今更なのに拒めない2

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 大学に入学してから先、ずっと暮らしているアパートは、当然一人暮らし用の小さな部屋だ。いくら高校時代はそれなりに仲が良かった相手とはいえ、六畳程度の洋室に小さなキッチンがあるだけの1Kに二人で暮らすというのは、正直不安しかない。
 それでも、一緒に暮らし始めて三日と経たず、相手がとりあえずの夜間バイトを決めて来たことで、狭い部屋に二人で暮らすストレスは、危惧していたほどには大きくなかった。だいたいこちらが起きだす頃に帰ってきて、こちらが帰宅する頃にはもう出掛けているから、相手と顔を合わすのは、朝の短な時間と週末が殆どだ。
 かなり気を遣われているらしいのはわかっていたし、ひどく不快になるようなことも起こらなかったので、さっさと出て行ってくれないかと言うこともなく、なんとなく彼の存在を受け入れてしまったままの生活も、そろそろ三ヶ月が経とうとしている。
 それは雨の降る日曜の昼過ぎで、週末にこなして置きたい掃除やら洗濯やらは昨日のうちに終えていて、つまりは割と暇を持て余していた。
「お前も暇なの?」
 録画したまま溜まっていくばかりの番組をチェックし、流し見たり削除したりしながら、その作業を隣で見ているだけの男に問いかける。一応一緒に見てはいるようだけれど、つまらないなと思った番組を途中で切り上げて削除するときも、もっと見たいから消すのは待ってくれなどと言ってはこないから、多分テレビが点いてるから見ているだけで、こちら以上に興味がなさそうだった。
 だからといって、なにか別のことをするでもない。多少眠そうな感じはあるが、相手の生活サイクルを考えたら、平日のこの時間帯は睡眠時間だろうから当然だ。共に過ごすことになる週末はなるべくこちらの生活に合わせると言ったって、そんな簡単に週末だけ都合よく、朝起きて夜眠る生活に戻れるはずがない。
「というか、やること無いなら眠っといた方が良いんじゃないの?」
 テレビうるさいならイヤホン使うけどと提案してみれば、別に暇持て余してるわけじゃないから良いよと返ってくる。ちょっとその言葉を信じる気にはなれない。
「明らかに暇そうに見えるんだけど」
「というか、お前もって聞き方するってことは、お前の方こそ暇だったりするの?」
「まぁ、割と」
「テレビの録画整理は?」
「やったほうが良いのはわかってるけど、そこまで切羽詰まってない。どっちかっていったら暇つぶしにチェックしてるだけ」
 正直に言えば、見ないままある程度の期間放置されたものは、そのまま削除でも構わないと思っている。仕事絡みだったりで、どうしても見ておきたい番組類は放置などしないし、とっくに視聴済みだった。
「なんだ。そうなんだ」
「そうだよ」
 肯定すれば、ふーんと暫く考え込んだ後。
「なら、遊んでって言ったら遊んでくれんの?」
「それは遊びの種類によるだろ」
 探せばトランプぐらいは出てくる気がするが、二人で遊べるようなものが家にない。ゲーム機もあるにはあるが、所持しているのは一人でやり込むタイプのソフトが数本だけだし、それらも最近はめっきり起動していない。
「雨降ってるけど、対戦ゲームのソフトでも探しに行ってみる?」
 高校生の頃に二人して結構ハマっていたゲームの新作だったかが、何年か前に出ていたような気がする。
「あー、まぁ、それも悪くはないんだけどさ」
 四つ這いでにじり寄ってくる相手の、なんだか困った様子の顔を不思議に思いながら見つめしまう。なんとなくの予想はついたものの、どうしようか迷ううちに、あっさりラグの上に押し倒されていた。

続きました→

 
 
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HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

今更なのに拒めない1

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 目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。部屋の中は薄暗く、じんわりと冷えている。結構しっかりと雨が降っているようで、目が覚めてしまったのも、部屋が薄暗いのも、寒いのも、きっと全部雨のせいだ。
 こんな朝は気が滅入るな、と思う。世の中は十連休だったり、平成最後の日だったりするんだろうけれど、そういったものとは縁がない。今日も普通に出社して、仕事して、帰宅して寝るだけの、変わらない一日を過ごすだろう。
 そう思っていたのに、顔を洗って着替えを終えた所で、ピンポンとドアチャイムが鳴り響いた。会社はそこまで遠くない上、始業時間も遅めの会社ではあるのだが、それにしたって人の家を訪れるには非常識な時間帯だと言える。
 こんな時間に誰だよと思いながら、玄関へ向かう中、もう一度ピンポンと鳴った。忙しない。
「どちらさん?」
 さすがにいきなりドアを開けたりせず、声を掛けながらドアスコープを覗く。少なくとも宅急便やらの類ではないらしい。そこには見知らぬ男が立っていた。
「あー、その、」
 告げられた名前にびっくりする。全く知らない男ではなかったが、高校を卒業して以来、もう10年近く会っていない。
 確かに高校時代は仲が良かった。大学から先は居住地が結構離れてしまって、そこから暫くはそれなりの頻度でメールなどで近況報告をしていたが、大学を卒業するくらいには随分と少なくなっていて、彼の結婚を機に連絡を取り合うようなことは一切なくなった。
 最後に彼から何かしらあったのは、ほんの気持ち程度に贈った結婚祝いのお返しだ。けれどあれも、届いたのメール一つ無いまま突然お返しが届いて、やはり中にもメッセージ一つ入ってなかったから、実質、遠回しな縁切り宣言かなと思っていた。
「もう5分ほど待ってて」
 10年も会っていないと、本当に本人なのかも怪しくて、ドアは開けずにそのまま大急ぎで出社する準備を終える。
「お待たせ」
 アパートの廊下に佇む相手と正面で向き合えば、なるほど、ドアスコープ越しに見えたものよりは、本人らしい面影がある。
「話があるなら、仕事向かう途中で聞く」
「休みじゃないんだ?」
 こちらの姿を見て驚いていたのは、見た目が変わったというよりは、休みだと思っていたせいらしい。いや、見た目への驚きという可能性も無いわけではないけれど。
「ああ。お前は? こんなとこ来てるってことは、しっかり十連休なの?」
「あー……まぁ、色々あって」
「そりゃ、色々なきゃこんな時間に尋ねてこないだろ。で、何があった?」
 会社の最寄り駅に着く頃には、なかなか壮絶な結婚生活と、離婚と退職と、行く場所がないから暫く匿って欲しい旨を聞かされた。離婚を成立させるために、ほぼ全財産元嫁に差し出したことと、親は離婚反対で今もまだ元嫁の味方だから実家を頼るわけにはいかない、とも。
「いやお前、暫くってどれくらいだよ」
「長くて半年。それまでに次の職探して、絶対どうにかするから」
 頼むよと顔の前で両手を合わせて頼み込まれて、溜め息を吐き出した。
「なぁ、なんで、俺? 十年もあってない相手、よく頼ろうって気になる」
「あいつに友人関係も管理されてたって言ったろ。あいつの手が伸びてこなそうな相手で、はっきり住所覚えてるの、お前しか居なかった」
 こちらに関する情報もとっくに元嫁により破棄済みだが、学生時代、旅先から何度もハガキを送っていたので住所は暗記していたらしい。旅行サークルだったかで、確かに、しょっちゅういろいろな地方の消印付きで絵葉書が届いていた。
「あと、結婚祝い、贈ってくれたろ。住所変わってないのは、送り主のとこ見て覚えてた」
 お礼のメールを送ったらエラーが出たとかで、結婚を機に縁切りされたと、相手も思い込んでいたらしい。
「学生時代とか、そこそこ仲良かった友人たちでさ、あいつと面識なかったり、あいつが気に入らなかったりしたやつのメルアドとか電話番号とか、こっそり書き換えてやがったんだよ。ご丁寧に拒否設定もされてた」
 めちゃくちゃ友達なくした、と言った相手は悔し涙を浮かべていて、その顔を見てしまったら嫌だダメだとは言えなかった。

続きました→

 
 
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いつか、恩返し(目次)

キャラ名ありません。全35話。
同じ市内在住の同い年な従兄弟。メインは大学時代の4年間。
幼い頃から視点の主は従兄弟と競い合ってきたが、高校入学後に力量の差を認めて謝罪。その後、家庭の事情から従兄弟に同じ大学の同じ学部学科へ入学して貰うことになり、そこで大きな借りができる。
親元を離れた大学生活中、従兄弟と恋人ごっこをしたり、従兄弟に恋愛的な意味で好かれてると知ったり、従兄弟の誘いに乗ってセックスしたりで、最終的にはごっこをはずした恋人になります。
視点の主は好奇心旺盛で、その好奇心に付け込まれるような形で抱く側も抱かれる側も経験しますが、描写は抱く側の方が多め。
恋人ごっこを開始する前、視点の主は彼女持ちで非童貞。従兄弟は高校時代に彼女が居たけれど童貞。後ろはどちらも非貫通です。

下記タイトルは内容に合わせたものを適当に付けてあります。
性的なシーンが含まれるものはタイトル横に(R-18)と記載してあります。

1話 一緒の大学へ行こう
2話 従兄弟のゲイ疑惑
3話 形だけの恋人
4話 お酒解禁
5話 従兄弟の好きな子
6話 今後も今まで通りで
7話 試していいよ
8話 どっちでもいい
9話 便利な言葉「好奇心」(R-18)
10話 もう挿れて(R-18)
11話 きっと好奇心ではない(R-18)
12話 憐れで、健気で、愛おしい(R-18)
13話 優越感と見下し
14話 可愛いと繰り返す
15話 交代
16話 童貞なんて聞いてない(R-18)
17話 集中させて(R-18)
18話 抱く側でも可愛い(R-18)
19話 相互アナル弄り(R-18)
20話 背面騎乗位(R-18)
21話 チャレンジ(R-18)
22話 炒飯とスープ
23話 微妙に噛み合わない
24話 win-winな関係
25話 嬉し泣き
26話 好きを言う理由
27話 もう少し、このままで
28話 大学卒業後の進路
29話 欲しかったもの
30話 卒業後は同棲決定
31話 今だから言える
32話 親近感
33話 そろそろ知ってて
34話 恩を返すために
35話 抱き潰された(R-18)

 
 
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いつか、恩返し35(終)

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「執着逆転してるって話もしたし、同じ学部学科選んだのもお前のためだけじゃないし、お前が俺に恩を感じてるって言うから、それも存分に利用してきたわけ。つまり、本気で恩を返せなんて言える立場じゃないんだって」
 むしろ俺がお前に恩返ししたいくらいだよ、なんて言いながら顔が寄せられて、ちゅ、と唇を吸っていく。
「お前は無自覚と言うか実感ないだろうけど、お前が俺にくれてるもの、お前が思う以上に多いから。子供の頃からずっと、いろんな形で、お前に支えられてきてる。さっきちらっと話した程度じゃ、ホント、伝わってないと思うけど」
 だからさ、と言葉を一度区切った相手の手に促されて両足を開けば、先程下着まで剥ぎ取られて剥き出しな下半身の隙間に相手の手が差し込まれてくる。もう片手にはローションボトルが握られていて、器用に蓋を外すと、中身を差し込んだ手の平に流し落としていく。
「で、だから、の続きは?」
 くちゅくちゅと湿った水音をたてて慣らし始める相手に、しばらくは黙って従っていたが、途切れたままの言葉の先が気になって問いかる。
「んー、だから、俺が今、お前に恩を返せっていうのは、お前が恩返ししなきゃって思い続けてるから、そろそろそれを終わりにしようってだけなんだよね、って話?」
 恩返しなんか要らないって言うより、恩返しって名目で何かして貰うほうが、お前的にスッキリするんじゃないの、と続いた言葉は確かに的を得ている。つまり、これで恩を返し終わったという気持ちの区切りを、つけてくれようとしているだけらしい。
「あー、うん、その、ありがとう?」
「ここでありがとうが出てくるの、お前も大概、可愛いからね?」
「いや、可愛さはお前のが格段に上」
 張り合うように言い切れば、どっちがより可愛いかなんて話じゃないのにと、おかしそうに笑われてしまった。
「お前に可愛いって言われるのも嬉しいんだけど、でも今日は、いつものお前以上にお前を可愛いって言うつもりだし、思いっきり可愛がるから」
 覚悟してよねと言われて、そういや抱き潰したいって話だっけと思い出す。わかったと頷けば、すっかり快感を得ることを覚えてしまった前立腺を、楽しげにグニグニと押し揉まれて、嬌声をあげながら体を跳ねた。


 決して相手の本気を疑っていたわけではないのだけれど、結果、見事に抱き潰されて、目覚めになんだか呆然とする。なんか、色々と凄かった。一方的に、やや強引に、何度となく快感を引きずり出されて、叩き込まれて、体も頭の中もバカみたいにキモチイイだけになって、いつ行為が終わったのかも覚えていない。
「なんか、随分ぼんやりしてるけど、大丈夫?」
「あー、うん」
 こちらが目覚めたことに気づいた相手が心配そうに声をかけてくるが、呆然とした気持ちは抜けないまま、曖昧な返事を返してしまう。
「大丈夫じゃなさそう。てかまだキモチイイに浸ってたりする?」
 雰囲気がエロいと苦笑されながら、優しい手付きで頬を撫でられれば、うっとりと目を閉じそうになる。気持ちがいい。
「なぁ、」
「うん、何」
 結局目を閉じてしまいながら相手に呼びかければ、甘やかすようなとろりとした声音が返ってくる。その声にも、思い出して体の奥のほうが疼く気がした。
「はは、凄っ」
「何が?」
「お前の好きを、徹底的に叩き込まれた、って感じがする」
「叩き込んだ、で間違ってないと思うけど」
 肯定されて、思わず笑う。確かにそうだ。あれはそういうセックスだった。
 再度眠りを誘う気持ちよさに抗い、どうにか目を開け体を起こす。体のあちこちが軋む気がして眉を寄せれば、すぐさま心配そうな声が大丈夫かと問うてくる。
「体は平気だけど他がやばい」
「他?」
「ああ、色々と凄い。やばい」
 まるで要領を得ない発言に、相手も何かを感じ取ったらしい。
「もしかして、それは俺にとって嬉しい話?」
「多分」
「ならいいや。何か、して欲しいこととかあれば言って」
「俺もお前を抱きたい」
「ダメとは言わないけど、さすがに今すぐは無理じゃないの」
 疲れ切ってるでしょと言われて、そういう意味じゃないと返す。
「俺も、お前を抱き潰すみたいなセックス、したい」
「ああ、うん。もちろんいいよ。今度ね」
 あっさり了承されて拍子抜けもいいところだ。
「本気で?」
「だって嫌がる理由がない」
「でも俺に好き勝手させる理由もないだろ」
 だってこちらは、恩返し代わりに抱き潰されるのを了承したのだから。色々と凄い体験ではあったし、気持ちのいい思いはたくさんしたし、不快な思いをしたわけではないけれど、酷い目にあったという気持ちも無いわけじゃない。
 しかし相手は納得した様子でそういう話かと言った後。
「むしろ俺が恩返ししたいくらいだ、って言ったろ」
 だから俺にも恩返しさせてよと笑う顔はなんとも幸せそうで、今すぐ押し倒せないのが残念でならなかった。

< 終 >

 
 
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いつか、恩返し34

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 最初にベッドへ行こうかと誘われた時、間違いなく、自分は相手を抱きたい意味で可愛いと口にしていた。相手だって、それをわかっていて、ベッドという単語を出したものだとばかり思っていた。
 しかし今現在、押し倒されたベッドの上で、楽しげな顔の相手にズボンと下着とを剥ぎ取られている。
「俺が抱く側、のつもりだったんだけど」
 本気で抵抗してはいないし、既に双方、今回の役割は決まったと思っているのだけれど、それでも、当初の予定と違うということだけは伝えて置きたくて口を開く。
「知ってる」
「どこで変わった?」
 会話の途中で、今日は抱く側をしたいと思うような何かがあったんだろう。そう思って聞いたのに。
「最初に誘った時からだよ。強いて言うなら、お前が、恩を返せって言ってでも、卒業後も恋人で居続けたいって言うつもりだったのか、って聞いた時から」
「つまり、強引に奪い取らずに叶ったのが嬉しくて?」
「それもあるけど、どっちかって言ったら、お前の中に残ってる俺への恩、いい加減返して貰おうかと思って」
 そんなものなくってもお前はもう俺から離れていったりしないだろうから、お互い長いことなんとなく背負い続けてた負い目だの恩だの精算して、卒業後は対等な、ただの従兄弟で友人で恋人な俺たちで過ごしたい。と言った相手の主張に頷くのは構わないのだけれど、ベッドの中で返す恩とは一体何だという疑問は残る。しかもこちらが抱かれる側でだ。
「普段の俺ならノーって言いそうなこと、恩を返せよって言ってやる気でいる?」
 一体どんな抱き方をする気だとこわごわ聞けば、お前がノーって言うようなプレイ思いつかないと返されて、確かにと思いながら思わず唸る。
 好奇心を刺激されながら、こういうのやってみないかと提案されたら、喜んで応じてしまうだろう自覚はあった。相手が提案してくるのであれば、安全性などはそれなりに保証されていると思っていい、という信頼も大きい。
「出来るかどうかは置いといて、抱き潰す、つもりで抱きたい」
「ああ、」
 わかる、と言いそうになって慌てて口を閉じた。どうしたって相手の体を気遣うから、あまりむちゃなセックスはしたことがない。むちゃなというか、長時間に及ぶプレイと言うか、何度も相手を一方的に果てさせるというか。それはどちらが抱く側でもだ。
 出来れば同時に果てたい、という気持ちは相変わらず持っていて、基本的には、お互いに一度ずつ果てたら一回終了で休憩を入れるし、だいたいはその一回で終わってしまう。二回目をやることがないわけではないが、その場合は立場を入れ替えて、って事が多かったように思う。つまり、どちらかが逆側もしたい、って思った時は二回目がある、という感じだった。
 連休だとか長期休暇中だとかに、部屋にこもってセックス漬け、みたいなことは経験があるけれど、あの時だって、充分な休憩を挟みながら、適度に立場を入れ替えながらで、もうしばらくセックスはいいって思うくらいにやりまくったのは事実でも、相手を抱き潰すような激しい行為は一切なかった。
「俺をお前の好きなように抱く、ってので、本当にお前への借りは全部チャラ?」
「そう」
「正直言えば、親から切られた俺の立場でお前に同棲申し込むってのも、またお前への借りが増えるなって感じなんだけど」
「あーもう、ホント律儀だなぁ。俺だってお前が一緒に住んでくれることで得られるもの大きいと思うから、それはもうお互い様ってことでいいんじゃないの。というかさ、さっき散々、俺が子供の頃とかお前が謝ってきた後の高校時代のこととか話して聞かせたのに、恩を返してってのに素直に応じようとしてんのも、割と驚いてるからね?」
「ん?」
 どういう意味だと彼の言葉を脳内で反芻しようとしたところで、呆れた様子の溜め息と共に、お前が返さなきゃならない恩なんてないって言ってんだと告げられた。

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いつか、恩返し33

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 焦ってたようには全く見えなかったと言えば、笑って、絶対知られたくなかったからと返ってくる。
「つまり、今ならもう、知られても良くなった?」
「そうだね。そろそろ知ってて貰ってもいいかなって」
「大学卒業するから? それとも、俺が親に縁切り宣言されたから?」
「どっちも。あと、お前が卒業したら同棲しようって言ったから」
 お前からそう言ってくれたの本当に嬉しいんだと笑ってみせる顔は、確かに嬉しそうだった。
「でもお前、それずっと狙ってたわけだろ。手に入って当然の結果じゃないんだ?」
「そりゃ努力が実った、とは思ってるけど。でもずっと狙ってたはちょっと違う。狙い始めたのなんて、お前とセックスするような仲になって随分経ってからだよ」
 お前が俺をどんどん受け入れてくから、だんだん卒業後もこのままでいられないかなって欲が出たんだと続けた彼は、大学の4年間はなるべく互いの親抜きで、お前との関係を見つめ直すための時間だと思っていたと言う。
「俺はお前を、恋愛的な意味も含んで気になっているんだろうって、高校時代には自覚してたけど、でもお前と恋人になりたいとまでは思ってなかったし、なれるとも思ってなかったんだ。仲の良い友人、もうちょっと言うなら親友と呼べそうなくらい、お前に近づきたかっただけでさ」
 お前が謝ってきた時点で執着は完全に逆転してんだよねと、なんだか申し訳なさそうに苦笑されて、そういえば執着されていたかったって話だったと思い出す。
「俺が親の言いなりにお前と張り合うの諦めたから、俺からの執着を取り戻そうとして友達になろうとした、って感じではないよな?」
 だって友達って、執着し合うような関係では無い気がする。少なくとも、彼に向けていたライバル心と、その他の友人たちに向かう友情は全くの別物だった。
 執着を取り戻そうとしたのなら、最初から恋人狙いだった方がまだわからなくない。恋人という特別な相手への関心の方がまだ、彼へと向かっていたライバル視に近い気がする。
「執着を取り戻そうとはしてないね。お前が俺への執着を捨てるのは、お前にとっていいことだって判断は出来てたし。ただ、ずっと意識されてたのに、それがパチンと一瞬で切れてなくなるのが、怖かったんだよ。だからお前が謝ってきた後、俺の方から話しかけたり、謝られたんだからもう気にしてないって素振りで、かなり友好的に振る舞ったろ」
「ああ、まぁ、確かにそうだった。お前いいやつなのに、親の刷り込みで嫌な奴って思ってただけなんだなぁって、思った記憶あるわ」
「お前のそういうとこ、ホント、好き。てか、お前がそう思ってくれてるっぽいのわかってたし、ホッとしたし、それで好きになったとこある。同じ大学行って、ちゃんと関係作り直したら、一生モノの友人ってやつが俺にも出来るかも、とか思ったよね」
 結果は恋人だけどこれも一生モノになるといいよね、とこちらの反応を窺うように言うので、そうだなと同意を返してやる。そこまで先を含めて、卒業後に同棲という話を持ちかけたわけではないけれど、別に一生彼との恋人関係が続いたって構わない。
 あからさまな安堵と共に嬉しそうに笑った相手に、ねぇもうベッド行こうよと誘われれば、もちろん嫌だなんて言うはずがなかった。

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