嘘つきとポーカーフェイス

 たっぷりのローションが激しくかき混ぜられる、ジュブジュブぐちゅぐちゅ湿った水音。リズミカルに相手の腰を打ち付けられる尻タブから上がる、パンッパンッと肌が弾かれる音。突かれるたびに口から押し出されてくる、ほぼ「ア」の音しかない自身の嬌声。
 そこに微かに混ざる、相手の興奮を示す荒い息遣いを必死で拾い集めながら、相手の腰使いに翻弄されるまま、ぎゅうとシーツを握りしめて絶頂を駆け上った。
「ああああああっっ」
 頭の中が真っ白になって、体がふわっと浮くような、この瞬間がたまらない。気持ちよくて、幸せで、ずっとこの時間が続けばいいのにと思う。
 けれどあっさり体を離した相手は、お疲れの一言だけ残し、さっさとシャワーを浴びに行ってしまう。
 相手の姿が部屋から消えるのを待って、腹の深くから、諦めの滲む息を吐いた。何度体を重ねたところで、こちらの体がどれだけ相手に馴染んだところで、相手には情の一つも湧かないらしい。
 多分きっと、これから先もそれは変わらないんだろう。
 彼が自分を抱くのは、遠い昔に築いた友情の残滓でしかない。今のこの関係は、彼に友人として見限られるまで限定の、酷く特殊なものだった。
 あっさり置いていかれる寂しさも、甘い余韻の一欠片さえ貰えない惨めさも、回を重ねるごとに大きくなるから、さっさと見限って欲しいのに。人として堕落しきったこんな自分に、なぜここまで付き合うのかわからない。
 やがて戻ってきた相手が、無言のまま身支度を整え、最後にベッドの傍らに立って財布を開く。そして取り出した十枚の壱万円札を、なんとも気軽に枕横に置いてくれる。
 しかしさすがにそれに触れることは出来なかった。
「数えなくていいのか?」
 起き上がることもせず、ただただ黙ってベッド脇に立つ相手の顔を見上げていれば、そんな言葉が降ってくる。別に数えなくたって十枚あるのはわかっている。この男はいつだって、こちらが必要だと言っただけの枚数を、きっちり差し出してくれる。
 受け取って、その場できっちり枚数を確かめて、安堵の表情を作って、これで助かったよありがとうと告げる。そんなルーチンを繰り返す気にはなれなかった。
「いい。信じてるし」
「そうか」
 僅かな気配だけだったけれど、じっと見つめていたせいで、笑われたらしいことに気づいてしまった。一発十万という法外な値段をふっかけた上に、ありがとうすら告げる気はないと言っているのに、なぜ笑ったりするのかわけがわからない。
「じゃあまたな」
 あんまり派手に遊びすぎるなよと、これまたいつも通りの言葉を残して帰ろうとする相手を、迷った末に引き止める。
「待って」
「どうした?」
 とうとう体を起こし、掴んだ万札を握って、相手を追いかけるようにベッドを降りた。
「やっぱりこれ、いらない」
「なぜ?」
「嘘だから」
「何が?」
「全部。最初から、何もかも。借金ないし、ギャンブルしないし、在宅で仕事もしてる」
 意を決して告げた言葉には、やはりすぐには何も返ってこない。その顔からは、怒っているのか呆れているのか、なぜそんなことをと戸惑っているのかすらわからない。
 でももういい。
「お前がずっと好きで、苦しくて、でもお前から離れたくなくて、どうしていいかわかんなくなってた頃だったんだ。あの時、お前が風俗でも行くかって言ったの、冗談だってわかってたのに、とっさに金に困ってる風を装って、風俗代わりに俺を使ってって、誘った」
「さすがに十万もふっかけたら、罪悪感で黙ってられなくなったか?」
「それもあるけど、でも十万ふっかけてもまだ俺を見限らないから。お前が、またなって言ったから。だからもう、俺から止める」
「ああ、なるほど。それで?」
「それで、って……」
 何を聞かれているのかわからず同じ言葉を繰り返せば、止めてその後どうするのかという質問らしかった。
「それは、今までお前から引っ張った金全額返して、お前の前から、姿、消す、とか……?」
「却下だ」
 そこまで明確に考えていたわけではないが、友人に戻れるはずがなく、こんなことをしでかした後じゃ今後合わせる顔もない。と思ったのに、なぜかキツい口調であっさり拒否された。
「却下って、じゃあ、お前がして欲しいように、する。から、なんでも言って」
「なんでも、ね。なら、俺が呼んだらいつでも黙って脚開いて、好きなだけ好きなようにヤラせる性奴隷にでもなるか?」
 出来るわけ無いくせにとでも言いたげに、フッと誂うみたいに鼻で笑われ、ぐっと拳を握り込む。
「お前、が、性奴隷、欲しい、なら……」
「ばぁか。本気にするな。それよりお前は、なんで俺がお前を見限らず、ふっかけられてもお前が必要だっていう言い値払い続けてたかを考えろ」
「同情、だろ。あと、お人好しだから。お前がクズな友人にたかられても見捨てられないようなヤツだから、俺みたいのに付け込まれんだよ」
「違うね。お前もずっと俺に付け込まれてんだよ。金のためにって何度も抱かれて、今じゃすっかり、ケツで感じてイケる体になってる。俺がお前の言い値を払うのは、出し渋って、お前が俺以外の誰か相手にその体使った商売を始めないようにだ」
「それ、って……」
「俺が欲しいのは性奴隷じゃなくて恋人」
 その言葉に、もちろん否を返す気はない。ないけれど。
「あんだけセックスしてて、お前に好かれてるなんて、一欠片だって感じたこと無いんだけど」
「好きだとバレたら、どこまでも毟りに来るだろうと思ってた。金でお前を引き止めてるのに、それを知られたら致命的じゃないか」
「なら、次セックスする時は、……」
 好かれてるとわかるような抱き方をして欲しい、とまでは言えずに口を閉じてしまえば、ふっと柔らかな笑みがこぼされた後で腕を掴まれる。
「え、っちょ、」
 そのままベッドまでの短な距離を連れ戻されて、今までずっと隠されていた彼の想いを、これでもかというほど教えて貰った。

 
 
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お隣さんが気になって

 たまにゴミ捨ての時間が被って、アパートからゴミ捨て場までの片道2分程度の距離を、おはようございますの挨拶と、その日の天気だとか本当に他愛のない雑談でやり過ごすことになる隣人は、いつもなんだか随分もさっとした格好をしている。端的に言えば、寝癖頭に不精髭に上下スウェットにサンダルだ。
 なぜ片道2分なのかというと、自分はそのまま駅へ向かい、相手はアパートへ戻っていくからで、多分在宅仕事なんだろうけれど、どんな仕事をしているのかなどは聞いたことはなかった。挨拶すれば挨拶が返ってくるし、天気の話にも相づちくらいは打ってくれると言うだけで、とてもお仕事何されてるんですか、なんて聞ける雰囲気はない。
 そんな彼が今、いつもとは全然違った格好で、アパートの階段を降りてくる。ビシッと決めて、というほどではない普通のカジュアル寄りな服装ではあるけれど、髪も髭も整えられているし、靴だってスニーカーだけど見慣れたロゴが付いたブランド物だ。
 普段のアレを知らなければ、素直に格好良いなと言えたと思う。ただ、どうしたって、いつもとの違いに驚くのが先だった。
「こ、こんばんはっ」
 驚きからか声が上ずってしまって恥ずかしい。しかし相手は気にするでもなく、いつも通りのそっけない挨拶を返してくれた。
「ああ、こんばんは」
「今からお出かけですか?」
 普段ならこんなこと絶対に聞かない。けれど気になって仕方がなくて、思わず口から出てしまった。
「はぁ、まぁ、ちょっと飲みに」
「お一人で?」
「ええ、まぁ」
「あ、じゃあ」
「すみません、急ぐので」
 一緒に行きたいと言い出すより先に、明らかに会話を切られて、相手が足早に去っていく。
 それ以来、なんとなく、隣人に対する見方が少し変わってしまった。というか、興味を持ってしまった。
 とりあえずで、一緒に飲んでもいいかなって思ってもらえるくらい、もっと親しくなればいいんじゃないだろうか。という方向で頑張ってみた結果、あっさり駅前の居酒屋で飲む仲にはなった。職業が作家だとも聞いた。ただし、格好はもっさりが多少マシになった程度だし、ペンネームは恥ずかしいからと教えて貰えていないままだった。
 おしゃれすれば格好良いのにもったいないなーとは思うし、たまに口に出したりもしていたけれど、でももっさりのままでも、博識で聞き上手な彼と飲むのは普通に楽しい。正直にそう言えば、物好きだとは言われたけれど、相手だって満更でもなさそうだったから、隣人と飲みに行けるような仲になれたことをただただ喜んでいた。
 そんなある日、また、お洒落な彼が駅へ向かうのを見かけた。今回はアパート前ではなかったから、相手はどうやらこちらに気づいていない。
 これはチャンスなのでは?
 そう思った直後には、彼の後をそっとつけていた。
 電車に乗って移動した彼は、繁華街の中を迷いなく抜けていく。見失わないように必死で追ったが、けれどあっさり見失った。なんせ人が多すぎる。
 すごすごと自宅へ引き返す道すがら、携帯から彼が消えた辺りの情報を探った。なんとなくそうなのかなと思った予想は当たりで、同性愛者が集まる地域としてそこそこ有名らしい。
 彼がゲイだと確定したわけでもないのに、なんだか胸がドキドキする。
 胸のドキドキがもやもやに変化するのはあっという間で、抱えきれなくなったもやもやを持て余して、隣室のドアベルを慣らしたのは二日後だった。
「あの、一昨日の夜なんですけど、すみません、後、つけました」
 出てきた相手にまず謝れば、驚いた後で苦々しげに、わかった、とだけ返される。何がわかったっていうんだろう? なんて一瞬考えてしまった間に、じゃあそういうことで、と扉を閉められそうになって焦る。
「え、ちょ、待って。まだ」
 肝心な話が何も出来ていないのに、扉を閉められたらたまらない。
「いやいいよ。わざわざ言いに来るとか、真面目だね。でもこっちに気を遣うことないし、今後は別に、挨拶だってしなくていいから」
「は? なんで?」
「なんで、って、ゲイとか気持ち悪いだろ?」
「あーやっぱそうなんだ」
 もやもやの原因はこれだった。彼は本当にゲイなのか、男が恋愛対象になるのか、気になってたまらなかったせいだ。
「良かった」
「は? 何が、良かったって?」
 眉をひそめて聞き返されたから、ゲイで良かったと繰り返した。ついでに。
「恋人に、立候補したいんですけど」
「何言ってんの。君、ゲイじゃないだろ」
 またしても良かった、と思う。恋人がいるとか、好きな人がいる、とか言われなかった。
「でも、好きなんですよ、あなたを。多分、恋愛的な意味で」
 しばし無言が続いた後で、出直してこい、と言われて扉が閉まってしまったけれど、諦める気なんてさらさらない。というよりもむしろ、諦めなくて良さそうだ、という手応えを感じてしまった。だって、無理だダメだ嫌だの拒絶じゃない。出直してこい、だ。
 とりあえずは近日中に一度、飲みに誘ってみようと思った。

 
 
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何も覚えてない、ってことにしたかった1

 今日もさっさと逃げ帰ろうとした仕事終わり、今日こそ逃しませんよ、と言って腕を掴んできたのは若干目の据わった入社三年目の後輩だった。
 彼がなぜそんな顔で、こんな事を言うのかわかっている。悪いのは自分で、彼はそれに振り回されている可愛そうな被害者だということも。
 知らぬ存ぜぬを貫き通して逃げまくるのもいい加減限界かもしれない。仕方なく、わかったから手を離せと言えば、素直に掴まれた腕は開放されたけれど、こちらを疑う目は鋭いままだ。
 その彼を連れて、とりあえず駅前にある個室を売りにしたチェーン居酒屋に入店した。
 そこまでしてやっと、これ以上逃げる気がないことをわかってくれたらしい。案内された小さな部屋の中、対面に座る相手は態度を一転してにこにこと嬉しげだった。
 そんな相手にメニューを差し出し、好きに頼めと言えば、相手の機嫌はますます良くなる。相変わらず単純で、わかりやすくて、扱いやすくて、いい。
 ホッとしつつ、相手が店員を呼んで注文を済ませるのを、ぼんやりと見ていた。個室のドアが閉まって店員が去ると、相手がこちらに向き直り、少し拗ねた様子で唇を尖らせる。
「なにホッとしてんですか。俺、一応、まだ怒ってますからね」
「そうか」
「ここ奢られたくらいで、なかったことにはなりませんから」
「だろうな」
 何も覚えてないからなかったことにしてくれ、を受け入れる気があるなら、そもそも逃がしませんなんて言って腕を掴んでは来ないだろう。
「ねぇ、わかってると思いますけど、年明けてからこっち、ほんっとそっけないから、俺、めっちゃショックでしたよ?」
「お前に構いすぎてたせいでああなったんだろう、と思って反省したんだ」
 昨年末の仕事納めの日、納会で少々飲みすぎた上にそのままずるずると三次会くらいまで参加して、酔いつぶれ寸前だった目の前の彼をお持ち帰りしたのだ。正確には、自宅にではなく、そこらのラブホにインした上でやることはやって、翌朝、彼を部屋に残してさっさと逃げ帰ってしまった。
 好意は確かにあったけれど、同じ部署の後輩相手に、あんな形で関係を持つだなんて、大失態も良いところだ。
 抱かれたのはこちらだし、相手も相当酔っていたから、何も覚えてないし、帰れなくて仕方なくそこらにあったラブホを利用しただけだし、きっと何もなかったはずだ。という主張を、慌てて連絡してきた相手にほぼ一方的に告げた後は、今日まで必死に逃げ回っていた。
「ちょ、待って。てことは、今後はずっとこのスタンス? なんて言いませんよね??」
「いや、言う」
 だって二度と、あんな失態は犯せない。部署は一緒だが直属の部下ってわけではないのだから、無駄に構うのを止めればいい。
「うっそでしょ」
 呆然となったところで、最初のドリンクとお通しが運ばれてくる。相手が呆けたままなので、仕方なくこちらが対応するはめになった。
「ほら、ビール来たぞ」
 相手の目の前に置いてやったジョッキに軽く自分のジョッキを当てて、さっさと飲み始めてしまえば、また少し剣呑な顔になった相手が、後を追うようにジョッキを掴む。
 一気に飲み干していくさまを、溜息を飲み込みながら見つめていた。

続きました→

 
 
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間違ってAV借りた

 あの時自分は酔っていた。世間とは少しずれたが、ようやく纏まった休みが取れて、浮かれて結構な量を飲んでいた。
 酒を片手に、ふと思いついてDVDをレンタルしたのは記憶にある。気になりながらも見逃してきた数々の作品を、この機に見てしまおうと思ったのだ。
 便利になったなーと思いながら、DVDの宅配レンタルサイトであれこれポチポチクリックしたのは事実なのだが、思うに、あの時の自分は、自覚していた以上に酔っていたんだろう。
 本日届いたそれらの品は、時間が取れずに見逃してきた作品たちとは全然違った。何かの手違いかと履歴を確認してしまったが、そこには間違いなく届いたタイトルが並んでいたから、誰のせいでもない自業自得というやつだ。
 意気消沈しながらも、とりあえず机に積み上げたDVDの中から無造作に一枚選んでデッキに放り込む。金は払ってしまったのだし、見ないのも勿体無いかと思ったせいだ。
 なんせ、今日は一日引きこもってDVDを堪能する気でいたし、今更予定変更するのもそれはそれで面倒くさい。時間つぶし程度にはなるだろうし、これだけあれば、中には面白いなと思うものだって、もしかしたらあるかも知れない。
 
 そこそこ大きなテレビの大画面いっぱいの肌色と、そこそここだわったスピーカーから響く媚びた嬌声を肴に酒を飲みつつスナック菓子を摘む。
 怠惰に過ごすつもりだったから、ジュースや菓子を買い揃えていたのだけれど、ジュースは早々に買い置きの酒に切り替わっていた。さして面白いわけでも興奮するわけでもない映像に、飲まなきゃやってられねぇ、的な気分に陥った結果だった。
 それでもなんだかんだと見続けたのは、強いて言うなら、ただの意地のようなものなんだろう。
 アルコールの力も相まって、半ばうとうとしながらも半分近くを消化した頃、ピンポンとドアチャイムが鳴った。忙しすぎて通販多用生活なので、また何か荷物が届いたのだろう、程度の認識でふらふらと玄関先へ向かう。真面目に見ても居ないDVDは当然そのまま流しっぱなしだったが、それなりの賃貸料を払っている物件なので、リビングのドアを閉じてしまえば廊下にまでアンアン響いてくるようなことはない。
 再度鳴ったドアチャイムに、普段は急かすなんて事無いのにと思いながらドアを開ければ、そこに居たのは宅配業者ではなかった。
「定時退社頑張っちゃった。でもって明日半休もぎ取っちゃった。てわけで俺もDVD祭り参加したい」
 それを言ったのは、学生時代から、社会人になって数年経つ今も、なんだかんだと付き合いが続いている悪友だ。ホイ土産、と言って差し出されたコンビニ袋の中身は炭酸飲料や菓子類だった。
「おじゃましまーす」
 差し出された袋を思わず受け取れば、相手はこちらの脇を通りぬけ、勝手に上がり込んでくるから焦る。それはもう、一気に酔いが覚めるくらいに慌てた。
「待て。待て待て待て。来るなんて聞いてない。てか勝手に上がるなよ」
 SNSに、久々に纏まった休みが取れたから気になる映画を宅配レンタルした、と投稿したのは事実だ。到着予定日も記して、楽しみだとも書いていた。記憶があるというよりは、ログがある。
 今、その背を追いかけている友人から、いいなーという反応があったのも確かだが、でも相手が押しかけてくるなんて思わなかったし、間違えて大量のAVが届いたという投稿はアホを晒すようでしていなかった。
「えーなんだよ。俺たちの仲で今更じゃん?」
 どうせお前一人だろ、と言いながらリビングドアを開けた友人がその場で固まり足を止める。
 途端に部屋の中から漏れ出すハスキーな嬌声に頭を抱えたくなった。なぜなら、今現在流れている映像が、いわゆるニューハーフものというやつだからだ。テレビの中では、髪の長い女性的な容姿の、けれどばっちりちんこの付いた男が、可愛らしく喘いでいた。
「えっ、ちょ、どういうこと?」
 こわごわとこちらを振り向いた相手は、当然驚いていたけれど、同時になんだか酷くそわそわとしている。
「なぁ、お前ってこーゆーの有りなの?」
「こーゆーの、とは?」
「女のかっこした男を抱きたいて思うのか、それともお前が女のかっこで男に抱かれたい側?」
「別にどっちもないな」
「は? んじゃなんでこんなの見てんの」
 面倒くさいな、と思いながらも状況を説明し、男女のは見終えたから未視聴で残っているDVDはニューハーフものかゲイものだけだぞとも言ってやる。
「え、ゲイビも見んの?」
「だから、金払ってんのに見ずに返すの、悔しいだろって」
「あーはいはい。じゃ、俺も酒貰っていい?」
 ジュースしか持ってきてないと言い出した相手に、何を言い出すんだと焦った。説明したらおとなしく帰ると思っていたのに。
「は? 帰れよ」
「えー面白そうじゃん。俺も見たい」
 別にそれ見て抜こうってんじゃないんだろ、と続いた言葉に押し切られて、なぜか一緒にAVを見ることになってしまったが、悪友が男も有りだったなんてこんなに長く付き合っていて初めて知ったし、ゲイビ見ながらもの食えるくらい平然としてんならちょっと試そうと誘われて、その時にはだいぶ酔っていたのもあってうっかり応じてしまった結果、長年の友人だった男にあっさり食われたのもなかなかの衝撃だった。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1077577605635698689

 
 
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兄の親友で親友の兄(目次)

キャラ名ありません。全12話。
それぞれの年齢は出てませんし、仕事の話なども一切出ませんが二人共社会人です。
親友を好きな視点の主が、兄の親友であり親友の兄でもある攻めに、兄が好きならお互いに好きな相手の代わりを務める相互代理セックスをしないかと持ちかけた話。
弟の代りになってのセックスなんて出来ないと断られ、本命が別に居ても恋人は作れると言う攻めの言葉に乗って恋人になったら、情が湧いて攻めのことを好きになってしまうが、攻めの本命は変わらず兄のままという状態の中、兄に二人の関係がバレて、最終的には両想いの恋人になります。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
肉体関係のある二人ですが性的な描写はありません。

1話 相互代理セックスの誘い
2話 試しに付き合ってみないか
3話 しばらく恋人
4話 曖昧になる本命
5話 一年経過
6話 情が湧きすぎて
7話 兄と彼からの呼び出し
8話 別れるよ
9話 兄の中での彼の評価
10話 別れない宣言
11話 彼と兄の茶番劇
12話 本命に繰り上がり

 
 
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結婚したい相手はお前

 仕事で忙殺される日々の中、癒しとなるのは合鍵を渡してある恋人の存在だ。相手だって仕事を持つ社会人ではあるのだけれど、二人ともが忙しかったら会える時間がないから、などと言って相手は仕事をだいぶセーブしていた。そしてそれに甘えまくって、彼に通い妻的なことをさせてしまっている。
 相手が女なら、そろそろ責任をとって結婚、なんて話になりそうなところだけれど、というかそうなってるはずだったんだけど、なぜか現在お付き合いをしている相手は男なので、ぼんやりと思い描いていた自身の将来との齟齬に未だ戸惑っていた。多分その戸惑いを、相手もわかっていて、しかもきっと負い目に感じている。
 あの時、彼女と別れて彼を選んだのは自分の意思だし、さすがにそれは何度も言って聞かせているけれど、それでも自分のせいでと思う気持ちは彼の中に残っているようだった。相手は好きでやってると言いながら、部屋の片付けやら食事の用意などもしてくれるが、その負い目があるからじゃないのかと疑う気持ちがないわけじゃない。
 大事なのは家事をしてくれることじゃなくて、仕事で疲れ切ってあまり構ってあげられなくても、好きで居てくれることとか、怒ったり責めたりしないこととか、なるべく笑っていてくれることなんだけど。
 わかってるよ〜大丈夫だよ〜とふわふわ笑う相手が、どこまでわかっているのかはかなり疑わしい。だって多分自分とそう変わらない単なるサラリーマンななずの彼が、働き盛りなこの歳で仕事をセーブするってのは、彼の今後の人生にも大きく影響してくることだろう。なのに、男一人が取り敢えず生きていくくらい稼げてれば別にいいしと、彼はあっけらかんと笑ってしまう。
 事後の余韻がほんのりと残ったベッドの中で、余計なこと考えてないで眠りなよと、クスクスと笑う彼を引き寄せ抱きしめた。情けないことに体はもうクタクタで、目を閉じればあっという間に意識も落ちる。
 やるだけやってさっさと寝てしまうのなんて、どう考えたって恋人としてアウトだって認識はあるし、こちらが寝落ちた後にそっと腕の中から抜け出した彼が、どんな気持ちで一人で後始末をするのか考えると胸が痛む。
 いやこれ絶対、愛想尽かされるのも時間の問題じゃないの?
「結婚したい」
 翌朝、彼が先に起き用意してくれていた朝食を前に決死の覚悟で告げれば、相手は悲愴な顔になって、それから、小さな声でわかったと言った。
「やっぱ、嫌? 無理?」
 相手を手放したくない。愛想を尽かされたくない。でも今の仕事を辞める気もない。結果、考えついたのがプロポーズだなんて、それだけでも愛想を尽かされる要因になるかも知れないと、彼の反応から今更思い至って焦る。
「ううん。大丈夫。覚悟はしてた」
 俯いてしまった相手が、キーケースから外した合鍵をテーブルの上に置いた段階になって、あれ? と思う。
「待って。覚悟ってなんの覚悟?」
「そんなの……」
「まさか、別れてって言われたと思ってる?」
 頷かれて頭を抱えた。
「違う違う違う。ごめん。そうじゃない。俺が結婚したい相手はお前。さっきのは、お前に、結婚してって言ったの」
「えっ?」
「あーもう、ほんと、ごめん。突然過ぎたというか情緒も何もあったもんじゃなかった。やり直したい。てかやり直しさせて。ごめん。ごめんなさい」
 テーブルの上に頭を擦り付けて言い募れば、相手の手が躊躇いながらも頭を撫でてくる。ガバリと勢いよく頭を上げれば、相手が驚きと苦笑と愛しさとをごちゃ混ぜたような変な顔で、本気っぽいの伝わったからやり直しは要らないかなと言った。本気で受けていいなら受けるよとも。
 その後、その変な顔がふにゃふにゃと崩れて珍しく泣かれてしまったけれど、恋人の泣き顔をこんなにも愛しいと思うのは初めてだった。

 
 
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