いくつの嘘を吐いたでしょう

 腹が減ったけれど自宅にまともな食材もなく、買い出しついでに何か食べてこようと外に出る。取り敢えず先に腹ごしらえからだと、駅前にある食券制の蕎麦屋に入った。
「あ、財布……」
 食券機の前に立ってから、財布を忘れてきたことに気づいて肩を落とす。これじゃあ何のために家を出たのかわからない。
 何やってんだろうと恥ずかしく思いながら踵を返した所で名前を呼ばれて、恥ずかしさから俯いていた顔を上げた。そこには会社でお世話になっている先輩が、片手を上げながら笑っている。
「あれ? 先輩?」
「なにお前、財布ないの?」
「あ、はい。てかどうしたんですか、こんな所で」
「天気いいから花見でもと思って、ふらっと電車乗って、ふらっと降りた。ら、ここだった」
「ああ、なるほど」
 駅近くにけっこう立派な桜並木が有るので、電車からそれを見つけて降りてきたってことなんだろう。
「おう。で、お前はなんでここ居んの? お前んちってこの辺だった?」
「はい。徒歩10分くらいですかね」
「へー。なら、今から戻って財布とってくんの?」
「あー……それは、」
 往復20分かけて、もう一度食べには来ない気がする。店員さんにさっき財布忘れた人だと思われそうで恥ずかしい。
 買い出し気分で出て来たけれど、再度家を出る気になるかすら怪しかった。ちょっと何かを失敗すると、やる気が一気に削がれてしまうのは良くない傾向だとは思うけれど、帰ったらそのまま引きこもってしまいそうだ。
 食料がないとはいっても、多分カップ麺の1個や2個は残っているはずだから、今日はそれを食べて凌げばいい。
 なんていうこちらの思考を読んだのかはわからないが、財布を手に先輩が立ち上がる。
「奢ってやるよ」
「え?」
「ここで会ったのも何かの縁だろ。で、暇ならちょい花見に付き合って」
「あ、はい。じゃあ、えっと、ゴチになります」
 軽く頭を下げて了承し、蕎麦を食べたあとは近くの桜並木を眺めながら歩いて、とりとめのない話をした。
 財布を忘れなければ、蕎麦を食べた後はスーパーに寄って買い物をする予定だったとは話したが、まさかそのまま一緒にスーパーへ行くことになるとも、自宅アパートへ先輩を連れて帰る事になるとも思ってなくて、我ながらビックリだ。
「なんもない上に狭いすけど、どうぞ」
 丁寧におじゃましますと告げてから、後ろについて上がってきた先輩は、チラッと部屋を見回した後で綺麗な部屋だなという感想をくれた。
「綺麗つーか、物が少ないつーか、なんか、めっちゃお前らしい」
「そーですか? まぁ、適当に座ってて下さい」
 買ってきた冷蔵品を冷蔵庫へしまいながら、同時に買ってきた惣菜を温めたり、箸やグラスを用意していれば、手持ち無沙汰だったらしい先輩が何か手伝うと言いながら寄ってくる。
「じゃあこれ、お願いします」
 言いながら、出していたグラスと箸を渡せば、先輩は機嫌良くそれを受け取り戻って行った。それを数回繰り返して、最後に、最初に冷凍庫に突っ込んだビールの缶を持ってテーブルにつく。
「お待たせしました」
「おう、じゃあ飲みますか」
 最初はこのまま飲みに行かないかという誘いだったはずが、気づけば家飲みしようという話になっていて、買ってきたツマミと酒は先輩の奢りだった。最初に飲む用の2本は冷凍庫へ入れたが、残り4本は冷蔵庫に入れてある。
「あ、待って下さい。先に立替分払います」
 ツマミと酒は奢りでも、それ以外にもあれこれ買っている。飲み始める前にそれらを精算しておくべきだろう。
「あ? あー、いやいいよ。買ったもん全部奢りで」
「へ? なんで?」
「臨時収入あったから? 飲み行こってのも俺の奢りでって言ったろ。それなくなった分。飲み行ってたら絶対もっと掛かるし、場所代てことで」
「え、ならもっと色々買い込んでくればよかった」
「そりゃ残念だったな」
 そうならないように今言ったんだと言って、先輩がやっぱり機嫌良く笑った。もともと愛想の良い人ではあるけれど、今日は会ってからずっとニコニコと笑いっぱなしで、よほど良いことがあったらしい。
「今日、随分機嫌いいですよね。臨時収入って、もしかしてパチとかお馬さんとかそれ系で大勝ちとかっすか?」
 驚いたのか少し目を瞠った後、それからおかしそうに笑って、パチでもお馬さんでもないけど大勝ちで機嫌がいいのは当たりだと言われた。
「宝くじ、競輪、競艇。あ、パチじゃなくてスロットとか」
「違いますー。そういうギャンブルやりませーん。つか今日、何の日かお前わかってる?」
「え?」
「エイプリルフール」
「が、どうかしました?」
「お前に会いに来たんだよ。で、お前呼び出す前にお前と会えて機嫌がいい」
「は? なんすかその嘘」
「うん。実は今日、俺はお前にたくさん嘘ついてるって話」
 だってエイプリルフールなんだもんなどと言って笑っている目の前の男は、既に酔っているようにも見える。まだ飲み始めたばかりなのに。
「さて、俺は今日、いくつお前に嘘を言ったでしょう?」
 どれが嘘だったと思うかなんて聞かれても、正直面倒くさいだけだった。
「そういうの面倒なんでいいです」
 ばっさり切り捨ててしまったけれど、そう言うと思ったと言って、やっぱり先輩は機嫌良さそうに笑っている。
 嘘つく張り合いのなさが良いなどと言われるのはなんとも微妙だったけれど、機嫌の良い相手と飲むタダ酒は美味しかったから、またお前とこんな風に飲みたいという言葉にも頷いた。
「今の、嘘じゃないけど」
「俺は今日、先輩と違って一つも嘘吐いてないんですけど」
 少々ムッとしつつ返せば、先輩は酔っていささか赤い顔をますます赤くして、どこか照れくさそうにヘラリと笑う。
「お前のそういうとこ、割と本気で、好きだなって思うよ」
 可愛いねなんて続ける口調はなんとも嘘っぽくて、でもなぜか、それも嘘ですよねとは聞けなかった。

 
 
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ダブルの部屋を予約しました1

 恋人という関係になる前から、いつか一緒に行きたいね、という話はしていた。どうせ行くならせめて3泊はしたいし、出来ることなら一週間くらい滞在して、その地をあちこち巡りたい。
 なんて話に花を咲かせていたものの、互いに仕事があってそれぞれ繁忙期も違うので、なかなか実現することはなかった。半分くらいは酒の席での社交辞令というか、お互いそこまで本気で言ってるわけじゃないと思っていたのもあると思う。
 どっちも我が強いわけではないというか、互いに、もし相手が本気で誘ってきたら考えてもいい、程度に思っていた節はあると思う。相手か自分のどちらかがもっと強引に、スケジュールを調整するよう促し具体的に予定を立ててしまえば、もっと早くに、友人同士の旅行としてその地を訪れていた可能性は高そうだ。
 ただ、酒を飲みながらいつか行きたいという夢をだらだらと語るだけでも、それはそれで楽しかったし、同じものが好きだったり興味を持っていたりする相手への好意が育つのは簡単だった。恋人になってから聞いて知ったが、それは相手も同じだったらしい。
 自分たちは、多分、かなり似ている。
 何度となく、いつか一緒に行きたいと口にしていた旅行を本気で誘えなかった、かなり積極性に欠ける自分たちが、好意を晒して恋人になりませんかと誘えるはずはもちろんなかった。
 たとえばどちらかが女性だったら、もう少し話は別だったかもしれない。いつか一緒に行きたい、なんて話をノリノリでされるだけで、はなから恋愛対象として見てしまっていた可能性が高いし、男としてもう少し積極性を出すことを考えていただろうとも思う。まぁ、なに勘違いしてるのと笑われるのは怖いから、相当慎重に見極めるための時間を必要としただろうし、男女だったらもっと簡単に恋人になれたはずだ、なんてことは全く思っていないけれど。
 むしろ、男同士だったからこそ、積極性のない二人でもなんとか恋人になれたんじゃないか、という気がしないこともない。結局のところ、自分たちが恋人になれたのは、酒による失態という面が大きい。もしどちらかが女性なら、お互い、深酒をしての失態なんて晒さなかったはずだ。
 あの日彼は、育った好意が漏れ出ないように必死で気持ちを押さえ込みつつお酒を飲んでいたようで、珍しく悪酔いして吐いてしまった。これは相手の方がこちらより酒に弱かったと言うだけで、体質的にもっと飲めるタイプだったなら、吐いたのは自分の方だっただろう。つまり自分も相当、その時点で酔っていた。気持ちを押さえ込んで飲んでいたのは、こちらも同じだった。
 そんな酒で鈍りきった判断力により、その後自分たちは目についたラブホでご休憩し、それが結局ご宿泊になって、結果、翌朝には彼と恋人となっていた。
 ただし、一欠片だってあの日のことに後悔はない。育った好意を持て余すほど、いつの間にかこんなにも好きになっていた相手と、恋人になれて嬉しくないはずがない。
 ただまぁ、自分の消極性を情けなく思う気持ちはあるし、せっかく恋人になったのだから、もう少し積極性を出したほうがいいんじゃないかって、考えても居た。
 だから、今度こそ一緒に旅行をという話を本気で実現しようと思って、どうにか休みを調整できないかと、相手に話を持ちかけた。相手さえ休みが取れたら、こちらは何が何でも休みをもぎ取る気でいた。
 話はトントン拍子に纏まって、めちゃくちゃ喜んでくれた相手に、随分とホッとしたのは一週間ほど前になる。
 日程が決まったので、後は宿泊先のホテルをどこにするかとか、何を使ってその場所へ行くかなどを相談していたのだが、ホテルの予約は自分がと言ってくれた相手に、ありがたいと思う反面、ほんの少し違和感というか、珍しいなと思ったのは確かだ。宿の予約程度で、なんだか随分と意気込んでいるように思えたからだ。
 普段利用しているサイトのポイントだとか、そういう関連かとも思って、そこまで気にしてはいなかったのだけれど、彼が意気込んでいた理由は、もしかしてこれだろうか。
 手元の携帯には、予定していた宿の予約が済んだという連絡と共に、部屋はダブルで申し込みましたという一文が添えられている。
 決定事項だ。
 ダブルしか部屋が空いてなかった結果だとしたら、その前段階で、ダブルでもいいですかと聞いてくるはずだから、これは間違いなく彼自身の選択だと思う。
 たしかに自分たちは恋人で、恋人になってまだまだ日は浅いものの、既に数回、体の関係を持っても居る。だから特別ツインに拘る必要はないし、ダブルベッドで一緒に寝るのは構わない。構わないんだけど。
 この部屋の選択に、旅先でセックスしようという誘いが本当に含まれているのかどうか、皆目見当がつかない。
「いや、これ、お前、あちこち巡ろうって話、どうすんだよ……」
 もし体を繋げるような行為をしてしまったら、経験上、翌日あちこち巡れる元気はきっとない。
 思わず零した独り言が、静かな部屋に落ちて消えた。

続きました→

 
 
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出張に行くとゴムが減る

 恋人と一緒に住むようになって2年と少しが経過した現在、仕事の部署が変わって出張する機会が増えた。
 最近、買い置きのコンドームの数の減りが早い気がする。なんてことを思ったのは確か半年くらい前で、出張から帰ってくると減っているのだと確信したのは今日だった。
 出張から帰ると、寂しかったとか言って抱かれたがる事が多いけれど、この事実を確信してしまった今、素直に彼の求めに応じてやれるのか自信がない。
 付き合いもそこそこ長いし、お互い年を取って落ち着いたとも思っているし、職場での責任やら何やらも年々増えていくしで、確かに体を繋ぐ回数は減っていると思う。出張後に寂しかったなんて言って、相手から積極的に誘ってくれるのは、正直ありがたいとも思っている。でもどうしたって浮気を疑ってしまうし、求めてくるのは罪悪感からかもと思う気持ちもあるし、まさか浮気相手のセックスと比較されてるんじゃないかと下世話な想像までしてしまう始末だ。
 浮気なんてするはずがないと言い切れないのも、回数が減っている自覚があることと、相手に求めさせている事実があるせいだと思う。
 想いが減ったわけじゃない。今も変わらず相手を想っているし、これからも側にいて欲しいと思うし、このまま一緒に暮らし続けたいとも思っている。ただ、想いが減ってはいなくても、変化はしていると思う。昔ほどガツガツと相手を求めなくなったというか、もう少し穏やかな気持ちで相手を求められるようになったというか、つまり大人になったのだと、自分では思っていたのだけれど。
 ただ、そう思っているのが自分だけという可能性はある。昔と同じように、抱き潰すほどの激しさで求められたいと、相手が思っていないとは言い切れない。
「何か、不満があったりとか、あるか?」
 思った通り、今日は久々に抱かれたいと甘えてきた相手をベッドに押し倒して、キスをして。けれどそのまま抱くことは、やっぱり出来そうになかった。
 結局、両腕の間に横たわる相手を見下ろして、そんな間の抜けた質問をしてしまう。だってコンドームの数が合わないってだけで、それ以外に疑わしいことがあるわけでもなく、いきなり浮気してるのかなんて聞けるわけがない。
「不満? なんで?」
「出張から帰ると、抱いてって言われること、多いから」
「それは寂しかったからだけど、もしかして、誘うの迷惑だった? というか、出張で疲れてるかもとか考えてなかった。ゴメン。無理してしなくて、いいから」
 申し訳なさそうに言い募る相手に、こちらが申し訳ない気分になる。
「いや、疲れてるとか迷惑とかじゃなくて」
「じゃあ、何?」
「なんで、出張後にばっか誘われるんだろうって、思って」
「そ……れは……」
 動揺したらしく、視線が迷うように泳いでいる。やっぱり出張中に何か、あるんだろうか?
「出張中って、何してんの?」
「は? えっ?」
「確かに回数は増えたけど、だいたいいつも数日の出張だろ。今回だって、二泊しかしてない。で、そんなにすぐ、寂しくなるもんなのかなって、思って」
「それは、……それは、その、……」
 少しばかり青ざめながら、そのくせ目元だけは赤く染めて、言葉を探している。まさかちょっと出張中の様子を尋ねただけで、こんなに動揺させることになるなんて思ってもみなくて、こちらも内心大いに慌てていた。というか、もう、黙ってられそうにない。
「確信してるから言うけど、俺が居ない間に、ゴムのストック使ってる、よな?」
「う、ぁあああ、待って。待って。確信してるって、え、ちょ、何言って」
 大慌てで声を荒げる相手を前に、逆にこちらの気持ちはどんどんと冷えていく。知られたくなかったんだって、知られたら困るんだって、その事実に胸が痛い。
「少し前から疑ってた。ゴム、減るの早くないかって。で、俺が出張に行くと減るんだって、今回ので確信した」
「あー、ああー、そっか。うん、その、ゴメン。ごめんなさい。その、怒って、る?」
「怒るっていうか、悲しい、かな」
「ゴメン。ごめん。ただ普段は一緒にいるから、そんなことする暇も必要もないっていうか、一緒に寝てたら、そんな気もなかなか起きないっていうかで。お前が嫌なら、もう、しないから。我慢する。けど、出張から帰ったら、やっぱりなるべく抱いてほしい」
 寂しいのは本当だよと言い募る相手の言葉に、嘘はないと思う。
「もうしないってなら、これ以上咎めないけど。でもどうしても気になるから、相手だけ、教えて。俺も知ってるような人? まさか出会い系とか使ってないよな?」
「は?」
 あっけにとられた顔をしたかと思うと、相手は徐々にその眉を吊り上げて、あっという間に随分と不機嫌そうな顔になった。
「まさかと思うけど、浮気したと思ってる? お前が家に居ない間に、誰か別の男をこの家に入れたって、思ってんの?」
「違うの?」
「違うわっ! つか、そういう心配されてたのは、さすがに心外っつうか、心折れそうなんだけど……」
 うわー最悪と嘆きながら、相手は目元を腕で覆ってしまう。もしかしたら、少し泣かせてしまったのかもしれない。
「じゃあ、なんでゴムの数、減ってんの?」
「それ、俺が言わないと、わかんないの?」
「わかんないから聞いてる」
 やがてか細い声が、一人でするのに使ってると、震えながら伝えてくれたから、そこでようやく、本当に酷い誤解をしていたことに気づいた。
 謝りまくって許してもらって、その後めいっぱい可愛がったから、相手の機嫌もすっかり元通りなのだけれど、最中言っていいのか迷いながらどうしても言えなかったことが一つある。今回は言えなかったけれど、でもきっと近いうちに、言ってしまいそうな気がしている。
 お前のアナニー見てみたいって言ったら、相手はどんな顔を見せるだろう?

 
 
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ゴムの数がオカシイ

 先週末は恋人の家にお泊りして、当然のように抱かれたのだけれど、あの日ベッドの中で一瞬感じた違和感の正体がわかったのは、週も半ばを過ぎてからだった。
 ずっとなんだかモヤモヤとして、恋人に対する不信感のようなものが胸の中に巣食っていた。でも思い返しても思い返しても、あの日の彼に、普段と違う様子なんてまるでなかったから、自分は一体何をそんなに不安がっているんだろうと思っていた。
 原因はどうやら、あの日彼が新しく開封したコンドームの箱らしい。時々面白がって、どこからか変なコンドーム(イボがついてたり香りがついてたり、時には味までついてたりする)を調達してくることもあるけれど、基本的には使っている銘柄はいつも一緒だ。今のところそれが一番お気に入りってのは知っているし、あの日開けた箱もいつも通りの同じ箱だった。
 なのになぜそれが原因かと言えば、問題はコンドームの数だった。新しいものを開けるということは、使い切ったということだ。一箱12個入りだけど、前回新しいのを開けてから、どう考えてもそんなに使っていないと思う。
 少し忙しい日々が続いて、なかなか会えなかったから尚更、そこまで減っている事がオカシイとしか思えない。オカシイというか、つまり、他の誰かに使ったんじゃないかという、疑惑だ。
 浮気なんてするタイプじゃないと思ってるし、そこそこ長い付き合いの自分たちの間で、相手の隠しごとに気づかないなんてことはあるだろうか。それとも、付き合いが長いからこそ、本気で隠されたら気づけないって事なんだろうか。
 最近は関係も安定していたから、こんな風に相手を疑って気持ちを揺らす事が久々だった。でもどうせ週末はまた会うんだし、その時にでも軽く聞いて確かめればいい。
 なのに恋人の家を訪れて、玄関先で顔を合わせた瞬間から、ビックリするほど気持ちが激しく揺れてしまった。あっさり涙目になったものだから、こんな自分を目にした相手も相当驚いている。
「は? え? どした? なんか会社で嫌なことでも起きてんの?」
「そ、じゃな……」
「ああ、うん、話は聞くから。とりあえず玄関じゃなくてリビングまでは行こ。お茶淹れるから、座って、落ち着いて、ゆっくり話そ」
 心配げにそう促してくれる相手の優しさに、グッと胸をつまらせる。疑って申し訳ないって気持ちで一杯になる。でも、ちゃんと確かめないと、このままだと疑惑に自分が押しつぶされてしまうのも、もうわかる。
 浮気されてるかもってちょっと考えただけでこんな風に泣けるくらい、いつのまにか、こんなにも好きで好きで仕方がなかったなんて、知らなかった。しんどい気持ちの片隅に、こんな状態になっている自分自身に驚いている自分がいる。
「先に、寝室、行きたい」
「うぇっ!?」
 めちゃくちゃ驚いているのは、こちらが事前にシャワーを浴びたい派だってことも、抱き合う前に準備が必要だってことも、彼がちゃんと知っているからだ。
「今すぐ抱いてってんじゃなくて、ちょっと、確かめさせて」
「何を? てかまぁいいや。何か気になってんなら、お好きにどうぞ?」
 何の警戒もしていないところから、やっぱり浮気なんてしてるはずがないと思うのに、気づかれるはずがないって自信からかもと疑う気持ちが湧いてくるから、本当に自分の思考が嫌になる。
 ゴメンと一言呟いてから、真っ直ぐに寝室へ向かってドアを開けた。コンドームやローションがどこにしまわれているかは当然わかっている。引き出しをあけて、先日開封したばかりの箱を手に取った。
 箱を開けて、中身の数を確認する。やっぱり、あるべきはずの数よりも、足りない。
「あの、これ」
 手の中の箱を、相手に向けて突き出した。相手はわけがわからないという顔をしながらも、律儀に頷き、それがどうかしたかと、話の先を促してくれる。
「うん。それが?」
「数、オカシイ、よね?」
「は? 数?」
「そう、数。これ、この前新しく開けてた箱でしょ。で、あの日俺に使った数より、減ってる」
「あ? あー……ああ、なるほど? つまり、俺が浮気してるかもって?」
「まぁ、そう」
「お前、自分で抜く時、ゴム使わない派? というか使わないからこその、浮気疑惑だよな」
 こちらが何を疑って、涙目になったり寝室に突撃したりしてるかに気づいた相手は、困ったような、それでいて笑いをこらえているような、どうにも微妙な顔を見せている。
「自分で抜く時? って?」
「まんまその通りだって。オナニーする時、シーツや布団に垂らして汚すの嫌だし、後始末面倒だからゴム使ってすんだよね」
「は? え? マジで?」
「マジで。てわけで、浮気なんてしてないから安心して? てか浮気疑って心配になって、さっき泣きそうになってたのかと思うと、今すぐぎゅーぎゅーに抱きしめて、そのままベッド押し倒して抱き潰したいくらい可愛いんだけど」
 とうとうニヤニヤがおさまらないって感じに表情をがっつり崩してしまった相手に、こちらはいたたまれなさでいっぱいになりながら。
「抱き潰すのは、夜にして」
 言えば了解と言いながら伸びてきた腕に、先程の言葉通りぎゅーぎゅーと抱きしめられた。

 
 
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親睦会(目次)

キャラ名ありません。全18話。
< 寮で親睦会をかねて鍋を囲んでいたら友人が襲われていて、その横で自分もまた違う男に襲われていてのちに二組のカップルが出来る話 > というお題を頂いて書いたもの。

セックスは上手いが色々酷いバツイチ先輩 × 流されやすくて御しやすい色々無頓着な貧乏人(視点の主)
童顔かわいい系先輩 × 童顔先輩に恋する視点の主の同期
の二組のカップルが出てきますが、童顔先輩と同期のカップルについては前半軽くしか出てません。

寮住まいの先輩社員に恋してしまった同期に情報提供していた寮住まいの視点の主が、同期が寮へ引っ越してきた際の親睦会で酔い潰されて、同期が恋する先輩とは別の先輩相手にアナル処女喪失。
あっさり想い人と恋人となった同期を横目に、視点の主はずるずるとセフレのような状態でセックスを繰り返す。やがて攻めを好きになってしまうが、相手の態度から想いが報われないことはわかりきっていて、辛く感じることが増えていく。
そんな中、急に誘われた温泉旅行で攻めの過去やなぜ抱き続けるかなどを聞かされ、謝罪と共に優しくされる。今後の二人の関係をどうするかという話は、結局視点の主が泣き疲れて眠ってしまったため中断するが、一週間後、気持ちの整理をつけたという攻めに付き合って欲しいと言われて恋人になります。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してありますが、中盤風呂場での描写はかなり控えめ。優しいエッチはありません。

1話 親睦会で鍋
2話 気づけば抱かれてた(R-18)
3話 幸せそうな同期
4話 温泉に誘われる
5話 大浴場から戻ったら
6話 一緒に昼寝
7話 起きたら一人
8話 様子がおかしい相手と夕食
9話 夜中の露天風呂
10話 最後のセックス宣言(R-18)
11話 揺れる思考と気持ちよさのない指(R-18)
12話 泣いたら優しい
13話 バツイチ
14話 重ねて見ている
15話 試していた
16話 好きの出処
17話 泣き疲れて眠る
18話 恋人に

 
 
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昨夜の記録

 少々遠方への二泊三日の出張が決まった時、その地方に就職した学生時代の友人に、久々に会えないかと連絡を取ったら、あっさりオッケーだったどころか最終日の金曜とその翌日の土曜はウチに泊まってけばと宿の提供まで申し出てくれた。行きたいところがあれば観光地の案内もしてくれるらしい。
 そんなわけで金曜夜に待ち合わせて、久々に会った友人と楽しく飲んだ。
 そして、飲んで潰れて翌日は昼過ぎから遊びに出かけてやっぱり飲んで潰れてを繰り返した日曜の昼近く。目覚めた自分の隣の布団では、友人がまだ気持ちよさそうに眠っていた。
 昨日の朝もそうだったし、学生時代に何度も繰り返した光景でもある。自分もそこまで酒に弱いわけではないはずなのに、彼と飲むと先に潰れてしまうことが多かった。
 しかも潰れるほど深酒した割に、目覚めがなんだかスッキリしているのもどこか懐かしい感覚だ。話し上手で聞き上手な友人だからか、普段溜め込みがちな鬱憤をあれこれ聞いて貰うことも多く、だから気持ちごと体まで軽くなるような気がするのかもしれない。
 友人を起こしてしまわないように起き出して、隣のリビングへと移動する。テーブルの上は既にあらかた片付けてあったが、だからこそデジカメがポツンと残されているのが目についた。
 自分なんかは携帯のカメラで十分派だけれど、彼に言わせれば全然違うようだ。昨日も一緒に出かけた観光地であちこちシャッターを切りまくっていたし、酒を飲みながらわざわざテレビに繋げてそこそこの大画面で見せられたそれらの写真は、確かに綺麗と言えば綺麗だった。
 ふとした悪戯心から、そのデジカメを手に取り電源を入れる。気持ちよさそうに眠る相手の寝顔を、こっそり撮ってやれと思ったのだ。
 出来れば自分が帰った後で、その悪戯に気付いて欲しい。なんてことを思いながら、手の中のデジカメをあれこれ弄る。うっかりフラッシュをたいてしまって友人が起きたら困るし、操作音やらシャッター音のオンオフ機能もありそうだ。
「なんだ、これ……?」
 いきなり動画が再生されて焦ったのも束の間、そこに流れる映像に目が釘付けになる。映っているのは目を閉じて布団の上に横たわる自分自身だった。
『今夜もぐっすりだね。ホント、無防備で可愛い』
 カメラがぐっと顔に近寄り、そんな囁きが聞こえてくる。どことなく甘ったるい声は友人のものに違いないが、友人のこんな声をリアルで聞いたことはない。
 背中に冷や汗が流れる気がした。鼓動は速くなり、嫌な予感もビンビンなのに、画面から目が離せない。
 顔を映していたカメラはその後遠ざかり、やがてどこかに置かれたようだった。カメラを手放した友人が、眠る自分に近づく姿が映っている。
 躊躇いなく顔を寄せた友人が、眠る自分にキスを繰り返す。寝間着代わりのシャツを捲り上げ、腹から胸までをゆっくり撫でる手の動きがイヤラシイ。
 画面は小さいが明かりは煌々と点けられたままなので、何をしているか、されているのかは嫌でもわかってしまう。眠る自分が気持ちよさそうに吐息を零したのも、それを満足気に眺める友人も、可愛いねと繰り返される囁きも、触れた唇が離れる時の少し湿ったリップ音でさえ、そこには収められている。
 部屋は確かに静かだが、それらは随分と生々しい。もしかしたら集音マイクでも使っているのかもしれない。
 やがて友人の手は下腹部にも伸びて、下着ごとズボンを下ろされた。下半身だけ剥き出しになって眠る自分はなんとも不格好で居た堪れないのに、全く記憶にないせいか、自分なのに自分ではないようにも見えてくる。画面の中の友人だって、姿形は友人でも、やっぱり自分が知っている彼とは別人のようで現実感がない。
『昨日より楽に入るね。どう? 気持ちいい?』
 カメラの位置は固定されたままのなので、開いた足の間に座る友人が何をしているかの詳細は見えないが、でも音と声とで何をされているかはわかってしまう。
『前立腺弄られるの、昔っから、好きだもんね。おちんちん、プルプルしてる』
 ふふっと愛しげに笑う声と、グチュグチュと響く卑猥な音と、アンアン声を上げている自分に、ますます現実感が遠ざかる。
 だってこんなに喘いでて、なのに記憶が無いってオカシイだろう?
 タチの悪い悪戯を仕込まれてて、ここに映っているのは自分たちによく似た俳優だと言われたら信じてしまいそうなくらいなのに、部屋はどう見たって昨夜の寝室で、奥の方には自分が持ち込んだカバンだって映り込んでいる。
『そろそろイキそうかな? いいよ。気持ちよく吐き出しちゃいな』
 目を閉じたままの自分の体が小さく痙攣している。まさか扱かれもせず、ケツ穴を弄られただけで射精したとでも言うのだろうか?
『さすがに昨日よりは薄いし量も少ないか』
 カメラの遠さか画面の小ささか角度的にか、見ただけでは射精したかどうかははっきりわからなかったが、間違いなくイッたらしい。しかも腹の上に吐き出されたそれへ、友人が楽しそうに舌を這わせているのが衝撃的だった。
 そうして綺麗にした後、友人は満足したのかこちらの体を丁寧に拭いて、服を着せて掛布を掛けてくれる。一連の流れをずっと見ていたのに、最後の画面だけ見れば、そこにはただただ眠る自分の姿が映っているだけだ。
「なんだ、これ……」
「昨夜の記録」
「んぎゃっ!」
 背後からの突然の声に心底驚いて体を跳ねれば、驚きすぎと笑われたけれど、こんなの驚くに決まってるだろう。
「っえ、お前、いつから」
「真剣に魅入ってたね。興奮した?」
 声は耳元で聞こえた。
 椅子に座るこちらを閉じ込めるように、相手の両手がテーブルに突かれている。ドキドキが加速して、ヤバイヤバイと頭の中を巡るのに、どうしていいかわからず固まったまま動けない。
「久々に会ったらさ、もう、寝てるお前じゃ我慢できなくなってたんだよね」
「それ、って……」
「学生時代、時々お前に薬盛って、寝てるお前に悪戯してた。でも卒業と同時にお前ごと諦めるつもりで、こっちに就職決めたのにさ。わざわざお前から連絡してくるんだもん」
「俺を、好き、なの?」
「好きだよ。ずっと好きで、でも友情壊すの怖くて言えなくて、酷い真似した。お前が気づかないからって、そのまま続けるのも怖くなって距離おいて、そのまま忘れられると思ったのに全然無理だった。今もずっと、お前が好きで、苦しいまんまなんだよ」
 テーブルに突かれていた両手が持ち上がり、背後から緩く抱きしめられる。緊張で体が強張りはしたが、振り払うことはしなかった。
「録画したのは、これを最後にお前とは完全に切れようと思って、最後の思い出にするつもりだった。でも、どうせ最後にするなら、当たって砕けるのもありかなと思って、一つ賭けをしたんだ」
「賭け?」
「お前がその録画に気付いたら、俺がやったことも、抱えてる気持ちも、全部正直に話すって」
 軽蔑してくれて構わないし二度とお前の前に現れないから、一度だけ、起きてるお前に触らせて。出来れば抱かせて欲しいけどそこまでは無理ってなら俺の口でイッてくれるだけでもいい。
 そう続いた声は必死で、本気なのだと思った。二度と会わない、という言葉までも。
 気持ちを整理する時間が欲しい。けれど考えさせてくれと頼んだとしても、結局彼は自分との連絡手段を断ってしまうだろう。
「わか、った」
 だからそう返す以外の道は選べなかった。

お題箱から <寝てる内にいたずらされて録画されていたのを発見してしまう話>
結局この後、視点の主は友人の過去ごと許して受け入れちゃうと思います。

 
 
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