好きなひとの指 / 連続絶頂 / 癖になってしまいそう

 自分がどちらかと言えば女性よりも、同性である男性を好きになる性癖持ちだということは自覚していたが、同性の恋人を持ったこともなければ、男と体だけの関係を結んだこともない。興味はあったが好奇心よりも不安が大きかったせいだ。
 女性とはできないというわけではないが、それも若さで持て余し気味の性欲のなせるわざだったのか、就職して数年、仕事に慣れ面白く感じるようになるにつれ、とんとそんな気にはなれなくなった。
 自慰で充分と思う気持ちと、年齢的にそれはちょっと寂しいのではと思う気持ちとの間で揺れる。そんな状態だったので、相手が男ならまた違った気持ちが湧くのだろうかと、きっと不安よりも好奇心が若干勝っていたのだろう。
 都内への出張が決まった時、その好奇心が爆発した。それで何をしたかといえば、ゲイ専門の性感マッサージへ、意を決して予約を入れた。
 お金を払いこちらが客としてサービスされる側というのも、口でのサービスも、当然本番行為もないというのが、安心に繋がったというのもあるかもしれない。
 サイトのプロフィールからたまたま目についた同じ年のスタッフを指定し、当日、予約時間より少し早めに店に着けば、そのスタッフが自分を迎えてくれた。
 サイトでは顔にモザイクのかかっていたが、実際に会った瞬間、思わず息を呑んだ。今現在、ほんのりと好意を抱いている自覚がある直属上司に、顔や雰囲気がよく似ていると思った。
 知り合いに凄く似ててと言いながら動揺を滲ませてしまったせいか、急にスタッフの変更は出来ないと、随分と申し訳無さそうに言わせてしまった。キャンセルするかと問われて慌てて首を振る。指名したスタッフが思った以上に好みだったから、なんて理由で帰るはずがない。
 こういった店どころか男との経験皆無というのは予約時に伝えてあったが、再度、通された個室でそれを伝えれば、今日は是非楽しんでリラックスしていって下さいと柔らかに笑われホッとした。
 促されるままシャワーを浴びてから施術用のベッドに横になる。
 似ていると思ったのは顔や雰囲気だけではなく、特に指がすっと綺麗に伸びた手の形がそっくりなのだと気づいていた。この手に今からマッサージを、それも性感を煽る気持ちよさを与えられるのだと考えただけで、恥ずかしいような嬉しいような興奮に襲われる。
 まずは普通のマッサージからで、緊張を解すようにアチコチを揉まれながらの軽い世間話に、緊張やら警戒心やらはあっという間に霧散していた。こんな仕事を選ぶくらいだから、相手の話術は相当だったし、自分も別段人見知りするタイプでもない。
 気づけば気になる上司の事までペラペラと話していて、似ている知り合いがその上司だということも言っていた。
「じゃあ俺、好みドンピシャってことじゃないですか」
 嬉しそうな声が降ってきて、そうだよと返す。
「嬉しいなぁ。あ、でも、そこまで似てるなら、その上司の方の手と思ってくださってもいいですよ?」
「ええっ、さすがにそれは君に失礼でしょ」
 なんてことを言っていたのに、初めて男のツボを知り尽くした同性の手で性感を煽られまくった結果、何度も繰り返す絶頂の中でその上司の名を呼んでしまった。
「ご、ごめん」
「良いって言ったの俺だよ。ほら、気にしないで、もっと気持ちよくなってご覧」
 ハッとして謝ったが丁寧語を捨ててそう返され、オマケとばかりに、上司が自分を呼ぶ時と同じように苗字に君付けで呼ばれて、錯覚が加速する。
 どちらかと言えば自分は性に淡白な方だと思っていたのに、短時間に驚くほど何度も絶頂に導かれてしまった。
 帰り際、また指名しても良いかなと躊躇いがちに問えば、笑顔でぜひと返される。
 これは癖になりそうでヤバイかもしれないと思う気持ちと、週明けに上司の顔がまともに見れるだろうかという不安に揺れながら帰ったけれど、出張も何もないのに次の予約を入れてしまったのはそれから一ヶ月ほどの事だった。

有坂レイへの今夜のお題は『好きなひとの指 / 連続絶頂 / 癖になってしまいそう』です。
shindanmaker.com/464476

 
 
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昔好きだった男が酔い潰れた話(目次)

キャラ名ありません。全7話で短めです。
元高校同級生で部活仲間だった2人の話。視点の主は高校卒業時に相手に告白して一度振られています。
現在年齢20代半ば。
酔いつぶれた相手を連れ帰ったらなんだかんだあって最終的には恋人になります。

視点の主は180cm近く、相手は男性にしては小柄という設定で体格差あり。
ただし行為はキスまで。
相手はタチネコ両方経験ありで最後リバ発言あります。

下記タイトルは内容に合わせたものを簡単に付けてあります。

1話 飲み会
2話 連れ帰った酔っぱらい
3話 帰ってなかった
4話 告白とセックスの誘い
5話 相手の前カレ話
6話 ちょっとタチが悪い
7話 恋人になったので

 
 
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恋人になった元教え子にまた抱かれる日々の幸せ

取引先に元教え子が就職してましたの続きです。最初から読む場合はこちら→

 普通の抱かれ方じゃどうせ満足できっこないから、昔みたいにして欲しい。苗字なんてもってのほかで、けれど名前でもなく、出来ればやはりセンセイと呼んで欲しい。
 晴れて恋人となった元教え子に、正直にこちらの欲望を突きつけたら、彼は少し困った様子で、けれど楽しそうに、センセイがそれでいいならと言った。願ったりかなったりだとも付け加えて。
 結局あんな関係が長いこと続いていたのは、当時はまだ無自覚だったり未開発だったにしろ、互いの性癖がうまいこと合致していた結果だったんだろう。
 そうして再開した関係は順調だった。
 今日もまた彼の目の前で、獣のように四つ這いになって腰を高くあげ、添えた左手の人差指と中指で左右にぐいと伸ばしひろげて見せながら、先細りの円錐形アナルバイブを自ら突き刺し前後させている。振動はさせていないが、それでも慣れた体はすでに充分昂ぶっている。
「あ、あアっ、イイっ、ぁあん、んっ」
 声を噛まずにこぼれさせるよう言われているので、開かれた口からはひっきりなしに音がもれていた。安アパートで行為を重ねた昔と違って、音が漏れる心配があまりないためだ。昔みたいにとは言っても、そんな風に変化したことも多々あった。
「イイ、イッちゃう、おしりだけでイッちゃうっ」
「トロトロだねセンセイ。でもまだイッたらダメだよ。イくのは我慢しないとね」
 これも変化したことの一つだろう。昔はイくのを耐えろと言われることはほぼなく、ひたすら何度もイかされ続けることが多かった。
 昔は言われるまでもなく耐えていた、というのもあるかもしれない。恋人となった甘えから、彼の前に快楽を晒す抵抗が薄くなったのを、的確に見ぬかれた結果かもしれない。
 背後からかかる声に荒い息を吐きながらどうにかイッてしまうのを耐える。なのに、続く声は容赦がない。
「だからって手を止めていいとも言ってないよ?」
「あああぁっんんっ」
 ほらちゃんと動かして。という言葉に、恐る恐る埋まっているバイブを引き出すが、背筋を抜ける快感にやはり途中で動きを止めてしまった。動かし続けたらすぐさまイッてしまいそうだった。
「むりっイッちゃう、イッちゃうから」
「じゃあ少し休憩しようか」
 その言葉にホッと出来たのは一瞬で、休憩中はバイブスイッチを入れるよう命じられる。
「弱でいいよ。それで5分我慢できたら、後はいっぱいイかせてあげる」
 いっぱいイカせてあげるという言葉だけで、期待に腸壁が蠢き中のバイブを締め付ける。しかしこの状態で振動なんてさせたら、動かさなくたって充分にキツイ。5分も耐えられる自信はなかった。
「自分で入れられない?」
 躊躇えば、俺がスイッチ入れようかと優しい声が響く。けれどその場合、ただスイッチだけが入れられるのみ、なんてことは絶対にないのがわかりきっている。
「でき、る。やる、から」
 覚悟を決めてスイッチへ指先を当てた。
「ふぁぁあんあ゛あ゛ぁぁ」
 始まる振動に、背を大きく逸らして吠える。弱とはいえ機械の振動に容赦なく追い詰められていく。
 結局半泣きで耐えられたのは何分だったのだろうか。
「だめっダメッ、あ、イッちゃぅんんっっっ痛っっ!!」
 上り詰めてしまった瞬間、尻に熱い痛みが走った。
「い、った、あっ、あっ、ごめん、痛っあぁんっ」
 無言のまま10回ほど尻を叩かれたが、これは始めから言われていたことだ。我慢できずに勝手にイッたら、そのたびにお尻を10回叩くお仕置きをするよと。
「センセイはお尻を叩かれても感じちゃうの?」
 叩かれ熱を持つ尻を優しく撫でながらふふっと笑われ、カッと顔も熱くなる。その言葉を否定しきれない自覚があるくせに、口は否定を音にする。
「ち、違っ」
「本当に?」
 先程よりもずっと軽く尻を叩かれ、こぼれ落ちた声は自分でもわかる程に甘い響きをしていた。
「はぁあん」
「次はおしり叩かれながらイッてみる?」
 言葉に詰まってしまったら、やはり小さく笑われた後、バイブを握られるのがわかった。バイブはもちろん、未だ小さな振動を続けている。
「はあぁぁ、あああ…んんっっ、んっ、ああっ」
「ほら、やっぱり気持ちいいんだ」
「いいっ、ああぁイイっ」
  バイブを抜き差しされながら軽く尻を叩かれ続け、未知の快感に体も心も喜び震えた。
 これだ、という満ち足りた思い。優しく追い詰められながら、自分一人ではたどり着けない、快楽の新しい扉を開いて行くような感覚。与えてくれたのは彼だけだった。
 しかもそこには今、紛れもなく愛があるのだ。この体を使ってただ遊ばれているわけじゃない。
 このままイッてごらんと囁く甘やかな言葉に導かれて、幸せを噛み締めながら上り詰めた。

 
 
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取引先に元教え子が就職してました

就職を機に逃げたけれど本当はの続きです。最初から読む場合はこちら→

 指名を受けて上司とともに訪れた取引先で、かつての教え子と対面した。
「お久しぶりですセンセイ」
 そう言って笑った顔に、懐かしさと安堵とで泣きそうになった。自分を呼んだのが彼なのだということは、何も言われずともわかる。
 どういう根回しをしたのか知らないが、相手方の上司も同行したこちらの上司もすでに承知しているようで、今後その会社とのやりとりをメインで担当するのが自分と彼とになった。
 昔のことを引き合いに出されて脅されるのか、あちらが元請けである強みで枕営業的なことをしろと言われるのか。どちらにしろまた彼と関係が持てる、彼に抱いてもらえる。
 そんな期待と裏腹に、彼からの誘いは一向にかからなかった。最初の一度以降、センセイとも呼ばれない。彼から苗字にさんをつけて呼ばれる違和感は大きかったし、元教え子だろうが年下だろうがこちらは下請けで、丁寧語で接するのも最初はなんだかやりにくかった。
 それでもゆるやかにその状況にも慣れていく。何事も無く、表面上は穏やかに彼との時間がすぎる。
 しかし内心はといえば、不安と絶望でいっぱいだった。なぜ何も言ってくれないのか、過去のあれらをなかったことにしたいなら、なぜ今更自分の前に現れたのか。なぜ自分を呼んだりしたのか。それとも呼ばれたと思ったことがそもそもの勘違いで、これはただの偶然なのだろうか。
 知りたい事はたくさんあるのに、どれ一つとして聞く事ができない。知るのは怖い。
 そんな悶々とする日々に、少しずつ気力も体力も削られていく。
 今日もまた、打ち合わせと称して小さな会議室に二人きりでこもっているのに、何も起こる気配はない。
「最近顔色が少し悪いみたいですが大丈夫ですか? 今もなんだかボーっとしてましたが」
「あ、はい。スミマセン。大丈夫です」
「私と仕事をするのはやはり苦痛ですか?」
「えっ?」
「不調の原因、私ですよね?」
 苦笑する顔をわけがわからず見つめてしまったら、困った様子でため息を吐かれた。
「担当、変えてもらいましょう」
 あなたの責任は問われないようにするのでご心配なくと続いた言葉に、慌てて待ったをかけた。
「待って。嫌です。担当、変えたりしないでください」
「どうして? 私とじゃあなたもやりにくいでしょう? いつも不安そうな、泣きそうな顔をするじゃないですか」
「それは、あなたが……」
「昔のことは水に流して忘れてください。なんて言えた立場じゃないですよね。あなたには酷いことをしたと思っています。若かったからで許されないのもわかってますが、謝る機会をずっと探してました」
 チャンスだと思ったんです、と彼は続ける。
「大人になって出会い直したら、もしかしたらもう少し違った関係が作れるかなって。でもやっぱり無理ですよね。無理だというのは再会したその瞬間から、あなたの泣きそうな顔を見てわかっていたのに、諦め悪くずるずると付きあわせてしまいました。でもこのままじゃあなたが倒れる日も近そうですし、もう、終わりにします。本当に、成長してないですよね。ずっとあなたを振り回してばっかりだ」
 何を言われているのかイマイチ理解しきれず、ただただ彼の言葉を聞いてしまったが、本当に申し訳ありませんでしたの言葉とともに深々と頭を下げられて、はっと我に返った。
「待って、待って。意味がわからない。ゴメン。お願いだから頭上げて」
「わかりませんか?」
 頭を上げた彼は、ここまで言っても伝わらないのかと言いたげに不満気だが、さすがにそれに怯むことはない。
「わからないよ。昔のこと、後悔してるの?」
「してますよ。もう少し別のやりようがあったんじゃなかって」
「もう、俺を抱く気は一切ない?」
「脅して関係を強要したりする気はないです。ああ、それを気にしてたのか。すみません、もっと早くそんな気はないから安心してくださいと言っておくべきでしたか」
「違う。そうじゃなくて。俺が抱いてくれって言ったらまた抱ける?」
「えっ?」
 今度は彼が驚き過ぎた様子で固まった。
「酷い真似をしたと謝るくらいなら、他の誰としても満足できない体にした責任とってくれ」
「ちょっ、マジ……で?」
 砕けた口調と呆然とする顔に内心で笑う。昔の彼の面影の濃さに、少しばかり安堵もした。だから今なら正直に、自分の気持を伝えられそうだと思った。むしろ、今伝えずにいて、このまままた関係が切れたりしたら、絶対後悔するに決まっている。
「また関係を迫られたらどうしよう。じゃなくて、どうして誘ってこないんだろうって、俺の最近の不安はそっちだったよ。お前は俺に興味がなくなったんだと思ってたから、再会した時は嬉しくて泣くかと思った。またお前に抱いてもらえるって、そんな期待をしてたんだ」
「俺から逃げたの、センセイですよね?」
「そうだな。でも、逃げてから、思い知ったよ。お前がどれだけ俺の体と心とを作り替えたのか」
「心も、ですか?」
「心も、だよ。気づいてなかったのか」
「知りませんよ。知ってたら逃すわけ無いですし」
「俺は逆に、知られたから解放されたんだと思ってた。都合よく遊んでた玩具から、好きだの言われたら面倒だろ。だから面倒が起こる前に、綺麗さっぱりサヨナラなんだなって」
「でもセンセイ、引っ越す気満々で就活してませんでした?」
「してたな」
「それ、俺から逃げたかったんですよね?」
「うん。でも逃してもらえないかとも思ってた。お前が遠方の会社はダメだって言ったら、俺には逆らえなかったし」
「一生俺に脅されていいようにされる人生でも良かった?」
「さあ。それはわからないな。最後の頃は、されてる事そのものより、自分ばっかり好きになってくみたいで怖い、嫌だ、みたいなのも多かったし。だからもし、お前が好きだとか言いながらちょっと優しくしてくれたりしたら、案外ころっとそれで満足してたかもしれないし」
「そんなの! 俺だって、思ってましたよ。むりやりいうこと聞かせて酷い真似しまくってるのに、今更好きとか言っても嘘っぽいし、逃げたがってる相手にこれ以上執着見せてもそれってただの嫌がらせだよなとか。決死の覚悟で解放したのに、今更そんなこと言われる俺の立場ってなんなんです。あーもうっ、信じられない」
「信じられないのはお互い様だろ。俺だって、お前の気持ち知ってたら、ぐずぐず泣いてないで自分から連絡とってたつーの」
「泣いたの? まさか俺が恋しくて?」
「まさか、お前が恋しくてだよ」
 ついでに言うならお前を想って自分を慰める夜は今現在も続いてる。とはさすがに口には出さなかった。
「ねぇ、めちゃくちゃ遠回りになったけど、俺と恋人になって。って言ったらOKしてくれる?」
 躊躇いがちな提案に、返す答えは当然決まっている。

続きました→

 
 
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就職を機に逃げたけれど本当は

キスのご褒美で中学生の成績を上げています → 脅されて高校生に買われています からの続きです。

 代引きで通販という手を覚えた彼が、アパートの住所宛にあれこれとアダルト商品を通販し始めたのは、彼が高校1年の終わり頃だった。
 就職が決まって引っ越しをする時にそれらのグッズは全て廃棄したけれど、結局、頻繁に使用されていたいくつかを、今度は自分の意志で購入してしまった。

 床に取り付けた吸盤付きディルドをまたいで、ゆっくりと腰を落としていく。準備はしてあるが、敢えてあまり解すことをしていない。簡単には飲み込めないそれを、体重をかけることで半ば強引に埋め込んでいく。入り口がめりめりと軋むようで、強い拡張感と圧迫感にあっさり歓喜の声がこぼれ落ちる。
「ふぁっ……んぅ、…は、はふぁああん」
  耳の奥で、ここには居ない彼の声が響いた。
『また声漏れちゃってるよ、センセイ』
 ふふっと笑うかすかな声と気配を思い出しながら、きゅっと唇を噛み締めた。
『さ、じゃあ、少しずつ動いてみよっか。馴染んでないから最初はゆっくりね。はいっ』
 耳の奥に響く手拍子に合わせて、腰を上げて下ろしてを繰り返す。
「ふ、ッ…ぁあっ、…ァっ、アアっ……」
『声、ぜんぜん抑えられてないね。俺に塞いで欲しくてわざとやってるの?』
 首を振って、再度唇を噛み締める。しかしやはりこぼれ落ちてしまう声は、やがて仕方がないなという言葉共に彼の唇で塞がれた。
 口の中を彼の舌でいじられる感触を出来る限り思い出しながら軽く口を開き、彼の舌を辿るように、自らの口内を舌先でくすぐる。
『動きとめちゃダメだよ、センセイ。ほら、さっきのリズム思い出して』
 動きを止めるとキスは中断され、もう一度手拍子が始まった。
 またすぐにあふれだす声を塞がれ、手拍子がやんでも、今度は腰の上げ下げを同じリズムで繰り返す。
 動きが止まってしまったら、キスを中断して手拍子。というのを繰り返すうちに、だんだんとリズムが早くなり、昇りつめるギリギリまで自分を追い込んでいく。
「イくっ、イッちゃう」
『いいよ。でも今日は、おちんちん触って、出しながらイッて?』
 命じられるままにペニスを握り数度上下させただけで、簡単に絶頂はやってきた。
「ぁァアアああ゛あ゛んんっ」
 物理的に塞がれているわけではない口から、抑えることをすっかり忘れた声が迸るが、ここはもう壁の薄いアパートではない。多少大きな声を出した所で、隣に聞こえる心配はなかった。

 後始末をしながら、惨めだ、と思う。あんな関係からどうにか必死で逃げ出したというのに、結局彼とのあれこれを思い出しながら、自分を慰めることが増えている。
 就職活動をする時に、なるべく遠方の会社ばかりを受けた。もちろん、脅されて内定を蹴ることになる可能性もあったが、彼はそんな事はしなかった。あまつさえ、心配の種だった中学生の彼相手に色々致している動画の数々を、就職祝いにと全てプレゼントされた。もちろん複製品が彼の手元に残っている可能性もないわけではないが、これ以上脅して関係を強要する気はないという、彼の意思を示すにはそれで充分だ。
 こちらが驚くほどあっさりと関係を解消した彼は、色々と教わりありがとうございましたという言葉を最後にアパートを訪れなくななり、自分は就職先の近くに部屋を借りて引っ越した。
 彼に、彼以外との交際を制限されたことはなかったが、彼一人で手一杯だったので久々に新たな出会いを求めてみたりもした。しかし結果は散々だった。
 ストライクゾーンは広めで、割りと誰とだって楽しめるタイプだったはずなのに、誰と寝ても物足りない。
 そもそも、特定の相手とあんなに長く関係していたことが初めてだったのだ。しかも旺盛な好奇心で色々なことを試されたし、性感帯をあれこれと開発された自覚も確かにある。しかし彼相手でなければ物足りないほどの影響を受けているとまでは思っていなかった。
 自分の体に彼のプレイが色濃く染み付いている事に絶望するまで、そう時間はかからなかった。
 拭いたばかりの床に、ボタリと大粒の涙が落ちる。
 彼に聞かれたのは就職先の会社名程度で、もちろん新しい住所を聞かれることもなかった。それどころかあの挨拶を最後に、メールもLINEも一切送られてこない。あのあっけなさ同様、こちらの連絡先などとっくに削除済みなんだろう。
 その事実に安心するのではなく、追いかけてもらえないどころか一切気にかけてもらえなかった事に、打ちひしがれている。
 遊ばれているだけだとはわかっていた。自分は彼にとって都合のいい玩具だった。
 その自覚があったのに、重ねる行為に情が湧いてしまった。しかも、自分にだけ。
 彼があっさり引いたのは、もしかしたら、そんなこちらの情に気づいたからかもしれない。その考えが正しいような気がして、ますます気持ちは落ち込んだ。
 惨めだし、寂しいし、悲しいし、胸が痛い。けれどこちらから彼に連絡を取ることなど出来るはずもない。
 一度も好きだと口にすることなく終わった想いは、この先もまだ当分引きずりそうだった。

続きました→

 
 
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告白してきた後輩の諦めが悪くて困る

彼の恋が終わる日を待っていたの続きです。

 長いこと秘密の想いを寄せていた親友が結婚した日、後輩から告白された。高校時代に入っていた部活の、1学年下の男だ。
 ずっと好きだったと言いだした彼は、そろそろ俺のものになりませんか? などと言って笑う。
「お前、彼女いた事、あるよな?」
 確かめるように問いかける。部活終わりに何度か、彼を迎えに来ていた女の子がいたはずだ。記憶違いということはないと思う。
「ええ、いましたね」
 やはりあっさり肯定されて、揶揄われているのかと思い始めた。その矢先。
「でも彼氏が居たことだってありますよ?」
 バイなんですと躊躇いなく告げて、本気で先輩が好きですと彼は繰り返すけれど、崩れない笑顔がなんだか胡散臭い。
「あー……そう」
「そっち行っていいですか?」
「そっちって?」
「先輩の隣」
 彼は言いながら立ち上がると、机を回ってあっさり隣に腰掛ける。
「え、いやちょっと、待てって。おいっ!」
 いくら個室居酒屋で届いてない注文品がない状態とはいえ、これは明らかにおかしいだろう。けれど後輩の男は随分と楽しげだ。まるでこちらが焦るさまを楽しまれているようで不快なのに、その不快さを示す余裕すらない。
「ね、先輩」
 横から覗きこむようにグッと顔を近づけられて、思わず頭をそらしたら、後ろの壁に打ち付けてしまった。ゴツンと鈍い音が響いて、後頭部に痛みが走る。
「痛っ!」
「俺のものになってくださいよ」
 打ち付けた後頭部をなでさする間すらくれずに、再度彼はそう言ったけれど、今度は笑っては居なかった。先ほどまでの胡散臭い笑みを引っ込めて、真剣な眼差しで見つめてくる。なんだか怖いくらいだった。
「せんぱい?」
 疑問符付きの呼びかけは、返事を待っているんだろう。呆然と見つめていたことに気づいて、慌てて視線を逸らした。
「む、無理」
 だって目の前のこの男とどうこうなるだなんて考えたこともない。というよりも、誰かと恋愛しようと思ったことがない。
 本当に随分と長いこと羨望のような憧れのような愛しさを抱えて、手のかかる弟のような、そのくせいざという時は頼もしい兄のような、そんな親友の隣で過ごしてきたのだ。随分と無茶なことにも付き合わされてきたけれど、それすらたまらなく魅力的で、自分を惹きつけてやまなかった。それは互いに社会人となり、彼が結婚してしまった今現在だって変わらない。自分の中の優先順位一位は依然彼のままだった。しかも多分に恋愛的な感情も含んでいる。それがはっきりと自覚できているのに、他の誰かとお付き合いなんて出来るわけがない。
「どうして?」
「どうしてって……だって、俺の気持ちに気づいてたならわかるだろ?」
「結婚したじゃないですか」
「結婚とか、関係ない」
 もともと告げるつもりもない想いだから、これは最初から自分一人の問題だ。恋愛的な意味も含めて好きなのだと気づいてから、もう何年も経っていて、気持ちの整理はほぼ済んでいる。
 長い付き合いだから、相手のことは熟知している。想いを告げて自分に振り向かせることは可能だったかもしれない。どうすれば頷いてくれるか、多分わかっていた。けれど彼と恋人という関係になるよりも、親友という立場で居続けたかった。
 結婚して子どもが生まれて、今後は家族の時間が増えるだろうから寂しい気持ちはないわけではないけれど、結婚だってちゃんと本心から祝福している。どんな親になるのかと思うと色々不安が湧き出るけれど、その半面楽しみでもあった。 
「結婚した相手を、これからも想い続けるって意味ですか?」
「そうだよ。お前にはバカみたいな話かもしれないけど」
「そこまで想ってて、なんで、やすやす別の相手と結婚なんてされてんですか」
「別に恋人になりたかったわけじゃないから?」
「疑問符ついてますよ。てか、どうして」
「なんで、どうして、ばっかだな」
 ふふっと笑ってしまったら、あからさまにムッとされた。貼り付けたような笑みよりずっと安心感があるから不思議だと思うと同時に、どうやら少しばかり気持ちが落ち着いてきたらしいことにも気づく。
 あまりにも予想外の指摘と告白に動転しすぎていた。
「先輩が気になるようなことばっか言うからですよ」
「お前さっきあっさりバイだって宣言してたけど、俺が好きな相手が男だってわかってたから言えるんだよな? 俺に女の子の恋人ちゃんと居て、異性愛者だった場合でも告白するか?」
「恋人から奪おうとまではしませんけど、可能性が少しでもありそうなら狙いますよ」
「じゃあ性格の違いかな。可能性かなりありそうだったけど、でも俺は嫌だって思った。自分のせいであいつの未来を曲げるのは。親友って立場だけで充分なんだよ。あいつが子ども作って結婚して、はっきり言えばホッとしてるくらいだ」
「本気で、今後も別の誰かを好きになったりせず、あの人を想い続ける気でいるんですか?」
「今のところ、別にそれでいいかなと思ってる。たまにさ、好きだって言ってくれる人いるんだけど、他に特別に思う相手がはっきりいるのに、付き合えるわけないって」
 めちゃくちゃ嫌そうに顔を顰められて、やはりまた笑ってしまった。
「好きだって言ってくれてんだから、付き合えばいいじゃないですか」
「そんなの可哀想だろ。相手が」
「付き合ってみたら、そのうちなんだかんだ好きになるかもしれない。とは思わないんですか?」
「多分無理。やっぱりあいつ以上には好きになれないと思う。それくらい強烈な男なんだよ。って、お前ならわかるだろ?」
 深い溜息が吐き出されてきた。
「良くも悪くも強烈な男、ってとこには同意します」
「だろ? というわけで、お前のものにはなれないよ」
「そこまで納得したわけじゃないです」
「えっ?」
「気持ち晒した以上、今更引く気ないんで。試しにでいいんで付き合ってください。別にあの人のこと好きなままでもいいですし」
「良くないだろ」
「俺がいいって言ってるんだからいいじゃないですか。いっそあの人の代わりだって構いませんよ」
「俺が構うよ」
「でも引く気ないんで諦めてください」
 また胡散臭い微笑みを貼り付けた男の顔が近づいてくる。一応の抵抗で、その顔を押しのけようと伸ばした手は簡単にとらわれて、こぼした溜息を拾うように口付けられた。
「お前がこんな強引な男とは思ってなかった」
「今まで見せてなかっただけですよ。それに多分、間違ってないと思うんで。あなたには少し強引なくらいの相手がお似合いです」
 流されてくれていいですよ。などという言葉に頷けるわけもないけれど、入り込まれてしまったことだけははっきりとわかる。ずっと好きだったのずっとがどれほどの時間かはわからないが、今までお断りしてきた相手とは明らかに違う。
「まいったなぁ」
 こぼれ落ちたつぶやきに、相手は満足気に笑ってみせた。

 
 
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