親父のものだと思ってた

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 ギリギリ2桁年齢になった頃、母親が家から出ていった。それから間もなく、家には親戚のお兄さんが出入りするようになり、今まで母親がやっていたであろう家のことをしてくれるようになった。
 お兄さんはとても料理が上手かったので、母が居なくなった寂しさよりも、毎日おいしいご飯が食べれるようになった嬉しさのが勝ったらしい。辛すぎる記憶は忘れてしまうこともあるというが、どれだけ記憶を探ってもお兄さんのご飯に喜ぶ姿しか思い出せないし、自分の性格から言っても、両親の離婚を子供心に歓迎していたとしか思えない。
 思春期を迎えた頃には、両親の離婚とその直後から出入りするようになった親戚の男、という時系列から色々察してしまったけれど、家の中でいちゃつかれたことはないし、下手に騒いで二人が別れでもしたら自分の生活がどうなるか、という想像が簡単についてしまう程度には育っていたので、二人には気づいたことすら知らせなかった。
 ただ最近、どうやら父親が浮気をしているらしい。
 とりあえず証拠を掴んでやろうと嗅ぎ回っていたら、なぜか父親本人ではなく、お兄さんの方に気づかれてしまって焦ったけれど、隠しきれずに親父に女の影がと漏らしてしまえば、既に彼には紹介済みと教えられて驚いた。というか意味がわからない。
「え、え、なんで?」
「なんで、って、まぁ、再婚するなら俺は用済みになるわけだし、俺もいきなりもう来なくていいよとか言われたらちょっと困るし、そのへんのタイミングどうするか、みたいな相談だけど」
 お前が就職して家出ていくくらいのタイミングで再婚するんじゃないか、と続いた言葉に、ますます頭の中が混乱する。就職はまだ数年先の話だけれど、父親と就職後の話なんてしたことがない。
 出ていかなかったらどうする気だ。
 いや再婚なんて話が現実になったら、家になんて居づらくって出ていくことになるとは思うけれど。彼の居なくなった家になんて、なんの未練もないのだから。
「初耳なんだけど。てか俺のことよりそっちの話。そんなあっさり用済みって、そんな扱いされて悔しいとか腹立たしいとかないわけ!?」
 なんでそんな平然としてられるのか。二人がいちゃいちゃしてる姿を見たことがないので、イマイチ二人の親密さに実感がわからないながらも、普段の様子にはなんの変化もないから、自分の目が届かないところではそれなりに仲良くやってんだろうと思っていたのに。
 まさかとっくに冷え切った関係になっていたのだろうか。
「むしろ感謝しかないなぁ。人間関係失敗してニートやってた俺に、長いことぬるま湯みたいな環境でリハビリさせてくれてたわけだし」
「は? リハビリ?」
「そうだよ。お前が俺に懐いて、俺の作る飯を美味しい美味しいって食べてくれて、居なくなった母親代わりだとしても俺を必要としてくれたのと、後は純粋にお金だよね。時給換算したら、それなりの額は貰ってたよ」
 そういやあんまりこういう話ってしたことなかったな、と言ってはにかんだ相手は、やっぱり未だにちょっと後ろめたいんだよねと続けた。ニートを拾ってもらった、だとか、やってるのは半端でしかない主婦業、という負い目やらがあるらしい。
「知らなかった……てか、てっきり……」
「俺と親父さんが付き合ってるとか思ってた?」
「うっ……だ、って……」
「まぁ、実際、そういう噂がたったことはあるよね」
「ま、じで……」
「そりゃ母親でてった家に男が頻繁に出入りして家事してたら、ねぇ」
「で、その噂、どうなったわけ?」
 どうやら事実無根とこちらの事情を知らせて、名誉毀損で訴えることも視野に入れた話し合い、というのをしたらしい。
 知らなかった。
 というか自分に余計な情報が入ってこなかったのは、ご近所には突付くと裁判ちらつかせてくるぞ的な認識が広がっていて、皆が口をつぐんでいたというのも大きいのかも知れない。なんてことを、彼の話を聞きながら思ってしまった。
「それで、親父が再婚したら、そっちはどうする予定なの?」
「数年は猶予があるから、一応、俺でも馴染めそうな仕事を探すつもりで動いてるよ」
 また人間関係で躓いたらっていう不安はあるけど、それも以前ほどではなくなってきたから、多分きっと大丈夫、らしい。上手く行って欲しいのに、また躓いちゃえばいいのにと思う気持ちも、無視できない程度には存在している。
「その、俺が就職したら、今度は俺が雇うとかってのは、あり?」
 相手が口を開く前に、親父ほどには払えないから短時間でも週1とかでもいいからと食い気味に告げれば、相手は少しおかしそうに目を細めながら口元を隠している。
「だめ?」
「だめ、じゃないけど」
「じゃないけど?」
「理由がないな、って」
「理由?」
「もしまた付き合ってるって噂が立っても、今度は否定できるような正当な理由、ないなぁって。昔の噂知ってる人からは、どう見られるんだろ」
 息子に乗り換え、とか思われそう。なんて言いながらも、別に困った顔はしていない。それどころか、やっぱりどこか楽しそうだ。
「噂じゃなくて、事実にしてよ」
 その楽しげな顔に背を押されるみたいにして、俺と付き合ってと言ってみた。ずっと彼は父親のものだと思っていたけれど、そうじゃないなら、自分が手を伸ばしたっていいはずだ。

続きました→

 
 
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ホラー鑑賞会

 カーテンの隙間から覗く空は青々としていて、意識して耳を澄ませばいくつもの蝉の鳴き声が聞き取れる。きっと外は今日もくそ暑い。
 しかしカーテンを締め切り冷房を強めにきかせた部屋の中は、薄暗くて少し肌寒かった。
 目の前のテレビに映し出されている映像もこの部屋以上に薄暗く、相応におどろおどろしい不気味な音を発していたから、余計に寒く感じるんだろう。
「ひえっ」
 画面の中で血しぶきが飛び、隣の男が身を竦める気配と、いささか情けない声音が漏れてくる。もっと盛大に怖がってくれていいのに、鑑賞会に付き合わせすぎて耐性ができつつあるようだ。残念。
 やがてエンドロールが流れ出し、隣からはあからさまにホッと安堵のため息が盛れた。
「思ったよりエグかったな」
「え、マジすか。どこがですか。全然平気そうに見えましたけど?」
「流血量と誘い出す手口のアホらしさが?」
「流血量はわかりますけど、手口のアホらしさって……」
「あれでノコノコ出向いてまんまと餌食、って辺りがエグいだろ。あんなやつを信じ切って可哀想に」
「先輩がそれ言います?」
「お前はノコノコ付いてきてまんまと食われるタイプだもんな」
「別に後悔はしてないっすけどね」
 興奮しました? と聞かれて、した、と返せば、相変わらず変態ですねと笑われる。
 ホラーを見てるとムラムラする、と教えたことがあるのに、暇だから遊びに行っていいすかだとか、せっかくだから一緒に何か見ましょうだとか、夏だしオススメのホラーありますか、だとか。誘われてるのかと思っても仕方がないと思う。
 まぁ、ホラーでムラムラする、なんて話を全く信じていなかっただけらしいけれど。ホラー好きなことだけはちゃんと伝わっていて、あの発言も一種のネタなんだと思ってたらしいけれど。
 あとまぁ、男もありだなんて思わない、という点に関しては確かにそうだ。あの日より前に、ゲイ寄りのバイだと教えたことはなかった。
 近づいてくる顔に目を閉じて、初っ端から舌を突っ込んでくるようなキスを受け止める。こちらは既に興奮済みなので、さっさとお前もその気になれと、口の中を好き勝手させながらも伸ばした手で相手の股間を撫で擦った。
 初回は勃たせるのにも一苦労だったが、ホラーに耐性ができてきたの同様、鑑賞後のこうした行為にも耐性が出来たのか、あっという間に手の中で相手のペニスが育っていく。
 充分に硬くなった辺りでキスが中断されたのでベッドへと誘った。短な距離を移動しながら互いに服を脱ぎ捨てて、ベッドの上になだれ込めば後はもう、突っ込まれて中を擦られて腹の中に燻る熱を吐き出すだけだった。後ろの準備は彼が来る前に終えていた。
 慣れたもので、こちらが差し出す前に引き出しを開けてゴムを取りだし装着し、こちらが乗らなくても、ペニスに手を添えて導かなくても、気持ちの良いところをグイグイと擦り上げながら入ってきて、容赦なくこちらの弱いところを突きまくって追い詰めてくれる。どんなセックスが好みかなんて、とっくに全部把握されている。
 昨年の夏から一年がかりで、何度も繰り返してきた成果だった。
「っっ……、はぁ……」
「んんっっ」
 射精を終えたペニスがズルリと抜け出ていくのを惜しむように、尻穴が未練がましく収縮している。
 もう少し留まってくれてもいいのにと思っても、それを口に出したことはない。別に恋人でもなんでもないからだ。これ以上を望むつもりはなかった。
「なんか飲み物貰っていいすか?」
「ああ」
 ハッスルしすぎて喉がカラカラだと訴える相手の機嫌はいい。
 射精後にスッキリした顔をしているのは当然で、こっちだって充分に気持ちよくして貰ったし、こんな変態に機嫌よく付き合い続けてくれるのだから、同じようにスッキリさっぱりした顔で感謝の一言でも言えればいいのに。
「どうしました?」
 麦茶のペットボトル片手に戻ってきた相手が、ベッドの端に腰掛けながら問いかけてくる。
「疲れちゃいました?」
「ああ、まぁ」
「夏休みで連日こんなことやってりゃ、そりゃそっか」
 ただれてますねとヘヘッと笑う。それに連日付き合ってるお前はどうなんだと思ったが、言葉にはしなかった。
 無言のまま、相手の手の中にある、中身が半分ほど減ったペットボトルに手を伸ばす。
「おいっ」
 手が届く前にサッと避けられ、指先が空振って相手の腿に落ちた。それを押さえつけるように、相手の手が重なってくる。
「おい?」
「まぁまぁまぁ」
 何がまぁまぁまぁだ。そう思いながらにらみつける先、これみよがしにペットボトルの中身を口に含んだ相手が、頬を膨らませた顔を寄せてくる。
 え、と思っている間に唇が塞がれ、隙間からお茶が流し込まれた。ただ、突然そんなことをされてもうまく飲み込めず、結果酷くむせてしまった。
「わわっ、すみません」
「お、おまっ、何、してっ」
「いやだって、疲れた顔した先輩、妙に色っぽいんですもん」
 でももう一回とか言って困らせたくないし、恋人は大事にしたいじゃないですか。などと続いた言葉に呆気にとられる。
 せいぜいセフレ、のつもりでいたが、どうやら自分たちは恋人だったらしい。

有坂レイへの3つの恋のお題:熱におかされて吐きだしたもの/伸ばした指先は空気を掠めて/薄暗い部屋で二人きりhttps://shindanmaker.com/125562

 
 
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離婚済みとか聞いてない

 相手の惚気話の合間に昔話やらこちらの近況やらをちょろちょろと挟みながら、かつて親友だった男と、楽しく酒を飲んでいたはずだった。
 この惚気っぷりからすると、相手は今でも自分を親友と思っているのかも知れないが、互いの住まいが遠く離れている上に嫁も娘も居る彼と未だ独身の自分とではもう、生きる世界が違ってしまって昔のような気安さも信頼もとっくに消え去っている。
 それでも確かに互いに親友と認めあっていた時期はあり、昔話には懐かしさを、惚気話には僅かな胸の痛みを伴いつつも安堵を得ていた。
 幸せそうで良かった。そう本気で思える程度には、彼に対して抱いていた想いは過去のものに成り果てている。
 だから少し気が緩んだのだろう。
 気持ちよく酒に酔って、お前が幸せそうで良かったと零したついでに、俺なんかと付き合わなくて正解だったろと言葉を重ねてしまった。
「俺をふったのはお前だろ」
「そうだな」
「お前も絶対、俺を好きだと思ってたのに」
「まぁ、たしかに好きではあった」
「恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で」
 にやっと笑った顔が悪戯めいていたから、軽い気持ちで同意してしまったが、その言葉を聞いた途端に相手の顔から笑顔が消えた。
「昔の話だ」
 焦る気持ちを必死で飲み込んで極力そっけなく言い放てば、そうだなと返る声も酷くそっけない。
 どうやらかなり気分を概してしまったようで、こっそりとため息を吐き出した。
 これはもう、彼の中でも親友の自分は終わりを告げた可能性が高い。それどころか、友人ですらなくなっただろうか。
 こんなふうに彼と二人で酒を飲む機会は、今日が最後かも知れない。
 まぁでもいっか、と思う。なんせ既に何度も、これで最後だろう日を繰り返してきた。結婚した時に、娘が生まれた時に、遠方への転勤が決まった時に、彼と二人で酒を飲み交わす時間など今後持てないのだろうなと思ったものだった。
「そろそろ出るか」
 疑問符は付けずにほぼ一方的にお開きを告げても、引き止める声はない。


 店を出て、駅までの短な距離を黙って歩き出そうとしたところで、唐突に腕を掴まれた。だけでなく、相手はそのままこちらの腕を引いて、駅とは反対方向へと歩き始めるから驚く。
「おいっ、どこに行く気だ?」
「うるせぇ黙って付いてこい」
 随分と機嫌の悪そうな声で返され、諦めのため息を吐き出した。彼の手が触れている腕は痛みを覚える程度に掴まれていて、これを振り切って逃げ出せるとはとても思えないし、彼をなだめる言葉も持ち合わせていない。
 過去のことだと繰り返せば、余計に激昂させるだけだろう。
 やがて辿り着いたのはいわゆるラブホの入り口だった。
「いやちょっとお前さすがに……」
「騒ぐな。静かについて来い」
「痛っ、わかった。わかったからはなせって」
 更に強く握り込まれた腕の痛みに短な悲鳴をあげて開放を促したけれど、多少力が緩みはしたものの、手を放しては貰えなかった。
 隠すことをしない何度目かのため息はやはり今回も完全にスルーされて、一切の躊躇いがない相手に引きずられるまま、あっという間に空き部屋の一つにチェックインが済んでしまう。
 惚れ惚れする強引さと手際の良さではあるが、初っ端から苦い後悔しかない。既婚のパパが何をやっているんだ、という相手への怒りだってもちろんある。
 あんなに惚気けていたくせに。幸せそうで良かったと、本気で思っていたのに。
「お前にはガッカリなんだけど。てかお前と今更どうこうなる気なんてないからな」
「お前になくても俺にはある」
「最低だな」
 嫁も娘も居るくせにと詰れば、おもむろに左手薬指に嵌った指輪を抜き取ったかと思うと、無造作にその場に落としてしまう。
「おまっ……」
 こんなに酷い真似を平然とこなすような男だったろうか。
「離婚はとっくに成立してる」
 信じられない思いで床に落ちた指輪を見つめていれば、淡々とした声がそんな言葉を伝えてくるから、慌てて顔を上げた。
「は?」
「お前が、あの時お前も俺に恋愛感情持ってたなんて言わなきゃ、ずっと言わないつもりだった。本当は今でもお前に未練タラタラで、わずかな機会を狙って飲みに誘ってるなんて知られたら、お前、ぜったい俺を避けるだろ」
 頼むからチャンスをくれ、と言った相手の声も顔も真剣で、過去のものに成り果てたはずの想いが、胸の奥で疼きだすのがわかる。
 共通の友人知人がそれなりにいるのだから、こいつが言わないつもりだったって離婚話なんて自然と耳に入ってきそうなものなのに。そう思うと、離婚話が本当かどうかだって怪しい。
 でも、無造作に指輪を放ったあの仕草から、彼の言葉を信じてしまいたい気持ちは強かった。
 揺れるこちらの気持ちを見透かすように近づいてくる相手から、逃げ出すことが出来ない。窺うようにゆるりと近づいてくる顔に、観念して瞼を落とした。

 
 
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初恋はきっと終わらない

 早朝、学校へ行く前に飼い犬を連れて散歩へ行く。時間に余裕があるわけじゃないから、毎日決まったコースを歩くのだけれど、そうすると、同じように早朝出歩いている人たちと度々すれ違う。何度も同じような場所ですれ違っていれば互いに顔くらいは覚えてしまうもので、通りすがりに黙礼し合ったり、中にはおはようと声を掛けてくる人まで居た。
 そんな日々の中、どうにも気になる男が出来た。
 その男は走っている人で、いつも向かい側からやってきてすれ違う。言葉をかわしたことはないが、こちらに気づくと少し嬉しそうに微笑むのが丸わかりで、それがなんとも印象的だった。
 既にそれなりの距離を走ったあとなのか、そこそこ息も乱れているし汗もすごいのに随分と余裕があるな。というのが初期の印象で、でも、だんだんとその優しげな笑みが気になるようになってしまった。
 といっても、彼の視線の先にいるのは間違いなく自分の連れた犬で、その微笑みが自分に向けられたものでないことはわかっている。わかっているのに、なんだか無性にドキドキするから困ってしまう。なのに、雨が降ったりで散歩に出られない朝は酷く残念に思ってしまうのだ。
 1分にも満たないその時間を、毎日心待ちにしていることを、嫌でも自覚するしかなかった。
 顔しか知らないその男に、どうやら恋をしているらしい。
 女の子にいまいち興味が持てなくて、自分の性指向やらに疑問を持っていた時期だったのもあって、その結論は、ストンと胸の中に落ち着いた想いだった。ただ、それがわかったところで、その恋をどうこうしようなんて気持ちは全く無かったし、相変わらずただすれ違うだけの日々を送っている。
 黙礼されれば黙礼を返し、おはようと言われればおはようございますと返しはしても、自分から積極的に声をかけていくタイプではないし、こんな朝が少しでも長く続けばいいなと願うくらいしかしていない。
 まぁ願ったところでそんな日々の終わりははっきりと見えていて、大学に入学して実家を出れば、毎朝の散歩は出来なくなってしまう。
 初恋かもしれないこの想いは、高校卒業と同時にひっそりと終わるのだ。


(ここから視点が変わります)
 日課の早朝ランニングで出会う、犬を連れた男の子と最近会わなくなってしまった。最初の数日は風邪でも引いたかと心配したが、すぐに、春だからだと思い至った。
 間違いなく学生だったから、進学か就職かでこの地を離れたんだろう。
 心配はなくなったが、今度はひどく落胆した。あの微笑ましい光景をもう見れないのだと思うと、朝走るモチベーションがかなり下がってしまった。
 ランニング中、ほぼ同じ場所ですれ違うその子を認識するのは早かったと思う。そこそこの大きさがある雑種らしい犬は愛嬌のある顔をしていたし、その犬に向かってあれこれ語りかけながら歩く姿が珍しかったからだ。
 飼い犬相手になにやら楽しげに話をしながら歩いていた彼は、通りすがりについつい聞き耳を立ててしまう自分に気づいてか、いつからか通り過ぎる前後にキュッと口を結ぶようになってしまった。でも少し恥ずかしそうに、こちらが通り過ぎるのを待っている姿も、それはそれで印象に残るのだ。
 こころなしかこちらの姿が見えると相手の歩調が緩む気さえしていて、相手が男の子で良かったと思ったこともある。女の子だったらもしかして俺に気があるのでは、なんて誤解が生じそうな可愛さがあったからだ。
 それらを微笑ましい光景として記憶している辺り、男の子で良かった、とは言い切れない気もするが。
 ただもう今更でしかない。互いに顔しか知らず、名前も住んでいる場所もわからないのだから、二度と会うこともないんだろう。
 そう思っていたのに、朝走るのを止めて夜走るようになったら、彼の犬とだけはあっさり再会してしまった。
 大きさや愛嬌のある顔から間違いなくあの犬だとわかって、思わず「あっ」と声を上げて足を止めてしまえば、その犬を連れていた女性に相当訝しがられてしまったけれど、しどろもどろに以前早朝によく見かけていたという話をすれば、あっさりあの彼が息子だということや大学進学で地元を離れたことを教えてくれた。
 彼の母親は彼ほど決まった時間に決まったコースで散歩しているわけではないようで、たまにしか会うことがなかったが、会えば挨拶を交わす程度の関係になった。
 その彼女から、彼が夏休みで戻ってくるから暫くはまた犬の散歩は彼の役割になる、と聞かされたのが10日ほど前だ。だが、早朝にもどしたランニングで、以前と同じように彼と出会うことはない。彼はもう戻ってきているはずなのに。
 期待した結果とならず、気落ちして朝のランニングをサボった代わりに走りに出た土曜の夕暮れ、いつも彼とすれ違っていた場所にある小さな公園から話し声が聞こえてなんとなくそちらへ顔を向けた。
「いたっ!」
 思った以上の大きな声が出て、相手がビクリと肩を跳ねたのがわかる。驚かせてしまったらしい。でもそんなのは気にしていられず、逸る気持ちのまま彼へ向かっていく。
 名前や連絡先やらを聞いたら驚かれるかも知れないが、この機会を逃す気はなかった。

夏休みの男の子は、母が彼と会って時々話してるというのを聞いて、夜散歩なら自分も相手と話せるかもという期待から、母が会ってた時間帯に散歩してました。

 
 
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これを最後とするべきかどうか

* 別れの話です

 元々ねちっこいセックスをする相手ではあったけれど、今日はいつにも増して執拗で、前戯だけで既に2度ほど射精させられている。なのに未だ相手はアナルに埋めた指を抜こうとはせず、器用な指先で前立腺を中心に弱い場所を捏ね続けるから、早く挿れて欲しいとねだった。
「ね、も、欲しっ、お、おちんちんがいぃ、や、も、ゆびだけ、やぁ」
「指だけでも充分気持ちよくなれてるくせに」
 羞恥に身を焼きながら口にすれば、相手は満足げに口角を持ち上げたけれど、まだ挿入する気はないらしい。恥ずかしいセリフでねだらせたいのだと思っていたのに。
「もう2回もだしてるのにな」
 片手が腹の上に伸びて、そこに散って溜まった先走りやら精子やらを、肌に塗り込むみたいに手の平でかき混ぜる。ついでのように腹を押し込まれながら、中からぐっと前立腺を持ち上げられる刺激に、たまらずまた、ピュッとペニスの先端から何かしらの液体が溢れたのがわかって恥ずかしい。
「ぅあぁ」
「ほら、気持ちいい」
 クスクスと笑いながら、新たにこぼれたものも腹の上に伸ばされた。労るみたいな優しい撫で方だけど、一切気が抜けないどころか、また腹を押されるのではと不安で仕方がない。
「怯えてんの?」
 こちらの不安に気づいたらしい相手は、やはりどこか楽しげに口元に笑みを浮かべている。にやにやと、口元だけで笑っている。
 何かが変だ、と思った。しつこく責められることも、焦らされるのも、意地悪な物言いも、経験がある。でもいつもはもっとちゃんと楽しそうなのに。
 そういうプレイが好きってことも、そういうプレイを許すこちらへの好意も伝わってくるし、だから一緒に楽しめていた。
「ど、したの?」
「どうしたって?」
 思わず問いかけてしまえば、相手は全く疑問に思ってなさそうな顔と声音で問い返してくる。いつもと違うという自覚が、本人にもあるらしい。
「なんか、へん、だよ」
「そうか?」
 答えてくれる気がないことはすぐにわかった。腹の上に置かれたままだった手が、するっと降りて半勃ちのペニスを握ったからだ。
「やだやだやだぁ、な、なんでぇ、またイク、それ、またイッちゃうからぁ」
「イケよ。もう何も出ないってくらい搾りきったら抱いてやる」
「な、なに、それぇ……」
「わかるだろ。言葉通りだ」
「む、むり、やぁ、やだぁ、あ、あっ、だめ、あ、いくっ、いっちゃう」
「イケって」
 射精を促すように強く扱かれながら、アナルに埋めた指を素早く何度も前後されれば、あっという間に昇りつめる。
「でるっ、んんっっ」
 ギュッと目を閉じて快感の波をやりすごす間は、さすがに手を緩めてくれたけれど、それでも動きを止めてくれているわけじゃない。特にお尻の方は、お腹の中の蠢動を楽しむみたいに、ゆるゆると腸壁を擦っている。
「はぁ、っはぁ、も、やめっ」
 軽く息を整えてからどうにか絞りだした声に、相手が薄く笑うのがわかった。


 暴力でしかないような酷いセックスだった。言葉通り何も出なくなってから体を繋げて、泣きながら空イキを繰り返す羽目になって、いつの間にか意識が落ちて、目が冷めたら一人だった。
 テーブルの上には別れと今までの感謝とを伝える短なメッセージが残されていて、ああ、本当に終わりなのだと改めて思う。
 最後の方の記憶は少し曖昧だけれど、泣いて謝られたことは覚えている。相手の泣き顔なんて初めて見たから、あまりの衝撃に曖昧な記憶の中でもそれだけはかなり鮮明だ。
「くそっ」
 いろいろな憤りを小さく吐き出して、寝乱れた髪をさらに掻き毟ってボザボサにしてやる。
 追いかけたい気持ちと、このまま手を切るべきだと思う気持ちと。この仕打を許さないと思う気持ちと、許して相手の存在ごと忘れてやりたい気持ちと。
 どうしたいのか、どうするべきか、まずはじっくり考えなければと思った。

受けが追いかけちゃう続きはこちら→

有坂レイへの今夜のお題は『嘘のつけない涙 / 体液まみれ / 恥ずかしい台詞』です。https://shindanmaker.com/464476

 
 
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オメガバースごっこ(目次)

キャラ名ありません。全17話。
ここがオメガバースの世界ならの続編です。
・双方が両想いに気づくこと
・ヒート(発情期)
・巣作り
以上3つのネタを消化したかっただけのオマケ小話の予定でしたが、気づけば本編とほぼ同じ長さに。

高校を卒業し、同じ大学に進学すると同時に同棲開始しました。
体を繋げる関係に進展してますが、性的な描写を入れるとダラダラと長くなるのがわかりきっているので、R18描写はありません。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
視点が途中で何度か交代しているので、タイトル横に(受)(攻)を記載しています。

1 姉からの電話(攻)
2 姉の心配事(攻)
3 呆れ返ったメッセージ(受)
4 こじれてしまう前に(受)
5 クリスマスお家デート(受)
6 受験前に抱いて欲しい(受)
7 発情期っぽい体(受)
8 応じたいけど応じたくない(攻)
9 番の発情期(攻)
10 同棲してるはずなのに(受)
11 予定変更の帰宅(攻)
12 ヒートが来てる ” 設定 ”(攻)
13 番として今やるべきこと(攻)
14 巣作りに気づかれてた(受)
15 ぶっちゃけ話(受)
16 巣作り理由(受)
17 これから先のが断然長い(受)

 
 
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