親友の兄貴がヤバイシリーズのオマケ話。弟視点。
受験生だってクリスマスは楽しみたい!
というわけで、25日の夕方から既に引退済みの元部活仲間たちと揃ってカラオケに行った。去年も一昨年もイブに騒いだのに、今年だけイブでなくクリスマス当日になったのは、メンバーの一人が最近できた恋人とのデートで参加できないとか言いやがったからだ。
もちろんそのメンバーと言うのは親友で、最近できた恋人というのは自分の兄なわけだが、さすがにその事実を周りは知らない。彼らが知っているのは、相手が五つ上の社会人であることと、親友が中学時代から一途に想い続けていた相手をようやく落としたという事くらいだった。
二人が恋人となるまでにかなり協力したのも事実だし、二人の事を応援する気持ちも、生ぬるく見守る気持ちもある。ただ内情を知りすぎていて、周りのテンションとはイマイチ馴染めていなかった。
クリスマスイブにお泊りデートをすると漏らした親友に、周りが「年上のエッチなお姉さんにあれこれ手解きされつつ童貞卒業」というイメージを持つのはまぁわかる。実際、兄が抱かれる側になるらしい。でもとうの昔に童貞を捨てている兄が男に抱かれるなんて人生を想定していなかったことも知っているし、自宅で受験勉強をしようと言って親友を招いた時には兄の方から色々ちょっかいを出していたのも知っている。
ものすごく正直に言えば、クリスマス当日の夕方、童貞卒業ではなく処女喪失した親友と対面する羽目になる可能性も考えていた。後はやっぱ無理と兄が逃げてお預けを食らわされた可能性。
だからカラオケなのに誰も曲を入れずに、さあ洗い浚い昨夜の詳細を吐けと言わんばかりに親友を質問攻めする周りと、困った様子の親友をハラハラしながら見守るだけだった。
まぁそれは杞憂に終わったというか、親友は無事に童貞を卒業していたし、相当良い思いをしてきたらしい。
相手が男だとわかるような事を一切漏らさない程度には理性が働いているくせに、問い詰められるままあれこれ口を滑らす親友は、明らかに相当浮かれていた。
いわく、ヤバイくらいに可愛かったらしい。
え、相手、あの兄ですよね?
親友の語る昨夜の恋人はいったい誰それ状態だった。
語れない部分を隠すためにあれこれ盛ってる可能性もあるにはあるが、親友の性格的に話を盛ることはないだろうって気もする。多分きっと、兄の男らしい部分やらを省くと可愛いが前面に出るしかなくなるんだろうと思った。
まぁ弟の目から見ても乗せやすくチョロい人ではあるから、それを可愛いと思えないこともない。かもしれないけれど。
でも聞けば聞くほど、なんだか兄の話を聞いている気がしなくて、結局気付けば自分も、ガッツリ話の輪に加わっていた。
もちろん親友の初体験話だけで終始したわけではなく、それぞれの恋やら受験やら引退した後の部のことなんかも話したし、途中からはせっかくカラオケなんだからと歌だって歌った。
そんな数時間を終えての帰路、一人になった後でコンビニに寄ってあれこれカゴに突っ込んだついでに、赤飯のおにぎりも一つカゴに入れる。
会計を済ませた後は家まで残り数分の距離を、親友と電話しながら歩いた。一応の確認ってやつだ。
「なぁ、お前、本当に兄さん抱いたんだよね?」
周りに人気がないのをいいことにド直球な問いかけをすれば、電話の向こうで親友がおかしそうに笑う気配がした。
『嘘は一切言ってない』
「うん。でもなんか、お前が話してた相手が兄さんって気がしなかったというか、お前、本当は兄さんと別れてて、昨日は俺の知らない別の誰かとお泊りデートだったんじゃないかとかさ」
さっき感じたことを正直に告げれば、益々おかしそうに笑った後で、大成功だなという声が耳に届く。
「大成功って?」
『弟のお前が混乱するくらい、俺の相手があの人だってわからないように話せてたって事』
学区が同じという狭い範囲内に互いの家があるせいか、親友は兄との交際を他人に知られるのを相当警戒しているから、それで敢えてあんな話を聞かせたのかもしれない。
自分が兄の話をちょくちょく会話に出すせいもあるが、今日いたメンバー全員が兄を間接的に知っている。直接兄と会ったことがある奴だって居る。けれど親友のあの話を聞いて、相手が兄だなんて思いようがないだろう。
「でも嘘は言ってないんだろ?」
『言ってない。本当にヤバイ可愛さだった』
「それ、お前の目とか脳みそがヤバイって話じゃなくて?」
『それは否定できないな』
「だよね。俺のことは可愛いってよりあざといだけとか言うくせに、あの兄さんがめちゃ可愛とか、どう考えてもお前の目がオカシイもん」
『それでいい。あの人の可愛さを俺だけが見れるってなら、むしろ最高だろ?』
どこまで本気で言ってんのかは、声だけではさすがにわかりにくい。でもきっと本気だ。
「うへぇ」
そう思ったら口から呆れ混じりの声が溢れていた。親友はまた、今度は楽しげに笑っている。
本当に今日はどこまでも機嫌がいい。そして親友をそうさせているのは、間違いなく兄だった。
そうこうしているうちに自宅前に着いてしまったので、それを告げて電話を切る。一度リビングに顔を出して帰宅を告げてから、自分の部屋ではなく兄の部屋のドアを叩いた。
返事がないのでもう一度、今度は強めに叩いた後、暫く待って勝手にドアを開ける。部屋の中は明るかったが、ベッドの上の兄はどうやらすっかり寝入っているようだ。しかも寝るつもりはなかったのか、布団の中には入っていない。
仰向けに転がる兄の腕の中には、親友と一緒に選んだクリスマスプレゼントが抱えられていたうえに、随分と穏やかで幸せそうな寝顔を晒していたから、思わず携帯カメラを起動して写真を撮った。
すぐさま、確かに可愛くないこともないという文面を添えて、その写真は親友へ送ってやる。そうしてから、兄の肩に手を置いて軽く揺すった。
「兄さん、このまま寝たら風邪引くよ?」
「んぅ……」
声を掛ければ、小さく唸った後でゆっくりと目が開いていく。ぼんやりしたまま数度瞬いて、状況を把握したらしき後はお返りと言いながら身を起こす。
「ただいま。これ、俺からのお祝いね」
言いながら、手にしたコンビニ袋から取り出したおにぎりを差し出した。
「え、なんで?」
兄弟間でクリスマスにプレゼントを交換する習慣はない。しかも差し出されているのはおにぎりだ。兄は意味がわからないと言いたげな顔をしておにぎりを見つめるばかりで、手を伸ばしてくることはなかった。
「いやほら、無事に処女散らされたって聞いたから、やっぱ赤飯かなって思って?」
「は?」
「三回もイカされた上に最後顔射されたってマジ?」
「ちょっ、え、嘘だろ」
あまりの慌てっぷりに、やっぱ本当に一切盛ってないんだなと思う。まぁわかってましたけど。
「色々聞いちゃったー」
「またかよ。何度も思ってることだけど、筒抜けにもほどがあるだろ。あ、ちょっと待って。お前ら今日、部活仲間とのクリスマス会って……」
「うん。皆であいつの初体験、根掘り葉掘り聞きまくった」
ふひひと笑えば、ものすごく嫌そうに眉を寄せる。気持はよく分かる。
「それお前、一緒になって聞いてたの? 相手俺って知ってて? 信じらんないんだけど。お前、止めろよ。つうかあいつも話すなよ」
「誰それってくらい、兄さんの話じゃなかったから大丈夫」
「意味わかんないんだけど」
「あいつの相手が兄さんだって、誰も気づけないくらい、知ってる俺すら疑うくらい、兄さんのイメージとは全く重ならない話聞かされたんだよね。でも嘘は言ってないってのも本当っぽいから、不思議だよねぇ」
それとも本当にあいつの前だとめちゃくちゃ可愛くなっちゃうの? と、小首を傾げながら聞いてみたら、嫌そうな顔のまま、それはきっとあいつの目と頭がちょっとオカシイせいと返ってきたから笑うしかない。
「ホントそれ」
肯定したら、ホッとしたようにだよなと返されるから、あ、ちょっと失敗したと思う。だって親友は本気でこの兄をめちゃくちゃ可愛いって、そう思っていることに違いはないんだから。それを目とか頭がオカシイせいって、兄本人が思っているのはマズイ気がする。
「でもプレゼント抱きしめて嬉しそうに寝てる兄さんは、確かにちょっと可愛かったかも」
「そういうの要らないから。てかこれ、お前も一緒に選んでくれたんだろ? ありがとうな。嬉しい」
「気に入ってくれたなら良かった。ってそうじゃなくて!」
急に声を荒げたせいで兄は一瞬驚いた顔を見せたが、こんな自分の反応には慣れても居るから、次には苦笑でどうしたと聞いてくる。
「あいつの目とか脳みそがちょっとおかしいせいで兄さんが可愛く見えるんだとしても、あいつはむしろそれが最高だってさ」
「なんでだよ」
「兄さんの可愛さを見れるのがあいつだけだから?」
「どんな顔でそれ言ってんだか」
「それ聞いたの電話越しだったから顔はわかんないけど、声は真剣だったよ。多分本気で言ってる」
言えば参ったと言いたげに小さなため息を一つ。
「で、お前はそれ聞いて大丈夫だったのか?」
「え、何で俺?」
「あいつ、お前が恋愛の意味であいつ好きって、わかってないだろ。お前があの時とっさに自分と付き合えばいいって言ったのも、あいつの失恋を慰めるために思わず言っただけって思ってるよな。可愛さで言ったら俺よりお前のが断然可愛いのに、俺を可愛いって言いまくるの聞いて辛くない?」
「いや別に。というかその程度で辛くなるなら、二人の応援なんてしないって。俺があいつを好きってことは気にしないでいいからさ」
学内女子からの告白を、好きな人が居るからと頑なに素気無く断り続けた親友を見てきたからか、想いに気づいた最初からほぼ諦めの付いている気持ちだ。それに信頼のおける親友という立ち位置は心地良い。下手に気持ちを知られて今の関係が崩れるほうがよっぽど困る。
「いやどうしたって多少は気になるだろ。お前、あいつ来ると俺に見せつけるみたいにイチャつくし」
「あ、わざとってわかってた?」
「わかるに決まってんだろ」
「その結果、俺に煽られた兄さんが、さっさとあいつを物にしようと抱かれるの頑張っちゃったってなら、俺はあいつに感謝されるべきだと思うんだけど真相は?」
「ノーコメントで」
「それってほぼ肯定じゃん」
そんな中、携帯が震えて親友からお返しとばかりに一枚の写真が届く。
「あのさ、ちょっと前言撤回していいかな」
「なんの前言だよ」
「あいつの目とか脳みそがオカシイから、兄さんが可愛く見えるって話」
確かにあんためちゃくちゃ可愛いわと、送られてきた写真を突きつけてやれば、兄の顔が目に見えて赤くなっていく。
写真の中の兄は明らかに事後っぽくて、目は泣いたのか少し赤くなっていて、でも蕩けるみたいに幸せそうに笑っていた。その笑顔には確かにあざとさの欠片もない。
というかカメラの前でこんな顔見せるってどんな状況よ?
なんか凄いもん見ちゃったなと思いながら、真っ赤になってうろたえる兄がさすがに可哀想になって、送られてきた写真は兄の目の前で消去した。それでも動揺しきったままの兄をこれ以上見ていられなくて、逃げ出すようにそそくさと部屋を出る。結局赤飯おにぎりは受け取って貰えず、自分の手の中に握られたままだった。
親友には、送られた写真を兄に見せたら真っ赤になって再起不能ぎみになったんだけどどうしようと返信したのだが、多分その後、親友は兄に電話をかけたんだろう。兄の部屋とは隣同士で、会話内容まではっきり聞き取れはしないものの、壁越しでも兄の話し声が聞こえていた。
ハラハラしながら聞き耳を立てていたが、やがて電話を終えたのか静かになり、次には自分の携帯が親友からのメッセージを受信して震える。ちゃんと許して貰えたから大丈夫という文面に、親友が凄いのか、兄がチョロいのか、きっとその両方だろうなと思いながら、取り敢えずホッとして大きく息を吐いた。
オマケって文字量ではない感じですが、クリスマスだしいいかなと。なんとかクリスマス当日に間に合って良かったです。なお、送られてきた写真は二回目エッチの後に動画撮影されたもの(スクリーンショット)
これで本当に彼らの初エッチ話は終了となります。お付き合いどうもありがとうございました〜
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