寝ぼけてキスをした

 今日の講義は3限からなので、のんびりと起きだした朝。とりあえず何か飲みたいと思いつつキッチンへ向かうが、併設されたリビングの惨状に、冷蔵庫へ辿り着く前に足を止めてしまった。
 リビングの床にスーツを脱ぎ散らかして、下2つだけボタンの止まったYシャツにトランクスというひどい格好でソファに沈んでいるのは、従兄弟でありこの家の世帯主でもある男だ。親の間でどういう話があったのか、入学したら大学の近くで一人暮らしが出来るのだと思っていたのに、気づけばこの従兄弟の家に放り込まれていた。
 最初は本当に苦労した。なんせ従兄弟とはいっても年が離れすぎていて、一緒に遊んだような記憶どころか、話しをしたという記憶すらほとんどない相手だ。正直、いきなり見知らぬ他人との共同生活が始まったといってもいい。
 しかし共同生活におけるルールがある程度決まってしまえば、多忙な従兄弟とはすれ違いも多く、ここでの生活は既に2年を越えたがけっこう気楽に過ごせてもいる。最初は憂鬱だったここでの暮らしは、思っていたよりもずっと快適だった。
 ソファの脇に立って、改めて従兄弟を見下ろす。確か14ほど上と聞いた気がするから、そろそろ30代も半ばだろうか。眠っていてさえ疲れの滲みでている顔には無精髭が伸びていて、ボサボサの頭髪にはちらりと白いものが混ざり始めている。
「わー……いつにも増しておっさんくさい」
 起きていたらさすがに咎められそうな事を、そこそこの声量で口に出しても、相手は依然無反応だ。
 こんな場所で無造作に寝るから余計に老けていくんじゃないのか? と思いつつも、だからといって起こしたほうがいいのかはわからなかった。忙しいのは知っていたが、さすがにこんな状況は初めてだからだ。
 パッと見、疲れてる以外のおかしな様子はないけれど、まさか具合が悪くてここで力尽きたという可能性もあるだろうか?
 そっと額に手のひらを当ててみたが、とりあえず熱はなさそうだ。
 ますますどうしようか迷いつつ、目の前に垂れていた結び目だけ解いて首にぶら下がったままのネクタイを、なんとなく握って引っ張った。スルリと抜けるかと思ったそれは何かに引っかかって、従兄弟の頭がぐらりと揺れる。
 あ、まずい。と思った時には従兄弟の目がゆっくりと開いていく。
「ご、ごめん。起こすつもりはなくて」
 体はネクタイを握ったままフリーズしていたけれど、口だけはなんとか動かした。従兄弟はぼんやりとした表情のままこちらの顔を見て、それからネクタイへと視線を移す。
「なに? 人の寝込み襲うとか、お前欲求不満なの?」
「は? ちょっ、んなわけなっ、うぁ……って、なんだよっ」
 否定の途中、結構な力で腕を引かれてよろけて倒れこめば、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「んー? ちゅーくらいならしていいぞ」
「だからっ! 欲求不満じゃ」
 ない、という言葉は続けられなかった。
 14も年上の、だらしなく小汚いおっさんにキスされたという衝撃でそのまま硬直していたら、「うわっ」という慌てた様子の声とともに、唐突に突き飛ばされて尻もちを付いた。
「えっ、ちょっ、何してんの」
 何してんのはこっちのセリフだと思ったけれど、それは言葉にならなかった。なんで朝からこんな目にと思いつつ相手を睨みつけたけれど、正直怒りよりもショックが強くて泣きそうだ。
「あー……悪い。スマン。多分寝ぼけた」
「酷い。色々酷い。小汚いおっさんにキスされたなんてトラウマになりそう」
「小汚いおっさん、ってお前もたいがい酷いぞ」
「ホントの事だろ。てか自分が今どんな格好してるかわかってんの?」
 言ったらようやく自分の格好に気づいたようで、情けない顔になって本当に悪かったと繰り返した。その後はソファの周りに散らかした服類をまとめると、それを抱えてそそくさとリビングを出て行く。
 尻餅をついたまま、そんな従兄弟を視線だけ追いかけてしまったが、彼から掛かる言葉はもうなかった。酷いとかズルイとかの単語が頭のなかをグルグルとまわる。のどが渇いていたことを思い出して立ち上がるまで、随分と時間がかかってしまった。

続きました→

レイへの3つの恋のお題:寝ぼけてキスをした/キスしたい、キスしたい、キスしたい/あと少しだけこのままで
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(攻)俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕

俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕 の攻側の話を同じお題で。

 突き上げるたびに、あっ、あっ、と溢れる吐息は甘く響いて、相変わらず随分と気持ちが良さそうだと思う。見た目や口調や振る舞いからは、真面目で堅物というイメージを抱きがちな先輩が、こんな風に男の下で蕩ける姿を、いったい何人の男が知っているんだろう?
 現在付き合っている恋人は居ないと聞いている。けれどこうして、恋人でもない自分を誘って抱かれているのだから、他にも気軽に誘って楽しむ相手がいるかもしれない。
 自分は先輩が初めての相手で、いまだ先輩以外を知らないのに。
「男ダメじゃないなら、俺で卒業してみる?」
 そう言って笑った時、先輩はかなり機嫌よく酔っていた。多分半分以上、童貞であることを揶揄われただけなんだろう。
 少しムキになった自覚はある。
 話の流れで、童貞捨てたいんすよねーなんて言ってしまったのは、先輩も童貞仲間なんだろうと勝手に思い込んでいたせいだ。真面目な先輩からは、今カノどころか元カノ関連の話が出たこともなかったから、交際未経験なんだと思っていた。
 対象が男なら今カノも元カノも話題に上らないのは仕方がないし、隠しておきたい気持ちもわかる。自分だって、男の先輩相手に童貞を捨てた事を、友人たちには隠している。
 こんな関係になった後も、一度たりとも抱かせろと言われたことはないし、童貞かどうかは結局聞けないままだけれど、あの時点で少なくとも処女ではなかった。まさかこんなエロい体をしてるなんて思っても見なかった。
「ふっ、……アァッ、そこっ……」
「センパイここ、強くされるの好きですよね」
「ん、イイ、そこっ、…ぁあ、あっ、も、……っ」
 どこが気持ちいいのか、どうすると気持ちいいのか、言葉にしてわかりやすく教えられたせいで、どこをどうすれば先輩が気持ちよくなれるのかは知っている。回数を重ねるごとに先輩はあまりあれこれ言わなくなったけれど、今はもう、先輩が漏らす吐息や短い言葉からその気持ち良さがわかるようになってしまった。
 自分なりにネットで調べてあれこれ試すこともしているが、先輩は楽しげに、俺の体で色々ためしやがってと笑う程度で、それを咎めることはしない。気持ち良ければなんでもいい。みたいなスタンスは、ありがたいようでなんだか寂しくもあった。
 自分ばかりがどんどんこの関係にのめり込んでいくのが目に見えるようで、なるべく行為に及ぶ間隔はあけるようにしているけれど、このイヤラシイ体の持ち主がその間どうしているのかを考えるのも辛い。いつ、恋人できたからこの関係はもうおしまい、と言われるかもわからないのに、恋人になってくださいなんて言って、逆に面倒だと切らえるのも怖い。
 俺のこと、どう思ってるんですか?
 聞きたいのに聞けないまま、都合の良いセフレを演じている。そんな関係への不満は少しずつたまっていた。
「そろそろイきそう?」
 良い場所をグイグイと擦れば、切羽詰まって息を乱しながらも必死に頷いている。
「ん、んっ、イ、きそ……あ、ぁぁ」
 先輩が昇りつめるのに合わせて、衝動的にその胸元に齧りついてやった。
「ぅああ、ちょっ、なに……?」
「所有印?」
「は、……なに、言って、あ、あぁっ」
 咎められそうな雰囲気を笑顔で封じながら、こちらはまだ達してないので、イッたばかりで敏感になっているその場所を、更に強めに擦りあげる。
 見下ろす先輩の胸元には赤い印がしっかりと刻まれていて、それを見ながら自分自身が昇りつめるのはいつも以上に心身ともに気持ちがよく、けれど果てた後はさすがに気まずかった。いくらなんでも痕なんて残したら怒られるに決っている。
 しかし、くったりと横たわる先輩は胸元にはっきと残っている痕に気づいていないのか、何も言わない。いつも通り、満足気な顔でうとうとと眠りかけている。
「寝ます?」
 これまたいつも通りそっと頭を撫でてやれば、ふふっと幸せそうに口元をゆるめながら、「うん」と短い応えが返った。
「鍵は新聞受けな」
「はい」
 こちらの返事にもう一度小さく頷いて、先輩はすっかり眠る体勢だ。
 あーこれ絶対痕が残っていることに気づいていない。それとも、わかっていて不問なのか?
 そうは思ったが、起こして問いただすなんて出来るはずもなく、文句を言われるにしてもこれは次回に持ち越しだ。
 衝動で付けてしまったその印を軽く指先でなぞってから、グッと拳を握りこむ。こんな目立つ場所に痕を残したことを申し訳ないと思う気持ちはあるが、後悔はあまりなかった。
 問われて咄嗟に所有印と言ったあれは本心だ。もし他の誰かにも抱かれているとしたら、その相手にこの人は俺のだと主張したいのだ。
 先輩とのこの時間を惜しむ気持ちは大きくて、終わりという言葉は怖いけれど、そろそろこの関係をはっきりさせる時期に来ているのかもしれない。先輩の穏やかな寝息を聞きながら、次回スルーで不問にしろ、咎められるにしろ、あなたが好きだと言ってみようと思った。

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俺のことどう思ってる?/君しか知らない/見える位置に残された痕

 鏡の前に立ち、ため息を一つ。Tシャツの襟首ギリギリのところに、小さいとはいえない鬱血痕が残されている。
 つけられた時のチリリとした痛みを思い出して、眉間に力が入るのがわかった。所有印だなんて言って笑った相手の顔まで、一緒に思い出されてしまったからだ。
 面白半分で、付けてみたいという欲求だけで、試してみただけのくせに。
「なにが所有印だ、バカ」
 小さく毒づいてみるものの、もちろんそれを聞かせたい相手はとっくに帰宅済みで、虚しさだけが大きくなる。恋人でもない相手に、こんな痕をやすやす残させた自分が、相手以上にバカなのだ。
 友人とすら呼べるか疑問の自分たちの関係は、広義で大学の先輩と後輩だ。相手は、自分がたまたま教授の頼まれごとで大きな荷物を移動させていた時に、やはりたまたま通りがかってしまっただけの新入生で、本来なら先輩後輩としての付き合いすら生まれることのなかった相手だ。
 入学早々巻き添えを食らって肉体労働をさせられてしまった彼に、申し訳無さから学食をおごると言ったのは確かに自分だ。しかし、それで手伝いはチャラになるはずだった。まさかそのまま懐かれて、学年もサークルもバイト先もなにもかも違ってほぼ接点のない相手と、互いの部屋を行き来するほどの仲になるとは思っていなかった。
 少しお調子者でいつも笑顔を絶やさない彼は、自分なんかと付き合わなくても、友人も頼れる先輩も大勢いるはずなのに。なんとなく居心地がいいから、というなんとも曖昧な理由で、気が向くと声をかけてくる。
 あの日、なんであんな話になったのかはもう思い出せないが、自分は間違いなく酔っていた。仲の良さそうな女友達もたくさんいるくせに、実は童貞で、捨てたいけどなかなか機会もなくてなどと言い出した相手を、好奇心と揶揄い半分に誘ってしまった。酔ってはいたが、もしドン引きされて最悪この関係が切れたとしても、彼との接点がなくなって困ることはないという判断はあったと思う。
 自分の性対象が同性である事にはもう随分と前に気づいていたが、そういった人が出入りする場所や出会い系などを試す勇気はなく、同性とどうこうなる機会を持つことはなかった。つまり、自分にとってもチャンスだった。
 結果彼はその提案にのり、なんだかんだセックス込みの関係が続いている。好奇心旺盛にあれこれ試されて、こちらも充分楽しい思いをしているが、しかし真夏にがっつりキスマークなどを残されれば、さすがに溜息だって出る。
 現在恋人はいない。とは言ってあるが、実は自分もまったくの初めてだったとは言っていない。相手にしてみれば、経験豊富なお姉さんに手ほどきされて童貞喪失。というありがちな設定の、お姉さんがお兄さんになった程度の感覚なんだろう。
 性対象が同性で、しかも抱かれたい欲求に気づいてから、オナニーでは後ろの穴も使っていたから、初めてらしからぬ慣れた様子を見せたはずだ。本当はこちらもそれなりにいっぱいいっぱいだったけれど、年上としての矜持やら誘った側の責任やらもあって、余裕ぶって見せてしまった自覚はあった。
 鏡を見つつ、そっと鬱血痕に指先を這わせてみる。大きな痣のようにも見えるそれは、押した所で痛みなどはない。痛くもないのに気になってたまらないのは、襟首ギリギリで人に気付かれるかもという不安ではなく、やはり「所有印」という単語のせいだ。
 もちろん彼からの好意は感じているし、自分だって彼のことは好きだ。しかしその好意が恋愛感情かと言われると、途端に自信がなくなる。彼の気持ちもだけれど、自分の気持に対しても。やはりこの関係は、気軽な性欲発散の相手で、つまりはセフレなのだと思う。
 どんなつもりでそれを口にしたのか。彼は一体自分をどう思っているのか。多少なりとも所有したいという欲求からの言葉なのか。
 確かめてみたい気持ちもないわけではないけれど、きっと確かめることはないんだろう。

後輩側の話を読む→

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親友に彼女が出来たらクラスメイトに抱かれる事になった(目次)

日々投稿する小ネタのつもりで書いたもので、正直こんなに長く書く予定がまるでなかったものなので、キャラの名前は一切出てきません。途中けっこう後悔しました。でも名前つけて出すタイミングがわかりませんでした。
彼だのあいつだのが誰を指すのか、わかりにくい可能性があります。読みにくかったらすみません。
 
登場人物は 視点の主・親友・クラスメイト の3人です。
親友に彼女が出来たさい、親友に片思いしている主にクラスメイトが、やらせるなら慰めてやると代理セックスのお誘い。
行為を重ねるうちに主の気持ちは親友からクラスメイトへ移っていくが、好きになったとはいえずに親友が好きな振りを続けてしまう。
そんな主ですが、最終的にはクラスメイトと恋人になります。

下記タイトルは内容に合わせたものを簡単に付けてあります。
なお、シリーズに移すにあたって、「色々コネタ」「R-18コネタ」のカテゴリは外しました。「R-18コネタ」で投稿したものに関しては、タイトル横に(R-18)と記載してあります。
タグもこの目次頁に一括して載せ、各頁のものは外してあります。

12月31日追記。
続編「大学生になったら親友にも彼氏ができたかもしれない」(全2話)追加しました。

1話 おかしな誘いに応じる
2話 始める前の確認
3話 キスだけでもう気持ちが良い
4話 手と口で(R-18)
5話 重ねる行為に情がわく(R-18)
6話 親友に気付かれて話し合い
7話 親友の応援
8話 クラスメイトからの告白
9話 気持ちの確認
10話 恋人同士のH(R-18)

< 続編 >
大学生になったら親友にも彼氏が出来たかもしれない1
大学生になったら親友にも彼氏が出来たかもしれない2(終)

 
 
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親友に彼女が出来たらクラスメイトに抱かれる事になった10(終)

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 今までも可愛いと言われながら触れられることは多々あって、恋人になったからといって、その言葉や響きに大きな変化があったわけじゃない。変わってしまったのはその言葉を受け取る自分自身だ。
「ん……、ふっぁ…ぁ……」
 薄いインナーシャツの上から両胸の先をいじられるだけでも、熱い吐息が抑えられない。胸の先がしびれるように疼いて、連動するように、触れられても居ないペニスの先まで疼いてしまう。
「胸だけでそんなに感じて、相変わらず可愛いな」
 少し楽しげに、そしてどこか嬉しげに笑む顔は優しい。この表情だって、前とそんなに変わったわけじゃない。ただ、気づけることが増えたのだ。
 そういえば、最初は楽しげだとか嬉しげだとかという表情だって、読み取れはしなかった。こちらにそんな余裕がなかったのもあるが、目の前の男はあまり感情表現が豊かではないせいが大きい。
 なのに今はどうだろう。可愛いという言葉の響きの中に、柔らかに笑む瞳の中に、愛しくてたまらないといった彼の感情が溢れているのを感じるようになった。パッとはわかりにくい彼の感情表現にも、ずいぶんと慣れてきたたようだ。
 嬉しくて、けれどまだ少し恥ずかしい。顔が熱くなるのを感じるから、きっと赤面しているんだろう。
「いや、最近はますます可愛くなったか」
「だ、って、お前が……」
「俺が?」
「俺のこと、すごく好きって、わかるから」
「隠すのをやめたからな」
 好きだよと続く言葉に、やはり嬉しさ半分照れくささ半分。
「ねぇ、前は、本当に隠してた?」
「どういう意味だ?」
「好きって言ってくれるようになった以外、実はそんなに変わってない。気もして」
 気づこうとしなかっただけで、前からずっと、愛しいという気持ちで触れてくれていたに違いない。それを「優しい」という一括りにして、目をそらしていただけなんだろう。そのほうが都合が良くて、なにより彼と向き合うのを怖がっていたから。
「まぁ、最初からお前が好きで誘ったし、途中で気持ちが変わったわけではないからな」
「ずっと、気付かなくてゴメン。お前だって辛かったろ?」
 別の相手を好きだと言い続ける相手を、ずっと優しい態度で抱き続けてきたのだ。
「それを気にされると困るな。人がいいのもお前の魅力の一つではあるが、俺はお前の弱みに付け込んだだけだぞ」
 感度の良さと快楽への弱さは嬉しい誤算だったが、と続けながらシャツをまくり上げられ、胸の先を直に摘まれて捏ねられた。
「ぁああっっ」
 油断して上げてしまった大きな声が恥ずかしいが、相手はしてやったりと満足気だ。
 そのまま胸の先を緩急をつけつつクリクリと摘まれ続ければ、既に張り詰めたペニスの先から、トロリとこぼれる先走りを感じてしまう。
「ぁっ、あっ、ダメぇっ」
 その訴えに、彼はちらりと視線を下腹部へ落とす。
 シワになるからと制服のズボンは最初に脱いでいたので、きっと下着に広がる先走りのシミを見られてしまった。そう思うと体の熱が更に上がっていくのがわかる。自分で自分を追い詰めるような悪循環だった。
「このままイッてみないか?」
「ヤぁ、だっ」
「替えの下着はあるんだろう?」
 まだ恋人関係になる前、一度下着の中で果ててしまって以降は、確かに一応持参している。ただ、あの時は下着の上から握られ擦られたのが原因で、胸を弄られるだけでイきたくなんてなかった。
 両親共働きで案外家事スキルの高い相手は、汚してもまたウチで洗ってやるぞと言いながら刺激を強めてくるから困る。
「やっ、やぁっ、ダメ、ムリっ、むりだっ…て」
「仕方ないな」
 やめてもらえると思ってホッと息を吐いたその瞬間。
「あぁあっだめぇっっ」
 股間の膨らみをグリっと圧迫される刺激に、たまらず声を上げて果ててしまった。何が起きたかわからなくて呆然としていたら、汚れた下着を脱がされる。
「奥、触るぞ」
「今、何したの?」
「ん? ああ、膝で押した」
「ひざ……」
 そうか、あれは膝の刺激なのか。
「やだって言ったのに」
「だから胸だけでイかせるのは諦めた」
「ずるい……」
「言っただろう。もっとたくさんの快楽を刻みこんでやると」
 いつか胸の刺激だけでもイけるようになって貰うと宣言されて、今は触れられていない胸の先が、先ほどの刺激を思い出して疼いてしまうのだから、きっとそんな日もそう遠くなく訪れそうだ。
「お前から離れられないように?」
「そうだ」
「とっく、んあぁっ」
 とっくにそうなってる。と告げるより先に、ローションをまぶし終わった彼の指先に入口を掻かれて、別の声があがってしまう。
「お前が思うより、きっと俺は欲深い。この場所も、もっともっと気持ち良くしてやりたいが、しかし恋人になったことを後悔してる、などと言われるのも困るな」
「言わねーよ」
 即答したら、彼にしては珍しいほど、随分と嬉しげに笑われてマイッタなと思う。だって恋人になったら、なんだかだんだん相手が可愛くなってしまった。正確には、可愛いと感じるようになってしまった。
 だから、ぬるりと入り込んできた彼の指が与えてくれる、まだ緩やかな刺激に甘い吐息をこぼしながら。
「お前が好きだよ。お前こそ、もっともっと欲深く俺を求めて、俺なしじゃいられなくなればいいよ」
 告げたら中を弄る指の動きが止まった。驚いた様子でこちらを見下ろす呆然とした顔に笑いそうになる。というか笑った。
「本気だよ」
 笑いながらもダメ押しとばかりに本気を伝えれば、うっすらと相手の頬が色づいていくから困る。照れる彼なんて初めて見た。
 可愛いなぁという気持ちはどうやらそのままこぼれたらしく、ますます驚き照れさせてしまったので、彼が持ち直して行為が再開するまで少しばかり待たされたけれど、こんな風にまだ知らない彼を、これから先もたくさん知ることになるのだろうと思うと楽しみで仕方がない。この男と、恋人という関係に進めてほんとうに良かったと思った。

< 終 >
数話で終わるつもりだったのに、長々とお付き合いどうもありがとうございました。

続編ができました。続編を読む→

 
 
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親友に彼女が出来たらクラスメイトに抱かれる事になった9

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 勢いで立ち上がってしまった後、落ち着くように言われて再度座り直し、そこから更にいろいろと話し合った。もちろん、互いの想いについてが主な話題だった。
 こちらの気持ちの変化はなんとなく感じていたものの、親友が好きだという態度を崩さなかったので、ずっと気づいていないふりをしてくれていたらしい。しかも、いつから好きだったのか聞いたら、あっさり声をかけた最初からだがと返ってきてなんとも言えない気持ちになった。彼はこちらの負担にならないようにと、ずっと自分の気持ちを隠していたようだ。
 確かに初めて触れられた時、あまりの優しさに好かれている可能性を考えた。最初に感じたあれは、どうやら間違いではなかったらしい。
 いつだって自分の都合のいいように解釈し、彼の気持ちを一度も確かめることをしなかったのは自分だ。なんてバカバカしい話だ。もっと早く確かめればよかった。
「お前を好きになったなんて言ったら、気持ちよさに気持ちが引きずられてるだけってか、こんな関係にあるからとか言われるんじゃって思ってた。関係解消したらそんな気持ちはなくなるだろうって言うかなって」
「実際それは間違ってないんじゃないのか?」
「それはそうかもだけど。だってこんな関係になってなかったら好きになりようがないだろ」
「そうだな」
「俺はさ、お前に好きって言えないことより、この関係をやめるって言われるのが嫌だった。気持ち隠してでも、お前に抱かれていたかった。臆病でごめん」
「いや、気持ちを隠していたのも、相手の気持を確かめずに居たのも、お互い様だろう」
「最初から俺を好きだったのに、俺の変化感じても俺の気持ち、確かめようとは思わなかったの?」
「確信があったわけではないからな」
 お前とそう変わらない臆病者で、それどころか、相手の弱みに付け込んで抱こうと考えるような下衆だと続けて、彼は自嘲気味に笑う。
「でもお前はずっと優しかったよ。無茶しなかったし、キモチイばっかだったもん」
「それも、無茶して嫌われたくなかっただけだ」
「じゃあさ、いつ、確信したの?」
 聞いたらあからさまに動揺されて、あまり感情を表に出さない彼にしては珍しくて驚いた。
「え、何? なんかヤバイこと聞いた?」
「あ、いや……それは、なんというか、少し後ろめたい事情が……」
 聞かれたくないことには触れないほうがいいのかとも思ったが、口ごもるというのもやはり珍しくてますます興味が湧いてしまう。
「なにそれめっちゃ気になる」
 彼は少し迷った後、わかったと言って立ち上がった。それからリビングの窓を開けて、こっちへ来いと誘う。
 促されてベランダに出れば、彼は手すりの向こうを指さして、わかるかと言った。そこにあったのは先日親友と話しこんだ公園だ。ここが2階というのもあってか想像以上に近い。
 マンション脇の公園というのは当然認識していたが、彼の家の位置などは頭になかった。しかも彼の部屋はリビングと反対側にあり、部屋から見える位置に公園はないのだ。

「え、嘘。俺らの声、聞こえた?」
「全部が聞こえていたわけじゃないが、それなりに」
 すまないと言って彼は律儀に深々と頭を下げる。
 怒る気にはならなかったが、それでもやはり、なんとなく恥ずかしい。あの日の会話を聞いて確信を持ったというなら、彼への想いを吐露した部分は聞かれているに違いないのだ。
「時々、お前が切なそうに泣いている理由が自分にあるとも、そこまで気持ちが育っているとも思ってなかった。だから俺も色々考えたんだ。お前があいつを好きだと言い続ける限り、このまま知らないふりを続けたほうがいいかどうか」
「そういうプレイかもしれないし?」
「完全に自覚があって、しかも既に抱きあう仲だというのに、好きだと言わない理由がわからなかったんだ。さっきまでは」
「けっこーくだらない理由で安心した?」
 彼とのエッチが気持ちよすぎて、自分の心よりも体の快楽を優先した結果だなんて、なんともしょうもない理由だという自覚はあって、照れ隠しに笑ってみせた。
「丁寧に慣らしたかいがあったな。とは正直少し思ったが、理由を知って逆に不安になったこともある」
「不安?」
「これから先も気持ちが良い思いはさせてやれるが、俺自身はさっきも言ったように、弱みに付け込んででも好きな相手に触れようとするゲスな面もあれば、こうして盗み聞きだってするような男だからな。こんな男はお前の本来のタイプとはだいぶ違うだろう?」
 確かに、親友と目の前の彼とでは随分と違う。似ているところがあるとすれば、自分に優しいところくらいだが、その優しさの表現はやはりだいぶ違っている。けれどどんな理由にしろ、好きだと思ってしまった気持ちは、いまさら変えようがないのだ。
「こんな話を聞いた後でも、まだ俺を好きだと言えるか?」
「言えるよ。好きだよ」
「お前の気持ちが肉体的快楽に引きずられたものである可能性が高くても、お前の想像とは真逆で、関係解消なんて欠片も考えないどころか、これから先もっとたくさんの快楽を刻みこんでやろうとか、それでますます俺から離れられなくなればいい。なんてことを考えていても?」
 もっとたくさんの快楽を刻み込んで、なんてセリフだけで、期待にドキドキしてしまう。それくらい、既にこちらの体は、彼によってイヤラシく作り変えられた後なのだ。
「いー、よ」
「では、もう一度言うが、お前が好きだ。恋人として付き合ってもらえるか?」
 今度はもちろん、嘘だなんて言わずに頷いてみせた。

続きました→

 
 
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