追いかけて追いかけて(目次)

キャラ名ありません。全31話。
同じ大学の大学院生×新入生(視点の主)。という出会いをした二人ですが、メインになってるのは視点の主が大学院生で相手は社会人な時期。5歳差。視点の主は決して小柄ではないけれど、先輩が高身長のためそこそこ身長差あり。
財布をなくして困っていた時に声を掛けてくれた相手に興味を惹かれるまま、追いかけるように転学部・学科までしてその相手と同じゼミに入った視点の主と、好意を隠すことなくダダ漏れにして自分を追いかけてくるくせに、恋人になるのは嫌だと言って譲らない視点の主を諦め悪く追い詰めて、最終的には恋人になると言わせる先輩の話。
途中、視点の主がさして仲が良いわけでもない別ゼミの後輩に襲われる(挿入は指だけ)展開があります。
作中そこまで明確に書いてはいませんが、先輩は高校時代に彼氏が、大学時代に彼女が居た設定。高校時代の彼氏との関係はタチ寄りのリバで非処女。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 人生を変えた出会い
2話 ゼミ訪問で久々の再会
3話 今後を見据えた交流
4話 院進学と告白
5話 恋人にはなれません
6話 侵入者
7話 ヤバイ相手とわかっていても
8話 逃げ切れない(R-18)
9話 呼んでしまう名前(R-18)
10話 駆けつけてくれた友人(R-18)
11話 知られている
12話 だから会いたくなかった
13話 セフレにだってならないけれど
14話 互いの性体験暴露
15話 強引なキスにそれでも安堵
16話 一緒にシャワーを浴びるか否か
17話 信頼している
18話 自分から伸ばす手
19話 耳へのキス
20話 上書きが欲しいわけじゃない
21話 気持ちの切り替え
22話 シャワーの下で(R-18)
23話 罪悪感につけいって
24話 恋人になって
25話 もしもゲイだったなら
26話 黙って従って
27話 こんなに想われていても
28話 今だけ恋人(R-18)
29話 好きです(R-18)
30話 このまま恋人でいたい(R-18)
31話 ズルい大人

 
 
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追いかけて追いかけて31(終)

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 いやでも、彼にそう言わせるだけのことを、してきた自覚もなくはない。
「ごめんなさい。あと、ありがとう、ございます」
 酷い真似をたくさんしたのに、恋人になりたいと言い続けてくれて、自分勝手で欲深い本音を引きずり出して、それを許して捕まえてくれたことに感謝していた。さっき後回しにされた色々だって、きっと一緒に気持ちの落とし所を探してくれるんだろう。逃がす気ないよって言うのがそういう意味だってことは、わかっているつもりだった。
「確かに君はなかなかに残酷だったけど、でもまぁ、一応ちゃんと隙もくれたし、結果的に折れてくれたから謝罪はいらないかな。落とすの楽しんだ部分もないわけじゃないしね。でも物凄く頑張ったのは事実だから、ありがとうはもっと言って欲しい」
 ありがとうを言っての言葉に反射的にありがとうございますと繰り返したものの、言われた内容のオカシサに大量の疑問符が頭の中に湧き上がっていく。
「あの、隙とか落とすの楽しんだ、とかって……?」
 おずおずと聞けば、やっぱ気になるよねと笑われる。でもちょっと待ってと言われて、ぎゅうと抱きしめる腕が緩められ、ゆっくりと体の繋がりを解かれた。
 簡単に双方の汚れの始末をしたあと、相手に請われるまま、今度は隣に寝転がった彼の腕に頭を乗せるようにしてくっつけば、やっとさっきの話の続きをしてくれるらしい。いやでもちょっと待って欲しい。腕枕なんて落ち着かない。しかしもぞもぞと落ち着きなく動いてしまう頭を、ゆるく抱えるようにして撫でられ動きを止めてしまえば、話の続きが始まってしまう。
「つまり、狡く悪く立ち回って、君に気づかせないまま、俺の好きなようにしていい。ってやつだよ」
「は? え? ええっ?」
 腕枕が落ち着かないとか言ってる場合じゃなく驚いて、意味のある単語の一つだって出やしなかった。そんな自分に、彼はおかしそうにクスクスと小さな笑いをこぼしている。
「言われた最初はね、好きにするって言ってもさすがに恋人になるの受け入れて貰うことまでは考えてなかった。行為の上書きを求められたと思ってたし、抱かれた経験がないのも知ってたからね。そんな子の初めてを、どうにか嫌な記憶にならないようにしながら貰えないかな、という下心のが大きかったんだけど」
 さすがに途中で方向性変えたよねと言った相手は、こんなにこんなに自分を好きだと思ってくれてる子を、本当に諦めなきゃダメなのかって思わずにはいられなかったと続ける。そして極めつけが、女性が恋愛対象になるから恋人になりたくないという理由、らしい。それを聞いたら、どこまででも狡い大人になれると思ったと、柔らかで優しい声音が告げた。
「罪悪感にはつけ込んだし、君が情けなく落ち込む俺を突き放せないとこだって利用した。演技で落ち込んだわけじゃないし、君の言葉には相当心揺さぶられたけど、君を落とすためにそれらを表に出して君に見せたってとこも少なからずある。でも、それを君には謝らない」
 それでいいんだよねと問われていいですと返す。こちらが流されて頷いて受け入れたことへの罪悪感なんていらない。狡く悪く立ち回ってくれと頼んだのはこちらだ。
「さっきもチラッと言ったけど、ここまで頑張って手に入れた子、そう簡単には逃してあげられないから覚悟してよ。逃げたがっても、うんと狡く立ち回って、逃げ道塞ぐからね」
 冗談めかした軽い口調だったけれど、本気は十分に伝わってくる。ぜひそうして欲しいと思った。怖くなって逃げたくなっても、彼が上手に逃げ道を塞いでくれるのだと思うと、少しだけ安心する。
「あなたに捕まって、あなたの恋人になれて、本当に、良かった」
 嬉しいと笑えば、俺も嬉しいと笑う顔が寄せられ唇が触れ合った。

<終>

 
 
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追いかけて追いかけて30

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 区切られた時間の中でなら、恋人という関係を目一杯楽しめるんじゃないかなんて、なんて浅はかだったんだろう。
 抱きしめられるとホッとして、何もかも全部、すべてを晒してしまいたくなる。恋人となった彼をこの時間が終わっても手放したくないと考えてしまう欲深さも、彼に自分を選ばせる罪悪感と嫌悪感に耐えられなくなる未来に怯える弱さも、この彼なら許して受け止めてくれるんじゃないかと思ってしまう。
 同時に、それはダメだと引き止める自分もいる。彼にしてきた仕打ちを思い出せと、自分自身に詰られる。そんなのあまりに自分勝手が過ぎる。わかっている。それに、諦めて手を引くのが得策だとわかっていると言われた上での、今だけ恋人という提案だったってことも忘れちゃいけない。
 わかっていながら、それでも。気持ちを晒してしまいたい衝動を抱えて気持ちが揺れた。だって辛抱強くこの体を慣らして拡げてくれた事実も、幸せそうにふにゃふにゃと崩れた笑顔を見てしまったことも、今こうして抱きしめてくれる腕の暖かさも、胸の中をグズグズと甘く溶かしていくばかりなのだ。
 正直な気持ちを言ってしまっても、いいだろうか。そう思った矢先。
「もしかしてだけど、今だけ恋人、ってのが嫌になった、とか?」
 先を越されて唖然とする。
「な……んで……」
「あ、図星? え、ほんと?」
 あわあわと何も返せずにいれば、図星なんだねと疑問符を取っ払って繰り返される。その声は楽しげで嬉しげだ。
 言ってよかったのかと思ったら、安心しきって全身から力が抜けた。
 背を抱く腕の力が抜けたのを感じたらしい相手にそっとベッド上に降ろされれば、そのままずるりと腕が落ちて、拘束の解けた相手が上体を起こす。嬉しそうに笑った相手に見おろされる。
「散々、あなたと恋人にはならないって言ってた俺が、このまま恋人で居たいって言っても、いいの?」
「いいよ。嬉しい」
「でも……」
「うん。不安なこととか、罪悪感だとか、嫌悪感だとか、色々あるのわかってるけど、それはちょっと後回しにしよう。取り敢えず、簡単には逃がす気ないってのだけ、覚えててくれればいいから」
 まずは続きをさせてと言いながらゆるく腰を揺すられ、彼と繋がっている状態を意識させられる。確かに、挿入までにかなり時間を掛けた上に、繋がってからもあんな態度を見せて抱きつき拘束してしまったのだから、相手は相当焦らされきっているだろう。相手からすれば、ここからが気持ちよくなる本番なはずなのに。無事に相手と繋がれただけで、どこか満足しきっていたことを恥じた。
「ふぁっ……」
「痛くない? よね?」
「ぁ、ぁ……」
「大丈夫そうかな」
 確かめるように更に数度小さく揺すられたあと、動くよって宣言されてお腹のナカをぐちゅぐちゅと擦られ始める。押し出されるみたいに喉の奥からあふれる声が、自分のものだなんて信じられない。
 ただその声に煽られるらしい相手が、だんだんと余裕をなくして行くのを見るのはなんだか少し楽しかった。といっても、余裕がありそうだねって笑われた後は、とても相手の観察なんてしてられないくらい、あっさり追い詰められてしまったのだけど。
 経験値の差に太刀打ちできない。初めてだってのに、まさかアナルに相手のペニスを咥えこんだ状態のまま、二度目の吐精を相手の手の中で果たすとか思ってなかった。
 色々な意味で呆然としている間に、相手もどうやらイッたらしい。力を抜いて倒れ込んできたかと思うと、ぎゅうと抱きしめられてしまう。
「やっと、捕まえた」
 耳元で囁かれた声がいやに感慨深くて、さすがに大げさだと笑いそうになった。

続きました→

 
 
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追いかけて追いかけて29

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 好きだとか可愛いだとか繰り返されながら、慈しむみたいな手付きで肌の上を撫でられて、なのに体は簡単に昂ぶっていく。これが彼に、恋人に、愛される行為なのだと、巧みに意識させられ続けているからだ。
 いつの間にやら仰向けに転がされて、自らの意思で足を開いて、恋人に秘所を差し出している。薄いゴムとたっぷりのローションを纏わせた指は、欠片だってこの体を傷つけない。
 乾いた指をむりやりねじ込まれる痛みを思い出して竦んでいた体は、気持ちの準備が整うまでは入れたりしないと宣言されて、その言葉通り、ひたすらアナルとその周辺をぬるぬるな液体まみれにされて、クチュクチュと撫で突かれている間に弛緩した。むしろ早く入れて欲しいとだんだん体が焦れていたから、彼の指がようやく、想像していたよりずっと簡単にするりと体内に入り込んだ時には、いろいろな意味で安堵の吐息を漏らした。
 わきあがる羞恥も快感に変わることを教え込まれながら、小指一本の細さから焦れったいくらいにゆっくりと慣らされて、じわじわと拡げられていく。大好きな男の手によって、より深く愛されるための体に作り変えて貰う。
 彼は酷く辛抱強く、また、どこまでも優しい愛に溢れている。想像通りな気もしたし、想像以上でもあった。
 彼も既に裸なので、股間で反り立つペニスだって丸見えだったけれど、チラチラと視線を向けてしまうこちらに苦笑はしても、早く君の中に入りたいなとうっとり口にしながらも、慣らし拡げる行為を急ぐことはなかった。あまりの焦れったさと、早く入りたいの言葉に触発されて、こちらから早く入れてと頼んでも、上手に躱して宥めてこちらの言葉に流されてくれることもなかった。
 彼と恋人になるというのは、彼に愛されるというのは、こういうことなのだと身をもって知らされていく。刻み込まれていく。
 長い時間をかけてようやく彼と繋がったときも、圧迫感はあっても痛みは予想よりも遥かに少なかった。大事な恋人に痛い思いなんてさせたくないからと繰り返された、先を急ぐこちらを宥める言葉を思い出して胸が詰まる。
「いっぱい焦らしちゃったもんね。俺も、嬉しいよ」
 愛しい子とやっと繋がれたと言って、ふにゃっと崩した笑顔に胸の中で膨らんだ何かが弾ける気がした。
「すき、です」
「うん。俺も好き。やっと、言ってくれたね」
 このタイミングだなんて可愛すぎだよと笑いながら、流れてしまった涙を彼の指先が拭っていく。
「好き」
「好きだよ」
「好きです」
「俺も。すごく好き」
「だい、すき」
「ありがとう。嬉しい。愛してる」
 ふにゃふにゃと嬉しそうに笑う顔にどんどん涙腺が刺激されて、次から次へと涙があふれて止まらない。好きだ好きだとこぼすのも止められなくて、でも、どうしようという焦りも胸の中で広がっていく。
 これは一度限りの思い出になるはずの行為なのに、彼がこんな風に愛を注いだ相手が少なくとも二人いることに、バカみたいな嫉妬をしている。これから先、彼が別の誰かを愛して、その相手にもこんな風に優しく愛を刻み込むのかと思うと、やりきれない焦燥に胸が熱く焦がれていく。
 これは抱えてはいけない感情で、決して表にこぼしてはいけない想いだとわかっているのに、好きだ好きだとこぼすことを覚えてしまった体は、自覚してしまった抱えた想いを隠すことが出来なくなっていた。
「や、やだっ、も、いや、だ」
 好きだ好きだと甘ったるく繰り返しこぼしていた口から、唐突にそんな言葉を漏らされて、相手が驚き焦ったのがわかる。
「ん、なに? どうしたの? 何がいや?」
 探るようにぐっと顔を寄せて覗き込まれ、近づいた体に両腕を伸ばした。簡単に捉えた、意外と筋肉のついた細い体をぎゅうと抱きしめ、逃げるようになけなしの腹筋に力を込めて、その胸元に顔を寄せて隠す。
「ぅ゛う゛っっ」
「ちょっ、無茶しないで」
 強引に動いたせいか、繋がった場所の圧迫感の変動に小さく呻けば、焦った声とともに少しばかり浮いた背中に彼の腕が回されて、宥めるみたいに何度も背を撫でられた。

続きました→

 
 
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追いかけて追いかけて28

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 それなら恋人として触れるし、たくさん好きって言っちゃうよと続いた言葉にも同じように頷いて見せれば、さっそく甘ったるく名前を呼ばれて好きだと囁かれる。宥めるみたいに頭を撫でてくれていた手が、そのままするりと首筋を下りて来て、肩と腕をゆるりと何度も撫でさする。同時に、項やら耳の裏やらに繰り返し唇が落ちて、ただ柔らかに唇を押し付けられるだけのキスに、やっぱり穏やかな快感が広がっていく。
「これが、恋人?」
 ただただ優しい接触には、性的な匂いがあまりない。思わず尋ねてしまったのは、まさかこのまま好きだの可愛いだの言いまくったら、相手は満足して終わるのではと思ったせいだ。
「そうだけど。だって恋人が泣いてるのを放っては置けないよ」
「泣かないで、とも、どうして泣くの、とも、言わないから、まさか泣いてるの慰められてるって、わからないです、よ」
「結果として、こうして話せるくらい落ち着いてくれたんだから、なんの問題もないけど」
 泣いてる理由多分わかってるし、何で泣いてるのなんて聞いたらもっと泣かせちゃうだけでしょと続けながら、肩と腕を撫でていた手が胸側に回ってくる。
「落ち着いたなら、耳以外のキモチイイとこも、探させてね。あと、照れて素直に言えないのもそれはそれで可愛いんけど、できればあんまり遠回しじゃなく、君の好きも伝えてほしいかな」
 本当は君の声ではっきり好きだって言われてみたいと言われて、抱える好意は認めてきたし好意はあるという言い方はしてきたが、好きですと伝えたことはないのだと気付いた。それくらいならすぐにでも叶えてあげられそうだ。そう、思ったのに。
「いいよ、無理しなくて。言おうとしてくれただけで、十分嬉しいから」
「いやその、無理とかじゃ、なくて……」
 好きですのたった四文字を、音にして相手に伝えることがこんなに難しいなんて思わなかった。たくさん好きって言うよと宣言済みの相手からは、すでに何度も繰り返されているのに。
 あなたが好きです。ちゃんと好きです。こんなに好きですって、はっきりと言葉で伝えたいと思うほどに、むずむずとした恥ずかしさが込み上げてしまって口から出すのを阻んでくる。
「意識したら余計に恥ずかしくなった?」
「それは、はい……」
「耳まで真っ赤だもんね」
 ふふっと笑う吐息が耳に掛かって、なんだかますます恥ずかしい上に、じわっとそこに熱がたまる気がした。
「ほんと、嬉しいよ」
「えっ?」
「意識して貰えるのが。俺に好きって言おうって、思って貰えたのが。結局言えなくて、照れちゃうとこもね。さっきまでは見せてもらえなかった姿だから」
 こうして触れてる間にももっと好きになるよなんて楽しげに言われながら、弄られて反応したらしい胸の先を摘ままれ息を呑む。
「可愛い反応だね。俺を好きって意識して、感度上がってるかな?」
「わ、わか、っな」
「何度だって好きって言うから、もっともっと、俺を好きって意識してね。俺たちが今、恋人同士なんだってことも、君は今、大好きな恋人に抱かれようとしてるんだってことも、うんと意識するといい」
「ぁ、ぁあっ……」
 わかってたつもりなのに、言葉にされて初めて、この状況への理解が追いついてくる気がした。背中から伝わる熱も、じわじわと快感を煽ってくる手も、優しい口調で話しかけてくれる声も。自分が知ってる彼のものであると当時に、大好きな恋人のものなんだって、頭が理解して体が反応を返す。キモチイイと言うよりはじんわりとした痛みを軽く感じる程度だった胸の先が、じれったく疼くような快感を生みはじめる。

続きました→

 
 
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追いかけて追いかけて27

1話戻る→   目次へ→

 たどたどしくも何が怖いかを伝えれば、相手からはやっぱり、わかってるよと返ってきた。傷つけたいとも悲しませたいとも思ってないことはわかっているのに、いちいち心揺らされて落ち込んでてゴメンねと、逆に謝られる始末だった。謝られたかったわけじゃないのに。また、余計なことを言ったのかもしれない。
「俺もう、話、しないほうが良くないですか?」
「なんで?」
「なんで、って……」
「俺は、聞きたいけどね。君の、本音」
「でも、その結果、あなた平静じゃ居られなくて、こんななのに」
「落ち込んで君の背中に張り付いてる俺に、幻滅しちゃう?」
「幻滅、は、しませんけど。でも、どうしたらいいかわからない、から」
「しないんだ」
 くすっと笑う気配のあと、ならもう少しだけ待ってという言葉が続いた。こうしている間にも、彼の中ではなにがしかの気持ちの切り替えが行われているらしい。だったら尚更、少し黙ってたほうが良さそうなものだけど。でもこちらが黙り込むのを阻むように、彼の方から話しかけてくる。
「さっき、罪悪感につけこむよって言ったの、さすがに覚えてるよね」
「はい」
「狡く悪く立ち回って、君に気づかせないまま、俺の好きなようにしていい。って君が言った事は? 覚えてる?」
「えっと、はい」
「嘘。忘れてたろ」
 確かに忘却の彼方ではあったけれど、言われてすぐに思い出せるくらいには新しい記憶だ。というかそれをわざわざ今言うってことは、彼にとってはこれも、罪悪感につけ込んでこちらに気づかせないまま、彼に都合よく展開された結果だってことなんだろうか。
 こちらが気に病まないようにという気遣いという可能性のが高そうで、そんなのにわかに信じられないんだけど。
「あなたが落ち込んでるの、演技には見えないんですけど」
「演技なわけ無いだろ」
 呆れた様子で否定された後、そういう話じゃなくてと彼の言葉が続いていく。
「俺が君のひどい仕打ちに打ちのめされて、気持ち揺らされて落ち込んで、こんな状態になってても君が大人しく腕の中に居てくれて、しかも気持ち悪いとも思わず、幻滅もしないって言い切ってくれるのはなんでだろうね。って話」
「悪い大人が罪悪感につけこんで、あなたを突き放せないように変えた、とか?」
「そうだよ。って言ったら信じられる?」
「いいえ」
「だよね。俺も信じない。というか自覚ない」
 はぁああと大きな溜め息が首筋に掛かって熱い。
「こんなにこんなに想われてるのに、俺が女性とも恋愛できるっていうその一点だけで、君と恋人になる未来を閉ざされてるかもなんて、あまりに不条理」
 気持ちに整理つけて諦めたくなんかないよねとぼやきながら、熱い息が掛かった項にそのまま彼の唇が押し当てられるのを感じた。触れられたところを起点に、サワワッと穏やかな快感が肌の上を広がっていく。
「でも君の言い分も一応は理解できるし、きっと強引に納得させて付き合ってもすぐに逃げられちゃうんだろうという予測もつくし、ここは諦めて手を引くのが得策だってのも、わかっちゃうんだよね」
 あーあ、とやっぱりぼやくような息が、背中から心臓を突き抜けてくるみたいで痛い。少しでも痛みを和らげようと、胸元を押さえて背を丸めようとて、相手の腕に阻まれた。そうだ。後ろから抱きかかえられているんだった。
 どうしたらいいのかわからなくて、代わりにギュッときつく目を閉じる。背中を向けているのに何を感じ取ったのか、宥めるみたいに頭を撫でられてじわっと閉じた瞼の隙間に涙が滲んでしまう。泣きたいのはきっと彼の方なのに。そう思うほどに、胸が苦しい。
「さっき、ここにいる間は恋人になってもいいって言ったのは、本気?」
 泣いてしまうのを耐えるように歯を食いしばっていたから、ハイと答える代わりに必死に首を縦に振った。

続きました→

 
 
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