合わせているメンバーはだいたい五人位だった。もちろん五人揃わないことも多くて、その時々で都合がつく相手が顔を出すだけだ。
 付き合いが長いと酒での失敗なんかも色々知られているし、互いの許容量もだいたい把握できている。飲み過ぎそうな時は途中で止めてくれるか、それでも飲まずにいられないって時はゴメン後は宜しくって潰れるまで飲んだりもできる。だからこの五人の誰かと飲む時は凄く気楽で、気が抜けているという自覚もわりとある。
 そんなだから警戒心なんて欠片も持ってなかったし、きっと油断もしまくりだっただろう。
「だからってこれはねーんじゃねーかなぁ……」
 ムクリと体を起こしてみたものの、自身の肉体の惨状に頭を抱えたくなった。
 若干の二日酔いで痛む頭と、全く別の理由で痛む腰。というか尻。もっと言うなら尻の穴がヤバイ。
 小さなベッドの中、隣にはメンバーの中では比較的古く、学生時代から一緒になって飲んでいた男が、自分と同じく服を着ずに寝ている。
 しかも場所は良く知った自宅だ。多分ほぼ潰れた自分を連れ帰ってくれたのだろうが、まさか送り狼に変貌を遂げるとは。
「あー……いや違うな」
 引き止めたのは自分で、誘ったのも多分自分。……という気がする。
 昨夜は五人揃ってて、それどころか二人くらい初めましての顔もいた。友人の友人も基本ウェルカムなので全く構わないのだが、ちょっとだけタイミングが悪くて、自分は片思い相手に恋人発覚で少しばかり荒れていた。最初っから潰れたい気持ちで飲んでいた。
 初めましての片方がバイだとか言ってて、なんなら慰めようかと言われた記憶は朧げにある。それに笑って、お願いしまーすとか返した記憶もだ。
 なのになんでコイツなの。
 何度確認したって一緒なんだけど、もう一度隣で眠る男の顔を確かめてしまう。
 相当飲んだし、記憶はいつも以上に途切れ途切れだから、正直どういう流れでコイツに送られて帰ることになったかなんてわからない。後、慰めてくれるとか言ってた男が最終的にどうなったのかもさっぱり記憶に無い。いや別に知りたいわけじゃないけど。
 体の痛み的に、多分突っ込まれたんだろうなーと思うと、酒の失敗にしても今回のは相当だなと思う。あーあ、これでまた黒歴史増えちゃった。
 そして問題は自分よりもむしろ相手。いっそ初対面だった男のがまだマシだったかも知れない。自分が酔い潰れたせいでこんなことになって、あのメンバーがギクシャクしてしまったら残念過ぎる。あそこまで付き合いのいい気心知れた飲み友を、今更手放したくなんかないのだ。
「なかったことに出来ねぇかなぁ」
「忘れたほうがいい?」
 独り言に返事があるなんて思ってなくて、思わず体が跳ねてしまった。
「痛ててててて」
「大丈夫か? だから無理だって言ったのに」
 相手が慌てたように起き上がって、いたわるように腰をさすってくれる。うんこれ、相手は完全に記憶あるね。
「あー……やっぱ俺が誘った?」
「記憶あるの?」
「ない。でも多分そうかなって」
「荒れてた上におかしな男におかしな誘惑されて、色々混乱してたんだろ」
「おかしな男?」
 というのはやはり、バイ公言してたご新規さんだろうか。
「覚えてないなら忘れときな。後お前、突っ込まれたって思ってるかもしれないけど、入らなかったから安心していいよ」
「は? 体めっちゃ痛いんですけど。体っていうか、腰と尻の穴」
「腰はお前がベッドから落ちて打ち付けたの。尻穴は無理だっつってんのにお前が入れろって煩いからちょっと真似事はした。けどすぐ痛いって泣いて逃げて落下したからそこで終わり。でもまだ穴が痛むってなら、少し裂けたりしたのかも」
 ゴメンと言われて、どう考えても今の話にお前が謝る要素なかったよなと思いながらも、流れのまま頷いてしまった。
「で、酔った勢いだから忘れて、ってなら、忘れることにしてもいいんだけどさぁ」
 なんとなく含みのある言い方な気がして、けどなに、と続きを促す。だって凄く聞いて欲しそうだったから。
「俺のものになって。ってのは俺も割と本気で言ったから、そこだけ改めて言っとくわ」
「は?」
「俺がお前狙いなの、他の奴らも知ってるから今後も気にせず飲みにいけるぞ。良かったな」
「えっ?」
 唐突過ぎる告白についていけずに疑問符ばかり飛び回った。
 そんなこと言われたっけ? 飲み過ぎたら忘れるタイプってわかってて適当言ってない?
 焦るこちらに、相手は自嘲と愛しさとを混ぜたような、不思議な笑みを見せている。ドキッとしたのは、この顔を知ってると思ったからだった。
「てかお前、俺のものになって、なんて殊勝なこと言ってたか?」
 思わずこぼれた自分の言葉に、少しだけ連動した記憶がよみがえる。
 お前は俺のものなんだから、気安く他の男に慰められたりするのは許さない。
 そんなセリフと熱い視線を受けたのは店の中か外かこの部屋だったか思い出せないけれど、確かその台詞のあとで、今と同じような顔を見せられたと思う。
 体の熱が上がっていくのを感じる。これ絶対顔とかも赤くなってそう。
 だって酔ってたとはいえ自分からお前誘ったのって、お前のこと受け入れたい気持ちがあったからじゃないの?
「あ、あのさ」
 酔った勢いだから忘れよう、なんて言ったら駄目だ。それだけは確実にわかる。
 だから飛んでしまった分の記憶を彼の言葉で補完しながら、昨夜のことと今後の話をしなければと思った。

有坂レイへの今夜のお題は『朦朧とする意識 / 酒に酔った勢いで / 「俺のものだ」』です。
shindanmaker.com/464476

 
 
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童貞が二人 5(終)

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 お前の中に入りたいなんてセリフを、懇願混じりに告げてくるのはズルい。だってなんだかんだ言っても相手のことが好きで、だから男同士なのに恋人って関係になって、体を繋げたいなんて気持ちにさえなっているんだから。
 仕方がないので、握っていた手の力を緩めて、相手を追い立てるような行為はやめた。
 代わりに、相手の手に意識を集中する。慣れた手つきでこちらの快感を煽っていくのに、散りそうになる気持ちを合わせていく。
 ペニスを弄られて気持ち良さで体に力が入るたび、後ろの穴に入れられた指を締め付けてしまって、最初はどうもいつものように集中は出来なかったけれど、だんだんと気持ちよさが連動していくのがわかる。アナルを収縮させて中の指を締め付けることが、なんだか気持ちが良いような気がしてくる。
「なぁ、中、ちょっとは気持ちよくなって来た?」
 どうやら相手も気付いたようだが、いちいち指摘されるのはなんとも恥ずかしい。
「言うなっ」
「だって気になるし。な、少し、動かしていい?」
 期待と興奮とが混ざる声に頷けば、ペニスを握ってこするリズムに合わせて、中の指も小さく前後し始めた。
「ぅあっ、ぁっ、ぁ、っ……んっ…」
 まさか自分の口からこんな声が漏れ出るとは思わず、気付いてすぐに唇を噛みしめる。
「声、噛むなよ」
「や、…ぁ、ぁあっ、だっ」
 嫌だと言うために口を開いただけで、余計なものまで漏れでてしまった。本当に恥ずかしい。
「ふはっ、かっわいい」
 お前の顔赤くなってると、わざわざ指摘してくるのはもっと照れさせたいからだろう。それがわかっていても、どうすることも出来ない。顔が熱いから、相手の思惑通りますます顔を赤らめたに違いない。
「ね、お前の中に、入れさせて」
 興奮する相手の目が少しギラついている。
「ん。いい、よ」
 とっくに逃げられないことは悟っていた。小さく頷けば明らかにホッと安堵の息を吐いて、相手は埋めていた指をゆっくりと引き抜いていく。
「正常位でいいよな?」
 聞かれたのは横になっていた体を起こした相手に、ガバリと足を開かれた後だった。行動に言葉が追いついていないようだ。
「好きにしろ。でもその前に、ちゃんとゴム着けろよ」
「あ、そうだった」
 慌ててコンドームに手を伸ばす相手を見ながら、こっそり深呼吸を繰り返す。それなりに覚悟は出来ているが、やはり緊張もしている。
「はい、準備完了」
 装着したコンドームの上にローションを垂らして少しなじませた後、相手は再度真剣な顔を向けてきた。
「で、そっちの心の準備は?」
「うん、まぁ、多分大丈夫」
 言えば嬉しそうににこりと笑われて、相手の顔が近づいてくる。本当にキスが好きだなと思いながら唇を触れ合わせ、好きの言葉に俺も好きだと返した。
「じゃ、入れるから」
「いちいち宣言しなくていいって」
「怖がりさんには必要だろ」
「もう怖くない」
「なら良かった」
 その言葉とともに相手の熱がグッと押し付けられて、それがゆっくりと腸壁を押し広げて奥へ進んでいく。痛みはなかったがやはり苦しい。
「んんっっ、くっ……」
「息して、息。あと、声、聞かせて。マジで」
「んぁっ、あっ、キツっ……」
「痛い?」
「イタ、く、なっ、ああっっ」
「じゃもーちょい我慢な」
 こっちも必死だったが、相手もそうとう必死な顔をしている。
 やがて全部を埋めることが出来たようで、相手が動きを止めて大きく息を吐いた。
「童貞卒業、おめでとう」
「ははっ、ありがと。お前も、」
「それは言わないで」
「だよな」
 アナル処女喪失なんて嬉しさの欠片もないので、そこには触れずにいて欲しい。
「でさ、俺ちょっと持ちそうにないから、急かして悪いけどお前の弄らせて。出来ればさっきみたいにキモチクなって?」
 どういう意味かと思ったら、相手の手がペニスを握って扱き始めた。挿入される衝撃にやはり少し萎えていたそれは、またすぐに張り詰めていく。
 今度は指ではなくて、入っているのは相手のペニスだ。そう思うと、体だけじゃなくて心にも、ゾクリとした満足感に似た快感が走る。
「うぁっ、あああ、あぁ、キモチぃ……かも」
「俺も、きもちぃ」
 ゴメン動くという切羽詰まった声と共に、少し乱雑に突かれてビックリしたが、でも痛みはなかったし確かに相手が達するまでの時間も短かった。一旦放置されてしまったこちらも、相手が動きを止めた後にすぐまた扱いてくれたので、追いかけるように相手の手の中に精を吐きだす。
 イく瞬間に体内に相手を感じたままというのは、そう悪い感覚でもなかった。
 息を整えてから体の繋がりを解き、それでもまだすぐには動きたくなくて、二人とも気だるげにベッドの上で横たわっている。
「またしたい。って言ったら、どうする?」
「別にいいけど」
「本当かよ。またお前が抱かれる側でも?」
「あー……まぁ、一度やったら二度目渋る意味もない、気はする」
 痛くなかったし、ちょっとは気持ち良かったし。二度と嫌だと拒否するような理由がない。
「でも俺も童貞卒業はしたい。出来ればお前で」
「え、何言ってんの。俺以外で卒業とかやめて欲しいんだけど」
 まぁそれはそうか。もし今日抱く側になったのが自分だったとして、抱けなかったから別の相手で童貞捨ててくるなんて言われたら、確かにちょっと待てって事になるだろう。
「じゃあ、今度は俺にもお前抱かせて」
 優しくしてねの裏声にクスリと小さく笑いながら、できるだけ頑張ると返し目を閉じた。
 ふわふわとした柔らかな睡魔に襲われている。きっといい夢が見れそうだと思った。

 
 
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