俺を好きだと言うくせに

 同じ年の幼なじみがモテだしたのはぐんと身長が伸びて、部活で試合に出ることが増えた中二の夏以降だ。部活忙しいし彼女いらないと公言していてさえ、結構な頻度で女子から告白されていた。
 せっかくの告白を振るのは可哀想だし、勿体無いから取り敢えず付き合ってみればと言ったら、心底イヤそうな顔で、じゃあお前が好きだからお前が俺と付き合ってよと返された事がある。もちろん本気になんてしなかった。というよりも、恋愛対象じゃない相手からの申し出がいかに迷惑なものか、わからせたかっただけだろう。
 そう思っていたのに、お前が付き合えと言ったあのセリフが、本気どころかむしろ彼にとっては精一杯の告白だったと知ったのはつい最近だ。
 あれから数年経た高校二年の現在、同じ高校に進学した幼なじみが、唐突にお前と少し距離を起きたいと言い出した。理由は彼氏ができたからで、その彼以外の男と親しくつるむのは、相手に申し訳ない気がするからだそうだ。
 ビックリしたなんてもんじゃない。心底慌てて、納得出来ないからと嫌がる相手を自室に連れ込み、詳しくいろいろ問い詰めた。
 そこで発覚したのが、彼にとっては女が恋愛対象にならないことと、長いこと彼に惚れられていたらしいことだった。
 そういうことはもっと早く、彼氏なんか作る前に、もっとちゃんと真剣に告白するべきじゃないのか。
 けれど彼はそこで、前述の話を持ちだして、彼が恋愛対象にならないことも告白が迷惑になることもわかりきってたと言った。付き合ってと言って即、確かに無理な相手から告白されても迷惑なだけだなと納得されて、軽々しく付き合ってみろと言ったのは間違いだったと謝られたのはショックだったなんて、今更そんなことを言うくらいなら、あの時もっとショックな顔をすれば良かったんだ。
 だけど本当はわかっている。ずっとそばに居たくせに、彼が寄せてくれる想いに友情以上のものを一切感じ取れなかった自分が悪い。自分の隣に居る彼が、ずっと辛い思いをしていたことにも気付かず、のほほんと親友ヅラをしていたのが恥ずかしい。
 だから距離を置くことを了承した。おめでとうと言った。彼に初めての恋人が出来たことには変わりがないのだから、上手くやれよと親友らしくエールを贈った。
 結果、彼とその彼氏とのお付き合いは一月ほどで終了を迎え、彼はあっさり何事もなかったかのように自分の隣に戻ってきた。けれどやはり、なかったことにはならない。相手は気持ちと事情を晒してしまった後で、自分はそれを聞いてしまった後だ。
 つまるところ、彼は戻ってきたけれど、自分たちの関係が元通りということにはなりそうにない。
「やっぱり、お前が好きなんだよね」
 想いを隠す気がなくなったようで、あっけらかんと口にする。
「そりゃどうも。俺だってお前が好きだぞ。親友としてならで悪いが」
「それは知ってる。てかさぁ、結局俺はお前じゃないとダメみたいってのが、ホント重症だし不毛だし嫌になるよね」
 言いながらもどこかスッキリした笑顔だった。
「なら俺に告白すんのか? まさか今のそれが告白だとか言うなよ」
「え、なんで?」
「なんでってそっちこそなんでだよ。俺と恋人になりたいなら、今度こそちゃんと真面目に告白して付き合ってくれって頼めよ」
「頼まないよそんなこと」
「なんで!?」
「なんでって、それ言い出すってことは、頼んだら付き合ってくれるんでしょ?」
「確かめんな。てかオッケー貰えるの分かっててなんで拒否……って、まさか昔の仕返しか?」
「それこそまさかだよ。単に罪悪感だの同情だので付き合って貰っても嬉しくないんだよね。優しいから、そんな気になってるだけだよ。実際に男同士で付き合うって現実突きつけられたら、逃げ出したくなるって。無理しなくていいよ。でもまぁ、ちゃんと頼んだら付き合ってやるって言ってくれたのは、嬉しいけどね」
 気持ちだけ貰っとくねと笑う顔はやはりスッキリとしていて、本当にそれでいいのかよと口にだすことは出来そうにない。
 彼は色々と吹っ切った様子なのに、自分ばかり悶々としているのがなんだか悔しかった。

 
 
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夕方のカラオケで振られた君と

 自分がバイトするカラオケは、昼の11時半から19時半までの8時間が昼のフリータイムになっていて、2時間以上歌うのであればそちらが得になる料金設定になっている。
 その男性二人組は開店と同時にやって来て、片方の男が迷うことなくフリータイムで二人分の申し込みをした。
 彼の事は少しだけ知っている。近くの高校に通っている学生らしく、いつもは学校帰りの夕方に友人たちと歌っていく事が多い。
 同じく近くの大学に通い、夕方はだいたいバイトに入っている自分とは、遭遇率も高かった。だいたい4〜6人くらいでやって来るが、受付をするのは決まって彼なので、軽い世間話くらいはする事もある。
 その彼が、いつものメンバーとは全く雰囲気の違う、真面目で大人しそうな男を連れて来店したのが、まず驚きだった。しかも二人利用というのも、自分が知る限り初めてだ。
「学校は春休み?」
 大学はとっくに春休み期間で、だからこそ自分も平日のこんな時間からバイトに入っている。いつもは制服の彼も今日は私服だし、高校もどうやら春休みに入ったようだ。
 わかっていつつも、受付ついでに問いかける。
「あっ、はい」
 緊張と動揺と興奮とが滲む硬い声に、更に感じてしまう違和感。
「どうした?」
「えっ?」
「なんか、らしくないけど」
「あーまぁーちょっと」
 ごにょごにょと言葉を濁され、触れられたくないらしいと深追いはせず、伝票ホルダーにルームナンバーと利用人数と退室時間の記された紙を挟んで渡した。
 恋人だったりして。なんて事を部屋に向かう二人の背中を見送りながら思ってしまったのは、彼のツレに対する態度が明らかにいつもの友人たちに対するものとは違っていたからだ。気を使いつつも馴れ馴れしく、そのくせどこかぎこちない。
 彼らが恋人なら少し残念だなと思ってしまうのは、同性が恋愛対象な自分にとっては、時折訪れる彼が魅力的に映っていたからだ。それとも、彼も同類かもしれないと喜ぶべき場面なのだろうか?
 なんて事をつらつらと考えていたら、そのツレの男が、入店から1時間もしないうちにレジカウンター前にあらわれた。とはいってもこちらに用がある様子ではなく、どうやらそのまま帰るらしい。
「お帰りですか?」
「……はい」
 思わず声をかけてしまえば、彼は気まずそうに会釈して、そそくさと出入り口の扉を通って行ってしまった。
 その直後、彼らが入った部屋からの入電があり、何品ものフードメニューを注文された。ツレは帰ってしまったのに、どう考えても一人で食べる量じゃない。そうは思いながらも、注文が来た以上は次々と料理を作り運んでいく。
 最初に運んだ数品はすごい勢いで食べ尽くされて、次の料理を運ぶ時には空になった前の皿を下げるという調子だったが、さすがに途中からはテーブルの上に料理の皿が並んでいく。
 しかも部屋の空気は訪れるごとに重く沈んでいくようだった。
 ペースは落ちたものの変わらず黙々と料理を食べ続ける彼からは、いつもの明るさも楽しげな様子も一切抜け落ちている。必死に何かを耐えているようにも見えた。
 帰ってしまった彼と喧嘩でもしたのだろうか。しかし何があったかなど聞ける立場にはいない。
「あのっ!」
 注文された最後の料理を運び、部屋を出ようとしたところで呼び止められる。
「他にも何か?」
「いやその……これ、一緒に食べて、貰えないかなって……」
「はっ?」
 思わず漏れてしまった声に、相手はすまなさそうな顔で言葉を続ける。
「振られたからやけ食い。って思って頼んだけど、やっぱ頼みすぎだったから」
 振られたんだ!? と言う驚きと、そりゃこの量を一人で食べるのは無理だと頷く気持ちとが同時に押し寄せて言葉に詰まってしまったら、相手は泣きそうな顔を隠すように俯いて、ごめんなさいと言った。
「仕事中に無理言ってすみません。大丈夫なんで戻って下さい」
 少し震える硬い声に後ろ髪引かれつつも一度退室した後は、手すきの合間にバイト仲間に電話をかけまくった。
 ようやく急な代打を引き受けてくれる相手を見つけて、その相手が到着したのは既に夕刻だったが、幸い彼はまだ退室していない。
 慌てて着替えて向かう先はもちろん彼の居る部屋だ。
「お待たせ」
「えっ?」
「食べに来たよ」
「な、なんで?」
「一緒に食べてって誘ってくれたのそっちでしょ?」
 びっくり顔で目をぱちくりさせる様子はかわいいが、その目元は泣いたのか赤くなっている。
 遠慮なく彼の隣に腰を下ろし、その顔を覗き込むようにグッと顔を寄せた。
「泣いたの?」
 慌ててのけぞろうとするのを阻止するように腕を掴めば、ますます慌てたようだった。
「実は、チャンスだと思ってる」
「ちゃ、…ンス?」
「一緒に来てた男の子に振られたって事は、俺を好きになって貰える可能性、ゼロじゃないよね?」
「それ、って……」
 にっこり笑って頷いて、君が好きだと告げてみた。

有坂レイさんは、「夕方のカラオケ」で登場人物が「振られる」、「春」という単語を使ったお話を考えて下さい。
shindanmaker.com/28927

 
 
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雄っぱいでもイケる気になる自称ノンケ1

 自他ともに認めるおっぱい星人な自分は、常日頃男同士の猥談でおっぱいの魅力について語りまくっていたが、それと同時に、彼女居ない歴を着々と更新しつつある童貞だということも周りに知られまくっている。
 自分のモテ期は第二次性徴が来る以前の小学校半ばくらいまでで、当時どころか幼児期からおっぱい星人を自覚していた自分は、胸の膨らみのない女子になどまるで興味がなかった。子供の自分に、将来胸が大きくなるだろう女子と取り敢えず懇意にしておくなどという社交性はなく、それどころか女の価値はおっぱいにあるだとか、胸がでかくなってから出なおせだとかの直球をぶつけてお断りしたせいで、女子から総スカンを食らう結果になった。
 マズイことをしたと認識したのは、まわりの女子の胸が立派に育ちだした中学入学以降で、遠方の私立校に逃げられるような経済的余裕など我が家にあるはずもなく、そのまま近くの公立高校へ大半の同級生と共に進学するしかなかった結果、最低男の烙印は剥がれることなく今も付いてまわっている。
 後悔はしてもしきれないが、開き直る気持ちもあって、おっぱい星人としての道を邁進中だ。
 そんな中、友人の一人が、お前におっぱい揉まれてもいいってヤツが居るけどと言い出した。今年の新入生らしい。
 なんせ小学校時代からの悪評で、同級生どころか上級生や下級生にも要注意おっぱい星人として知られているから、そんな奇特な子が居るなんて驚きだ。というか、取り敢えずお試しでお付き合いしてくれるとかではなく、いきなりおっぱい揉み放題だなんて、どんなビッチだ。
 しかしビッチだろうがなんだろうが、そんなチャンスを逃せるわけがない。
 ぜひ会いたいと食らいついた自分に、友人は満面の笑みを見せたが、その笑みの意味を知るのは早かった。
 相手の新入生は自分を知っているようで、友人が指定したファミレスで待つこと15分。現れたのはやや小柄の、ただし筋肉をムキムキつけた男だった。
 迷うことなく、初めましてと挨拶してから、向かいの席に相手が座る。
 コミュニケーション能力が異様に高いのか、単に空気が読めないバカなのか、意気消沈しまくりの自分に怯むことなく、相手はニコニコと自己紹介を始めた。
 野球部と聞いて、なるほど友人の部活の後輩かとは思ったが、きっと野球部でもこの後輩を持て余しているのだと納得する。男におっぱいを揉ませたがる変態が、男だらけの部活に入ってきたら、そりゃ自分たちの身に害が及ぶ前に誰かに押し付けたくもなるだろう。
 男になんて興味ねーよ、せめて女になってから出なおせ。などと直球をぶつける愚弄を繰り返す気はさらさらないが、さてどうしたものか。にこにこと悪意のかけらもなさそうに笑う新入生の男を前に、なるべく傷つけずにお帰り願う方法を考える。
 しかしどれだけ考えた所で、良い案が浮かぶわけもなかった。
「あー……じゃあまぁ、取り敢えず、胸揉ませてくれ」
 考えるのも面倒になって、おっぱい星人ならおっぱい星人らしく、相手が男だろうと揉まれたい奴の胸は揉んでやろうと口にする。
「すごいっすね。本当におっぱい星人だ」
 何がツボだったのか、新入生は楽しげに笑った後、いいですよと言って更に続ける。
「場所はどうせならウチの部室か、後はやっぱ俺の部屋ですかね」
「お前の部屋だな」
 どうせならで部室という選択肢が出るところが怖すぎる。そう思いながら即答すれば、新入生はわかりましたと答えて立ち上がる。気が早いと思いながらも、抵抗する気もなく後を追った。

続きました→

お題提供:pic.twitter.com/W8Xk4zsnzH

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知り合いと恋人なパラレルワールド(目次)

キャラ名ありません。全11話。
大学のサークルの先輩×後輩(視点の主)。
先輩攻ですが、先輩の方が視点の主より頭ひとつ分小さいです。
もともと二人は顔見知り程度のあまり親しくない関係ですが、二人が恋人なパラレルワールドがあり、そちらの先輩とこちらの先輩が入れ替わってしまったことで、視点の主が先輩を好きになります。
入れ替わりが戻った後、先輩と恋人になるエンド。

下記タイトルは内容に合わせた物を適当に付けてあります。
エロ描写は控えめで挿入はなしですが、それっぽいシーンが含まれるものにはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 先輩訪問
2話 パラレル世界の存在
3話 惹かれていく
4話 繋がらないメールと告白
5話 代わりでもいい(R-18)
6話 戻ってきた先輩
7話 それでも先輩が好き
8話 先輩からの話
9話 2つの世界の違い
10話 誘われる
11話 先輩と恋人(R-18)

 
 
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(攻)俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕

俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕 の攻側の話を同じお題で。

 突き上げるたびに、あっ、あっ、と溢れる吐息は甘く響いて、相変わらず随分と気持ちが良さそうだと思う。見た目や口調や振る舞いからは、真面目で堅物というイメージを抱きがちな先輩が、こんな風に男の下で蕩ける姿を、いったい何人の男が知っているんだろう?
 現在付き合っている恋人は居ないと聞いている。けれどこうして、恋人でもない自分を誘って抱かれているのだから、他にも気軽に誘って楽しむ相手がいるかもしれない。
 自分は先輩が初めての相手で、いまだ先輩以外を知らないのに。
「男ダメじゃないなら、俺で卒業してみる?」
 そう言って笑った時、先輩はかなり機嫌よく酔っていた。多分半分以上、童貞であることを揶揄われただけなんだろう。
 少しムキになった自覚はある。
 話の流れで、童貞捨てたいんすよねーなんて言ってしまったのは、先輩も童貞仲間なんだろうと勝手に思い込んでいたせいだ。真面目な先輩からは、今カノどころか元カノ関連の話が出たこともなかったから、交際未経験なんだと思っていた。
 対象が男なら今カノも元カノも話題に上らないのは仕方がないし、隠しておきたい気持ちもわかる。自分だって、男の先輩相手に童貞を捨てた事を、友人たちには隠している。
 こんな関係になった後も、一度たりとも抱かせろと言われたことはないし、童貞かどうかは結局聞けないままだけれど、あの時点で少なくとも処女ではなかった。まさかこんなエロい体をしてるなんて思っても見なかった。
「ふっ、……アァッ、そこっ……」
「センパイここ、強くされるの好きですよね」
「ん、イイ、そこっ、…ぁあ、あっ、も、……っ」
 どこが気持ちいいのか、どうすると気持ちいいのか、言葉にしてわかりやすく教えられたせいで、どこをどうすれば先輩が気持ちよくなれるのかは知っている。回数を重ねるごとに先輩はあまりあれこれ言わなくなったけれど、今はもう、先輩が漏らす吐息や短い言葉からその気持ち良さがわかるようになってしまった。
 自分なりにネットで調べてあれこれ試すこともしているが、先輩は楽しげに、俺の体で色々ためしやがってと笑う程度で、それを咎めることはしない。気持ち良ければなんでもいい。みたいなスタンスは、ありがたいようでなんだか寂しくもあった。
 自分ばかりがどんどんこの関係にのめり込んでいくのが目に見えるようで、なるべく行為に及ぶ間隔はあけるようにしているけれど、このイヤラシイ体の持ち主がその間どうしているのかを考えるのも辛い。いつ、恋人できたからこの関係はもうおしまい、と言われるかもわからないのに、恋人になってくださいなんて言って、逆に面倒だと切らえるのも怖い。
 俺のこと、どう思ってるんですか?
 聞きたいのに聞けないまま、都合の良いセフレを演じている。そんな関係への不満は少しずつたまっていた。
「そろそろイきそう?」
 良い場所をグイグイと擦れば、切羽詰まって息を乱しながらも必死に頷いている。
「ん、んっ、イ、きそ……あ、ぁぁ」
 先輩が昇りつめるのに合わせて、衝動的にその胸元に齧りついてやった。
「ぅああ、ちょっ、なに……?」
「所有印?」
「は、……なに、言って、あ、あぁっ」
 咎められそうな雰囲気を笑顔で封じながら、こちらはまだ達してないので、イッたばかりで敏感になっているその場所を、更に強めに擦りあげる。
 見下ろす先輩の胸元には赤い印がしっかりと刻まれていて、それを見ながら自分自身が昇りつめるのはいつも以上に心身ともに気持ちがよく、けれど果てた後はさすがに気まずかった。いくらなんでも痕なんて残したら怒られるに決っている。
 しかし、くったりと横たわる先輩は胸元にはっきと残っている痕に気づいていないのか、何も言わない。いつも通り、満足気な顔でうとうとと眠りかけている。
「寝ます?」
 これまたいつも通りそっと頭を撫でてやれば、ふふっと幸せそうに口元をゆるめながら、「うん」と短い応えが返った。
「鍵は新聞受けな」
「はい」
 こちらの返事にもう一度小さく頷いて、先輩はすっかり眠る体勢だ。
 あーこれ絶対痕が残っていることに気づいていない。それとも、わかっていて不問なのか?
 そうは思ったが、起こして問いただすなんて出来るはずもなく、文句を言われるにしてもこれは次回に持ち越しだ。
 衝動で付けてしまったその印を軽く指先でなぞってから、グッと拳を握りこむ。こんな目立つ場所に痕を残したことを申し訳ないと思う気持ちはあるが、後悔はあまりなかった。
 問われて咄嗟に所有印と言ったあれは本心だ。もし他の誰かにも抱かれているとしたら、その相手にこの人は俺のだと主張したいのだ。
 先輩とのこの時間を惜しむ気持ちは大きくて、終わりという言葉は怖いけれど、そろそろこの関係をはっきりさせる時期に来ているのかもしれない。先輩の穏やかな寝息を聞きながら、次回スルーで不問にしろ、咎められるにしろ、あなたが好きだと言ってみようと思った。

レイへの3つの恋のお題:俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕
http://shindanmaker.com/125562

 
 
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俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕

 鏡の前に立ち、ため息を一つ。Tシャツの襟首ギリギリのところに、小さいとはいえない鬱血痕が残されている。
 つけられた時のチリリとした痛みを思い出して、眉間に力が入るのがわかった。所有印だなんて言って笑った相手の顔まで、一緒に思い出されてしまったからだ。
 面白半分で、付けてみたいという欲求だけで、試してみただけのくせに。
「なにが所有印だ、バカ」
 小さく毒づいてみるものの、もちろんそれを聞かせたい相手はとっくに帰宅済みで、虚しさだけが大きくなる。恋人でもない相手に、こんな痕をやすやす残させた自分が、相手以上にバカなのだ。
 友人とすら呼べるか疑問の自分たちの関係は、広義で大学の先輩と後輩だ。相手は、自分がたまたま教授の頼まれごとで大きな荷物を移動させていた時に、やはりたまたま通りがかってしまっただけの新入生で、本来なら先輩後輩としての付き合いすら生まれることのなかった相手だ。
 入学早々巻き添えを食らって肉体労働をさせられてしまった彼に、申し訳無さから学食をおごると言ったのは確かに自分だ。しかし、それで手伝いはチャラになるはずだった。まさかそのまま懐かれて、学年もサークルもバイト先もなにもかも違ってほぼ接点のない相手と、互いの部屋を行き来するほどの仲になるとは思っていなかった。
 少しお調子者でいつも笑顔を絶やさない彼は、自分なんかと付き合わなくても、友人も頼れる先輩も大勢いるはずなのに。なんとなく居心地がいいから、というなんとも曖昧な理由で、気が向くと声をかけてくる。
 あの日、なんであんな話になったのかはもう思い出せないが、自分は間違いなく酔っていた。仲の良さそうな女友達もたくさんいるくせに、実は童貞で、捨てたいけどなかなか機会もなくてなどと言い出した相手を、好奇心と揶揄い半分に誘ってしまった。酔ってはいたが、もしドン引きされて最悪この関係が切れたとしても、彼との接点がなくなって困ることはないという判断はあったと思う。
 自分の性対象が同性である事にはもう随分と前に気づいていたが、そういった人が出入りする場所や出会い系などを試す勇気はなく、同性とどうこうなる機会を持つことはなかった。つまり、自分にとってもチャンスだった。
 結果彼はその提案にのり、なんだかんだセックス込みの関係が続いている。好奇心旺盛にあれこれ試されて、こちらも充分楽しい思いをしているが、しかし真夏にがっつりキスマークなどを残されれば、さすがに溜息だって出る。
 現在恋人はいない。とは言ってあるが、実は自分もまったくの初めてだったとは言っていない。相手にしてみれば、経験豊富なお姉さんに手ほどきされて童貞喪失。というありがちな設定の、お姉さんがお兄さんになった程度の感覚なんだろう。
 性対象が同性で、しかも抱かれたい欲求に気づいてから、オナニーでは後ろの穴も使っていたから、初めてらしからぬ慣れた様子を見せたはずだ。本当はこちらもそれなりにいっぱいいっぱいだったけれど、年上としての矜持やら誘った側の責任やらもあって、余裕ぶって見せてしまった自覚はあった。
 鏡を見つつ、そっと鬱血痕に指先を這わせてみる。大きな痣のようにも見えるそれは、押した所で痛みなどはない。痛くもないのに気になってたまらないのは、襟首ギリギリで人に気付かれるかもという不安ではなく、やはり「所有印」という単語のせいだ。
 もちろん彼からの好意は感じているし、自分だって彼のことは好きだ。しかしその好意が恋愛感情かと言われると、途端に自信がなくなる。彼の気持ちもだけれど、自分の気持に対しても。やはりこの関係は、気軽な性欲発散の相手で、つまりはセフレなのだと思う。
 どんなつもりでそれを口にしたのか。彼は一体自分をどう思っているのか。多少なりとも所有したいという欲求からの言葉なのか。
 確かめてみたい気持ちもないわけではないけれど、きっと確かめることはないんだろう。

後輩側の話を読む→

レイへの3つの恋のお題:俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕
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