はっかの味を舌でころがして

目次へ→

 生まれた時から同じマンションのお隣さんとして育って15年。
 生まれ月の関係で自分より1学年上の幼なじみは、この春から通学時間1時間弱の私立高校へ通っている。
 幼稚園に入る時は親が3年保育というのに入れてくれたので入園が同時だったが、幼なじみが小学校に上がる時はそりゃあもう盛大に泣いて怒った記憶がある。
 中学の時も、さすがに泣きはしなかったがやはり納得は行かなかった。だって3ヶ月だ。3ヶ月しか違わないのに離れ離れだなんて。小学校と中学校は隣り合っていたけれど、そこには簡単には越えられない、見えない壁が確実に存在している。
 しかも中学へ入学したら部活動なんてものが始まって、帰宅が随分と遅くなった。追いかけるように1年後に同じ部活に入部したら、規律がどうだの示しがつかないだので先輩と呼ばなければならなくなった。
 部活なんてやめてしまおうかとも思ったが、少しでも長く放課後一緒に居たい気持ちから続けてしまった部活は、3年が引退した昨年秋から部長を任された。同じく部長だった彼から引き継ぐのだと思えば、誇らしくはあったのだけれど、やはり先を行かれる悔しさと寂しさと腹立たしさは変わらない。
 滑り止めで近所の公立高校を受験したことも当然知っていて、本命の遠い私立高校なんて落ちてしまえと本気で願っていた数ヶ月前の自分があまりに腹黒く思えて、それからなんだか少しおかしい。彼を真っ直ぐに見れなくなって、なんとなく避けてしまうようになった。といっても、どうせ通学に1時間掛ける彼との接点は、この春からほぼないに等しいのだけれど。

 午前中だけの部活を終えて帰宅した休日の午後、ベッドの上に寝転がりながらイヤホンで音楽を聞いているうちに、どうやらウトウトと寝落ちしていた。
 ぼんやりと意識が浮上して、目を開けた先に見えた頭髪に心臓が跳ねる。自分が彼を見間違うはずもない。
 一気に覚醒してガバリと起き上がれば、ベッドに寄りかかるようにして本を読んでいた彼が振り向き、柔らかに笑って、多分おはようと言った。
「なんで居んだよっ!」
 装着しっぱなしだったイヤホンを毟り取りながら叫ぶように告げれば、柔らかな笑顔が少し困ったような苦笑に変わる。
「今日うち、母さん出かけててさ。夕飯、こっちで食べさせてくれるって言うからお邪魔してる。お前とも久々にゆっくり話でもと思って早めに来たけど、寝てるの起こすのも悪いと思って。でも却って驚かせたよな」
 ゴメンなと謝られても、どう返していいかわからなかった。わからないから無言のまま、ただ見つめ合うのすら居た堪れなくて、そっと視線をそらす。
「なぁ、……」
「なんだよ」
「何でもない。やっぱいい」
 呼びかけの声までは無視できずに返事をすれば、躊躇う様子の後で撤回された。
「なんだよ。気になるだろ。言えよ」
「あー……と、そう、飴食べない?」
 絶対に最初の話題とは違うと思ったが、更に食い下がるのも面倒になってその話題に乗ることにする。
「何味?」
「ミント」
「貰う」
「じゃあ、はい」
 言いながら差し出された舌の上には、半透明の小さな丸い固体が乗っていた。
「は? ふざけんな」
「冗談だって」
「で? 俺の分は?」
「ごめん。ない」
「なんなんだよお前」
「うん。本当、ゴメン」
 ちょうど暮れてゆく空に、この短い時間で部屋の中もだんだんと薄暗くなっていく中、困り顔の笑みを貼り付けたままの彼が泣いているようにも見えてドキリとする。
「なんか、あったんかよ」
「やっぱりわかる?」
「だってお前おかしいもん」
「お前もここんとこ十分おかしいけどな」
 長い溜息を吐きながら、彼は上半身ごと振り向いていた体を戻して、疲れたようにベッドの縁により掛かった。仕方なく、自分もベッドを降りてその隣に座り込み、同じようにベッドの縁に背を預けた。
「で、何があったって?」
 高校馴染めてないのかと聞いたら、そういうんじゃなくてと言いながらもう一つ溜息が落ちる。
「ずっと好きな子が居るんだけどさぁ、なんかちょっと最近避けられちゃってて。何が原因なのか、思い当たることありすぎてわかんないんだよね」
 まさかの恋愛相談に、呆気にとられつつその横顔をまじまじと眺めみてしまう。見られていることに気づいてか、それとも初めてともいえる恋愛相談が気恥ずかしいのか、その頬にうっすらと赤みがさしていくのがわかった。
「見てないでなんか言えよ」
 視線から逃げるようにフイと顔を逸らされる。
「いやだって、恋愛相談とか無理だって。好きとかわかんねーもん俺」
「好きな子、いないの?」
 驚いた様子で逸らしていた顔を向けられたが、そこまで驚かれることに驚いた。彼の恋愛相談を受けるのも初めてだが、自分が恋愛相談を持ちかけたことだって一度たりともないのだから。
「女と遊び行きたいとか思ったことねぇよ」
 アイドルの誰がいいとか、何組の誰それが可愛いとか、適当に話を合わせる程度のことはしても、本気で誰かと交際をしたいと思ったことなんてない。楽しそうだなんて欠片も思わないどころか、面倒そうだとしか思えないのだ。
「俺のことは?」
「は?」
「お前、俺にはけっこう執着してたじゃん」
「執着っつーか、だって悔しいだろ。たった3ヶ月しか違わねぇのに、なんで学年違ってんだよ。家じゃ普通にタメ口聞いてんのに、学校じゃ後輩としての立場わきまえろとか言われんの最悪」
「学年の違いは仕方ないだろ。てかさっきの質問の答えは?」
「さっきのって?」
「俺のことは好きか嫌いか」
「嫌いな奴の親友なんかやるかよ」
「でもお前、俺のこと避けてんじゃん。親友とか言うなら避ける前にやることあるだろ。俺に気に入らないことがあるならちゃんと言えよ」
「いや、それは、別にお前が気に入らないとかじゃなくて」
「高校もさ、またしばらく拗ねてむくれて暇を見つけては押しかけてくるみたいな事になるのかなって思ってたんだよ。俺が中学あがった最初の頃、お前、俺が学校帰ってくるの家の前で待ってたりしたよな」
「3年経てば成長もすんだよ。てかちょっと待て。お前好きな子に避けられてって、それ、まさか俺のことじゃ……」
「うん」
「えっ、てかええっ??」
 驚きすぎて続く言葉が浮かばないまま、結局相手を凝視する。彼はゴメンと言いながら引き寄せた膝に顔を埋めてしまった。
「じゃあなんで、遠い私立とか受験したんだよ。すぐそこの公立で良かったろ」
「先のこととか親の期待とか、こっちだって色々あんだよ。それでお前に避けられる事になるなんて思ってなかったし。てかこうなるのわかってたら、もっと真剣に近くの公立に通うことだって考えたよ。というか、お前が俺を避ける原因は、やっぱり俺の進学先ってことでいいのか?」
 お前がおかしくなったの俺が今の高校合格した時からだもんな、と続いた言葉に、慌てて違うと否定する。
「いやぜんぜん違うってわけでもねぇけど。でも原因はお前じゃなくて俺にあるっつーか」
「じゃあ、それって何?」
 お前が受験勉強していた頃、毎日落ちろと願ってた。などという黒い過去を晒せというのか。
 言えずに口ごもっていたら深い溜息が聞こえてきた。相変わらず顔は膝に埋まっていて、その表情はわからない。
 同じように深い溜息を吐き出して、それから仕方がないなと口を開いた。
「私立高校なんか落ちて、滑り止めだっつー近所の公立通うことになりゃいいのに。ってずっと思ってたんだよ。なんつーか、そりゃもう、呪いってレベルで。でも本命受かって喜んでるお前見てたら、お前の不幸をずっと望んでた自分が嫌になったっつーか、お前に合わせる顔がないっつーか、まぁ、そんな理由」
 やはり呆れただろうか。反応がなく黙り込まれてしまうと、気まずさでなんだか気持ちが焦る。
「悪かったとは思ってる。あー……その、今更だけど、高校合格おめでとう。いやむしろありがとう?」
「なんだそれ」
 小さく吹き出す気配にあからさまにホッとした。
「いやもしあれでお前が本当に落ちてたら、俺の罪悪感今の比じゃねぇだろなぁって」
「お前は単純に喜びそうな気もするけど」
 ようやく顔を上げた彼はよく知る穏やかな笑みを見せている。
「いやいやいや。俺が呪ったせいでお前の人生狂わせた。って気づいた時がヤバいんだって」
「ああ、なるほど。じゃあこれからがヤバいな、お前」
「なんでだよ」
 ヤバくならなくてよかった、という話をしていたはずだ。なのに酷く真剣に見つめられながらそんなことを言われると不安になる。
「俺の人生、お前に呪われてとっくに狂ってるんだけど。って事」
「はあああ?」
「ずっと好きな子が居るって言ったろ。それがお前って事も。お前に呪われた結果じゃないのか、これは」
「呪ってねぇし!」
「学年の違うお前が、俺と同じじゃないって泣いて暴れて拗ねるあれは、呪いみたいなもんだったって」
「泣いて暴れたのはお前が小学校あがった時くらいだろ!」
「でも春になるとだいたいお前は機嫌が悪い」
「それは、だって」
 学年が上がるたびに思い知らされるようで、確かに4月は好きじゃない。
「お前のせいでお前好きになったんだから責任取れよ」
「責任、って?」
「俺を、好きになって」
「嫌ってねぇって」
「そうじゃなくて。恋愛対象として」
「だからそういうの良くわかんねぇんだって」
「わかんねぇじゃなくて自覚しろって言ってんの。お前の俺への執着、それもうホント、普通の友情と違うから。考えてみろよ。俺以外にだって普通に仲の良い友達居るだろ?」
「そりゃいるけど、お前は特別で、だから親友なんだろ」
「もしお前が今後も親友だって言い張るなら、俺はお前を諦めて、彼女か彼氏かわからないけど恋人作るよ?」
 言われて初めて、彼に恋人という存在がいる状態を想像した。確かに嫌だ。絶対に嫌だ。彼と隣り合って歩くただの友人にすら、学年が同じならその場所は絶対に俺のものなのにと思うくらいなのだから、我が物顔で彼を自分のものと主張する恋人が出現したら自分がどうなるかわからない。
「えー……ええー」
 けれどだからといって、即、彼を恋愛対象として好きだと思えるかは別だ。というか本当に、恋をするという気持ちが良くわからない。
「本当はさ、いつかお前から告ってくるだろって思ってたんだよね。なのになにこれ。大誤算もいいとこだよ」
 あーあと嘆きながらも、先程までの悲壮感は欠片もない。彼が穏やかに笑っていると、それだけで安心するのは、きっと長い時間をかけてそう学習してきたからだ。この顔の時は平気、という根拠のあまり無い自信のようなもの。
「それ、俺が悪いのか?」
「どうだろ。まぁきっかけにはなったよな」
 避けられなきゃ待つつもりだったと彼は続けた。
「ならもう少し待ってくれよ」
「いつまで?」
「俺が好きって気持ちをわかるまで?」
「いやだから、そこが想定外だったんだよ。自覚ないとか思ってなかった」
「待てねぇの?」
「自信揺らいだからあんま待ちたくない」
「俺がお前を好きなはずだって?」
「そーだよ。でも揺らいだ。このままのんびり余裕かまして待ってたら、お前が自覚した時、その好きって気持ちの向かう先が俺じゃない可能性高そうでやだ」
「だってなぁ~……」
 好きって気持ちはいつかこれはって女に対して湧いてくるのだろうと、漠然と思っていた節はある。それに彼とはずっと親友で居たいという気持ちも根強く残っている気もする。彼に恋人ができるくらいなら自分が恋人になってもいいという気持ちもないわけではないが、恋人なんかになってしまってその後破局したらどうするんだ。
 今までの関係を変えるというのはやはり勇気と覚悟が必要で、そのどちらも自分は所持していない。
「お前さ、俺とキスできそう?」
 グダグダと迷っていたら唐突な質問で面食らう。
「キスできたら、もう少しお前信じて待ってもいい。無理だっつーならやっぱりお前を諦めることも考えるよ」
 人生の修正がききそうなうちに。なんて続けられて、先程、お前の呪いで人生狂ったと言われたことを思い出す。
「人生修正きくってなら、キスなんてしてる場合じゃねぇんじゃね?」
「ああうんそうだな。わかった。お前のことは諦める」
 怒らせた。というのがわかって焦る。
「待って。待って。ゴメン。今のは俺が悪かったから、俺のこと諦めないで。てか恋人作ったりしないで」
「俺に好きとも言えないくせに? キス一つ出来ないくせに?」
 冷たく響く声に、ああこれは本当に猶予がないと知らされる。だから相手の体を引き寄せて、ままよとその唇に自らの唇を押し付けた。
 これしか現状を維持する方法がわからない。触れてしまったら現状維持と呼べるのかはともかくとして、少なくとも彼への答えは少しだけ先延ばしにできるだろう。
「これで、もう少しは待ってくれんだよな?」
「そうだね。お前はもうちょっと色々しっかり考えた方がいい。でも俺だって俺の人生があるんだから、そんなに気長に待ってられないってのは覚えとけよ」
 わかった。とは言えなかった。
 お返しとばかりに引き寄せられて唇を塞がれたからだ。しかも先ほどのように一瞬の接触ではなく、吸われて甘噛まれてこじ開けられた口の中、小さな小さなミントキャンディーの欠片が転がり込んできた。それはほどなくして、口の中で溶けて消えていった。

続編を読む→

レイへの3つの恋のお題:はっかの味を舌でころがして/薄暗い部屋で二人きり/なぁ、……何でもない。
http://shindanmaker.com/125562

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

電ア少年 家教と生徒の場合

<< 短編一覧

 

「ナツ先生、電気アンマの刑って、知ってます?」
 予定された授業時間の半分が過ぎた頃だろうか。今日はめずらしくソワソワしていると思っていた教え子の青治が、意を決した様子でそう口にした。
「電気アンマの刑?」
 つい先ほどまで青治が挑戦していたミニテストの解答を赤ペン片手にチェックしていた夏至は、答案用紙から目を離さないままで聞き返す。
「そう、です。あの、今、クラスで流行ってるんですけど、先生が小学生の頃も、ありましたか?」
「ああ、そういえば、そんなのが流行った事もあったかな」
「本当ですか? 先生も、したり、されたり、したんですか?」
 チェックを終えて顔をあげれば、真っ赤になりながらも真剣な表情で夏至を見詰める青治と目が合った。随分と興奮している。
「どうしたの?」
 本当に珍しいと思いながら、柔らかな声で問い掛ければ、教えて欲しいんです、なんて言葉が返ってきて、さすがの夏至も驚いた。しかし、表情には出さない。それくらいのポーカーフェイスはお手の物で、やはり柔らかな表情を崩さないまま、再度問い掛けの言葉を口にする。
 今度はもう少し、詳しい話を聞くために。
「僕は家庭教師だから、教えてくれと頼まれれば、教科外だろうと知ってることは教えてあげようと思うけれど、クラスで流行ってるなら、今更何を教えて欲しいと言っているんだろうね? 青治は」
「それは、あの……」
「はっきり言ってくれないと、何を教わりたいのかわからないよ?」
「されたこと、ないんです。もちろん、したことも。別にそれでクラスの友達から仲間はずれにされてるわけでもないんですけど。僕がその刑をされそうな雰囲気になると、なぜか途中で止まっちゃうんです。みんな、僕にはしたがらない。だから僕だけ、流行ってるのに一度も経験した事がない」
 夏至は目の前の少年の顎に手を添えると、不躾にジロジロとその顔を眺め見る。青治の優しく整った面立ちを、クラスメイトの男の子たちが、電気アンマなどという遊びで歪ませたくないと思うだろうことは容易に想像がついた。
「それは、みんなが青治の事を大好きってことだろう?」
「どういう意味ですか?」
「痛い事、したくないんだよ。青治には。例え遊びでもね」
「でも、僕だって……」
「されてみたい?」
 コクリと頷く顔は上気している。変な頼みごとをしているという自覚からか、それとも行為への期待からか、どちらにしろ面白そうだと思った。
「いいよ」
「本当ですか!?」
 答えれば、目を輝かせて夏至を仰ぎ見る。内心では、この綺麗な顔を苦痛に歪ませても構わないなんて、飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのことだなどと思いながらも、夏至は柔らかな笑顔を湛えたまま頷いて見せた。
「ああ。このミニテスト、一問もミスがなかったご褒美にね」
 言いながら青治の手を取り立ち上がった夏至は、青治のズボンのポケットから、ハンカチをスルリと抜き取った。
「口を開けて、青治」
「え?」
「これからすることが痛みを伴うと言うことは知っているんだろう? 叫ばれてお家の方が飛んできたら、家庭教師をクビになってしまうからね。コレを噛んで、声を出すのは我慢しなさい」
「はい」
 素直に開かれた青治の口に、夏至は丸めたハンカチを押し込める。小さな口からはみ出したハンカチに、それだけでも、酷く嗜虐心を煽られた。
 そうしてから、青治の身体をベッドの上ではなく、あえて床上へと横たえる。両足首を掴みあげて見下ろせば、既に潤んだ瞳が期待の熱を孕んで見詰め返した。やはり行為への興奮なのかと思うと、笑ってしまいそうになるのを堪えるのが、いささか大変だった。まさか青治に、こんな素質があるとは思っていなかった。
「いい? するよ?」
 それでもまだ、優しい家庭教師の仮面を被ったまま、問い掛ける。ただし、頷くのを待って、股間を踏みにじる足に、容赦はしなかった。
「んんーっ……!!」
 ハンカチに吸われ、くぐもった悲鳴。
 ハンカチを吐き出したらその時点で終了するつもりだったが、青治はギュッとそれを噛み締め耐えている。痛みに身悶え、嫌々と首を振るのに合わせて、溢れた涙が散る姿が愛おしいと思った。
 もっとずっと眺めていたい気持ちを押さえ込んで開放した後は、グッタリと身体の力を抜いた青治の脇へと膝を付き、その身体をゆっくりと起こし、口からはハンカチを抜き取ってやる。
「大丈夫?」
 そう言って覗き込んだ、涙で濡れた瞳の中、興奮は去っていなかった。期待通りの反応に、嬉しさがこみあげる。
「痛かっただろう?」
 返事を待たずに、股間に手を伸ばしてそっと撫でてやった。確かめるように握りこんだ小さな膨らみは、硬く手の平を押し返す。
「痛いのに、感じてた?」
 さすがに恥ずかしいのか、赤くした顔を逸らそうとする。その顎を捕まえて、顔をジッと覗き込んだ。
「正直に言えたら、もっと手伝ってあげるよ」
「えっ……」
「こんな状態だったら、イきたいだろう?」
 再度、足で踏まれて感じたのかと問えば、困ったように頷いてみせる。
「本当は、最初から、こうなることがわかってて、誘ったの? それとも本当に、試してみたかっただけ?」
「それはっ、本当に、こんなになるなんて思わなくてっ」
 誘ったのならお仕置と言いたいところだったが、無自覚だったと言うのなら、それはそれでも構わない。
「ずいぶんいやらしい身体をしてるね、青治は。踏まれて痛い思いをしたのに、それでもここはこんなに硬くなってる」
「あ、あっ、ごめんなさい。先生、ダメっ、触らないでっ」
 少し強めに揉み込んでやれば、小さな悲鳴が甘く響いた。
「どうして? 痛いのが気持ちいいんだろう? ちゃんと、もっと手伝ってあげるよ?」
「でもっ」
「それならどうして欲しい? 青治が自分でするのを見ていてあげようか? それとも、もう一度、足で踏んであげようか?」
 見詰める顔に浮かぶ期待の色に、夏至はうっすらと笑みを浮かべた。
「足でイかせて欲しいなら、今度は下着も全部脱ぎなさい。下着が汚れたら困るだろう? 先生も靴下を脱いで、今度は直接、踏んであげるよ」
 逡巡はそう長くは掛からず、青治はズボンのボタンに自ら手を伸ばす。ズボンと下着とを脱ぎ捨てた青治の口に、再度ハンカチを押し込んだ夏至は、ハンカチを咥えるその口にそっと口付けた。
「さっきよりずっとイヤラシイ格好だよ、青治。可愛くて、うんと泣かせてあげたくなる」
 驚きに目を見張る青治に、いままで見せた事のない笑顔を湛えながら、先ほどと同じように両足首を掴んで持ち上げる。剥きだしの股間の中心では、小さな性器がそれでも頭をもたげながら、刺激を待ちわび震えていた。
 もちろん、簡単にイかせてやるつもりなどなかったが、達してしまわない程度に、まずはゆっくりと足の裏で捏ね回してやる。
「んーっ、んっ、んっ……」
 身体を震わせ、夏至の与える快楽に素直に身悶える青治を見ながら、この子供の持つマゾヒストとしての素質を、自らの手で開花させてやりたいと思った。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

電ア少年 転校生の場合

<< 短編一覧

 

 それは終業の挨拶を終えて教師が教室を出て行った後、カバンを手に立ち上がった直後のことだった。
「まてよ、転校生」
 クラスでも目だって大柄な、大沢という少年に声を掛けられた。
「ワイ、急いどるんやけど」
 ムダだろうなと思いながら告げれば、やはり不興を買ったようだ。
「付き合い悪過ぎるんじゃねぇの、転校生よ」
「こっちにはこっちの都合があんねん。ほな、また明日」
 自分の態度が悪いことは百も承知で、けれど、新しい学校の新しいクラスメイトと馴れ合う必要はないとも思っていた。だから、さっさと逃げ出すに限る、とばかりに、雅善は目の前に立ちはだかる大沢の横をすり抜けようとした。
「待てっつってんだろ!」
 伸びてきた手に痛いほど腕を掴まれて、しまったなと思う。体格差はそのまま明確に腕力の差を現しているだろう。
 殴り合ったら、どう考えても自分の方が被害を被る。それでも一応は覚悟を決めて、手にしたカバンを床へ落とすと拳を握った。
 力の差はあっても一方的に殴られてやる気はなかったし、自慢できるようなことではないが、喧嘩慣れはしてると思う。上手くやれば同等のダメージを相手にくれてやれるだろうし、クラスの中で面倒そうなのはコイツだけだったから、コイツさえ黙らせることが出来れば後々楽そうだとも思う。
 負けられない。
「やんのか?」
「やる気マンマンなんは、そっちやろ?」
「勝てると思ってんのかよ?」
「負ける気はせんね」
「そうかよっ」
 言うなり足を払われてさすがに反応し切れず、整然と並んでいた机を巻き込んで、雅善は派手に床に転がった。
「痛っ……」
 椅子か机の足かに打ち付けた膝がジンと痺れ、雅善は小さな呻き声を漏す。二人を囲むように見守っていたクラスメイト達の騒ぐ声が耳に煩い。
「押さえろっ」
 そんな中、大沢の扇動するセリフが耳に届く。大きくなるざわめきと、数人が近寄ってくる気配。セリフの意味を理解した時には既に、伸びてきた複数の手によって両腕と両足を床に縫い付けられていた。
「放せや、この卑怯者!」
 取り巻くクラスメイト達を、雅善はキツイ瞳で睨み付ける。どちらかというと、大沢に逆らうのが怖いのだろう。雅善の視線に一瞬はたじろぐものの、必死の形相でもがく雅善を押さえつけている。
「侘びを入れるなら今のうちだぜ?」
 大沢の上履きが、雅善の股間の上に乗せられた。
 脅しを掛けるように軽く力のこもる足先に、大沢が何をするつもりなのか悟って、さすがに雅善も血の気が失せる。それを知って、大沢がニヤリと意地の悪い笑みを見せた。
「どうしたよ? 怖くて声も出ないか?」
 見下ろす大沢の醜悪な顔に、ツバを吐き掛けてやりたい衝動が襲ったが、それが叶う体勢ではない。雅善は大沢を睨みつけながらギリギリと歯を食いしばって、こみ上がる怒りを耐えた。
「なんだよその目は、ムカツクな。いつまで気取ってるつもりだよ?」
 何とか言えよと促されて、雅善は怒りに任せて言い募る。
「お山の大将気取っとるんは自分の方やろ、大沢。そないにでかい図体しとるくせに、タイマン張ることも出来ん弱虫や。侘びなんぞ入れる必要あらへんわ」
「なんだとっ」
「うあっっ!」
 股間を踏みにじられ、雅善の口から苦しげな声が漏れた。可哀想という女子の囁きに、羞恥で身体が熱くなる。
 もしも予測と違わず大沢が『電気アンマ』を仕掛けてくるとしたら、クラス中に醜態を晒してしまうだろう。掛けられたことも、掛けたことも、ないわけじゃない。ただ、ふざけてやりあった経験しか持たない雅善は、内心恐怖でいっぱいだった。
 この大沢相手に許してくれなんて、絶対言いたくない。かといって、終業直後でほぼクラス全員が見守る中、痴態を晒すのだって嫌だ。
 大沢に足を抱えられるのを目の端で捕らえながら、雅善は覚悟を決めてギュッと唇を噛み締めた。
「ぐぅ……あああぁぁっ」
 振動する大沢の足に、噛み締めた唇を割って、雅善の悲鳴が漏れる。床へと押さえつけられた両腕を力の限りバタつかせて身をよじろうとする雅善の額には、いくつもの汗の玉が浮かんでいた。
「おいっ、その辺にしておけ、剛士」
 遠くで誰かの声がして、股間への刺激が止まる。大沢の名前がタケシなのだと、初めて知った。
「何やってんだよ、お前。俺はそんなことしろなんて一言だって言ってないだろ?」
「だけどよ、ビリー」
「いいからやめろ」
 誰かが近づいてくる足音と、それに伴い下ろされる両足と開放される両腕。
「大丈夫か?」
 ムクリと身体を起こした雅善に手を差し出したのは、見たことのない顔をしている。先ほど大沢がビリーと呼んでいたが、黒い髪と黒い瞳を持つこの男の本名ではないだろう。
「誰や、アンタ」
「隣のクラスの、河東美里。名前を音読みしてビリーって呼ばれてる」
 ふーん、と気のない返事を返して、雅善は美里の手を借りずに立ち上がった。
「ほいで、自分、首謀者なん?」
「違う」
「ま、ええけど。止めてくれた礼だけは言うとくわ。おおきに」
 雅善は身体についた埃を軽く払うと、床に投げ出していたカバンを拾って何事もなかったかのように教室の出口へ向かって歩いていく。
「待てよ、ガイ!」
 その背に美里の声が掛かって、雅善は仕方なさそうに振り向いた。
「初対面の人間に、名前呼び捨てされるいわれはないんやけど?」
「お前も俺を、ビリーなりヨシノリなり、好きに呼べよ」
「そういう問題とちゃうやろ」
「そういう問題だよ。お前と友達になりたいんだ、ガイ」
「は?」
「大沢から話を聞いて、興味を持った。大沢には、放課後一緒に遊ぼうと誘って貰うつもりだっただけなんだ」
「そんなん一言かて言われてへんけど?」
「話を聞こうともせず睨みつけてくるからだろ!」
 口を挟んだのは、当然大沢だ。雅善は肩を竦めて見せる。
「それで、ガイ。俺達と一緒に遊びに行かないか?」
「無理や」
「なんだとっ!? 折角誘ってやってんのに、なんなんだよ、お前の態度はよっ!」
「騒ぐなよ、剛士。理由くらい、聞かせて貰えるんだろ?」
 大沢を制し、ニコリと微笑みすら浮かべながら尋ねてくる美里に、雅善は小さなため息を一つ吐き出した。
「ウチ、母子家庭やねん。仕事行っとるオカンに代わって、ワイが家事やっとんのや。一緒に遊んどる時間なんてあれへん」
 同情なんていらない。
 雅善はざわめくクラスメイト達に背を向けて、今度こそ教室を後にした。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

電ア少年 従兄弟の場合

<< 短編一覧

 

 高校受験を控えた中学3年の夏休み。朝から塾の夏期講習に参加した美里は、帰宅後、一休みとばかりに自室のベッドに転がった。
 どれくらいの時間眠っていたのだろう?
 ベッドのスプリングが軋む振動に続いて足に触れる人肌。
「……ん、何?」
 未だ半分以上眠りの国に身を任せたまま、美里はもっと寝かせておいて欲しいという気持ちを込めつつ、ボソボソと問い掛ける。相手は母親だと思い込んでいた。
「夕飯なら後で食うから」
 そう告げて、身をよじり壁に向かおうとする美里の足は、思いがけず強い力で持ち上げられた。予想外の行為にムリヤリ意識を浮上させられ、不機嫌そうに瞼を上げた美里の目に映ったのは、勝ち気に笑う少年だった。
「雅善!?」
「くらえっ、電気アンマ!!」
 驚き問い掛けた美里の言葉と少年の発した声が重なり、次には股間に激しい振動が送られてくる。寝起きの頭と身体には強すぎる刺激だった。
「ぐあぁっ……」
 美里はベッドの上で悶絶する。
 時間にして多分数十秒。足はあっさりと下ろされた。
「どうや、まいったか!」
 勝ち誇ったように告げた少年は、疲れたと言わんばかりに足を抱えていた両腕を振っている。それを目の端に捕らえながら、尚暫くの間ベッドの上で荒く息を吐いていた美里は、何故目の前に遠方に住んでるはずの従兄弟がいるのかを思い出していた。
 西方雅善という名の少年は、関西へと嫁いだ母の妹の息子で、美里より5歳年下の小学5年生だ。
 元々仲の良い姉妹で、どうやら一緒に出掛けたいらしく、夏休み中に1日子守をしてくれと頼まれたのを覚えている。
 すっかり忘れていた。
「俺が子守のバイトするのは、明日のハズだろ……」
 ぼやきながら上半身を起こせば、雅善は不思議そうに首を傾げる。
「何の話や?」
「いや、なんでもない」
 そうだ。前日から我が家に泊まって、明日は朝から出掛けると言っていた。明日は一日、この雅善のお守りをするのかと思うと、今から溜息が出そうだった。
「なーなー。それより、どうやった?」
「どうって、何が?」
「電気アンマ。結構効いたやろ?」
 クラスで流行ってる遊びなんだと笑う雅善に、そういや昔、同じように流行った事があったなと思う。あれは小学校に入ってすぐくらいだったろうか。地域差なのかリバイバルブームなのか、随分時差があるなと思いながら、美里はニヤリと笑い返した。
「たいした事ないな」
「嘘吐け。ぐわぁ~とか叫んどったやないか」
「寝起きだったからさ」
「そんなん強がりやん」
 もう一回思い知らせてやると膝に掛かった手を、美里はやんわり捕まえる。
「待てよ。今度は俺の番だろ?」
「え?」
「やられたらやり返す。こういうのはそうやって遊ぶのがルールじゃないのか?」
 少なくとも、自分のクラスではそうだった。
 掴んだ手を勢い良く引けば、バランスを崩して倒れこんでくる小さな身体。軽々と受け止めてベッドの上に転がすと、すばやく立ち上がって体勢を整えた。
「わっ、ちょっ、待っ」
「待たない」
「うぁっ、あっ、ああああーっはっはっは、や、やめっ!」
 さすがに子供相手にパワー全開はまずいかと、力を加減したせいだろうか。雅善は半ば笑いながら、悶えている。
 自由になる上半身をバタつかせて逃げようとするが、美里はがっしりと捕まえた両足を放すことはない。体格差は充分で、雅善の足の重みなどほとんど気にならなかった。数十秒で美里の足を放った雅善との差はここにある。
「ほらほら、参ったなら参ったって言えよ?」
「だ、誰がっ、あっ、ははっああんっ、んっ」
 負けず嫌いな所があるのか、それとも笑っているくらいだからやはり力加減が甘いのか。
「仕方ないな。んじゃ、レベルアップ」
 言いながら、美里は足に込める力を少しばかり強くした。
「うあぁ、ああああああ!!」
 ギュッとのけぞる身体に、しまったなと思う。やはり力を入れすぎたかも知れない。
「おい、大丈夫か?」
 慌てて開放すると、美里は膝をつき、暴れた興奮からか紅潮している雅善の顔を覗きこんだ。潤んだ目を隠すようにそっぽを向いてしまった雅善は、キュッと唇を結んで頑に美里のことを拒んでいるようだった。
「ホント、悪かったよ」
 仕掛けてきたのはお前だろう、とか。これでも手加減してたんだ、とか。言いたいことは山ほどあったが、美里は謝罪の言葉だけを告げて、困ったように目の前の小さな頭をそっと撫でる。
「ぁっ……」
 ピクリと震える身体と、小さく零れる吐息。雅善は耳まで真っ赤に染めて、モジモジと膝をすり合わせている。
「お、前……」
 もしかして、感じてた、とか?
 言葉に出せず躊躇う美里の気配に、雅善も気付かれた事を悟ったのだろう。
「ヨシノリのアホ! カス! イケズ!」
 どけと言わんばかりに突っぱねられた腕を取り、それを片手でまとめて拘束すると、美里は確かめるようにそっと、雅善の股間にもう片方の手の平を当てた。軽く揉み込むようにしてみても、その手を押し返す弾力はない。
「やっ……!」
 急に大人しくなって、雅善は緊張で身体を固めている。
「イっちゃった、とか?」
 やはり困惑気味に問い掛けた美里に返されたのは、大きな瞳から零れ落ちる涙だった。両腕を拘束されて拭くことのできない涙が、次から次へと溢れては流れ落ちていく。
「うー……っ」
 雅善は悔しそうに唇を噛み締めていた。
 酷く申し訳ない気持ちになって、美里は雅善の身体を引き起こすとそっと抱きしめ、宥めるようにその背を軽く叩いてやる。
「ゴメン、本当に悪かった。母さん達にはバレないように、ちゃんと始末してやるから。だから泣くなよ、な」
「ど、やって……?」
「あー……」
 部屋の中に視線を巡らせた美里は、先ほど塾から持ち帰り、机の上に置いていたペットボトルに目を止める。
「うん、大丈夫。ちょっといいか?」
 雅善をベッドへ置いて立ち上がった美里は、ペットボトルを取ってくると、雅善の視線の高さにそれを掲げて見せた。レモンティーのラベルがついたそのペットボトルの中には、数センチ分の飲み残しが入っている。
 雅善が不安げに見守る中、その蓋を開けた美里は、一瞬の躊躇いも見せずに雅善へ向かってそのボトルを傾けた。琥珀の液体を胸のあたりから被った雅善は、驚きに言葉をなくして、ただただ美里を見つめている。
「よし、じゃあ、行くか」
 ニコリと笑った美里は、雅善の手に空になったペットボトルを握らせると、ヒョイとその身体を抱き上げた。
「ど、どこへ!?」
「風呂場。汚れた服も、洗わないとな」
 俺達はふざけてて、置いてたペットボトルを倒したんだ。
 美里の告げた理由に、雅善は至極真面目な表情でわかったと呟き頷いてみせる。それを目の端に捕らえながら、明日もこれくらいしおらしくしててくれればいいなと思った。

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

SIN1

<< 短編一覧

 

 チャイムが鳴って、雅善が来たことを告げる。
「明日の放課後、遊びに行ってもええ?」
 そんな電話を美里が貰ったのは、昨日の夜のことだった。
 雅善は近所にある学習塾で知り合った友人だが、学区が違うため通う学校は同じではない。
 塾の休憩時間を一緒に過ごすことは多いが、塾のない日にわざわざ互いの家を行き来するほど親しいわけでもなかった。雅善が美里の家に訪れたことがあるのは、せいぜい2回といったところだろうか。
「それは、家にいろってことなのか?」
「大事な用事があるなら、別の日でもええけど。ちょぉ、借りたい物あんのや」
 『借りたい物』が何かという質問はあいまいにはぐらかされたけれど、美里は了承の意を告げて電話を切った。 
「で、何が借りたいって ? 」
 お邪魔しますと言いながら家の中に上がって来た雅善に、美里が尋ねる。
「ああ、あ~っと、……DVDプレーヤー、貸して欲しいんやけど」
「壊れたのか?」
「ちゃうって。あ~、うち、おかん専業主婦やから……」
 歯切れの悪い雅善の言葉に、けれど美里はすんなり理解を示した。
「なんだ、それならそう言えばいいじゃないか」
「言えへんって」
「借り物なのか?」
「いらんて言うたのに、むりやり押しつけられたんや」
「ふーん、……のわりに、ちゃんと見るんだな」
「ま、多少は興味あんねん」
 恥ずかしいのか、少し頬を染める雅善に苦笑しつつも美里は雅善をリビングへと案内し、ちょっと待ってろと言い置いてカーテンを閉めに行く。明らかに慣れたその様子に、雅善は多少ホッとして、ほんの少しからかってやろうかと、美里の背中に声をかけた。
「ずいぶん手際がええけど、美里はよお見たりするんか?」
 そしてついでに、スケベやなぁ、なんて一言も付け加えてやる。
「よく……というか、親が不在がちの家なんて、格好の上映会会場だろ?」
 けれど美里は気にするでもなく、さらりとそう返して来たので、逆に雅善のほうが驚いてしまった。
「みんなで見るんかっ?」
「そういう付き合い方をしてる友達も何人かはいるってことさ。気になるなら、今度呼んでやろうか? 場合によっちゃ、すごいのが見れるぞ」
 今日が初めてのお子様には刺激が強すぎるからやめたほうがいいかもしれないが、なんて笑いながら、カーテンを閉め終え近づいてくる美里に、雅善はフルフルと頭を振って断った。
「大勢で見るもんちゃうやろ」
「DVDを仲間うちで回すのも、上映会を開くのも、大して違わないと思うけどな。どうせ、下らない内容の批評とか、映像の善し悪しとか、何回ヌいたかとか、そんな話をするんだろう?」
 あっさりと吐き出されて来るセリフの内容に、雅善はカッと頬を朱に染める。
「見る前からそんなに照れててどうすんだか。ほら、ソフト出せよ」
 顔を赤く染めたままの雅善は返す言葉がない。それでも、美里に促されながらぎくしゃくした動きで鞄からDVDを取り出した。DVDを受け取った美里はさっさとプレーヤーにセットし、立ち尽くす雅善を引っ張ってソファに座らせる。
「なぁ……」
 当然という顔をして自分の隣に腰をおろした美里に、雅善はためらいがちに声をかけた。
「美里も、一緒に見るんか?」
「別に、俺のコトなんか気にしなくていいって」
(気になるっちゅーねん!)
 その言葉をかろうじて飲み込んだ雅善に、美里はどうぞの言葉を添えた笑顔でティッシュの箱を押しつけた。

>> 次へ

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

Eyes 目次

美里が無自覚に投げかける熱い視線に煽られて、自ら誘ってしまう雅善の話。
中学同級生。
3話と5話が美里の視点で、それ以外は雅善視点。

1話 資料室で
2話 視聴覚室で
3話 屋上で(美里)
4話 美里の家で
5話 自覚(美里)
6話 幸せな時間

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁