1話完結作品

1話だけで終わっている作品をただ並べただけのページです。
右下へ行くほど古い作品。

酔った勢いで兄に乗ってしまった話  大事な話は車の中で  大晦日の選択  捨て猫の世話する不良にギャップ萌え、なんだろうか  自棄になってても接触なんてするべきじゃなかった  お隣さんがインキュバス  ずっと子供でいたかった  ホラー鑑賞会  離婚済みとか聞いてない  初恋はきっと終わらない  好きって言っていいんだろ?  カレーパン交換  ツイッタ分(2020年-2)  ツイッタ分(2020年-1)  それはまるで洗脳  あの日の自分にもう一度  ツイッタ分(2019)  禁足地のケモノ  嘘つきとポーカーフェイス  カラダの相性  お隣さんが気になって  間違ってAV借りた  ツイッタ分(2018)  結婚したい相手はお前  ときめく呪い  昔と違うくすぐり合戦  雨が降ってる間だけ  兄が俺に抱かれたいのかも知れない  ただいまって言い続けたい  親友に彼女が出来た結果  週刊創作お題 新入生・再会  60分勝負 同居・灰・お仕置き  いくつの嘘を吐いたでしょう  ヘッダー用SS  出張に行くとゴムが減る  ゴムの数がオカシイ   チョコ味ローション買ったんだって  スライムに種付けされたかもしれない  昨夜の記録  合宿の夜  寝ている友人を襲ってしまった  なんと恋人(男)が妹に!?  卒業祝い  120分勝負 うっかり・君のそこが好き・紅  こんな関係はもう終わりにしないか?  そういえば一度も好きだと言っていない  バレンタインに彼氏がTENGAをくれるらしい  鐘の音に合わせて  青天の霹靂  初めて抱いた日から1年  叶う恋なんて一つもない  抱かれる覚悟は出来ていたのに  2回目こそは  墓には持ち込めなかった  呼ぶ名前  酒に酔った勢いで  思い出の玩具  兄の彼氏を奪うことになった  俺を好きだと言うくせに  夕方のカラオケで振られた君と  一卵性双子で相互オナニー  腹違いの兄に欲情しています  死にかけるとセックスがしたくなるらしい  草むらでキス/戸惑った表情/抱きしめる/自分からしようと思ったら奪われた  好きなひとの指 / 連続絶頂 / 癖になってしまいそう  淫魔に取り憑かれてずっと発情期  アナニーで突っ込んだものが抜けない  ハロウィンがしたかった  忘れられない夜 / 無抵抗 / それだけはやめて  引っ越しの決まったお隣さんが親友から恋人になった  優しい笑顔が好きだった  リバップル/向き不向き  戸惑った表情/拘束具/同意のキス  夕方の廃ビルで

 
 
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太らせてから頂きます2(終)

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※ 視点が後輩に変わっています

 思えばサークルに入って少ししてから、その先輩はずっと自分をなんだかんだ気にかけてくれていたように思う。実家の状況が変わって仕送りが大幅に減った時も、サークルを辞めるといった自分を幽霊会員でいいからと引き止め、結構な頻度で食事をおごってくれたりしていた。
 下心でなんて言いつつも何もされなかったし、いつも柔らかに笑ってくれるばかりだったから、なんというかこう、世話したがりな人なんだろうと思っていた節はある。下心というのはむしろ、手軽にボランティア精神を満たすのに利用してるってことか? なんて事を考えた事まであったほどだ。
 実家の状況が少し好転して、前ほどではないにしろまたサークルにも時々顔を出せるようになってからも、一度かなり縮んだ距離感は顕在で、奢りこそ多少減ったけれど一緒に食事する頻度はむしろ上がった。サークルに顔を出せるようになったことを、本気で喜んでもくれていたから、そこから何か少し変だなと思うようになった。
 しかし変なのは先輩がではなく、自分自身の方だった。変になった自分に、多分先輩も気付いている。なんだか少しずつ距離を置かれている気がするのは、自分が変になったせいだとわかるから、時々泣きたいような気持ちになる。
 食べるものが美味しくない。特に一人での食事時はそれが顕著だった。
 だんだんと色々なことが億劫になって、家でぼんやりすることが増えたが、ぼんやりしつつも頭の中では先輩のことを考えている。
 なんだこれ。なんだこれ。
 先輩とのあれこれを思い出す合間に、焦りなのか絶望なのかわからない不安のようなものが、脳内をぐるぐる回っている。
 そんな中、携帯が小さく震えた。手にとってみれば、くだんの先輩から奢ってやるから出ておいでという、なんとも見慣れたメッセージが届いていた。
 一瞬胸が軋む気がしたが、すぐに行きますの4文字を送る。次に送られてきたメッセージには、場所が先輩の家なことと、食べるものは既に決まっている事が書かれていた。
 急いで先輩の家に向かえば、先輩は困った様子の苦笑顔で迎えてくれたから、なんだか申し訳ない気持ちが湧いてまた泣きそうになる。先輩の前で泣くわけになんか行かないのに。そんな事になったら、きっとますます避けられるようになってしまう。
「お前、最近ちゃんと食ってんの?」
 机の上に並んでいたのはどこで買ってきたのか、近所のスーパーのものではないことだけはわかる惣菜が並んでいて、どれも消化に良さそうな物をと考え用意されたものだとわかる。
「あんま、食欲、なくて」
「知ってる。でも食わないのはダメだよ」
「太るどころか痩せたっすもんね」
 きっと上手くは笑えなかった。だって自分のゲス加減にうんざりした。
 あまり腹が減らなくなって、もしこのまま食べれずに痩せていったら、また先輩が色々気にして食事に誘ってくれるんじゃないかって、期待していた気持ちは自覚している。
「逆だよ。お前が俺の思惑通り丸々太ったから、お前は今ちょっと食べれなくなってるだけだから」
 先輩はやっぱり苦笑顔で、まったく意味がわからないことを言い出した。
「説明はする。だから、取り敢えず一緒にこれ食べよ。一緒になら、食えるだろ?」
 ほらと差し出された箸を受け取り、頂きますと告げた先輩に続いて頂きますを言ってから、取り敢えず一番手近な所にあった、トロリとした餡のかかった豆腐を口に運んだ。
「美味い、っす」
 軽く咀嚼して飲み込んで、心配気に見ていた先輩にそう伝えれば、ホッとしたように笑う。柔らかな笑顔に、ああ、この人のことがいつの間にかこんなにも好きだと思って、とうとう涙が一粒溢れてしまった。
「す、っみま、せっ」
 慌てて涙を拭おうとした手を、先輩の手がそっと握ってくる。
「謝るのは俺の方。ちょっと育て過ぎちゃったな」
「育て、すぎた……?」
 さっきから先輩の言葉の意味がさっぱり伝わってこなくて、とうとう先輩とは言葉すら通じないほどの仲に変化してしまったのかと悲しくなる。
「ヘンゼルとグレーテルの時代から、餌付けして太らせてからおいしく頂くものだって、前に教えたよな?」
「でも俺、まったく太ってないです、けど」
「俺が太らせたかったのはお前の体じゃないよ」
 苦笑した先輩は、そっと左胸に手のひらを押し当ててくる。
「俺が餌付けしまくって育ててたのは、お前の、ここ」
「ここ?」
「心臓。いわゆるハート。ようするにお前の、俺への気持ち」
「先輩への、気持ち?」
「そう。食事が喉を通らなくなるほど、俺を好きになってくれて、ありがとう」
「……えっ?」
「違った?」
 呆気にとられて見つめる先で、先輩が優しく笑っている。
「違わ、ないっ」
 どうにか声を絞り出したら、良かったと言いながら左胸に当てられていた手が頬に伸びて、さっきこぼれた涙の跡を消すように拭ってくれた。
「めちゃくちゃ美味そうに丸々太ったお前を、今すぐ食べたいくらいなんだけど、食事後回しで大丈夫?」
 頷きながらも、下心って本当にあったんだと、自分の鈍感さに少し笑う。笑ったら、笑った口元凄く美味そうと言われながら、先輩にカプリと齧りつかれてしまった。

 
 
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太らせてから頂きます

 奢ってやるから出ておいでーとラインを送れば、すぐに既読がついて、どこ、という簡素な返事が書き込まれた。
 一応大学サークルの後輩なのだが、ラインの文面はいつもこんなだ。携帯で文章を打つのが苦手だとかで、だからちゃんと返事が来るだけマシらしい。まぁ、返事が来るのは奢るって内容で呼びかけたからなんだけど。
 しかも、サークルの後輩なのに、こうしたサークル以外の個人的な呼び出しで会ってる時間のほうが明らかに多い。というか現在のこいつはほぼ幽霊会員というやつだ。
 理由は実家の経済状況が悪化して仕送り額が大きく減ったから。バイト増やして顔出せなくなるから辞めると言うのを引き止めて、取り敢えず籍を置いたままにさせたのは自分だ。
 こちらも簡素に家とだけ書き込めば、次はピザとだけ返る。その後も単語だけみたいなやり取りを数回繰り返し、終えた後は相手希望のピザを注文した。すぐ出れると言っていたから、到着はきっと同じくらいになるだろう。
 やがてチャイムが鳴り、先に到着したのはピザではなく呼びつけた相手だった。
「ごちになりまーす」
 ラインの文面とは打って変わって、笑顔と共に元気よく告げながら、相手は手にしたビニル袋を差し出してくる。近所のスーパーの名前入りビニル袋の中身は、1.5リットルサイズの炭酸飲料ペットボトルだ。
「はいはい。ごちそうしますよー」
 上がってと促し、自分は受け取ったペットボトルを持っていったんキッチンに立った。
 中身をグラスに注いで部屋に持っていけば、慣れた様子で既に座卓前に腰を下ろしていた相手が、わかりやすく嬉しそうな顔をする。まぁ、ピザと一緒に飲みたくて買ってきたのだろうから、当然の顔なんだけど。
 チャイムが鳴って、今度こそピザが届いたらしい。パッと期待に輝く顔に、可愛いなぁと思う気持ちを噛み締めつつ、もう一度玄関へ向かった。
 待ちきれないのか席を立って付いてくるのもまた可愛い。
 受け取った商品を持ってってと押し付けて、金を払ってから部屋へ戻れば、ピザの箱は既に蓋が開いていた。さすがに手を出してはいないが、こちらの動きを追う目が早くと急かしてくる。
「お待たせ、食べよっか」
「いただきまーす!」
 自分も席に着いて声を掛ければ、やはり元気の良い声が返って、目の前の箱からピザが一切れ消えていく。そしてあっという間に箱のなかは空っぽになった。
「お腹いっぱいになった?」
 聞かなくてもわかるけどと思いながらも、満足気な顔に問いかける。こくりと頷いて、美味かったっすと笑われて、こちらも嬉しくなって笑い返す。
「先輩って、ホント太っ腹っすよね」
「あれ? 下心あるよって前に言わなかった?」
「聞きましたけど、でも何かされたこと一度もないし」
「ヘンゼルとグレーテルの時代から、餌付けして太らせてからおいしく頂くもの、って決まってるからな」
 まったく本気にしてないようで、それじゃあ絶対太れないなぁと笑っている。彼の事情に同情して、時々食事を奢ってくれる先輩、という位置づけなのはわかっていた。
 でも同情してるわけじゃなくて、つけ込んでるって見方が正しい。もちろんそんなの教えないけど。
 餌付けってのは美味いものを食べさせるってだけの意味じゃない。体を太らせるとも言ってない。
 こうして二人で過ごす時間全てが餌付けであり、一番太らせたいのは相手が自分へ向けてくれる想いだって、相手に気づかれた瞬間が多分食べ時。できれば丸々太って先輩好き好きーって状態でおいしく頂きたい。
 時期が来たらむりやり気付かせて食べるつもりだけど、まだまだその時期じゃない。だから今はまだ、何も気づかずにいてほしい。
「いつかお前が太るの楽しみだなぁ~」
「だから太りませんってば」
「じゃあもっともっと食べさせないとなぁ」
「あざーっす」
 言ったら、こちらの思惑通り単純に、また奢ってやるって意味に捉えた相手が嬉しそうに笑った。

続きました→

 
 
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あの人の声だけでイッてしまう2

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 家に帰ると玄関先に見慣れない男性物の靴があった。客でも来ているのかと思いながら自室へ向かおうと階段を登り始めたら、リビングから顔を出した母が、思いもよらない人物の名前を口にした。更に、あんたの部屋で待っててもらってるから、なんて続いた言葉に血の気が引いていく。
 なんで勝手に自室へ通してるんだという、母への怒りはもちろんあったが、それよりも自室を見られたという焦りに階段を駆け上がった。
 勢い良く部屋のドアを開けたら、会わなくなって久しい年上の幼馴染が机の椅子に腰掛けた状態から、顔だけ振り向いて久しぶりだなと笑った。そしてその手の中には、CDラックにタイトルがわからないよう逆向きに入れていたはずの、BLCDのケースが握られている。彼が出演している作品の最新作だ。
「ちょっ、何やってんの!?」
 何年ぶりかわからないくらい久々の相手への、第一声がそれだった。あまりの衝撃に、会っていなかった間の時間なんて、軽く吹っ飛んだ気がした。
「んー、お前が俺のファンらしいって聞いたから、ファンサービスしにきてみた? みたいな?」
 こんなのまで全部聞いてくれてんのと、椅子をガタガタ動かして体の向きまで変えた相手が、手の中のケースを振ってみせる。
「ファン、って……え、誰に聞いたのそれ」
「おふくろ。ちなみに、当然お前の母親経由の情報な」
 いつのまにかオタク趣味に走った息子の目的が、目の前にいる幼馴染の声だとは知られていないと思っていたのに。母親というのはなかなかに侮りがたい存在のようだ。というか、BLCDの存在やその内容まで把握されていたらどうしよう……
「思うに、俺が出た作品、かなり昔のまで揃えてない?」
「お、幼馴染の応援くらい、してたっていいだろ」
 うんそうだ。これだ。それを聞きながらオナニーしてるなんて事実は隠し通せばいい。もし母親に探りを入れられても、それで押し通そうと心のなかで決める。
「非難したわけじゃねぇよ。ちょっとビックリしたってだけ」
 感謝してると続けて、相手は嬉しそうに笑った。多分、本心から喜んでくれているみたいで、少しだけ後ろめたい。
「てか、なんでこっち帰ってきたの? 仕事は?」
「たまに実家に顔出すくらいのことはしますよ、俺だって。今回は久々にお前の話聞いたから、ちょっと寄ってみただけ」
「ああ、そうなんだ……」
「俺のファンならファンって、もっと早く言っといてくれりゃいいのに」
「言ったら何かいいことあるの?」
「あー……じゃあ、サインとか要る?」
 これに書こうか? なんて手の中のケースをまた振っているから、いい加減それを手放せと思ってしまった。
 つかつかと歩み寄って、CDケースを取り上げる。
「作品は聞いてるけど、別にサインとかまで要らない。応援とは言ったけど、こんなのただの、自己満足で買ってるだけ」
「でも買ったら聞いてもくれてるんだろ? どれもちゃんと封開いてるし」
 俺の声、好き? なんて聞かれて思わず硬直した。距離が縮まったこともあるが、それよりむしろ、相手の声が明らかに変化したのを感じたからだ。
「これなんかもさ、けっこう際どいシーンあるけど、そういうの聞いて、お前、どんなこと思うの?」
 にやっと悪戯っぽく笑った相手に、ぐいっと腕を引かれてバランスを崩す。椅子に座る相手にぶつかる勢いで倒れこんだら、体は相手が支えてくれたけれど、思いっきり耳が相手の口元に寄る形になっていた。
「もしかして俺の声で抜いたり、しちゃう?」
「ちょっ……!!??」
「あ、図星? じゃあ、生声で喘いであげよっか?」
 ファンサービスと笑った声は、語尾にハートマークでもついてそうな軽さと色っぽさが混じっていて、それだけで体温が上がってしまう。
「い、要らない要らない要らない!!」
 彼の前で、彼の声で勃ってしまう、なんて醜態を晒すのだけは嫌で、思いっきり抵抗したが、耳元でまぁまぁまぁと宥める声を出されるとそれだけで足の力が抜けかけた。後、単純に、思ってたより相手の力が強かった。
 CDの中で可愛く喘いでたって、相手も普通に成人男性だ。そういや高校時代は何か武道系の部活に入ってた気もする。
「まぁまぁそう言わずに」
 ふふっと笑う声さえわざとらしい上に腰にクるからヤバイとしか言いようが無い。
「んっ、あ……っ、そこっ、ああっ、いぃっ、…はぁ、はぁっ、ん、うん、きもちぃ。あ、あっ、もっと触ってぇ、てかむしろ触ってやろうか?」
 唐突に演技から素に戻った挙句、勃ってるけどなんて指摘をしてくる相手に、ああ、そうだこういう人だったと思い出す。面倒見の好い優しいお兄さんな時ももちろんあったけれど、基本的にはぐいぐいと人を引っ張り回しつつ新たな遊びを考えだすようなタイプだったし、色々な悪さなんかもそれなりに教わってきたのだ。
 可愛い役柄が多いせいか、なんだかすっかり忘れ去っていた。
「こっちもすっかり大人になっちゃて」
 なんて言いながら股間を握られて、さすがに慌てて暴れれば、そこまで本気ではなかったのか掴まれていた腕ごと解放された。
「ちょ、っと! 悪ふざけすぎだろっ」
「いやなんか、久々に会ったお前、可愛くって」
 自分の中での相手が、中学くらいまでのイメージが強いように、相手からすれば、こちらは小学生時代の悪がきイメージが強いのだろうことはわかる。わかるけれど、こんなことを昔と同じ感覚で仕掛けられたら、心臓が持ちそうにない。
「もー、やだぁ……」
 俯いて小さく呟けば、さすがに相手も焦ったらしい。もちろん本気ではないのだが、相手が昔の感覚を思い出しているなら、相手のお兄さん部分を刺激するのがてっとり早いと思ってしまった。
「ごめん。確かにふざけすぎたよな。でも、お前が俺の出てる作品、追ってくれてるの凄く嬉しかったのは本当だから。変なサービスしてゴメンな」
 彼が椅子から立ち上がったのは、こちらが立っていたからで、相変わらず本気でなだめてくる時は視線の位置を合わせるのだなと思った。

 
 
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リバップル/魔法使いになる前に

 付き合い始めたのは中学を卒業する直前頃で高校は別々だった。
 初めて相手を抱いたのは高校最初の夏休み中で、そこから先ずっと、自分が抱く側でもう十年以上が経過している。
 互いの高校にはそれなりに距離があったし、大学時代はもっと距離が開いた。就職は取り敢えず同じ県内となったが、やっぱりそう頻繁に会えるような距離ではない。
 離れているのだから、浮気は仕方がないと思う部分はある。なんせ相手はそこそこモテる男で、別にゲイというわけでもない。自分が相手だからこそ、抱かれる側に甘んじてくれているのだと、それはわかっているし感謝もしている。
 浮気は仕方がないと思う気持ちはあるが、でもそれを知りたくはないし聞きたくもない。多分相手も同じように思うのか、こちらの交友関係にはあまり触れてこなかった。まぁ聞かれた所で、こちらにはやましい事など一切ないのだけれど。
 月に一度程度飲みに行って、互いの近況を語って体を重ねる。そんな、まるで惰性で続けているだけみたいな関係が、もう数年続いていた。
 好きといえば好きだと返るし、一緒に過ごす時間はやはり心地よい。だからまぁ、いつか相手に自分以上の本命が出来るまで、こんな感じでこれから先もダラダラと続けていくのかなと、ぼんやり思っていたのだ。
 彼の口から驚きの爆弾が落とされたのは、彼が二十代最後の誕生日を迎えた三日後の週末だった。平日の誕生日なんて直接祝えるわけがないので、当日はメールだけ送って、要するに土曜の今日は二人で彼の欲しいものを買いに行く。
 買い物の後はちょっと美味しいものでも食べて、ちょっといつもより甘さ多めの夜を過ごすという、まぁこれも例年通りの誕生日後の週末の過ごし方をする予定だった。
 いつもなら待ち合わせは近隣の大きめな駅改札とかなのに、一度家に寄って欲しいと言われて、直接相手の部屋に向かう。ドアを開いた相手はなんだか酷く緊張した顔をしていて、誕生日どころではない何かがあったのかと、不安と心配が押し寄せた。
「何かあった?」
「何か……というか、今年の誕生日プレゼントのことなんだけど」
「ああ、うん。予算は去年と同じくらいな」
「いや、要らない」
「えっ?」
 拒否されて、一瞬時が止まったような気がした。え、これ、まさかの別れ話?
「あ、いや、欲しいものはあるんだ。でも、買えるようなものじゃなくて……」
「うん。なるべくプレゼントできるよう考えるから、取り敢えず言ってみて」
 ゴニョゴニョとらしくなく言い渋る相手を促せば、相手の顔が少しずつ赤くなっていく。恥ずかしい話題かな? と思った所で、蚊の鳴くような声が、抱かせてと言った。……ような気がした。
「えっ……?」
「誕生日プレゼント、今年はお前が、欲しい」
 ああ、聞き違いじゃなかった。
「え、えっと、俺が抱くことに、不満が出てきた?」
「違う。不満なわけじゃない。ただ、ど、童貞のまま三十路に乗るのはちょっと……と思ったら、二十代最後の誕生日くらいしか、お前に抱かせて欲しいなんて、言えないと思って……」
 本日二度目の、一瞬時が止まる体験をした。
「えええええええっっっ!?」
 大声を上げてしまったせいか、相手は赤い顔のまま驚きで目を瞠っている。
「ちょっ、おまっ、童貞って……」
「あ、当たり前だろ。中学でお前と付き合って、お前が初めての恋人で、そのままこの年まで来たんだぞ。どこで童貞捨てろってんだよ」
「え、いや、だって……ええぇぇ……」
 今度のえーは尻すぼみに消えていった。だってお前、高校から先現在まで、モテまくってんの知ってんだぞ。なんで童貞のままなんだよ。どっかで一人くらい食ってないのかよ。
 そんな思いがグルグルと頭をめぐるが、これを口にだすのは絶対にマズイということはわかっていた。
「俺に抱かれるの、絶対に嫌か?」
 へにゃんと眉をハの字にしてしょんぼりした顔に、衝撃はそこじゃないと慌てて否定を返す。
「嫌じゃない。嫌じゃないけど!」
「嫌じゃないけど?」
「あー……その、……初めてなんで、優しくして、下さい……?」
 何言ってんだという気持ちが襲ってきて顔が熱くなったが、相手は酷く安堵した様子でホッと息を吐いている。
「それは、うん。大丈夫。だと思う」
 抱かれる側に関してはお前より良くわかってるわけだし、どうしたら気持ちよくなれるかもわかってるからと続いた言葉に、ますます体温の上昇を感じた。

続きました→

 
 
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墓には持ち込めなかった

 幼い頃から心のなかに隠し持っていた恋心を、生涯、相手に告げることはないと思っていた。墓にまで持ち込む気満々だった。ずっとただ想うだけで良いと思っていた。
 同じ年に生まれた自分たちは、幼稚園で出会ってからずっと長いこと親友で、だからこそ、彼の選ぶ相手が自分にはならないこともわかっている。彼が興味を惹かれ、好意を寄せる女の子たちに、気持ちが荒れたこともあるけれど、それももうだいぶ遠い昔の話だ。
 少しずつ大人になって、自由になるお金が増えて行動範囲が広がれば、だんだんと寂しさを埋める術だって色々と身に着けていく。
 その日は特定のバーで相手を見つけて、そのままホテルに向かうつもりで店を出た。店を出た所で、名前を呼ばれて顔を向ければ、そこには見るからに怒っている幼なじみが、こちらを睨んで立っていた。
 今夜のお相手となるはずだった相手は、あららと少し楽しげな声を発したけれど、この後始まる修羅場に巻き込まれるのはゴメンとばかりに、じゃあ頑張ってとあっさり回れ右して店に戻っていく。
 面白おかしく酒の肴にされるだろう事はわかりきっていたが、もちろん引き止めることはしなかった。代わりに幼なじみに向かって歩き出す。
「こんな場所で揉められない。付いて来て」
 隣を通り抜けるときにそう声をかければ、黙って後をついてくる。素直だ。
 一瞬、このまま本来の予定地だったホテルにでも入ってやろうかとも思ったけれど、そんな自分の首を絞めるような真似が出来るわけもなく、結局足は駅へと向かった。こんなことになってしまったら、今日の所は帰るしかない。
「待てよ」
 半歩ほど後ろをおとなしく付いて来ていたはずの相手が、唐突に声を上げただけでなく、手首を掴んで引き止めるから、仕方無く歩みを止めて振り向いた。
「何?」
「どこ、行く気だ」
「どこって、帰るんだよ」
「は? 家まで待てねぇよ」
「待つって何を?」
 まぁさすがにこれは、わかっていてすっとぼけて見せただけだ。でも頭に血が登りっぱなしらしい相手は、そんなことには気付かない。
「お前、俺に言うことあるだろっ」
「特にはないけど」
 しれっと言ってのければ傷ついた顔をする。そんな顔をするのはズルイなと思った。
「一緒にいた相手、お前の、何?」
「飲み屋で知り合って意気投合したから、河岸を変えて飲み直そうかーってだけの相手」
「本当に飲み直すだけなのかよ」
 疑問符なんてつかない強い口調に、これはもう知られているんだなと諦めのため息を吐いた。
「せっかく隠そうとしてるんだから騙されなよ」
「なんで俺を騙そうなんてすんだ」
「あのさ、幼馴染がゲイだった上に、夜の相手探してそういう場所に出入りしてるって知って、どうしたいの? 知らないほうが良いでしょそんなの」
 お前とは縁のない世界なんだからと苦笑したら、掴まれたままだった手首に鈍い痛みが走る。力を入れ過ぎだ。でも、相手は気づいてないようだったし、自分も痛いとは言わなかった。
「ああいう男が、お前の、好み?」
 抱ける程度の好意は持てる相手で、でも好みからはけっこう遠い。なんて教えるわけがない。寂しさを紛らわせてくれる相手には、雰囲気や言葉遣いが優しくて、でも目の前の男にはまったく似ていない男を選んでいた。
 だって別に、代わりを探していたわけじゃないから。本当にただ、一時的に慰めを欲していただけだから。
「そういう話、聞きたいもの?」
「俺はお前に、好きになった相手のこと、さんざん話して来ただろ」
「ああ、まぁ、そうだね。俺の相手は男ばっかりだから、聞かせたら悪いかと思ってた」
「悪くなんか、ない。知りたい」
「そっか、ありがとう」
「で、お前、あいつが好きなのか?」
「まぁ、抱こうとしてた程度には?」
 自分で知りたいといったくせに、言えばやっぱりショックを受けた顔をする。しかも目の中にぶわっと盛り上がった涙が、ぼろっと零れ落ちてくるから、焦ったなんてもんじゃない。
「えっ、ちょっ、なんでお前が泣くんだよ」
「だって、俺に、ちっとも似てない」
「は?」
「ここに来るまで、お前とあいつが出てくるの見るまで、男好きなら俺でいいじゃん。って思ってた。でも、わかった。俺じゃダメだから、お前、こういうとこ来てたんだって」
 もう邪魔しない、ゴメン。そう言いながら、掴まれていた手首が解放された。
「一人で帰れるから、店戻って。それと、お前のノロケ話もちゃんと聞けるようになるから。ちょっと時間掛かるかもしれないけど、そこは待ってて」
 泣き顔をむりやり笑顔に変えて、じゃあまたねといつも通りの別れの挨拶を告げて歩き出そうとする相手の手首を、今度は自分が捕まえる。こんな事を言われて逃がすわけがない。
「ねぇ、俺は、お前を好きになっても良かったの?」
「だって好みじゃないんだろ?」
「バカか。好みドンピシャど真ん中がお前だっつ-の」
「嘘だ。さっきのあいつと、全く似てない」
「それには色々とこっちの事情があって。っていうか、俺の質問に答えて。俺は、お前を好きになっていいの?」
 じっと相手を見つめて答えを待てば、おずおずと躊躇いながらも、「いいよ」という言葉が返された。
「じゃあ言うけど、小学五年の八月三日から、ずっとお前のことが好きでした」
「え、何その具体的な日付」
 戸惑いはわかる。何年前の話だって言いたいのもわかる。でもこの気持ちの始まりは確かにそこで、忘れられないのだから仕方がない。
「俺がお前に恋してるって自覚した日。まぁ、忘れてんならそれでいいよ」
「ゴメン、思い出せない」
「いいってば。それより、墓まで持ってくつもりだった気持ち、お前が暴いたんだから責任取れよ」
「ど、どうやって……?」
「取り敢えずお前をホテルに連れ込みたい」
 言ってみたら相手が硬直するのが、握った手首越しに伝わってきた。
「お、俺を、抱く気か?」
「え、抱いていいの?」
「や、いや、それはちょっとまだ気持ちの整理が……」
「抱いたり抱かれたりは正直どっちでもいいよ。でも、俺がお前を本気でずっと好きだったってのだけは、ちょっと今日中にしっかり思い知らせたいんだよね」
 今すぐキスとかしたいけど、さすがにこんな公道でって嫌じゃない? と振ってみたら、相手はようやく自分たちが今どこにいるかを思い出したらしい。ぱああと赤く染まっていく頬を見ながら、行こうと言って手を引いた。
 相手は黙ってついてくる。
 さて、十年以上にも渡って積み重ねてきたこの想いを、どうやって相手に伝えてやろうか。

 
 
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