秘密の手紙

 朝学校へ行ったら、下駄箱の中の上履きの上に一通の手紙が置かれていた。
 超簡素な茶封筒という不穏な気配しか無いそれの中には、ペラっと一枚のメモが入っていて、そこには「お前の想い人を知っている」と短な一文が印刷されていた。
 ザッと血の気が引く思いをしたのは、脅迫されているのだと察したせいだ。
 いつか誰かに気づかれるかも知れない不安は、自身の中に湧いた恋情を認めた瞬間から常に付きまとっていたが、それが現実になったのだと思った。
 この手紙の差出人は誰だ。相手の要求は何だ。
 そんなことばかりを考えながらなんとかその日の授業を終え、大半の生徒が下校した後に、自身の下駄箱に封筒を置いた。朝受け取った茶封筒からメモを抜き、お前は誰だ、要求は何だ、という短なメモを書き綴ったノートの切れ端を入れている。
 蓋のない下駄箱なので、こんな場所でメモのやり取りをしたいとは到底思えないのだが、相手が誰かもわからない状況ではこうするしかない。
 果たして、翌日の朝にはその封筒は消えていた。
 さらにその翌日、また上履きの上に茶封筒が乗っている。中には、「告白すればいいのに」というメモが入っていて首を傾げる。
 誰だ、という問いに答えがないのは想定内だったが、要求は何だという問いへの答えがこれ、というのが良くわからない。
「何かあった? 一昨日もずっと変な顔してたけど、今日もなんか悩んでるよね?」
 休み時間にそう声をかけてきたのはまさに想い人その人で、さすがに詳細を話せるわけがない。
「あー、まぁ、ちょっと」
 色々あってと濁してみたが、相手はそう簡単に引き下がってはくれなかった。
「俺にも話せないようなこと? それとも教室じゃ無理って話?」
「両方」
 正直に答えてしまったのは多分失敗だった。
「え、マジに俺には話せない何か抱えてんの?」
 余計気になると言われても、話せないものは話せない。追求をどうにか誤魔化して、帰りがけには「無理」の二文字だけ書いたメモを入れた封筒を自身の下駄箱に置いた。
 返信は翌々日ではなく翌朝には届いていて、しかも今回の中身は短な一文ではなく、しっかり手紙と呼べるような長い文章が綴られている。まぁ、コピー用紙への印字に茶封筒、というところは変わらないんだけど。
 いわく、二人は両思いだから早く告白してくっつくべきだとか、相手はこちらの告白を待っているだとか、今どき男同士での恋愛はそこまで禁忌ではないだとか。
 なんだか随分と熱心に、告白するよう促されている。
 なんだこれ。と思うと同時に、さすがに差出人の正体を知りたくなってきた。だって随分と相手の心情に対して断定的だ。
「何? 俺の顔に何かついてる?」
 昼休みに一緒に昼飯を食べながら、想い人の顔をマジマジと見つめまくったら、さすがに居心地が悪そうに聞いてくる。
「昨日、お前には話せないって言った悩みについてちょっと考えてて」
「お、やっぱ俺に相談しようかなって思った?」
「そうだな。近日中には、話せるかもな」
「なにそれ?」
「今すぐは話せないってこと」
「は? 勿体ぶってないでさっさと話せよぉ」
 放課後残ろうかと言うので、今日は早く帰るからと断って、その言葉通りに大半の生徒が下校するのを待ったりせず、けれど返信の茶封筒は上履きの上にしっかり乗せて学校を出た。といっても、そのまま学校をくるっと半周して、裏門からこっそり現場へ戻ったのだけれど。
 自身の下駄箱が見える位置に身を潜めて、封筒を手に取る「誰か」を待つ。今日中に現れなかったら、明日は早朝から張り込みだと意気込んでいたけれど、下駄箱周辺の人気がなくなった途端にその「誰か」はあっさり現れた。
 やっぱりと思いながらも、しっかり封筒を手に取るのを待ってから声をかける。
「やっぱお前だったんだ」
「えっ……なん、で」
「なんでもなにも、お前以外にお前の気持ちそこまで断定できるやつに心当たりがなかった」
 これは、少なくとも共通の友人の中には、という意味でしかなく、こちらの知らない友人に相談していたという可能性はある。頼まれて取りに来ただけと言い逃れることだって可能だろう。でも彼からの反論はなく、どうやらあっさり認めてしまうらしい。
 そっか、と力なく返した相手の手の中で、クシャッと茶封筒が握り込まれている。ちなみに、差出人を捕獲する気満々だったのでその封筒に中身はない。
「両想いだってわかってんなら、こんな回りくどいことしてないで、お前から告白するんでも良かったんじゃねぇの?」
「できるわけ、ないだろ」
「なんで?」
「そんなの、お前が俺を本当にそういう意味で好きなのか、なんて、わかんないし」
「はぁ?」
「だって、お前の言動にもしかして? って思うの、俺がそうだったらいいのにって思うせいかも知れないじゃん」
 最後の方は声が震えていて、なんだか虐めてでも居るみたいだ。というか目には涙も滲んでいて、こんな場面なのになんだかドキドキしてしまう。
「で、どうなの?」
「どうなの、って?」
「俺、……ふられる?」
 視線が合ったのは声をかけた最初だけで、ずっと僅かにそらされていたのだけれど、とうとう逃げるように俯かれてしまった。良い返答が貰える自信がないと言わんばかりだ。
「ぜひお付き合いしたいけど」
「マジで!?」
 バッと勢いよく頭を上げた相手の顔は信じられないと言いたげで、でも、泣きそうだった目だけは希望に満ちてキラキラと輝いている。
 その様子の愛らしさに、思わずプッと吹き出してしまったら、からかわれていると思われたようだ。酷くショックを受けた顔をされ、また俯くように頭を下げかける相手に、慌てて謝罪の言葉を投げた。
「ごめん。からかってない。まじで、付き合いたいって思ってる」
 下げかけた頭をグッと上げた相手は、さすがに疑惑の眼差しだ。
「ほんと。本気。さっき笑ったのは、嬉しそうなお前が可愛かっただけ」
 言い募れば、可愛いに反応してか少し照れくさそうにしながらも、信じるぞと脅すみたいな言い方で告げてくるから、やっぱりまた笑いそうだった。

相手側の話を読む→

ChatGTPに出してもらったお題  ”秘密の手紙” – 1人の主人公がもう1人の主人公に秘密の手紙を送ることから始まる物語。を使用しました。

更新再開します。結局小ネタ期間になりましたので、更新期間は1ヶ月ほどになりますがまたよろしくお願いします。

 
 
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Mさんへ(メルフォお返事)

お祝いと感想のメッセージ、どうもありがとうございました。
今回は連載途中でコロナ罹患とのことで、お体はもう大丈夫でしょうか?
私も人のことは言えないような状況ではありますが、お体お大事にしてください。
そして、普段は更新ごとに読むだけでなく、完結後に通し読みしてくださってたそうで、ありがとうございます。
一つの作品を繰り返して読んでもらえるの、本当に嬉しいです。

今回はpixivの方で纏め読みしてくださったそうで、実は、目次作成時とpixiv投稿時に一応校正作業をするので、pixiv投稿後が一番完成度が高かったりします。
気力が足りずに流し見で作業しちゃってることもなくはないんですが、「可愛いが好きで何が悪い」は文字量多かった割に結構しっかり読み直しが出来てるので、誤字脱字が多分少なめなはず。
あと視点の主は「尻」攻めは「お尻」使用とかの、細かな拘り部分が修正されてたりです。連載中は勢いで書いてて、その辺混ざっちゃってたので。

今回の「可愛いが好きで何が悪い」も楽しんで貰えたようで嬉しいです。
多分、視点の主が攻めやってもそれなりにハッピーエンド行けたと思うんですよね。と思うくらいに、視点の主攻めも見てみたい欲求が私の中にあって、それがきっと漏れ出て、どっちが攻めなの? みたいな内容が混ざったんだろうなと。
もし一番最初に、今回の作品は女装攻め予定と宣言済みじゃなかったら、きっと途中でどっちを攻めにするかめちゃくちゃ迷ったと思います。笑。
他作品でもちょいちょい重い背景持ちの子が出ちゃうんですけど、そのくせ、サラッと楽しく読んで欲しい気持ちが強くて、どうにも重い背景をずっしり描写する気にはなれないんですよね。なので、今回は本人の自覚が薄いうちに視点の主がなんとかしましたよ、という簡単な描写で流してしまいました。
あと、受けの気持ちが育っていく過程が見えたようでのお言葉、すごく嬉しかったです。ありがとうございます。
全く恋愛対象ではなかったはずが恋愛対象になって、大事にしたいとか愛しいとかの気持ちが湧くようになる過程を、違和感なく書けていたのかなと思うと、ちょっとガッツポーズ決めたいような気持ちになりますね。

8周年のお祝いのお言葉もありがとうございました。
こちらこそ、長いこと通ってくださって本当にありがとうございます。
メッセージを頂く度に、Mさんに見つけて頂けて良かったな〜って思ってます。
私も無理のない範囲で続けていきますので、Mさんも無理のない範囲で、今後もどうぞお付き合いよろしくお願いします。

 
 
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今更8周年の話(雑記)

ブログ開始したのが6月11日で、毎年だいたいその日に◯年になりますありがとう! な雑記を書いてきたわけですが、今年はすっかり忘れきってて、気づいたのが8月の終わりでした。
ちょうど連載中だった「可愛いが好きで何が悪い」がそろそろ終わりそうかなって感じだったので、どうせもう2ヶ月以上過ぎちゃってるし、じゃあもうエンド付いてから改めて雑記書けばいいよね。という判断の結果、もう10月に入っちゃってますけど!? という事態になってます。
エンド付いてから更に半月ほど経ってるわけですが、X(旧Twitter)でチラッと報告した通りに体調を崩しておりました。
エンド付ける直前に「帯状疱疹」というのを発症して、それの治療は1週間だったんですけど、その後順調に回復するかと思いきや、一番大きかった発疹が靴の中で擦れて(主に左足の膝下に症状が出てた)悪化してしまいまして。悪化した発疹を起点に膝やら腿やらの痛みまで再発して、「帯状疱疹後神経痛」の薬が処方されました。
これは今現在飲んでる途中ですけど、ちゃんと効果が出ているようでだいぶ楽になってきてます。痛み止め飲みまくっちゃってたから、ちょっと安心。ほんと良かった。
体が不調だと色々やる気が削がれるので、更新お休み期間に合わせたかのように発症してくれたとこだけはありがたかったですね。体壊さないのが一番ですけども。

こんな体調不良報告から雑記を開始したくはなかったのですが、作業遅れた上に何も知らせないまましれっと雑記を書くのは躊躇われて、報告させてもらいました。

そして本題ですが、9年目も特に変わりなく続けていく予定です。
月水金更新で、1ヶ月以上更新が続いた後のきりがいいところで1ヶ月お休みを取る形です。
8年目は小ネタ投稿期間を1ヶ月くらい作って何作か書きましたけど、9年目はどうしようかな。とは思ってます。
「可愛いが好きで何が悪い」が12万弱のめちゃくちゃ長い話になってしまったので、休み明けは小ネタ投稿期間にしてもいいかなという気持ちもあるんですが、また長くなりそうな別の話を書きたい気持ちもあって迷ってます。
今の気持ちとしては、同性婚が可能になった世界の話が書いてみたいんですよね〜
元々同性婚OKな世界ではなく、やっと同性婚が認められたぞってなった世界の話。
でもまだぼやっといろいろ考えてるだけの状態で、明確にこんな話を書きたいとまではなってないので、更新再開時までに決まってなかったら小ネタ期間にしようかな。みたいな感じです。


最後に、いつも閲覧どうもありがとうございます。
お話更新期間中、わざわざ通って読んでくださってる方がいる。というのは感じられますし、中には応援クリックをくださる方も居て、本当にありがたいなと思ってます。
更新お知らせするX(旧Twitter)のポストの、いいねやRPも本当励みになってますし、ブログ記事へのコメントやメールフォーム、pixivのコメントやメッセージ、X(旧Twitter)のDMなどで頂く感想もホントめちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます。
中には、一度にたくさんの作品の感想をくださる方もいて、そういう時は、なんだかんだと長々書き続けてきて良かったなぁってすごく思います。

初期の方の雑記読むとわかるんですけど、元々は、書くことを思い出そう・とにかく書き続けようが目的のブログなんですよね。
今もそれはそんなに変わってなくて、とりあえず自分に書けるものを書いて出してるだけではあるんですけど、ツラツラダラダラ12万文字書き連ねるくらいに書き慣れたのは我ながら凄いと思ってますし、好き勝手書き続けた結果、萌えが近い方たちに見つけて貰えて、その方たちに楽しん貰えてるのもちゃんとわかる、という現状にはかなり満足しています。
ブログ、始めて良かったな〜
書き続けててよかったな〜

そんなわけで、とりあえず書き続けよう精神で9年目の残りも更新頑張っていきますので、お付き合いどうぞよろしくお願いします。

 
 
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可愛いが好きで何が悪い(目次)

キャラ名ありません。全56話。
大学の同期生で、プリンセスな女装も似合う美形×可愛いもの好き男前(視点の主)。
幼少期の夢の国でのプリンセスコスプレで、相手の性別を勘違いしたまま互いに初恋していた2人が、大学で再会して恋人になる話です。

そこまで重い表現はしてないと思いますが、攻めは継母からの性的虐待経験あり。幼い頃に実母を亡くし、中学時代から父の後妻(継母)と肉体関係を持っていて、弟と妹が実子という可能性があります。
継母との関係の影響から、攻めの女性経験値高め。コミュ力も高めで交際範囲がかなり広そう。
受け(視点の主)は高校時代に彼女が居たので童貞ではないけど、可愛いもの好きな趣味を優先していて交際経験はその彼女一人だけです。夢の国通いという趣味を知られたくなくて、大学での交友範囲はあまり広げない方針。
大学では2人は基本距離を置いてますが、大学生活描写はほとんどないです。

視点の主が男前過ぎて、攻めばっかり泣きます。
抱かれてるのに抱いてるみたいだと感じるセックス描写もあります。
攻めも抱いてるのに抱かれてるみたいと思っているので、精神的には完全にリバ。肉体的には受け攻め固定ですが、攻めが自分で自分のお尻拡張やってた内容有り。
攻めは、抱かれるのは無理でも抱くならできる、って言われたら抱かれる側になってもいいから視点の主と関係持ちたいって思ってるので。
攻めが割と一途に視点の主を好きで、健気な努力してます。
女装もその一つで、視点の主の好みに寄せて少しでも好きになって貰いたいだけで、女装が好きとか趣味とかではないです。
視点の主は攻めのそういう健気さに落ちた所ある。

攻めが女装したままセックス。が一番の目的でしたが、内心受け攻め逆転したようなセックスだけじゃなくて、素のままの攻めに抱かれて気持ちよくなる受けも見たいなと思ってしまった結果、達成後の2回戦もダラダラと書いてしまって相当長いです。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的描写が多目な話のタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 夢の国と再会と
2話 あのときはありがとう
3話 写真交換
4話 すっかり友人
5話 夏休みの帰省
6話 姉に連れられ海の家
7話 ファミレスお茶会
8話 花火大会へ
9話 迷子ハンター
10話 デートって言うな
11話 夏休み明け
12話 継母との関係
13話 実家脱出
14話 切られたドレス
15話 届いたドレス
16話 育った初恋プリンセス
17話 内緒って言ったのに
18話 誰にも取られたくない
19話 元カノ
20話 拒否はできない
21話 口元を汚したプリンセス(R-18)
22話 恋人になってもいい
23話 周りの反応
24話 助けてあげて
25話 部屋の惨状
26話 勝手に自己開発
27話 情けなさが募る
28話 当たり前、の違い
29話 発想が男前すぎる
30話 甘えている
31話 泣いてたのがショック
32話 ローションは優秀
33話 慣らすとこから全部
34話 準備万端揃ってる
35話 現代コーデのプリンセス
36話 目一杯好みに寄せる
37話 じれったい程ゆっくり(R-18)
38話 延々と興奮を煽り合う(R-18)
39話 確かめずに居られない(R-18)
40話 手の中で脈打つ熱(R-18)
41話 69(R-18)
42話 可愛くて、愛しい(R-18)
43話 化粧を落として2回戦
44話 好奇心でバイブ挿入(R-18)
45話 最弱モード(R-18)
46話 性感帯探し(R-18)
47話 期待してる(R-18)
48話 初めてでこんなにも(R-18)
49話 もうちょっと待って(R-18)
50話 ゆるふわな刺激(R-18)
51話 奥の鈍い痛みすら(R-18)
52話 可愛く喘げよ(R-18)
53話 お前が愛しい(R-18)
54話 一緒にイこうね(R-18)
55話 昨夜を思い出しながら
56話 可愛いが好きで何が悪い 

 
 
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可愛いが好きで何が悪い56(終)

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 再度、心配掛けて悪かったと謝れば、相手も疲れさせちゃってゴメンねと返してくる。初めてだったのに加減も出来ずに無理させたよねと、しょんぼり顔で小さな溜め息まで吐かれてしまって、どうやら結構落ち込んでいるらしい。
「いやいやいや。それ、大半は俺の自業自得っていうか、お前だけ先イカせたのも、2回戦よろしくって言ったのも、バイブに興味示したのも俺で、最中にあれこれお前煽った自覚、かなりあるぞ」
「その自覚はありがたいけど、やっぱ甘えすぎたよな、って思って」
「そんなの俺も一緒っていうか、俺がお前相手に好き勝手振る舞えるのは、お前に甘えてるからだって教えたろ。お前が俺の無茶振りに応えてんだから、お前だって俺がいいよって許したことには素直に甘えとけばいいんだって」
「でも男の体で抱かれる負担とか、甘く見てたっていうか、むしろ男のが体力有るだろうって思ってたとことかあったし」
 抱き潰すような無茶なんてしたことがなくて、本当に肝が冷えた。らしい。
 そういやさっきも、抱き潰して救急車騒ぎを心配したようなことを呟いていたけど、こちらとしては抱き潰されたって認識は欠片もないんだけども。どちらかと言うと、ちょっと休憩のつもりが、思いの外深く寝入ってしまった。という認識だ。
「抱かれる側やる負担はそりゃあるし、初めてであんなに感じまくる想定はなかったけど、体力云々に関しては多分間違ってないだろ。てか抱き潰されたとか思ってないんだけど」
「でもほぼほぼ気絶って感じだったよ?」
「いやそれ、説明とか後始末とか諸々全部、後回し&お前に押し付けでいっか、みたいな甘えっていうか。そもそも、お前に手でイカサレたときだって、俺、イッた直後にお前に何も言わないまま目ぇ閉じたけど、お前、ただ寝落ちただけって思ってただろ。俺としてはあの時と同じ感覚で目ぇ閉じた。ら、本当にそのまま深く寝入っただけなんだって」
「逆に俺は、あのときはなんだかんだすぐ起きたみたいだったから、体中拭いても声かけても起きないの、ヤバいかもって思ったよ。お前と一緒に生活してた過去なかったら、慌てて救急車呼んでたかもレベルで焦った。呼吸正常だし、顔色悪くないし、苦しそうでもなかったどころかちょっと満足げで可愛かったから、大丈夫な方に賭けただけで」
「あー……あのときは目ぇ閉じたけど、寝落ちるまでは行ってなかったからな」
 今更、あのときは寝たフリで相手に後始末をさせた、なんてカミングアウトをする羽目になるとは。でも相手はその件に今更何かを言う気はないらしい。
「じゃあ本当に、今回はちょっと目を閉じたらそのまま寝ちゃっただけ、って感じなの?」
「いや、眠るつもりで目ぇ閉じたから、厳密にはあの時と同じ感覚、ではないか。でもあの時お前が、俺が寝落ちたって思って後始末してくれたの覚えてたから、このまま眠っても平気だろって思ったのは確か。で、お前がそんなに心配するとは考えなかったから、そこは、本当に、ごめん」
「本当に、抱き潰すほどの無理させたわけじゃないなら、いいよ。てかどっか痛いとことかはないの? 俺、本当に、無理させてない?」
「筋肉痛来てるっぽい痛みならある。けどたいした痛みじゃないな。あと痛くないけど、違和感はそれなりにある。主に尻の穴の入り口と、腹の奥」
「奥……」
「前立腺は意外となんともないというか、あんなに気持ちよくなったのに、そこまで影響残ってる感じしないな」
 というか、触れられていない今は、どこが気持ちよかったのかはっきりわかる感じじゃない。でも奥の方は確実に、突かれて気持ちが良かったのはここなんだなとわかってしまうレベルで、そこに違和感が残っている。
「え、奥の違和感て、奥で気持ちよくなった名残的なナニカなの?」
「そう。何もされてないのに、なんかジクジクした感じが残ってるっていうか、お前に突かれてそこが気持ちよくなった事実を思い出すというか」
 さっき一度、意識して赤面済みだからか、声に出して相手に説明しているのにそこまでの羞恥は込み上げてこなかった。なので平然と説明して見せれば、相手は呆気にとられた顔をしている。
「なにそれ、……エロすぎ」
「なっ」
 一瞬ためらった後、けれど言わずにはいられなかったらしく、溢れてきた言葉にも思わず同意を示してしまう。ついでに言えば、事後にそんな報告をされたらたまらないだろう気持ちもわかる。わかってたから正直に報告したとも言う。
「って、そのニヤケ顔なに? 俺、もしかしてからかわれてる??」
「からかってはいない。そういう報告されたら嬉しいかなって思って言ったら、お前がまんまと、俺をエロいって言ったから面白かっただけ」
「もしかして、エロいって褒め言葉の分類?」
「それは使い方によるだろ。少なくとも、今の『エロすぎ』に侮蔑とか嘲笑の意図は感じなかった。どころか、昨日俺がそこで気持ちよくなったの思い出して興奮した、的な意味とかもありそうだった」
「まぁそれを否定はしないけど。てか、昨日の最後、お前を抱く俺がエロいのがいい、みたいなこと言ってたあれは? 悪い意味ではなさそうだったけど、一人で納得して笑ってたから、けっこう気にはなってるんだよね。今も」
「あー、うん。それはちゃんと説明しないとなって、思ってた」
 言いながら、手を伸ばして相手の耳横からそっと髪を梳いていく。
「んっ」
 相手は特に抵抗することなく素直に髪を梳かれながら、気持ちよさそうに目を細めている。
「髪、結構伸びたよな」
「そうだね」
「俺が可愛いの好きってわかってるから、女装してた時、お前、この髪ゆるふわに纏めてたろ」
「うん。好みだし可愛いって言ってくれたから、似合ってた、ってことだよね?」
 髪の毛洗わないほうが良かったって話? と聞かれて首をふる。むしろ全く逆の話だ。
「可愛い服着てなくて、しっかり男の胸板見せられてて、雄の獰猛な気配が隠しきれてなくて、まったく可愛い要素がないお前のこと、すげぇ色っぽく見えたのが、新鮮だったんだよ。しっとりと濡れた髪が顔の横に雑に垂れてるのが、特にたまらなくエロかった。中身一緒なんだから、男のお前も女装のお前もどっちにしろ可愛い。みたいに思う気持ちもあるけど、男のお前の外見に興奮するってのも、可愛さじゃなくて色気に反応してるのも初めてで、安心したっていうか、嬉しかっただけ」
「んー、わかるような、わからないような……」
「お前はお前だから、お前の中の可愛いとことか、俺を求めるいじらしい努力に反応してるとこが大きくて、見た目って意味では女装のほうが性的に興奮する感じだったけど、でも、素のままのお前の見た目にだってちゃんと性的に興奮できるんだな、という新たな認知を得た」
「それが嬉しかったの? 笑っちゃうほど?」
「そう。素のままのお前に抱かれるのも、悪くなった。まぁ、女装して、抱いてるのにアンアン喘いでくれるお前もかなり良かったから、結局、どっちのお前だっていいって話でしかないけど」
「それを俺が喜ぶのはわかるんだけど、お前が笑うほど嬉しいのはやっぱイマイチわかんないかも」
「お前が俺のために女装頑張ってんの、似合うし可愛いしいじらしいしで、胸に来るものが有るし、実際それに絆されてるとこがないわけじゃないし、お前の狙い通りになってるんだから気にするとこじゃないかもしれないけど。でも、俺が可愛いのが好きなせいでって気持ちもないわけじゃないから。素のままのお前にだって、性的にもちゃんと興奮できるって判明したのは、俺的にも嬉しいことなんだよ」
 今後も女装を続けてくれるなら、それはそれで歓迎してしまいそうだけど。と続ければ、女装は多分続けると思うけど、可愛いのが好きで申し訳ないとか思わないで欲しいと返された。
「可愛いのが好きとか、それをあまり人に知られたくないって思ってるとことか、夢の国通い優先して彼女作らないとことか、そういうとこに思いっきり付け込んだ自覚あるから。それに、俺の女装に見とれてくれたり、好みだとか可愛いとか言われたら内心ガッツポーズ決めるくらい喜んでるから」
 申し訳ないなんて思うのらしくないっていうか、可愛いが好きで何が悪い、って開き直ってる方がきっとお前らしいよと言われて、これからももっともっと女装の腕上げて可愛くなる予定の俺を、もっともっと好きになってくれたらいいと思うよと自信満々に笑って見せる。
 よく理解されていると思うし、もっと好きになってと自信満々に言いきれるのはいい傾向だよなとも思う。それは、こちらの好意や愛情を、しっかり受け止めた結果の自信なのだろうから。
 だから、確かにそうだなと言って笑い返した。

<終>

後半のダラダラエッチでめちゃくちゃ文字数嵩みましたが、最後までお付き合い本当にどうもありがとうございました。
1ヶ月ほどお休みして、次のお話の更新は10月18日(水)からを予定しています。

 
 
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可愛いが好きで何が悪い55

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 目覚めたときの部屋の中はかなり薄暗かった。すぐ隣に横たわる存在にギョッとして跳ね起きかけて、けれど体の痛みというか違和感に起き上がることは叶わず、小さく呻いて布団の中で硬直した。
 それからようやく、自分の置かれた状況を理解していく。というよりも、寝る直前までナニをしていたか思い出す。
 どうやら疲れてガッツリ眠ってしまったらしい。カーテンの隙間から入り込む明かり的に、すっかり朝というよりはそろそろ夜が明けるくらいだろうか。
 隣の熱源は当然この家の主で、まだ起きる気配はなさそうだ。
 一緒に寝ていたのはこの家に来客用の布団がないからで、体はさっぱりしているが服は下着しか付けていない。なぜか隣の彼も服は着ておらず、未確認だがきっと同じように下着だけ履いて寝たんだろう。
 しっかり後始末をする余力があって、なぜ裸? とは思ったが、もしこちらに服を着せるのを諦めたなら、自分だけ着込むのをためらったのかもしれない。まぁ、素肌をくっつけて眠りたかったとか言いそうな気もするけど。
 状況を把握したところで、今度は気を付けながら、ゆっくりと体を起こしていく。被害と言うと言葉が悪いが、昨夜のあれこれで肉体に残った影響も、早めにしっかり把握しておきたかった。
 といっても、心構えが出来ていれば、いちいち呻くような痛みや違和感はない。
 あちこち筋肉痛に似た軽い痛みがあるが、それは多分慣れない姿勢をとったせいだろう。尻の穴は特に痛みが残っている訳では無いが違和感がすごい。あと、お腹の奥がまだなんとなくジクジクとしている。
 一度意識してしまうと、そこを優しく突かれて気持ちよくなった感覚まで思い出してしまって、顔に熱が集まるようだ。
 一応事前に予習していたあれこれがあるから、そこで気持ちよくなれることも、知識としてはないわけじゃないけど。でも、一晩であれこれ駆け抜け過ぎじゃないだろうか。
 前立腺だって、慣れなきゃ違和感やら痛みやらを感じるって書かれてた気がするのに。怖い怖い言いながらでも、結局ペニスへの刺激無しで吐精までイケてしまったし、初回からこんなに簡単にあちこち気持ちよくなれる想定は欠片もなかった。
 男は抱いたことないはずなんだけど、と思いながら、相手の寝顔をマジマジと見下ろしてしまう。穏やかで満たされたとはいい難い、なんだか難しい顔で寝ているのが若干気になるものの、だからって何が出来るわけでもない。
 なのですぐに、思考は昨夜の行為へと戻っていく。
 まぁ相手だって色々調べただろうし、それどころか自分の体を使ってあれこれ実践していたわけだし、男との経験はなくても女の子とは相当経験を積んでいたはずだし。と思うと、これも当然の結果だったりするんだろうか。
 体の相性云々も否定する気はないけど、やっぱり相手のテクのおかげ、って気持ちのほうがこちらとしてはどうしたって大きい。これは、自分の体に抱かれる側の素質があった、とはあまり思いたくないって気持ちも関係してそうだけど。
 でもこれらの気持ちは、心のなかに留めて置いたほうが良さそうではある。
 過去の女性関係には色々と思うところがあるようだから、相手は間違いなく、自身のテクを自慢したりしないし、こちらの体を指して抱かれる側の素質があるとも言わないだろう。なので結局、体の相性がいいからこんなにも気持ちがいい、ってとこに落ち着くんだろう。
「ん……?」
 そろそろ相手も起きるだろうか。眉間にますますシワが寄り、次いで、もぞもぞと片手がシーツの上を這う。
 どうやら起き上がってしまったから、そこにあるはずの熱がなくなって、相手の起床を誘ったらしい。
 とっさにシーツの上を這う手を握ってしまえば、見つめる先でゆっくりと相手の瞼が上がっていく。
「あ、悪い、起こした」
「いや……って、だいじょぶ!?」
 思わず謝れば、ぼんやりとした返事があって、それから慌てた様子でガバリと起き上がる。どう考えても、起こしたことに対する「大丈夫」ではなく、こちらに対する問いかけの「大丈夫」だ。
「大丈夫って、何が?」
「なにって、体。どっか痛くない? 気分は? 悪くない? てか、疲れて眠っちゃっただけなんだよね?」
「あー……心配掛けたなら、悪い」
 特に問題はないと言えば、あからさまにホッとされた。
「声かけても体拭いても起きないから、ちょっと、心配した」
「俺、眠りは深いほうだから」
「知ってる。から、呼吸は問題無さそうだったし、とりあえず朝までは様子見しようって思って……ってか、普通に起きてくれてよかったぁ」
 心底安心したというように、大きく息を吐きだしている。
 抱き潰して救急車騒ぎとか、そんなことになったらどうしようかと。なんて呟きまで聞こえてきて、どうやら思ったより大事になりかけていた。
 後でフォローすればいいだろと、あっさり寝落ちた事をさすがに悔いる。せめて、何か一言二言告げてから、眠ればよかった。疲れて眠りたいだけだと、言っておくべきだった。

続きました→

 
 
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