RPG風 シーフ×プリースト

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 持ち前のすばやさを発揮したビリーは、ガイが呪文を唱え終わるよりも先に、伸ばした手でその口を塞いでしまう。
「ん~~!」
 その手を振り解こうともがくガイを、そのまま羽交い絞めたビリーは耳元で。
「そう嫌がるなよ。別に悪いようにはしないぜ?」
 ちょっと一緒に気持ち良くなろうってだけじゃないか。
 その囁きにゾワリと肌が粟立ってしまうのは、内容のおぞましさに対する嫌悪か、耳朶をくすぐる暖かな風に呼ばれた快楽の兆しか。
 どちらにしろ、素直に頷き身体をあずけるような態度を取れるはずがなかった。
 けれど口を塞がれている以上、呪文の詠唱は不可能なのが現実で。素の状態では素早さも体力も、ガイはビリーに敵わない。
 そんな焦りの中で、状況はどんどんガイを追い詰めていくようだ。
 なんとか逃れようと身じろぐガイをものともせずに、ビリーは確実にガイの着衣を乱していく。
 やがて、シャツの下に潜り込んだビリーの、皮手袋に包まれた指先が胸の先をかすめ、ガイの身体はビクリと大きく跳ねた。
(あぁっ……) 
 ビリーの片手は相変わらずガイの口を押さえていたので、その嬌声が音となって漏れる事はなかったが、ガイの身体が示した快楽の証に、ビリーの口角がわずかにあがる。
「思った通り、感じやすいんだな」
 否定するようにガイは首を振って見せたが、普段見せる理詰めの戦略家とは思えぬほど、説得力がない。
 さて、どうやって落としてやろうか。
 まっさらに違いない身体を腕の中に抱いて、ビリーは楽しげに笑んで見せた。

 
 
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SIN2

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 響く女の嬌声と、揺れる肢体。
 
 あいまいにぼかされた映像に、雅善はあっさりと魅入っていった。
 一方美里は、低刺激な映像には大して興味が持てずに、欠伸を噛み殺す。
(あいかわらず、下らないな)
 そんなことを思いながら、ちらりと横の雅善を見やった美里は、その真剣な瞳に思わず苦笑を零した。こんなものに欲情出来る雅善が、微笑ましいとさえ思う。
「ワイ、トイレ……」
 やがてそわそわし始めた雅善が、そう言って立ち上がる。
「気にしなくていいって言ったろ」
 美里は言いながら、腕を伸ばして雅善の手首を掴んだ。
「見ながら、ここですれば?」
 振り返った雅善は、驚きの表情で美里を見つめ返す。
「そっちのが、感じるだろ?」
「そんなんええって。それより、手、放せや」
 美里はそれに応じるどころか、逆に雅善の腕を引いて、開いた自分の足の間にむりやり座らせた。
「ちょ、ちょおっ、やめっ!」
 そんな抗議の声を無視してフロントへ手を伸ばすと、美里はズボンの布越しにいきなり握りこむ。それと同時に、息を詰めるような雅善の小さな悲鳴と、美里の腕の中でこわばる体。
 それを詫びるように、今度は優しく、ゆっくりと撫でさする。
「ヨシ、ノリ……」
 掠れた声で、雅善が呼んだ。
「遠慮するなよ。気持ちいいだろ?」
 雅善は快楽に力が抜け落ちて行くのを感じながら、それでも懸命に首を横に振ったけれど、美里は当然のように無視を決め込んだ。
「画面に集中してればいいって。ほら、あの女の手とか舌とか、想像してりゃいい」
 言われて雅善が視線を上げれば、ちょうど女優が一生懸命奉仕しているシーンとぶつかった。一瞬見とれて、けれど。ズボンのジッパーが下ろされる音と、続いて中に進入して来た少し冷たい美里の手に、ハッと我に返った雅善は慌ててその手を押さえようとする。
「嫌がるなよ、雅善」
「嫌に、決まっとる、やろ……」
「こんなの、普通のことだって。上映会する時なんて、みんなでヌきあったりするんだぜ?」
(ってのは嘘だけど、わざわざトイレに行ったりする奴も居ないんだよ)
 そんな心の中を悟られないように、美里は更に続ける。
「それに、人にされた方が、イイだろ? たまには、新鮮で、さ」
 雅善はやはり首を振ったけれど、美里の手首を握り締める力が抜けて行く。それをいいことに、美里は雅善の手を振りきって下着の中にまで手を忍ばせて行くと、確かめるように熱を孕む欲望の先に指で触れた。
「はぁっ、あっ、ぁぁ……」
 指の先に触れたぬめる雫を広げるように延ばして行くと、雅善の体がガクガクと震えて、途切れがちで小さな、悲鳴に似た声が上がる。
(雅善相手に、何やってんだろな)
 そんなことが脳裏をよぎったりもしたけれど、美里は行為を止めたりはせずに、雅善の弱い部分を探り続けた。

 

「あぁ~ん、イイっ。あぁん、もっと、……あっ、あっ、イイ……」
 テレビから流れる、女の甘えた声と。
「あっ、あっぁ、やぁっ……あぁぅ、うぅんっ、んぅ……」
 雅善の漏らす、吐息に似た切ない喘ぎ声と。

 

 女の声を鬱陶しく感じながら、美里の耳は雅善の声を拾い集めていく。そしてたまに、かすかに響く、粘液の擦れる クチュッ というイヤらしい音も拾うたび。
(まずい、かな……)
 同性の友達の、掠れる声や濡れた音に興奮しはじめた自分自身に、美里は自嘲の笑みをこぼした。
「せっかくだから、あの男と同時にイくか?」
 もちろん最初から、美里には雅善の返事など聞くつもりはなかった。
「アっ……ホ、言うなっ、はぁ、あ、やぁって……」
「ちゃんと、見とけよ。ほら、あの動きと同じリズムで扱いてやるから」
 だから、かろうじて否定の言葉を紡いだ雅善の意識を、美里はテレビの中で繰り広げられている行為とシンクロさせることで、むりやり映像へと向けさせる。美里から与えられる快楽に、すっかりテレビから美里の指へと意識を移していた雅善も、顔を上げて閉じかける瞳をなんとか開いた。
 女を喜ばすように、ゆるやかに責め立てる動きに合わせて、美里の手が上下している。それがやがて、終焉へ向けて加速されて行くのに、雅善はあっさり音を上げた。
「もぅ、あかん……って、ヨシ、ノリ……」
「しょうがないな」
 押し止めてしまうことも考えないわけではなかったけれど、美里はそうせずに、雅善を追い上げていく。
「イって、いいぞ」
「あっ、ぅ……っ、イっ……く、ぅっ!」
 わざわざイく瞬間を宣言した雅善に、美里は苦笑を漏らしながら。脇からそっと覗き込むようにして、吐き出されて来る暖かな精を、その手ですべて受け止めた。
 濡れた手で、搾り取るように下から数度擦りあげれば、雅善の体がビクビクと痙攣し、わずかに残った残滓が零れ出す。
「たくさん出たな。気持ちよかったろ?」
 雅善が落ち着くのを待って、わざわざその手を掲げてみせた美里に、雅善は脇に置かれたティッシュの箱から無造作に数枚抜きとると、無言のまま美里の手についた自分の汚れを拭った。
「手、洗ってこい」
 思いのほかさめた口調に、美里は自分の足の間に座る雅善をよけるようにして立ち上がると、洗面台へと姿を消した。

 

 

 美里の後ろ姿を見送った雅善は、大きなため息を一つついた後、汚れをティッシュで拭って服を整える。ビデオはいまだに続いていたけれど、平然と続きを見る気にもなれず、雅善は置いてあったリモコンで電源を切ってしまった。
(信じられへん……)
 もう一度溜め息をつきながら、雅善はソファの背もたれにポフリと寄り掛かって目を閉じた。
(美里なんかの手で、イってまうなんて……)
 そもそも、ためらいもなく触れて来た美里の精神を疑いたい。
(普通って……普通って……こんなん、普通とちゃうやろ!)
 それとも、自分が知らなかっただけで、こんなことをしている友達はもっとたくさんいるのだろうか? 
 そんなことを、雅善は泣きそうになりながら考える。
「泣いてるのか?」
 その声に、雅善はハッとして目をあける。
 いつの間にか戻ってきていた美里が、見下ろすようにして立っていた。
「泣いとるように、見えるんか?」
「一瞬、そう見えた」
 そう言いながら伸ばした手で、美里は雅善の髪をくしゃりとかき混ぜる。そして、雅善の視線を捕らえたまま、そっと顔を寄せて行く。
 何を考えているのかよくわからない、複雑な笑みを見せたまま近づいてくる美里の顔を、雅善は諦めに似た気持ちで受け止めた。
「これも、普通のことやって言うんか?」
「えっ?」
「友達と集まってビデオ見て、ああいうコトするんは、普通なんやろ?」
 美里にもよく聞こえるように、雅善はわざと大きく溜め息をついてみせた。
「怒ってるのか?」
「怒っとる」
「でも、気持ち良かっただろ?」
 その言葉に、どうしても先程の、甘く痺れるような気持ち良さを思い出してしまう雅善は、頬が朱に染まるのを止められない。それを見て、美里はどこかホッとしたように微笑んだ。
「悪かったよ。確かに、普通じゃないことをしたな」
 その謝罪が、むりやり触れたことについてなのか、キスしたことについてなのか、雅善にはわからない。
「確かに普通じゃないついでに、口説いてもいいか?」
「何、言うとんの?」
「好き、かも知れないんだ」
「せやから、何が?」
「だから、雅善のことが」
 欠片も想像していなかった展開に、雅善は驚き目を見張った。
「頭、おかしなったんとちゃう?」
「どうかな。お前の喘ぎ声で興奮出来るんだから、確かにどっか可笑しいのかもな」
 平然と言ってのけた美里に、雅善は言葉を失って。目の前に立つ美里を、ただただ見上げ続ける。
「口説いても、いいだろ?」
 そんな雅善に、柔らかな笑みを浮かべた美里が再度尋ねた。
「あかん。て言うても、意味なさそうな顔しとるで」
「ああ、多分、意味無いだろうな」
「男に口説かれる趣味なんてあれへん」
 それは雅善の精一杯の抵抗だったかもしれない。
「俺も、男を口説く趣味は無いな」
「ワイ、男なんやけど?」
「わかってる。まぁ、お前だから特別。って、ことなんだろ」
 勝手に一人で吹っ切って、爽やかに笑って見せる美里に。
(かなわんなぁ~)
 諦めにも似た気持ちで雅善は思った。
 これ以上何を言っても、美里の気が変わるとは思えない。
「ほな、口説いたってかまわんけど。それで、ワイが落ちるわけちゃうで?」
「それでもいいさ。好きだぜ、雅善。もう一度キスしてもいだろ?」
「イ、ヤ、やっ!」
 雅善は即答したけれど、それくらいで美里が諦めないことも分かっていたし、どうやら自分が本当に嫌がっているわけではないことも、知っていた。
(ビデオ見さしてもらうだけのつもりやったのに……)
 雅善の零した小さなため息は、触れる唇の合間に溶けて消えた。

< 終 >

 
 
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SIN1

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 チャイムが鳴って、雅善が来たことを告げる。
「明日の放課後、遊びに行ってもええ?」
 そんな電話を美里が貰ったのは、昨日の夜のことだった。
 雅善は近所にある学習塾で知り合った友人だが、学区が違うため通う学校は同じではない。
 塾の休憩時間を一緒に過ごすことは多いが、塾のない日にわざわざ互いの家を行き来するほど親しいわけでもなかった。雅善が美里の家に訪れたことがあるのは、せいぜい2回といったところだろうか。
「それは、家にいろってことなのか?」
「大事な用事があるなら、別の日でもええけど。ちょぉ、借りたい物あんのや」
 『借りたい物』が何かという質問はあいまいにはぐらかされたけれど、美里は了承の意を告げて電話を切った。 
「で、何が借りたいって ? 」
 お邪魔しますと言いながら家の中に上がって来た雅善に、美里が尋ねる。
「ああ、あ~っと、……DVDプレーヤー、貸して欲しいんやけど」
「壊れたのか?」
「ちゃうって。あ~、うち、おかん専業主婦やから……」
 歯切れの悪い雅善の言葉に、けれど美里はすんなり理解を示した。
「なんだ、それならそう言えばいいじゃないか」
「言えへんって」
「借り物なのか?」
「いらんて言うたのに、むりやり押しつけられたんや」
「ふーん、……のわりに、ちゃんと見るんだな」
「ま、多少は興味あんねん」
 恥ずかしいのか、少し頬を染める雅善に苦笑しつつも美里は雅善をリビングへと案内し、ちょっと待ってろと言い置いてカーテンを閉めに行く。明らかに慣れたその様子に、雅善は多少ホッとして、ほんの少しからかってやろうかと、美里の背中に声をかけた。
「ずいぶん手際がええけど、美里はよお見たりするんか?」
 そしてついでに、スケベやなぁ、なんて一言も付け加えてやる。
「よく……というか、親が不在がちの家なんて、格好の上映会会場だろ?」
 けれど美里は気にするでもなく、さらりとそう返して来たので、逆に雅善のほうが驚いてしまった。
「みんなで見るんかっ?」
「そういう付き合い方をしてる友達も何人かはいるってことさ。気になるなら、今度呼んでやろうか? 場合によっちゃ、すごいのが見れるぞ」
 今日が初めてのお子様には刺激が強すぎるからやめたほうがいいかもしれないが、なんて笑いながら、カーテンを閉め終え近づいてくる美里に、雅善はフルフルと頭を振って断った。
「大勢で見るもんちゃうやろ」
「DVDを仲間うちで回すのも、上映会を開くのも、大して違わないと思うけどな。どうせ、下らない内容の批評とか、映像の善し悪しとか、何回ヌいたかとか、そんな話をするんだろう?」
 あっさりと吐き出されて来るセリフの内容に、雅善はカッと頬を朱に染める。
「見る前からそんなに照れててどうすんだか。ほら、ソフト出せよ」
 顔を赤く染めたままの雅善は返す言葉がない。それでも、美里に促されながらぎくしゃくした動きで鞄からDVDを取り出した。DVDを受け取った美里はさっさとプレーヤーにセットし、立ち尽くす雅善を引っ張ってソファに座らせる。
「なぁ……」
 当然という顔をして自分の隣に腰をおろした美里に、雅善はためらいがちに声をかけた。
「美里も、一緒に見るんか?」
「別に、俺のコトなんか気にしなくていいって」
(気になるっちゅーねん!)
 その言葉をかろうじて飲み込んだ雅善に、美里はどうぞの言葉を添えた笑顔でティッシュの箱を押しつけた。

>> 次へ

 
 
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ビガぱら 短編一覧

SIN1 SIN2  学習塾で知り合った美里と雅善が、美里の家で一緒にアダルトDVDを見ます。ショタ・同級生。

RPG風 シーフ×プリースト  ビリーはナンパでタラシなシーフ、ガイは教会で純粋培養された生真面目プリースト、なイメージで。

電ア少年 従兄弟の場合  少年に電気アンマをする話。CP物というよりはショタ物。マニア向け。中3美里と小5雅善。相互にしたりされたり。

電ア少年 転校生の場合  少年に電気アンマをする話。CP物というよりはショタ物。マニア向け。転校してきた雅善がクラスメイトにやられます。美里は助けに入るだけ。

電ア少年 家教と生徒の場合  少年に電気アンマをする話。CP物というよりはショタ物。マニア向け。Sなナツ先生にM性を暴かれる青治。

獣の子1 獣の子2 獣の子3 未完の作品です。豹族ビリーのペットとして飼われることになった猫族ガイの話。獣人萌えでチラッと書いたけど、完結しないままサークル活動停止になりそのまま放置されてたもの。

 
 
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Eyes6話 幸せな時間

>> 目次  >>1話戻る

 

たくさんの 好き を言い合って。
何度も キス を重ねて。
確かめるように、触れ合って。
     
幸せで、楽しくて、なんだか可笑しくて、
笑う。

     
「楽しそうだな」
 思わずこぼれたクスクス笑いに、そう言われてしまった。
 けれど、美里だって、本当は笑いをこらえてるのを知ってる。同じくらい幸せを感じてくれてるって、柔らかく細められたその目を見れば分かる。
「くすぐったいんや」
 目をじっと見つめながらそう言ってみたら、やはりすぐに嘘だと気付いたらしい。
「すぐ、気持ちよくなる」
 わざと真面目な顔でそんなことを言うから、ますます可笑しくなる。だから、もうこらえるのを諦めた笑いと共に、尋ねてみた。
「美里は? 気持ちええ?」
「気持ちいいよ」
 すぐさまそう返した後、耳元へ唇を寄せて来る。
「雅善が笑うと、その振動が直に伝わってくるんだぜ」
 そのまま耳に歯を立てられて、思わず体が竦んだ。そして、当然の結果だとは思うけれど、クッと美里が息を詰める音が聞こえた。
「そろそろ、我慢できなくなっとるんとちゃう?」
 からかいを混ぜながら尋ねれば、そうかもな、とあっさり認める。
「でも、なんだか勿体ない」
「何が?」
「笑ってる雅善を、もっと見ていたいと思ってな」
 そう言ってニヤリと笑い返されたから、負けないくらいの微笑みで。
「でもワイは、ワイを感じて気持ちようなる美里を、もっと見たいて思っとるんやけど」
 そう告げた瞬間の驚いた顔に、してやったりとほくそ笑む。そして、美里の表情が苦笑顔へと変わって行くのを眺めた。
「すごい誘い文句だな」
「けど、キたやろ?」
「……キた」
 
  
 困ったなと笑う美里に、少しだけ首を伸ばしてキスを贈った。
  






その瞳を知っている。

ほんの少し離れた場所から仲間たちに向ける、
優しい目。
竹刀や防具のメンテナンスをする時の、
真剣で、楽しそうな目。
稽古や試合で対峙した時に見せる、
獲物を追う獣の目。
 
そして自分を抱く時の、
幸せそうに、細められる瞳。

< 終 >

 
 
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Eyes5話 自覚(美里)

>> 目次  >>1話戻る

 

 目覚めた時、雅善の姿はなかった。
(気付かないほど、深く眠ってたのか……)
 溜め息と共に起き上がった。
 何度も果てて、やがて泣きながら意識を手放してしまった雅善を、抱き包むようにして眠ったのはおよそ6時間前で、時計は少し遅めの朝を指していた。
 
本当に、嫌がっていた。
怯えて、逃げたがる、体と心とを。
騙して、あやして、
時に脅して、追いつめて。
むりやり、感じている時の表情を暴いて、眺めた。

 
(お相子ってやつだろう?)
 そう思ってみるものの、どうにも、自分の方が分が悪いような気がしている。
 泣いて許して欲しいと頼まれさえしたのに、あんなに嫌がっていたのに……
 気絶するまで追いつめるつもりなんて無かったはずが、気付けば、もっともっとと際限なく煽る自分の中のもう一人の囁きに、従っていた。
  
 
  
  
 静かな部屋の中に、また一つ、溜め息が落ちた。



 
 変わらない日々が過ぎて行く。正確には、何もなかった頃と変わらない日々が。
 
 
雅善は、誘わなくなった。
 
 
 週が開けて顔を合わせた時、ためらって朝錬ギリギリの時間に顔を出した自分に、雅善は遅かったやないかと言って笑いかけてきた。懐かしい、笑顔だった。
 一瞬驚いて、けれど、ホッとしたのも事実。初めてキスを交わしたあの日から、自分には向けられなくなった笑顔に、正直戸惑いと苦い想いを抱いていた。
 雅善は前と変わらない笑顔を見せるようになったけれど、そのかわり、二人だけになるのを極端に避けるようにもなっていた。つい先日までとはまるで逆の行動に少々飽きれつつ、けれど、自分がしたことを思えば仕方がないかという気もした。
 
 
それが雅善の出した答えなら、それでもいい。
 
 
 何もなかったコトにして、何もかも忘れたフリをするのは、そんなに難しいことじゃないだろう。それなのに、いつまでたっても忘れられない。
 さすがに正面からじろじろと見ることは憚られたけれど、俯いた顔や横顔にあの夜の雅善を重ねてしまう。嫌がって泣きながら、けれど、熱に浮かされて喘ぐ顔や声が、焼きついて離れない。
 
もう一度、見たい。
もう一度、聞きたい。
  
もっと、感じさせたい。

 
「雅善!」
 部活を終えた帰り掛け、腕を掴んで呼び止めた。どうやら酷く驚かせてしまったらしく、ビクリと体が跳ねる。
「話があるんだ」
 怖々と振り向いた雅善に告げれば、ゴクリとツバを飲み込んでから、掠れかけた声でわかったと答えた。
「……ほな、今日ん夜、美里んトコ行く。それで、ええやろ?」
「わかった」
 待っていると付け加えて、腕を離す。
「ほな、また後で」
 こわばった顔での挨拶。もう一度その腕を掴んで引き寄せてしまおうかとさえ思って、けれど、駆け出してしまった雅善に伸ばしかけた腕は届かなかった。

 

 

「ワイのこと、殴ってええから、それで許したってって言うんは、あかんか?」
「は?」
 ドアを開いた先、思い詰めた表情の雅善にいきなりそう告げられて、意味がわからなくて思わず声のトーンが少し上がる。
「嫌やったんやろ? ワイが誘って、むりやり抱かせとったんは。友達のまんまで居りたかった美里の気持ち、わかっとったけど、でもホンマはワイのこと好きなんやろうって、勘違いしとった。美里の目に、翻弄されたんは、ワイのせいやな」
「俺の、目……?」
 そう言えば何度か、何故見ているのかと尋ねられた事があったと思い出す。何か言いたいことがあるのじゃないかと尋ねられ、特に意識して見ていた訳ではなかったから、別に無いと返したはずだ。けれど、見られていた方にしてみれば、いい気はしなかっただろうと想像がつく。
 イライラした調子の雅善と目があった記憶は、言われて見ればかなりの数だ。あれは、自分が知らずに見つめていた時だったのだと知る。
 そして、その目を、勘違いしたのだと雅善は言う。
 どんな視線で見ていたのか、自分ではわからない。けれど少なくとも、誘って見ようという気にさせるほどのしつこさで、見つめていたのだろう。そうだったのかと、少なからず納得させられた。
「嫌やったらもっと本気で嫌がったらええんやって文句言いたなるけど、美里には出来んって、きっとわかっとった。わかっとって、むりやり誘って、抱かせて……怒らせてもうた」
 別に怒っていた訳じゃないと告げる間もなく、話すうちにだんだんと俯いてしまった雅善は更に言葉を紡いで行く。
「ワイが誘った回数に対して、この前のあれくらいで、許せへんかもしれんけど。あんな風に抱かれるんは、嫌やねん。自分勝手なことしとるって、わかっとるけど。けど、代わりに気ぃすむまで殴ってええから……」
 話しきったのか、そこで口を閉じた雅善にどう言葉を掛けていいのかわからず、口からは溜め息が零れた。恐がるように、雅善はビクリと体を震わせる。
「……それとも、抱かれへんとあかんか?」
 ゆるゆると顔を上げた雅善は、泣きそうな表情をしていた。
「この前は、悪かった。あんな風に追いつめるつもりはなかったんだ」
「美里が謝る必要なんて、あれへん。ワイも、美里に同しコトしとったんやし」
「違うだろ。誘ったのはお前だけど、誘わせたのは、俺だったんだな」
 
俺のせいにして、かまわないのに。
俺のせいにして、逃げてしまえばいいのに。
    
俺は、たくさん傷つけただろう?

    
「お前は多分、間違ってない。俺は、きっと、お前が好きだ」
「何、言うて……」
「俺は別に、むりやり抱かされた事を怒ってなんかいない。嫌だったのは、お前が笑わなくなったことと、抱けって迫るくせに、辛そうな顔ばかりしているのが耐えられなかったからだ」
 抱きたいなんて意識したこともなかったから、そんな行為で自分達の関係が変わって行くのは確かに嫌だった。けれど、誘われて、煽られて、雅善を感じることに嫌悪したことはないのだ。
「俺は、いつも痛みをこらえて、泣きそうな顔で抱かれるだけのお前を、ちゃんと感じさせたかっただけなんだ」
「けど、ワイが誘わんかったら、美里は何も気付かへんまんまで、友達のまま居れたやろ。男同士で、こんなコトするんは間違っとるってわかっとるのに、わかっとって誘ったんやで。だからワイは、美里が感じてくれるだけでええって、そう思っとった」
 怒っていいんだと言う雅善に、怒りの感情などわくはずもない。それより、今までの自分達の行動を振り返った反省なんかよりも、もっとずっと重要なことがあると気付いて笑いかける。
「なぁ、俺を誘うのは、雅善は俺のことが好きなんだって、そう思っていいんだろう?」
 突然何を言い出してるのだと言わんばかりの、驚きの表情。
「俺は、好きだよ、雅善のことが。抱きたいし、感じて欲しい。あんなに抱き合ってたのに、俺もお前も、一度も好きって言わなかったんだ」
「言えるような、雰囲気やなかったで」
「だから、今、言ってくれって頼んでるんだ」
「…………好きやで、美里」
 随分待たされた後に告げられたそれは、囁くような小声だった。けれどその柔らかな声音は、はっきりと耳に届いた。
「キスしても、いいか?」
 雅善は柔らかな口調と困ったような苦笑で アホ ともらしながら家の中まで入ってくる。そして二人見つめあい、閉まる扉に隠れながら、『最初』のキスを交わした。

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