罰ゲーム後(目次)

Wバツゲームの続きです。全19話。
前作で恋人になった二人が、先輩が抱かれる側でセックスする話。糖度高め。
視点そのままで、バスケ部の高校1年生 × 帰宅部の高校3年生(視点の主)。
いつか途中分岐して後輩受けルートも書きたい気持ちがあって、途中までは相変わらず受け攻めだいぶ曖昧です。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。また、後輩が中学時代の処女彼女とのセックストラウマ(流血関係)を語るシーンがあります。

1話 再告白
2話 学食奢り最終日
3話 友人の見解
4話 土曜夕方の教室で
5話 待ちきれない玄関先
6話 先に帰った結果
7話 夏休み直前
8話 抜き合い中断(R-18)
9話 セックスするのが怖い
10話 セックスのトラウマ
11話 もしする時は抱かれる側で
12話 お出かけデートの結果
13話 もっと深く繋がりたい
14話 体を慣らす(R-18)
15話 花火デートの後
16話 繋がる(R-18)
17話 不安の正体(R-18)
18話 甘やかし上手
19話 ずっと、恋人でいたい

 
 
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合宿の夜

 夏合宿最終日前日の夜、連日のハードな練習で疲れきった体は重く、初日は慣れずになかなか寝付けなかった布団でも、横になって早々眠りに落ちていた。このまま朝までぐっすりコースのはずだった。なのに無理矢理意識を浮上させられた。
 自業自得の尿意なんかじゃない。背後から誰かに抱き込まれている。その上、尻の穴で何かが蠢いてもいた。口元を大きな手の平で覆われていて、どこか息苦しいのも原因の一つかもしれない。
 だんだんと覚醒してきた頭が状況を飲み込んで、慌てて瞼を押し上げ、同時に体を起こそうとする。
「暴れないで」
 起き上がるのを阻止するように口元に当てられていた手にグッと力がこもって、耳元では優しい声が囁いてくる。こうなるのを見越していたようで、焦った様子は特になかった。
 声はよく知った友人のものだったし、友人と言いつつも時折一緒にエロいことをしあう仲になっているので、とりあえず部の誰かに襲われているわけではないらしい。ホッと体の力を抜いて身を委ねれば、押さえつける力もあっさり抜けていく。
 でも、だからといってこんな場所で寝込みを襲ってきたことを許したわけじゃない。
「そのまま大人しくしててね」
 尻穴に埋まる指が再度動き出して、しかも明らかにその場所を拡げる動きをしている。
 まさかここで突っ込む気か?
 今は合宿中で、周りには自分たちの他にもたくさんの部員が一緒に寝ているのにか?
 冗談じゃないぞと焦って、嫌がるように身をひねろうとしたが、やはりそれもあっさり押さえ込まれてしまう。
 今まで、体格差や力の差をこんな風に示されたことなんてなかった。一緒に抜きあうのがエスカレートした時、相手が抱く側になるのを許したのは、こちらを気遣い尽くし決して無茶なことはしないと信じられたからだし、事実、酷い目にあったと思ったことはないし、気持ちよくして貰っているから続いている。
 こんなのは嫌だ。場所とかももちろん問題だけれど、それよりも、いくら抱かれることにそこそこ慣れているからって、こちらの意思を無視して強引に進められるのが気に入らない。
 周りにバレる覚悟で騒ぎ立ててやろうか。でももしこんなことがバレたらどうなるんだろう?
 二人一緒に部を追い出される可能性やら、友人知人どころか親や先生にまで事情が伝わる可能性やらを考えてしまったら、やはり今だけは耐えて、朝になってから気が済むまでボコるのが正解なのかもしれない。
 嫌だ。嫌だ。悔しい。そう思いながらも奥歯をグッと噛みしめる。
「ゴメンね。本当に、ゴメン」
 泣きそうな囁きに、さすがにおかしすぎると少しばかり冷静になった。合宿中で抜けなくて溜まったから突っ込ませて、的な理由で襲われているわけではないのかもしれない。
 何があったと理由を聞いてやりたいのに、口元は依然覆われていて声は出せない。そして、うーうー唸って喋らせろと訴えるにはリスクが高すぎる。
 取り敢えず一発やれば気が済むんだろうか。
 どっちにしろ耐える気にはなっていたのだから、ボコる前にちゃんと理由を聞いてやろうと思いながら、抵抗したがる気持ちをどうにか抑えて相手に身を委ねることにした。
 こちらのそんな意思は相手にも伝わったんだろう。ありがとうと囁かれた後は黙々と尻穴を拡げられ、繋がり、ひたすら声を殺しながら互いに一度ずつ果てて終わった。
 どこに用意していたのか相手だけではなく自分も途中でゴムを装着されていたので、布団を汚すようなことはなかったはずだが、終えた後も余韻どころじゃなくテキパキと後始末を済ませていた友人が、二人分の使用済みゴムや汚れを拭ったティッシュやらを纏めてそっと部屋を出ていく。
 始めぼんやり見送ってしまったが、慌てて起き上がりその後を追った。こちらが追いかける気配にはすぐに気付いたようで、大部屋を出た廊下の少し先を歩いていた友人が苦笑顔で振り返る。
「ちゃんと見つかりそうにないとこ捨ててくるから、あのまま寝ちゃって良かったのに」
「寝れるわけ無いだろ。というか、何が、あった?」
「それは、ほんと、ゴメン」
 困ったように視線を逸らされて、ムッとしながら両腕を上げた。相手の両頬を思いっきり挟んでやって、無理矢理こちらを向かせて視線を合わせる。
「俺が聞いてるのは理由。理由によっては許してもいいって言ってんだよ。わかるだろ?」
「もし許せないような理由、だったら?」
「取り敢えずボコる。気が済むまで」
 許してやる場合はボコらない、とまでは言わないけど。
「え、それだけ?」
「どういう意味だ」
「絶交だとか、友達辞めるとか、部活ヤメロとか」
 言われてなんだか血の気が引く気がした。つまり絶交するとか友人辞めるとか部活やめろとか言わせたくて、あんな無茶をしたって言うんだろうか。
「それを俺に、言わせたいのか?」
 吐き出す声が緊張で少しかすれた。
「ち、違うっ」
 すぐさま慌てたように否定されて、ホッと安堵の息を吐く。
「じゃ、なんだよ」
「気が済むまでボコっていいけど、聞いても嫌いにならないでくれる?」
 あんな無茶しておいて、嫌いにならないでくれなんてよく言えるな。とは思ったが、嫌いになれるような相手なら理由なんてわざわざ聞かないし、速攻縁切って終わりにするだろうし、つまりはこんなバカな事を聞いてくることに湧き出す怒りのほうが大きい。
「ごちゃごちゃうるせぇ。早く言えよ」
「嫉妬、した」
「は? 嫉妬? 誰に?」
 渋々と言った様子で告げられたのは、一つ上の先輩の名だった。確かに最近アレコレ構ってくれることが多くなった気はしたし、こちらもそれなりに慕ってはいるけれど。
「最近お前可愛がってるのあからさまになってたし、この合宿で一段と距離縮めてきたし、お前も満更じゃなさそうで、なんかもう不安になりすぎて、いっそ先輩にお前は俺のだって、俺のチンコ突っ込まれて気持ちよくなってるとこ見せつけてやりたくなって、無茶、した」
「ツッコミどころ多すぎんだけど」
「わかってるよ。満更じゃなさそうでもお前に先輩と付き合う気がないこととか、お前は俺のものなんかじゃないってこととか、先輩が寝てた位置的に、先輩が気づくほど派手にやったら周り中知れ渡るとか」
「先輩が俺を狙ってるみたいなのだって、お前の勘違いだろ」
「いやそこは譲れない。というか先輩に直接お前貰うって宣言されて焦ったのもある。というか多分それが、あんな無茶した一番の、理由」
「っは、マジかよ」
 マジだよと返ってくる声は確かに、嘘や冗談を言っている感じではない。
「でも俺にそんな気ないのはわかってたんだろ」
「そんなの、先輩が本気で告白してきたら、お前がどうなるかなんてわからないよ。俺とノリで抜き合って、流されるみたいに抱かれるのまでオッケーしたお前なら、先輩とだってノリと勢いで恋人になるかもしれないだろ」
 男同士で恋人とか正直イマイチわからないのだけれど、もし先輩と恋人になったら、こいつと抜きあったりセックスしたりを続けるのは浮気って事になってしまうんだろう。それが嫌なのは、今後も都合よくエロいことをし合える友人で居たいから。なんて思えるほど、鈍いつもりはなかった。
「まぁ先輩ともノリで抜き合えるかっつったら多分平気ではあるな」
「ほらぁ」
「それより、告白されたらその気なくてもノリと勢いで恋人になるかもって思ってんのに、お前が俺の友人続けてる理由ってなに?」
「えっ?」
「嫉妬して無茶してあんな風に俺を無理矢理抱いて所有権を主張するくせに、俺とは友人として気持ちよくエロいことし続けたいってのは、あまりにお前に都合良すぎじゃねぇか?」
「え、えっ、つまり……?」
「下らない嫉妬でアホな無茶するくらいなら、お前が俺の恋人になれよって言ってんだけど」
 男同士で恋人なんてと思う気持ちがないわけじゃないけれど、でもまぁこいつとならそれも有りか、という程度には友情以上の感情も既に湧いているらしい。
 心底安堵した顔で、嬉しそうに、そのくせ泣きそうに、俺の恋人になってと告げる友人を見上げながら、きっとこれで良いんだと思った。

お題箱から <合宿の寝静まった大部屋で布団の中、友人にやられちゃう話>
大遅刻すみません。長くなりすぎました。分けて出そうかと思ったんですが、サクサクお題消化していきたいので全部出しです。

 
 
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兄弟に欲情しています(目次)

キャラ名ありません。全9話。
2歳差の兄弟でセックスは弟が抱く側です。
精通後ずっと弟をオカズにオナニーしている兄と、そんな兄のオナニーをオカズに抜いてた弟が、オナニーしたりアナニーしたり相互オナニーの末、セックスまで経験しちゃう話。セックスよりもオナニー・アナニーがメインな感じ。
視点は兄→弟→兄→弟→兄と移動します。
どちらの視点でも恋愛感情にはあえてほとんど触れていませんが、兄の方は後ろめたい気持ちがチラチラとこぼれています。
兄は好きを自覚するのが怖くて目を逸らしてるようなイメージ。弟は赤裸々に求められているので、今はまだ単純に浮かれてるようなイメージで書いてます。
いつか兄が自分の気持ちに目を逸らせなくなった時、兄は弟から逃げていくと思うので、その時に弟がどうするのか、慌てて追いかけるのか、そもそも逃さないのか、そんな彼らの未来をアレコレ想像するのが楽しいです(余談)

下記タイトルは投稿時に付けたものそのままです。
性的な内容が含まれないものがないので、タイトル横に(R-18)の記載はしていませんが全話R-18です。タイトルに「弟」が付く場合は兄視点、「兄」が付く場合は弟視点です。

1話 ショタ/弟に欲情しています
2話 兄に欲情しています
3話 弟に欲情しています2
4話 兄に欲情しています2−1
5話 兄に欲情しています2−2
6話 弟に欲情されています1
7話 弟に欲情されています2
8話 弟に欲情されています3
9話 弟に欲情されています4

 
 
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卒業祝い

 次の日曜に三時間ほど時間貰えませんかと、ひとつ下の後輩に打診された時から、なんとなく予測は付いていた。
 後輩と自分はいわば同士で、簡単に言えば二人とも性愛の対象が同性だった。知ったのはたまたまで、というよりは、なんとなくそうかなとカマをかけたらあっさり相手が引っかかった。
 正直とてつもなく嬉しかった。はっきり同性愛者だと自覚のある人間は、自分の周りでは今のところ彼だけだ。それまでは仕方がないと思いながらも、やはり心細く思っていた。自分と同じと思える相手が近くに居ることが、こんなにも心強いとは思わなかった。
 きっと彼も同じだったのだろう。昨年度の文化祭実行委員会で一緒だったと言うだけの、はっきり言ってかなり薄い関係だし、学年だって違うから学校ではたまにすれ違って挨拶をする程度の接点しかないのに、気づけば頻繁にメッセージをやりとりする仲になっていた。
 それでもそこに恋が生まれたり、セックスをするような関係に発展したりしなかったのは、彼には長年想い続ける相手がいたのと、とりあえずやってみたいなんて理由で他者と触れ合う軽さが一切なかったからだ。
 そもそもカマをかけたのだって、きっと好きな男が居るんだろうと思ったせいだし、最初っから想い人がいる相手に恋なんてしようがない。いくら身近で同じ姓嗜好を持つのが彼だけだからといって、無理やり自分に振り向かせようとはさすがに思わなかった。行為だけでもと誘ったのだって一回だけで、きっぱり断られて以降はしつこく誘ったりもしていない。
 それで関係がギクシャクしたり、ギクシャクで済まずにバッサリ切られてしまったら元も子もない。そんなことになるくらいなら、男が好きだということを隠さずに済む、素の自分を互いにさらけ出せる、居心地のいい友人的なポジションを維持する方を選ぶに決まってる。
 なのに今、行為の誘いをはっきりきっぱり断ってきたはずの相手が、率先して自分をラブホに連れ込んでいた。
 男二人でラブホを訪れたのに、すんなりと部屋まで到達できたあたり、きっと事前に色々調べてきたんだろう。
 真面目で、几帳面で、そしてとても臆病な子なのに。その彼にこんなことをさせている責任の半分くらいは、多分きっと自分にある。
「数日早いですけど、卒業、おめでとうございます」
 部屋の中を一通り見回した後、くるりと体ごと振り返って後輩が告げた。声が固いのは緊張のせいだろう。
「ああ、うん。それは、ありがとう?」
 返すこちらの声は、戸惑いが滲みまくった上に、最後何故か語尾が上がってしまった。けれどそれへの指摘はなく、彼は用意していたのだろう言葉を続けていく。
「今日のこれは卒業祝いって事で。シャワー、使いますか? 口でして欲しいとか言い出さないならどっちでもいいです。あと俺の方は一応来る前に使ってきたんですけど、もう一度浴びてきたほうが良ければ行ってきます」
「あのさ、本気かどうかなんて聞くまでもないのわかってんだけど、それでも聞かせて。初めてが好きじゃない相手で、ホントにいいの?」
 自分としてみないかと誘った時は、そういうことはやっぱり本当に好きな相手としたいのでと言って断られたのだ。あの時彼は、乙女みたいなこと言ってすみませんと恥ずかしそうにしていたけれど、こちらはこちらで、やってみたい好奇心だけで誘ったことを恥じていた。
「好きじゃない相手、ではないです。一番ではないですし、きっと恋でもないんですけど、それでも先輩のこと、あの時よりずっと好きになってるので。先輩となら、経験しておくのも悪くない、って気になりました」
 あの時自分は彼に、お互い経験しておくのも悪くないと思わない? と言って誘っていた。あの時よりは好きになっている、してみてもいいと思えるくらいに好きになっている。そう言って貰えて嬉しい気持ちは確かにあるのに、今にも苦笑が零れ落ちそうだ。
 その言葉が嘘だと思っているわけじゃない。ただ、長いこと彼が想い続けていた相手に、最近かわいい彼女が出来てしまったという、別の理由があることを知ってしまっているだけだ。
 想い人の名前をはっきりと聞いたことはないが、さすがに一年以上恋バナを聞いていればわかってしまう。その相手との直接の接点だってないが、相手は同じ学校の生徒だし、もっとはっきり言えば彼と同学年でこちらからすれば後輩だし、その相手が所属している部活の部長だった男とは同じクラスで仲もいいほうだ。ついでに言えば相手の彼女となった女子が部のマネージャーだったものだから、卒業間近のこの時期なのに、元部長の羨望混じりの愚痴という形で、自分の耳にまであっさりその情報は届いてしまった。
 しかしこちらが知っていることを、彼は知らない。だから指摘する気はないけれど、でも卒業祝いだなどと言わず正直に、失恋したから慰めてとでも言ってくれれば良かったのにと思う気持ちは確実にある。
「それに、先輩が卒業してしまうのは、やっぱり寂しいです」
「卒業するからって、連絡断ったりしないよ? 辛いことがあったら、いつだって連絡してきていいんだからな?」
「でも、先輩の大学、遠いじゃないですか。卒業式の翌日に引っ越しって、言ってましたよね」
 また独りになると続いた声は、ほとんど音にはなっていなかったけれど、まっすぐに見つめていたせいで唇の動きと共に聞き取ってしまった。そして酷く不安げに瞳が揺れるのまでも捉えてしまったら、想い人に彼女が出来たからという理由がどれくらいの割合で含まれていようが、そんなのはどうでもいいかと思ってしまった。
 恋が出来る相手ではなかったけれど、自分だってやはり彼のことは好きなのだ。多分、今のところ一番に。
 数歩分離れていた距離をゆっくりと詰めた。好奇心でしてみたいのではなく、好きだからこそ相手に触れたいと思う。
「じゃあ、卒業祝い、貰ってく」
「はい」
 頷いた彼の瞼がそっと閉じられるのを待ってから触れた唇は柔らかく、けれどかすかに震えているようだった。

 
 
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120分勝負 うっかり・君のそこが好き・紅

 部活終了後、部室で着替えていたら一足先に帰り支度を終えた後輩がススッと寄ってきて、先輩これどうぞと小さな横長の箱を差し出された。意味がわからず着替えの手を止めて相手を見つめてしまえば、先輩にあげますと言いながらそれを胸元に押し付けてくる。
「お、おう……じゃ、サンキューな」
 何がなんだかわからないまま受け取り、取り敢えずで礼を言った。しかし受け取っても後輩は隣を動かない。つまり、この場で中を確認しろということか。
 仕方なく手の中の箱を開けて中身を取り出す。出てきたのは多分口紅だった。なんでこんなものをと思いながら首を傾げてしまったのは仕方がないと思う。
「先輩にはそっちの色のが絶対似合うと思うんですよね」
 そんな自分に気付いたようで、隣から説明するかのような言葉が掛かったが、それを聞いて一気に血の気が失せた。
「はい、お前居残り決定な」
 周りに聞こえるように声を張り上げ、戸惑う後輩を横に残して着替えを再開する。後輩がなんでとかどうしてとか尋ねてくる声は無視をした。だって相手をする余裕なんてまるでない。内心はひどく動揺し焦っていた。
 どうしようどうしようどうしよう。一体どこまで知られているんだろう。
 昨年の文化祭後、先輩たちが引退して演劇部の部長を引き継ぎ、部室の鍵閉めをするようになってから、誘惑に負けるまでは早かった。なんだかんだと理由をつけて他の部員たちを先に帰した後、中から鍵を掛けた密室で、部の備品を借りてひっそりと女装を繰り返している。
 成長期を終えたそこそこガタイのある男に、ピラピラのドレスも、長い髪も、ピンクの頬も紅い唇も、何一つ似合わないのはわかっている。姿見に映る自分の姿の情けなさに、泣いたことだってある。それでも止められないのは、変身願望が強いからなんだろう。
 長い髪のかつらを被って、丈の長いスカートを履いて、胸に詰め物をして化粧を施せば、そこにいるのは醜いながらも全く別の誰かだったからだ。
 演劇部へ入ったのだって、役を貰って舞台に立つことが出来れば、その時だけでも別の誰かになれるかもと思ったからだ。昔から、自分のことが好きになれず、自分に自信が持てずにいる。
 部長になったのだって、部を引っ張って行きたい意志だとか、仲間の信頼が厚いとかそんなものはあまり関係がなくて、単に面倒事を嫌な顔をせず引き受ける利便さから指名されたに過ぎないとわかっていた。そんな頼りない部長のくせに、部室の鍵を悪用し、部の備品で好き勝手した罰が当たったのかもしれない。
 先日うっかり鍵を締め忘れたままで居残った日がある。もし後輩に知られているとしたら、きっとその時に見られたのだろう。
 反応しないこちらに諦めたようで、後輩は近くの椅子に腰掛け、部員たちが帰っていくのを見送っている。自分も着替え終えた後は近くの椅子に腰を下ろしたが、もちろん内容が内容なので会話を始めるわけに行かず、取り敢えずで携帯を弄って時間を潰した。
「で、なんで俺が居残りなんですかね?」
 やがて部屋に残ったのが二人だけになった所で、待ってましたと後輩が話しかけてくる。それを制して一応廊下へ顔を出し、近くに部員が残っていないことを確認してからドアの鍵を掛けた。一応の用心だ。
「それで、お前、あんなのよこしてどういうつもり? てかどこまで知ってる?」
 声が外に漏れないように、さっきまで座っていた椅子を後輩の真ん前に移動させて、そこに腰掛け小声で尋ねる。なるべく小声でと思ったら、しっかり声が届くようにと知らず前屈みになっていたようで、同じように前屈みになった後輩の顔が近づいてくるのに、思わず焦って仰け反った。
「ちょっ、なんなんすか」
「ご、ごめん。てか近すぎて」
「まぁいいですけど。で、どういうつもりも何も、さっき言ったまんまですよ。先輩には、あの色のが似合うと思ったから渡しただけです」
「だから何で男の俺に口紅なんかって話だろ。ていうか、つまりはあれを見た、ってことだよな?」
「先輩が居残って女装練習してるのって、やっぱ知られたらマズイんですか?」
 練習という単語に、そうか練習と思われていたのかとほんの少し安堵する。じゃあもう練習だったと押し通せばいいだろうか?
「知られたくないに決まってんだろ。あんな似合わないの」
「まぁ確かに、似合ってるとは言い難い格好では有りましたけど、やりようによってはもうちょいそれっぽくイケると思うんですよね。だから尚更、一人で練習しないで人の意見も取り入れるべきじゃないですかね?」
 知られたくないなら他の部員たちには内緒にするから、ぜひ協力させてくださいよと続いた言葉に目を瞠った。
「な、なんで……?」
「なんで、ですかね? 先輩の女装姿に惹かれたから、とか?」
「何言ってんだ。似合ってなかったの、お前だって認めたろ」
「だからその、似合ってなかった所が、ですよ。これ俺が弄ったらもっと絶対可愛くなるって思ったというか、なんかこう、とにかく先輩のあの格好が目に焼き付いて、気になってたまらないというか」
「なんだその、一目惚れしました、みたいなセリフ」
「あー、まぁ、それに近い気もします」
 何言ってんだという苦笑に肯定で返されて、なんだか体の熱が上がっていく気がする。
「せっかく二人だけの居残りですし、今から、ちょっとあの口紅、試してみません?」
 衣装とかつらも俺が選んでいいですかと、すっかりその気な後輩に押し切られるようにして、その日から時々二人だけの居残り練習が始まってしまった。

「一次創作版深夜の真剣一本勝負」(@sousakubl_ippon)120分一本勝負第71回参加

 
 
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ベッドの上でファーストキス1

 風呂から上がって自室に戻れば、ベッドがこんもり盛り上がっていた。もちろん、風呂へ入るために部屋を出る前のベッドに、そんな盛り上がりはなかった。
 無言でベッドに近づき足を持ち上げ、その盛り上がりを足の裏でグイグイ蹴り押す。
「ちょっ、やめろって」
「それはこっちのセリフだ」
 なおもグイグイ押していたら、ようやく盛り上がりが動く気配がして足を下ろした。けれど起き上がるのかと思ったら、その盛り上がりはくるりと寝返りを打っただけだった。
「起きろよ」
「やだ。ここで寝る。寒い」
 確かに今夜は相当冷え込んでいるけれど、そんな理由で弟のベッドに我が物顔で入り込むのはホントどうかと思う。
 こちらが嫌がるからか頻度は減ってきたけれど、隙を見ては潜り込まれていた。それでも、こうして最初から一緒に寝ようという態度で来ることは珍しい。いつもは夜中に目覚めてしまい、寒さで二度寝が出来ない時にやってくる。
「狭くなるから嫌だって言ってんだろ」
「俺の部屋のベッド使っていいって言ってんじゃん。でも俺が寝入った後でな」
「なんで自分のベッド追い出されて、兄貴のベッド使わなきゃなんねーんだよ。しかもアンタ、俺が移動した先に、更に俺追っかけて移動してくる可能性高いだろ」
「だって寒いと目が冷めちゃうんだもん。てかいい加減諦めて、寒い日の夜は俺のための人間カイロに徹しなよ」
 冷え性な兄を持った弟の使命だよ。なんて、随分と勝手なことを言っている。
「たった一年先に生まれただけで横暴すぎ。冷え性どうにかしたいなら筋肉つけろ。筋肉を」
「そりゃ運動部のお前より筋肉ないのは認めるけど、吹奏楽部だってそれなりに筋トレしてますぅ。母さんも冷え性だし、これ絶対遺伝だって」
 背だってなかなか伸びないしと口を尖らせる兄は、確かに母の遺伝子が強いのだと思う。対するこちらは父の血が濃いのは明白だった。
 父の血が濃いせいで、好みまで父に似たのだったら最悪だなと思う。母によく似た兄相手にこんなにもドキドキする理由が、父親からの好みの遺伝という可能性はどれくらいあるんだろう。そして母の血が濃い兄も、母の好みに似て父に似た自分を好きだと思う可能性はあるだろうか?
 兄弟で、男同士で、考えるような事じゃない。考えていいことじゃない。
 それでも体は正直だった。考えないようにしてたって、暖を求めてひっついてくる兄相手に問答無用で股間が反応してしまう。バレるわけに行かないから、意識がある時は絶対に背中を向けて寝るけれど、気づかれるのも時間の問題じゃないかと思う。
 性欲なんてもののなかった子供の頃は良かった。冷たい手先や足先を自分の肌の温かな部分で包み込んで、兄がありがとうと笑うのも、ホッとした様子で眠りに落ちていくのを見守るのも、ただただ純粋に嬉しかった。
 今だって、寒くてぐっすり眠れないのは可哀想だと思うし、だから夜中知らぬうちに潜り込まれたものを蹴り出すほどの拒絶はしたことがないが、でもこのどうしようもない下衆な欲求に気づかれるくらいなら、もっと厳しい態度で拒否を示した方が良いのかもしれない。
「どーした? てか早く入ってきてくんないと、寒くて寝れないんだけど」
 こちらの気持ちを知る由もない兄に急かされ、大きなため息を一つ吐き出した。我ながら甘すぎる。兄に対しても、自分自身に対しても。
 想いにも欲望にも気づかれたくないし、気づかれるのが怖いのに、兄が昔と変わらずこうしてベッドに潜り込みこちらの熱を奪って眠るのが、嬉しいし愛おしい。迷惑そうな顔をして口先で嫌がったって、きっと本気で嫌がってないのは丸わかりなんだろう。だから平然とベッドへ潜り込むことを、本気で止めはしないのだ。

続きました→

有坂レイさんにオススメのキス題。シチュ:ベッドの上、表情:「真剣な顔」、ポイント:「ファーストキス」、「お互いに同意の上でのキス」です。
https://shindanmaker.com/19329

 
 
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