夕方のカラオケで振られた君と

 自分がバイトするカラオケは、昼の11時半から19時半までの8時間が昼のフリータイムになっていて、2時間以上歌うのであればそちらが得になる料金設定になっている。
 その男性二人組は開店と同時にやって来て、片方の男が迷うことなくフリータイムで二人分の申し込みをした。
 彼の事は少しだけ知っている。近くの高校に通っている学生らしく、いつもは学校帰りの夕方に友人たちと歌っていく事が多い。
 同じく近くの大学に通い、夕方はだいたいバイトに入っている自分とは、遭遇率も高かった。だいたい4〜6人くらいでやって来るが、受付をするのは決まって彼なので、軽い世間話くらいはする事もある。
 その彼が、いつものメンバーとは全く雰囲気の違う、真面目で大人しそうな男を連れて来店したのが、まず驚きだった。しかも二人利用というのも、自分が知る限り初めてだ。
「学校は春休み?」
 大学はとっくに春休み期間で、だからこそ自分も平日のこんな時間からバイトに入っている。いつもは制服の彼も今日は私服だし、高校もどうやら春休みに入ったようだ。
 わかっていつつも、受付ついでに問いかける。
「あっ、はい」
 緊張と動揺と興奮とが滲む硬い声に、更に感じてしまう違和感。
「どうした?」
「えっ?」
「なんか、らしくないけど」
「あーまぁーちょっと」
 ごにょごにょと言葉を濁され、触れられたくないらしいと深追いはせず、伝票ホルダーにルームナンバーと利用人数と退室時間の記された紙を挟んで渡した。
 恋人だったりして。なんて事を部屋に向かう二人の背中を見送りながら思ってしまったのは、彼のツレに対する態度が明らかにいつもの友人たちに対するものとは違っていたからだ。気を使いつつも馴れ馴れしく、そのくせどこかぎこちない。
 彼らが恋人なら少し残念だなと思ってしまうのは、同性が恋愛対象な自分にとっては、時折訪れる彼が魅力的に映っていたからだ。それとも、彼も同類かもしれないと喜ぶべき場面なのだろうか?
 なんて事をつらつらと考えていたら、そのツレの男が、入店から1時間もしないうちにレジカウンター前にあらわれた。とはいってもこちらに用がある様子ではなく、どうやらそのまま帰るらしい。
「お帰りですか?」
「……はい」
 思わず声をかけてしまえば、彼は気まずそうに会釈して、そそくさと出入り口の扉を通って行ってしまった。
 その直後、彼らが入った部屋からの入電があり、何品ものフードメニューを注文された。ツレは帰ってしまったのに、どう考えても一人で食べる量じゃない。そうは思いながらも、注文が来た以上は次々と料理を作り運んでいく。
 最初に運んだ数品はすごい勢いで食べ尽くされて、次の料理を運ぶ時には空になった前の皿を下げるという調子だったが、さすがに途中からはテーブルの上に料理の皿が並んでいく。
 しかも部屋の空気は訪れるごとに重く沈んでいくようだった。
 ペースは落ちたものの変わらず黙々と料理を食べ続ける彼からは、いつもの明るさも楽しげな様子も一切抜け落ちている。必死に何かを耐えているようにも見えた。
 帰ってしまった彼と喧嘩でもしたのだろうか。しかし何があったかなど聞ける立場にはいない。
「あのっ!」
 注文された最後の料理を運び、部屋を出ようとしたところで呼び止められる。
「他にも何か?」
「いやその……これ、一緒に食べて、貰えないかなって……」
「はっ?」
 思わず漏れてしまった声に、相手はすまなさそうな顔で言葉を続ける。
「振られたからやけ食い。って思って頼んだけど、やっぱ頼みすぎだったから」
 振られたんだ!? と言う驚きと、そりゃこの量を一人で食べるのは無理だと頷く気持ちとが同時に押し寄せて言葉に詰まってしまったら、相手は泣きそうな顔を隠すように俯いて、ごめんなさいと言った。
「仕事中に無理言ってすみません。大丈夫なんで戻って下さい」
 少し震える硬い声に後ろ髪引かれつつも一度退室した後は、手すきの合間にバイト仲間に電話をかけまくった。
 ようやく急な代打を引き受けてくれる相手を見つけて、その相手が到着したのは既に夕刻だったが、幸い彼はまだ退室していない。
 慌てて着替えて向かう先はもちろん彼の居る部屋だ。
「お待たせ」
「えっ?」
「食べに来たよ」
「な、なんで?」
「一緒に食べてって誘ってくれたのそっちでしょ?」
 びっくり顔で目をぱちくりさせる様子はかわいいが、その目元は泣いたのか赤くなっている。
 遠慮なく彼の隣に腰を下ろし、その顔を覗き込むようにグッと顔を寄せた。
「泣いたの?」
 慌ててのけぞろうとするのを阻止するように腕を掴めば、ますます慌てたようだった。
「実は、チャンスだと思ってる」
「ちゃ、…ンス?」
「一緒に来てた男の子に振られたって事は、俺を好きになって貰える可能性、ゼロじゃないよね?」
「それ、って……」
 にっこり笑って頷いて、君が好きだと告げてみた。

有坂レイさんは、「夕方のカラオケ」で登場人物が「振られる」、「春」という単語を使ったお話を考えて下さい。
shindanmaker.com/28927

 
 
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HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

一卵性双子で相互オナニー

 目の前の勃起ちんぽは自分の股間にぶら下がるものと形も大きさもほぼ変わらない。持ち主はお前のより数mmデカイと主張しているが、そんなのその日の体調や興奮具合や測り方で変わってしまう誤差の範囲だろう。
 そっと舌を伸ばして握ったソレの頭ににじむ僅かな雫をなめ取れば、んっと気持ちよさ気な吐息の後、己の股間にも同様の刺激が走った。同じように吐息を漏らしてから、もう一度舌を伸ばす。今度はもっとゆっくりと、張り出すカリの周りを舌先でくるりとなぞってやった。もちろんそれも、数テンポ遅れで同じように舌先を這わされる。
 ベッドに転がり互いに相手の股間に顔を埋めるようなこの状況では相手の顔は見えないが、にやにや笑う相手の顔が浮かんでしまってまったく意地が悪いと思う。
 今までは自分のほうが、相手を追うようになるべく同じことをやり返していたのだが、相手はどうやらその事実に最近気付いたようだった。
 所詮これはオナニーで、自分がされたいことを相手にしている。という前提から、相手がそうされたいのだと思ってそうしていた。
 理由を聞かれてそう答えたら、相手は少し嫌そうな顔で不公平だと言った。なんでもっと早く言わないんだと怒られて、今日は始める前に、相手が後を追うから自分がされたいことをしろと告げられてからスタートした。
 正直面倒くさい。
 嫌そうな顔も、怒ったのも、別にこちらを想っての言葉ではないのだ。今回の提案はこちらももっと積極的になれというワガママに近い。
 確かにきっかけを作ったのも行為に積極的なのも彼の方だ。一卵性の双子なのだから、互いのを扱きあうのもオナニーと一緒だと言うのが彼の主張で、それを熱弁しつつ取り敢えず試してみないかと誘われたのが最初だった。
 好奇心盛大で色々と試してみたい気持ちが強い相手に、物事へのこだわりや執着が薄めな自分が付き合い、共にそれなりの楽しみを見出す。なんてのはコレに限らずよくある事だ。
 相手に付き合うパターンが多くとも、自分たちの間に主従関係があるわけじゃない。気が向かないことにはちゃんとノーを突きつけるし、これだって嫌ならとっくに止めている。互いのを扱きあうどころか互いに舐め合うまでに発展しているが、これがただのオナニーだということに納得もしている。
 けれどそんなことは相手だってちゃんとわかっているのだ。
 不公平だ何だと言ってこちらを動かそうとするのは彼の手法の一つでしかなく、にやにや笑っているだろう顔が浮かんでしまうのは彼の好奇心が自分に向いている事がわかっているからで、意地が悪いと思うのは面倒くさいと思いつつも自分が彼の望むよう振る舞う事までわかられているからだ。
 口を開けて亀頭部分を咥え、軽く吸いながら舐めまわしつつ、竿部分を握った手を上下させる。
「んふっ……」
 楽しげな鼻息を漏らしつつ、すぐさま同じように追いかけてくる相手の機嫌は良さそうだが、内心ばーかと罵ってやった。
 相手に言われるまま、自分がされたいことを素直に実行するわけがない。本能のままに自分が本当にしたいことやされたいことをしてしまったら、相手がドン引くのはわかりきっている。
 慣れた手順で、相手がされたいだろうことを予測してしているに過ぎないのだが、自分が彼の後追いをしていたことすら最近やっと気づいた相手が、それに気づくのはきっともっとずっと先のはずだ。
 何もかも分かり合っているようでも、そこはやはり自分と相手とは別の人格があり、言わば騙し合いをしている部分もある。これは自分のほうが多少有利な気がしているが、確たる自信があるわけではないから、知られたくないことは細心の注意を払って隠し通す。
 これはただのオナニーということを忘れてはいけない。
 それを肝に銘じつつ、喉の奥まで迎え入れて相手の性感を追い立てていく。

 
 
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腹違いの兄に欲情しています

 父に家庭があることを知らずに自分を身籠り産んだ母が亡くなったのは小学4年生の時で、父に引き取られた後の数年は地獄のような日々だった。自分で世話をする気が一切ないなら、施設にでも入れてくれたほうがきっとまだマシだっただろう。
 突然不義の子を押し付けられた継母と4歳上の腹違いの兄の冷たい態度に、小学生でも自分がその家庭での異分子である認識は出来る。父は基本、男は金さえ稼げばいいという考えだったようで、継母に丸投げな代わりに自分を庇うことも一切なかったので、継母と兄の仕打ちはあっという間にエスカレートした。
 兄の体は大きく、始めは殴る蹴るの暴力で、それが学校の先生に発覚して家庭に注意が行ってからはより陰湿なものへと変わった。簡単にいえば、性的な暴行が増えた。
 兄に好き勝手抱かれるのは、純粋に殴られ蹴られるより苦痛に感じることも多かったが、逆らうことも誰かに相談することも出来なかった。さらなる報復が怖くて、ただひたすら耐える以外の道がなかったのだ。
 父が突然の交通事故で亡くなったのは、中学2年が終わる春休み中で、もう一人の腹違いの兄に初めて会ったのは父の葬儀だった。父の最初の奥さんとの子供で、自分とはちょうど一回り違う。
 高校卒業年齢の腹違いの弟がいることは知っていたようだが、その下にもう一人いることは聞いてなかったらしい。大学受験に失敗した兄は引きこもって葬儀にもほとんど参列していなかったので、腹違いの弟として顔を合わせたのは自分が先だった。訝しげに上から下まで眺め見られた後、年齢を聞かれて答えた時の随分と驚いた様子を今もまだ覚えている。
 二度目に会った時、上の兄は弁護士同伴だった。呼ばれてリビングへ行けば、重々しい空気の中で、この家から出て俺と一緒に来ないかと言われた。
 一も二もなく頷いて連れて行ってと答えたら、継母は恩知らずだ何だと言っていたような気もするがあまり覚えていない。
 父の家庭になど興味はなかったらしいが、葬儀で最初に会った時の違和感から、大急ぎで現状を調べあげたと言った上の兄は、兄自身のだけでなく自分の分の遺産もがっちりもぎ取ってくれていた。父は稼ぎだけは良かった上に交通事故での賠償金などもあったようで、見たこともない金額の入った通帳を見せられながら、社会にでるまで預かっておくということと、生活に掛かる金はここから貰うから気兼ねなく過ごせと言われた時はみっともなく大泣きしてしまった。
 あの日、上の兄と会っていなかったら、今頃自分がどうなっていたのかわからない。上の兄は自分を救ってくれたヒーローで勇者で、母が亡くなってから初めて頼ることができる大人で、好きになる事は止めようがなかった。
 上の兄と暮らすようになって5年。兄の勧めで結局大学に進学してしまったので、社会に出るまでもう数年残されているが、最近少し辛くなっている。
 大学進学を勧められた時に久々に見た通帳の金額は、ほとんど減っていなかった。積極的に家事をしてくれてるからその分の生活費は免除してると言われて、またしても少し涙がこぼれてしまった。
 兄を好きだという気持ちが、はっきり恋愛的な意味も含むのだと認識したのは、その後少ししてからだ。この人は信頼を裏切らないという、最後の一押が通帳だったのだと思う。
 洗濯カゴから洗濯するものを選り分けながら、兄の下着を取り上げ鼻を押し付けた。大きく息を吸うと、兄の体臭と混ざった恥ずかしい臭いが鼻孔に広がり、すぐに股間ががカチカチになる。洗濯機の前で、兄の使用済み下着を使ってオナニーするという、とんだ変態行為がやめられない。
 兄の勃起ちんぽを舐めしゃぶる妄想は、やがてアナルにハメる妄想となって、最近は自分で自分の後ろの穴を弄る事も増えた。
 フェラも尻穴を使ったセックスも、下の兄に強要されていた時はあんなにも苦痛だったのに、上の兄にならされたいと思う。どんな酷いことをしてもいいから抱いて欲しいと思う気持ちと同じくらい、上の兄が自分に性的な暴力など一切行わないとわかっている。
 引き取られた初期に下の兄に暴力を振るわれていたことは、学校からの注意も入ったくらいなので、調べたといった上の兄も当然知っているが、性的虐待を受けていた事は誰にも話していないので知らないだろう。
 痛くて苦しくて辛い行為も繰り返されれば慣れるし、嫌がりながらも感じてしまうことを嘲笑うのも下の兄のお気に入りだったから、この体はその行為での快楽も知ってしまっている。
 こんな汚れた自分を知られたくなくて、けれど兄への気持ちは募るばかりで、隠れてする変態行為はエスカレート気味だ。
 どうか気づかれませんように。
 そう思いながら、兄の使用済み下着の中にたっぷりと精液を吐き出した。

 
 
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死にかけるとセックスがしたくなるらしい

 死にかけるとセックスがしたくなるらしい、というのは自分も聞いたことがある。子孫を残したいという本能だそうだ。
 目の前の男は学生時代からかなり親しくしている友人で、この彼が先日海で死にかけたという報告に関しては、素直に無事で良かったなと返した。しかしそれが、だからお前を抱かせてというセリフに繋がる理由は、欠片も理解できそうになかった。というかわかりたくない。 
「断る」
「そこをなんとか」
「嫌だ」
「俺たちの仲だろ?」
 思わず鼻で笑ってしまった。むしろそんな仲だからこそ、彼が相手になることはない。
「無理なのはお前自身、わかってるはずだろ」
「まだ毛生えてなさそうな可愛い系ビッチな男ばっか相手にしてんのかよ。てか特定の恋人はどうせ居ないんだろ。だったら俺ともちょい付き合えって」
 彼には自分がゲイだとカミングアウト済みだ。
 彼は自身が対象でなければどうでも良いタイプで、少なくとも今日以前は普通に女が好きだった。普通にというか、胸がでかくて頭の中までゆるふわっとした即やり出来る女が好きで、性別の違いはあれど同じく即やり出来る可愛い系の男ばかりと関係している自分と、そういった面で若干好みが被っている。
 つまるところ、彼は自分の好みには欠片もかすって居ないし、それは彼自身にとっても同じだったはずだ。
「まったく好みじゃない。好みのタイプならとっくにこっちから誘ってる。そうじゃないから俺たちは親友でいれるんだろーが。というかそもそも俺は抱かれる側はやらない」
「それは知ってっけど、お前だと思っちまったもんは仕方ないだろ」
「何が仕方ないだ。てか俺だと思ったってなんだよ」
「そりゃもちろん、死にかけた時思ったことだよ。お前とやってなかったのめっちゃ後悔した。あー無理矢理でもお前抱いときゃ良かったってさ」
「さりげなく物騒な言葉混ぜんな。なんだ無理矢理って。てかこれ、変なもん入れてないだろーな」
「あ、バレた?」
 目の前のグラスを掲げて見せれば、あっけらかんとそう返されてギョッとする。相手はケラケラと笑いながら、すぐさま嘘だと続けた。
「うっそー。つかいつ入れる暇あったよ」
 今居るのは雰囲気の良い個室居酒屋で、グラスが運ばれてきてから一度も席を立っていないので、確かにそんな隙はなかった。しかし彼の顔から、若干の本気を感じてしまったのもまた事実だ。
「大丈夫だって。持ってきたのは精力剤と媚薬系で眠剤とかじゃないし、犯罪する気もない」
「持って来てんのかよ!」
 思わずツッコミを入れれば無理に飲ませる気はないけど一応と返された。もちろん悪びれた様子は欠片もない。
「つかどこまで本気なんだ。お前、今まで一切男になんか興味なかったろう。てかたとえなんかの弾みで男に興味持ったとしても、俺みたいのタイプにならないだろ?」
「割とマジに誘ってるというか頼んでる。あと、確かに死にかけるまで男に興味なかったどころか今も別に男に興味があるってわけでもないけど、男ならお前以外ないってのは結構昔から思ってたよ。言ったことねーけど」
「確かに初耳だ。てかマジで俺なのかよ……」
「そーだよ」
 肯定されて大きくため息を吐いた。
「せめてお前が抱かれる側なら考えてみないこともない、かな」
 渋々とながら妥協案を出してみたが、それはあっさり否定されてしまう。
「あーうん。それはない」
「少しは譲ることも覚えたらどうだ?」
「いやだって、譲るってーか、お前こそ俺に勃たなくね?」
 タイプじゃないって言い切ってんじゃんと指摘されて、返す言葉が見つからない。
「俺はお前には勃つよ。だから抱きたいわけだけど。てかそろそろ頷いてもいい頃じゃね?」
「その自信はなんなんだ」
 弱気の滲む声になってしまったのは自分でも感じた。彼はわかってんだろと言いたげにニヤリと笑う。
「何年お前の親友やってきたと思ってんの。俺が抱かれる側なら考えるって言った時点で、お前はもう俺受け入れてるわけ」
 違うかと聞かれてすぐに違うと返せなかった時点でお察しだ。
「男抱いたことはないけど、でも多分、俺、上手いと思うよ?」
 ちょっとの間黙って身を任せてみてよと、先ほどとは打って変わって柔らかに笑う。キザったらしい笑顔だと思った。それに、確かに女性相手に培ったテクにそれなりの自信があるのだろうが、先ほどのセリフを忘れてはいない。
「薬頼りでだろーが」
「無理に飲まなくっていいって言ったじゃん」
「もし下手だったら殴って止めさせるぞ」
「はい決まりね」
 やったーと両手を挙げて喜ぶわざとらしい仕草に、乗せられてしまったと思いつ苦虫を噛みつぶした。

 
 
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竜人がご飯4(終)

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 目覚めはスッキリとしていて体がめちゃくちゃ軽かった。隣では竜人の姿に戻った男が、まだ軽いイビキと共に眠っている。
 行為を終えたのは彼の変化の術が解ける直前で、要するに人型が保てている間いっぱいが食事の時間ということらしかった。
 竜人の姿に戻ってもわかる、色濃く漂う疲れの気配。ここでそのまま休めばいいと誘えば、相手は随分と驚いていた。躊躇う相手にこの後の予定はと聞けば、後は自室に戻って休むだけだと言うので、もう少しそばに居て欲しいと頼み込んで引き止めたのは自分だ。
 めちゃくちゃ広いベッドは、二人で横になってもまだ充分に余裕がある。だから、まぁいいかといった様子でベッドに沈んだ男の隣に寄り添えば、やはり相手は驚いたようだった。
 この姿が怖くはないのかと聞かれたが、今更過ぎて笑ってしまった。姿形は多少違っても、つい先程まで体を繋いで睦言を繰り返していた相手だ。
 倒すべき敵として対峙すれば間違いなく恐怖するだろうが、モンスター相手に戦闘を繰り広げていた記憶は既に遠い過去のものになっている。むしろ、殺してやれないと言って謝るような相手を、どう恐怖すればいいのかわからない。
 そう告げれば、そうかと言ったきり、彼はあっさり眠りに落ちてしまった。やはり相当疲れていたらしい。
 無防備に眠る姿は、こちらへの警戒心がまるでない証のようだ。事実、眠る彼に傷をつける術など一切ないし、そんな気持ちも微塵もない。
 どちらかと言えば、相手に対して感じるのは深い興味と好奇心だった。相手は本来の自分の実力では到底お目にかかれないレベルの竜人だ。しかも敵意も悪意もなく、自分を生かすために精を分け与えるという、信じがたい行動を見せている。
 疲れた様子の彼を起こしてしまうのが忍びなくて我慢していたが、一眠りした後の今なら、少しくらいは触れても大丈夫だろうか。
 体に掛かる布をそろりとどければ、仰向けに転がる相手の腹が見えた。確かに彼の性器をこの体に受け入れていたはずが、下腹部もツルリとして何もない。
 不思議に思って体を起こし、その周辺に顔を寄せて確かめる。それは見た目より先に香りで気付いた。
 覚えのある甘い芳香が、下腹部の一部から漏れ出ている。食事前だったら、迷わずそこへ舌を伸ばして舐め啜っていただろう。
 なるほど、性交時以外は体内に収まる仕組みらしい。
 人のように、その近辺を刺激したら、勃起して飛び出してくるのだろうか。などという下世話な興味で、その香りが濃い部分周辺を撫で擦ってみた。
 勃起したペニスが飛び出てくることはなかったが、香りが強くなるのを感じ、腹の隙間にじわりと汁が滲み出る。その汁に誘われて、とうとうその場所へ舌を伸ばしてしまった。ちろりと舐めとった汁は、キスによって与えられる彼の唾液とはまた違った、少し酸味のある旨さだ。
 性器を収めているのだろう袋の中は、濃厚な先走りの液体で満たされていて、差し込んだ舌ですくうようにベロベロと舐め回す。
「こら。なにをしてる」
 つい夢中になって舐め啜っていたら、どうやら起きたらしい男の声が静かに響いた。
「食べ足りない、ということはないだろう?」
 そっと肩を捕まれ引き剥がされる。
「もっと食べれそう。って言ったらまだ俺を抱く?」
 勃起させてよと言ったらダメだとそっけなく返され少し残念だった。
「この姿で抱いたらお前の体を傷つける。次に人型が取れるまで少し待ってくれ。それに今日は他に予定が詰まっている」
「それは残念。というか、次回もあるのか?」
「無事に食事が摂れたのだから、暫くは私がお前の食事として定期的に供される事になる」
 それを聞いてホッとする。
「なるべく、早く、来て」
 縋るように頼んでしまうのは、この部屋に一人閉じ込められる時間を思い出して、どうにも寂しく感じてしまったからだ。目の前の男にさんざん優しく抱かれたせいで、気持ちが弱っているのかもしれない。
「私が来れない間、できればお前を世話する者を戻したいのだが……」
「え、あいつにまた会えるのか?」
「無断でスリットに舌を差し込んで舐め回す、などということをされてしまうと、彼の身が危険な気がして考え中だ」
 初心な彼を襲わずにいられるならと言われて、うーんと唸ってしまった。美味しそうな香りを撒き散らすのは彼もまた同じだからだ。しかも、目の前の男からたくさんの栄養を貰って、体はメキメキと回復している。小さくても竜人だから力比べで勝てるとは思わないが、前ほど簡単に振り払われる事もないかもしれない。
「まぁ、だいぶ元気になったようだし、私が来れない間の暇が潰せるよう、何かしら考慮はしておこう」
 そう言い残して彼が部屋を去ってから程なくして、パタパタと走ってくる軽い足音が近づき、もどかしげに鍵を開けて飛び込んできたのは世話係の小さな竜人だった。
 体力が回復したおかげで、この部屋に運び込まれて初めてベッドを降り、部屋の中をウロウロ見まわっていた自分に、飛びつく勢いで抱きついてくる。
「凄い、お前、歩ける」
「あー、うん。腹いっぱい食べたら、元気でた」
「おまえ、食事、出来た。良かった」
 半泣きの声に、随分と心配をかけていたようだと気付いて、腹にまとわりつく小さな竜人の頭をそっと撫でた。撫でながら、さてどうしようかと思う。
 腹は満たされているからか、尻穴や腸内が蠢くことはないけれど、やはり甘い香りが鼻腔をくすぐってくるのだ。
 再度彼に逃げられたくはないからもちろん我慢するけれど、竜人の味をはっきりと知ってしまった上に体が動くようになった今となっては、これは結構きつい状況かもしれない。
 次の食事がいつなのかはっきりしないから不安でしょうがない。腹が減ってこの小さな竜人に襲いかかってしまう前に、はやくもう一度食事担当の彼に戻ってもらいたいと切に願った。

<終>

遅刻すみません。最後がどうにも迷って時間食いました。
適当ファンタジーにお付き合いどうもありがとうございました。いつか竜人受も書いてみたい……

竜人受け有りの続編が出来ました。読む→

 
 
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竜人がご飯3

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 外見に変化があるのかは知らないが、少なくとも中身はもう、確実に人と呼べない域に達しているのだという自覚はある。食事が摂れない代わりとばかりに、尻穴と腹の中とを切なく動かし、相手の精液を搾り取れと訴える体の欲求はあからさまだ。
 事実、相手の唾液を飲み込むだけで体の活力は目に見えて回復したし、腸内に精と思しき液体を吐き出されても同様かそれ以上の効果があった。だからこの行為は間違いなく自分にとっての食事なのだろう。
 迷うことなく自らをお前の食事だと言い切った男は、腰を振って喘ぎ乱れながらもっともっとと吐精をねだる自分に、淡々と雄を穿ちほぼ一定の間隔で精を分け与える行為を繰り返している。
 飢え切った体に染み渡るエネルギー源に夢中になっていた最初はともかく、ある程度満たされた後は色々と雑多なことに思考が向かう。だんだんと自分の痴態が恥ずかしくてたまらなくなるし、これから先もこうして生かされていくのかと思うと惨めだとも思う。
 人ではなくなったのに、人としての心が残っているのは厄介で面倒だった。
「ふっ……はっ、はぁっ…んんっ、んっ、ぅっ」
 尻穴を拡げて湿った水音を立てながら出入りする熱に、どうしたって感じずには居られず、けれど体を走る快感に任せてアンアンと響かせる嬌声が恥ずかしくなってなるべく声を噛む。腸壁がその熱に絡み締め付けてしまうのは自身でどうにも出来なかったが、尻を振り腰を揺すってより深い快楽を追ってしまうことも恥ずかしくなって、なるべく動かしてしまわないようグッと下腹部に力を込めた。
「泣かないでくれ」
 そう声を掛けられ、泣き出していたことに気づく。
 スライムたちに陵辱され続ける深い絶望の中、とっくに枯れたと思っていた。久しく流れることのなかった涙に驚きながら、ぱしぱしと目を瞬かせる。
「余計なことは考えるな。と言っても多分無駄なのだろうな」
 穿つ行為を中断し、優しい指先が涙を払っていくから、涙は更にあふれてしまった。
 淡々とした行為ではあるが、彼の気遣いや優しさはずっと感じていたから、申し訳ない気持ちもあるし、だからこそ恥ずかしいのだと身を捩りたくなるような焦燥もある。
「思考がめぐり感情が働くのは悪くない傾向だが、まだもう少し、本能に任せて食事を続けて貰えないか」
「こんな形で生き続けるのは、惨めだ」
「そうだな。しかし殺すことはしてやれない」
 わかっていると思いながら頷いてみせた。彼は申し訳無さそうに眉尻を下げる。
「すまない。けれどもう暫く、私を拒まないで欲しい」
「拒んで、ない」
「声を殺して、体を緊張させているのに?」
「それは……恥ずかしい、だけ」
「どんなに乱れても気にはしないし、食事だと割り切ることは出来ないだろうか」
「自分一人盛り上がってるセックスが恥ずかしいのは、これが食事だってわかってるからだ。拒んでるわけじゃないから、気にせずお前の精をこの体に吐き出してくれよ」
「なるほどセックスか。人の性交文化にはあまり詳しくなくて、勉強不足ですまないが、教えて貰えないか」
「な、何を?」
「もちろん、人間がどのようにセックスするかをだが」
 ぎょっとして聞き返したら、さも当然のようにそう返された。
 まさか竜人はセックスをせずに子孫を増やしているのだろうか。モンスター類の繁殖になど興味はないが、今現在こうして相手のペニスが体内に突き刺さっていることを思えば、人と同じような生殖行為が行われていると考えるのが妥当じゃないのか。
「竜人だって、するだろう?」
「しかし私のやり方では不満なのだろう?」
「え、あんた、だれに対してもこんなセックスするのか。これが俺の食事だからじゃなくて?」
「相手の体内に精を送り出すのが性交だろう」
「気持よくないの?」
「ある程度の快楽を受容しなければ、さすがに吐精も難しい」
「ならもっと、一緒に気持ちよくなってくれ。あんたも気持ち良いんだって、俺にもわかるように見せて。そしたら少しは、マシな気がする」
「わかった。努力はしてみよう」
 至極真面目な顔で頷かれて、なんだか面白い男だと思ってしまった。クスリと笑ってしまったら、相手もどこかホッとした様子で笑い返してくるから、いっそ可愛いような気さえする。
「動くぞ」
「うん。あ、ちょっと待って」
「どうした」
「キス、しないか」
「口からも同時に食事がしたい、という話……ではなさそうだな」
 否定より先に気づいてくれて何よりだ。
「人のセックスは腰振りながらキスもするし、相手の体を愛撫して、互いの気持ちを盛り上げるもんだよ」
「気持ち、か」
「その場限りってわかってたって、好きって気持ちはないよりあったほうがいい。少なくとも俺は、そういうセックスが好きだった」
「なるほど。どちらかというと、食事のためだけの性交では味気ない、という話な気がするな」
 確かにそうかもと返したら、わかったとの言葉とともに柔らかに唇が触れ合った。

続きました→

 
 
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