罰ゲームなんかじゃなくて2(終)

1話戻る→

 まぁ男同士だし、好きって思って告白したんだから嫌悪やらはないものの、そこまで行為に積極的な興味はなくて、でもせめて、あの笑顔は見せて欲しいなと思う。二人きりと言っても、こちらの友人がいない状態を二人きりと称しているだけで、実際は周りにたくさんの他人がいるわけで、その状態では無理なのかなとも思うんだけど。
 だって、あの笑顔を見たとき、そこに居たのは野良猫一匹だけだったから。
 今度、空き時間にあの場所へ二人で行ってみようか。そういや、なんで好きになったのか、なんて話はしたことがなかった。
 これはちょっといい案かも知れない。
「ねぇ、このあとだけど、もうちょっと時間ある? ちょっと行きたいとこあるんだけど」
 思い立ったが吉日とばかりに切り出せば、向かいで本日のA定食を食べていた相手が、質問とはまったく関係のない答えを返してきた。
「今日で1ヶ月経ったけど」
「ああ、うん。え、もしかしてお祝いとかしたい系?」
 言われてみれば確かに、あの告白から今日で一月経過している。ちょうど学食に居るし、何かデザートでも買って来たほうがいいだろうか。
 なんて思った矢先。
「これ、いつまで続ければ満足なの?」
「は?」
「もしかして、期限とか決めずに始めたの?」
「は? え? そんなの決めて恋人するほうが珍しくない?」
「そりゃ普通の恋人はそうかもだけど、俺達は違うでしょ」
「え、なんで?」
「なんで、って……罰ゲームみたいなもんじゃないの?」
「は? はぁあ?」
 あまりに驚いたせいか、相手もなんだかバツが悪そうな顔になりながらも、いつネタバラシがあるのか待ってるんだけど、と続けた。
「こっち来る前、そっちでなんかすごい盛り上がってたし、やたら怖い顔して近づいてきたと思ったら、好きです付き合ってください、なんて言い出すから、何か掛けでもしてて、負けた罰ゲームで言わされたんだと思ったし、巻き込まれた腹いせに困らせてやろうとして、いいよって言ったのに、なんか、いつまでも終わる気配がなくて……」
 ああ、なるほど。やけにあっさりOKされたと思ったが、そんなことを考えていたとは。
 こちらの好意はどうやら、一欠片だって相手には伝わっていなかった。
「俺は終わる気ないけど、ネタバラシが必要なのはわかったから、このあと、ちょっと付き合って」
 あの場所へ二人で行ってみようと思いついた後で良かったなと思う。
 相手が食べ終わるのを若干急かしながら待って、相手の都合は聞かないまま、やや強引にあの場所へと連れて行く。脇道からそれようとした時にはさすがに少し抵抗されたから、その手を取って有無を言わさず引っ張っていった。
「こんなとこ連れてきて何する気? もしかして、怒った?」
 人気のない建物の裏手に連れ込まれ、相手は少し怯えているようだ。
「ここでさ、猫なでて笑ってた記憶、ない?」
 数ヶ月前の話だと言えば、思い当たることがあったらしい。
「ああ、うん。そういえばそんなこともあった、かも」
「俺、あのとき、猫相手に笑ってる顔が忘れられなくて、お前のこと気にするようになって、気づいたら惚れてたっつうか、どんどん好きになってて、あいつらがあの日やたら盛り上がって騒いでたのも、俺が怖い顔してたのも、俺がお前に玉砕覚悟の告白する気になったからで、罰ゲームとかなんもない。だから俺はOKされて普通の恋人になったつもりでいたし、1ヶ月経ったから終わり、なんて気もないんだけど」
 でも罰ゲームに嫌がらせで付き合っていただけなら、相手はもう、別れたいと思っているだろうか。なんていうのは、多分杞憂だ。
 完全な二人きりが功を奏しているのか、随分とまとう気配が穏やかで、安堵の表情を浮かべる表情もいつもに比べて随分と柔らかい。
「ねぇ、俺のこと、1ヶ月付き合って、ちょっとは好きになってくれてる?」
「それ、わかってて聞いてるだろ」
「うん。だって嬉しくて」
 えへへと笑えば、つられたように相手もクスリと笑う。あの日見た柔らかな笑顔に似ていた。
 キスがしたいなと思ってしまって、内心苦笑を噛みしめる。恋人らしいことが何もなくたって、せめて笑ってもらえれば満足するかと思ったけれど、そんなことは全然なかった。

<終>

さ~て、今週の有坂レイにぴったりのBLシチュエーションは~?
1.賭けに負けて
2.同級生
3.好きすぎて止まらない
の三本です!!
来週もお楽しみに~!
https://shindanmaker.com/562913

 
 
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罰ゲームなんかじゃなくて1

 同じ学部学科の同級生であるそいつとは、必修科目で顔を見る程度の仲でしかなく、かろうじて名前はわかっているが、多分向こうはこっちの名前も把握してないんじゃないかと思う。
 大学の敷地はそこそこの広さがあるし、いくつも並ぶ校舎の脇道ですらない建物の影にいたそいつに気づいたのは、休講を忘れて早く来すぎてしまい、時間を持て余して一人きりで構内散策をしていたことが大きいと思う。
 耳は割と良い方で、話し声が聞こえて近寄ってみたら、そいつが入り込んだ野良猫を構って笑っていたのだ。
 猫に向かって柔らかに笑う顔を見て、そんなふうに笑うんだと初めて知った。だってあまり人とつるむ気がないようで、誰かと話してる姿すら滅多に見かけないし、その時には笑顔なんて見せてなかったから、無愛想なイメージしか持っていなかった。
 そこで声を掛けてしまえば良かったのかも知れない。けれど多分相手は一人で行動するのが好きで、今ここに自分が踏み込んだら、せっかくの猫との時間を邪魔してしまうだけだろう。
 結局相手が猫と別れるまで見守ってしまった上に、自分がいる方向とは別方向に去っていったから、見てたということすら知られないままその時間は終わった。
 気づかれなかったのに、その直後の講義で同じ教室内に相手の姿を見つけて、なんだかソワソワしてしまったし、あの光景が忘れられなくて時々あの場所を覗くようにもなってしまったけれど、その後同じ光景に出会えたことはない。あの野良猫とすらあれっきりだし、夢でも見てたと忘れられたなら、良かったのに。
 しばらくして、そんなにあいつが気になるのかと、普段つるんでいる友人たちの一人に聞かれた。普段つるんでいる連中には、相手を意識しているのが丸わかりらしい。
 あの日のことは誰にも話していないし、なんとなく教えたくもなくて曖昧に濁していたら、からかい混じりに惚れただの何だの言われるようになって、そう言われ続けると、なんだか本当に相手を好きな気がしてくるから怖い。
 あの笑顔をもう一度みたいとか、できれば自分に向けて笑ってほしいとか。それってつまり、相手からの好意を欲しているってことで、好きってよりは好きになって欲しい方向だとは思うものの、あれをきっかけに相手に惚れてしまったのだと思えないこともない。
 なんてことをぐるぐると考えて、思い込みとも言える想いをバカみたいにつのらせて、相手も一緒の必修科目に身が入らないというやばい状況になり、いっそ玉砕してこいと周りに囃し立てられるまま、講義終わりに呼び止めて告白した。
 さすがに驚いたみたいで目を瞠ってまじまじと見つめ返されたのが印象的で、それすら、珍しいものを見たと思って食い入るように見つめ返してしまう。
 それに対して嫌そうに眉を寄せたから、絶対に断られると思ったのに。というよりも、そもそもが玉砕覚悟の突撃だったのに。
「わかった。いいよ」
「え?」
「おつきあい、してみても」
「え、え、まじで? いいの? じゃあ、じゃあっ、とりあえず連絡先交換しよっ」
 まったく熱のないそっけない対応ではあったが、OKされたのには違いなく、食い気味に連絡先の交換を持ちかければ、やっぱり引かれ気味ではあったものの、渋られることなく教えてくれた。
 やっぱり人とつるむのはあまり好きではないらしく、こちらの友人たちの中に引き入れるのは失敗したけれど、こちらが友人と離れて彼の隣で講義を受けることや、友人たちとは離れた席での学食利用などは出来るようになって、ポツポツとではあるが相手のことを教えてもらって、最初のうちはひたすら毎日が楽しくて仕方がなかった。
 でも友人たちに指摘されるまでもなく、恋人らしい進展はなにもない。構内で二人で過ごすことはあっても、休日に一緒にでかけたことすらないのだから、正直言えば未だ友人以下の関係だった。

続きました→

 
 
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感謝しかないので

 寝る前に水分を取りすぎたせいか、尿意によって起こされてしまった深夜。トイレ側の和室にまだ明かりがついていることに気づいて、薄く開いた隙間から中を覗き見る。
 ローテーブルの上には晩酌のあとが残っていて、その机につっぷすようにして父親が寝落ちていた。
 数時間前、そこで一緒に酒を飲んでいたのは自分だ。
 席を立つとき早めに寝るよう促しはしたが、ある意味特別な日でもあったから強制はしなかったし、正直に言えば、この光景じたいが想定内とも言える。
 別に寒い時期じゃないし、明日は休みだし、このまま放っておいてもいいのかも知れない。
 でも見つけてしまったからには、やはり放ってはおけなかった。あんな体勢で長時間寝てしまったら、どこか痛めそうな気がする。
 せめて横にならせて、何か上に掛けてやろう。
 部屋の中に入って、机に伏した体をそっと引き起こしてそのまま後ろに倒した。そうしてから、ローテーブルの方を移動させて、足元のスペースを開ける。
 崩れた足をのばしてやって、後は何か掛けるものを持ってこようと立ち上がりかけたところで、服の裾を掴まれた。
 寝ぼけて呼ばれた名前は不明瞭だったけれど、どう間違っても自分のものではない。そして不明瞭ながらも、誰を呼んだかはわかっていた。
 もう随分と前に亡くなっているのに、この人は未だに母を愛し続けている。母よりだいぶ年下のこの男に、次の人を探すよう勧める人は多かったと思う。
 自分自身、連れ子だった自分の世話なんて、母方の親戚に放り投げれば良かったと思っているのに。20代半ばで小学生の子持ちとなったこの男は、愛する女性の忘れ形見だからと、血の繋がりもないのにそのままずっと育ててくれた。
 もちろん感謝はしている。この人が居てくれたおかげで、母と暮らしていた家も、友人たちも失うことなく生活を続けられた。
 けれどそのおかげで、自分もこの家から離れられない。結婚したいと思えるような相手だって作れない。別にそれでいいとも、思ってるけど。
 だって、この人が母を愛するのと同じくらいに愛せる女性となんて、きっと一生出会えない。だったら母を愛し続けるこの人の残りの人生に、このままずっと寄り添っていたかった。
 母の血を継ぐ自分は、きっと母の好みも受け継いでいる。もし娘として生まれていたら、母の代わりになれていただろうか、なんてことを考えてしまうくらいには、この男のことを好きだった。
 必死で父親をしてくれたこの人への、裏切りだと思う気持ちももちろんある。けれど、自分から今の距離を手放す気にはどうしたってなれそうにない。
 一緒に酒が飲める年齢になってからは、なおさら強くそう思うようになった。
 実はかなりの寂しがり屋で、息子が結婚して家を出ていき、この家に一人残されてしまうことを恐れている。なんてことを知ってしまったら、結婚を急かされようが気にならない。
 まぁ、結婚式で語りたい内容だとか、孫との楽しい触れ合いだとか、酔ったついでに色々と未来の夢を語られてもいるので、結婚はして欲しいのだろうとは思うけれど。
 寂しがり屋の彼のために、同居OKの嫁を探そうなんて気は全くないので、結婚式も孫との触れ合いも諦めて貰うしかない。
 そんなことをぼんやり考えながら、棚の上に置かれた小さな仏壇を見上げた。仏壇の横には、二人の思い出の品だというかわいらしいこけし人形が二体、仲良さげに並んでいる。
 昨日は母の命日だったから、夢の中で、母と会えているのかもしれない。あの二体のように、仲良く並んでおしゃべりでも楽しんでいたら良い。
 そんな想像に、二人のじゃまをしたくなくて服の裾を握られたまま動けずにいれば、自分の名前を呼ばれた気がした。
 まじまじと相手の顔を覗き見れば、次にはゴメンと謝られてしまう。
 どんな夢を見ているかわからないし、もし母と会っているのなら、その謝罪は自分へ向けられたものではないだろう。そうは思いはしたものの、うっすら滲んできた涙を放っておけない。
「謝んないでよ。ずっと、感謝しかしてないんだから」
 そっと目元を拭いながら、思わず口からこぼれた言葉に反応してか、相手の瞼が持ち上がる。
 ぼんやりとした目と視線が合ってしまって、慌てて体を離せば、相手は数度瞬きした後でまた瞳を閉じてしまった。
 暫く息をつめて相手の様子を窺ってしまったが、静かに寝息を立てていて、どうやらまた夢の中に戻ったらしい。けれど今はうっすらと口元が笑んでいるから、少しばかりホッとした。

父側視点の少し未来の話はこちら→

有坂レイさんは、「深夜(または夜)の畳の上」で登場人物が「離れる」、「人形」という単語を使ったお話を考えて下さい。https://shindanmaker.com/28927

 
 
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お隣さんがインキュバス

 深夜とも言える時間帯、終電でなんとか辿り着いたマンションはなんだか少しいつもと違う。 
 不穏な気配の原因はすぐにわかった。エレベーター前で揉めている二人の男がいる。
 騒がしくはないが、小声で何やら言い争っているのがわかった。
 疲れた体で階段を使う気はせず、かといってその二人の間に入っていく勇気もなく、さっさと終わってくれないかと思いながら、ぼんやりとその二人を眺めてしまう。
 やがて片方の男がこちらの存在に気づいて何か言ったようだ。ちらりとこちらを確認したもう一人の男が、結構派手な音を立てて相手の頬を叩く。
 さすがに驚いて目を瞠っているうちに、頬を叩いた側の男がつかつかとこちらに向かってくるから焦った。しかし特に絡まれることはなく、通りすぎる時に軽く舌打ちされた程度で済んでホッとする。
「すみません、変なところ見せちゃって」
 叩かれた頬をさすりながら残された男がペコリと頭を下げた。
「あー……いえ。その、大丈夫ですか」
「大丈夫です。気にしてくれるなんて優しいですね」
 にこりと人懐っこそうに笑った相手は、エレベーター使いますよねと続けながらボタンを押す。これはこの男と一緒に乗り込むしかなさそうだ。
「4階ですよね?」
「そうですけど……」
「俺、隣に住んでますけど、もしかして顔わすれちゃいました?」
 こちらの警戒心が伝わったのか、相手が苦笑する。
 言われてみれば確かに、以前、隣に越してきたと挨拶に来た男と同一人物らしい。その挨拶以降、一度も顔を合わせたことがないので、隣には自分よりも少し若いだろう男が住んでいるという情報だけが頭に残っていて、顔などすっかり忘れていた。
「え、あ、あー……すみません。ご挨拶頂いたとき以来だったので」
「いいですいいです。俺、人の顔覚えるの得意なんで」
 一緒にエレベーターを降りた男は、自宅の一つ手前の部屋のドアを躊躇いなく開ける。
「おやすみなさい、いい夢を」
 最後にそう笑った顔が、廊下の薄明るい蛍光灯の下ですら、なんだかキラキラと輝いて見えた。

 そんなことがあったからか、変な夢を見てしまった。
 さっきはありがとうございましたとキラキラの笑顔を振りまくお隣さんに起こされて、別に何もしてないと言うこちらの訴えをスルーされて、ニコニコ笑顔のまま覆いかぶさってきた相手と、あれよあれよという間に体を繋げていた。しかも、自分が抱かれる側で。
 夢だからなんだろう。抱かれるなんて経験は初めてなのに、痛いどころか、ひたすらに気持ちが良かった。
 自分の口から女みたいな嬌声が漏れ出ているのが不思議で仕方がない。セックスが上手いっていうのはこういうことを言うんだろう。それを思い知らされるような手管の数々に、善がり泣く以外出来なかった。
 恋人に振られたのがもう1年近く前だし、忙しすぎて自己処理すらご無沙汰だったせいか、散々イカされまくった後の目覚めはなんともスッキリしている。
 ただ、下着が汚れていなかったのは不思議だったし、お尻の穴がムズムズしていてなんだか恥ずかしい。その場所が、まるで夢のとおりに気持ちが良くなりたいと期待しているみたいで嫌だ。

「お疲れさまです。今日もけっこう遅かったですね」
 どういう仕掛けかわらかないが、自室がある階でエレベータを降りて歩き出した矢先、隣室のドアが開いて男が出てくるから驚く。
 思わず足を止めてしまったが、相手の顔をまっすぐに見返したところで、昨夜の夢を思い出してしまった。顔に熱が集まるのがわかって、なんとも気まずい。
 そっと視線を外せば、相手がふふっと小さく笑う気配がした。
「俺のこと、意識、してくれてますよね?」
 嬉しいなぁと呑気な声の後、相手の気配がぐっと近づいてくる。
「今夜も、楽しみましょうね」
 耳元で囁かれた声に慌てて一歩後ずさり、相手の顔をまじまじと見つめてしまう。気まずいなどと言って、視線を外していられない。
「どういう意味だ」
「やっぱ覚えてないか。そもそもあの状態じゃ、聞こえてたかも怪しかったけど」
「だから、どういう意味だ」
「俺ね、インキュバスなんですよ。あなたのこと結構気に入っちゃったんで、変な夢見たなぁじゃなくて、今日はちゃんとリアルで可愛がってあげたくて、帰ってくるのを待ってたんです」
 何を言われているのかわからないものの、楽しげに笑っている顔がやっぱりキラキラと輝いて見えて、だからおいでと伸ばされた手を拒めなかった。

さ~て、今週の有坂レイにぴったりのBLシチュエーションは~?
1.ビンタ
2.お隣さん同士
3.相手がインキュバス
の三本です!!
来週もお楽しみに~!
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ずっと子供でいたかった

おにショタ要素あり

 ずっと子供でいたかった。何の悩みも持たずに、仲のいい友人たちと、学校の休み時間や放課後に駆け回って遊ぶような日々を過ごしていたかった。
 大人の階段、なんてもの、別にまだ上る必要はなかったのに。それがどういうものかもはっきりわからないまま、言葉巧みに誘われてついて行ってしまった。
 だって、昔一緒に遊んで貰った記憶があったから。頼れるお兄さんだったから。
 昔みたいに、新しいことを教えて貰ったら絶対に楽しいって思ったし、他の友だちに自慢したり広めたり出来るかなって、期待していた。
 実際、大人の階段を上るのは楽しかった。お兄さんに貰ったエッチな雑誌を友だちに見せて、英雄気分を味わったりもした。
 でも友人たちに話せないことも抱えるようになってしまった。内緒だよって言われなくたって、人に言っちゃいけないことをしてるんだという認識はあった。
 無理やりされたわけじゃないし、そこまで強引にされたわけでもないから、もし最初にちゃんと拒んで、お兄さんの家に行くのを止めていたら……
 なんて、そんなタラレバは意味がない。だって自分は拒まなかったし、イケナイコトって頭のどこかではわかってたのに、お兄さんの手を受け入れてしまった。だってお兄さんに触られるのは凄く気持ちが良かった。
 ずるずると関係を続けて、流されるままにお尻まで開発されて、紛れもないセックスをお兄さんとするようになって、今更、とんでもないことをしたって後悔しても遅すぎる。
 もうやめたい、って言ったら理由を聞かれて、好きな人が出来たからと言えば、じゃあ仕方がないねとあっさり終わりになったのも、結構ショックなのかも知れない。
 どんな相手を好きになったの、とすら聞かれなかった。
 振られたり諦めが付いたらまたおいでとは言っていたけど、あんなに色々してきたくせに、引き止めるような執着はないのだ。自分だって、好きでもなんでもない相手に好き勝手させていた、という点は思いっきり棚に上げて、都合よく遊べる体だったと突きつけられて悲しくなった。
 しかもすっかり開発されきった体は、お尻を弄らないと上手く射精が出来ないまでになっている。
 初めて恋愛的な意味で好きだと感じた相手が男だったのは、お兄さんとの関係があったからという可能性がかなり高いけれど、でも、女の子を好きにならなくて良かったとも思う。こんな体で、女の子相手にセックスできる気がしない。
 だけど片想いの相手に抱いてもらう妄想でオナニーする虚しさと言ったらない。正直に言えば、物足りない。
 でも自分から切っておいてお兄さんを頼りたくはなかったし、振られたわけでも諦めが付いたわけでもない。お兄さんなら、他に好きな人が居たままでも気にしないかも、とか思わなくもないけれど、その誘惑にはいまのところ抗えている。
「お前、最近なんか悩んでる?」
 心配そうに声をかけてくれたのは、昔からの友人の一人で、お兄さんとの関係を切る切欠になった男だった。気にかけてくれるのが嬉しくて、こういうとこが好きなんだよなぁと思いはするが、でも、この悩みを打ち明けられるはずもない。
「もしかして、お兄さんとうまく行ってない感じ?」
「俺、長男だけど」
「じゃなくて、近所の頼りになる兄貴分? あのエロ本とか譲ってくれてたイイ人」
 切ったと言えばめちゃくちゃ驚かれた上に、好きなんだと思ってた、なんて言われてわけがわからない。ただ、その指摘で気持ちがぐらつくのがわかってしまった。
 こちらの動揺に何を誤解したのか、失恋を慰めだした相手を少し強めの言葉で黙らせる。
「違うって言ってるだろ!」
「じゃあ何があったか言えよ。言わなきゃわからないだろ」
「無理」
 短く言い切れば諦めたようで、いつでも話聞くぞと言って去って行く。心配してくれてるのはわかるし、そこが相手のいいとこなんだって思うけれど、でも、この件に関してはお前はずっとわからないままでいいよ。

有坂レイさんには「ずっと子供でいたかった」で始まり、「わからないままでいいよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。https://shindanmaker.com/801664
(ざっくり100字ほどオーバーしました)

金曜日は予定(健康診断)が入っているので、更新はいつもよりずっと遅いか、最悪更新できない可能性があります。

 
 
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ホラー鑑賞会

 カーテンの隙間から覗く空は青々としていて、意識して耳を澄ませばいくつもの蝉の鳴き声が聞き取れる。きっと外は今日もくそ暑い。
 しかしカーテンを締め切り冷房を強めにきかせた部屋の中は、薄暗くて少し肌寒かった。
 目の前のテレビに映し出されている映像もこの部屋以上に薄暗く、相応におどろおどろしい不気味な音を発していたから、余計に寒く感じるんだろう。
「ひえっ」
 画面の中で血しぶきが飛び、隣の男が身を竦める気配と、いささか情けない声音が漏れてくる。もっと盛大に怖がってくれていいのに、鑑賞会に付き合わせすぎて耐性ができつつあるようだ。残念。
 やがてエンドロールが流れ出し、隣からはあからさまにホッと安堵のため息が盛れた。
「思ったよりエグかったな」
「え、マジすか。どこがですか。全然平気そうに見えましたけど?」
「流血量と誘い出す手口のアホらしさが?」
「流血量はわかりますけど、手口のアホらしさって……」
「あれでノコノコ出向いてまんまと餌食、って辺りがエグいだろ。あんなやつを信じ切って可哀想に」
「先輩がそれ言います?」
「お前はノコノコ付いてきてまんまと食われるタイプだもんな」
「別に後悔はしてないっすけどね」
 興奮しました? と聞かれて、した、と返せば、相変わらず変態ですねと笑われる。
 ホラーを見てるとムラムラする、と教えたことがあるのに、暇だから遊びに行っていいすかだとか、せっかくだから一緒に何か見ましょうだとか、夏だしオススメのホラーありますか、だとか。誘われてるのかと思っても仕方がないと思う。
 まぁ、ホラーでムラムラする、なんて話を全く信じていなかっただけらしいけれど。ホラー好きなことだけはちゃんと伝わっていて、あの発言も一種のネタなんだと思ってたらしいけれど。
 あとまぁ、男もありだなんて思わない、という点に関しては確かにそうだ。あの日より前に、ゲイ寄りのバイだと教えたことはなかった。
 近づいてくる顔に目を閉じて、初っ端から舌を突っ込んでくるようなキスを受け止める。こちらは既に興奮済みなので、さっさとお前もその気になれと、口の中を好き勝手させながらも伸ばした手で相手の股間を撫で擦った。
 初回は勃たせるのにも一苦労だったが、ホラーに耐性ができてきたの同様、鑑賞後のこうした行為にも耐性が出来たのか、あっという間に手の中で相手のペニスが育っていく。
 充分に硬くなった辺りでキスが中断されたのでベッドへと誘った。短な距離を移動しながら互いに服を脱ぎ捨てて、ベッドの上になだれ込めば後はもう、突っ込まれて中を擦られて腹の中に燻る熱を吐き出すだけだった。後ろの準備は彼が来る前に終えていた。
 慣れたもので、こちらが差し出す前に引き出しを開けてゴムを取りだし装着し、こちらが乗らなくても、ペニスに手を添えて導かなくても、気持ちの良いところをグイグイと擦り上げながら入ってきて、容赦なくこちらの弱いところを突きまくって追い詰めてくれる。どんなセックスが好みかなんて、とっくに全部把握されている。
 昨年の夏から一年がかりで、何度も繰り返してきた成果だった。
「っっ……、はぁ……」
「んんっっ」
 射精を終えたペニスがズルリと抜け出ていくのを惜しむように、尻穴が未練がましく収縮している。
 もう少し留まってくれてもいいのにと思っても、それを口に出したことはない。別に恋人でもなんでもないからだ。これ以上を望むつもりはなかった。
「なんか飲み物貰っていいすか?」
「ああ」
 ハッスルしすぎて喉がカラカラだと訴える相手の機嫌はいい。
 射精後にスッキリした顔をしているのは当然で、こっちだって充分に気持ちよくして貰ったし、こんな変態に機嫌よく付き合い続けてくれるのだから、同じようにスッキリさっぱりした顔で感謝の一言でも言えればいいのに。
「どうしました?」
 麦茶のペットボトル片手に戻ってきた相手が、ベッドの端に腰掛けながら問いかけてくる。
「疲れちゃいました?」
「ああ、まぁ」
「夏休みで連日こんなことやってりゃ、そりゃそっか」
 ただれてますねとヘヘッと笑う。それに連日付き合ってるお前はどうなんだと思ったが、言葉にはしなかった。
 無言のまま、相手の手の中にある、中身が半分ほど減ったペットボトルに手を伸ばす。
「おいっ」
 手が届く前にサッと避けられ、指先が空振って相手の腿に落ちた。それを押さえつけるように、相手の手が重なってくる。
「おい?」
「まぁまぁまぁ」
 何がまぁまぁまぁだ。そう思いながらにらみつける先、これみよがしにペットボトルの中身を口に含んだ相手が、頬を膨らませた顔を寄せてくる。
 え、と思っている間に唇が塞がれ、隙間からお茶が流し込まれた。ただ、突然そんなことをされてもうまく飲み込めず、結果酷くむせてしまった。
「わわっ、すみません」
「お、おまっ、何、してっ」
「いやだって、疲れた顔した先輩、妙に色っぽいんですもん」
 でももう一回とか言って困らせたくないし、恋人は大事にしたいじゃないですか。などと続いた言葉に呆気にとられる。
 せいぜいセフレ、のつもりでいたが、どうやら自分たちは恋人だったらしい。

有坂レイへの3つの恋のお題:熱におかされて吐きだしたもの/伸ばした指先は空気を掠めて/薄暗い部屋で二人きりhttps://shindanmaker.com/125562

 
 
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