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冬の夜空の下、先輩と並んで自宅へ向かう道を歩く。
昼を食べそこねたまま先輩の家になだれ込んで致してしまったから2人ともかなり腹ペコで、先輩の家の冷蔵庫に2人分の腹を満たす食材はなく、ピザのデリバリー案や惣菜買い出し案も出たが、そこで先輩を自宅へ連れ込む用に作ったカレーの存在を思い出したからだ。
じゃあちょっと家に行って取ってきます、と言ったら、先輩が一緒に行くと言って付いてきた。わざわざ持ってくる手間を考えてくれたのと、お前の部屋も見てみたいという理由らしい。
「ね、先輩」
セックス中ほどではないが、充分に甘ったれた声で呼びかけながら、隣を歩く先輩の手を取って握る。逃げるように軽く引かれた手をギュッと掴んで引き止めた。
振り払われることはなかったけれど、明らかに一度は逃げた手に、言葉で嫌かと問いかける。
「嫌ですか?」
「嫌、というか……」
こんな近所で、と戸惑う声が続く。
「もう暗いですし、誰も居ませんけど」
「このまま誰とも会わずにお前の家まで辿り着くかわからないだろう。俺はもう卒業するが、お前はもう2年、ここで暮らすんだぞ?」
「あ、恥ずかしいから、って理由じゃないのか」
思っていた以上に恥ずかしがり屋だった先輩を見てしまった後なので、人に見られたら恥ずかしいって話かと思っていた。ついでに言うと、先輩を抱いている間、恋人繋ぎと宣言して握りこんだ手をちゅっちゅとしゃぶったりしたから、どちらかというと、色々思い出して恥ずかしい的な意味が大きいのかなと。
「違う」
「俺はむしろ、知り合いが通りかかってくれればいいのに、って思ってますけど」
「は?」
「繋いだ手見せびらかして、先輩と付き合うことになったんだ〜って自慢したい」
言いながら、指を絡ませるように握り直した。
「お、まえ……」
マジで言っているのかと先輩は愕然としているが、恋人繋ぎはそのまま受け入れられている。
「マジですけど。まぁヒャクパー俺が抱かれる側って思われますが」
「そこは言わないのか」
「え、言うようなことですかね? 先輩が絶対言えって言うなら考えますけど」
どちらかというと、可能な限り、誤解させ続けたいと思っている。そういう目に晒されるのには慣れている、というのもある。
散々お前なら抱ける気がすると言われてきたのだから、余計な情報を与えて周りを混乱させる必要はない。逆だと知られたら、何を言われるかわからない怖さがある。
自分はともかく、先輩がそれで無駄に傷つけられるのは避けたかった。誰がなんと言おうと先輩は可愛いが、理解できないというヤツらにそれを説こうとは思わないし、そんなのは自分だけが知っていればいいのだ。むしろ自分以外は知らないままでいい。
それに、先輩が抱かれる側だって知られたら、先輩をそういう目で見るヤツが絶対現れる。絶対、誰かしら頭の中で想像する。
先輩をそういう視線に晒したくないし、想像の中でだって、可愛い先輩を誰にも見せたくなかった。
独占欲と嫉妬がひどい自覚はある。
「俺がそんなこと、言うはずがないだろう」
「ですよね。じゃ、そこは内緒で。俺たちだけの秘密……にはならないか」
クリスマスに会った先輩の親友の名前を上げて、彼には言わなくてもバレますよねと確認する。どちらかというと、親友に恋人が出来た報告はするんだよね、という確認に近い。
「まぁ、そうだな」
「可能なら同席したいです」
「会って伝える予定はないな」
あとでメッセージを送ると言われて、つまらないなと思う。そう思ったことは、どうやら声に滲んだらしい。
「なんだ」
「会いたいのか?」
「そりゃあだって、自他ともに認める先輩の親友でしょう? 恋人になった俺に助言とか忠告とかくれるかもだし、先輩のことは目一杯可愛がって大切にするから心配しないでくださいねって言っておきたいですし」
「わかった。会いたがっていると伝えておく」
「あ、それは嫌がらないんですね。余計なこと言わなくていいとか言われるかと思いました」
「あいつには色々と心配掛けたからな。きっとお前が自信満々にそんな事を言ったら、大笑いして喜んでくれると思う」
きっと出会い系の色々も親友には話しているんだろうなと思ったけれど、それを確かめることはしなかった。
それよりも、自信満々に告げる自分が、先輩の中に居ることが嬉しい。そうイメージして貰えるのが嬉しい。
その日が来たら、その想像通りに胸を張って、先輩を幸せにしますと、先輩の親友に宣言してやろうと思う。
「会えるの、楽しみにしてます」
そうこうしているうちに、もう自宅アパートは目の前だ。
結局、繋いだ手は家のドアの前に着くまで、放されることはなかった。
<終>
最後までお付き合いありがとうございました。
1ヶ月ほどお休みを貰って、更新再開は5月10日(水)を予定しています。
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