結婚した姉の代わりに義兄の弟が構ってくれる話2(終)

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 勝手に家に上がられて、無断で写真を撮られて、こちらの弱みを突かれて、いったいどこに感謝すればいいのか。
「余計なお世話だ。つか合鍵とか聞いてない!」
「余計なお世話されたくなかったら、せめてあの人との電話の時くらい、何事もなくやれてる演技し通しな。お前の強がりなんかバレバレっぽいぞ」
「そんなこと言ったって……」
 大丈夫だって演技なら今だってしてる。
「まぁ長年一緒に暮らしてた親みたいな相手を、高校生のガキンチョが欺くのは難しいよな」
「ガキじゃない」
「とか言っちゃうところが十分ガキなの。寂しいって素直に言えたら、あの人の代わりにはなれないまでも、俺がお前を構ってやってもいいけど?」
「絶対お断りだ。というか合鍵置いて今すぐ出ていけ」
「嫌でーす。お前に拒否権なんかあるわけないだろ。さっきの写真、お姉さんに送られたくないよな?」
 ニヤリと笑って告げられたそれは、明らかに脅迫だった。
「女装して泣き暮らしてるなんて知ったら、あの人きっと、お前が心配で飛んで帰ってくるぞ?」
 追い打ちをかけられて胸の中に絶望が広がっていく。
「どーすればいいの」
「なんだって?」
 ぼそりと吐き出した言葉は相手に届かなかったらしい。
「どうすれば、姉さんに言わないでくれるの」
「寂しいから構ってって、お前が素直に言えたら」
 素性ははっきりしている上に姉から合鍵を渡されているような男でも、自分からすればぽっと出の、はっきり言えば得体の知れないこんな男の言いなりになるのは心底嫌だったけれど、背に腹はかえられない。
「寂しいから、かま……って」
「うん、いいよ。じゃ、取り敢えず一緒に飯でも食おうか」
 嫌々口に出したのなんて丸わかりだろうにそこは一切スルーで、一転機嫌よく頷いた目の前の男は、キッチン借りるぞと言い残してさっさと部屋を出ていってしまった。
 慌てて追いかければ、キッチンテーブルの上には食材が詰まっているらしきスーパーの袋が置かれていて、男はそこを覗き込んで何やらあれこれ取り出している。
「何してんの……?」
「何って、一緒に飯食おうって言ったろ」
「あんたが作るの?」
「お前が作ってくれるならそれでもいいけど。いややっぱ、一緒に作ろうか」
「なんで!?」
「構ってあげるって言ってるの。今はカップ麺やらコンビニ飯やらばっか食ってるみたいだけど、料理は出来るって聞いてるぞ」
「だって自分のためだけに作るご飯、楽しくないし美味しくない」
「だから俺が来たんでしょーが」
 ふわっと柔らかに笑われた気がして、一瞬どきりとした。驚いて何度か瞬いた先に見えたのは、呆れた苦笑顔だったから見間違いだったのかもしれない。
 ほらやるぞと急かされて、渋々並んでキッチンに立ち、言われるまま料理を手伝った。
 作り慣れているのかやたらと手際が良い上に、指示慣れもしているのか、何をすればいいのかわかりやすい。更に、完全自己流で覚えたこちらの手際を褒めながらも、より効率の良いやり方やらも教えてくれたから、思いの外その時間を楽しんでしまった。
 しかもいざ出来上がったものは、ビックリするほど美味しい。
「なにこれ、メチャクチャ美味い」
「そりゃ一応プロだもん」
「は? あんた料理人なの?」
「そうなの。というかお前、本当に俺に興味欠片もないよね。近所ってほど近くはないけど、隣市に義弟が住んでるって聞いてなかった?」
 そう言われて、そういえば聞いていたなと思い出す。でも職業までは聞いてない。
「そういや姉さんが出ていく前、何かあった時には義兄さんの弟が近くにいるからそこ頼れって、住所と電話のメモ貰った気はする」
「で、そのメモは?」
「結婚式の後にグシャグシャに丸めて捨てた」
「なんでっ!?」
「泣き虫のシスコンって笑った男に頼る気なんかなかったから」
 目の前に座る男をギッと睨みつけたけれど、相手はそんな視線にびくともしない。それどころか、おかしそうに笑っている。
「何がオカシイんだよっ」
「その頼りたくなかった男に弱み握られて、今後は構い倒されるのとか可哀想だなって思って?」
 まったく可哀想だなんて思ってないのはバレバレだ。むしろ楽しくて仕方がないくらいのことを思ってそうだ。
「可哀想とか嘘ばっかり」
「そりゃあ幸せにしてあげる予定だからね」
 ギョッとしてどういう意味だと聞けば、寂しくて泣くのは今日で終わりだよと、さっき一瞬だけ見た柔らかな笑顔を向けられ、やはりどきりと心臓が跳ねた。

あなたは『この人の幸せが自分にとって一番大切なのに、どうして喜んであげられないんだろう、どうして涙が出てしまうんだろう、と自己嫌悪に陥る』誰かを幸せにしてあげてください。
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結婚した姉の代わりに義兄の弟が構ってくれる話1

 何度も呼び鈴が鳴って意識が浮上したが、出れるわけがないとすぐに居留守を決め込んだ。
 軽い頭痛は泣いたせいで、意識が戻ればやはり今も鼻の奥と、擦り過ぎた目の端がヒリリと痛い。たいして幸せな夢なんて見れないけれど、それでも現実よりは幾分ましだと、逃げるようにまた目を閉じた。
 そのままもう一度眠れるはずだったのに、カチャリと部屋のドアが開いて心臓が飛び跳ねる。
「なんだ、居るんじゃん。てか凄い格好だな」
 慌てて飛び起きれば、部屋の入口には見知らぬ男が立っていて、ポケットから取り出した携帯を何やら操作していた。
 次にはカシャリと音が響いて、写真を撮られたのだと気付いて血の気が失せる。
「呆然としすぎ」
 苦笑した相手が近づいてくるので、恐怖とともに必死で後ずさる。とは言っても狭い部屋の中なので、あっと言う間に壁際に追い詰められた。
「目ぇ真っ赤。また泣いてたの?」
「だ、誰?」
 目線を合わすように腰を落とした相手が手を伸ばしてくるのを咄嗟に払って、なんとか声を絞り出す。相手はびっくりした様子で目を瞠った後、おかしそうに笑いだした。
「俺のこと覚えてないの? お前の義理の兄になった人の弟なんだけど」
 結婚式で会ってるよと言われて、嫌なことを思い出した。この人が義兄の弟だと言うなら、あの日もやっぱり泣かれているのを見られた上にシスコンすぎと笑われた。
「顔、違う」
「それを言うなら顔じゃなくて髪型。あと今日はメガネってだけでしょ。それに見た目だったら、そっちのがよっぽど大きく変わってる」
 姉弟だけあってそうしてるとお姉さんによく似てると言われて、写真を撮られたことを思い出し慌てる。
「写真、消せよ」
「嫌だね。というか女装が趣味なの? それともお姉さん恋しさで、そうやって自分の中の彼女の面影見て寂しさ紛らわせてる?」
 キュッと唇を噛み締め回答を拒否した。簡単に言い当てられたのが悔しかったのもあるし、認めたらどうせまたシスコンと笑われるのがわかりきっている。
「寂しいなら寂しいって言って、結婚なんかしないでって言えば良かったのに。というか、お前が大丈夫だからってあの人の背中押して結婚させたんだろ?」
 確かに姉は何年も付き合い続けていた彼との結婚を渋っていた。原因は自分にある。
 両親の死後、歳の離れた姉がずっと親代わりだった。責任感の強い優しい姉は、自分が高校を卒業するまでは結婚しないと言っていた。けれど彼氏の転勤が決まって、できれば結婚して付いてきて欲しいと言われて悩んでいたから、付いていきなよとその背を押したのは自分だ。
 だって誰よりも幸せになって欲しい人の、足手まといになんてなりたくなかった。
 金銭的には親の残してくれた遺産があるので特に問題はないし、働く姉を助けて家事だってそれなりにこなしてきたのだから、一人暮らしに大きな不安なんてなかった。はずだった。
 毎日を一人で過ごすことが、自分以外誰も居ない家の中が、こんなに寂しいなんて知らなかった。
「なのにそんなグズグズ泣いてんの知ったら、あの人結婚したこと後悔しちゃうよ?」
「お前に言われたくない」
 そんなの言われなくたってわかっている。やっぱり結婚しなければよかったなんて、自分のせいで思わせたくない。姉には笑っていて欲しい。心配なんてかけたくない。
 なのに一人が寂しすぎて、姉が結婚する前の日々に未練たらたらで、家の中に姉の気配が欲しくて女装して過ごすのが止められない。
 そんな自分に自己嫌悪しながら、泣き疲れて寝ていただなんて、姉に知られるわけには行かないのに。
「つうかそもそもなんでアンタがここに居るんだよ。どうやって入った。完全不法侵入だろ」
「あ、やっとそこ? どうやって入ったって、そんなのお前の姉さんから合鍵預かってるからに決まってる。ついでに言うと、そのお姉さんに心配だから様子見てって頼まれたから、わざわざ来てやってんだけど」
 やれやれと言った様子で感謝しろよと告げられたけれど、感謝なんか出来るはずがなかった。

続きました→

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体調不良につき明日の更新はお休みします(雑記)

先週木曜くらいから咳メインで微妙な体調不良が続いていたんですが、とうとう熱が38℃超えたので明日の更新はお休みします。
既に2回通院済みなんですが、熱上がったらインフルの検査に来てねーって言われてるから、明日行ってきます。
インフルじゃないといいなぁ〜
予防接種したんだけどなぁ〜

年末の忙しい時期ですが、みなさんも体調お気をつけ下さい。

 
 
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青天の霹靂

 父親同士が親友だとかで、互いの家は同県とはいえ端と端の遠さなのに、幼い頃は良く二家族揃って出かけたり、長期休暇中は相手の家に泊まったり、逆に泊まりに来たりと割合仲が良かった。けれど成長するにつれ、互いの溝は分かりやすく深く広がっていった。
 理由ははっきりしている。父親たちも学生時代の大半を捧げていたという、とある競技の才能が自分にはないからだ。
 部活のレギュラー程度なら努力だけでもどうにかなるが、その上となると難しい。競技自体は楽しいが、地域の選抜は当たり前でユースの県代表にも選ばれるような活躍をしている相手とは、はっきり言って既に生きている世界が違う。県代表になれば一緒にプレイできるよと、だからお前も選ばれなよと、何の躊躇いもなく口に出来る子供というのは残酷だ。
 多分それが決定打で、自分は彼をやんわりと避けるようになった。元々県の端と端で、中学に上がってからは部活優先だったから、プレイベートで会うのなんて年に一度か二度程度になっていたし、県大会などではお互い部の一員として参加しているのだから、顔を合わせたってそうそう親しく話込むこともしない。なので避けると言ってもあからさまに突き放したわけではなく、前より少しそっけない程度でしかなかったけれど。
 残念ながら、自分たちのように息子同士も競技を通じて親友に、などと思っていただろう父親たちの望みは叶うことなく、力量の差がありすぎて同じ道を進むことも、同じ景色を見ることも出来そうにない。
 そう悟って、大学に進学すると共に、真剣に競技に打ち込むのは止めた。競技そのものは好きだから、練習日が週に三回程度の社会人サークルに参加はしたが、大会などでそこそこの成績を収めている大学公認の部活は練習を見に行くことすらしなかった。
 納得済みの選択で、そこに未練なんてない。社会人サークルでも十分に楽しかったし、それなりに充実した大学生活を送っていた。
 しかしその生活は、翌年の春にひとつ下の彼が同じ大学に入学してきて一変した。
 最初の衝撃は、彼が進学する大学を知った父からの報告電話で、最初は絶対に嘘だと思った。うちの大学に進学する意味がまったくわからなかったからだ。
 確かに大学の部活もそれなりに強い。でも全国大会常連校という程ではないし、彼なら他からも色々スカウトが来ていたはずだ。
 次の衝撃は、ちゃっかり同じアパートの空き部屋に入居を決めて、近所になったから宜しくと挨拶に来たときだ。こちらが避けていたのはある程度感じていただろうに、なんのわだかまりもありませんという顔で笑っているのが若干不気味ではあったが、そこはお互い大人になったということで、こちらもなんとも思ってない風を装い宜しくと笑って返した。確かに知った顔が近所にいたらお互い心強いだろう。
 そして今現在、三つ目の衝撃に耐えている。大学の部活に初参加してきたという彼が、怒りの形相で訪れていた。
 大学で競技を続けていると聞いたから来たのに、なんで部活に入ってないんだというのが彼の怒りの理由らしい。
「続けてはいるよ。社会人サークルだけど」
「社会人サークル? それ本気で言ってんの?」
「本気も何もそれが事実だって」
「だからなんでっ!?」
「何でって、将来のこと考えたら学業疎かにしたくないし、それには体育会系のがっつり部活はキツすぎるよ」
「ねぇ、どこまで俺を裏切れば気が済むの?」
 キッと強い視線で睨まれて、さすがに一瞬たじろぐ。それでも競技の関係しないところでまで負けたくはない。
「裏切るってなんだよ」
 腹の底から吐き出す声は不機嫌丸出しだったが、相手は欠片も怯む様子がないから悔しい。
「いつか一緒にプレイしようねって約束したろ」
「馬鹿か。お前、それいつの話だよ。俺にはお前と違って県代表に選出されるような力ないって、さすがにもうわかってんだろ」
「わかってるよ。だから同じ大学入れば一緒にプレイできるって思って入学したのに、なんで部活入ってないんだよって話をしてんだろ」
「いやだから、大学の部活は俺にはハードすぎるって」
「今からでも入ってよ」
「お前、俺の話、聞いてた? というか一緒にプレイしようねなんて子供の約束、とっくに時効だろ」
「俺まだ諦めてないんだけど」
「しつっこいな。だいたいお前、俺に避けられてたの気づいてただろ。そこまで鈍くはないだろ? それで良くそんな事言いにこれるよな」
 避けてたと明言したら、強気の顔がクシャリと歪んだ。
「こんなに好きにさせておいて、どうしてそんな酷いことばっか言うんだよ」
「はぁああああ?」
 好きなのにーと、でかい図体をして駄々をこねる子供みたいにその場に泣き崩れた相手を明らかに持て余しながら、それでもなんとか会話を続けてみた結果、彼の言うところの好きは間違いなく恋愛感情の好きらしいと判明して、一瞬気が遠のきかける。しかもはっきりと仲の良かった小学生時代からという年期の入りようだ。
 全く、欠片も、知らなかった。気付いていなかった。
 あまりの展開に思わず天井を見上げながら、青天の霹靂ってこういうのを言うんだろうなと思った。

有坂レイへの3つの恋のお題:青天の霹靂/こんなに好きにさせておいて/いつまでも交わらない、ねじれの関係のように shindanmaker.com/125562

 
 
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親友の兄貴がヤバイ(目次)

弟の親友がヤバイの続きです。全19話。
前作で恋人になった二人が、クリスマスに初エッチする話。
今回視点が変わって受験生(視点の主)×社会人(親友の兄)。
攻の視点で受の体を弄り回したかっただけ。
オマケとして、翌25日の話を弟の視点で書いたものがあります。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
後半ずっとベッドの上なので、性的描写が多目な話のタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 その後の二人
2話 親友宅で受験勉強
3話 帰り道
4話 クリスマス当日
5話 不安いっぱい
6話 手を握られる
7話 演じられた格好良さ
8話 教えてもらう嫉妬
9話  ベッドの中へ
10話 胸を舐める(R-18)
11話 屹立を握る(R-18)
12話 舐めしゃぶる(R-18)
13話 アナル舐め(R-18)
14話 枕下のゴムとローション
15話 前立腺への刺激(R-18)
16話 飲精(R-18)
17話 ゴム装着
18話 挿入(R-18)
19話 煽られてがっついて(R-18)

オマケ話 童貞卒業した親友がヤバイ

 
 
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童貞卒業した親友がヤバイ

親友の兄貴がヤバイシリーズのオマケ話。弟視点。

 受験生だってクリスマスは楽しみたい!
 というわけで、25日の夕方から既に引退済みの元部活仲間たちと揃ってカラオケに行った。去年も一昨年もイブに騒いだのに、今年だけイブでなくクリスマス当日になったのは、メンバーの一人が最近できた恋人とのデートで参加できないとか言いやがったからだ。
 もちろんそのメンバーと言うのは親友で、最近できた恋人というのは自分の兄なわけだが、さすがにその事実を周りは知らない。彼らが知っているのは、相手が五つ上の社会人であることと、親友が中学時代から一途に想い続けていた相手をようやく落としたという事くらいだった。
 二人が恋人となるまでにかなり協力したのも事実だし、二人の事を応援する気持ちも、生ぬるく見守る気持ちもある。ただ内情を知りすぎていて、周りのテンションとはイマイチ馴染めていなかった。
 クリスマスイブにお泊りデートをすると漏らした親友に、周りが「年上のエッチなお姉さんにあれこれ手解きされつつ童貞卒業」というイメージを持つのはまぁわかる。実際、兄が抱かれる側になるらしい。でもとうの昔に童貞を捨てている兄が男に抱かれるなんて人生を想定していなかったことも知っているし、自宅で受験勉強をしようと言って親友を招いた時には兄の方から色々ちょっかいを出していたのも知っている。
 ものすごく正直に言えば、クリスマス当日の夕方、童貞卒業ではなく処女喪失した親友と対面する羽目になる可能性も考えていた。後はやっぱ無理と兄が逃げてお預けを食らわされた可能性。
 だからカラオケなのに誰も曲を入れずに、さあ洗い浚い昨夜の詳細を吐けと言わんばかりに親友を質問攻めする周りと、困った様子の親友をハラハラしながら見守るだけだった。
 まぁそれは杞憂に終わったというか、親友は無事に童貞を卒業していたし、相当良い思いをしてきたらしい。
 相手が男だとわかるような事を一切漏らさない程度には理性が働いているくせに、問い詰められるままあれこれ口を滑らす親友は、明らかに相当浮かれていた。
 いわく、ヤバイくらいに可愛かったらしい。
 え、相手、あの兄ですよね?
 親友の語る昨夜の恋人はいったい誰それ状態だった。
 語れない部分を隠すためにあれこれ盛ってる可能性もあるにはあるが、親友の性格的に話を盛ることはないだろうって気もする。多分きっと、兄の男らしい部分やらを省くと可愛いが前面に出るしかなくなるんだろうと思った。
 まぁ弟の目から見ても乗せやすくチョロい人ではあるから、それを可愛いと思えないこともない。かもしれないけれど。
 でも聞けば聞くほど、なんだか兄の話を聞いている気がしなくて、結局気付けば自分も、ガッツリ話の輪に加わっていた。
 もちろん親友の初体験話だけで終始したわけではなく、それぞれの恋やら受験やら引退した後の部のことなんかも話したし、途中からはせっかくカラオケなんだからと歌だって歌った。
 そんな数時間を終えての帰路、一人になった後でコンビニに寄ってあれこれカゴに突っ込んだついでに、赤飯のおにぎりも一つカゴに入れる。
 会計を済ませた後は家まで残り数分の距離を、親友と電話しながら歩いた。一応の確認ってやつだ。
「なぁ、お前、本当に兄さん抱いたんだよね?」
 周りに人気がないのをいいことにド直球な問いかけをすれば、電話の向こうで親友がおかしそうに笑う気配がした。
『嘘は一切言ってない』
「うん。でもなんか、お前が話してた相手が兄さんって気がしなかったというか、お前、本当は兄さんと別れてて、昨日は俺の知らない別の誰かとお泊りデートだったんじゃないかとかさ」
 さっき感じたことを正直に告げれば、益々おかしそうに笑った後で、大成功だなという声が耳に届く。
「大成功って?」
『弟のお前が混乱するくらい、俺の相手があの人だってわからないように話せてたって事』
 学区が同じという狭い範囲内に互いの家があるせいか、親友は兄との交際を他人に知られるのを相当警戒しているから、それで敢えてあんな話を聞かせたのかもしれない。
 自分が兄の話をちょくちょく会話に出すせいもあるが、今日いたメンバー全員が兄を間接的に知っている。直接兄と会ったことがある奴だって居る。けれど親友のあの話を聞いて、相手が兄だなんて思いようがないだろう。
「でも嘘は言ってないんだろ?」
『言ってない。本当にヤバイ可愛さだった』
「それ、お前の目とか脳みそがヤバイって話じゃなくて?」
『それは否定できないな』
「だよね。俺のことは可愛いってよりあざといだけとか言うくせに、あの兄さんがめちゃ可愛とか、どう考えてもお前の目がオカシイもん」
『それでいい。あの人の可愛さを俺だけが見れるってなら、むしろ最高だろ?』
 どこまで本気で言ってんのかは、声だけではさすがにわかりにくい。でもきっと本気だ。
「うへぇ」
 そう思ったら口から呆れ混じりの声が溢れていた。親友はまた、今度は楽しげに笑っている。
 本当に今日はどこまでも機嫌がいい。そして親友をそうさせているのは、間違いなく兄だった。
 そうこうしているうちに自宅前に着いてしまったので、それを告げて電話を切る。一度リビングに顔を出して帰宅を告げてから、自分の部屋ではなく兄の部屋のドアを叩いた。
 返事がないのでもう一度、今度は強めに叩いた後、暫く待って勝手にドアを開ける。部屋の中は明るかったが、ベッドの上の兄はどうやらすっかり寝入っているようだ。しかも寝るつもりはなかったのか、布団の中には入っていない。
 仰向けに転がる兄の腕の中には、親友と一緒に選んだクリスマスプレゼントが抱えられていたうえに、随分と穏やかで幸せそうな寝顔を晒していたから、思わず携帯カメラを起動して写真を撮った。
 すぐさま、確かに可愛くないこともないという文面を添えて、その写真は親友へ送ってやる。そうしてから、兄の肩に手を置いて軽く揺すった。
「兄さん、このまま寝たら風邪引くよ?」
「んぅ……」
 声を掛ければ、小さく唸った後でゆっくりと目が開いていく。ぼんやりしたまま数度瞬いて、状況を把握したらしき後はお返りと言いながら身を起こす。
「ただいま。これ、俺からのお祝いね」
 言いながら、手にしたコンビニ袋から取り出したおにぎりを差し出した。
「え、なんで?」
 兄弟間でクリスマスにプレゼントを交換する習慣はない。しかも差し出されているのはおにぎりだ。兄は意味がわからないと言いたげな顔をしておにぎりを見つめるばかりで、手を伸ばしてくることはなかった。
「いやほら、無事に処女散らされたって聞いたから、やっぱ赤飯かなって思って?」
「は?」
「三回もイカされた上に最後顔射されたってマジ?」
「ちょっ、え、嘘だろ」
 あまりの慌てっぷりに、やっぱ本当に一切盛ってないんだなと思う。まぁわかってましたけど。
「色々聞いちゃったー」
「またかよ。何度も思ってることだけど、筒抜けにもほどがあるだろ。あ、ちょっと待って。お前ら今日、部活仲間とのクリスマス会って……」
「うん。皆であいつの初体験、根掘り葉掘り聞きまくった」
 ふひひと笑えば、ものすごく嫌そうに眉を寄せる。気持はよく分かる。
「それお前、一緒になって聞いてたの? 相手俺って知ってて? 信じらんないんだけど。お前、止めろよ。つうかあいつも話すなよ」
「誰それってくらい、兄さんの話じゃなかったから大丈夫」
「意味わかんないんだけど」
「あいつの相手が兄さんだって、誰も気づけないくらい、知ってる俺すら疑うくらい、兄さんのイメージとは全く重ならない話聞かされたんだよね。でも嘘は言ってないってのも本当っぽいから、不思議だよねぇ」
 それとも本当にあいつの前だとめちゃくちゃ可愛くなっちゃうの? と、小首を傾げながら聞いてみたら、嫌そうな顔のまま、それはきっとあいつの目と頭がちょっとオカシイせいと返ってきたから笑うしかない。
「ホントそれ」
 肯定したら、ホッとしたようにだよなと返されるから、あ、ちょっと失敗したと思う。だって親友は本気でこの兄をめちゃくちゃ可愛いって、そう思っていることに違いはないんだから。それを目とか頭がオカシイせいって、兄本人が思っているのはマズイ気がする。
「でもプレゼント抱きしめて嬉しそうに寝てる兄さんは、確かにちょっと可愛かったかも」
「そういうの要らないから。てかこれ、お前も一緒に選んでくれたんだろ? ありがとうな。嬉しい」
「気に入ってくれたなら良かった。ってそうじゃなくて!」
 急に声を荒げたせいで兄は一瞬驚いた顔を見せたが、こんな自分の反応には慣れても居るから、次には苦笑でどうしたと聞いてくる。
「あいつの目とか脳みそがちょっとおかしいせいで兄さんが可愛く見えるんだとしても、あいつはむしろそれが最高だってさ」
「なんでだよ」
「兄さんの可愛さを見れるのがあいつだけだから?」
「どんな顔でそれ言ってんだか」
「それ聞いたの電話越しだったから顔はわかんないけど、声は真剣だったよ。多分本気で言ってる」
 言えば参ったと言いたげに小さなため息を一つ。
「で、お前はそれ聞いて大丈夫だったのか?」
「え、何で俺?」
「あいつ、お前が恋愛の意味であいつ好きって、わかってないだろ。お前があの時とっさに自分と付き合えばいいって言ったのも、あいつの失恋を慰めるために思わず言っただけって思ってるよな。可愛さで言ったら俺よりお前のが断然可愛いのに、俺を可愛いって言いまくるの聞いて辛くない?」
「いや別に。というかその程度で辛くなるなら、二人の応援なんてしないって。俺があいつを好きってことは気にしないでいいからさ」
 学内女子からの告白を、好きな人が居るからと頑なに素気無く断り続けた親友を見てきたからか、想いに気づいた最初からほぼ諦めの付いている気持ちだ。それに信頼のおける親友という立ち位置は心地良い。下手に気持ちを知られて今の関係が崩れるほうがよっぽど困る。
「いやどうしたって多少は気になるだろ。お前、あいつ来ると俺に見せつけるみたいにイチャつくし」
「あ、わざとってわかってた?」
「わかるに決まってんだろ」
「その結果、俺に煽られた兄さんが、さっさとあいつを物にしようと抱かれるの頑張っちゃったってなら、俺はあいつに感謝されるべきだと思うんだけど真相は?」
「ノーコメントで」
「それってほぼ肯定じゃん」
 そんな中、携帯が震えて親友からお返しとばかりに一枚の写真が届く。
「あのさ、ちょっと前言撤回していいかな」
「なんの前言だよ」
「あいつの目とか脳みそがオカシイから、兄さんが可愛く見えるって話」
 確かにあんためちゃくちゃ可愛いわと、送られてきた写真を突きつけてやれば、兄の顔が目に見えて赤くなっていく。
 写真の中の兄は明らかに事後っぽくて、目は泣いたのか少し赤くなっていて、でも蕩けるみたいに幸せそうに笑っていた。その笑顔には確かにあざとさの欠片もない。
 というかカメラの前でこんな顔見せるってどんな状況よ?
 なんか凄いもん見ちゃったなと思いながら、真っ赤になってうろたえる兄がさすがに可哀想になって、送られてきた写真は兄の目の前で消去した。それでも動揺しきったままの兄をこれ以上見ていられなくて、逃げ出すようにそそくさと部屋を出る。結局赤飯おにぎりは受け取って貰えず、自分の手の中に握られたままだった。
 親友には、送られた写真を兄に見せたら真っ赤になって再起不能ぎみになったんだけどどうしようと返信したのだが、多分その後、親友は兄に電話をかけたんだろう。兄の部屋とは隣同士で、会話内容まではっきり聞き取れはしないものの、壁越しでも兄の話し声が聞こえていた。
 ハラハラしながら聞き耳を立てていたが、やがて電話を終えたのか静かになり、次には自分の携帯が親友からのメッセージを受信して震える。ちゃんと許して貰えたから大丈夫という文面に、親友が凄いのか、兄がチョロいのか、きっとその両方だろうなと思いながら、取り敢えずホッとして大きく息を吐いた。

オマケって文字量ではない感じですが、クリスマスだしいいかなと。なんとかクリスマス当日に間に合って良かったです。なお、送られてきた写真は二回目エッチの後に動画撮影されたもの(スクリーンショット)
これで本当に彼らの初エッチ話は終了となります。お付き合いどうもありがとうございました〜

 
 
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