プリンスメーカー1話 プロローグ

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 今日は市の立つ日だ。
 いつもより更に1時間ほど早く起床したガイは、まだ日が昇る前の暗い畑へと出掛けて行く。
 少しでも新鮮なものを買って欲しい。その気持ちから、野菜類を前日から用意することはしない。
 売りに出す予定分をテキパキと収穫し、ガイはそれらを詰めた籠を背負った。ずしりと肩に掛かる重みを思うと、さすがに馬の一頭でも欲しいところだったが、今の所入手できる当てはない。
 前に飼っていた馬は、両親の葬儀を行う際に手放してしまった。懐かしんでも戻ってくるわけではなく、ガイは明るくなり始めた空に追われるように、急ぎ足で隣町へと続く道を歩いた。
 
 
 馴染みの店の前で、挨拶を交わしながら背負った籠を下ろしたガイの服を、誰かがツイと引っ張った。町の入り口で所在無げに立っていたその少年と、ガイはまったくの初対面だ。
 一瞬だけ目が合ったが、当然挨拶を交わすこともなく、ガイは市場へと向かった。にも関わらず、どうやらその少年はガイの後を追ってきたらしい。
「どうした? 確か、弟はいなかったよな?」
「知りません。この辺の子やないんですか?」
「さぁなぁ~、今まで見かけたことないなぁ。なぁボウズ、どこから来た?」
 ガイから受け取った籠の中身を確認しながら、店の親父が少年に声を掛けたが、少年はきつく口を結んだままで答えようとはしなかった。
 肩を竦める店の親父に苦笑を返しながら、受け取った売り上げをすばやく確認する。思っていたより良い値で買って貰えたことに顔を綻ばせながら、ガイは礼を告げてその場を後にした。
 必要な物を買い揃えたら、なるべく早く帰宅し、残りの作業をやらなければならない。見知らぬ子供に関わっている時間はない。
「その手、放して貰えんか?」
 言葉は通じるようで、服の裾を握っていた手は放された。けれど、歩き出したガイの後を、その少年は凝りもせずについて歩く。
 気になってしょうがない。それでも極力無視し続けていたガイが、耐え切れなくなって少年と向き合ったのは、少年の腹がグゥと大きな音を立てた時だった。
「腹、減っとるん?」
 少し照れたように両手でお腹を隠した少年は、一瞬の躊躇いの後で頷いてみせる。
「何か買うて、食べたらええんやないの?」
「金は持ってない」
 初めて発した声はリンと響き、この近辺出身ではないことを如実にあらわす、綺麗な標準語をしていた。
「ホンマ、どこから来たんや。自分、親は居らんの?」
「知らない。わからない。気付いたら、一人だった」
「名前は?」
「……ビリー、だと、思う」
「思う、てなんや?」
「本当に、よく、覚えてないんだ」
 記憶喪失だと告げているようなものなのに、目の前の少年はどこか毅然としている。
 良く見れば、汚れてはいるが仕立の良い服を着ている。只者ではなさそうだった。
「ほな、なんでワイの後ついてくるんや? 助けを求めるんやったら、ワイなんかよりよっぽど頼りになりそうな大人がわんさか居るやろ?」
「大人は、信用できないから」
「ワイも、一応成人しとるんやけど?」
「えっ……」
 ちょっと年上のお兄さん、程度に思われていたのだろうか。背の低さも、幼さを残す顔も、ガイにとってはコンプレックスを刺激するものだ。
 溜息を吐き出したガイに、ビリーと名乗った少年は初めて狼狽えて見せた。
「あ、あの……」
「まぁ、ええよ。子供と間違われるんは慣れとるし。で、どないするん?」
「どうって……?」
「そこらの大人に声掛けるんが嫌なら、ワイが町長さんとこ、連れてったろか?」
 やりたいことは山ほど合って、時間はいくらあっても足りないくらいだけれど、自分から声を掛けてしまった手前、それくらいならしてやってもいい。けれどビリーが頷くことはなかった。
「アンタと、一緒に居たい」
「は? 何言うてん?」
「迷惑?」
「当たり前やろ。てか、子供養えるほどの余裕なんて、ウチにはあれへんわ」
「養ってくれとは言わない。俺に出来ることなら、なんでも、する」
「アカン。無理や。付き合うてられへん」
 ガイはクルリと背を向けて、町の出口へと向かう。
 記憶喪失の子供なんて、抱え込むわけにはいかない。そう思うのに、気になって仕方がないのは、これだけ大勢の人間が行き来する町中から自分を選び、あまつさえ一緒に居たいと言い切った相手に対する興味。
 振り返れば、まるでそうすることがわかっていたかのように、真っ直ぐに見つめるビリーの瞳に捕らわれる。
 ガイは小さな溜息を一つ吐き出して、少年の名前を呼んだ。

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プリンスメーカー 目次

こんなゲームがあったらいいなv な妄想から生まれた、実は王子なビリーを拾ったガイの話。
年下攻 。視点はガイ。

1話 プロローグ
2話 1年目 冬
3話 2年目 春
4話 4年目 冬1
5話 4年目 冬2
6話 7年目 春
7話 7年目 夏
8話 エピローグ

 
 
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せんせい。番外編 END No.3オマケ

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 自分達の関係を隠しながら重ねるデートの行き先は、やはり、どちらかというと都心部から離れた場所が多い。絶対に知り合いとは出会わないような、ちょっと寂れた観光地。
 行き先を決めるのはたいがい雅善だったから、雅善自身はそんな場所でもそこそこ楽しんでいるようだったし、ただただ雅善との時間を持ちたい美里にとっては、行き先なんてさして重要ではなかったし、雅善が楽しんでいるなら尚更どうでも良かった。
 問題があるとすれば、あの化学準備室で襲ってしまった時以来、雅善を抱いていないことだろう。
 美里にとって、これは大きな問題だった。確かにあの時、雅善は自分を好きだと言った。しかも、自分が雅善をそういう対象として好きになるよりももっと前から、子供だった頃から、ずっと好きだったと言ったのだ。
 なのに、たまに軽いキスを許してくれる以外、なんだかずっとはぐらかされていると思う。
 校外で会ってくれるなら、校内ではただの一生徒として接するのでも構わない。そう言って半ば脅し取ったデートの約束だからだろうか? それとも、最初の1回があまりにヘタだったせいで、2度目を警戒させているのだろうか?
 どんな理由にしろ、雅善に触れたいという気持ちが収まるわけではなかった。
 
 
 曲がりくねった山道を、車は軽快なスピードで登って行く。ところどころ開いた場所から覗く景色は、そろそろ秋の終りを告げていた。
「ガイ、どこか景色の良さそうな所で、一旦車止めないか?」
「ああ、ええよ。写真でも撮ろか?」
 肯定の言葉を返す前に、車はグンとスピードを落とした後、道の脇に作られた簡易な駐車スペースへと停まった。
「ええ天気やし、まわりの木ぃたちもキラキラしとって綺麗やな~」
 うっとりと呟きながら伸びをして、シートベルトを外そうとする雅善の手を、美里はそっと掴む。
「美里……?」
「キス、したい」
「ここで?」
 小さく笑う雅善を、美里は真剣な目で見つめたまま。
「そう、ここで」
 答えながらシートベルトを外し、返事も待たずに身体を浮かす。
「キスだけ、やで?」
 ゆっくりと瞼を下ろしながら囁かれる言葉に、わかったと返す気はなかった。軽く触れるだけのキスを何度も繰り返し、やがて雅善がそろそろ止めろと言いたげに肩を掴むのを合図に、深いキスへと変えた。
「んんっ!?」
 驚きか、拒絶か。美里の口内へと吐き出された言葉はくぐもった呻きとなり、雅善の指はそのままキツク肩へと食い込んだ。
 美里自身も、肩へと走る小さな痛みに眉を寄せたものの、だからと言って雅善を開放する気にはなれない。
 逃げる舌を追いかけ捕らえ、存分に舐め啜りながら、ズボンから引きずり出した服の裾から潜り込ませた片手で、直接雅善の肌に触れた。怯えるように、雅善の肌が戦慄くのがわかる。
「キスだけやて、言うたやろ」
 唇を放せば、戸惑いを滲ませながら吐き出された声が震えた。
「キスだけじゃ、足りない。抱かせろとは言わないから、もう少しだけ、雅善に触らせてくれよ」
「ここを、どこだと……」
「車通りのほとんどない、山道の道路脇に停めた車の中。ちゃんとわかってる。ムチャしたりしないから」
「既に充分ムチャしとるって」
「うん。ゴメン。でも、止められない」
 吐き出される溜息。こんな風に、雅善に溜息を吐かせるのは何度目だろう?
 自分よりもずっと小柄で、童顔で。並んで歩けば、同級生か、悪くすれば自分の方が年上に見られることだってありそうなのに。やっぱり相手は既に成人して数年を経た大人で、ずっと好きだったと言ったその言葉はきっと本当で、最後の部分で拒絶しきれないのを知りながら、そこへ付けこんで甘えてしまう。
 甘やかして、甘えさせたい気持ちはあるのに、身体だけ大きくてもダメなのだと、この数ヶ月で嫌になるほど思い知った。
 どうすればいいのかなんてわからない。わからないことだらけで、気持ちばかり相手を求めて、持て余す情熱を一人では処理し切れない。そんなことまで、ガイには見透かされているような気さえする。
「ゴメン、ガイ。でも好きなんだ」
 情けなさに泣きそうだった。覆いかぶさるようにして、美里は雅善を抱きしめた。
「わかっとる。ワイも、好きや」
「なら、なんで……」
 はぐらかすのか。抱かせてくれないのか。
 言いたい気持ちと、尋ねるのが怖い気持ちが混ざって、結局言葉には出来なかった。返される言葉はなく、代わりに、宥めるように雅善の手が背中をさする。
「ワイを、抱きたいか?」
 やがて、ゆっくりとした口調で問いかけの言葉が掛けられた。
「当たり前だろ!」
 背中に置かれた手は名残惜しかったが、身体を放して雅善を見つめれば、雅善は酷く優しげに微笑んでいた。
「ワイのがずっと年上で、身体は小さくてもれっきとした男で、ずっと美里を抱きたいて意味で好きやった。て言うたら、どうする?」
「えっ……?」
「キス以上の事がしたいんやったら、そういう可能性も考えとき」
 雅善のシートベルトが外れて戻って行く。それを呆然と見つめながら、美里はその言葉の意味を理解しようと考える。
 もしかして、抱かせろ、と言われたのだろうか?
 その想像を裏付けるように、雅善の手が美里のズボンのフロントに掛かって、美里は思わず上ずった声で尋ねてしまった。
「俺を、抱く気なのか?」
「まさか。ただ、ワイかてホンマに美里を好きなんやって、ちゃんと教えたろと思てな」
 ジジッと小さな音を立てて、ジッパーが下ろされる。下着の中まで躊躇いなく進入した暖かな手の平に包まれて、身体はすぐにも反応し始めていた。
「が、ガイ!?」
 身体を屈め、引きずり出した怒張に顔を寄せて行く雅善に、美里は驚きの声を上げる。上目遣いに美里を見遣った雅善の顔は、なんだか笑っているように見えた。
「ううっ」
 熱い口内に含まれて零れる吐息。信じられないという気持ちでいっぱいだったが、現実は確かな快楽を伴ってここにある。
 雅善が自分のモノを咥えている。その事実だけでも達してしまいそうなのに、丁寧に這わされる舌とか、軽く当てられる歯とか。耐えられるわけもなく、美里はあっさり音を上げた。
「ダメだ、ガイ。もう……」
「ええよ」
 そう言われたって、その口の中に吐き出すことなんて出来ない。なのに、力で払いのけてしまうにはあまりにも惜しい誘惑だった。
 結果、必死で耐える美里の我慢も、促すように吸われれば限界を超える。全てを口で受け止めてから、ようやく、嫌そうに眉を寄せつつ顔をあげた雅善の喉が上下した。
 飲まれた……
 嬉しさよりも、むしろ羞恥と戸惑いが美里を襲う。言葉を失くして、呆然と雅善を見つめる美里に、雅善は余裕を見せつけるように口の端をあげて見せる。
「これ以上は、美里が卒業するか車の免許取ってからや」
「免許……?」
「抱かれた後でも無事に運転できる自信はさすがにあれへん。てこと」
「でもさっき!」
「今すぐ、これ以上のことしたいんやったら、ワイが抱くよて言うただけや。ワイかて色々我慢しとるんやから、あんま煽るようなことすんなや」
「生殺しも同然の仕打ちだな」
 手を伸ばせば届く近さに居る好きな相手と、当分の間キスだけの関係でいろと言うのか。
 我慢なんてしなくていいのにと言いたかったが、それがイコール、自分が抱かれる側になることを指すなら、さすがに躊躇いがある。
「好き、て気持ちだけやったら不満ですか?」
 やや下方から覗きこまれての問い掛けに、不満なんてないと言えるほど強がれない。きっとまた、焦れて、触れたくなって、多少強引にでもその身体に手を伸ばしてしまうだろう。
「受験生を誘惑するんは気ぃひけるんやけどな、あんま煮詰まられても困るし、ほな、たまにはまた口でしたるから、それで我慢せぇへん?」
「それは……でも、俺だってガイを気持ち良くさせたい、し」
 苦痛に歪む顔じゃなく、快楽に喘ぐ表情が見たい。自分の手によって雅善の快楽を引きずり出してやりたいのだ。その口から、気持ちイイと言わせたい。
「それは卒業後か免許取ってから」
「触るだけでもダメなのか!?」
「ワイを、ムチャクチャ感じさせて、ドロドロにしたい。て顔しとるからアカンな」
 ニヤリと笑う顔に、やはり全然敵わないと思う。
 服を調えるよう促されて従えば、出発する気なのか雅善はシートベルトを装着する。仕方なく、同じようにシートベルトを締めて、動き出す景色に視線を送りながら。前言撤回で、受験終了前に車の免許を取りに行ってしまおうかと考えた。

 
 
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サーカス番外編 ビリーとセージ

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 ノックの音にドアを開けば、そこに立っていたのはビリーだった。手には数冊の本を抱えている。
「仕事、終わったんだね……」
 何もかもとは言わないが、それでも。セージにはその手の中の本を見ただけで、大体の事情がわかってしまう。
「ああ。これは、お前に返そうと思って持ってきた」
 俺が持っててもしょうがないからと差し出されたソレは、セージがガイのために選んだ絵本や童話だった。
 本を受け取りながら見上げた瞳。その中に見える寂しさを伴う陰に、尋ねていいのか、一瞬だけ躊躇ってしまったけれど。 それでも結局、セージは口を開いた。
「ガイは、どうなるの?」
「オーナーは、売る気でいるらしい、けどな」
「僕に、ガイを宜しく、とは、言わないんだ?」
 本当はビリーが、ガイのことを相当愛しいと思っていることを知っている。仕事だからと散々自分に言い聞かせなければならないくらいには、情が移ってしまったのだ。
 ガイ自身の魅力をセージだって充分に知っていたから、それは当然のことだと思うのだけれど。
「言えるわけがないだろう?」
「言えばいいのに。そしたら、僕は君にほんの少し、貸しができる」
 ビリーが何も言わなくたって、きっとガイを引き取りにオーナーの元へ行ってしまうだろうけれど。それくらい、ガイのこともセージは大切にしたいと思っていたけれど。それでも、ビリーが一言ヨロシクと言ってくれたら、どんなに嬉しいだろう。
 まったくの独り善がりな想いではないだろうと信じているけれど、それでも、だからこそ。ビリーが決してセージに手を出したりはしないのだということも、知っている。
 眉を寄せるビリーに、セージは小さく微笑んで見せる。
「なんてね。ちょっと言ってみただけ。君が、僕に借りを作るのが嫌だってことは、知ってるよ」
「お前に、だけじゃない」
「そうだね。むしろ僕は、結構優遇されてた方だよね」
 ビリーの中で、自分が数少ない友人の一人として扱われていたことをセージは知っている。
「君は結局、一度も僕に買われてはくれなかった」
 それがきっと、何よりの証だろう。
「男の相手をする趣味はないと言ったろう?」
「でも、ガイは男の子だよ?」
「断りにくい、仕事だったんだ……」
 苦々しげに呟くビリーに、セージは声を立てて笑った。
「いいよ。そういうことにしてあげる」
 その代わり、友人としてさよならのキスを贈らせて。そう頼んだセージに、ビリーは困ったような表情で少しの間考え込んだ。
 返された本を近くのテーブルの上に置いたセージは、空いた両腕をビリーの首へと伸ばす。ビリーの了承など、待つ気はなかった。
 軽く伸び上がって、その唇に触れる。触れるだけで終えようと思っていた別れのキスは、ビリーが抱きしめるようにまわした腕に支えられて、どちらともなく深いものへと変わった。
 名残惜しくて、離れがたい。それでも。
 深く触れ合う割に熱を煽らないキスに、セージは首にまわしていた腕を解いてゆっくりと身体を離した。
「元気で、ビリー」
 寂しさを隠して、柔らかに見えるように微笑むのはお手の物。申し訳なさそうに口を開きかけたビリーを遮って、セージは続ける。
「今更謝るのはなしだよ、ビリー。その代わり、君の夢が軌道に乗ったら、いつか僕らを招待して?」
「僕、ら……?」
「そう。僕と、ガイをね」
 二人でその日がくるのを楽しみに待ってるから。その言葉の意味を、ビリーはわかってくれるだろう。
 引き寄せられた身体が、再度優しく抱きしめられる。
「お前も、元気で。ガイを、宜しく頼む」
 照れくさそうに響く声に頷いたセージは、満たされた気持ちで、サーカスを去るビリーの背を見送った。

 
 
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サーカス16話 2年後

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 充分とはいいがたいものの、すっきりとした気分で瞼をあげたガイは、差し込む朝日に眩しそうに目を細める。今日も天気はいいらしい。
 仰向けに寝転がったまま、んーっ と大きく伸びをしてから、隣で寝息をたてているビリーへ顔を向ける。不思議と毎朝、ビリーはガイへと顔を向けて眠っているのだが、それは今朝も変わらない。
 そっと伸ばした指先で、前髪をサラリと掻き揚げてみる。そんな悪戯をしても一向に構うことなく、ビリーは穏やかな表情で目を閉じたままだ。
 無防備な寝顔を晒すのは、安心の証。従順な性の奴隷として調教される身となり、半ば強制的にビリーと一緒に暮らすようになった当初は当然、彼の寝顔なんて見た事がなかった。
 色々な不安感や恐怖心を抱えた日々の中、自分からビリーに近づくということをしなかったからだ。
 自分だって、疲れ切って眠ってしまうことはあっても、いくらビリーが一日の大半を部屋の外で過ごし、部屋の中でも極力ガイを無視するような生活をしてても。やはり、そこに存在するビリーの気配に、安心して眠れる夜などなかった。
 今となっては、それすら懐かしい思い出。そして今では自分もきっと、ビリーの隣で幸せな笑みを浮かべて眠っているのだろう。
  
 本当は優しい人なのだと気付けてよかった。
 好きになれてよかった。
 好きになって貰えて、本当に、よかった。
  
 ガイは湧きあがる愛しさに小さな笑みを零してから、ゆっくりと身体を起こした。
 朝食の準備をしてからビリーを起こして、今日は比較的時間に余裕があるから、昼間の内に一緒に買い出しに出掛けるのもいいかもしれない。そんな予定を脳内で思い描きながらベッドを降りたガイの腕を、伸びてきたビリーの腕が捕まえた。
「っわ!」
 驚きで身体を跳ねさせつつガイは振り返る。
「スマン、起こしてもうた?」
「いや、いい。それより……」
 窓に視線を向けたビリーは、やはり目を細めながらいい天気だなと呟いた。
「今から、メシの用意をするんだろう?」
「そうやけど……なんや、リクエストか?」
 卵の焼き方くらいなら応えてやれると笑うガイに、ビリーは笑い返しながら首を振る。
「せっかくだから、食べに出ないか? その後、買い物をして帰ってくる。というのはどうだ?」
 奢ってやるよと続いたセリフに、ガイは最初驚き、次には満面の笑顔を見せた。一緒に買い物に行きたいと思っていたのを、ビリーの方から申し出てくれたのがなにより嬉しかった。
 天気の良さに、同じことを考えたのだ。
「ホンマに!?」
 思わずビリーの背中に飛び乗ったガイに、ビリーは口先だけで重いと文句を言ったけれど。
「決まりだな」
 そう告げながら、次にはやはり、同じように笑って見せるのだろう。

 
 
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サーカス15話 オマケ3

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 温かな腕と、規則正しい寝息。起こしてしまわないように息を潜めながら、ガイはそっと、緩く上下するビリーの胸に手の平をあてた。
 優しい鼓動が、自分の手の中に刻まれていく。こんな風に、眠るビリーの腕に抱かれながら、この時間が少しでも長く続けばいいと願うのは2度目。
 初めの1回は、館から帰ってきた日だった。シャワールームで暴れて、疲れきって意識を手放してしまった後。気付いたときには、柔らかなタオルにくるまれて、ビリーのベッドに寝かされていた。
 驚いて起きあがろうとして、身体を包んでいるのはタオルだけじゃないことに気付いた。そっと抱きくるむ腕と。シャワールームでビリーが垣間見せた優しさと。胸が苦しくなって、涙が流れた。
 本当は優しい人なのかも知れない。そう思い始めたのは、きっとあの時からだ。そして、そう感じた自分の心眼は間違っていなかった。
 こんな形でなければ出会うこともなかっただろうけれど、もしも、別の形で出会えていたら……
 栓のないことばかりを考えてしまう自分に、こみ上がる笑いは涙に変わる。
 このまま朝なんて来なければいい。願っても願っても、叶わない望みだと知っているから。朝日が昇ってしまう前に、この想いは全部、涙で流してしまおうと思った。
 残すのは、幸せの記憶だけでいい。ハラハラと零れ落ちて行く涙もそのままに、ガイはビリーの胸の鼓動を一つずつ数えていた。そんな中。
「なんだ、また泣いてるのか?」
 どうした? そう柔らかに響いた声に、思わず身体を硬くする。
「嬉し泣き、や」
「嘘つきだな」
 回されていた腕にグイと力が入って、引き寄せられた先にあるのは、覗きこむビリーの瞳。
「どうして欲しい? 何が足りない? 言ってみろ」
 ガイは流れた涙を強引に拭い去ると、緩く首を振って拒否を示した。
「何も……もう、充分過ぎるほど、貰うとる」
「ならなんで、そんなに悲しそうな顔をしてるんだ」
「きっと、ビリーの、気のせいや」
 ごまかすように笑えば、ビリーは眉をしかめながら何事か呟いた。
「なんやって?」
「お前の、本当の笑顔が見たいって言ったんだ」
 無理して笑おうとするな。という言葉に、急ごしらえの笑顔の仮面は剥がれ落ちて、また涙が滲んで行くのを自覚する。
 そっと涙を拭ってくれる指先を掴んで止めた。これ以上優しくされたら、いつまでたっても涙は止まらないだろう。
「もうええよ。もうホンマに、充分やから。恋人の時間は、もう、終わりでええんや」
 ビリーがどんな表情を見せるのか、知りたくないと思った。だからムリヤリ身体を捻って背中を向ける。
「日が昇るまでは、この部屋に居らせてな。朝んなったら、すぐ、出てくし」
「ガイ……」
 呼びかけの声には、どう答えていいのかわからなくて口を閉ざした。
「ガイ」
 もう一度名前を呼ばれるのと同時に、首筋にサラリと掛かったのはビリーの髪の毛だろう。そのまま肩に押し付けられたのは、きっと、ビリーの額。
「……ビリー?」
 どうしていいかわからなくて、結局名前を呼んだ。
「お前を好きだよ、ガイ。仕事としてじゃない。本当に、好きなんだ」
「えっ……?」
「裕福な生活の保障なんてしてやれないけど、本気で、お前を連れて行きたいと思ってる。お前が、もう一度、そうしてもいいって言ってくれるなら、な」
「ホンマ、に?」
「嘘だと思うなら、こっちを向いて、自分の目で確かめたらどうだ?」
 肩から離れていく熱を追うように、ガイは身体の向きを変えた。
「もう一度聞く。俺と一緒に、このサーカスを出ないか?」
 真っ直ぐに見つめてくる視線に、揶揄いや嘘の色はない。
「連れて、って」
 頷いて、怖々と吐き出した言葉に。
「決まりだな」
 ビリーはまるで子供みたいな笑顔を見せながら、ガイを引き寄せ抱き締めた。

 


 ガルムと名づけた鹿毛の馬の背に二人でまたがり、高台から見下ろす景色。目に映るその大部分が、ビリーの手にした土地だった。その一角で、数頭の牛がのんびり草を食んでいる。
「驚いたか?」
「これが、ビリーの、夢?」
「そうだ。いずれはもっと家畜の数を増やして、この土地に見合う大牧場主になる」
 ついて来たことを後悔してるか?
 背中に掛かる声に、ガイは思い切り首を横に振る。
「後悔なんて、する暇ないほど、これから忙しくなるんやろ?」
「そうだな。お前にも、これからは色々手伝って貰うからな」
「まかしとき!」
「よし、じゃあ、行くか」
 掛け声と共に、ビリーはガルムを走らせる。晴れ渡る青空の下、楽しげに弾む声が響いた。

< 終 >

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