あの人の声だけでイッてしまう2

1話戻る→

 家に帰ると玄関先に見慣れない男性物の靴があった。客でも来ているのかと思いながら自室へ向かおうと階段を登り始めたら、リビングから顔を出した母が、思いもよらない人物の名前を口にした。更に、あんたの部屋で待っててもらってるから、なんて続いた言葉に血の気が引いていく。
 なんで勝手に自室へ通してるんだという、母への怒りはもちろんあったが、それよりも自室を見られたという焦りに階段を駆け上がった。
 勢い良く部屋のドアを開けたら、会わなくなって久しい年上の幼馴染が机の椅子に腰掛けた状態から、顔だけ振り向いて久しぶりだなと笑った。そしてその手の中には、CDラックにタイトルがわからないよう逆向きに入れていたはずの、BLCDのケースが握られている。彼が出演している作品の最新作だ。
「ちょっ、何やってんの!?」
 何年ぶりかわからないくらい久々の相手への、第一声がそれだった。あまりの衝撃に、会っていなかった間の時間なんて、軽く吹っ飛んだ気がした。
「んー、お前が俺のファンらしいって聞いたから、ファンサービスしにきてみた? みたいな?」
 こんなのまで全部聞いてくれてんのと、椅子をガタガタ動かして体の向きまで変えた相手が、手の中のケースを振ってみせる。
「ファン、って……え、誰に聞いたのそれ」
「おふくろ。ちなみに、当然お前の母親経由の情報な」
 いつのまにかオタク趣味に走った息子の目的が、目の前にいる幼馴染の声だとは知られていないと思っていたのに。母親というのはなかなかに侮りがたい存在のようだ。というか、BLCDの存在やその内容まで把握されていたらどうしよう……
「思うに、俺が出た作品、かなり昔のまで揃えてない?」
「お、幼馴染の応援くらい、してたっていいだろ」
 うんそうだ。これだ。それを聞きながらオナニーしてるなんて事実は隠し通せばいい。もし母親に探りを入れられても、それで押し通そうと心のなかで決める。
「非難したわけじゃねぇよ。ちょっとビックリしたってだけ」
 感謝してると続けて、相手は嬉しそうに笑った。多分、本心から喜んでくれているみたいで、少しだけ後ろめたい。
「てか、なんでこっち帰ってきたの? 仕事は?」
「たまに実家に顔出すくらいのことはしますよ、俺だって。今回は久々にお前の話聞いたから、ちょっと寄ってみただけ」
「ああ、そうなんだ……」
「俺のファンならファンって、もっと早く言っといてくれりゃいいのに」
「言ったら何かいいことあるの?」
「あー……じゃあ、サインとか要る?」
 これに書こうか? なんて手の中のケースをまた振っているから、いい加減それを手放せと思ってしまった。
 つかつかと歩み寄って、CDケースを取り上げる。
「作品は聞いてるけど、別にサインとかまで要らない。応援とは言ったけど、こんなのただの、自己満足で買ってるだけ」
「でも買ったら聞いてもくれてるんだろ? どれもちゃんと封開いてるし」
 俺の声、好き? なんて聞かれて思わず硬直した。距離が縮まったこともあるが、それよりむしろ、相手の声が明らかに変化したのを感じたからだ。
「これなんかもさ、けっこう際どいシーンあるけど、そういうの聞いて、お前、どんなこと思うの?」
 にやっと悪戯っぽく笑った相手に、ぐいっと腕を引かれてバランスを崩す。椅子に座る相手にぶつかる勢いで倒れこんだら、体は相手が支えてくれたけれど、思いっきり耳が相手の口元に寄る形になっていた。
「もしかして俺の声で抜いたり、しちゃう?」
「ちょっ……!!??」
「あ、図星? じゃあ、生声で喘いであげよっか?」
 ファンサービスと笑った声は、語尾にハートマークでもついてそうな軽さと色っぽさが混じっていて、それだけで体温が上がってしまう。
「い、要らない要らない要らない!!」
 彼の前で、彼の声で勃ってしまう、なんて醜態を晒すのだけは嫌で、思いっきり抵抗したが、耳元でまぁまぁまぁと宥める声を出されるとそれだけで足の力が抜けかけた。後、単純に、思ってたより相手の力が強かった。
 CDの中で可愛く喘いでたって、相手も普通に成人男性だ。そういや高校時代は何か武道系の部活に入ってた気もする。
「まぁまぁそう言わずに」
 ふふっと笑う声さえわざとらしい上に腰にクるからヤバイとしか言いようが無い。
「んっ、あ……っ、そこっ、ああっ、いぃっ、…はぁ、はぁっ、ん、うん、きもちぃ。あ、あっ、もっと触ってぇ、てかむしろ触ってやろうか?」
 唐突に演技から素に戻った挙句、勃ってるけどなんて指摘をしてくる相手に、ああ、そうだこういう人だったと思い出す。面倒見の好い優しいお兄さんな時ももちろんあったけれど、基本的にはぐいぐいと人を引っ張り回しつつ新たな遊びを考えだすようなタイプだったし、色々な悪さなんかもそれなりに教わってきたのだ。
 可愛い役柄が多いせいか、なんだかすっかり忘れ去っていた。
「こっちもすっかり大人になっちゃて」
 なんて言いながら股間を握られて、さすがに慌てて暴れれば、そこまで本気ではなかったのか掴まれていた腕ごと解放された。
「ちょ、っと! 悪ふざけすぎだろっ」
「いやなんか、久々に会ったお前、可愛くって」
 自分の中での相手が、中学くらいまでのイメージが強いように、相手からすれば、こちらは小学生時代の悪がきイメージが強いのだろうことはわかる。わかるけれど、こんなことを昔と同じ感覚で仕掛けられたら、心臓が持ちそうにない。
「もー、やだぁ……」
 俯いて小さく呟けば、さすがに相手も焦ったらしい。もちろん本気ではないのだが、相手が昔の感覚を思い出しているなら、相手のお兄さん部分を刺激するのがてっとり早いと思ってしまった。
「ごめん。確かにふざけすぎたよな。でも、お前が俺の出てる作品、追ってくれてるの凄く嬉しかったのは本当だから。変なサービスしてゴメンな」
 彼が椅子から立ち上がったのは、こちらが立っていたからで、相変わらず本気でなだめてくる時は視線の位置を合わせるのだなと思った。

 
 
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リバップル/魔法使いになる前に 2(終)

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 優しく出来ると言った相手に、緊張した顔で押し倒される。こちらだって当然、緊張はしていた。
 初めての時ってどうだったっけ。なんて、はるか昔に思いを馳せるが、互いに必死だったことしか思い出せない。いや、相手の体へ与えたダメージも思い出した。
「あ、あのさ」
「な、なに」
「お前めちゃくちゃ緊張してるけど、マジ、大丈夫なの? てか俺も緊張してるっていうか、かなり不安なんだけど」
「ご、ごめん。ムードまで気を配れる余裕、ちょっと、ない」
 お前傷つけないように考えるので手一杯などと続いて、思わず顔を両手で覆いたくなった。しないけど。
「ごめんって」
「う、いや、いい……です。あー、うん、お前の好きにして、いい」
 なにそれと言って笑った相手に少しだけホッとする。どうやら相手も笑うことで緊張が解れたと自覚したらしい。
「お前、抱かれる側でもカッコ良いのとかズルイ」
「そういうつもりじゃなかった」
 というか今のやり取りでカッコイイ所があったとは思えない。要するに相手の目と感性がオカシイ。つまり、こんな場面でカッコイイとか言い出す相手が可愛くて仕方がなかった。
「ん、でも、お前は抱く側になっても可愛い、かな」
「今日はカッコイイって言わせたい」
「普段のお前は普通にカッコイイですけど。ベッドの中くらい、可愛い俺の恋人で居てくれ」
「俺が抱く側でも可愛い方がいいわけ?」
 可愛い方がいいとか悪いとかじゃなくて、何したって多分お前は可愛いんだよ。なぜなら、自分の目と感性がそう主張してくるからだ。
「お前はお前のままでいい、って話。お前だって俺に、抱かれる側になるんだから可愛くなれとか思ってないだろ?」
「そりゃあ」
「だから、色々気負いすぎなくていいから、お前の好きに触れって」
 相手の手をとって、自分の頬に当てさせる。その手を、ゆっくりと首筋をたどるように下方へ滑らせた。途中で手を離したが、その手はもう相手の意思で動き始めている。
 愛撫されることにあまり慣れていない体は、相手の思うような反応を返すのが難しい。
 くすぐったさに混じる快感を捉えようと頑張りながら、つい頭の片隅で、今度抱く時はこの場所を重点的に責めてやろうなどと思ってしまう。だってしつこく触ってくるってことは、その場所が相手のキモチイイ場所ってことだろう?
 くふっと笑ってしまったら、相手が不安そうに、気持よくない? などと聞いてくるので、しまったと思いながらくすぐったくてと返しておいた。
「やっぱ抱くのって思ったより難しいな」
「お前だって、最初の頃はそうそうキモチイイ顔なんか見せなかったからな?」
「慣れかぁ……」
「そう。慣れ。ものすごく正直に言うなら、俺は今日、終わった後に立てないほど体が痛い、って状態にさえなってなきゃ成功だと思ってる」
「成功のライン低っっ」
「だからお前は気負い過ぎなんだって。十代だったとはいえ、俺がお前を最初に抱いた時のこと思えば、それで充分なんだよ」
 痛いって泣かせてゴメンなと言ったら、苦笑と共に、確かに泣いたねぇと返ってきた。
「あれに比べたら、多分、どんな風に抱かれようとマシだから。もちろん、相手がお前って前提の話な」
 だって抱かれる事に慣れた恋人が、優しく出来ると言い切ってする行為なんだから。
 それを伝えたら、ふわっと嬉しそうに顔をほころばせた後、好きだとシンプルな言葉が告げられた。
「俺も、好きだよ」
「いっぱい気持ちよくさせてからとか思ってたけど、後ろ、もう触っていいかな」
「どうぞ。むしろやっとかよって思ってる」
 可愛い可愛い恋人の、格段に雄っぽい顔も、これはこれで悪くないかも。なんて思いながら、弄りやすいように足を開いてやった。
 たっぷりのローションを使って、ちょっとしつこいくらいに弄られて拡げられている間、相手の興奮がどんどんと増して切羽詰まっていくのがわかる。辛そうな顔に、さっさと突っ込んでいいのにと思った。思ったら、それは口からこぼれていた。
「も、いいから、来いよ」
「まだダメ」
「んなこと言ってると、次、お前も焦らすよ?」
「気持よくて早く入れて、ってのと、お前の早く入れろは意味が違う」
「変なとこだけ冷静なのってどうなの?」
「それ多分、お互い様だから。今日は俺の、傷つけたくないって気持ち、優先させて」
 そう言われてしまったら黙るしかない。
 それからもまだ暫く弄られ続けて、途中二度ほど後ろを弄られつつ前を手で扱かれてイかされたのも有り、ようやく相手と繋がった時には、かなり精神的にも肉体的にもぐったりしていた。
 でも多分ここからがスタートだ。なんて思って気合を入れようとしたら、宥めるように肩をさすられる。
「時間かけすぎてゴメンね。でもこっから先はすぐ終わるから大丈夫。入れさせてくれて、ありがと」
 多分すぐイッちゃうよと苦笑した相手は、本当にあっという間に上り詰めてしまったようだった。マジか。
「え、お前……」
「うんまぁ、自分でもちょっと早すぎって気はしてる。けどまぁ、早く終わったほうが楽だろうなって。それに、お前の中、入ったことには変わりないし」
 呆然とするこちらに、照れた様子を見せながらも、相手は晴れ晴れとした顔をしていた。
「じゃ、抜くね」
「待って」
 腰を引こうとする相手を慌てて引き止める。
 このまま抜かずの二発目頑張らないかと誘ったら、一体相手はどんな顔をするだろうと思いながら、湧いてしまった欲求をそのまま口に上らせた。

 
 
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リバップル/魔法使いになる前に

 付き合い始めたのは中学を卒業する直前頃で高校は別々だった。
 初めて相手を抱いたのは高校最初の夏休み中で、そこから先ずっと、自分が抱く側でもう十年以上が経過している。
 互いの高校にはそれなりに距離があったし、大学時代はもっと距離が開いた。就職は取り敢えず同じ県内となったが、やっぱりそう頻繁に会えるような距離ではない。
 離れているのだから、浮気は仕方がないと思う部分はある。なんせ相手はそこそこモテる男で、別にゲイというわけでもない。自分が相手だからこそ、抱かれる側に甘んじてくれているのだと、それはわかっているし感謝もしている。
 浮気は仕方がないと思う気持ちはあるが、でもそれを知りたくはないし聞きたくもない。多分相手も同じように思うのか、こちらの交友関係にはあまり触れてこなかった。まぁ聞かれた所で、こちらにはやましい事など一切ないのだけれど。
 月に一度程度飲みに行って、互いの近況を語って体を重ねる。そんな、まるで惰性で続けているだけみたいな関係が、もう数年続いていた。
 好きといえば好きだと返るし、一緒に過ごす時間はやはり心地よい。だからまぁ、いつか相手に自分以上の本命が出来るまで、こんな感じでこれから先もダラダラと続けていくのかなと、ぼんやり思っていたのだ。
 彼の口から驚きの爆弾が落とされたのは、彼が二十代最後の誕生日を迎えた三日後の週末だった。平日の誕生日なんて直接祝えるわけがないので、当日はメールだけ送って、要するに土曜の今日は二人で彼の欲しいものを買いに行く。
 買い物の後はちょっと美味しいものでも食べて、ちょっといつもより甘さ多めの夜を過ごすという、まぁこれも例年通りの誕生日後の週末の過ごし方をする予定だった。
 いつもなら待ち合わせは近隣の大きめな駅改札とかなのに、一度家に寄って欲しいと言われて、直接相手の部屋に向かう。ドアを開いた相手はなんだか酷く緊張した顔をしていて、誕生日どころではない何かがあったのかと、不安と心配が押し寄せた。
「何かあった?」
「何か……というか、今年の誕生日プレゼントのことなんだけど」
「ああ、うん。予算は去年と同じくらいな」
「いや、要らない」
「えっ?」
 拒否されて、一瞬時が止まったような気がした。え、これ、まさかの別れ話?
「あ、いや、欲しいものはあるんだ。でも、買えるようなものじゃなくて……」
「うん。なるべくプレゼントできるよう考えるから、取り敢えず言ってみて」
 ゴニョゴニョとらしくなく言い渋る相手を促せば、相手の顔が少しずつ赤くなっていく。恥ずかしい話題かな? と思った所で、蚊の鳴くような声が、抱かせてと言った。……ような気がした。
「えっ……?」
「誕生日プレゼント、今年はお前が、欲しい」
 ああ、聞き違いじゃなかった。
「え、えっと、俺が抱くことに、不満が出てきた?」
「違う。不満なわけじゃない。ただ、ど、童貞のまま三十路に乗るのはちょっと……と思ったら、二十代最後の誕生日くらいしか、お前に抱かせて欲しいなんて、言えないと思って……」
 本日二度目の、一瞬時が止まる体験をした。
「えええええええっっっ!?」
 大声を上げてしまったせいか、相手は赤い顔のまま驚きで目を瞠っている。
「ちょっ、おまっ、童貞って……」
「あ、当たり前だろ。中学でお前と付き合って、お前が初めての恋人で、そのままこの年まで来たんだぞ。どこで童貞捨てろってんだよ」
「え、いや、だって……ええぇぇ……」
 今度のえーは尻すぼみに消えていった。だってお前、高校から先現在まで、モテまくってんの知ってんだぞ。なんで童貞のままなんだよ。どっかで一人くらい食ってないのかよ。
 そんな思いがグルグルと頭をめぐるが、これを口にだすのは絶対にマズイということはわかっていた。
「俺に抱かれるの、絶対に嫌か?」
 へにゃんと眉をハの字にしてしょんぼりした顔に、衝撃はそこじゃないと慌てて否定を返す。
「嫌じゃない。嫌じゃないけど!」
「嫌じゃないけど?」
「あー……その、……初めてなんで、優しくして、下さい……?」
 何言ってんだという気持ちが襲ってきて顔が熱くなったが、相手は酷く安堵した様子でホッと息を吐いている。
「それは、うん。大丈夫。だと思う」
 抱かれる側に関してはお前より良くわかってるわけだし、どうしたら気持ちよくなれるかもわかってるからと続いた言葉に、ますます体温の上昇を感じた。

続きました→

 
 
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彼女が欲しい幼馴染と恋人ごっこ(ホワイトデー)

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 本命大学に合格を決めた相手に、約束通り女の子を紹介した。今月中に童貞捨てさせてやってという赤裸々なお願いに、笑ってOKをくれるような女の子だけど、まぁ約束は約束だし、その後どうするかは本人たちが決めればいい。
 合格祝い渡すから出てこいと呼び出した相手は、こちらが女連れだったことに最初めちゃくちゃ驚いて、その女の子こそが合格祝いと気付いた後はめちゃくちゃ慌てていたのを覚えている。
 約束しただろと言いながら女の子を紹介した後は、自分だけさっさと帰宅したが、コミュ力の高い女の子だしなんとかなるだろと思っていた。その予想は外れることなく、夜には女の子の方から、お付き合いを開始した旨の連絡があった。正直ホッとした。
 引き止められたのを置いて帰ったからか、相手からはその後まったく連絡がない。でもまぁいいかと放置していたら、昨日、久々に彼が家に訪れた。
 玄関で対応したのは母だったから、要するに、気付いた時には自室に上がり込まれていた。
 ムッとした表情で突き出された袋を、反射的に受け取ってしまったが、最初それが何かはわからなかった。
「何これ?」
「ホワイトデー」
 律儀だなと思ったら少し笑ってしまった。
「お返しなんて要らなかったのに」
「でもなんか高そうなチョコだったし」
「まぁ安いもんではないけど。でもその分、量も少なかったろ」
「てかさ、あれ、本命チョコとは違ったの?」
「どういう意味?」
「あんな本気っぽいチョコ、くれると思ってなかったから、凄く嬉しかったんだけど」
 何やら不穏な発言を、どうやって受け流すかを考える。これは絶対、突き詰めたらいけない話題だ。
「本気っぽいって、そりゃあの時点では一応恋人だったんだから、それなりのもの渡すだろ」
「今は? というか、俺達ってやっぱ別れたの?」
「は? いやだってお前、そういう約束だったろ。お前が大学合格決めた時点で、終わりに決まってんだろ」
「そ、っか。まぁ、わかってたけどさ」
 でも俺、けっこう本気で好きになってたよ。という呟きのような言葉は、聞こえなかったふりをした。
「ね、最後に一回、キスさせて」
「ダメ」
「どうしても?」
「だってお前、彼女居るだろ。しかもそれ、俺の友人だからな?」
 不誠実だろと言ったら、苦笑しながら、意外と誠実だよねと返された。意外だなんて失礼だ、とは思えず、やはり自分も苦笑を返した。
「まぁ、性に緩いタイプと思われてるのは知ってる。別に間違いでもないよ。ただそれは、相手によるってだけ」
 お前にそういう真似はして欲しくない。とまでは言わなかった。
「キスがしたいなら、彼女としろって」
 そうすると返されて、胸の奥のほうが少し痛くなった。でもそれも、気付かなかったことにする。
「あのさ、本当に、ありがとう」
 何に対する礼かは聞かず、どういたしましてとだけ返した。
 そんな、昨日交わした久々の会話を、なんとなく繰り返し思い出す。あれで良かったのだとはっきり思うのに、少しずつ胸の痛みが広がっている気がする。
 机の上に置かれている小ぶりの可愛いデザイン缶を見つめた。昨日渡されたお返しだ。
 中身は飴だとわかっているけど、フタを開けることすらしていない。
 お返しの意味なんて考えているとは思えないけれど、これに彼の想いが込められている可能性を考えてしまったら、とても食べられる気がしなかった。これ以上、未練と向き合いたくなんかない。
「俺だって、けっこう本気で、好きになってたよ」
 伝えられたかもしれない最後のチャンスを、思いっきり跳ね除けたのは自分だ。でもきっとそれでいい。あんな形で始めたごっこ遊びの恋が終わったことを、安堵する気持ちも確かにある。
 ばかみたいな失恋に胸の奥が痛んでも、後悔はしてなかった。

続きました→

 
 
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墓には持ち込めなかった

 幼い頃から心のなかに隠し持っていた恋心を、生涯、相手に告げることはないと思っていた。墓にまで持ち込む気満々だった。ずっとただ想うだけで良いと思っていた。
 同じ年に生まれた自分たちは、幼稚園で出会ってからずっと長いこと親友で、だからこそ、彼の選ぶ相手が自分にはならないこともわかっている。彼が興味を惹かれ、好意を寄せる女の子たちに、気持ちが荒れたこともあるけれど、それももうだいぶ遠い昔の話だ。
 少しずつ大人になって、自由になるお金が増えて行動範囲が広がれば、だんだんと寂しさを埋める術だって色々と身に着けていく。
 その日は特定のバーで相手を見つけて、そのままホテルに向かうつもりで店を出た。店を出た所で、名前を呼ばれて顔を向ければ、そこには見るからに怒っている幼なじみが、こちらを睨んで立っていた。
 今夜のお相手となるはずだった相手は、あららと少し楽しげな声を発したけれど、この後始まる修羅場に巻き込まれるのはゴメンとばかりに、じゃあ頑張ってとあっさり回れ右して店に戻っていく。
 面白おかしく酒の肴にされるだろう事はわかりきっていたが、もちろん引き止めることはしなかった。代わりに幼なじみに向かって歩き出す。
「こんな場所で揉められない。付いて来て」
 隣を通り抜けるときにそう声をかければ、黙って後をついてくる。素直だ。
 一瞬、このまま本来の予定地だったホテルにでも入ってやろうかとも思ったけれど、そんな自分の首を絞めるような真似が出来るわけもなく、結局足は駅へと向かった。こんなことになってしまったら、今日の所は帰るしかない。
「待てよ」
 半歩ほど後ろをおとなしく付いて来ていたはずの相手が、唐突に声を上げただけでなく、手首を掴んで引き止めるから、仕方無く歩みを止めて振り向いた。
「何?」
「どこ、行く気だ」
「どこって、帰るんだよ」
「は? 家まで待てねぇよ」
「待つって何を?」
 まぁさすがにこれは、わかっていてすっとぼけて見せただけだ。でも頭に血が登りっぱなしらしい相手は、そんなことには気付かない。
「お前、俺に言うことあるだろっ」
「特にはないけど」
 しれっと言ってのければ傷ついた顔をする。そんな顔をするのはズルイなと思った。
「一緒にいた相手、お前の、何?」
「飲み屋で知り合って意気投合したから、河岸を変えて飲み直そうかーってだけの相手」
「本当に飲み直すだけなのかよ」
 疑問符なんてつかない強い口調に、これはもう知られているんだなと諦めのため息を吐いた。
「せっかく隠そうとしてるんだから騙されなよ」
「なんで俺を騙そうなんてすんだ」
「あのさ、幼馴染がゲイだった上に、夜の相手探してそういう場所に出入りしてるって知って、どうしたいの? 知らないほうが良いでしょそんなの」
 お前とは縁のない世界なんだからと苦笑したら、掴まれたままだった手首に鈍い痛みが走る。力を入れ過ぎだ。でも、相手は気づいてないようだったし、自分も痛いとは言わなかった。
「ああいう男が、お前の、好み?」
 抱ける程度の好意は持てる相手で、でも好みからはけっこう遠い。なんて教えるわけがない。寂しさを紛らわせてくれる相手には、雰囲気や言葉遣いが優しくて、でも目の前の男にはまったく似ていない男を選んでいた。
 だって別に、代わりを探していたわけじゃないから。本当にただ、一時的に慰めを欲していただけだから。
「そういう話、聞きたいもの?」
「俺はお前に、好きになった相手のこと、さんざん話して来ただろ」
「ああ、まぁ、そうだね。俺の相手は男ばっかりだから、聞かせたら悪いかと思ってた」
「悪くなんか、ない。知りたい」
「そっか、ありがとう」
「で、お前、あいつが好きなのか?」
「まぁ、抱こうとしてた程度には?」
 自分で知りたいといったくせに、言えばやっぱりショックを受けた顔をする。しかも目の中にぶわっと盛り上がった涙が、ぼろっと零れ落ちてくるから、焦ったなんてもんじゃない。
「えっ、ちょっ、なんでお前が泣くんだよ」
「だって、俺に、ちっとも似てない」
「は?」
「ここに来るまで、お前とあいつが出てくるの見るまで、男好きなら俺でいいじゃん。って思ってた。でも、わかった。俺じゃダメだから、お前、こういうとこ来てたんだって」
 もう邪魔しない、ゴメン。そう言いながら、掴まれていた手首が解放された。
「一人で帰れるから、店戻って。それと、お前のノロケ話もちゃんと聞けるようになるから。ちょっと時間掛かるかもしれないけど、そこは待ってて」
 泣き顔をむりやり笑顔に変えて、じゃあまたねといつも通りの別れの挨拶を告げて歩き出そうとする相手の手首を、今度は自分が捕まえる。こんな事を言われて逃がすわけがない。
「ねぇ、俺は、お前を好きになっても良かったの?」
「だって好みじゃないんだろ?」
「バカか。好みドンピシャど真ん中がお前だっつ-の」
「嘘だ。さっきのあいつと、全く似てない」
「それには色々とこっちの事情があって。っていうか、俺の質問に答えて。俺は、お前を好きになっていいの?」
 じっと相手を見つめて答えを待てば、おずおずと躊躇いながらも、「いいよ」という言葉が返された。
「じゃあ言うけど、小学五年の八月三日から、ずっとお前のことが好きでした」
「え、何その具体的な日付」
 戸惑いはわかる。何年前の話だって言いたいのもわかる。でもこの気持ちの始まりは確かにそこで、忘れられないのだから仕方がない。
「俺がお前に恋してるって自覚した日。まぁ、忘れてんならそれでいいよ」
「ゴメン、思い出せない」
「いいってば。それより、墓まで持ってくつもりだった気持ち、お前が暴いたんだから責任取れよ」
「ど、どうやって……?」
「取り敢えずお前をホテルに連れ込みたい」
 言ってみたら相手が硬直するのが、握った手首越しに伝わってきた。
「お、俺を、抱く気か?」
「え、抱いていいの?」
「や、いや、それはちょっとまだ気持ちの整理が……」
「抱いたり抱かれたりは正直どっちでもいいよ。でも、俺がお前を本気でずっと好きだったってのだけは、ちょっと今日中にしっかり思い知らせたいんだよね」
 今すぐキスとかしたいけど、さすがにこんな公道でって嫌じゃない? と振ってみたら、相手はようやく自分たちが今どこにいるかを思い出したらしい。ぱああと赤く染まっていく頬を見ながら、行こうと言って手を引いた。
 相手は黙ってついてくる。
 さて、十年以上にも渡って積み重ねてきたこの想いを、どうやって相手に伝えてやろうか。

 
 
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呼ぶ名前

 目の前の親友に恋をしてしまった。
 言えなくて、苦しくて、めちゃくちゃ心配されて、それでもどうにか口にできたのは、男を好きになったという部分だけだった。その程度なら、即、気持ち悪いと友情を切ってくるような相手じゃないと、付き合いの深さからわかっていたからだ。
 でもそれ以上はさすがに言えない。だって所詮は他人事ってのと、自身の問題とってのじゃ、天地ほどの差があるだろう。
 だから架空の片恋相手を作り上げて、切ない想いをたまに聞いてもらっていた。バカな真似をしている自覚はあったが、想いを隠しきれなくて相当心配をかけてしまった以上、そうするしかなかった。
 大きな誤算は、そんなに辛いなら俺が慰めてやろうかと、親友が言い出した事だった。
「そいつの代わりでいいよ。なんなら、そいつの名前で俺を呼んだっていい」
「バカなの?」
 バカなのは自分だ。好きだといった男の名前は架空のもので、本当に好きなのはお前だと、こんな提案をされてさえ言えなかった。言えなかったくせに、その優しい申し出を受け入れてしまった。
 だって親友とは親友のままでいたかった。恋人になんてなって破局したら、もう友人になんて戻れないかもしれない。代わりにという提案を受け入れるだけなら、親友はやっぱり最高に優しい男だったってだけで済む。もし試して上手く行かなくても、友情までは壊れないだろう。
 要するに、そんな逃げ道を作ってしまうくらい、恋の成就よりも親友と親友のままでいたい気持ちが強かった。
 でも、だったら、代わりになんて提案も、きっちり断るべきだったんだ。
「あいつの名前、呼ばないの?」
 触れてくれる手の気持ちよさにうっとりしていたら、呼んでいいよと優しい声が促してくる。
「な、んで……」
「あいつになりたいから?」
 代わりに慰めるのだから、名前を呼ばれることでなりきりたいって事だろうか?
「呼びなよ」
 再度促されて、架空の想い人の名前をそっと呼んでみた。わかりやすく胸がきしんで、ぶわっと涙があふれだした。
 後悔なんてとっくにしてる。でも間違った選択を重ねすぎて、どうしたらいいのかわからない。
 はっきりとわかっているのは一つだけ。
 親友と親友で居続けることさえ諦めればいい。でもそれを選べるなら、こんなことにはなってない。
「ああああゴメン。泣かせたかったわけじゃない」
 ごめんごめんと繰り返した相手は、もう呼べなんて言わないと言いながら、宥めるようにあちこちを撫でさすってくれる。優しくされて嬉しいのに、でもその優しさが辛くて、涙はしばらく止まりそうになかった。
 そんな風に始めてしまったいびつな関係は、それでもぎりぎり親友と呼び合う関係のまま、一年半ほど続いていた。でもさすがにもう終わりだなと思うのは、高校の卒業式が目前だからだ。
「ねぇ、お願いあるんだけど」
 体を繋げた状態で見下してくる相手は、珍しく不安そうな顔をしている。
「なに?」
「名前、呼んで欲しい」
 初めての時以来の要求だけれど、ぎゅっと胸が締め付けられた。
「えっ……」
 躊躇ってしまえば、ずいぶんと申し訳なさそうな顔をする。
「お前泣かせたいわけじゃない。でも、このままお前と親友のまま卒業していくの、やっぱヤダ。だから呼んで、俺の、名前」
 多分お前の気持ち知ってると思うと言った相手は、更にゴメンと続けた。
 意味がわからなすぎて混乱する。
「い、いつから……?」
「初めてお前とこういう関係になって、あいつの名前呼ばせて泣かれた時、あれ? って思った。後はまぁ、こういう関係続けてるうちに、確信に変わった感じ」
 あいつって実在してるの? という問いかけに首を横に振ったら、わかりやすくホッとされた。
「てことは、俺の勘違いじゃないよな?」
「俺、ずっとお前と、親友でいたくて……」
「あー、うん。それも知ってる。だからゴメン。お前と、親友ってだけのまま卒業したくないのは、完全に俺のわがまま。だからお前にお願いしてる」
 もう一度、名前を呼んでと甘い声に誘われて、親友の名前を口に出す。
 胸がきしんで涙があふれる、なんてことは起こらなかった。

 
 
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