墓には持ち込めなかった

 幼い頃から心のなかに隠し持っていた恋心を、生涯、相手に告げることはないと思っていた。墓にまで持ち込む気満々だった。ずっとただ想うだけで良いと思っていた。
 同じ年に生まれた自分たちは、幼稚園で出会ってからずっと長いこと親友で、だからこそ、彼の選ぶ相手が自分にはならないこともわかっている。彼が興味を惹かれ、好意を寄せる女の子たちに、気持ちが荒れたこともあるけれど、それももうだいぶ遠い昔の話だ。
 少しずつ大人になって、自由になるお金が増えて行動範囲が広がれば、だんだんと寂しさを埋める術だって色々と身に着けていく。
 その日は特定のバーで相手を見つけて、そのままホテルに向かうつもりで店を出た。店を出た所で、名前を呼ばれて顔を向ければ、そこには見るからに怒っている幼なじみが、こちらを睨んで立っていた。
 今夜のお相手となるはずだった相手は、あららと少し楽しげな声を発したけれど、この後始まる修羅場に巻き込まれるのはゴメンとばかりに、じゃあ頑張ってとあっさり回れ右して店に戻っていく。
 面白おかしく酒の肴にされるだろう事はわかりきっていたが、もちろん引き止めることはしなかった。代わりに幼なじみに向かって歩き出す。
「こんな場所で揉められない。付いて来て」
 隣を通り抜けるときにそう声をかければ、黙って後をついてくる。素直だ。
 一瞬、このまま本来の予定地だったホテルにでも入ってやろうかとも思ったけれど、そんな自分の首を絞めるような真似が出来るわけもなく、結局足は駅へと向かった。こんなことになってしまったら、今日の所は帰るしかない。
「待てよ」
 半歩ほど後ろをおとなしく付いて来ていたはずの相手が、唐突に声を上げただけでなく、手首を掴んで引き止めるから、仕方無く歩みを止めて振り向いた。
「何?」
「どこ、行く気だ」
「どこって、帰るんだよ」
「は? 家まで待てねぇよ」
「待つって何を?」
 まぁさすがにこれは、わかっていてすっとぼけて見せただけだ。でも頭に血が登りっぱなしらしい相手は、そんなことには気付かない。
「お前、俺に言うことあるだろっ」
「特にはないけど」
 しれっと言ってのければ傷ついた顔をする。そんな顔をするのはズルイなと思った。
「一緒にいた相手、お前の、何?」
「飲み屋で知り合って意気投合したから、河岸を変えて飲み直そうかーってだけの相手」
「本当に飲み直すだけなのかよ」
 疑問符なんてつかない強い口調に、これはもう知られているんだなと諦めのため息を吐いた。
「せっかく隠そうとしてるんだから騙されなよ」
「なんで俺を騙そうなんてすんだ」
「あのさ、幼馴染がゲイだった上に、夜の相手探してそういう場所に出入りしてるって知って、どうしたいの? 知らないほうが良いでしょそんなの」
 お前とは縁のない世界なんだからと苦笑したら、掴まれたままだった手首に鈍い痛みが走る。力を入れ過ぎだ。でも、相手は気づいてないようだったし、自分も痛いとは言わなかった。
「ああいう男が、お前の、好み?」
 抱ける程度の好意は持てる相手で、でも好みからはけっこう遠い。なんて教えるわけがない。寂しさを紛らわせてくれる相手には、雰囲気や言葉遣いが優しくて、でも目の前の男にはまったく似ていない男を選んでいた。
 だって別に、代わりを探していたわけじゃないから。本当にただ、一時的に慰めを欲していただけだから。
「そういう話、聞きたいもの?」
「俺はお前に、好きになった相手のこと、さんざん話して来ただろ」
「ああ、まぁ、そうだね。俺の相手は男ばっかりだから、聞かせたら悪いかと思ってた」
「悪くなんか、ない。知りたい」
「そっか、ありがとう」
「で、お前、あいつが好きなのか?」
「まぁ、抱こうとしてた程度には?」
 自分で知りたいといったくせに、言えばやっぱりショックを受けた顔をする。しかも目の中にぶわっと盛り上がった涙が、ぼろっと零れ落ちてくるから、焦ったなんてもんじゃない。
「えっ、ちょっ、なんでお前が泣くんだよ」
「だって、俺に、ちっとも似てない」
「は?」
「ここに来るまで、お前とあいつが出てくるの見るまで、男好きなら俺でいいじゃん。って思ってた。でも、わかった。俺じゃダメだから、お前、こういうとこ来てたんだって」
 もう邪魔しない、ゴメン。そう言いながら、掴まれていた手首が解放された。
「一人で帰れるから、店戻って。それと、お前のノロケ話もちゃんと聞けるようになるから。ちょっと時間掛かるかもしれないけど、そこは待ってて」
 泣き顔をむりやり笑顔に変えて、じゃあまたねといつも通りの別れの挨拶を告げて歩き出そうとする相手の手首を、今度は自分が捕まえる。こんな事を言われて逃がすわけがない。
「ねぇ、俺は、お前を好きになっても良かったの?」
「だって好みじゃないんだろ?」
「バカか。好みドンピシャど真ん中がお前だっつ-の」
「嘘だ。さっきのあいつと、全く似てない」
「それには色々とこっちの事情があって。っていうか、俺の質問に答えて。俺は、お前を好きになっていいの?」
 じっと相手を見つめて答えを待てば、おずおずと躊躇いながらも、「いいよ」という言葉が返された。
「じゃあ言うけど、小学五年の八月三日から、ずっとお前のことが好きでした」
「え、何その具体的な日付」
 戸惑いはわかる。何年前の話だって言いたいのもわかる。でもこの気持ちの始まりは確かにそこで、忘れられないのだから仕方がない。
「俺がお前に恋してるって自覚した日。まぁ、忘れてんならそれでいいよ」
「ゴメン、思い出せない」
「いいってば。それより、墓まで持ってくつもりだった気持ち、お前が暴いたんだから責任取れよ」
「ど、どうやって……?」
「取り敢えずお前をホテルに連れ込みたい」
 言ってみたら相手が硬直するのが、握った手首越しに伝わってきた。
「お、俺を、抱く気か?」
「え、抱いていいの?」
「や、いや、それはちょっとまだ気持ちの整理が……」
「抱いたり抱かれたりは正直どっちでもいいよ。でも、俺がお前を本気でずっと好きだったってのだけは、ちょっと今日中にしっかり思い知らせたいんだよね」
 今すぐキスとかしたいけど、さすがにこんな公道でって嫌じゃない? と振ってみたら、相手はようやく自分たちが今どこにいるかを思い出したらしい。ぱああと赤く染まっていく頬を見ながら、行こうと言って手を引いた。
 相手は黙ってついてくる。
 さて、十年以上にも渡って積み重ねてきたこの想いを、どうやって相手に伝えてやろうか。

 
 
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俺を好きだと言うくせに

 同じ年の幼なじみがモテだしたのはぐんと身長が伸びて、部活で試合に出ることが増えた中二の夏以降だ。部活忙しいし彼女いらないと公言していてさえ、結構な頻度で女子から告白されていた。
 せっかくの告白を振るのは可哀想だし、勿体無いから取り敢えず付き合ってみればと言ったら、心底イヤそうな顔で、じゃあお前が好きだからお前が俺と付き合ってよと返された事がある。もちろん本気になんてしなかった。というよりも、恋愛対象じゃない相手からの申し出がいかに迷惑なものか、わからせたかっただけだろう。
 そう思っていたのに、お前が付き合えと言ったあのセリフが、本気どころかむしろ彼にとっては精一杯の告白だったと知ったのはつい最近だ。
 あれから数年経た高校二年の現在、同じ高校に進学した幼なじみが、唐突にお前と少し距離を起きたいと言い出した。理由は彼氏ができたからで、その彼以外の男と親しくつるむのは、相手に申し訳ない気がするからだそうだ。
 ビックリしたなんてもんじゃない。心底慌てて、納得出来ないからと嫌がる相手を自室に連れ込み、詳しくいろいろ問い詰めた。
 そこで発覚したのが、彼にとっては女が恋愛対象にならないことと、長いこと彼に惚れられていたらしいことだった。
 そういうことはもっと早く、彼氏なんか作る前に、もっとちゃんと真剣に告白するべきじゃないのか。
 けれど彼はそこで、前述の話を持ちだして、彼が恋愛対象にならないことも告白が迷惑になることもわかりきってたと言った。付き合ってと言って即、確かに無理な相手から告白されても迷惑なだけだなと納得されて、軽々しく付き合ってみろと言ったのは間違いだったと謝られたのはショックだったなんて、今更そんなことを言うくらいなら、あの時もっとショックな顔をすれば良かったんだ。
 だけど本当はわかっている。ずっとそばに居たくせに、彼が寄せてくれる想いに友情以上のものを一切感じ取れなかった自分が悪い。自分の隣に居る彼が、ずっと辛い思いをしていたことにも気付かず、のほほんと親友ヅラをしていたのが恥ずかしい。
 だから距離を置くことを了承した。おめでとうと言った。彼に初めての恋人が出来たことには変わりがないのだから、上手くやれよと親友らしくエールを贈った。
 結果、彼とその彼氏とのお付き合いは一月ほどで終了を迎え、彼はあっさり何事もなかったかのように自分の隣に戻ってきた。けれどやはり、なかったことにはならない。相手は気持ちと事情を晒してしまった後で、自分はそれを聞いてしまった後だ。
 つまるところ、彼は戻ってきたけれど、自分たちの関係が元通りということにはなりそうにない。
「やっぱり、お前が好きなんだよね」
 想いを隠す気がなくなったようで、あっけらかんと口にする。
「そりゃどうも。俺だってお前が好きだぞ。親友としてならで悪いが」
「それは知ってる。てかさぁ、結局俺はお前じゃないとダメみたいってのが、ホント重症だし不毛だし嫌になるよね」
 言いながらもどこかスッキリした笑顔だった。
「なら俺に告白すんのか? まさか今のそれが告白だとか言うなよ」
「え、なんで?」
「なんでってそっちこそなんでだよ。俺と恋人になりたいなら、今度こそちゃんと真面目に告白して付き合ってくれって頼めよ」
「頼まないよそんなこと」
「なんで!?」
「なんでって、それ言い出すってことは、頼んだら付き合ってくれるんでしょ?」
「確かめんな。てかオッケー貰えるの分かっててなんで拒否……って、まさか昔の仕返しか?」
「それこそまさかだよ。単に罪悪感だの同情だので付き合って貰っても嬉しくないんだよね。優しいから、そんな気になってるだけだよ。実際に男同士で付き合うって現実突きつけられたら、逃げ出したくなるって。無理しなくていいよ。でもまぁ、ちゃんと頼んだら付き合ってやるって言ってくれたのは、嬉しいけどね」
 気持ちだけ貰っとくねと笑う顔はやはりスッキリとしていて、本当にそれでいいのかよと口にだすことは出来そうにない。
 彼は色々と吹っ切った様子なのに、自分ばかり悶々としているのがなんだか悔しかった。

 
 
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アナニーで突っ込んだものが抜けない

 隣の家の幼なじみから、助けてと半泣きの電話が掛かってきたのは土曜の夜も更けた時間だった。内心面倒くさいと思いつつ、お願いだから今すぐ来てと請われて、仕方なく隣の家のチャイムを押した。
 来いと言ったくせに玄関先に現れたのは彼の母で、こんな時間にどうしたのと驚かれてしまったから、電話で呼ばれたと告げて勝手知ったると上がり込む。呼んだくせに出てこない彼に、彼の母も呆れ気味だ。そろそろ寝ちゃうけどという言葉にお構いなくと返してから彼の部屋へ向かった。
 軽くドアをノックしたら入ってという声が聞こえてきたのでドアを開けたが、一見部屋の中に彼の姿がない。おや? と思って視線を巡らせれば、ドア横のベッドが盛り上がっていて、どうやらその中に居るらしい。ご丁寧に頭まで布団をかぶっている。
 助けてというのは体調不良という話なのだろうか? だったら自分ではなくまず母親にでも助けを求めればいい話なのに。
「来たぞ。大丈夫か?」
 それでもそうやって様子を窺ってやる自分は彼に対して甘いという自覚はあった。まぁそれがわかっているから彼も自分を呼ぶのだろうけれど。
「お前だけ?」
「ああ」
 もそもそと顔を出した彼は、半泣きどころではなく泣いていた。真っ赤な目に溜めた涙をボロボロこぼしながら助けてと言われて、さすがに尋常じゃないなと思ったが、何が起きているのかはやはりわからない。
「俺に出来ることならするけど、何をどう助けろって?」
「あの、……そのさ……」
「言わなきゃわからないぞ」
「うん……その、抜けなく……って……」
「抜けない?」
「あの、だからさ……」
 泣くほど困っているのに何を躊躇っているのか、元々泣いて上気していた顔がますます赤みを増していく。
「あの、あの……もちょっと近く来てよ」
「そんな言い難いことなのか?」
 ベッド脇に立って見下ろしていたのだが、仕方ないなと腰を下ろして、彼の顔の横に自分の顔を近づけてやった。
「ほら、これでいいだろ。で、なんなんだよ」
「誰にも、言わないで、欲しい」
「そんなの内容によるだろ」
「だってぇ……」
「さっさと言わないと面倒だから帰るぞ」
「ダメ。やだっ」
 慌てたように伸ばされた手が、ベッドの上に軽く乗せていた手をギュウと握る。その手は彼にしては珍しく冷えて、心なしか震えているようだ。
「本当にどうしたんだよお前。何があった?」
 反対の手で、その手を包むように覆ってやってから、もう一度なるべく優しく響くように問いかける。
「だから抜けなくなっちゃって」
「だから何がどこから抜けないんだよ」
「お尻から……」
「は? 尻? 尻から何が抜けないって?」
「……っが!」
 口は動いたがほとんど音になっていない。
「聞こえねぇよ」
 更に顔をというか耳を彼の口元へ近づけた。再度告げられた単語はどうにか拾ったが、やはりよく意味がわからない。
「は? マッサージの棒? なんだそれ」
「だからツボマッサージするやつ。あるだろこう棒状の」
「あー……まぁ、それはわからなくない。けどそれが抜けないって……あっ?」
 一つの可能性には行き当たったが、まさかと思う気持ちから相手の顔をまじまじと見てしまった。
「お前、そんなものケツ穴に突っ込んで……た?」
「言わないで。言わないでっ」
「言わないでじゃねぇよ。マジなんだな?」
「うん」
 ぐすっと鼻をすすりながら、更に何粒かの涙をこぼす。
「あー……じゃあちょっと見るわ。布団めくるぞ」
「う、ん……」
 躊躇いを無視して布団をめくれば、むき出しの下半身が現れた。無言のまま足を開かせるように手に力を込めれば、おとなしく足を開いてみせる。
 なんで自分がこんなことをと思いつつも、更に尻肉に手を添えを割り開く。その場所は濡れているようだったが閉まっていて、中にマッサージ棒が入っているなどとは到底思えない。
 大きくため息を吐いて覚悟を決める。
「おい、中、触って確かめるぞ」
 ビクリと体が揺れた。躊躇って戻らない返事を待つ気もなく、その場所へ指を触れさせ力を入れる。
「ぁっ……ァ……」
 するりと入り込んだ指先はすぐに固い何かに触れた。
「ああ、……確かになんか入ってんな。てか材質何? プラスチック? 木の棒?」
「木……」
「普通に力んだら出てこないのか?」
「そんなの試したに決まってるだろ」
「まぁそうだな。で、俺に指突っ込んでこれ抜き取れって?」
「ムリ?」
「わかんねぇ」
「お願い」
「ったく、お前、本当バカ。アホな遊び覚えてんじゃねぇぞ。取り敢えずチャレンジはしてやるけど、最悪抜けなかったら医者行けよ」
「医者やだ。お前が抜いてよ」
「俺にだって出来ることと出来ないことがある。いいから濡らすもんよこせ。ローションか何か使っただろ?」
 最低でも2本の指を入れて摘んで引っ張りだすことを考えたら、何かしら潤滑剤があったほうが良さそうだ。
「そこ、あるやつ」
 言われて目を走らせた先にあったのはワセリンのケースだった。
 結局、どうにかこうにか抜き取ることに成功したのは、既に日付をこえた時間で安堵とともにどっと疲れが押し寄せる。
 さっさと帰って眠りたい。眠って今日のことは忘れてしまおう。
 ごめんねとありがとうを繰り返す相手に適当に相槌を打って逃げるように隣の自宅へ帰り、ベッドの中に潜り込む。しかし疲れて眠いはずなのに、体はオカシナ興奮に包まれて眠れない。
 股間に手を伸ばしながら、変なことに巻き込みやがってと幼なじみの彼を罵ったが、オカズは結局のところ先ほどの彼が見せた痴態でもあった。

お題提供:pic.twitter.com/W8Xk4zsnzH

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親友に彼女が出来たらクラスメイトに抱かれる事になった(目次)

日々投稿する小ネタのつもりで書いたもので、正直こんなに長く書く予定がまるでなかったものなので、キャラの名前は一切出てきません。途中けっこう後悔しました。でも名前つけて出すタイミングがわかりませんでした。
彼だのあいつだのが誰を指すのか、わかりにくい可能性があります。読みにくかったらすみません。
 
登場人物は 視点の主・親友・クラスメイト の3人です。
親友に彼女が出来たさい、親友に片思いしている主にクラスメイトが、やらせるなら慰めてやると代理セックスのお誘い。
行為を重ねるうちに主の気持ちは親友からクラスメイトへ移っていくが、好きになったとはいえずに親友が好きな振りを続けてしまう。
そんな主ですが、最終的にはクラスメイトと恋人になります。

下記タイトルは内容に合わせたものを簡単に付けてあります。
なお、シリーズに移すにあたって、「色々コネタ」「R-18コネタ」のカテゴリは外しました。「R-18コネタ」で投稿したものに関しては、タイトル横に(R-18)と記載してあります。
タグもこの目次頁に一括して載せ、各頁のものは外してあります。

12月31日追記。
続編「大学生になったら親友にも彼氏ができたかもしれない」(全2話)追加しました。

1話 おかしな誘いに応じる
2話 始める前の確認
3話 キスだけでもう気持ちが良い
4話 手と口で(R-18)
5話 重ねる行為に情がわく(R-18)
6話 親友に気付かれて話し合い
7話 親友の応援
8話 クラスメイトからの告白
9話 気持ちの確認
10話 恋人同士のH(R-18)

< 続編 >
大学生になったら親友にも彼氏が出来たかもしれない1
大学生になったら親友にも彼氏が出来たかもしれない2(終)

 
 
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引っ越しの決まったお隣さんが親友から恋人になった

 彼が隣に越してきた小3の夏から、学校の行き帰りはほぼずっと彼と一緒だった。最初は彼が学校への道順を覚えるまでとかいう話だった気もするが、あっという間に仲良くなってしまって、別々に通おうなどと思う事もないまま中学へ上がり、当たり前のように同じ部活へ入部した。
 たまに喧嘩をすることもあるけれど、そんな時は決まって、翌朝いつもより早い時間から彼が家の外で待機している。一度、喧嘩の気まずさから勝手に先に登校してしまったことがあって、それ以来、もうそんなことはしないといくら言っても止めてくれない。結局、あまり彼を待たせたくない自分も少し早めに家を出るから、そんな日は少しばかり遠回りして学校へ向かったりもする。
 一晩経って頭が冷えて、学校へ向かう途中で謝ったり謝られたり、許したり許されたりで仲直りがほとんどだけれど、例えば喧嘩を引きずったままでも、気まずかろうが一緒に登校してしまえばなんとなくうやむやになって、帰る頃には元通りになってしまうのは不思議だった。
 こんな相手とは、人生で何人出会えるかわからない。照れくさくて口に出した事はないけれど、彼は一生大事にしたい親友だ。
 このまま同じ高校へ入学して、やっぱりそこでも同じ部活を選んで、今と同じように毎朝夕と休日の部活動へ並んで歩いて行く人生かも。なんてことをぼんやり考え始めた中3の春。
「今度の日曜、部活午前だけだよね。その後、予定ある?」
 朝練へ向かう道すがら聞かれて、ないよと即答する。どこか出かけたい場所でもあるのだろうか。
「なら、俺とデートしない?」
「は?」
「嫌?」
「いやもなにも、デートって何? なんかの予行演習的な?」
「違うよ。お前としたいの。デート中の支払い全部俺でいいからさ。ダメ?」
「マジかよ。てかそれ、なんかの罰ゲーム?」
「似たようなもん」
「なんか変なこと巻き込まれてんのか?」
「違うよ。心配はいらない」
 だから付き合ってよと頼まれて、いいよと返した。心配いらないなんて言われたって、そんなの気になるに決まってる。

 

 デート当日、どこへ向かうのかと思っていたら、連れ込まれた先はカラオケだった。
「で? これっていったいどんな罰ゲームよ? 証拠写真でも撮んの?」
「似たようなもんとは言ったけど、厳密には違う。別に証拠は必要ないよ」
 ふーんと返事をしてみるものの、やはり解せないことは多い。
「デートっつーけどさ、お前カラオケあんま好きじゃねーのに、なんでここ?」
「だって二人きりになりたくて」
「人に聞かれたくない話がしたいなら、どっちかの部屋でいーじゃん」
「それはデートじゃない」
「そここだわりあんのかよ。つかホント、一体何なの? 罰ゲームっぽいのの内容って?」
「何も聞かずデートっぽく過ごしてよ。ってのじゃダメ?」
「そもそもデートっぽくって俺と何したいわけ? まさか一緒に歌いてぇの? デュエット?」
 疑問符だらけの言葉をだらだらと続ければ、違うよと言いながら伸びてきた手が、ソファに投げ出していた手をそっと取った。そして指と指を絡めるように手をつなぐ。いわゆる恋人つなぎという状態にぎょっとして繋がれた手に視線を落とした。
「こういうことしたい。後、嫌じゃなければキスさせて」
「いやいやいやいや。ちょっと待てよ。証拠必要ないなら本当にしなくたっていいだろ。ちゃんと話合わせてやるって」
「だから罰ゲームじゃないってば。近いけど違う」
「だーかーらー罰ゲームじゃねぇのにそういう事する理由って何よ? どうしてもってなら俺が納得する理由だせって」
「泣いてもいいなら」
「泣くって俺が? お前が? つか何か深刻な問題抱えてんなら言えって。俺が出来る事ないかもしれないけど、でも言えよ。一人で考えこんでるよりちょっとはマシになるかもしれないだろ」
 何があったか言ってみろよと顔を覗きこんだら、既に少しばかり泣きそうな顔をしている。なんだか憐れむような気持ちになってその頭に手を伸ばした。
 よしよしと頭を撫でてみたら、目元にうっすら溜まっていた涙がポロリとこぼれ落ちる。言う前から泣いちゃったなーと思いつつも、仕方がないので頭を撫で続ける。少し落ち着くのを待ったほうがいいだろう。
 懐かしいなと思うのは、出会った最初の頃はけっこう泣かせていたからだ。正直、泣き虫で面倒くさいと思っていたこともある。なのに付き合いが続いてきたのは、家の近さや親のはからいだけでなく、泣き止んだ時に見せる笑顔が子供心にも可愛く感じていたせいだ。
 なんてことをふと思い出してしまったのは、デートだのキスだのという単語のせいかもしれない。
「引っ越しする」
 ぼんやりと昔を思い返していたせいで、反応が遅れた。
「えっ?」
「親が、転勤。今更こんなの、罰ゲームみたいなもんだよね」
 しばらく転勤なかったからここに永住かと思ってたのにと苦笑する。
「まじか。てかどこ?」
「北海道だって」
 遠いなと素直に思う。大人になるまでもう少し一緒に居られるんだろうと勝手に思っていたので、それは確かに自分にとってもショックが大きかった。
「行きたくない。けど、俺だけ残れるわけもないし」
 頭では当然だと思っているのに、ショックで相槌すら打てない。彼の頭に乗せていた手も、いつの間にか落ちていた。
「だからさ、もういいやと思って」
「……えっ?」
「友達のふり」
「は?」
「引っ越してきた最初の頃から、ずっと好きだったんだよね。お前の隣にずっといられるように色々頑張ってきたけど、もうやめる。どうせ離れるなら嫌われたって構わない。やりたいことやってから引っ越そうと思って」
 むりやりに笑ってみせた顔は痛々しくて、昔可愛いと思っていた顔とは程遠い。
「やりたいことってのがこのデート?」
「というよりも、こっち」
 言いながら繋いだままだった方の手を軽く持ち上げる。
「あとキスしたい」
「お前の好きって、そういう好き?」
「気持ち悪い?」
「今ここでキスさせたら、それでお前はもういいの? 引っ越して、俺のこと忘れて生きてくの?」
「忘れないよ。忘れたくないから、お前を好きだったって証が欲しいんだろ」
 キスさせてよと頼まれて、けれど嫌だと即答した。冗談じゃないと腹立たしい気さえしてくる。
 なのに相手は断られた意味をきっと誤解して、苦々しげな笑顔でやっぱり目には涙をためている。
「むりやりしてもいいかな?」
「良くねーよ。つか北海道確かに遠いけど、俺らもう中3だぞ。連絡くらい自分たちの意思で取れるだろ。キスして思い出にして終わりとか嫌だからな。後、嫌われたって構わないとか言ってないで、好きなら告白からやり直しな」
「どういう事?」
「遠距離恋愛上等?」
 言ったらなぜかぷっと吹き出され、それからおかしそうに爆笑される。爆笑してるくせに、さっきよりもずっと涙でぐちゃぐちゃの顔だ。
「いいの?」
「お前なくすくらいなら、恋人くらいなってやんよ。だから引っ越すくらいでべそべそ泣いてんなって」
「これは嬉し泣き。てかホントかなわないなぁ」
 だから大好きと言って笑った顔は昔と同じだった。
「好きです。俺の恋人になってください」
「おう」
「キスしていい?」
「だめ」
「ええっなんで?」
 そんなの俺からするからに決まってる。
 先ほどまで頭を撫でていた手を、今度は顎に添えてそのまま顔を近づけていく。近づく視界の中、驚いて瞳を見開く相手に、にやりと笑ってやった。

 

レイさんにオススメのキス題。シチュ:デート先、表情:「泣きじゃくった顔」、ポイント:「顎に手を添える」、「お互いに同意の上でのキス」です。
#kissodai http://shindanmaker.com/19329

 
 
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あの人の声だけでイッてしまう

 耳元に甘く響く「好き」の言葉。演技掛かって多少大げさに感じることもあるけれど、まごうことなきあの人の声だ。
 怒って、拗ねて、甘えて、キスをねだる。そんな姿を実際に見せてもらったことはない。
 自分の知るあの人は、豪快に笑う顔がいつもキラキラで、手を引いてくれる背中がいつも眩しくて、怒った時はめちゃくちゃ怖いのに、こちらが落ち込んだり泣いている時はとことん優しい。同じ目線まで腰を落としながら頭を撫でてくれるのがわかっていたから、子供の頃の自分は今思うと恥ずかしいくらいに泣き虫だった。
 記憶の中で彼の姿が鮮明なのは、彼が高校へ上る前頃までだろうか。彼が中学の頃はまだ、夕方や週末に遊んでもらっていた記憶がある。
 少し年の離れた幼なじみと、同じ学校へ通えたのは小学校だけだった。自分が中学へ入学できる頃には、彼はもう高校生で、自分が高校へ通い出す前に大学生となってこの町を出てしまった。
 その彼が声優になったと知ったのは、彼の母親が自分の母親へ愚痴っているのをたまたま聞いてしまったためだ。ちゃんとした企業に勤めて貰いたかったと、彼の母親はかなり落ち込んでいる様子だった。
 懐かしさもあって、すぐに彼の名前を検索した。本名そのままではなかったけれど、見つけるのは簡単だった。
 最初はちょっとした好奇心。それでも、彼の関わった作品を見たり聞いたりするようになって、もう随分経つ気がする。最初の頃は名前の無いキャラも多かったのに、最近は役に名前がないことなんてほとんどない。
 自分がそんな風に彼が出た作品を追いかけていることなど、当然彼は知らないだろう。親ですら息子の興味の矛先が、作品そのものではなくそこに出演している幼なじみの彼だなんてことは多分わかっていない。
 BLCDという存在も、彼の出演をキッカケにして知った。予備知識ほぼなしで聞いてしまったそれは衝撃的で、彼が脇役だったことにひどく安堵したのを覚えている。しかし次の作品は主役の片方で、当然のように濡れ場もあった。そうだろうとわかっていたから、最初買うのを躊躇いはしたけれど、結局買わずにはいられなかった。
 もちろん演技だということはわかっている。原作でのキャラのイメージ画像もちゃんとある。それでも、アニメと違い声だけだと、あの人の姿で想像してしまう。
 目を閉じて、イヤホンから響く彼の甘い吐息に感じ入る。
 あッあッと少し高く響く声は時折掠れて、そのざらつきが耳の奥を撫でるようでゾクリとする。
 CDのストーリーなど既に頭には入ってこない。物語の中で彼を抱く男の声すらどうでもいい。耳はただただあの人の声だけを拾い、想像の中、あの人を抱いているのは自分だった。
「だめっ…ぁ、いっちゃういっちゃうっからっ」
 そんな甘ったるい声をあげる想像の中のあの人は、今の自分よりも確実に幼い。一緒に遊んでいた頃の彼だからだ。喘ぐ声の高さや掠れが、声変わりの頃を思い出させるのかもしれない。
「やぁあんっ、きもちぃ、だめっだめぇ」
 切羽詰まって身をよじる彼を押さえて、ひたすら突き上げる。
 実際に見たことなどないのに、快楽にとろけるあの人の顔だって、いともたやすく想像できる。遊んでくれるから大好きだったはずのあの人の、顔や表情も好きだったのかもしれない。あれこれと細かな表情も、かなり覚えている自分の記憶力がありがたい。
「やだやだああぁぁっんんー」
 極まってヒクヒクと蠢く穴を想いながら、自身をしごきたてる手の中に精を放つ。
 イッた後の心地よい脱力感はあるが、熱が去ってしまえば、一体自分は何をしているんだと、恥じ入る気持ちも押し寄せる。いくらもう顔を合わせることはほぼないとはいえ、昔お世話になりまくった相手に酷い妄想をしている。
 自覚はあるし、罪悪感がないわけでもない。けれど体の中に熱がたまると、結局また、あの人の声を求めてしまう。

続きました→

 
 
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