雷が怖いので16

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 プレイなしでいいならビュッフェがいいと言ったら、やはりおかしそうに笑われながらも了承されて、取り敢えずシャワーを浴びておいでとバスルームに突っ込まれた。
 ふと目に入った洗面台の鏡に映る自分の姿にギクリとして、確かめるようにグッと鏡に身を寄せる。
「これ……もしかしなくても、キスマーク……?」
 胸元のあちこちに散らばる赤色に、カッと頭に血が昇った。なぜなら、多分、これを望んだのは自分の方だからだ。
 もっと、とねだった記憶とともに、明日後悔するぞと言われながらも肌に寄せられる唇と、吸い上げられてチリと感じる僅かな痛みと、大げさにアンアン零す自身の痴態が、断片的に脳内に浮かび上がる。
「俺を、あなたのものに、して」
 そんなセリフまで浮かんできて、口元を隠すように片手で覆った。多分これも、昨夜、口に出している。なのに、相手がそれになんて答えたのか思い出せない。
 シャワーを浴びながら、昨夜食後に何があったのか、曖昧な記憶を正そうと必死に試みる。けれどやはり相当記憶は飛んでいて、思い出すのは自分が晒した痴態の断片ばかりだった。
 食後に立ちあがろうとしたらぐらりと世界がゆがんで立てなくて、抱き上げられてベッドの上に運ばれた。着ていたスーツを脱がされて、お尻に入っていたプラグも抜かれて、確か、抱くのかと聞いた気がする。そして、抱かないよと返された、はずだ。多分。
 もともと、いつかは抱かれる日が来るのだろうと思っていたし、それを期待する気持ちを自覚しても居たから、抱かないと返されて、なぜかそこでムキになってしまったようだ。なんでそんな方向へ行ってしまったのかさっぱりわからないが、酔っていたからだとするなら、アルコールによる思考力と判断力の低下が心底恐ろしい。
 結局その後、あの手この手で抱かせようとして、あなたのものにしてってセリフも、きっとそれの一環だった。
 そんな酔っぱらいの戯言に、相手はどんな様子だっただろう?
 思い出そうと考えれば考えるほど、シクシクと胸に痛みが広がっていくから、あまりいい反応は貰えなかったんだろうなと思う。もしかして忘れているのは僥倖で、思い出さないほうがいいのかもしれない。
 きっと昨夜は最後まで、ちゃんと抱いてはくれなかった。抱かれたような記憶は断片ですら欠片もないし、むしろ、ちんちん入れてよなどと信じられない言葉を吐きながら、相手の手でイかされ泣いた記憶の欠片が存在していて遣る瀬無い。
 胸元に散ったたくさんのキスマークだって、彼のものになりたいと言った自分を、所有印を刻むという形でごまかしたのだろう気持ちが強かった。それでも、この痕をつけられたあの瞬間、相当嬉しかったらしい自分が、おぼろげな記憶の中でふわふわと笑っている。
 もっと付けてとねだって、寄せられる唇に喜んで、アンアン言って腰をよじって相手を誘う仕草を見せて。
 ああ、確かに今日、彼の言葉通り後悔しかない。
 寝起きから随分と甲斐甲斐しく甘やかされて幸せが続いていたはずなのに、どうしようもなく気持ちが沈んでいく。
 そしてそんなこちらの変化を、見逃すような相手ではなかった。
「どうした? まさか、泣いたのか?」
 バスルームから戻って真っ先に掛けられた言葉がそれで苦笑を零す。
「全部、お見通しなんだ」
「全部わかるわけじゃないが、お前は顔に出やすいから、ある程度はわかるよ。で、何が原因?」
「昨夜、どうして抱いてもらえなかったんだろう、って、思って……」
「なんで、……って、お前の記憶にはっきり残るか微妙なときに、初めて終わらせるとか、んな勿体ない真似するわけねーだろ」
 実際どんくらい覚えてんのと聞かれて、けっこう曖昧で断片的にしか思い出せないと答えたら、ほらみろと言わんばかりの顔で呆れられてしまった。
「ああでも、お前、俺に抱かれたくて必死だったもんな?」
 入れてよって泣かれた時はこっちの理性もさすがに飛ぶかと思ったわと笑うので、恥ずかしさも相まって、飛べばよかったのにと思わずこぼしてしまう。
「じゃあ、朝飯食った後に誘ってみろよ」
「えっ?」
「さすがに記憶飛ぶほど酔いが残ってはないだろうし、今もう一度、お前が本気で俺を誘うなら、その誘いに乗ってやってもいい。昨夜くらい可愛く、赤裸々に、俺を求められたら、な」
「えっ……?」
「でもまぁ、その前に飯食おう。お前、どこまで記憶にあるかわかんないけど昨夜吐いてるし、腹減ってるって言ってたし」
「え、吐いた?」
「記憶に無いか?」
 言われて記憶を探れば、なんとなくそんな記憶があるような気がしないこともない。トイレでえずきながら、背中を擦られている記憶だ。
 記憶の中ではまだ服を着ているみたいだから、抱き上げられて最初に運ばれたのはもしかしてトイレだったのかもしれない。

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雷が怖いので15

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 ルームサービスなんて軽食類のイメージしかなかったのに、前菜からデザートまでのしっかりコースで、デザート時にはコースのデザートと一緒に、一旦下げられたバースデーケーキもカットされて再度運ばれてきた。
 思ったより酒に強いなと驚きを混ぜつつ言われながらも、注がれるまま飲み干していたシャンパンだのワインだののおかげで、デザートの頃にはさすがにかなり頭がぼんやりしていた。それでも、コース外のケーキもほぼ一人でぺろりと平らげるくらいには、料理は全て美味しかった。
 食事は美味しいし、お尻に栓をされてるとはいえ、食事中はプレイ的な要求は一切されないまま、目の前の男は普段の何倍も優しい顔を見せていたし、最高に幸せな時間を過ごしたと思う。なんだか凄く幸せだと、何度も口に出してしまったくらいに。
 ただ、食事を終えた後から記憶は随分と曖昧だ。というか、いつの間にベッドへ移動して眠っていたのかわからない。
「う゛ー……」
 取り敢えずで身を起こしたら、頭がズキズキと痛んで呻いてしまった。痛みはあるのに、ふわふわとした浮遊感と多幸感が残っているのも、なんとも不思議な感覚だった。
「なんだこれ……二日酔い……ってやつ?」
 口に出したら、それっぽいなと思う。
 しばらくぼんやりとベッドに身を起こしたまま座り込んでいたが、やがて、トイレに行って何か水分補給をしようと思い至る。体の欲求に、思考が追いつくのが随分と遅い。
「あれ……?」
 ベッドを降りるまで、自分が裸だということにも気づかなかった。ふとお尻に手を当ててみれば、そこにあったはずのものも抜き取られている。
 おぼろげに、ベッドのうえで何やらイロイロされたっぽい記憶の欠片が蘇りかけたが、それを深く考えるよりさきに、尿意に促されてトイレへ急いだ。
 ベッドの置かれた空間とテーブルセットなどが置かれた空間は、それぞれ別の部屋と認識できる造りにはなっているが扉はなく、トイレはベッドルームを出た先にある。
「おはよう。いい格好だな」
 隣の部屋に踏み入ったら、すぐにそんな声が飛んできた。慌てて声のする方向へ顔を向ければ、ソファに腰掛け新聞を読んでいたらしい男がニヤニヤ顔でこちらを見つめている。
「ああ、まだ酔ってんなお前。大丈夫か?」
 ぎくりとして立ち止まり、その顔をまじまじと見返してしまえば、すぐにそんな言葉と共に男が立ち上がった。ニヤニヤ顔は少し困った様子の苦笑顔になっている。
「と、トイレに行くだけだからっ」
 近づくように歩き出す姿にハッとして、叫ぶように告げると慌ててトイレに駆け込んだ。
 急に動いたせいか、頭がぐわんぐわんと回る気がして、トイレの壁に寄りかかって息を整える。しんどい。
 それでもなんとか無事に用を足し、さて、どうしようかと思う。とは言っても、どうしようもない。トイレの個室に着替えが湧いて出てくるはずもないので、このまま裸でもう一度ベッドルームまで戻るしか無いのだ。
「よしっ」
 気合を入れてトイレのドアを開け、今度は最初から駆ける勢いでベッドルームへ急ぐ。チラリと見たソファでは、やはり男が新聞を読んでいる様子で、けれど今度はこちらを振り向くことはない。
 しかしやっぱり急な運動に頭がぐらぐらと揺すられて、戻ったベッドルームで盛大に呻くはめになった。横になる気にはならず、ベッドの脇に座り込んで、ベッドに頭だけ乗せて粗い呼吸を繰り返す。
「未だに裸を晒すのが恥ずかしいってのは、それはそれで評価するけど、あんま無茶すんなよ。というかそこで吐くなよ?」
 背後から声がかかって、気配が近づいてくる。
「吐きません、よ」
「気持ち悪くないか? 頭は?」
 すぐ隣に同じように腰を落とした相手の手が、よしよしと慰めるように優しく頭を撫でてくれる。
「頭は、痛い、です」
「ん、二日酔いだな。薬、飲めるか?」
「薬?」
「もしくは食事。朝飯食えそう? 水分とエネルギーの補給出来る元気あるなら、そっちおすすめ」
「あ、水……飲みたいんだった」
「わかった。ちょっと待ってろ」
 一旦立ち上がって気配が遠ざかったかと思うと、すぐに戻ってきてペットボトルのミネラルウォーターが手渡される。
「ほら、薬も。薬ってーかサプリみたいなもんだし一応飲んどけ」
 口元に押し付けられてしまったので、黙って口を開いて錠剤を二粒ほど口の中に受け取った後、ペットボトルに口をつける。蓋は既に開いていた。
 そのまま一息に半分ほど飲み干して、ほっと息をつく。
「なんか、すごく、甲斐甲斐しい」
 思ったままつい口からこぼせば、嬉しいだろう? と少しからかうような口調で返された。
「うん、……凄く、嬉しい、かも」
「そりゃ良かった」
 またゆっくりと頭を撫でられて、うっとりと目を閉じる。
「もいちど寝るか?」
 優しい声に、そうしてしまおうかという気持ちが湧かないわけではなかったけれど。
「ううん。お腹、減った」
 水を飲んだら、空腹なことにも気づいてしまった。
 それを口にしたら、吹き出されるというなかなかに珍しい経験をした後、着替えてビュッフェかルームサービスなら和食か洋食が選べるぞという提案がなされた。

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雷が怖いので14

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 そこを弄られるのはまだ四回目なのに、お腹の中を洗って、お尻にアナルストッパーを入れられて、ペニスはほぼ完勃ちだった。というか、自分で弄って出しなさいと言われて、必死に弄ったせいでもある。
 要するに、言われた通りには出来なかった。
 だって与えられた時間が短かったし、相手に後ろを慣らされながらだったし、なにより、オナニー披露も経験済みとはいえ、やっぱり自分自身で弄ってイくところを見せることに慣れていない。
 そんな状態で、用意されていたカジュアル寄りのスーツを着せられて、もしかしなくてもこのまま食事に連れ出されるのだと思って血の気が引いた。
「股間パンパンに膨らませて、誰かに気づかれるかもと思いながら過ごすの、楽しそうだろ?」
 自分と違って着替えるというほどではなく、ジャケットを羽織ってネクタイを締めていた相手が、こちらの不安に気づいた様子で顔を覗きこんでくる。ニヤつく顔はいつも通りなのに、なぜか一瞬見惚れてしまったのは、多分見慣れない格好のせいだろう。
 家でしか会わないから、知らなかった。カジュアル寄りとはいえ、きっと七五三状態で似合ってない自分と違って、なんの違和感もないどころかしっくり嵌って格好良いなんて、なんかズルいし詐欺っぽいし騙されたって気がする。
「ん? どうした?」
 股間に血が行き過ぎて頭回ってないのか? なんて、やっぱりからかうみたいに言われて恥ずかしい。だからって、見惚れてたなんて言えるわけがなかった。
「な、んでも、ない」
「俺に見惚れてたって、言やいいのに」
「なっ!?」
「お前わかりやすいんだよ。多分こういうの好きそうと思ってたけど、ちょい予想以上ではあったかな」
 ぐっと寄せられた顔にとっさに仰け反ってしまえば、後ろに倒れこまないようにと背に腕が回って抱き寄せられてしまう。
「ほら、キスしてって言ってみな?」
「…………きす、……して」
「はいよく言えました」
 吐き出す声は明らかに震えていたが、相手はそれをからかうことなく、にこりと笑って口を塞いでくる。初めは優しく触れるだけ。繰り返されて少しずつ啄まれて焦らされて、自らもっととねだるように舌を差し出せば、それを待っていたというように深いキスを与えられる。
 こんなことをしてたら、更に興奮してしまうのに。頭ではちゃんとわかっているのに。少しでも股間を鎮めるべき場面で、真逆の行為に浸っている。
「んっ、……ふぁっ……」
 甘えるように吐息をこぼしながら、いっそ夕飯なんてなしにして、このままプレイを続けて欲しい。なんて思ってしまう中、部屋にチャイムが響き渡ってビクリと体が跳ねた。
「ああ、時間だな」
 熱心に口の中を蹂躙していたはずの相手は、あっさりキスを終えて体を離してしまう。
「凄くイヤラしくていい顔だ。さ、行こうか」
 濡れた口元を指で軽く拭ってはくれたが、落ち着く時間は一切くれない気らしい。途端に泣きそうな気分になりながら、手を引かれてベッドの置かれた部屋を連れだされる。
「はいじゃあ、ここ座って」
「え?」
 隣の部屋の、バースデーケーキが乗ったままのテーブルセットの椅子を引かれて、訳がわからず驚いた。
「まぁ、外に連れ出すのはさすがにまだ難易度高いってわかってるからな」
 夕飯はルームサービスと言われて、安堵のあまり涙がホロリと流れ落ちた。

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雷が怖いので13

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 翌週土曜の夕方、どうしたって期待に高鳴ってしまう胸をそっと押さえて、玄関ドアの前で深呼吸を繰り返す。
「何やってんだお前」
 不意に掛かった声にビックリして、慌てて声のした方へ振り返る。
 玄関とは別にガレージに繋がる出入り口があることは、初回にそこから家に入ったので当然知ってはいた。でも今までバイトに訪れた時は必ず彼が玄関を開けてくれていたから、ガレージから彼が向かってくるなんて想定外も甚だしい。
 ガレージ前を通って玄関に向かう構造なのに、さっきは人の気配なんてなかったはずだ。いったいいつからそこに居たんだろう。
「な、なんでっ」
「あー、お前いつも時間通りに来るから、そろそろかと思って出てきたとこ。てかお前、いつもチャイム鳴らす前ってそんななの?」
「ち、ちがっ、だって今日、は」
「俺に誕生日祝われるの、楽しみ?」
「そりゃあ……」
「そ、なら良かった。じゃ、車乗って」
「えっ、車?」
「そう。せっかくだからお出かけ。いーとこ連れてってやるよ」
 戸惑うこちらなどお構いなしに連れて行かれた、彼が言うところの「いーとこ」は大きな有名ホテルだった。そこにあるということは知っていたが、もちろん泊まったことはない。それどころか、ホテルの敷地内に足を踏み入れることすら初めてだ。
 既にチェックイン済みだったのか、いきなりエレベーターに乗って向かった高層階のとある一室は、自分の経験上にあるホテルの部屋とはまったく違う、広々と綺麗な空間だった。しかもテーブルセットの真ん中に置かれた皿の上には、Happy Birthdayのプレートの乗った小さなケーキが、まるで部屋に入る直前に用意されたみたいに置かれている。
 あまりに未知の世界過ぎて、感動するとか嬉しいとかよりも、なんだか呆然としてしまう。
「驚きすぎて言葉も無い、みたいな顔だな」
 いたずらが成功したみたいな顔で笑っているから、そんなこちらの反応をどうやら楽しまれているとわかって、少しばかりホッとした。
「だって、こんなことしてくれるって、思ってなかったから」
 ただ一緒に食事をして、一緒にお酒を飲むだけだと思っていた。もちろん場所だって、あの家のリビングでだと思っていた。
「ありがとう、ございます。嬉しい」
 うん、そうだ。彼の中で自分がどんな位置づけなのかわからないけれど、金を払ってエロいことを仕込んでいく遊び相手というか、遊び相手ですらない玩具みたいなものである可能性も考えてしまう事がある身としては、たとえそれが真実だったとしても、誕生日をここまでして祝われるのは、なんだか大事にされているみたいで凄く嬉しい。
 本気で喜んで笑ったせいか、相手は少し照れたようだった。
「ばーか。喜ぶの早すぎ。今日は一緒に酒飲むのがメインだって言ったろ」
 そう言いつつも、まんざらではなさそうな顔をしている。
「本番こっから先だから。というか、お前、今日はどうする? いつもみたいにプレイっぽいこともする気、あるか?」
 ただただ黙って食事と酒に付き合うだけでも一泊したら軽く二万は超えるだろと言う言葉に、この瞬間も時給千五百円が発生していると知って驚いた。
「え、これ、バイトなんですか?」
「お前が俺と過ごす時間は全部バイトと思っていい。そういう契約をしたつもりだからな。で、どうしたい?」
「します」
「即答かよ」
 相手が苦笑した理由はわかる。迂闊だの警戒心が足りないだの散々言われて来たのに、またしてもされることの内容を一切確かめずに応じたからだ。でも今日は、ちゃんとわかってて頷いた。
「だって、誕生日祝ってもらうの、凄く、嬉しいから。何されても、しろって言われても、今日は頑張れそうな気がするから」
 相手はますます苦笑を深くして、お前は本当に迂闊だねと口にする。
「そんなこと言われたら、お前の許容量超えて無茶したくなるかもしれないだろ」
 紳士だって煽られたら暴走しないとは限らないぞなんて言うから、いつものプレイはあんなに泣かされても、やっぱりちゃんと冷静に止め時を判断されているのだなと思った。
 もしいつか彼に暴走されたら、嫌だ無理だもうこんなバイトは辞めるって、思うのだろうか?
 なんとなく、そんな彼を見てみたい気もするし、それすらちょっと嬉しく感じる可能性がありそうなんだけど。
「いい、です、よ」
「煽んなばーか。ま、無茶してせっかくの誕生祝い台無しにする気はねーから、期待していいぞ」
 お前もどうやら意欲満々だし、今日は目一杯かわいがってやるから覚悟しなと、すこしばかり意地悪く、そして楽しげに笑う顔に心臓が跳ねた。

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雷が怖いので12

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 バイトは結局、土曜の昼過ぎから数時間という形で定着した。
 幾ら稼ぎたいか聞かれて毎回一万と答えていたら、四回目から聞かれなくなった。そしてだいたい一回につき三万前後は稼いでしまっている。
 エロいことなしでもいいなんて話が全くの嘘だったことに関しては、早々に諦めがついていた。多分今だって、本気でエロいことを拒否しまくったら、ただただ壁に突っ立っているだけで時給千五百円という最初の契約が復帰する可能性もあると思う。そうしないのは、間違いなく自分の意志だ。
 何々が出来たら幾ら払うと提案されることもないわけではないが、どちらかというと一方的にあれこれされてしまって、はっきりわからないまま給料に上乗せされている事のほうが圧倒的に多い。だから、何をして幾ら貰っているのか、正直さっぱりわかっていない。
 上乗せ分はその時の気分で適当みたいな事を言っていた気がするから、詳細を聞こうとも思わなかった。というよりは、聞いたら教えてくれるのだとしても、その日のプレイを反芻して何が幾らの価値かなんて聞くのは、それ自体が恥ずかしいプレイのように思えて無理だった。
 本当は、彼の中での自分の行為の価値を知りたい気持ちが、ないわけではないのだけれど。でもそれを知りたい理由は多分好奇心で、知ったからといってより高く自分を売りつけたい気持ちはないし、そもそもそんなことが出来るとも思えない。
 そんなこんなで、時給換算したら多分平均一万くらいにはなってそうだけど、それ相応の働きをしているかと言われたら首を傾げるしか無い。相変わらず恥ずかしい目にはあいまくってるし、泣かされまくってもいるから、貰って当然の報酬なのかもしれないが、やってることが異質すぎて正当な報酬なのかどうかの判断はつかなかった。
 ただ、バイト代に釣られて嫌々通っているわけではないのは確かだ。宣言通り、毎回あれこれ要求される内容は少しずつハードになっている気がするが、こんなバイトはもう嫌だ無理だ出来ないと、本気で思うような瞬間がない。
 というよりは、多分、相手のフォローが凄く上手いのだと思う。結構な無茶を強いてくることもあるのに、酷い恥ずかしさと居たたまれなさで苦しくなっても、よく出来ましただとか、いい子だとか、可愛いだとか言われながら、頭を撫でられたり優しいキスを落とされたりすると、恥ずかしさや居たたまれなさが安堵や喜びに転化してしまう。
 相手が優しくなる瞬間が、甘い声と顔を見せてくれる時間が、多分、好きなのだという自覚はさすがにもうあった。
 こんなあからさまにヤバイ気配しか無いバイトを決めた、激しい雷雨だったあの日から、彼の何がそんなに気になっているのかずっと不思議だった。最初から迂闊で警戒心がないとからかわれまくっていたのに、それでも、嫌悪や怒りではなく相手に対する興味と好奇心が勝ってしまったのだから、本当は不思議でも何でもなかったのかも知れないけれど。
 あの日もなんだかんだ言いながら、雷を怖がって震える自分に、彼は最初から優しかった。チラチラと覗く彼の優しさを、もっと見たいと思った結果がこれなのだとしたら、納得する以外ないだろう。
「次回だけど、夕方からでもいいか。後、出来れば翌日も開けておいて欲しい」
 プレイを終えて身支度を整えてからリビングへ行けば、いつも通り今日の分の給料が入った封筒を差し出されながら、そんなことを言われてびっくりした。
「えっ? 翌日?」
「無理にとは言わないが、可能なら泊まりになるつもりで来てくれ」
 もちろんこんなことを言われるのは初めてで、いったい次回はどんなプレイをするつもりか考えてしまうのは仕方がない。
「……あの、俺を、抱く気……なの?」
 前々回から、とうとう尻の穴を弄ることを許してしまっているし、今日だってそこに小さなローターを入れられて悶てしまったので、いつかはこの人に抱かれる日も来てしまうのだろうという気持ちはあった。覚悟済みというよりは、その日を少しばかり期待してさえいることを、自覚している。
「そうだ。って言ったら、お前は覚悟決めて泊まりに来るか?」
 神妙に頷いて見せたら、相手は楽しそうに笑って、じゃあそれも可能性の一つに入れといてと言った。ということは、そのための泊まりではないらしい。
「じゃあ、本当は、何をする気で泊まりなんですか」
「一緒に酒を飲もうと思って?」
「え? 酒?」
「お前、今度の水曜が誕生日だろ」
「は? 誕生日? ってなんで知ってんですかそんなの」
「なんでって、学生証に書いてあったじゃねーかよ」
「ええええっっ!?」
 確かに学生証を見せたことはあるし、しげしげと眺められた記憶もある。でも誕生日を記憶されていて、それを祝われるなんて想定外もいいところだ。
「やっと二十歳だろ。祝ってやるから酔い潰される覚悟でおいで」
 にやにやと楽しげな笑みと不穏な言葉に、けれど不安よりも嬉しさと期待とが大きいだなんて、本当にどうしようもないところまで来ているなと思った。

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雷が怖いので11

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 ピチャピチャと晒した片耳を嬲られ震えながら、ぼろりぼろりと涙が零れていく。お前のやだはもっとしてって意味だと言われてしまったから、イヤダイヤダとこぼしそうになる口を必死で閉じた。それでも時折、しゃくりあげてしまうのに合わせて、甘ったるい吐息やら嬌声やらをこぼしててしまう。
 足の間に挟み込まれた相手の足はそのままで、与えられる刺激に体の力が抜けて腰が落ちれば、濡れた下着を意識せずには居られない。さすがに先ほどみたいにそこを揺すっては来ないが、でもこれも、きっと時間の問題だろう。本気で感じて再度勃起してしまったら、どうせまたそっちも弄られてしまうのだ。
 しかし、恥ずかしくて気持ちのいい事を期待する気持ちより、今はただただこんな自分が情けなくて苦しい。迂闊で警戒心が薄くて、高時給に釣られてこんなバイトを始めて、のこのこと相手の良いようにされて泣きながら、それでも本気で抵抗することも逃げ出すことも出来ずにいる。だって本気で逃げたら、きっともう次はない。
 自分の気持がわからなかった。泣くほど苦しいのに、このバイトを手放すのは惜しいらしい。きっと時給への魅力だけではないから、自分自身がわからなくて、頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していて、ますます涙があふれ落ちた。
「あー……マジ泣き入ってんなこれ」
 不意に諦めに似た声音とともに、スッと相手の顔が離れていく。足の間に差し込まれていた相手の足も抜かれて、代わりに、支えるように脇の下から差し込まれた両腕が背にまわり、ふわりと優しく抱きしめられた。宥めるように背中をポンポンと軽いリズムで叩かれる。
「よしよし。怖かったな。お前が泣き止んだら、今日はおしまいにしような」
 おしまいと聞いてホッとして、体中の力がヘロヘロと抜けていく。もちろんその場に座り込むようなことにはならなかったが、脇の下に差し込まれている腕にぐっと体重を掛けてしまえば、慣れたしぐさで体勢を変えられた。というか抱き上げられた。
 降ろされたのは前回この部屋に入った最初に座ったテーブルセットの椅子の上で、少し待ってての言葉とともに相手は防音室を出て行ってしまう。
 次に戻ってきた時には手に何やら抱えていて、テーブルの上に並べられたそれらは新品の下着類だった。
「どのタイプ使ってんのわかんねーから適当に持ってきた。好きなのやるから着替えて帰りな。あ、着替える前にシャワー使うか?」
 首を横に振れば、テーブルの上にティッシュとウェットティッシュとを並べて、着替え終わったらリビングにおいでと言い残してまた部屋を出て行ってしまう。
 着替えるところを見せたら幾らとか言い出さなかった辺り、本当に今日はもうあれで終わりということらしい。
 もそもそと着替えて、汚した下着は小さく丸めて、来た時に扉の脇に置いていたカバンの奥に突っ込んだ。その頃にはもう気持ちもだいぶ落ち着いていて、涙は治まっていた。
 一応ウェットティッシュで顔を拭いてから、よしと気合を入れて部屋を出る。
 リビングでは甘めのホットミルクと蒸しタオルが渡され、ホットミルクを飲み終えたところで封筒が差し出された。
「今日の給料。マジ泣きさせた分、ちょっと多めに入れてある」
 ごめんなと苦笑する顔に、ゆるく首を横に振る。
「で、まだ続ける気、ある?」
「あり、ます」
「少しずつ、今日以上のこと要求してくけど、それでも?」
 黙って頷けば、じゃあ次は来週の同じ時間でと言われた。出来れば月給八万くらいを狙っているので、本当は土日両方働けたらと思っていたが、今日これだけ泣いて明日も来たいと言うのは流石にちょっと憚られる。
 わかりましたと告げて家を出れば、今日のバイトはこれにて終了だ。
 あの場で確かめるのを躊躇った封筒を、帰宅後真っ先に開けてみる。中から出てきた三枚の一万円札に心底驚いた。

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