竜人はご飯だったはずなのに13

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 彼の言いたいことは多分わかってる。好きな相手、というのを、彼が酷く純粋に捉えているのもわかっている。
 好きな相手とはセックスしたいものだと言ったけれど、性欲を発散する目的でだってセックスするし、どちらかと言えばここ数年はそんなセックスしかしていなかった。キスをして、好きだとか可愛いとか魅力的だとか囁いて、互いの興奮を煽る真似を楽しむことはしても、好きな相手と肌を触れ合わせて体を繋ぐ喜びなんてものとは久しく縁がない。
 気の合う仲間とパーティーを組んではいたが、その中に恋人と呼ぶような存在は居なかったし、一つの街に拠点をおいての活動でもなかったから、夜を共にしてくれる相手はそのつど探していた。
 そう思うと、決まった一人の相手と長期に渡って何度も繰り返すセックスなんて本当に久々で、だから妙な情が湧いているだけなのかもしれない。この酷く狭い世界に繋がる、数少ない相手を必死で引き留めようとしているだけで、相手を選び放題の環境なら、世話係の彼も食事担当の彼も全く魅力的には思えないのかもしれない。
 そんなことはないと思うけれど、胸を張って言い切れないのは、そうじゃない場合を実際には経験できないからだ。
 こんな体でなければ、こんな幽閉生活でなければ……
 でも、そんなたられば話は意味がない。今現在この体は彼らの唾液や精液を美味いと感じてしまうし、モルモットとしては間違いなく高待遇だが、彼らとしか関われない生活を強いられている事実も変わらない。
「好きの意味、違ったらダメなのか?」
「え?」
「意味違ったって、お前のことを好きは好き。お前と過ごす時間が長いから、お前のことが好き。お前が繁殖期に入って発情したら、抱いてくれないかなって思うくらいには好き」
 俺を抱くのは無理かと聞いたら、それには迷うこと無く首を振られて否定されたから、それだけで酷く安心した。
「なら、お前の繁殖期に、俺がまだ生きてここに居たら、その時は抱いてくれ」
「約束安心するなら、約束する、出来る。でも約束する、あまり良くない、思う」
「なんで?」
「お前、俺好き、思われる」
「好きだよ?」
「それ違う、好き。でも俺、お前に話す、出来ない」
 好きの意味の違いをはっきり説明できないということかと思ったら、彼らの繁殖に関わる話だから、これ以上詳しく話せないということらしい。人である自分が、どのように扱われるかも彼には全くわからないから、これ以上は食事担当の彼に聞いてみて欲しいと言われたけれど、その彼と次にいつ会えるのかがさっぱりわからない。
 しかも彼が来るのは食事のためだし、前回の妙な誤解を考えると、世話係の彼が繁殖期になった時に抱いてもらう約束をしてはいけない理由なんてかなり聞きにくい。それに彼を好きと思われるのが問題みたいな感じだったけれど、既に食事担当の彼にはそう思われている。もちろん、正しい意味の方の好きで。
「そういやさっき、飯係のアイツの代わりにとか言ってたけど、俺の、お前の言う違ってない方の好きな相手、アイツって思ってる? ちなみに、アイツは俺の本命がお前って思ってて、俺が本当に食べたいと思ってるのも、好きって言われたいのも、言いたいのも、世話係のお前のほうって言われてんだけど」
 言ってみたら珍しく少し怒ったような顔をして、それから大きくため息を吐き出した。
「お前、一人寂しい。俺言う。でもわかってない多い。お前、俺を好き思う、仕方ない。あの人を好きになる、当たり前」
 食事担当の彼を好きになるのも当たり前だと断言されて、また少しホッとしたような気がする。
「お前からすると、お前を好きって気持ちとアイツを好きって気持ちにそう差はない感じ? 寂しいから、セックスして好きって思っちゃうみたいなさ」
 しかし肯定してくれるのかと思ったら、そこは首を振られてしまった。
「食事内容、俺、あまり知らない。好きになる当たり前。でも、どの好きか、俺、わからない。ただ、お前もっと来て欲しい思う、知ってる。食事だけ寂しい、知ってる」
 さすが毎日のように顔を合わせている相手は違う。もちろん、彼の観察眼が鋭いというのもあるのだろうけれど。
「お前が俺の世話係で、良かったなって、思うよ」
「俺、同じ。お前の世話係、なった、良かった」
 彼には触れずに布団の上に落としていた手をスルスルと滑らせて、彼の手をそっと握ってみた。一瞬ピクリと跳ねたけれど、いつもみたいに酷い緊張は伝わってこない。
 緩く握り返される感触に安堵しつつ目を閉じれば、あっさり意識が眠りに落ちた。

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竜人はご飯だったはずなのに12

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 ずりずりとベッドの中央へ移動してから寝返りを打って、やっぱり困ったような泣きそうな顔のまま、こちらを見続けていた相手をジッと見つめ返す。
「我慢しなくていいなら、お前、今夜この部屋、泊まってってよ」
 ダメだと思うのにイライラをぶつけるように冷たく言い放てば、相手はあっさり頷いてベッドに乗り上げてくるからビックリした。
「お前の隣、寝る、いいか」
「寝るなら、全部脱いで」
 こちらは脱いでなんて居ないし脱ぐ気もない。それは一方的な要望だ。相手はさすがにビクッと震えて一瞬固まったけれど、それでもすぐに身にまとう布を剥いでいく。黙ったまま黙々と脱いでいて、お前も脱げとは言われなかった。
 恥ずかしそうに顔を赤らめて、時折視線がさまようが、それでも顔を背けてしまうこともない。こちらの要望通り全て脱ぎ捨ててから隣に横たわった小さな体へ、こちらも黙ったまま手を伸ばした。
 互いに無言だけれど、視線だけはしっかり互いを捉えている。その視線からも、手の平の下の皮膚からも、相手の酷い緊張が伝わってくる。
 こちらを心配してくれる相手の厚意につけ込んで、なにをしているんだと胸の内で自嘲しながらも、手の平に触れる感触を手放せないままアチコチそっと撫で擦った。
 食事担当の彼とは少し違うけれど、それでも間違いなく同種の肌触りに、心が浮き立つよりも先に重苦しく沈んでいく。以前なら、世話係の彼をこんなにはっきり触れて撫で回せる時間を、もっと興奮しながら楽しんでいたはずだ。相手の緊張すらも含めて、楽しむ余裕がきっとあった。
「ひぅっ……」
 スリット部を探り当てて、その割れ目を指先でなぞった所で、とうとう悲鳴のような声が漏れる。慌てて口元を覆った手に苦笑しながら、触れていた手をそっと持ち上げて離した。
「無理すんなって」
「でも、お前元気になる方法、俺、わからない」
「ごめん。それは俺も、わかんねぇや」
 でも好き勝手触らせてもらっても、それで元気になれそうにないことははっきりした。そう言ってもう一度ごめんと告げれば、相手はゆるく首を横に振ってから何かを考え込んでいる。
 少ししてから、相手はおずおずと口を開いた。
「お前、目、閉じる。俺、撫でる、する」
「なんで?」
「目、閉じる、する。少し、代わりになる、可能性、ある」
「代わり……って、飯係のアイツの?」
 頷かれて苦笑するしかない。
「それで俺がちょっとでも元気になったら、お前、それでも嬉しいの?」
「嬉しい、思う。おかしいか?」
 素で聞き返されたなと思いながら、やはり苦笑を深くした。
「お前たちには繁殖期があるって聞いたんだけど、お前に繁殖期が来たら、俺のこと、抱く?」
「え?」
「薬の話も聞いたよ。お前には使えないんだってな。お前が俺を抱けないって逃げるのは、今は繁殖期じゃないからで、繁殖期になったら抱いてくれんの?」
「俺……、繁殖期、まだ、かなり先」
「うん。でもアイツよりは周期近いんだろ?」
「それまでに、お前の食事、普通に食べれる、なるはず」
 なんで突然こんな話にと思っているのがありありとわかる様子で、それでも律儀に、戸惑いながらも答えを返してくれる。
「うん。そうかもな。だからさ、その時にそれが食事になるかどうかは関係なく、俺を、抱く?」
「なぜ抱く? 理由、ない」
 本気でわからなそうだった。こんな反応をする相手に、何をどう間違ったら、恋愛感情を抱かれてると誤解できるんだろう。それともそういった感情とセックスは、繁殖期という衝動を持つ彼らにとっては別物なのだろうか。食事担当の彼が当たり前に人のセックスを調べて持ち込んでくるから、なんとなく人も竜人も似たようなものと思い込んでいるだけで。
「人は好きな相手とはセックスしたがるもんなんだけど、お前たちってやっぱ基本セックスは繁殖するためだけにするの?」
「繁殖大事。それも仕事の一つ。でも、」
「でも、何?」
「好きな相手の発情、受け止める、する、嬉しい話、聞く」
「それ、好きな相手と繁殖期が揃わなかった場合、繁殖できなくてもセックス楽しむよって話?」
 聞いたらそこで黙り込んでしまった。そういや薬の話を出された時も、詳しくは言えないがと言っていたっけ。
「あー……言えないなら別にいい」
「俺それ、話す出来るか、わからない。お前が繁殖知る、良くない、思う」
 やはり彼らがどうやって繁殖して数を増やすかなどは、人である自分は知らずに居たほうがいいということらしい。
「だろうな。じゃあ俺達のことだけに話を戻そうか。俺と、食事でも繁殖でもないセックス、したいと思う?」
「なぜ? お前好き、俺じゃない」
 言うと思った。
「好きだよ?」
「俺、お前の世話する。俺、一番お前と居る。好きなる、当たり前」
「俺の好きを否定したのに何言ってんだ?」
「好き、意味、違う。言葉、わからない。でもお前、知ってる」
 わかってるだろうと言いたげな真っ直ぐな瞳に、こちらはやはり苦笑しか返せないから情けなかった。

続きました→

 
 
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竜人はご飯だったはずなのに11

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 この体が久々に勃起した、というのがどれだけ彼らにとって重要だったのかはわからないが、翌朝彼は少し慌て気味に部屋を出ていってしまった。報告してこなければならないと言って出ていったから、多分間違いなく報告したいのは勃起したことだし、そんな事を口に出してしまうくらい慌てていたのも間違いない。
 食事内容は逐一報告されているだろうと思ってはいるが、それをはっきりと認めるような発言は今までなかったから、彼からすれば今回のこれはかなりうっかりの失言なんじゃないだろうか。ただまぁ、そうだろうなと思っていたことが確定したからと言って、別にどうということはない。
 問題は、もしそれがなかった場合、彼がこの部屋を慌ただしく出ていくこともなかったのではないか、ということだ。予定があると言って早々に出ていく時もあるが、起きた後にもしばらくのんびりとこの部屋で過ごしてから出ていく時もある。
 今回がどっちだったのかはわからないし、勃起しなくたって早々に出ていってしまったかもしれないが、朝もなるべくゆっくりしていって欲しいこちらの気持ちを彼は知っているし、なるべくそう過ごせるようにと調整してくれているらしいから、予定があると言ってさっさと出ていってしまう頻度は減っている。
 彼ともっと話がしたかった。だって抱かれる食事の頻度を落としていくのは決定済みだ。会える機会は減るばかりで、彼を食事以外でこの部屋に引き込むすべなんてさっぱり思いつかないままだし、オマケに世話係の彼との仲を大きく誤解されている。
 いやまぁ、お前が抱いてくれと言ったのは体の欲求に切羽詰まってとも言えるけれど、それ以外にも散々誘うような真似は確かにしているし、恋愛駆け引きみたいなことを楽しんでいるし、誤解じゃないなと自分自身思ってしまう部分もあるのだけれど。
 でも、本当に食べたいと思っているのも、好きだと言ってほしいのも、言いたいのも、世話係の彼だ、と思われているのはなんだか癪に障る。彼に抱かれることで湧いている情を、信じてもらえずに否定されたことが悔しい。
 だってあれは、たぶん本気で言っていた。セックスに他者への嫉妬を取り入れてみた、という感じではなかった。
 世話係の彼との仲や彼へ向かう想いを、勝手な思い込みで断定されたせいで、あの後、世話係の彼となんとなくギクシャクしているのも、ちょっと腹が立っている。というか、繁殖期になったら抱いてくれるのかとか、腸内に唾液を注いでくれと頼んだら尻穴を舐めるような真似をしてくれるのかとか、食事担当の彼を本気で好きだと言ったらガッカリしてしまうのかとか、それを確かめたくて、でも聞けずに居た。
 だって、こちらの気持ちをかなり勝手に決めつけられているから、世話係の彼の想いも勝手な誤解と思い込みで話していたんじゃないかと思ってしまう。
 こちらの感覚では、こちらがねだりまくるのに折れて、仕方なく口直しのキスをくれているようにしか思えないのに、既に恋愛じみた感情を抱いているなんてとても信じられない。そうなればいいと狙っていたはずなのに、疑う気持ちばかりで、もしかしたらの可能性を前に欠片も嬉しくないのが、これまたなんとも胸が重い。
 胸の中にもやもやとしたものが積もっていって、でもあれこれごちゃごちゃ考えるのはあまり得意じゃないから、だんだんイライラする時間が増えていく。以前なら、派手に体を動かして、お腹いっぱい食べてたっぷり眠れば、それでなんとなくスッキリしたものだけれど、今はそんな真似が出来る状況にない。
 かといって、さすがに世話係の彼にやつ当たるほど大人げない真似も出来なくて、しかたなく彼を避け気味になる。話し相手もゲーム相手も風呂も断った。そして、相変わらず全く美味しくないけど、でもまずくはなく、比較的飲みやすい液体だった日に、とうとう口直しのキスも要らないと言ってしまった。
 空になったコップを差し出して、さっさとベッドに転がり背を向ける。
「俺、お前と話す、したい」
 さすがに放っておけないと思ったのか、心配げな声を掛けてきた相手に、背を向けたままで嫌だとそっけなく返す。
「俺、触る、する。それも嫌か」
「やだ」
「でもお前、寂しい。我慢する、良くない」
 寂しいってなんだと、思わず背後を振り返ってしまえば、困ったような泣きそうな顔で見つめられていた。

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竜人はご飯だったはずなのに10

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 彼の本気は伝わってくるが、しかし、彼に抱かれて善がりまくった結果こちらのペニスが反応したということに喜んでいるのではなく、久方ぶりに勃起機能が戻りかけている事そのものへ興奮しているのが丸わかりだ。
 こちらの感情的には、あまりの気持ち良さにペニスまで反応したって感じなのに。彼が本来の姿で抱いてくれたことの喜びが、反映されたんだろうなって思ってるのに。
 思わずこぼしたため息に、相手は拒否の意を感じ取ったらしい。
「やはりダメか……あ、それならあの子を呼ぼうか。彼になら、私にされるより、怖くないんじゃないか?」
 良い思いつきだとでも言いたげに身を起こした相手が、ベッドを降りようとするのを慌てて引き止める。
「待てよ。お前が怖いとかじゃないから。怖くないから。怖いわけ無いから」
 その鋭い歯でペニスに傷をつけられる恐怖なんてあるわけがない。そんなことするわけがないと信じられる。きっと細心の注意を払いながら、優しく舌先だけを使って愛撫してくれるはずだ。
「しかし、私に舐められるのは嫌なんだろう?」
「だからそれは怖いかどうかじゃねぇの。俺の、気持ちの問題」
「気持ち?」
「初めてその姿のまま俺を抱いて貰ったの、メチャクチャ気持ちよかったんだよ。それこそ意識飛んだり、勃起しかけたりするくらい善かったの。だからもーちょいその余韻に浸らせろって」
 ハッとした様子で気まずそうに口を閉ざした相手は、もともと余韻を欲しがる情緒的なものへも理解がある。でもそれは飽くまでも理解の範囲で、こちらに合わせてくれているだけだ。今回はこちらの体が常とは違う反応を示したせいで、それどころじゃなかったんだろう。
「自分の立場はわかってるつもりだし、俺の体の機能が戻っていくことに、あんたが、いや、あんたたちが興味津々なの仕方ないとも思うけど、でも、これが食事だとか俺の体がそっちの都合で活かされてるモルモットだとか、そういうの、今日はこれ以上、思い出させんなよ。頼むから」
「わかった。すまなかった」
「いや、いい。それより、あんたは大丈夫なのか?」
「大丈夫とは?」
「だって普段ならとっくに寝落ちてるはずだろ」
「ああ……そうだな。確かに」
 気落ちした様子でおとなしく隣に横になった相手は、いつものようにすぐに目を閉じてしまうことはなかった。
「寝ないの?」
「その、少しだけ、触れてみてもいいだろうか」
「え、どこに?」
 驚いたのは、本来の姿の彼がこちらに触れたがることなんて、今まで一度もなかったからだ。こちらから撫でて欲しいなどと、本気でねだったこともない。というよりも、この姿の彼には、それをねだるような隙がなかった。
 いつも疲れ切った様子ですぐに寝てしまうし、寝て起きた後はさすがに甘ったるい気配なんて欠片も残していない。もっと構えと軽く誘うことくらいは出来るが、せいぜい会話が増える程度で、こちらの体に触れてくることはなかった。
「どこでも。お前が、私に触れられても大丈夫だと思う場所があれば」
「なんだそれ。どこ触られたって平気だよ」
 そうかと言いながら、おずおずと手が伸びてくる。人の皮膚とは違う鱗に覆われた手だけれど、それが滑らかに肌を滑る気持ち良さを知っている。それを教えてくれたのは、目の前の彼ではなく、世話係の小さな彼の方だけれど。
 うっとりと身を任せているうちに、その手は肩から首筋を擽るみたいに辿って、何度か優しく髪をすいた後で離れていった。
「ありがとう。おやすみ」
 もう終わり? と思う気持ちもあったが、やっぱり限界だったらしい。安堵と陶酔を混ぜたような囁きを残して、相手は瞼を落として軽い寝息をたてはじめてしまった。
 まぁいいかと擦り寄るように身を寄せて、勝手に彼の肌を撫で擦る。小さな彼とはやはり鱗の大きさが違うけれど、手触りはそこまで大きな差がない。特に胸から腹にかけては余計な突起もほぼないし、ほんの少し冷やりとして、滑らかな手触りが酷く気持ちが良いのだ。
 ほぼ毎回、スリットを弄られ起こされているのだから、寝ている彼に好き勝手触っているのは知っているだろうけれど、寝落ちた直後に彼を愛しげに撫でる手には、果たして気付いているだろうか。
 疲れ切って寝姿を晒す彼は、もちろんこちらへの警戒心も緊張もない。それがどれほどこちらの気持ちを柔らかく解すのか、知っているだろうか。
 多分、気付いていないし知らないんだろうなと思って、小さなため息を吐き出した。

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竜人はご飯だったはずなのに9

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 少し慌てた様子で、何度も大丈夫かと声を掛けられ意識が戻ってくる。重いまぶたを持ち上げれば、心配そうな顔に間近で見下されていた。
 つい先程まで上に乗って見下ろしていたはずなのに、どうやら意識が飛んだ間に、繋がりは解かれて寝かされてしまったようだ。チラリと相手の下腹部を確認したが、やはり使い終えたペニスは収納済みで、こちらを善がり飛ばすほどの凶悪ペニスは結局拝みそこねてしまった。
 残念だが、それはまた次の機会に狙えばいい。それより今は、体に甘く残る、じんわりと痺れるような快感を堪能しておこう。
「すげぇ……」
「凄い? 何がだ?」
 ほぅ、と吐き出す息が既に随分と甘ったるい。なのに相手はこちらが意識を飛ばしたことに焦ったままなのか、ずいぶんと食い気味に尋ねてくるから、小さく笑ってしまった。
「ん、善すぎて意識飛ぶとか、まさか自分で経験するとは思ってなかったな、って」
「よすぎて?」
「そ、善すぎて」
 何を言っているんだと言いたげに問われたけれど、頷き肯定してやる。
「気持ちが良いと意識が飛ぶなんてことがあるのか? 変な体勢で負担が掛かったとかではなくて? そこまで空腹ではないところに、いつもと同じだけ注いだからという可能性は?」
「善すぎて体が持たないって、こーゆーことだよ。いやまぁ、さすがに俺も、ここまでなると思ってなかったけど」
「本当の本当に、気持ちが良かった、だけ、なんだな?」
「そうだよ。でもゴメンな。焦ったよな」
「当たり前だろう。二度と、この姿で御前を抱くことはしない」
「はぁ? なんで? めちゃくちゃ気持ちよかったって言ってんのに?」
 次からも最後の一回はこっちの姿で抱いてよと言っても、相手はあっさりきっぱり嫌だと返してきて取り付く島がない。
「それより、お前のペニスなんだが」
 勃っていると言われて、慌てて自分の下肢に視線を送った。
「お、おお……勃って……るほどではないけど、確かにちょっと反応はしてるっぽい」
 ずっとうんともすんとも言わずに垂れ下がるばかりで、排尿すらない現在はただの飾りと化していたペニスが、確かにほんのり形を変えて起き上がりかけている。
 スライムたちに尿道を弄られすぎたのか、いつの間にかペニスは勃たなくなっていた。もちろん射精なんてしないし、ここへ連れてこられた最初の頃なんて、先走りで濡れることもほとんどないくらい乾ききっていた。
 何度か抱かれるうちにほんのりと汗をかくようになって、尻穴を突かれて感じると濡れるようにもなっていたけれど、ずっと形は変わらず柔らかなままだったから、これはけっこう大きな変化だと思う。
「少し、弄ってみてくれないか」
 言われなくても弄りまわして確かめたいところだけど、興味津々に見つめられながら自ら弄るというのはどうなんだ。さすがに少し恥ずかしい気がしたけれど、すぐに今更かと思い直して、軽く息を吐きだし諦める。
 言われるまま股間に手を伸ばして、甘く勃起したペニスをそっと握り込んだ。
「どうだ?」
「んー……ちょっとはキモチイイ。けどやっぱ全体的に滑りが足りない。これ以上ゴシゴシやったら逆に痛くなる。あと、圧倒的に興奮が足りない」
 今にも食いついてきそうな真剣な顔の竜人に見つめられながらの自慰なんて、興奮するどころかさすがに萎える。せめてもう少しエロい雰囲気で見つめてくれればいいのに。薬が切れたせいかなと思うと、なんとも残念でつまらない。
 結局、ちゃんと情が湧いているようなことを言いつつも、薬に引きずられてそんな気持ちが湧くってことなんだろう。薬が切れてしまったら、この体への興味なんて、生きた貴重なサンプルとしての意味合いが強くなってしまうのだ。
 そう思ってしまったら、余計に萎えてしまった。大きなため息とともに、握っていたペニスを放り出す。
「舐めたら少しは興奮するだろうか?」
「は? なんだって?」
「滑りが足りないんだろう? やはりこの姿でその場所に口付けられるのは怖いか?」
 もう一度人型に戻る体力も魔力もないと悔しげに言う相手は、どうやらかなり本気で言っているようだった。

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竜人はご飯だったはずなのに8

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 毎回、彼が本来の姿に戻るところを見ているけれど、いつもは薬の効果が切れて性器も萎えきった状態で戻るから、竜人の勃起状態のペニスというものがどういうものかというのはさっぱりわからない。だから一度繋がりを解いてから戻ってもらって、じっくり観察したい気持ちもなくはなかった。ただ、これ以上焦らさないのが条件だったし、なにより誓うと告げた直後には、あっさり魔法を解かれてしまったので口にだすことはしなかった。
 それでも頭のなかでは、終えた後にすぐ抜けば竜人のペニスが拝めるだろうか、なんてことを考える。しかしそんな事を考えていられたのは、人の姿が魔法特有の淡い光に包まれぼやけている間くらいだった。
「ぁ、っ……ちょっ……なに、これ……」
「大きさはそこまで変わらないはずだが?」
「サイズ、じゃ、なくてっ」
 いや、サイズも確実に違うけど。慣れきった穴でも、ミッチリ感増したけど。
「かた、ち?」
「多少凹凸が変わった程度のことが、腹の中でわかるものなのか」
「たしょう、じゃ、ねぇっ」
 腹の中が圧迫される位置が大きく変わった気がする。そんなことがわかってしまう程度に、人の姿の彼のペニスを、自分の腹の中は覚えてしまっているってことでもあるけれど。
 確かめるようにそっと腰を持ち上げていく。ズルズルと腸壁を擦っていけば、より一層、凹凸の違いを感じ取ってしまう。人型の時に比べて、圧倒的に、凹凸が増えている。そしてそれぞれの段差がデカイ。一度のストロークで受ける刺激が倍増どころじゃなかった。
「あっ、……ぁんっ……んんっ……」
「焦らさないんじゃなかったのか?」
 こちらが感じすぎてしまって、相手をイカせるほどの激しい動きが全然出来ていない自覚はある。
「いや、だって、こんなの聞いて、ない」
「同感だ。同じ人型での行為より、こちらの姿のほうが圧倒的に感じる、なんて聞いてない」
 次回からはもう少し積極的に応じることも考えるなんて言ってくれたのは嬉しいけれど、応じるなら今回と同じように、魔法を解くのは最後だけがいいと返した。
「これで一晩抱かれんのは、ちょっと、むり」
 善すぎて最後までこちらの体が持たないと思う。
「そんなにか?」
「ん、凄い、イイ。ついでに眺めも、いい」
 自分よりもずっと体格の良い竜人にまたがって見下ろしているという、なんとも不思議な興奮がある。しかも双方、色濃く淫らな気配を纏いながら、体を繋いで快楽を貪っているのだ。
 人の姿をしていても相手は竜人と頭ではわかっていても、やはりただ男に抱かれている、という認識ばかりが強かった。でも今は違う。紛れもなく、雄の竜人に、抱かれている。竜人のペニスに、貫かれている。
 背徳感が凄いが、興奮も凄い。
 これは食事で、こちらを生かすための手段だとわかっているけれど、それを意識して惨めにならないようにと気遣われているのも知っている。ただの実験体かもしれないけれど、極力そう思わせずにいてくれる。
 こんなに優しい種族だなんて、ちっとも知らなかった。人の姿で抱かれるより興奮するのは、竜人という種族に対する好意のせいもありそうだった。
「あと、嬉しい」
「嬉しい?」
「人の姿が俺のためってわかってるけど、こっちの姿のが、好きだから」
 言えば少しの沈黙の後、どこか気まずそうにそうかと返された。相手は元の姿で繋がりあうことへの興奮はないらしい。
 残念だと思ってしまった気持ちをごまかすみたいに、腰の動きを再開した。けれどなんとか相手をイカせようと頑張ってはみるものの、快楽にのまれてしまってなかなか思うように動けない。
 そして結果的に、相手を焦らされ切る寸前まで追い込んだらしかった。
「すまない。そろそろ終わってもいいだろうか」
「ん、ごめん。焦らさないって、言ったのに」
 動いてと頼めば、すぐに下からガツガツと突き上げられる。すぐに射精してくれたのでそう長い時間ではなかったけれど、それでもその短時間で未知の快楽に叩き込まれた気がした。

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