金に困ってAV出演してみた16

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 風呂を出た後は、疲れてるだろうけどちょっと真面目な話をしようと言われて、リビングに通される。
「真面目な話っていうか、今後の仕事の話なんだけど」
「あ、もしかして、仕事内容に融通利くかもとか言ってたやつ?」
「まぁそうかな」
「どんな融通が利くもんなの?」
「あー、いや、そういうのとはちょっと違う。というか、さっきのセックス、売り払う許可が欲しいんだよね」
「は?」
 最初はさっぱり意味がわからなかったけれど、どうやらこの部屋は彼の自宅というわけではなく、あちこちに盗撮用の隠しカメラが設置されていて、この部屋に入った時からずっと撮影されていたらしい。
 それを聞いても、どうりで、という納得しかなかった。はじめましてがAV撮影現場で、会うのは二度目で、本名も知らないような男をよく自宅に連れ込む気になると思っていた。高校卒業したばかりの男の子が一人暮らしをするにしては広いなと思ってもいた。
 ついでに言うなら、カメラは彼の車にも設置されてたというから、つまりは、車に乗り込んでから先のやりとりは全部記録されているようだ。
 要するに、それらを編集して、プライベート盗撮風の作品として売っていいかという話らしかった。盗撮風というか、何も知らされていなかった以上、盗撮以外の何物でもないんだけど。もちろん先程風呂場で撮っていた動画も混ぜ込むつもりだと言われたから、盗撮じゃないのなんてそこだけだ。
「プライベートな事情は一切入れない編集を俺がする。気になるなら、完成後にチェックして貰ってもいい。ギャラは条件次第だけど、さっき聞いた必要額に色付けて出す気がある」
「は?」
「この提案に頷いてくれたら、お金のために仕方なく出る必要がなくなって、結果的に不本意な撮影に無理して応じなくても良くなるでしょ? って言うのが、次の仕事に融通利かせられるかも、って意味だったんだけど」
「あー……まぁ、それは、そうか」
「で、いい?」
「ダメ、ではないけど……」
 彼には色々話してしまったけれど、そういったプライベートな事情は削ると言っていた言葉を疑ってはいないし、盗撮されていたことも、それを売りたいと言われたことも、別にそこまで問題じゃない。
 さっき風呂場のイチャイチャを撮影したいと言われた時に、動画流出の可能性を考えた上で許可した。あの時考えたのは、こちらの知らないうちに流出する可能性だったから、こうして事前に許可を取り、金銭を支払うと言われているのは、誠実な対応をされている気もする。それに既に終わったセックスが金銭換算されるのは、むしろ有り難い提案だった。
 それでも、即答でいいよとは言いにくい。言うなればさすがに警戒していた。だってあまりにも美味しい話過ぎる。こちらに都合が良すぎて、何か大きな落とし穴でも待ち受けていそうで怖かった。
「ではないけど?」
「ギャラ、多すぎない? 条件って、何?」
 まだ二本しか出演していないけれど、ダントツで高額を提示されたのが解せないのだ。まぁ、この世界の適正価格なんて良くわからないし、他スタッフが居ない分だとか、勝手に盗撮してたからだとか言われたら、納得してしまいそうではあるが。
「条件は、いつか俺が初監督する作品への出演予約、かな」
「は?」
「さっき、撮る側になりたいって言ったでしょ。厳密に言えば、許可を貰った時点で初監督作品はこのプライベート盗撮になるんだろうけど、ちゃんとスタッフ揃えて撮る初作品に、出て欲しい」
 大学の長期休暇に合わせてスケジュールを組むから、また髪色を変えて戻ってきて、みたいなことを言われて、そういやさっきも似たような話をしたなと思う。
「えっと、あれの続編だけなら考えなくもない、って言ったと思うんだけど」
「うん。だけどあれの続編を出そうなんて話が持ち上がるかはわからないし、それを約束にしたくはないんだよね。でも俺はいつか、というか近いうちに必ず撮る側になるから、それを約束にしておけば、絶対にもう一度現場で会えるでしょ」
「うーん……」
「やっぱりこの世界にはもう戻ってきたくない感じ?」
「じゃなくてさ、続編だけならって言ったのは、相手がわかってるからってのも大きくて」
 彼が撮る側になるなら、相手役は別に用意されるのだろうし、彼の前で彼以外の男に抱かれて、上手く感じられる自信が全く無い。
「あ、相手はもちろん俺で」
「は?」
「撮る側って、制作側って意味で使ってた。俺もカメラは持つかもだけど、他のカメラも用意するし、なんていうか、俺が撮りたい俺主役の作品に、相手役で出て、みたいな?」
 まだ一本目すら発売されていなくて、この世界の自分の価値なんてさっぱりわからないんだけど、ここまでして引き止められているからには売れる公算でもあるんだろうか。自分としては、どこにでもいそうなネコよりのゲイ、なはずなんだけど。
 それでも結局、出演するのはその一本だけって事で了承した。だってこれに頷けば、これ以上AVに出る必要がなくなる。
 春休みはまだ残っていたし、出演の打診も幾つかはあったが、それらは全部断った。

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金に困ってAV出演してみた15

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 お風呂にお湯がはれるまで休んでてと言われて部屋に一人残された後、どうやら寝落ちていたらしい。そろそろ起きてと軽く揺すられて意識が浮上した。
 もう少し寝かせてと思う気持ちはあるが、一緒にお風呂を了承したのは自分で、しかも楽しみでもあったから、仕方なくゆるりと目を開けていく。開いた目に入ってきたのは顔の前に何かを構えている相手の顔で、その何かというのは多分カメラだった。
「なに、してんの?」
「記念撮影?」
「動画?」
 聞かなくたってわかっていたけれど、一応で確認を取れば、あっさりそうだと返ってくる。ただ動画を撮られているという認識がされた後も、どう反応すればいいのかはわからなかった。
「もしかしなくても困ってる? よね?」
「そりゃあ……」
「俺ね、どっちかって言ったら、撮る側になりたいんだよね」
「ああ、そうなんだ」
 それを聞いて、なんとなく腑に落ちた面はある。
「だから本当は、ハメ撮りとかも狙ってたんだけど、そっちは諦めたから事後のイチャイチャくらいは撮影させて欲しいなぁって思って」
「ハメ撮り、諦めたんだ?」
「だってカメラ向けたら、撮られてるって思って構えちゃうでしょ。撮影の時よりずっと可愛かったから、カメラ意識されるのは勿体ないなって思って。このまま安心して抱かれてて欲しかったし」
「そっか」
「で、一緒にお風呂するとこ、撮ってて、いい?」
「えーと、つまり、フェラするとこを?」
 風呂場でお口でして欲しい、と言われたことを思い出しながら問いかける。AVを撮る側になりたいというなら、この口でしてという発言も、最初から撮影する気での提案だったんだろう。
「まぁそれが一番の狙いってのは否定しないけど、でも体の洗いっことかだってしたいし、お風呂上がりに体拭いてあげたり、髪乾かしてあげたり、そういうの全部だよ。お風呂でイチャイチャしよって言ったでしょ」
 今現在、カメラを手で構えているのに、体の洗いっこだのをどうやって撮影する気なんだという疑問は湧くものの、練習がしたいなら好きにすればいいと思う。プライベートとは言っても、互いに本名は知らないままだし、AVに出てる時点で流出どうこうを不安に思うのはバカらしい。
 いいよと言えばやったぁと大げさに喜ばれて、またしても手を引かれながら風呂場へ移動する。ただし今度は、相手はこちらにカメラを向けた状態で、後ろ向きにそっと歩いている。
 別にいいんだけど、カメラはそこまで大きいわけじゃないから、彼が楽しげに口角を上げているのもしっかり見えていて、だんだん笑いが込み上げてくる。楽しそうで何よりだ。
 自分のように何か後ろ暗い事情があって、仕方なくAVに出たり作ったりしてる人たちが大半なのかと思っていたから、そういう後ろめたい雰囲気を全く感じさせない彼を見ていると、手っ取り早く体を売るような真似をした自分の疚しさが少しだけ薄れていく気がする。
 たどり着いた風呂場には別のカメラも用意されていて、話しついでに温度差がどうとか結露がどうとかを説明されたけれど、ようするにそれを使えば浴室でもバッチリ綺麗な動画が撮れるって事らしい。あと、カメラを置く用の台とかカメラを下げておくフックだとかも設置された、ちょっと特殊な浴室だった。
 いやまぁ、カメラを持ち込んでるから、カメラ用の台なのかって思うだけで、そうじゃなければシャンプーボトルでも置く用かなって思ってたかもだけど。フックも、ボディタオルでも引っ掛けとく用かなって思ってたかもだけど。
 そんなわけで、体を洗い合う時はカメラは置いて、フェラをする時は彼がカメラを手に持って、撮影が進んでいく。
 二人きりだしこの前とは全然違うんだけど、でもだんだんと彼が監督のAVを撮影しているような気分にもなってきて、フェラの最後に顔写されるのも許したし、それをけっこうしっかりアップで撮られるのも受け入れた。だってどうせ風呂場だし。
 セックスの後、風呂場でこんなにキャッキャとはしゃぐなんて凄く珍しかったし、練習だろうと撮影するためじゃなきゃこうはならなかっただろうと思うと、カメラを向けられるのもそう悪いもんじゃない。

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金に困ってAV出演してみた14

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 きっと好奇心と向上心からなんだろうけれど、やっぱりというかなんというか、色々な体位を試された。でも触れてくれる手は優しかったし、どうすると気持ちがいいかとか、どこか辛くはないかを結構な頻度で気にしてくれたし、相変わらずの口の上手さで、練習台にされてるだとか試されてるだとかを不快に思うことはなかった。
「あっ、ぁあっ、きもち、ぃぃっ」
 後ろから横抱きにされる側位は、密着度が高くて凄くいい。自ら片足を開くように抱え上げるのは、はしたなくてイヤラシく、自分自身も興奮するけれど、相手もめちゃくちゃ興奮してくれるようだった。
「ここ、本当に弱いよね。中も凄いよ」
 興奮の滲むうっとりとした声が、熱い息とともに背中に掛かる。
「きゅっきゅって何度もちんこ締め付けてくれる」
 もっとしてって言われてるみたいで凄く可愛いと言いながら、言葉通り、弱い場所をカリの段差に引っ掛けるようにして何度もゴリゴリと往復される。
「あああっっ、いいっ、それっ、いっちゃう」
「も、イク? おちんちん握ってあげようか?」
「ん、ん、して。おちんちん、して。イカせて」
「ね、イクとこ、見てもいい? これが気持ちぃからこのまま突いててって言うなら、そうしてあげるけど」
 でも出来れば見たいなと、甘えるような声音を使われたら、嫌だなんて言えない。いいよと頷けば、相手だけ横たえていた体を起こして斜めに挿入するような形になる。
 突かれる角度が変わって、今にもイキそうだった快感も一度は逸れたものの、ペニスを扱かれながら再度ズコズコと腰を振られれば、またすぐに体はキモチイイでいっぱいになる。しかも腰を揺するうちにこちらのイイトコロも把握していくのか、また弱い場所を狙って突かれるようになる。
「あー、ああ、いぃ、きもちぃ」
「きもちぃの、ホントかーわいい。おちんちんもびっしょびしょだよ。早くイキたくて一生懸命プルプルしてるのも可愛いね」
「ぁあ、いくっ、いっちゃう」
 イッていいよと促されながら、搾りだすようにペニスを扱かれ、グッと前立腺を押し込まれれば、昇りつめていく体がビクビクと痙攣してしまう。目の裏とか頭の中で、チカチカと星が瞬いた。
「ああああ、でるっ」
 絶頂感とともに、相手の手にペニスをこすりつけるように腰を揺らしてしまう。ただ、ちゃんと射精できているのかはよくわからなかった。というか多分、殆ど出ていない。
「出すもの無くなっても、イクときはでるって言っちゃうんだね」
 んふふと笑って、そういうとこも凄く可愛いよねと続いた言葉を聞きながら、やっぱりもう出てないのかと思う。
「も、むり……」
「ん、了解」
 さすがにこれ以上はキツイとギブアップを宣言すれば、相手はあっさり了承を告げる。
「いいの?」
「いいの、って?」
「最後、イッてないだろ?」
 こちらがイクのに合わせて、相手もイッたというような様子はなかった。自分だけが気持ちよくイッてしまった。
「もう無理って思ってるのに? 俺がイクまでもうちょっと付き合って、って言ったら、いいよって言うの?」
「そりゃ、だって……」
 相手だって、気持ちよくイッて終わりたいだろうに。
「ありがと。でも俺だって二回はだしたし、もう充分満足できてるよ」
「ホントに?」
「本当に。でも、自分ばっかり何度も気持ちよくイッちゃって不公平って思ってるなら、この後一緒にお風呂入って、お口でして欲しいかな。それとも、お尻でイッて貰うのが嬉しいタイプ?」
 お尻でイッて貰うのが嬉しい気持ちはある。でも、この後はお風呂でイチャイチャしたいんだよね、という言葉はなんとも魅力的だった。

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金に困ってAV出演してみた13

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 彼との撮影では二回もオモチャでトコロテンしたせいか、そういった物もなにやら色々と用意されていたけれど、無機物に感じさせられるのは嫌だと言えば、そこまで食い下がられることはなかった。
 慰めエッチとしてうんと甘やかしてくれ、とまでは言わないが、ちゃんと抱かれて感じたい。と伝えたのが良かったのかも知れない。
 数時間前に散々弄られまくって使われた穴は、あっさり彼の指を何本も受け入れただけでなく、やっと感じられるとばかりに喜んだ。
 台本的には、嫌々だろうと感じてしまう淫乱な体的なのを期待していたようだし、もしかしたら前回の撮影中、オモチャで感じまくったのが伝わっていたのかも知れない。でも撮影二回目の素人に、演技でだって感じてるフリなんか出来なかったし、勃たない事実はどうしようもなかった。結果、こちらを感じさせるのは早々に諦めて、惨めに泣いて許しを請いながら少々手荒に穴を嬲られる的展開に落ち着いたのだという認識はある。
 だから余計に、優しく触れてくれるだけで酷くホッとするし、彼の指を気持ちいいと感じられるのも嬉しかった。ただ、そのせいか、少々派手に感じすぎても居るらしい。
 比較対象が前回の撮影だけなのは仕方がないが、あれは初撮影の緊張やらもあったから。なんて言い訳がきかないくらい、初っ端から、彼の指で中を擦られるだけで、簡単に一度目の吐精を果たしてしまった。さすがに早すぎて恥ずかしい。
「もしかして、撮影では一度もイカなかった?」
「それは、その、それどころじゃなくて……」
「そっか。それは辛かったね」
 よしよしと頭を撫でられて、なんだかまた泣いてしまいそうだ。年下の、自分よりもよっぽど可愛い男の子相手に、甘えるつもりなんてなかったのに。というよりは、どう甘えていいかがわからない、というのも大きいのだけれど。
 仕事でなければ関係を持つことがなかっただろう彼は、今までセックスを経験してきた相手と、あまりに違いすぎて戸惑っている部分はある。年齢も見た目も雰囲気も、好みからするとかなり外れているとも言える。
 なのに、頭を撫でられて泣きかけるほど、安心を貰っているのが不思議だった。この後も続く彼とのセックスに、間違いなく、期待してもいる。
「慰めエッチは要らないよって言われたけど、でも、俺が勝手に甘やかすのはいいよね?」
「うん」
 目のふちに滲んでしまった涙を拭われながらの言葉にも、期待を持って頷いてしまう。どう甘えていいのか戸惑う部分があっても、なんだか上手に甘やかしてくれそうな気がしてしまう。
 年下で、自ら合法ショタっ子だなどど宣うような見た目の男の子なのに、この滲み出る頼もしさというか、大人顔負けの包容力はなんなんだ。なんてことを思った矢先。
「年下の、見た目からして幼い俺じゃ、ちょっと頼りないかもだけど、」
「そんなこと!」
 ちっとも頼りなくなんかない。相手の言葉を遮って声を上げてしまったからか、最初は驚いた様子を見せたけれど、でもすぐに、嬉しそうに笑ってくれる。
「なら、良かった」
 大丈夫そうだから挿れるよと言われて頷き、挿れやすいようにと自ら足を開いた。ゴムは会話の途中で素早く装着されている。ゴムの装着は相手が居なければ練習が成り立たないものではないから、もしかしなくてもしっかり練習済みなんだろう。

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金に困ってAV出演してみた12

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 結局、動画はこれ以上は無理だとストップを掛けることなく、そろそろ終わりが近づいている。扉の前で鍵が開いていることを確認した後、ほんのりと名残惜しい気持ちの中で、最後にとキスを一つ落とした。
 かなり驚かせた挙げ句、なぜか最後の最後で互いの名前を打ち明けあい、またどこかで会えたらよろしくと握手をして、先に行ってと促されて自分がドアをくぐった所で撮影は終わった。はずだった。
 映像はまだ続いていて、自分の後を慌てて追うかのように、一度閉じたドアをすぐさま開ける相手の姿が映ったかと思うと、映像はドアが開かれる側に切り替わって、開いたドアの中から相手が出てくる。
「やっぱり居ないか……」
 ひどくがっかりした様子で、どうしようと途方に暮れた呟きが漏れる。
 なんだこれ。
「どこの人、だったんだろ」
 そっと愛しげに名前を呼ばれて、本名とは全く掠らない名前だというのに、きゅんと胸が高鳴ってしまう。え、なにこれ。
「もう一度、会いたいな」
 そんなセリフをいやに切ない声音で告げられながら、画面がゆっくりと消えていって、今度はエンドの文字が浮かび上がってくる。エンドの文字を見るともに、思わず相手を振り返ってしまった。
「どうだった?」
「どうって、最後、こんな風に終わると思ってなかった」
「うん。もし売れたら続編狙えないかなぁって思って、ちょっと口出した。けど、活動が春休み中だけなら、続編なんて無理だよねぇ」
 残念だと嘆かれてなんだか申し訳ないような気持ちになるのは、続きがあるなら出たいって気持ちが、多少なりともあるせいかもしれない。
「それとも、夏休みになったらまた髪色変えて、出演してくれたりする?」
「あー……どうだろ。これの続編だけとかなら、考えなくもない、かも、知れないけど、ちょっとわかんない」
 出たい気持ちはあっても、AVに出続けるなんてリスクが高いと思う気持ちもあって、じゃあ夏休みになったら戻ってくるよなんて、とても言えそうにない。なのに。
「そっか。可能性はゼロじゃない、と」
「うわ、ポジティブ」
「大事だよね、ポジティブ。あと、ポジティブついでに、やっぱ今日、このまま抱かせて貰えないかなぁって思ってるんだけど、どう?」
「どうって、言われても……」
「言われても?」
「あの、俺、さっきから一度だってキス、嫌がってないんだけど」
「え、待って。もしかしてあのまま押し倒したり、ベッド行こって誘ったりしても良かったとか言う?」
 抱いていいよって言わなきゃ先に進めない、まではまだわかる。でもせめて、こちらがオッケーを出しているのくらいは、伝わってて欲しかった。
 やっぱりワンチャン狙いの、可愛いと言いまくったり、様子見のキスだったらしい。こちらのいいよが伝わってなかったというだけで。
 こちらの事情を話しすぎたせいで、もしかして恋人になりたいとか、付き合いたいとか、言い出せないのかも知れない。なんてことまで考えていた自分の自意識過剰っぷりがいささか恥ずかしい。
「ああ、まぁ、うん」
 曖昧に頷いて見せれば、ゆっくりと相手の顔が近づいてくる。黙って瞼を下ろして待てば、柔らかに唇が押し付けられて、でも今度はすぐには離れていかない。
 舌先で突付かれて軽く口をほどけば、ぬるりと入り込んできて、互いの舌が擦れ合った。あの日練習までしたキスは、当然今日も気持ちがいい。
「ね、ベッド行こ」
 もちろん、嫌だなんて言うはずがない。促されるまま立ち上がれば、逃さないよとでも言うみたいに片手を繋がれてしまった。
 高校卒業したばかりの男の子が一人暮らしをするには少々贅沢に感じるものの、ただのマンションの一室に手を繋いで移動するほどの距離なんてないだろうに。それでも、掴んだ手をキュッと握りしめて一歩ほど先を急ぐ、自分の目線よりもやや低い位置にある相手の、ふわふわな頭頂部をなんだか微笑ましい気持ちで眺めてしまう。
 今、間違いなく相手に求められている実感が、嬉しかった。

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金に困ってAV出演してみた11

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 手料理を振る舞って貰うというよりは、なんだかんだで結局一緒にキッチンに立って、食事中にAVってどうなんだと思いながらも、がっつりエロい展開になる前に食べ終えそうだからまぁいいかと、彼が一緒に見たいと言っていた、前回の撮影のざっくり編集版とやらを見た。
 正直、髪色の違う自分にまだ馴染んでいないのと、自身の映像を見る機会の少なさに、どこか他人を見ているみたいだ。どちらかというと、画面の中の彼に、あの日の記憶が刺激されてそわそわしてしまう。
 なお、いつの間にかカメラと場所を交代されて、バッチリ正面から撮影されたキス待ち顔は、結局使われなかったらしい。言われなければ忘れていたのに。しかも、わざわざ残念だと言っただけでなく、でも実はその部分の動画は貰ってると、テレビではなく彼の携帯の小さな画面を見せられた。更にそれは、カメラに気づいてうぎゃっと驚く悲鳴まで、しっかり映っていた。
 自分じゃないみたいだとは思いつつも、それが自身だという認識はあるし、ましてやその場面を思い出すように可愛かったと言われると、さすがに照れくさい。そして照れてしまう姿をまた、可愛いと称される。
 一緒に料理をしながら、食事をしながら、自分たちのAVを見ながら、何度となく可愛いと繰り返された。ついでに言うなら、可愛い可愛いと繰り返す彼自身が、ずっと可愛らしい笑顔を振りまいてもいるんだけど。
 これはやっぱり、口説かれているんだろうか。とは思うが、真意がどこにあるかはイマイチわからなかった。
 ワンチャン有りと思っているから、という可能性が高そうなのに、でもこの部屋に上がってから既に数回キスを許しているにも関わらず、その先に進む気配がない。そのまま押し倒されもしないし、寝室に誘われることもない。
 だからといって、恋人になりたいだとか、付き合いたいだとか、そんな意味合いで可愛いと繰り返したり、タイミングをはかって唇を寄せて来ているとも考えにくかった。だって既に、恋人は暫く要らないのだと宣言済みだ。
 信じていた恋人に裏切られたばかりだから、という理由も告げている。というよりは、なんでこの世界に踏み込んだか、今後どんな活躍を考えているかを聞かれて、ここへ来るまでの車中で色々ぶちまけてしまった中に、元カレが大きく関わっていただけなんだけど。
 そう日を開けずに二本目の撮影に挑んだことから、金銭的に困窮してる可能性が高いことは見抜かれていた。ただまだ借金を抱えてはいない。
 返す当てもないのに金を借りるのは躊躇われて、払いの良い仕事を探したと言えば、やっぱり見かけと違って中身は随分と真面目そうだと言われたので、この仕事のためだけに髪色を変えたことも、本業は大学生で春休みが終われば髪色は元に戻すつもりだということも教えた。
 そうすれば当然、長く続ける気がないことは伝わったし、春休みという限られた時間の中で稼がなければならない事情も、理解してくれたようだった。
 次の仕事のことで多少は融通が利くかも知れないと言われれば、今日の現場に内容まで把握した上で顔を出したことや、ざっくり編集版を焼いて貰えるような立場だってことからも、その言葉を疑う気にはならなかった。必要に迫られて断ることをし難い現状、藁にもすがる思いだったのも認める。もし選べるなら、今日みたいな撮影よりも、前回みたいな撮影のほうがいい。
 そして気づけば、最低限必要な残り額も、それが生活費だということも、仕送りと貯金とを恋人だったはずの男に持ち逃げされたなんて情けない理由までも、話していた。合鍵までは渡していなかったから、もしかしたら、本気で取り返そうと思うなら警察沙汰にも出来るのかも知れない。
 でも親は息子がゲイだとは知らないし、友人と呼ぶには歳の離れた相手だし、頻繁に家に上げていたという落ち度はあるしで、結局大事にはしたくなくて諦めるしかなかった。ただ、そんな事情なので、当分恋人なんて作れそうにない。
 でも、もしかして。恋人は暫く要らないと宣言してしまったからこそ、その理由を理解してくれてるからこそ、付き合いたいとは言い出せないまま、随分と中途半端に、口説いてるのかどうかも微妙な態度だったりするんだろうか。

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