カレーパン交換

 自室の勉強机の上に置かれた黒い袋の中身はカレーパンで、昨日コンビニで買ってきたものだ。有名なチョコブランドとのコラボ品で、発売情報は事前に得ていた。
 バレンタインというイベントに乗っかって、チョコを渡しながら想いを告げたい気持ちはない。むしろこの胸の中に抱える恋情は隠し通したい。でも好きな相手にチョコを渡すという、ドキドキだったりワクワクだったりは味わってみたい。
 そんな自分にとって、チョコ入りカレーパンというのは絶好のアイテムに思えたのに。これならおもしろネタとして購入しやすいし、あまりバレンタインだのチョコだのを意識させることなく、相手にも渡しやすそうだと思ったのに。
「はぁあああ」
 目の前のカレーパンを見つめながら盛大に溜息を吐いた。
「なんで、今年に限って日曜なんだよ……」
 吐き出す声は恨めしさがありありと滲んでいたが、それも仕方がないと思う。平日だったら学校で弁当を食べるついでに取り出して、面白そうだったから買ったと言って、半分わけてやるなどで相手に食べさせることが簡単にできるのに、日曜じゃそうもいかない。
 仲はそれなりに良いし、映画やら買い物やらで休日に一緒に遊びに行くことだってしないわけではないけれど、カレーパンを渡すために会うとか意味がわからない。というよりも、せっかくバレンタインやらチョコやらを意識させないためのカレーパンなのに、そんなことをしたらさすがに気づかれそうだ。
 だってカレーパンを包む袋にははっきりとコラボしたブランド名が書いてあるし、このブランド名を見たらチョコを意識せざるを得ないし、わざわざ呼び出してこれを渡したら、きっとチョコを渡すのとそう変わらない。それじゃカレーパンである意味がない。
 元々、バレンタインなんてイベントは自分の想いには無関係だと思っていたのだから、好きな相手にチョコを渡してみたいなどという、乙女じみた野望を捨ててしまえばいいのはわかっている。でもこのカレーパンの発売情報を見た瞬間に、これなら俺でも渡せるじゃん! と浮ついた気持ちが忘れられない。
 諦めきれないまま、手の中の携帯を弄った。さっきから何度も、相手に今日会えないかと問うメッセージを書いたり消したりしている。会って渡したら意味がないと思うのに、どうにかしてさりげなく渡す方法はないかと模索している。
「うわっ!」
 そんな中、相手から暇かどうかを問うメッセージが届いて、思わず驚きの声を上げてしまった。すぐさま暇だけどと返せば、次には、近くまで来てるから遊ぼうというメッセージが届く。
 向こうから申し出てくれるなんて、なんて都合がいい。
 机の上のカレーパンはそのままにこの部屋に呼び、ちょっとでもカレーパンに興味を示したら面白そうだったから買ったと告げて、一緒に味見をすればいい。この流れなら、当初の予定とそう変わらない。
 しかし、ウキウキで遊びに来た相手は、部屋に入った瞬間に、あっ! と声を上げて立ち止まってしまった。視線の先はカレーパンだ。
 ちょっとでも興味を示したら、というレベルじゃない反応にドキリとする。
「あ、いや、これはその、なんか面白そうだったから買ってみただけで、誰かにあげるつもりとかは、あ、じゃなくて、誰かに貰ったものじゃなくて、その、あー……」
 焦って口からこぼれていく言葉はどれもこれもが最悪だ。このカレーパンがバレンタインのチョコを意識した品だと、自ら暴露してしまった。
 これでもう、さりげなく相手にチョコを渡すのなんて絶対に無理。このカレーパンを買ってきた意味がなくなった。
「くそっ」
 自らの盛大な失態に悪態をつけば、相手はそんな動揺しなくてもいいのにと笑う。
「バレンタインコラボのチョコ入りカレーパンを自分で買ったからって、そんな恥ずかしがるような事じゃないだろ。面白そうだったから買った、だけでいいじゃん」
「わかってんよ」
「それにさ、もしお前がバレンタイン用の包装された可愛いチョコを買ってたって、チョコ貰えなくて自分で買っちゃう可哀想なやつ、なんてこと、俺は思わないぞ?」
「いや、そうじゃねぇよ。つか、つまり俺がこれを誰かにやるつもりで買ったとか、誰かから貰ったとかは、欠片も思わねぇってことかよ」
「最初に言った、面白そうだから買った、が事実だと思ったけど。それとも、誰かにあげたくて買ったものだから、あんなに焦った?」
 またしても完全に墓穴を掘った。チッと舌打ちして視線をそらせば、図星だ! という言葉に追い打ちをかけられる。
「え、まじで? お前、チョコ渡したいような相手いるってこと? え、誰だよそれ。俺の知ってるやつ?」
「あーあーあーあー、うーるーせー」
 続けざまに質問が飛んできて、それを遮るように声を荒げて机に近づいていく。
「これは、俺が自分で食うために買っただけ」
 取り上げたカレーパンの袋を思い切り開封し、中身にかぶりつこうとしたその時。
「待って!」
 手の中から相手がカレーパンの袋を奪っていった。
「何すんだっ!」
「自分が食べてみたくて買っただけなら、これじゃなくて俺が買ってきたやつ食って」
「は?」
「俺が、買ってきたのを、食え」
 言い含めるようにゆっくりと吐き出されてくる声は、どこか怒りを孕んでいる。
「え、なんで?」
「俺のは明確に、お前に食べさせるために買ってきたものだからだ」
「え、なんで?」
「今日がバレンタインだから」
「え、つまり、お前からの……チョコ?」
 最後の部分は言うのをかなり躊躇った。けれど確かめずにはいられなかった。
「そーだよ! ほらっ」
 鞄から取り出された黒い袋が突きつけられる。紛れもなく、先程まで机の上に置かれていたカレーパンと同一のものだ。
「まじかよー」
 受け取った袋を抱えながらへなへなとしゃがみこんでしまえば、同じようにしゃがんだ相手が、俺からのじゃ食いたくないかと問うてくる。少しだけ不安のにじむ声に慌てて首を横に振った。
「つかお前、勇気あんな」
「いや俺だって、お前が誰かにチョコ渡したがってるの知らなきゃ、言うつもりなんて無かった。面白そうだから買ってきた、だけでいいと思ってたよ」
「そ、っか」
「そう。だからこれは返すけど、これの代わりに、俺が渡したそっちの未開封のを誰かにやるのとかだけはナシな」
「んなことするわけないだろ。てかそっちはお前が食えよ」
「え、やだよ。だってこれ、お前が誰かにあげるつもりだったチョコだろ」
「誰か、っつーか、お前な」
「え?」
「俺がそれ渡したかった相手、お前」
「え、え、つまり……」
 俺たち両想いだなと告げれば、ここまで一切照れる様子もなく堂々としていた相手の顔が、みるみる赤く染まっていった。

コラボカレーパンこのコラボカレーパンが発売されるニュースを見て、今年のバレンタインネタはこれに決まりだなと思いました。笑

 
 
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ツイッタ分(2020年-2)

ツイッターに書いてきた短いネタまとめ2020年分その2です。
その1はこちら→

有坂レイへのお題は「君がいる日常」、アンハッピーなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

この気持ちに気づく前は、当たり前に君がいる日常はただただ幸せだった。でも気づいてから先は違う。一緒に過ごす時間の幸せが、少しずつ恐怖の感情に塗り替わっていく。結局嫌われるなら、気持ちを知られての嫌悪より、勝手に消えたことへの怒りがいい。だから君がいる日常を捨てる俺を追いかけないで

有坂レイへのお題は「実らなくても恋は恋」、あからさまなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。
#140字BL題 #shindanmaker https://shindanmaker.com/666427

これはもう恋なのだと思う。相手は実の弟で、自分は兄で、つまり血が繋がっている上に同性だ。実るはずがないどころか、そもそも実らせる気など欠片もない。だからせめて、この好きって気持ちが恋だってことを、自分だけでも認めてあげたい。


クリスマス(ツイッタ分2019年「一次創作BL版深夜の真剣一本勝負 第287回」の二人です)

 随分疲れた顔をしてるから、なんて理由で差し出された袋の中にはカップケーキとか言うらしいものが入っていて、明らかに手作りとわかる見た目と包装だったけれど、めちゃくちゃに美味しかった。もっと食べたくてまた持ってこいよと言ってみたら、渡されたのはカップケーキではなくクッキーだったけれど、それもやっぱりすごく美味しくて更に次をねだった。
 お菓子作りが得意な彼女持ちなんだと思っていたし、羨ましさと妬ましさも含んでのタカリだった自覚はある。くれと言えばそう強い抵抗もなく渡されるから、こんな不義理な男がなぜモテるのだと不思議に思うこともあった。まぁそれに関しては、結局顔かと、一応は納得していたのだけれど。
 それがまさかそいつ本人の手作りで、菓子作りが趣味と知ったのは数ヶ月ほど前だ。その時に、彼女の手作り菓子を巻き上げてるつもりだったのを知られてドン引かれ、菓子のおすそ分けを停止されそうになったけれど、食い下がって謝って止めないでくれと頼み込んでなんとか事なきを得た。
 既に彼の作る菓子の虜なのだと、彼自身に伝わったせいだろう。頻度も量も変わらず、いろいろな菓子を渡してくれる。
 しかも、貰った菓子はだいたいすぐにその場で食べるのだけど、美味いと言って食べる姿を見る目は、以前よりもはっきりと嬉しそうだ。
 作った相手が目の前にいるということで、こちらも前よりは詳細に味の感想を言うようになったせいか、得意げにこだわりの部分を話してきたりもするし、リクエストに応じてくれることもある。
 キラキラと目を輝かせて楽しげに語ってくれる様子から、本当に菓子作りが好きなことは伝わってくるのだけれど、顔の良さでモテてるんだろうと思っていたような美形の、キラキラな笑顔を直視するはめになったのだけはどうにも対応に困っている。
 好きなのはお前が作る菓子だけと断言した際に、対抗するように、好きなのは菓子を作ることだけだからご心配なくと断言されているのに。最近は菓子を食べながらドキドキしてしまうことがあって怖い。美味い菓子が好きなだけのはずが、美味い菓子を作ってくれる相手のことまで好きになっている可能性を、そろそろ否定しきれない気がするからだ。
「メリークリスマス」
 そう言って差し出された透明な袋の中には、いかにもクリスマスな感じの型で抜かれたクッキーが数枚入っていて、やっぱりクリスマスを意識したらしい赤と緑のリボンが掛かっている。ただ、思っていたよりはシンプルだ。もっと気合の入りまくったものを作ってくるかと思っていた。
「まぁそれはオマケみたいなものだからね」
「は? オマケ?」
「ガッツリデコレーションしたケーキとか、学校持ってこれないし」
「つまりこれの他にデコレーションケーキを作ったって事か?」
「だけじゃなくて、ほかも色々。だってクリスマスだし、僕の趣味家族公認だし」
 彼が自宅で作る菓子の大半は、家族が消費しているというのは聞いたことがある。
「ああ、なるほど。家でパーティーとかするタイプか」
「しないの?」
「しない」
 大昔はそんなこともしていたような記憶があるが、両親は共働きで一人っ子となると、家族揃ってクリスマスパーティーなどもう何年も記憶にない。イベントという認識はあるようで、少しばかり渡される小遣いが増える程度だ。
「じゃあ来る?」
「は?」
「うちの家族に混ざってパーティーする?」
「え、なんで?」
「いやだって、なんか、食べたそうな顔したから」
「そりゃ興味はあるけど」
 彼が作る、学校には持ってこれないという菓子を食べてみたい気持ちはある。それを食すなら、彼の家に行かねばならないのもわかる。わかるけど。
「無理にとは言わないけどさ。でも実は、お前に予定ないなら誘おうと思って、お前の分のゼリーとかも用意してある」
「……行く」
 そこまで言われて、行かないという選択肢は選べないだろう。
 自分の分が既に用意されていると聞いた上で、楽しみだとキラキラな笑顔を振りまかれたら、なにやら期待しそうになる。でも相手は、作った菓子を美味しいと絶賛する人物に食べさせたいだけなのだとわかっているから、零れそうになる溜め息を隠すように、貰ったクッキーを口に詰め込んだ。


今年は6月の5周年を機に不定期更新となり、結果、殆ど更新のない状態ですが、それでも覗きに来て下さっている皆さんにはとても感謝しています。本当にどうも有難うございます。
結局、不定期更新になってから先に書けたものは少ないですが、最悪1年の長期休暇になる覚悟もしての隔日更新停止だったので、チャット小説という新しいことにチャレンジできたり、名前を呼び合うカップルが書けているという点では結構満足してたりです。
CHAT NOVELさんに納品済みの残り2作品の後日談はすでに書き上げてあり、年明け6日と8日にそれぞれ公開されるそうなので、それを待っての投稿となります。これは年明けのご挨拶でもう少し詳しく色々お知らせ予定です。
今年は新型コロナの影響で生活が大きく変わりましたし、この年末年始も色々と制限がありますが、感染対策を取りつつ少しでも楽しく過ごせればと思っています。
今年もあと残り数時間となりました。来年もどうぞよろしくお願いします。

 
 
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ツイッタ分(2019)

ツイッターに書いてきた短いネタまとめ2019年分です。

有坂レイのバレンタインへのお題は「夢はいずれ醒めるもの」、ゆるいBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。 https://shindanmaker.com/666427

街にチョコが溢れる季節になったら、そっとあれこれ吟味して、これだという一つを選んで購入する。最近はじっくりあれこれ眺められるから、ネット通販することも増えた。
どんな風に渡すか、渡したらどんな顔をするか、どんな反応が返ってくるか。バレンタインまで何度も繰り返し考える。告白して、受け入れて貰って、晴れて恋人になるような、そんな甘い夢を見る。
そして14日になったら箱を開けて、たくさん重ねた甘い夢ごと、自分でバリバリむしゃむしゃ食べる。だって、僕から君へのチョコなんて、渡せるはずがないんだもの。

1ツイート短縮版 → 街にチョコが溢れる季節になったら、これだという一つを選んで購入する。渡したらどんな反応が返ってくるか、何度も繰り返し考える。晴れて恋人になるような、そんな甘い夢を見る。 そして14日になったら、重ねた夢ごとバリバリ食べる。だって、僕から君へのチョコなんて、渡せるはずがないんだもの


エイプリルフール

 今日は入社式だなんだで、まともに仕事なんて出来ないのはわかりきっている。しかし後々の事を考えたら、少しでも進めておきたくて、ほぼ始発に近い電車に乗って出社した。
 最寄り駅の改札をくぐる辺りで、声を掛けられ振り向けば、同じ部署の同僚が苦笑顔で片手を上げている。
 少しだけ立ち止まって、他愛ない話をしながら並んで会社へ向かう。随分早いですね、だとか、お前もだろ、だとか、入社式面倒、だとか、仕事させろよなぁ、だとか。
「ところでさ、凄くいい機会だと思うから、ちょっと告白したいんだけど」
 会社のビルに入ってからは周りに誰も居なかったけれど、それを口に出したのはエレベーターの中だった。二人きりの密室ってやつだ。
「え、懺悔的な何かですか?」
 当たり前だが仕事絡みと思われたようだ。
「いや、恋愛的な方」
「ああ、そっち」
 面倒事を想像してか嫌そうな顔をした相手に、にやっと笑ってそう伝えてみれば、相手はなんだと言いたげにあっさり流してしまう。
「なんだつまらん」
 もっと驚けよと言えば、だってエイプリルフールですもんと、不満げに口先を尖らせる。なんだか拗ねているみたいでドキリとする。
「なんつー顔だよ」
 ドキリとしてしまった事に内心少々慌てながら、それをごまかすように、告白されたかったのかと聞いてやる。わかりやすく、からかい混じりの口調と顔で、相手の顔を覗き込んだ。
「そうですよ」
 不満げに口先を尖らせたままの拗ねた顔が近づいて、一瞬の接触の後で離れていく。
 言葉なんて出ない。ただただ目を瞠って相手を見つめてしまう中、目的階への到着を告げる音が鳴り、エレベーターが停まった。
「エイプリルフール、って事にしておきます?」
 クスッと小さな笑いとそんな言葉を残して、開いた扉から相手が出ていくのを、やっぱりただただ見送ってしまった。
 ゆっくりと扉が閉じて行く中、振り返った相手が、やっと驚く顔を見せていたけど、もちろん欠片だって楽しくない。降り損ねたエレベーターが動き出して、一人きり、小さく呻いて頭を抱えた。

 

有坂レイへのお題は「ホント、君って奴は」、赤裸々なBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。 https://shindanmaker.com/666427

口の中に吐き出されたものをごくんと飲み込めば、焦った様子で名前を呼ばれた。顔を上げて、ニヤッと笑って、口を開けて、何も残ってませんよと教えるように舌を出す。「ホント、君って奴は」呆れた顔が寄せられて、けれど差し出す舌を食まれる瞬間には嬉しそうに笑うから。ホント、君って奴は

 

有坂レイへのお題は「君がいない今」、ゆるやかなBL作品を1ツイート以内で創作しましょう。 https://shindanmaker.com/666427

君がいない今、日々考えてしまうのは、君がどれほど僕を想っていてくれたかと、僕がどれほど君を愛していたかだ。なぜ君が去ったかはわかっているし、君の決意を踏みにじりたくなくて、それらを受け入れ追うことはしなかったけれど、でもやっぱり後悔している。君に、会いたい。会って好きだと言いたい

 

一次創作BL版深夜の真剣一本勝負 第287回のお題は、
・おやつ ・疲れた彼に ・「好き」ってなに?

 なんで、と聞かれて正直に好きだからと言ったら、相手は一気に雰囲気を固くした。
「好き、ってなに?」
「なにって言われても、好きは好きだけど。だいたい、そっちこそ、好きだから受け取ってるんじゃないの。というか、また持ってこいって言ったのそっちじゃない?」
 たまたま放課後下駄箱でかち合った相手があまりに疲れた顔をしていたから、その日の部活で作ったお菓子を一部分けてやったのが始まりで、また持ってこいよの言葉に応じて部活どころか家で作ったものまでアレコレ渡しているのは、彼があまりに美味しそうに食べてくれるから、というその一点につきるのだけど。
「俺が好きなのはお前じゃなくてお前が持ってくる菓子だけ、なんだけど」
 おもいっきり「菓子だけ」の部分を強調して言われて、彼が何を誤解しているかがわかった。
「僕が好きなのもお菓子作りだけだからご心配なく」
「は? つかこれ、お前の手作り?」
「え、今更そこ!? てか市販のお菓子じゃないのはわかって食べてたよね? 誰の手作りだと思ってたんだよ」
「お前の彼女、とか?」
「うっわ最低」
「なにがだよっ」
「僕の彼女の手作りと思いながら、それを僕に渡せってねだるその神経が信じられないんだけど」
「よその男にホイホイ渡せる程度の付き合いなんだろ」
「って思ってたって話ね。勝手な想像で決めつけてましたって話ね」
「あーくっそ、そうだよ。悪かったよ。つか、やめんなよ」
「やめるって何を?」
「菓子、持ってくるのを」
「えー……」
 渋れば焦った様子で、いやほんとゴメン、だとか、また食わせてくれよだとか言い募る。それを黙って見ていれば、今度は情けない顔になって、どうすれば許してくれるんだよと途方に暮れた様子で告げるから、少しばかり驚く。
「そんなに好き?」
「すげー好き」
 言い切ってから、お前が作る菓子の話なと慌てて付け足すから笑ってしまった。
「いいよ。そこまで好きって言って貰ったら、ヤダって言えないよ」
 あからさまにホッとする様子を見ながら、あれこれちょっとマズイかなと思う。好きなのはお菓子作りだけだからご心配なく、という言葉を撤回することになる日が、いつか来そうな予感がした。


これで今年の更新は最後になります。

一年間お付き合い下さりどうもありがとうございました。
今年もまた連載中作品(理解できない)が年またぎになってしまいましたが、年明け後、通常通り更新できるようになるのは6日以降になりそうです。が、連載途中の作品をそこまで放置するのは躊躇われるので、なるべく途中にも更新できるよう頑張りたいと思っています。

 
 
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親戚の中学生を預かり中1

目次へ→

 コンコンと部屋のドアを叩いても無反応だった。部屋にいるのは確実だから、ヘッドホンで音楽でも聞いているのかも知れない。
「入るぞー」
 再度ドアを叩いてついでに声もかけてから、ゆっくりとドアを開いた。
 ドアの隙間からこぼれるのは蛍光灯の明かりではなく窓から差し込む夕日の赤色だったから、あれ? と思いながらそのまま大きくドアを開いて中を覗く。
 目的の人物はベッドの上だった。ベッド脇にまで近づき見下ろしても、相手の反応は何もない。
 穏やかとは言い難い、眉を寄せた難しい顔をしているけれど、部屋に差し込む夕日のせいもあってどこか色めいて見える。ドキリと心臓が跳ねるのは、自身の中にある下心を自覚しているせいだろう。
 夏休みの間だけ預かる事になった、と言われて突然連れてこられた、一応は親戚らしいこの子の抱える事情について、詳しいことは聞いていない。相手は7つも年が違う中学生で、ついでに言うなら受験生で、親からはあまり構ったりせずそっとしといてやれと言われているのに、どうにも気になってちょくちょく部屋を訪れてしまう。
 口実としてお菓子やらを持参するせいだろう。邪険に追い返されはしないが、もちろん歓迎されてもいない。でもその塩対応になぜか少しホッとする。
 親へ見せる礼儀正しさや愛想の良さに、親自身は全く違和感がないようだけれど、それを見ているとなぜかハラハラするのだ。怯えているような、無理をしているような、そのくせそれを綺麗に隠しきって笑おうとする様子が、どうにも媚びて見えてしまう。
 相手の事情の詳しいことは聞いていないが、親の離婚問題に受験生を直面させたくない、程度のことは聞いている。だからまぁ、離婚問題を抱える親の間で、親に気を遣いながら生活していたなら、大人へ向ける態度がああなるのも仕方がないと、納得出来ないことはないのだけれど。
 見下ろす寝顔がますます歪んで苦しげな息を漏らすから、思わず伸ばした手で頭を撫でた。少しでも楽になって欲しかったこちらの気持ちと裏腹に、相手はビクッと大きく肩を跳ねると、ゆっくりと瞼を上げていく。恐る恐る開かれていく瞳が、こちらの顔を捉えて一度大きく見開かれ、それから何かを迷って揺れる。
 声が掛けれないまま見つめてしまえば、小さく諦めの滲む息を吐いた後、今度はニコリと笑ってみせる。艶やかに、と言えそうなその笑みの威力を、相手は間違いなく自覚している。
「する?」
 疑問符の乗った短な言葉に、けれど何を聞かれたのかわからなかった。
「貢いでくれるお菓子代程度はしてもいいけど」
「は?」
「フェラで良い?」
「ふぇっ!?」
 何を言い出しているんだと驚くこちらを見つめる相手の目は酷く冷めている。
「俺をそういう目で見てる自覚、あるよね?」
 塩対応なのはこちらの気持ちに気づかれてるせいもあるかも、と思うこともないわけではなかったが、まさか相手から直球で指摘されるなんて思わず、何も答えられずに居たら相手に強く腕を引かれて体勢を崩した。
「うわ、ちょっ」
「今更何慌ててんの。やるならさっさとしちゃおうよ。あまり騒ぐとおばさん来ちゃうかもよ?」
 ベッドの上に膝をつくように乗り上げてしまったこちらのズボンのフロントボタンに、躊躇うことなく伸ばされる手を慌てて掴んで阻止した。

続きました→

 
 
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いつか、恩返し(目次)

キャラ名ありません。全35話。
同じ市内在住の同い年な従兄弟。メインは大学時代の4年間。
幼い頃から視点の主は従兄弟と競い合ってきたが、高校入学後に力量の差を認めて謝罪。その後、家庭の事情から従兄弟に同じ大学の同じ学部学科へ入学して貰うことになり、そこで大きな借りができる。
親元を離れた大学生活中、従兄弟と恋人ごっこをしたり、従兄弟に恋愛的な意味で好かれてると知ったり、従兄弟の誘いに乗ってセックスしたりで、最終的にはごっこをはずした恋人になります。
視点の主は好奇心旺盛で、その好奇心に付け込まれるような形で抱く側も抱かれる側も経験しますが、描写は抱く側の方が多め。
恋人ごっこを開始する前、視点の主は彼女持ちで非童貞。従兄弟は高校時代に彼女が居たけれど童貞。後ろはどちらも非貫通です。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 一緒の大学へ行こう
2話 従兄弟のゲイ疑惑
3話 形だけの恋人
4話 お酒解禁
5話 従兄弟の好きな子
6話 今後も今まで通りで
7話 試していいよ
8話 どっちでもいい
9話 便利な言葉「好奇心」(R-18)
10話 もう挿れて(R-18)
11話 きっと好奇心ではない(R-18)
12話 憐れで、健気で、愛おしい(R-18)
13話 優越感と見下し
14話 可愛いと繰り返す
15話 交代
16話 童貞なんて聞いてない(R-18)
17話 集中させて(R-18)
18話 抱く側でも可愛い(R-18)
19話 相互アナル弄り(R-18)
20話 背面騎乗位(R-18)
21話 チャレンジ(R-18)
22話 炒飯とスープ
23話 微妙に噛み合わない
24話 win-winな関係
25話 嬉し泣き
26話 好きを言う理由
27話 もう少し、このままで
28話 大学卒業後の進路
29話 欲しかったもの
30話 卒業後は同棲決定
31話 今だから言える
32話 親近感
33話 そろそろ知ってて
34話 恩を返すために
35話 抱き潰された(R-18)

 
 
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昔と違うくすぐり合戦

 自分は脇が、幼稚園からの付き合いのそいつは足の裏が特に弱くて、昔から時々、何かの拍子にくすぐり合戦のような事は起きていた。互いにゲラゲラ笑いあうと、喧嘩だったり不機嫌だったりが、なんとも些細なものに思えてどうでも良くなる感じがするからだ。
 けれど中学に入学以降はそんな戯れはグッと減った。相手の体の成長が早くて、体格差が出来てしまったせいだ。
 力で勝てない圧倒的な不利さに、自分から手を出すことは当然無くなったし、押さえ込まれて泣くほど笑わされるのが数回あって本気で怒ったら、相手からも手を出されることがなくなった。
 しかしとうとう自分にも成長期が来た。ぐんぐんと背が伸び、既に殆ど成長の終わっている相手との身長差が、目に見えて縮んでいくのは嬉しくてたまらない。
 嬉しいついでに、相手の部屋に上がり込んで一緒に借りてきた映画を見ている時、隣で胡座をかいて座る相手の足の裏を指先でツツツとなぞってやった。ビクッと大きく体を跳ねて、驚いた顔で勢いよくこちらに振り向いた相手に、ひひっと笑ってみせる。少しムッとした顔で相手の指先が脇腹を突いて、やっぱりツツッとその指先が脇を撫で下ろしていく。
 ゾワゾワっと肌が粟立って、身を竦めながらも、やっぱりひひっと笑いが溢れた。後はもう、懐かしむみたいに互いに相手の弱い場所を狙ってくすぐり合う。
 しかしやはり体の小さかった子供の頃とは違う。ぎゃはぎゃはゲラゲラ全身で笑って、部屋をのたうち回るようなスペースはもうないのだ。バタバタと暴れれば部屋のアチコチに体を打ってしまう。
「あいたっ、ちょ、ひゃっ、待っ、ひゃうっ、おいぃっっ」
 早々に懐かしさのあまり自分から仕掛けたことを後悔し、相手をくすぐる手を緩めて待ったを掛けたのに、相手の手は容赦がなく、こちらの脇を揉むのを止めない。
「ば、っか、も、あふぁ、や、アハっ」
 バカもう止めろと訴えたいのに、まともに言葉なんて出せないし、体格差はかなり縮んだもののやっぱり相手の方が力は強いしでなかなか逃げ出せない。
 またぐったりするまで泣くほど笑わされるのかもと思いながら、それでも必死に身をよじれば、自分を見つめる相手の顔が目に映ってドキリとした。
 こちらもつい先ほどまでは彼をくすぐりまくって居たのだから、上気して赤らむ頬は笑ったせいだとは思う。思うけど、でもなんか、妙に色気があるというか、エロいというか。え、なんだこれ。
 その顔がゆっくりと近づいてきて、音もなく軽く口を塞がれれた後、またゆっくり顔が離れていく。それをぼんやり眺めながら、あ、くすぐり終わってる、という事に気付いて大きく安堵の息を吐いた。
「お前さぁ」
「あ、うん、何?」
「何、じゃなくて。つか、今、何されたか理解出来てる?」
 キスしたんだけど、と言われて、ああ、あれはキスされたのかと理解した途端、ボッと顔が熱くなる気がした。
「なななな、なんで?」
「反応おっそ!」
 つーかさーと呆れた声音の相手が、ぽすんともたれ掛かってくる。
「お前がひゃんひゃん可愛く喘ぐから勃った」
「喘いでねぇよ」
「後お前、自分で気付いてないかもだけど、お前も勃ってっから。ちんぽおっ勃ててひゃんひゃん喘いでクネクネされんの目の前にして、勃起すんなってのは無理」
「はあああああ??」
 何を言っているんだと盛大に驚けば、無言のまま伸びてきた手に、ふにっと股間を揉まれてしまう。
「ひゃぅんっ」
「ほら、今、ぜったい、ひゃんて言ったろ」
 エロ過ぎなんだよと不貞腐れたように言いながら、股間をグニグニ遠慮なく揉みだす手のがよっぽどエロいと思った。

お題提供:https://twitter.com/aza3iba/status/1011589127253315584

 
 
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