兄弟ごっこを終わりにした夜

兄弟ごっこを終わりにした日の続きです

 十八の誕生日に告白すると決めていたらしい弟は、告白後は積極的に関係を深めていくとも決めていたらしい。
 もうじゅうぶん待ったからという彼の言い分もわからなくはない。ただ、いつかは兄弟という一線を超えるだろう予感は随分前からあったものの、それはもう少し先だと思っていたし、恋人という立場を得て一気に距離を詰めてこようとする相手に、こちらは思いっきり圧倒された上に尻込みしていた。
 十八を超えたとは言え、高校生相手に、しかも半分は血が繋がっている弟相手に、彼の保護者である自分が手を出していいものか、という躊躇いはどうしたって大きい。
 だから本当なら、枕片手に一緒に寝たいと押しかけてきた弟を、部屋に迎え入れてはいけない。追い返すべきなんだろうと頭ではわかっていた。
「恋人になったんだから、これからは毎日一緒に寝て。とまで言わないから、休みの前の日くらい、いいだろ」
「お前は俺の理性を試したいの?」
「そうだよ。だから、その気になったらぜひ襲って」
「そういうのはまだダメって、昼間も言ったろ」
 昼間、ねだられて、軽く触れるだけのキスは与えた。相手は不満そうだったけれど、互いの口内を探り合うようなキスをしてしまったら、理性が持ちそうにないからとそれ以上は許さなかった。その時にも一度、話はしたのだ。
 恋人になったからって、即セックスまでする関係にはなれないよと、こちらの気持ちも事情も話して聞かせた。したい気持ちがないわけじゃないことも教えて、あんまり煽るなよって、言ったはずなんだけど。
「それは聞いたけど。でも恋人になったんだって思えるようなこと、もっとしたい」
 そういう気持ちはないのかと問いたげな視線に、ないわけないだろと思いながらも口には出さず、代りに諦めるみたいな溜め息を一つ。
「わかった。いいよ。一緒に寝よう」
 やったと零しながら小さくガッツポーズを決める相手の子供っぽさに、どこかホッとしてしまうのは、相手のことをまだまだ子供だと思うことで、自分の中の理性を支えたいからなのかも知れない。
 結局、寝るまででいいから手を繋いでというお願いも聞き入れて、並んでベッドに横になりながら手を握る。子供の手じゃないけれど子供みたいな体温に、また少しホッとしながら、さっさと寝てしまえと目を閉じた。
 頭をもたげかける欲望は封じ込めて、何でもない振りをして、むりやり意識を眠りへと落としていく。

 擽ったいような心地よいようなふわふわした気持ちと、妙な暑さと息苦しさに意識が浮上する。
「ぁ……っ……んっ……」
 最初、それが自分の口からこぼれているとは、わからなかった。そもそも、今夜は一人で寝ていたわけじゃないことすら、すぐには思い出せなかった。
 だんだんと寝る直前のやりとりを思い出して、寝ている自分の体を彼がまさぐっているのだと言うことに気づいた途端、一気に覚醒する。
 相手の手を払い除けて、勢いよく上体を起こし、思いっきり睨みつけてやる。とはいっても部屋の中は暗いので、こちらの怒りは伝わっていないだろう。自分だって、相手もこちらへ顔を向けている程度のことはわかるものの、さすがにその表情まではわからないから、彼が今どんな感情を抱いているかなんてわからない。
「どういうつもりだ?」
 仕方なく言葉で彼に問いかける。
「性感開発?」
「は?」
「起こすつもりはなかったんだけど、加減がわからなくて。気持ち良く寝てたとこ、起こしたことは、ゴメン」
「してたことに対する謝罪はないの? てか性感開発っつった?」
「性感開発って言ったし、それへの謝罪はない、かな」
「なんで!?」
「だって初めてする時、少しでもキモチイイ方がいいと思って」
 いつかはする気があるんだろと続いた言葉に違和感が拭えない。
「というのは建前で、あんまりあどけない寝顔晒されて、ちょっとこっちの理性が飛んだ」
 彼は間違いなく日本語を話しているのに、何を言われているのかやっぱり良くわからなかった。
「わかってないな」
 同じように相手も上体を起こしたかと思うと、ぐっと顔を寄せてくる。酷く真剣な顔に覗き込まれてのけぞれば、肩を押されてそのままベッドに仰向けに倒れ込む。焦るばっかりで何が起きたのか理解が追いつかないのに、相手はやっぱりまた間近にこちらを見下ろしている。
「高校生の弟に手を出すの躊躇うってなら、俺が襲うのもありだよなって、話」
「は?」
「自分が抱かれる側になる可能性、考えたことなかったろ。でも俺も男なんで、十も年上の男でも、血のつながる兄でも、好きな相手を抱きたいって気持ちもそれなりにある」
「ええっ!?」
「抱く気で居るみたいだったから、それなら抱かれる側でいいと思ってたけど、思ったより理性強そうで簡単には誘われてくれないのわかったから、待てないし、抱きたい気持ちだってあるわけだし、じゃあ体から落としてくのもありかなと」
 気持ちよさそうな声上げてたし素質ありそう、だなんて言葉、もちろん受け止められるわけがない。待て待て待てと騒いでも、いっこうに体の上からどいてくれない相手の重みに、焦りばかりが加速していく。

有坂レイへの3つの恋のお題:あどけない寝顔/はじけとんだ理性/何でもない振りをして
https://shindanmaker.com/12556

 
 
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兄弟ごっこを終わりにした日

 彼とその母親がこの家に住むようになったのは、中学に入学する直前の春休み中だったと思う。父の再婚を反対しなかったというだけで、もちろん彼らを歓迎する気持ちなんてなかったが、だからといって追い出そうと何かを仕掛けるような事もしなかった。
 子供心に両親の仲が冷え切っているのはわかっていたし、家の中から母が消えた時にはもう、なんとなくでもこの未来が見えていたというのもある。
 本当なら父だって、新しい妻と幼い息子の三人で、新たな家庭を築きたかったはずだ。単に、父は自分を捨てるタイミングを逃しただけなのだ。
 母の行動の方が一歩早かった。もしくは、自分を置いていくことが、母の復讐だったのかもしれない。なんせ、当時二歳の弟は連れ子ではなく父の実子だった。つまり自分とも半分血が繋がっている。
 自分は両親どちらにとってもいらない子供だったから、再婚するから出て行けと言われなかっただけマシだ。だから家族の一人として彼らに混ざろうなんて思わなかったし、必要最低限の会話しかしなかったし、練習のハードそうな部活に入って更には塾にも通い、極力家に居ないようにしてもいた。
 高校からは逃げるように家を出て寮生活だったし、もちろん大学も学校近くにアパートを借りたし、社会に出ればもっともっと疎遠になっていくのだろうと、あの頃は信じて疑わなかった。それでいいと思っていたし、そう望んでいた。
 父とは疎遠どころか二度と会えない仲になったので、あながち間違いではないのかもしれないが、望んでいた形とは全く違うものとなったし、まさかまたこの家に住む日がくるなんて、あの頃は欠片も思っていなかったけれど。

 父と後妻が揃って事故で亡くなったという連絡が来たのは、大学四年の冬の終わり頃だった。卒論は提出済みで、もちろん就職先も決まっていて、後は卒業を待つばかりというそんな時期だったのは有り難かったが、後処理はなかなかに大変だった。
 父はやはり元々の性格がクソだったようで、どうやら性懲りもなく浮気をしていたらしい。事故という結論にはなったものの、事故を装った後妻による心中じゃないかと疑われていたし、実際自分もそうだったのじゃないかと思っている。幸い血の繋がった新たな弟妹の出現はなかったが、父と付き合っていたという女は現れたし、遺産を狙われたりもした。
 でも何より大変だったのは、残された弟のケアだった。ちょうど中学入学直前という時期だったから、昔の自分とダブらせてしまったのだろうと思う。
 彼もまた、冷え切った両親の仲にも、父の浮気にも、元々気づいていたようだったし、両親の死は母の無理心中と思っているようだった。自分は両親に捨てられたのだと、冷めきった表情でこぼした言葉に、グッと胸が詰まるような思いをしたのを覚えている。
 放っておけないというより、放っておきたくなかった。
 半分血が繋がっているとは言え、互いに兄弟として過ごした記憶なんて欠片もなく、年も離れている上に七年もの間別々に暮らしていた相手が、今後は一緒に暮らすと言い出すなんて、相手にとっては青天の霹靂もいいところだろう。
 それでも、施設に行くと言う相手を言いくるめるようにして、彼の新たな保護者という立場に収まった。
 そうして過去の自分を慰めるみたいに、自分が欲しかった家族の愛を弟相手に注ぎ込んでやれば、相手は思いの外あっさり自分に懐いてくれた。そうすれば一層相手が愛おしくもなって、ますます可愛がる。そしてより一層懐かれる、更に愛おしむ。その繰り返しだった。
 それは両親から捨てられた者同士、傷の舐めあいだったかもしれない。それでも自分は彼との生活に心の乾きが満たされていくのを感じていたし、父は間違いなくクソだったけれど、彼という弟を遺してくれたことだけは感謝しようと思った。
 ただ、やはり今更兄弟としてやり直すには無理がありすぎた。自分が家を出た時、彼はまだ小学校にも上がっていなかったし、そもそも中学生だった自分が彼と暮らした三年間だってほとんど家にはいなかったし、彼を弟として接していた記憶もない。父の後妻同様、同じ家に暮らす他人、という感覚のほうが近かった。それは彼の方も同じだろう。
 便宜上、彼は自分を兄と呼んではくれていたが、互いに膨らませた情が一線を超えるのは時間の問題のようにも思える。兄として慕ってくれているとは思っていないし、自分だってもうとっくに、過去の自分を慰めるわけでも、弟として愛しているわけでもなかった。

 それでもギリギリ一線を超えないまま、兄弟ごっこを続けること更に数年。
 ある土曜の日中、彼はふらっと出かけていくと、暫くして花束を抱えて帰宅した。真っ赤なチューリップが束になって、彼の腕の中で揺れている。
「どうしたんだ、それ。誰かからのプレゼント?」
 今日は彼の誕生日だし、誰かに呼び出されて出かけたのかもしれないと思う。でもいくら誕生日だからって、男相手にこんな花束を贈るだろうか? 贈るとして、それはどんな関係の相手なんだろう。
「違う。自分で買ってきた」
 そんな考えを否定するように、彼ははっきりそう言い切った。差し出されたそれを思わず受け取ってしまったけれど、全く意味がわからない。
「え、で、なに?」
「今日で十八になったから、もう、いい加減言ってもいいかと思って」
「待った」
 とっさに続くだろう言葉を遮ってしまった。
「高校卒業するまでは、言われないかと思ってた。んだけど……」
 彼が十八の誕生日をその日と決めていたなんて思わなかった。さすがに想定外で焦る。
「待てない。もう、じゅうぶん待ったと思う」
 けれど、お願い言わせてと言われてしまえば拒否なんてできない。自分だって、この日を待っていたのだから。
「あなたが好きだ」
 そっと想いを乗せるように吐き出されてきた柔らかな声に、手の中の花束をギュッと握りしめる。
「兄弟としてじゃない。兄さんって呼んでるけど。事実半分とは言えちゃんとあなたは俺の兄なんだって知ってるけど。わかってるけど。でも何年一緒に暮らしても、やっぱりあなたを兄とは思えない。兄としては愛せない。愛したく、ない」
 真っ直ぐに見据えられて、あなたはと問い返された。彼だってこちらの想いに気づいているのだから、その質問は当然だろうし、自分だってちゃんと彼に想いと言葉を返さなければ。
「こんな俺に、誰かを愛するって事の意味を教えたのは、間違いなくお前だよ。お前以外、愛せないよ」
「なら、これからも愛してくれますか。これからは、恋人として」
 大きく頷いて見せてから、手の中の花束をグッと相手の胸に押し付けるようにして、そのまま花束ごと相手のことを抱きしめてやった。

続きました→

有坂レイへのお題【押し付けた花束/「これからも愛してくれますか」/まだ僕が愛する意味を知らなかった頃。】
https://shindanmaker.com/287899

 
 
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週刊創作お題 新入生・再会

 新入生代表挨拶で登壇した男の見た目に懐かしさは覚えなかったが、告げられた名前には懐かしさがこみ上げる。少し珍しい名前だから、多分人違いではないはずだ。
 入学式後のホームルームを終えた後は、真っ先にその新入生代表挨拶をした男のクラスへ向かった。
 タイミングよく、帰るためにか教室を出て来たところを捕まえて、久しぶりと声をかける。
「久しぶり? 俺らどっかで会ったことある?」
 こちらを見上げてくる相手は、酷く不審気な顔を見せているが、それは当然の反応だろう。なんせ会うのは10年ぶりくらいだし、中学に上がってから思いっきり背も伸びて随分と男臭くなってしまったから、幼稚園の頃の可愛らしさの面影なんて欠片もないのはわかりきっている。
 ただ、名乗ってもわかってもらえなかったというか、全く思い当たる節がないと言わんばかりの、更にこちらへの不審さが増した顔には、正直言えばがっかりした。だって昔、あんなに何度も好きだって言ってくれてたのに。大きくなったら結婚しよって、言ってくれたことさえあるのに。
 それとも同姓同名の別人で、こちらの勘違いって可能性もあるだろうか。そう思って幼稚園の名前を出して、そこに通ってなかったかと聞けば通ってたけどと返ってくる。
「俺も、その幼稚園通ってた。で、結構仲良かった、つもりなんだけど……」
「お前みたいなやつ、記憶にない」
「いやそれ、成長してるからだから。昔の俺は! それはもう、めちゃくちゃ可愛らしい子供だったから!」
 言えば相手はプッと吹き出し、自分でそれ言うかよと言ってゲラゲラと笑い始めてしまう。相手にだって幼稚園生の頃の面影なんてほぼないと思っていたけれど、楽しげに笑う顔は間違いなく、昔の彼と同じ笑顔だった。
 若干置いてけぼりの戸惑いは有るものの、それでも懐かしさにそんな彼の笑顔を見つめてしまえば、急に相手が笑うのを止めてこちらを見つめ返してくる。ドキッと心臓が跳ねるのがわかった。
「あれ? やっぱ俺、お前のこと知ってるかも」
「いやだから、絶対知ってるはずだし、何度か互いの家にお泊りしあったくらい仲良かったんだってば!」
「は? お泊り?」
「したよ。家の場所もだいたいは覚えてる。はず」
 遠い記憶を掘り返しながら、おおよその場所を告げれば相手は惜しいが近いと返しながらも、随分と渋い顔になってしまった。何かヤバイことを言ってしまったかと、別の意味で心臓が煩い。
「あー……思い出した。ような気がする、けど……マジかよ……」
 思い出したと言いながらも、相手は焦った様子で視線を彷徨わせるから、わけがわからないながらも不安は増して行く。思い出してくれて嬉しいって気持ちには、到底なれそうにない。
「あの……もしかして、仲良かったと思ってたの俺だけで、思い出したくない嫌な思い出、とかだった……?」
「いやそうじゃないけど。つかお前、仲良かったって、どこまで記憶残ってんの? あ、いや待って。ここで聞きたくない。どっか別のとこで話そう」
 教室前の廊下なものだから、自分たちに向かってチラチラと興味深げな視線が投げられているのには、もちろん自分だって気づいていた。久々にこの地に帰ってきた自分と違って、彼には同じくこの高校へ入学した友人も知人も多いだろう。
 結局そのまま連れ立って学校を出て、彼に促されるまま向かうのは、どうやら彼の家のある方向だ。まさか自宅に招待してくれるのかと思いきや、彼は人気のない小さな公園の入り口で立ち止まり、ここでいいかと中に入っていく。
 一つだけ置かれたベンチに早々に腰掛けた相手に倣って、自分もその隣に腰掛けた。
「あー……で、さ」
「うん」
「単刀直入に聞くけど、お前が俺の知るアイツだとして、お前、俺に好きって言われたりプロポーズされたりキスされた記憶って、残ってる?」
 さっそく口を開く彼に相槌を打てば、顔を自分が座るのとは反対側に逸らしながら、そんなことを聞いてくる。
「好きって言われたり、大きくなったら結婚しよって言われたのは、覚えてる。けど、俺たち、キスまでしてたの?」
「あああああ。本当に相手お前かよっ! つか覚えてんのかよっ」
 彼は顔を両手で覆うと、深く項垂れてしまう。
「ご、ゴメン。そんな嫌な思い出になってるとか、思って、なかった」
「嫌な思い出っつーか、お前、なんで俺に声かけた?」
 顔を上げた彼は、今度はしっかりこちらを向いて、まっすぐに見据えてくる。やっぱりまた、昔と一緒だと懐かしさが胸に沸いた。
「懐かしかった、から」
「それだけ?」
「それだけ、って……?」
「あー……いや、いいわ。お前、見た目めちゃくちゃ変わったけど、中身あんま変わってないな」
「そう、かな?」
「そうだよ。多分。だってお前、わざわざ俺に、俺の初恋相手が戻ってきましたよーって知らせてくれたってことの意味、全く考えても意識してもいないだろ?」
「は? えっ?」
 ほらなと言って柔らかに笑うその顔だって、やっぱり懐かしいものなのに。昔は嬉しいばっかりでこんなにドキドキしなかったはずだと思いながら、ジワジワと熱くなる頬をどうしていいかわからずに持て余した。

お題箱より4/8日配信「新入生」4/13日配信「再会」

 
 
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60分勝負 同居・灰・お仕置き

 ルームシェアという名の同棲を始めて半年。仁王立ちして怒り心頭に発する同居人の前で、正座し深く頭を下げている。
 彼の怒りの原因は自分が煙草の灰を落として焦がしたラグなので、これはもう言い訳のしようもない。
 以前から何度も、煙草を止めろとまでは言わないが、疲れているときや眠い時に吸うのは止めろと言われていたのに。彼が出張で居なかった昨夜、寝る前の一服のつもりで火をつけたくせにそのままウトウト微睡んでしまって、気づいた時にはラグに焦げ目がついていた。
 小さな焦げ目の段階で気づけたのだけは本当に良かったが、彼が帰宅する前に同じラグを調達して証拠隠滅を図るのは絶対に無理だとわかっていたし、だから今のこの状況は想定内でも有る。想定内では有るのだけれど、でも実際に彼の怒りを目の当たりにすると、恐怖で体が萎縮し震えてしまう。
「以前言ったこと、覚えてますよね?」
 冷たく降る声に禁煙しますと返せば、それだけじゃないでしょうと今度は幾分柔らかな声が落ちてくる。その声に恐怖が増した。
「寝ながら煙草吸ってるの見つけたらお仕置きしますよって、約束しましたよね?」
「…………はい」
 ああ、今回は一体何をされるんだろう。
 基本優しく、普段はこちらに尽くしてくれることが多い年下の恋人のお仕置きは、ビックリするほどえげつない。だってお仕置きですからと柔らかに笑う顔に、今ではもう本気で震えが走るほど恐怖する。
 恐怖はするんだけれど、でもそれが嫌で嫌で仕方がないってわけじゃないのが、ホントどうしようもないなと思う。マゾっ気なんか、自分には欠片もないと思っていたのに。
 今ではもう、そのギャップごと、彼のことを愛している。ただ、いつか彼のお仕置きを求めて、わざと彼の怒りを買うような真似をしてしまいそうだとも、感じている。
 もちろん今回の件はわざとなんかじゃないけれど。でもそろそろ自分たちは、もっと腹を割った話し合いが必要なのかもしれない。

「一次創作版深夜の真剣一本勝負」(@sousakubl_ippon)60分一本勝負第169回参加

 
 
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18歳未満の方へ

一部18禁ブログと言いながら、18禁作品とそうでない作品をそのまま雑多に並べてあり、18歳に満たない方たちへの配慮がまるでない作りだったことを反省し、このページを作りました。
ここに私基準ではありますが、これは18禁ではないだろうと思われる作品へのリンクを並べますので、18歳を過ぎるまではこのページに載った作品のみ楽しんでいただければと思います。
1/2 コネタ・短編「多分、両想いな二人」関連4話追加

<1話完結作品> *右下に行くほど古い作品
大事な話は車の中で  大晦日の選択  捨て猫の世話する不良にギャップ萌え、なんだろうか  ずっと子供でいたかった  離婚済みとか聞いてない  初恋はきっと終わらない  今更エイプリルフールなんて  好きって言っていいんだろ?  カレーパン交換  ツイッタ分(2020年-2)  ツイッタ分(2020年-1)  あの日の自分にもう一度  ツイッタ分(2019)  禁足地のケモノ  お隣さんが気になって  間違ってAV借りた  ツイッタ分(2018)  結婚したい相手はお前  ときめく呪い  昔と違うくすぐり合戦  兄が俺に抱かれたいのかも知れない  ただいまって言い続けたい  親友に彼女が出来た結果  週刊創作お題 新入生・再会  60分勝負 同居・灰・お仕置き  いくつの嘘を吐いたでしょう  ヘッダー用SS  出張に行くとゴムが減る  ゴムの数がオカシイ   チョコ味ローション買ったんだって  なんと恋人(男)が妹に!?  卒業祝い  120分勝負 うっかり・君のそこが好き・紅  バレンタインに彼氏がTENGAをくれるらしい  青天の霹靂  初めて抱いた日から1年  叶う恋なんて一つもない  墓には持ち込めなかった  呼ぶ名前  酒に酔った勢いで  思い出の玩具  兄の彼氏を奪うことになった  俺を好きだと言うくせに  夕方のカラオケで振られた君と  死にかけるとセックスがしたくなるらしい  草むらでキス/戸惑った表情/抱きしめる/自分からしようと思ったら奪われた  ハロウィンがしたかった  引っ越しの決まったお隣さんが親友から恋人になった  戸惑った表情/拘束具/同意のキス  夕方の廃ビルで


<コネタ・短編> *下に行くほど古い作品
多分、両想いな二人のクリスマスイブ → 多分、両想いな二人のクリスマス後 →  多分、両想いな二人の大晦日 → 確定、両想いな二人の大晦日とお正月 中学からの友人な社会人同士。視点は1話ごとに変化。クリスマスから正月にかけて両想いが判明する話。
煮えきらない大人1 → 煮えきらない大人2 → 煮えきらない大人3(終) 年の差。カフェ店員×学生(視点の主)で両想いなはずなのに恋人になれない話。
片想いが捨てられない二人の話1 → 片想いが捨てられない二人の話2(終) 教師と元生徒で受け二十歳の誕生日前日にそれぞれ悶々としてる話。受け視点 → 攻め視点
意気地なしの大人と厄介な子供1 → 意気地なしの大人と厄介な子供2 → 意気地なしの大人と厄介な子供3 → 意気地なしの大人と厄介な子供4 → 意気地なしの大人と厄介な子供5 年の差。叔父の友人を酔って誘ってみたけど応じてもらえなかった大学生の話。受け視点 → 攻め視点 → 受け視点。
秘密の手紙 → 君の口から「好き」って聞きたい1 → 君の口から「好き」って聞きたい2 両片想いだった高校同級生。攻め視点 → 受け視点。
感謝しかないので → 酔っ払いの戯言と笑い飛ばせなかった
義理父子。息子視点片想い話と、父視点告白され話。
罰ゲームなんかじゃなくて1 → 罰ゲームなんかじゃなくて2
周りの友人に囃し立てられながら告白したら、罰ゲームと思われてOKされてた話。
勝負パンツ1 → 勝負パンツ2 → 勝負パンツ3
遠距離恋愛中の恋人に、勝負パンツならこういうの穿いてと言ったら、本当にフリルのパンツを穿いてきてくれた話。
彼女が出来たつもりでいた1 → 彼女が出来たつもりでいた2 → 彼女が出来たつもりでいた3 → 彼女が出来たつもりでいた4(終)
社会人(視点の主)と大学生。彼女だと思ってた相手が女装男子だった話。
何も覚えてない、ってことにしたかった1 → 何も覚えてない、ってことにしたかった2(終)
会社の後輩×先輩(視点の主)。酔って何も覚えてないってことにしたかったけど、後輩が意外と色々覚えてたから逃げられなかった話。
女装して出歩いたら知り合いにホテルに連れ込まれた → 友人の友人の友人からの恋人1 → 友人の友人の友人からの恋人2(終)
童貞拗らせて女装してみた受とそれをナンパした知り合いな攻。2話目からは視点が変わります。
兄弟ごっこを終わりにした日 → 兄弟ごっこを終わりにした夜
10歳違いの腹違い兄弟。両親死亡で兄が保護者中。弟が18の誕生日に告白してくる話。受攻未定。
ダブルの部屋を予約しました1 → ダブルの部屋を予約しました2 → ダブルの部屋を予約しました3(終)
付き合いの浅い、割と消極的な社会人二人のカップルが、初めて旅行をする話。
フラれた先輩とクリスマスディナー → フラれたのは自業自得1 → フラれたのは自業自得2(終)
大学サークルの先輩後輩の話。1話目後輩視点。2話目から先輩視点。両片想いから恋人になるとこまで。
好きだって気付けよ1 → 好きだって気づけよ2(終)
一卵性双子兄弟で兄視点。弟が自分のふりして自分の彼女と会ってる事に気づいちゃった話。
ベッドの上でファーストキス1 → ベッドの上でファーストキス2(終)
兄弟で弟視点。ベッドに潜り込んでくる兄を意識しちゃう弟と弟が好きな兄の実は両想いだった話。
結婚した姉の代わりに義兄の弟が構ってくれる話1 → 結婚した姉の代わりに義兄の弟が構ってくれる話2(終 
母代わりだった姉が結婚して家に一人になった視点の主を、義兄の弟が構いに来てくれる話。恋愛要素かなり薄い。女装有。
憧れを拗らせた後輩にキスを迫られたので1 → 憧れを拗らせた後輩にキスを迫られたので2(終)
割とタイトル通り。最終的には脳筋な視点の主が後輩に期待させちゃう話。
エイプリルフールの攻防 → エイプリルフールの攻防2 → エイプリルフールの攻防3 → エイプリルフールの攻防4(終) → エイプリルフール禁止
4月1日だけ好きって言ってくる普段は仲の悪い相手に惚れちゃった話。
太らせてから頂きます → 太らせてから頂きます2(終
大学の先輩後輩。いっぱいご飯奢られてたけど、先輩が太らせたかったのは体じゃなくて心だったって話。
常連さんが風邪を引いたようなので1 → 常連さんが風邪を引いたようなので2 → 常連さんが風邪を引いたようなので3
飲食店店員とリーマンで3つのお題に挑戦。気になる常連さんが風邪を引いたのをキッカケに恋人になる話。
雄っぱいでもイケる気になる自称ノンケ1 → 雄っぱいでもイケる気になる自称ノンケ2(終)
高校の先輩後輩。おっぱい星人な先輩が筋トレマニアな後輩の雄っぱいが忘れられなくなる話。
寝ぼけてキスをした → キスしたい、キスしたい、キスしたい → あと少しこのままで 
大学生とその従兄弟。年の差14。従兄弟の家に同居中、寝ぼけた従兄弟にキスされて意識するようになる話。意識してるけど恋にすらなってない、めちゃくちゃ中途半端な所で終わってます。
彼の恋が終わる日を待っていた → 告白してきた後輩の諦めが悪くて困る
高校時代の部活の先輩後輩関係。現在は社会人。後輩→先輩(元副部長)→先輩の幼なじみで親友(元部長) 元部長が結婚したので、後輩が先輩を落としにかかる話。


<シリーズ物> *下に行くほど古い作品
オメガバースごっこ(全17話)
キャラ名なし。「ここがオメガバースの世界なら」続編。双方が両想いに気づくこと・ヒート(発情期)・巣作りの3つを消化したかっただけ。
ここがオメガバースの世界なら(全16話)
キャラ名なし。隣に住む同じ年の幼馴染で高校生。受けは腐男子。もしオメガバースの世界なら自分たちは番。と認識した後、恋人になるまでの話。
俺が本当に好きな方(全6話+番外編1話)
高校生の祐希が親友の隆史とその弟悟史の間で揺れ動く三角関係。隆史と恋人エンド。
あの日の自分にもう一度(全8話)
もう一度女装がしたい大学生の春野紘汰(視点の主)と、その友人でメイクが出来る今田龍則。「理想の女の子を作る遊び」という秘密を共有する仲へ。
兄の親友で親友の兄(全12話)
キャラ名なし。兄を好きな兄の親友かつ親友の兄でもある男に相互代理セックスの誘いを掛けた結果、最終的には両想いの恋人になる話。

 
 
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スライムに種付けされたかもしれない

 たかがスライムなどと侮っていたのは認める。次から次へとどこからともなく集まってきた彼らの圧倒的な数と量とに屈するのは早かった。
 体中を彼らに包まれ身動きが取れない。辛うじてまだ、口と鼻は覆われていないため呼吸が出来ているが、それもきっとすぐに塞がれてしまうだろう。こんな所でスライム相手に窒息死だなんて情けないにも程がある。
 きつく閉じた瞼の隙間から悔しさに滲み出る涙は、目元を覆ってうごめく彼らのせいで流れ落ちることはなかった。
 そんな中、突如頭の中に声が響く。流暢とは言い難くノイズ混じりではあったが、その声は確かに、死にたくないか、まだ生きたいかを問う声だった。
「死にたくない。死にたく、ないっっ」
 近くに誰かがいるのかも知れない。もしかしたら助けてくれるのかもしれない。そう思って、必死に声を張り上げた。
『では……お前の、ナカ、を頂くが……それで、いいか』
 意味がわからなかった。ナカってなんだ。
 けれど迷う時間はない。それでいいから助けてくれと再度声を張り上げれば、体を覆っていたスライムたちの動きが変わった。けれどそれは、誰かが自分からスライムを引き剥がしてくれるといったような、期待していたものとは全く違う動きだった。
 服や防具の隙間を縫って、直接肌の上を這い出したスライムの感触に怖気がたつ。
「う、あっ、ぁあ……、な、なに、」
 戸惑い漏れる声に、ナカを頂くと言っただろうという声が頭に響いて、声の主が誰だったのかようやく気づいた。
 しかし気付いても、その現実をすぐには受け入れられない。スライムが人語を操るなんて聞いたことが無い。こいつらは最下等のモンスターで、いくら数が集まったってスライムは所詮スライムだろう。
 そんな風に混乱している内にも、スライムは次々服の下に入り込んでいて、体中を舐めるように這い回りながら広がっていく。ひたすらに気持ちが悪い。
「待てっ! まて、そこはっ」
 下着の中に侵入された段階で予想はできていたものの、とうとう尻穴にまでスライムが到着し、しかもグッグッと揉み込むように圧を掛けてくるから慌てた。とは言っても、拘束されきった体が動くはずもなく、必死で静止を望む声を上げる。
 もちろん、相手はこちらをすぐにでも殺せる状態にあるモンスターだ。こちらの意思などおかまいなしに、好き勝手出来る状況だ。
『心配、する、な』
 だからそんな言葉が掛けられるとは思っても見なかった。
『ナカに入れるのは、先だけ、だ、……お前を、壊すことは、しな、い』
 続いた言葉に諦めて体の力を抜いた。その言葉が本当でも、嘘でも、今更こちらに出来ることなんて何もないのだと、思い出してしまった。
 そうだ。ギリギリ生かされているだけのこの身に出来ることなんて何もない。受け入れるしかない。
 それでもやはり、黙って耐えることなんて出来なかった。
「あーっ、あーっっ、嘘、つきぃっっ、壊れ、っ、こわれ、るっ」
 このゲル状の生き物に「先」なんてあるわけがなかった。頭の中に響いた声によれば、先だけというのは一部だけという意味合いだったようだ。体全体を覆うほどに集まっている彼らにすれば、確かに「ほんの先っぽ一部分」なのかもしれないが、受け入れるこちらは既に限界を超えている。
 腹の奥深くまでパンパンに入り込まれて、それらがグニグニと腸内で蠢いているのが苦しくて気持ち悪い。
「むりっ、それ以上はむりぃっっ」
 奥の奥まで拡げるようにナカを揺すられ突かれ、鈍い痛みが広がっていく。
 痛い痛いと喚いて、もう無理だと泣いても、彼らの動きが緩むことはなかった。けれど、痛みを散らすように、ペニスへと纏わりついている彼らの一部が、快楽を送り込むべくそこを擦りあげてくる。腸内の一部も、同時に中から前立腺を捏ねていた。
「あーっ……あああっっ、イクっ、でるっっ」
 あっけなく頭の中が白く爆ぜる。けれどもちろん、それで終わりだなんてことはなかった。
 結局、何度イカされたかわからない。最終的には、尻の中を捏ねられる鈍い痛みすら快楽に取って代わられ、頭では依然として苦しくて気持ちが悪いと思っているのに、快楽にとろけた体はペニスを弄られることなく絶頂を繰り返していたように思う。
 曖昧なのは、最後の方には意識を飛ばしている時間も多かったせいだ。完全に意識を失くした後、いつまで続けられていたかはさっぱりわからない。
 意識を取り戻したときには周りにスライムの気配は皆無で、服の布地は幾分湿ったままではあったが、肌のベタつきなどは皆無だった。服も防具も多少の乱れは残るもののしっかりと纏ったままで、スライムに尻穴を犯されたなんて、随分とたちの悪い夢を見たと思えたなら良かったのに。
 あれが夢ではなかったことは、体が覚えている。腹の奥に、甘く鈍く疼くような感覚が残っていた。
 それでも、やがて記憶は薄れていくだろうと思っていた。
 もちろん、二度とあそこには近寄らないし、スライムだからと油断することだってしない。けれど何をされたかまで記憶にとどめる必要はない。
 なのに、自分の体の変化に、否が応でもあの日のことを繰り返し思い出す。ナカを頂くの意味も、どうやら尻穴を犯すなどという単純な話ではなかったらしい。
 あれ以来、一切便意がない。そして少しづつ腹の奥で何かの質量が増している。しかもそれは時折かすかに蠢き、あの甘く鈍く疼く感覚を引きおこした。
 自分腹の中で、たぶんきっと、あの日のスライムの欠片が育っている。

お題箱から<先っぽだけと言われて少しだけ中にはいるのを許したら最後まで突っ込まれて食べられちゃう話>
お題箱に頂いていたお題はこれで最後です。全6個、どれも楽しく書かせていただきました。どうもありがとうございました〜

 
 
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